No.217657

真・恋姫無双 黒天編 第8章 「本城急襲」前編

sulfaさん

どうもです。第8章前編です。

あらすじ
白帝城にいる冥琳のもとへ情報が続々と舞い込んでくる。
愛紗も灰色軍旗を持って白帝城へ到着する。

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2011-05-20 01:06:10 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:2518   閲覧ユーザー数:2154

真・恋姫無双黒天編 裏切りの*** 第8章 「本城急襲」 前編  集合

 

 

 

「し・・・しっ・・・ししっ・・・・失礼します!!!!!!!!!!!!!!」

 

兵士が二人バタバタと尋常じゃないくらい取り乱しながら執務室に入ってきた。

 

「何事だ!!」

 

「な・・・南東の荊州方面から黒い集団がこちらに向かっていると報告がありました!!各砦が次々に急襲され、落とされています!!!!」

 

「「「えっ!!!!!!!!」」」

 

あまりに唐突な報告に一同は唖然としてしまう。

 

「敵の詳細と現在地は!?」

 

「数は約5万!!所属は不明!!!漆黒の軍旗を携えております!距離は約50里!!」

 

「意外と近いな・・・何故そこまで接近を許したのだ!!」

 

「伝令兵は出していたようなのですが、ことごとく捕殺された模様!!つい先ほど、それらを振り切ってここへ駆けつけた者から初めて報告を受けました」

 

「その者はいまどうしてる?」

 

「救護室で手当てを受けています」

 

「そうか・・・各隊へ伝令、すぐに迎撃準備に当たらせろ!しかし、町の住民の安全が最優先だ」

 

「はっ!」

 

命令を受けた兵士はそのまま執務室から出て行った。

 

「本当に次から次へと問題ばかりを・・・」

 

「どうする!!冥琳!!」

 

「この城へは近づけさせたくない。愛紗、帰ってきて早々すまないが出てくれるか?」

 

「応!!」

 

「月は各国将軍に伝令を出してくれ。出撃できる者すべてで迎撃にあたる」

 

「はい!」

 

二人はすぐさま自分の役割を果たすために、行動を開始する。

 

「詠は季衣と流琉とでこの城の防衛を頼む。それと、捜索に出ている隊にも伝令を出してくれ。前線には私が出る」

 

「分かった!!」

 

そうして詠も部屋から出て行き、執務室には冥琳のみが残される。

 

「ほとんどの将軍が出払っているときに襲撃されるとは・・・・・・」

 

冥琳はいろいろと思案しながらも、前線へと赴くための準備を始めていった。

 

 

 

 

 

 

報告を受けた白帝城にいる将軍たちはすぐに迎撃準備に入る。

 

「黒い集団ということは、報告にあった村を襲っていた連中ということで間違いないな」

 

「おそらくな・・・」

 

愛紗と星は各隊の編制作業に追われていた。

 

「しかし数が5万とは・・・いったいどこからそんなに集めてきたのか」

 

「何人集まろうがただの賊の群れだ。我らの敵ではない」

 

「昔なら・・・な」

 

星は何か意味ありげに小さくつぶやいた。

 

「どういう意味だ?」

 

愛紗がその真意を聞こうとしたとき、そこへ兵士が一人報告をしにやってくる。

 

身なりからして百人長の地位にあるものらしい

 

「報告します・・・。大変言いにくいのですが・・・」

 

「何だ」

 

「篭城を強いられるかもしれないから非常用の備蓄庫を確認しておけと周瑜様から命令されて確認に行ったのですが・・・備蓄物が数点なくなっている可能性があります・・・」

 

報告者は恐る恐るといった感じで報告を続けていく。

 

「泥棒の可能性も否定できませんが、かなりの量がなくなっておりますのでおそらく倉庫警備の者が着服・・・横流しに・・・した・・・よう・・・で・・・・・・」

 

俯いたまま報告していた兵士は目線を少しだけ上げて愛紗の顔色を伺ってみる。

 

そこには“鬼の面を被ったような”という表現でも生易しく感じる顔があった。

 

「ご主人様や三国の王を守るべき立場にある者たちが・・・」

 

そういいながら手に力がこもっているのだろうか、手がフルフルと振るえ、顔色もしだいに赤くなってくる。

 

兵士の顔色はそれに比例するかのように青くなっていく。

 

「・・・・・・、今、怒鳴っても仕方あるまい。同じことを周瑜殿にも報告しろ、処罰は後だ・・・行け!!!!」

 

「は・・・はいぃぃ!」

 

愛紗の言葉が終わるとその兵士は逃げるようにその場を立ち去っていった。

 

「この頃の兵士たちは何を考えているのか全く分からん・・・城のものを何故外に持ち出そうとするのか・・・」

 

「その重要性を分かっていないんだろうよ」

 

愛紗の独り言に星が答えてみせる。

 

「前々から思っていたのだが、近頃の兵士達はまるでなってない!!何もかもだ!!!!」

 

愛紗は漢中のときのことを思い出す。

 

漢中へ向かっているときも兵士たちの馬に乗る技術が低いがために進行が遅れてしまった。

 

「まぁ、それが平和による弊害なのだろうな」

 

「その一言では片付けられんぞ!弛みすぎている!」

 

「“平和になったのに何が緊急用の備蓄だ”とか“売ったら金になるんじゃないか?”というのがそういう輩の思考回路なのだ」

 

「昔はそんな奴等いなかったぞ!!」

 

「そう・・・昔なら・・・な」

 

星は先ほどと同じ言葉を繰り返す。

 

しかし、愛紗はその言葉で先ほど星が言いたかったことの真意に気づく。

 

 

 

 

昔とは全く環境が違う。

 

言い意味でも悪い意味でも

 

一年前なら胸を張って“大丈夫”と返事を返せた。

 

しかし、今は・・・

 

 

 

 

「とりあえず先に目の前の問題を片付けようではないか」

 

愛紗はその言葉に何も応えないまま、別の準備を始めるためにその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

迎撃準備を進めている間にも、敵軍は着々と白帝城へと近づいており、城壁からはその姿が確認できるようになっていた。

 

あたり一面は真っ黒に覆われており、まるで一匹の大きな獣が城へと近づいてくるかのようにも見えた。

 

灰色の旗に黒の兜鎧が太陽の光に当てられて、より黒味が引き立っていた。

 

「こいつらが各地の村を襲っていた連中か・・・」

 

冥琳は城壁の上からその黒い塊の様子を観察する。

 

相手が掲げる灰色の旗には、各隊の報告どおり「*」が印されていた。

 

城壁からは各将軍達の迎撃準備の様子も伺うことが出来る。

 

町の人たちの一時避難も完了したと報告もあった。

 

あとは出撃するのみ

 

「第一陣!出撃します!!」

 

凪の号令にあわせて第一陣が出発すると、それに合わせて沙和、真桜の隊も出撃する。

 

第二陣には愛紗や翠、星、桔梗などの蜀軍の兵士たちが控えている。

 

第三陣は冥琳が率いることになっていた。

 

兵数も白帝城が現三国の中央なだけあって相手とほぼ同数の兵を集めることが出来た。

 

「冥琳、こっちの準備もおおかた出来たわ・・・って多っ!!どこにこれだけの量が隠れてたのよ」

 

城壁を登ってきた詠が見たままの感想をそのままこぼす。

 

「それは私も思っていたところだ。さて・・・相手はこれからどう動いてくるのか」

 

冥琳はこれから起こるであろう戦いについて考えをめぐらせていく。

 

「基本的にはどうするつもりなの?」

 

「まず、相手のことがよく分かっていない、情報収集だな」

 

現時点に至っては相手の詳しい情報は何も分かっていない。

 

貂蝉の言っていた黒い集団なのかもしれないし、ただの野盗の群れかもしれない。

 

どちらであっても情報は良し悪しに関わらずあって損をするものではない。

 

「戦闘については守りを重視ね」

 

「そうだ。援軍も近いうちに続々とくるだろう。篭城すれば必勝の状況だが、だからといってわざわざ民達を危険にさらす訳にもいかない。少し手前で足止めさえ出来ればそれでいい。こちらから攻めることはしないさ。兵数が集まった時点で叩き潰す」

 

「それまでは私達で伏兵に対応すればいいって訳ね」

 

「普通ならそうなのだがな・・・」

 

ふつうならば何も心配は要らない。

 

援軍は絶対来るし、将軍の数も少ないとはいえ優秀な者たちばかりだ。

 

負ける要素などない。

 

普通ならば・・・

 

「どういうこと?」

 

「この頃の出来事を考えると・・・どうもな。この戦いだってあまりに唐突だ。民達もさぞ混乱しているだろう。警戒しておくに越したことはない」

 

冥琳と詠が話しているうちに第一陣がすべて出陣し終えたらしく、つづいて第二陣が出撃していた。

 

「私もそろそろ行かねば。それでは詠、城のことは任せた」

 

「ええっ、そっちも気をつけてね」

 

冥琳は背を向けながら手を振るとそのまま城壁の階段を下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥琳が広場へと向かっている途中

 

「冥琳様」

 

道の横に生えている木々の中から明命が飛び出してきた。

 

「明命か、どうした?」

 

「私もこの隊列に加わった方がよろしいでしょうか?それとも・・・」

 

そういえば、明命には別の仕事を託していたことを思い出す。

 

「そうだな・・・・・・」

 

冥琳は少しの間、考えた後

 

「いや、今回は今の仕事を継続してくれ。こういう騒がしいときに何か起こすかもしれないからな」

 

「はい・・・」

 

「嫌な仕事を押し付けてすまんな」

 

「いっ、いえ!別にそんなっ!!」

 

「せめて、蓮華様が帰ってくるまでお願いしたいのだが」

 

「はいッ!!了解です!!」

 

明命はその後、再び任務を遂行するためにシュバッとどこかに消えていった。

 

「・・・・・・気苦労ならどれだけいいか・・・はぁ」

 

ため息をつきながら冥琳は自ら率いる第三陣が待機している場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

第二陣として白帝城から出発した愛紗達は冥琳の指示されたとおりの場所を目指して進軍している。

 

簡単な作戦の内容として、まずは第一陣が敵と応戦する。

 

第二陣は第一陣の少し後方へ待機し、ドラが鳴れば即座に一陣と交替

 

第二陣の交戦中、第一陣は休息

 

これを繰り返すことを基本にした。

 

第三陣は万が一、抜かれてしまったときの最終防衛ラインかつ補給隊となっている。

 

もう少し時間が経てば近くの城からの援軍が到着する。

 

その援軍を第四陣、第五陣として配置して、作戦を繰り返していけばまず負けることはないだろう。

 

三国が同盟を結んだ今だからこそできる物量作戦である。

 

「敵もバカだなぁ~。こっちになんも負ける要素ないじゃん」

 

「本当にただのアホな賊軍かもしれんのう」

 

翠と桔梗が馬を並べて、余裕の表情を浮かべている。

 

「愛紗もそう思わないか?今の三国同盟に5万程度で本城を狙うとかさぁ~」

 

翠は後方を振り返って、愛紗の方を見る。

 

愛紗は星と馬を並べている。

 

「そうだな・・・しかし、用心はしておいた方がいいと思うぞ。ただの賊ではないかもしれん」

 

「ほぅ?愛紗の言葉から“用心”とは・・・。して、その真意は?」

 

「兵の質は戦ってみないと分からんが、相手には相当の武人がいる」

 

「それって、こっちに来る時に言ってた白髪の男のことか?」

 

「あやつの武は相当なものだった。油断はできん」

 

愛紗は無意識にその男に付けられた頬の傷を撫でていた。

 

あの男の強さは本物だった。

 

天下一品武道会以外であそこまで本気になったことはこの一年間なかった。

 

「愛紗にそこまで言わせるとは・・・もし、そやつがいたら私が相手をしたいものだ」

 

「すまんが星、それは無理だ。今度も私がやる」

 

「それは時の運、戦場の運だ」

 

「でもさぁ~。もしそいつがあの軍を引っ張ってるんだったら、戦術はどうなんだろな?春蘭みたいなやつなのか?」

 

愛紗たちが話している間に翠の馬が愛紗の左隣に来ていた。

 

「否定できんな。強い奴と死合いができればそれでいいという印象だ」

 

「それはそれで危ない奴だな」

 

「だから用心だけはしとけと言っている。いまのこの兵士たちじゃアイツは絶対止められん。私達の誰かが行かんとな」

 

「へいへい・・・、そういやぁ、一陣になんも変化がないな」

 

話している間にもう目的の地点には到着していた。

 

ここまで近づけば気合を入れる声や剣戟の重なる音が聞こえてきてもおかしくない。

 

それらが全くといっていいほど聞こえてこない。

 

「そういえばそうだな・・・。何かあったのか?」

 

一同が怪訝そうな顔をしていると、前方から伝令兵がこちらに向かってくるのが分かった。

 

「楽進様から報告です。敵が一陣と相対する形で動きを停止。微動だにしないとのこと」

 

「ただ突撃してくる訳ではなかったか」

 

「そのまま帰ってくれるとありがたいのだがな」

 

「そんで、凪たちはどうするって?」

 

「はっ!こちらからは指示があるまで積極的に攻撃をしなくてもいいと周瑜様が仰っていたので、そのままの形を維持するそうです」

 

「やけに慎重な作戦でいくんだな。充分な兵力が集まってから総攻撃といった感じか」

 

「了解した。下がってくれ」

 

兵士は一礼した後、第三陣にも同じことを伝えるために後方へと走っていった。

 

「んで、あたし達はどうすんの?」

 

「前方で動きがないと私達も動けん。同じく待機だ」

 

「まぁ、それしかないか・・・」

 

「春蘭がいなかったことを感謝せんとな」

 

星の言葉に一同は“確かに”と顔を見合わせて、顔を少し緩ませた。

 

 

 

 

 

 

その後も第一陣と黒い集団との睨み合う形が長く続き、その日の太陽は傾いていった。

 

 

 

 

 

太陽も暮れ、辺りが朱色に染まった頃の白帝城

 

季衣と流琉は城壁よりもさらに高い所にある物見櫓にいた。

 

そこからは黒い集団と第一陣、第二陣の様子を隅々まで見ることができた。

 

「ほんとに敵が来てたんだね」

 

「だね・・・。もう戦うことなんてないと思ってたのに」

 

「やっとみんなが笑える世の中になったのに、何でこんなことしようって思う人がいるのかな?流琉?」

 

「うん・・・このごろ嫌なことばかりだよ」

 

この頃の出来事はほんとに嫌なことばかり

 

何を食べてもおいしくない

 

いっしょに食べたい人が欠けている。

 

何を作っても楽しくない

 

本当に食べて欲しい人が欠けている。

 

そんな充実しない日々がただ流れていくだけだった。

 

「はぁ~~~っ、流琉・・・あれ・・・なにかな?」

 

季衣は敵がいる南東の方角ではなく、北の方角を指差す。

 

その指差す方向を流琉も目を凝らして見てみる。

 

「んっ・・・と、砂塵かな?こっちに近づいてくるよ」

 

「援軍?それとも敵の増援?」

 

「ちょっと待って・・・」

 

流琉は櫓から体を少し乗り出して北の方角を見つめる。

 

それに倣い季衣も体を乗り出して何が来ているのかジッと見る。

 

砂塵で辺りが曇って見えるものの、その姿が次第にくっきりと現れ始める。

 

「「あっ!!」」

 

その砂塵を巻き起こしている正体が分かると、二人の表情が一気に明るいものへと変わる。

 

「「華琳様だ!!!」」

 

二人はすぐに華琳たちを出迎えるために物見櫓から駆け下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳たちが白帝城城門に着くと、すでに季衣と流琉が待っていた。

 

「おかえりなさい!華琳様!!」

 

「ただいま、季衣。わざわざ出迎えに来てくれたの?」

 

「はい!えっと、春蘭様は?」

 

季衣はキョロキョロと辺りを見回しながら、春蘭の姿を探す。

 

「春蘭はもう戦場に向かわせたわ。とりあえず詳しい状況を聞きたいのだけれど、誰がいるかしら?」

 

「詠さんが城にいて、冥琳さんは第三陣として出ています」

 

「そう、稟。あなたは冥琳のもとへ応援に行ってあげなさい。私も詠と話をした後に行くわ」

 

「御意」

 

「季衣、流琉、詠の所まで案内してちょうだい」

 

「はい、こちらです」

 

華琳の乗っていた馬は従者の者に預けて、流琉を先頭に詠のいる部屋へと向かう。

 

稟は華琳に言われたとおり、冥琳率いる第三陣へ向けて馬を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳は流琉と季衣に連れられて部屋に入ると、詠は白帝城周辺の地図を眺めている所だった。

 

「詠さん、華琳様が戻られましたよ!」

 

「えっ!」

 

今日の正午辺りに援軍要請と帰還命令を伝える伝令を各隊に出したのにもう華琳が帰ってきたというのは詠にとって嬉しい誤算だった。

 

早くても2日か3日はかかると思っていたからだ。

 

「詠、詳しい状況を聞かせてちょうだい。一応、春蘭と稟を冥琳のもとに送っておいたわ」

 

「わかった。実は・・・」

 

詠は急に入ってきた本城急襲について、現在の状況から今回の作戦までを詳しく話していった。

 

「なるほど・・・、その集団は各地を襲っていた黒い集団と同じ奴等と考えて間違いわね」

 

「うん。報告どおりの旗も揚げられてるわけだし」

 

「戦況も両軍が睨みあった状態か・・・・・・」

 

華琳も詠といっしょに机に置かれている地図を見下ろす。

 

流琉と季衣も華琳の横から地図を眺めていた。

 

地図の上には白い駒と黒い駒が対立する形で置かれている。

 

もちろん白が味方、黒が敵側である。

 

「城を包囲する陣形じゃなくて、南東側にしか陣を展開してないのはなぜかしら?」

 

「報告どおり相手の数が5万なら、近づけば包囲できない数じゃないわよね。包囲陣の厚さは薄くはなるでしょうけど」

 

「それにあっちから襲ってきておいて急に動きを止める理由も分からないわ。まるでこっちが準備できるのを待ってくれてるみたい」

 

「相手もまだ戦力が整ってなくて、援軍を待っているとかですか?」

 

華琳と詠が話しているときに、流琉が自分の思ったことを言ってみる。

 

「それもあるかもしれないけど、可能性は低いと思うわ。ならなんで、完璧に戦力が整った状態で攻めないの?ってことになるし」

 

「今が攻め時って思ったとか・・・」

 

「それなら余計に今攻めてこない理由が分からないわ。今の時間が無駄ね」

 

「ううっ・・・」

 

詠の気迫に押されて意見を言ってきた流琉が少しシュンとしてしまう。

 

「流琉、別に落ち込むことはないわ。自分の思ったことは素直に言えばいいの。それがもしかしたら新しい可能性を生み出すかもしれないんだから」

 

華琳は流琉の肩に手を乗せる。

 

「そうよ。そうやって一つ一つの可能性を出して、それを発展させたり、潰していったりする事で相手の考えていること、これからやろうとしていることを予測していくんだから。そういう意見はじゃんじゃん出していってよね」

 

「それに流琉の意見は春蘭のよりもはるかに良いしね。さすが、秋蘭を慕ってるだけあるわ」

 

春蘭なら何も考えず“ただ突撃!”と言いかねない。

 

「は・・・はい!!」

 

流琉も華琳に言葉が嬉しかったらしく、元気な笑顔を二人に向けた。

 

「それじゃ、考えられる可能性をあげていきましょう」

 

そうして、詠、華琳、流琉、季衣(半目状態)の4人で会議が夜遅くまで進められていった。

 

 

 

 

 

翌日

 

敵軍は朝まで何も変化がなかったのだが昼ごろになると急に動き始め、第一陣が交戦状態に入った。

 

三国側はきれいな陣形を保ちながらの応戦

 

一方、敵側を見てみると特に陣形も何も形成せずただただ突撃してくるだけであった。

 

まるで何も訓練をつんでないような、本当にそこら辺りのゴロツキとなんら変わらない戦い方だった。

 

そのため、結果は自ずと見えてくる。

 

三国側は何も苦労することなく敵の進軍を阻止、敵はあっけなく四方八方へと散っていった。

 

しかし、それでもまだ敵の数は少ししか減ってはいないようで、その戦闘が終わった後再び敵と三国側が相対する形になった。

 

楽勝ではあったものの念のために冥琳は一陣と二陣の交代のドラを鳴らす。

 

なので、今現在は第二陣が前線になっている状態である。

 

なお、華琳たちが合流したため第四陣が新たに形成されていた。

 

それ以降も続々と援軍が到着しており、三国側の兵士数は着実に増えていた。

 

「それにしても拍子抜けだな。敵があれだと」

 

「本当に数だけで攻めてきている感じだな」

 

第一陣の戦闘報告について、愛紗と星、翠が話していた。

 

「これだとさっさと敵を襲撃したほうが早く終わるんじゃないか?」

 

「まぁ、我らが勝手に動くわけにはいかんからな」

 

三人が話していると、馬蹄が地面を蹴る音が近づいてきた。

 

「報告します!敵軍、再び侵攻してきました!数は1千~1千5百で、鋒矢の陣を敷いています」

 

「次はちゃんと陣を敷いてきたのか。よし、私が出よう」

 

「おし!!んじゃ、あたしも行くか!!」

 

星と翠が我先にと馬に跨り、自ら率いる兵達の下へと駆けて行った。

 

「おい!ちょっと待て!!・・・はぁ」

 

二人の後姿を眺めながら、一人残された愛紗はただただため息をつくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして星の隊と翠の騎馬隊が敵軍と接敵

 

辺りでは戦闘時の独特の空気が流れていた。

 

人の叫び声や馬の嘶きがあたり一面から聞こえる。

 

先ほどの報告とは違い、今回は敵軍もむやみやたらに攻撃してくるわけではなく、きちんとした作戦のもと動いているように星は感じた。

 

敵と対するときは必ず二人であたるなど戦略の基本に沿っていた。

 

しかし、そのとおり動けていても所詮はそこらの賊の集まりなのだろうか

 

訓練された兵士たちは賊を難なく撃破していく。

 

星も兵士たちには負けておれぬと奮闘していた。

 

 

 

 

 

 

星がひとたび龍牙を振るえば、数十人の体が宙を舞う。

 

龍牙を突けば瞬く間に2,3人の体に穴があく。

 

そうして次々と敵兵を撃破していた。

 

「他愛もない・・・」

 

龍牙を勢い良くブンッと振るうと、刃についた血が遠心力により辺りに飛ばされる。

 

改めて周りを見てみると数十人の賊達に囲まれていた。

 

しかし、誰も星に対して襲いかかろうとはしない。

 

「どうした。かかってこないのか?」

 

挑発してみても敵はいっこうに前に進もうとしなかった。

 

それどころか、ほとんどの者がジリジリと後ろに後退していった。

 

「私は無駄な殺生は好かんのだ。尻尾を巻いて逃げるならさっさとしろ!!」

 

その一喝を聞いて、恐れをなした一部の賊たちが一目散に星の下から離れていった。

 

他の賊たちは足が竦んでいるのだろうかブルブルと震わせて動かないというか動けないようだった。

 

その様子を見てもう襲っては来ないと判断した星は相手に背を向けて他の場所へ行こうとする。

 

そのとき

 

タッタッタッタッタッ

 

「!?」

 

ビュゥン!!   キィィィン!!

 

後ろからこちらに駆けて来る音が聞こえ、星が振り向いたその瞬間、すでに相手の刃が振り下ろされていた。

 

それを龍牙の柄で防ぐとその相手の勢いを利用して後ろへと跳躍する。

 

しかし、相手の攻撃はそれだけで止まらず、星へと再び駆けて来る。

 

そしてまた、今度は横薙ぎに刀を振るってきた。

 

星はその後すぐさま体勢を整えて龍牙を地面と垂直になるように両手で握りその斬撃を受けきった。

 

続いて相手の刀を軸にして龍牙を反時計周りに回転させ相手の刀を巻き取り、刀を弾こうとする。

 

それを感じ取ったのか敵はすぐさま刀を引いて少しだけ星との距離をとった。

 

「ふん、腰抜けばかりかと思っていたがなかなか・・・だな」

 

「・・・・・・・・・」

 

「名前を聞いてもよろしいか?」

 

「名など・・・ない・・・」

 

「それはそれは、寂しいな。名も与えられなかったとは・・・」

 

星は冗談交じりに相手を挑発しながら相手を観察していく。

 

いままでの兵とは雰囲気も気迫もまるで違う。

 

しかし、相手の力量はといえば良く見積もっても蒲公英ぐらいだなと感じる

 

「しかし、相手の力量も見抜けないとお主・・・死ぬぞ?」

 

「ただ・・・黒天の意思のままに」

 

「何?」

 

意味の分からない一言を呟いたとたん、相手の男はまた星に襲い掛かってきた。

 

星は再び構えて相手の袈裟切りをかいくぐる様にして華麗に避ける。

 

そしてその動きのまま、がら空きのわき腹に龍牙を滑り込ませて一閃する。

 

「がはっ・・・ッ・・・」

 

男はわき腹を押さえ出血を止めようとするも、そのまま前方へ倒れこんだ。

 

「こくて・・・ん・・・の世を・・・」

 

再び起き上がろうとするが、ガクッと腕の力が抜けた。

 

星は振り返って相手が起き上がってこないことを確認する。

 

「黒天・・・か・・・」

 

意味深な言葉を残して、相手の男は絶命した。

 

 

 

 

 

 

一頭の馬が戦場を縦横無尽に駆け回っていた。

 

その馬の駆けた後には馬蹄の跡と敵の死体が残されている。

 

黒兜の兵士が馬上に乗っている者に向かって槍を突き刺す。

 

しかし、突き刺した先には何もないし、誰も居ない。

 

おかしいなと思いつつもその兵士は槍を引こうとする。

 

だが、引こうと思っても体がいうことをきかない。

 

さらにおかしいなと思って兵士は自分の体を見る。

 

するとそのままの意味で自分の胸にポッカリと穴が開いているのに気づいた

 

“あっ、オレ・・・刺されたんだ”

 

兵士の意識はそこで途絶える。

 

馬蹄の数とともに、また死の数が増えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっっっしゃぁぁぁ、涼州にその人ありと言われた錦馬超が槍の味!!味わいたい奴は前に出やがれ!!」

 

翠は紫燕を戦場の中心で止めて、高らかに声を上げる。

 

それに合わせて紫燕もたくましい嘶きをあげた。

 

銀閃は刃だけでなく柄の所にまで相手の返り血がついている。

 

その返り血は翠の鎧や顔にまで飛び散っていた。

 

翠は血のついていない服の袖で顔を拭う。

 

「単独じゃやられちまう。一斉に行くぞ!!」

 

誰と分からない声がその場に響いて黒い兵士たちがハッとする。

 

そしてその言葉通りに7人の兵士たちが翠に向かって槍を突き立てながら走ってきた。

 

こちらに向かって走ってくる様子を翠がジッと見つめていた。

 

「いまだ!!!!!!!」

 

一人の兵士の掛け声で残り6人が一斉に馬上へ槍を突き立てた。

 

「やったか!?」

 

「誰をやったんだ?」

 

槍の先に目線を向けてもそこには翠の姿はなかった。

 

兵士たちは上から声が聞こえた気がしたため、目線を上に向ける。

 

しかし、見上げてみても翠の姿は見当たらない。

 

どこへ行ったと思いながら目線を戻してみると、目の前の仲間たちが4人倒れていた。

 

さらに紫燕の後ろに立っていた兵士が後ろ足で蹴られてぐったりと伸びていた。

 

目線を少しそらしただけで仲間が5人倒れてしまった。

 

「クソッ!!どこいきや・・・がっ・・・た・・・(バタッ)」

 

キョロキョロと翠の姿を捜していた一人の兵士の胸に風穴が開いていた。

 

その風穴の開いた兵士の背後に翠はいた。

 

「ひ・・・ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 

もはや敵わないと悟った最後の一人が背中を向けて逃げていった。

 

「余裕、余裕!おし!!まだ行くぜぇ!!」

 

気合を再び入れなおして紫燕に跨り、腹に軽く合図を送る。

 

それを受けて紫燕はまた戦場の中へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、第二陣の戦闘も星と翠の活躍もあり圧倒的勝利を収めた。

 

 

 

 

 

 

夕方頃には進撃してきた敵兵ほぼすべてを駆逐することができていた。

 

ある程度の時点で勝利を確信していた星と翠は今回の戦いの報告を行うため、早めに本陣へと帰っていた。

 

二人が天幕へと入った所を愛紗が迎える。

 

「ご苦労だったな。どうだった?」

 

「まぁ、そこらの賊とたいして変わんないな。余裕だったぜ。あちゃー、こりゃ手入れをしないとダメだな」

 

翠は銀閃を見ながら、少し顔をしかめる。

 

「その辺に関しては同意するが、第一陣の報告とは少し違う印象を受けたな」

 

星は机近くに置かれた椅子を引き出して、そこへゆっくりと腰を下ろす。

 

「ただ単に突っ込んでくるだけかと思っておったが、簡単な連携はしてくるようだ。一応陣組みもしていたようだし」

 

「まぁ、敵も学習したんじゃないか。あれだけやられたら」

 

「それとな、敵の一人がなにやら気になることを言っていた。“黒天”がどうのと・・・」

 

「“黒天”か・・・」

 

「たしか漢中の奴も同じことを言っていたのだろう?」

 

「そうだ。これで、あやつがいる可能性も高くなったな」

 

「まぁ、これだけは伝えとこうと思ってな」

 

「そうか・・・、分かった。それにしてもご苦労だった。後は私と桔梗の隊に任せて後方へ下がってくれ」

 

「ふむ、まだいけるのだがな。しかし、お言葉に甘えようか」

 

「仕方ないか。紫燕も疲れただろうから洗ってやるか」

 

二人は簡単な引継ぎを終えた後、天幕から出て行く。

 

星は後ろを向きながら軽く手を振ってその場を後にした。

 

そして、星と翠の隊は後方へ帰還し、愛紗と桔梗の隊は華琳たち魏軍が中心に形成された第四陣と合流した。

 

 

 

 

 

 

星と翠が白帝城へと帰還している途中

 

「んん?なぁ、星。あれって呉の旗じゃないのか?」

 

「何?」

 

星はすでに暗くなりつつある草原の先を見るために目を細める。

 

「ほら、あそこ。『孫』の牙門旗二つに『甘』と後一つは・・・『呂』だな」

 

「雪蓮殿に蓮華殿だな。それにしても援軍にしては早すぎではないか」

 

「とにかく行ってみるか?」

 

「そうだな。私だけで充分だ。お主は先に帰っておけ」

 

「へいへい。しゃーねぇな」

 

星は翠にそう言った後、蓮華たちのいる方へと馬の鼻先を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮華様、こちらに星が向かってきているようです」

 

星の姿をいち早く確認したのは思春だった。

 

「えっ、何か急ぎの報告?」

 

「いえ、城とは違う方向から向かってきていますので、城へ帰るところなのでしょう」

 

「それで帰る途中で私達を見つけたと・・・、待ったほうがいいかしら?」

 

「星ならこの速度でもついてくるでしょうよ!このまま行くわよ、蓮華!!」

 

二人の話を横から聞いていた雪蓮がさらに馬に鞭を打って加速する。

 

「そうですね。大丈夫でしょう」

 

そして、雪蓮、蓮華、思春は馬を三頭並べながら白帝城へと向かう。

 

亞莎は隊の中ほど辺りで馬を走らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

その途中で雪蓮の言ったとおり、星は呉の隊列に追いついた。

 

「お三方、お早い援軍ですな」

 

「いえ、たまたまよ。江陵を出発して少し経ったときに報告があって、そのまま急いできたの」

 

「冥琳殿はこの先の第三陣におられます。案内いたしましょう」

 

「それは助かるわ。お願い」

 

「では、私は亞莎にこのことを伝えに行きます」

 

そう言って、思春は馬の速度を徐々に落としていく。

 

「それでは雪蓮殿、蓮華殿。こちらです」

 

思春とは逆に星は馬に軽く蹴りを入れて隊の先陣を切り、そのまま冥琳がいる第三陣に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

黒の兜に黒の鎧

 

それらを身にまとった黒い兵士たちが慌しくあちらこちらへ走り回っていた。

 

それらの雑踏の少し後方

 

一つの天幕が見張りの兵士もなく、静寂な中に立てられていた。

 

天幕の中には蝋燭の明かりはない。

 

しかし、ぼやっと輝く淡い光が天幕の中を照らしていた。

 

その明かりの色は赤に黄色、青に緑と様々な彩りがあった。

 

そこはまさに別世界

 

その中心には机が一つに椅子が一つ

 

机の上には人の頭くらいの大きさはある水晶が一つ置かれていた。

 

水晶に手を掲げるとその掲げた人物の見たいものを映し出す。

 

「予想より早いですね。もう少し検証・分析ができると思ったのですが」

 

その水晶には星が雪蓮と蓮華を第三陣へ案内しているとこだった。

 

「ほへぇ~、ホンマにマジカルでファンタジーな世界になってきたな」

 

黒布に包まれた関西弁を話す男が水晶を覗きながら感嘆の声を上げる

 

周りにはその他にその男と同じく黒布に身を包んだ女に白髪の男がいた。

 

「前にも言いましたが、外史というのはこういうものです。信じていただけませんか?」

 

「ん~、オレは物理・科学と論理的に説明出来るもんしか信じへんことにしてるんやけど、こう目の前で見せられるとな~」

 

「じきに慣れますよ」

 

黒いドレスを着たカガミは水晶から手を離す。

 

すると今まで映し出されていた映像が徐々に消えていった。

 

「それで、どうなの?」

 

黒布の女が座っていた椅子から立ち上がってカガミのもとへと近づいていく

 

「はい、三国の兵が徐々に集まり始めていますね」

 

「計画通りという訳?」

 

その返事としてカガミはコクリと頷く。

 

「今のところは・・・三国の兵力についてのデータが取れてきたところです」

 

「んで、次はどうすんだよ。早く関羽と戦わせろよな。お前のせいで途中になったんだからよ~」

 

ツルギが軽くステップを踏みながら、シャドーボクシングをしている。

 

相手は関羽を想定しているのだろうか

 

「二、三日は待ってください」

 

「三日もかよ!!」

 

「それとも一生戦いたくありませんか?」

 

その言葉にカガミには聞こえないようにチッと舌打ちをする。

 

舌打ち自体はカガミに聞こえていたのだが、あえてそれを無視して再び水晶に手を掲げる。

 

水晶にはまた映像が映し出された。

 

「すこし揺さぶりをかけてみましょうか・・・」

 

「揺さぶりって?」

 

「前と同じ予定通りのことをするのですよ。頼めますね?」

 

水晶を眺めながらカガミはニコッと笑う。

 

その笑みからは少し邪悪な感情が読み取れた。

 

End

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうもです。

 

いかがだったでしょうか?

 

文を書く時間がない

 

帰ったら寝るの毎日でPCに向えない

 

そんなつまらない毎日を送っております。

 

まだまだ不定期更新が続くかと思いますが

 

生暖かく見守ってやってください。

 

 

 

 

 

今回も次回予告はタイトルだけで

 

次回 真・恋姫無双黒天編 第8章「本城急襲」中編  戦闘準備

 

では、これで失礼します

 


 
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