No.217046

Little Brave~ちいさな勇気とおおきな絆~

と言うわけで連続で投稿させて頂きます、第二話です。
今回からしばらくは主人公の中学時代(他のメンバーとは別々)となっており、関わってくる新規参入組は一人か二人しか出て来ません。
なのでその辺り、ご容赦下されば幸いです。

2011-05-16 12:15:20 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:700   閲覧ユーザー数:685

「・・・・・・・・ん」

 

 差し込む日差しに目を開けば、そこはオレンジで染められた教室の中。前後左右どの席にもクラスメイトはおらず、恐らくは六時間目の授業からずっと眠っていたのだろう。

これを示す通り、机には授業の準備で取り出した教科書やノートが置かれていた。

 

「・・・帰ろ」

 

 未だ襲う眠気に必死で抵抗しながら、いつものように空の鞄を持って立ち上がる。そうして何気なく辺りを見回せば、自分以外にも残っている生徒がいた模様。

 

 あの子は確か・・・三枝さん、だよね。

 

「どしたの、三枝さん」

 

 今年のクラス替えでクラスメイトになった彼女は、ほとんど学校に来ない人だった。理由は良く知らないけれど、登校してきた日はいつも何をするでもなく、ただボォッと外を眺めている。

このような日課らしき行動は本日もご多分に漏れていなかったらしく、頬杖をついている彼女に話し掛けた。すると三枝さんは予想だにしないぐらいの濁った瞳で、ボンヤリとこちらを見つめてくる。

 

「帰るんだったら、一緒に帰らない?」

「・・・え?」

 

 感情といったものが丸ごと落ちきった表情に一抹の寂しさを覚えながらそう提案した時、彼女は意味が分からないような感じで聞き返してきた。

それはまるで普通に話しかけられたこと自体が驚きみたいな感じであり、この様子が私に更なる寂しさを抱かせる。

 

「だから、一緒に帰ろ。三枝さんの家って、私の帰り道の途中にあるんだよ。知らなかった?」

「・・・・・・・・・・・・・・・(ブンブン)」

 

 何気なく放ったお誘いの言葉と自分の知っている情報に、三枝さんは首を横へ振ってくる。

うむ、ならばついでに自分の家も覚えてもらうとしますか。

 

「さっ、早く行こう。時間は有限なので・・・!?」

 

 煮え切らない彼女に対し、自分でもめっさ強引だなーとか思いながら下校を共にさせてもらう。

だが三枝さんの手を掴んだ瞬間、少しだけ捲れた袖からみみず腫のような傷痕が見えた。

 この光景に、思わず飲んでしまう息。すると彼女は、同じクラスになって初めて感情らしきものを表情に出してきた。

 

「・・・そうだよ。気持ち悪いでしょ、こんな痕が腕と背中にいっぱいあるの」

 

 口の端を歪ませた、悪意たっぷりの自虐的な笑みで言い放たれる台詞。三枝さんの言うとおりだとしたら、背中いっぱいのみみず腫なんてどうやっても自分で作れっこない。

 となればやはり、

 

「虐待、されてるの?」

 

 この結論に達する外ないではないか。

 

「・・・さて、帰ろっか井上さん」

 

 こちらがその言葉を発した途端、まるで何事もなかったように帰り支度を始める三枝さん。

そこに先程のような負の感情はみられず、のっぺりとした笑みと共に彼女はこちらへと振り返ってくる。

 

 ――それは虐待されているという事態が、本当に『何でもないこと』だと思っているみたいだった。

 

「さよなら、井上さん」

「・・・うん、さよなら」

 

 互いに無言のまま、帰路へとつく私達。そして彼女の家に辿り着いた後、何故か三枝さんは玄関ではなく庭の方へと歩いていった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 何か、嫌な予感がする。

 

 その様子が気になり、足音を殺して彼女の後をついていく私。

 

「・・・え?」

 

 そこで私は、驚くべき光景を目の当たりにした。

「・・・何で」

 

 どうして、

 

「あんな場所が」

 

 壁や床・屋根さえも朽ちた物置が、三枝さんの帰るべき場所なのか・・・!?

 

「帰ったのか、このクズ」

「全く。お前が無能なせいで、また私達の立場は悪くなったじゃないか」

「ご、ごめんなさい・・・」

 

 頭が真っ白になっている自分の前で、中から数人の男性が出てきた。

興味や優しさなどなく、単なる蔑みしかみられない彼らの上げる声に、三枝さんは蹲ったまま謝る。

 

 瞬間、

 

「謝って済む問題じゃないんだよ、この恥さらしが!」

 

 バチィン!

 

 いきなり、頬を平手で叩かれていた。

 

「お前が、お前が欠陥品だから! 私達はいつまで経っても、二木より上になれないんだ!!」

 

 これを皮切りに、彼女は周囲の人間全員から殴る・蹴るといった暴行を加えられる。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ!!」

「うるさいんだよ、くそが!」

 

 倒れた体に降り注ぐ、容赦のない蹴りや拳。

 

「お前など存在しなければ、生まれてこなければ良かったんだ!!」

 

 ベチャッ

 

 顔面をぬかるんだ地面に押し付けられ、何度も何度もそれを繰り返される。

 

「ふざ、けるなぁ!!」

 

 そこで、私の理性は消え去った。

 叫びと共に自慢である背中まで伸びた長い薄茶色の髪を翻しながら地を蹴り、一番近くで暴行へ加わっている男性が振り向いた瞬間、その顔を思いっきり殴り飛ばす。

突然の攻撃に反応出来なかったそいつは顔を歪ませながら吹き飛んでいき、雨戸に勢い良くぶつかる。

 

「な、何だ一体!?」

 

 いきなり強襲され慌てふためく彼らだけれど、眼前に立っているのが自分みたいな子供だと気付いた途端、下卑た笑みを浮かべつつ近寄ってきた。

 

「お前、ただで済むと思っているのか!?」

「黙れ、下衆が」

 

 ポツリと発した台詞を聞いた瞬間、怒りで顔を限界まで赤らめさせていく大人達。けれど私の体から立ち上る本気の殺気を本能で感じ取ったのか、誰一人としてこちらへ向かってくる者はいない。

 

「三枝さんは私の大事な友達なの。そんな彼女をこれだけ痛め付けたんだから、あなた方も相応の報いを受けるべきよね?」

 

 沸騰しきった頭を無理矢理抑え込みながら薄く笑みを浮かべて一歩を踏み出すと、そこはもう相手の懐で。

 

ボギッ

 

「あがぁぁぁあぁ!!」

 

 振り抜いた拳が、立ちつくしたまま動けない男性の肋骨を粉砕した。

 

「次」

「ひっ……いぎゃぁぁぁあぁ!!」

 

 次は隣にいた奴の両腕を取り、そのまま逆方向へとねじ曲げる。するとメギャッ、ボギッなんて通常ではあり得ない音を出しながら折れていった。

 

「て、てめぇ……!!」

「ぶっ殺してやる!!」

 

 と、残った四人の男性らが一斉に襲い掛かってくる。

いつの間に持ってきたのかそれぞれ手には刃物を構えていて、当たり前だが刺された日には場所が悪ければ死んでしまうだろう。

 

「・・・死ねよ、ゴミ」

 

 けれど、そんなもの私には通用しない。

何故なら自分は、『一般人が本来持たざるべき力を保有しているのだから』

生まれて初めて感じる程の怒りからか、普段以上の威力で放たれた打撃を受けた彼らは、折れたり砕かれたりした箇所を押さえてのたうち回っている。

 

 ・・・さて、と。

 

「三枝さん」

「いやぁ、ごめんなさいごめんなさいぃぃ!!」

 

 一度だけ小さく溜息を吐き、いつも通りの心持ちで未だ庭の隅で怯えている彼女に話し掛ける。

だが反射的に返ってきたのは、先程彼らへ叫んでいたような悲痛しか感じられない謝罪だけ。

 

「三枝、さん・・・」

「がんばる、次はがんばる、からぁ! だから、お願、い、します! 痛いのは嫌ぁぁあぁ!!」

 

 その瞳から大粒の涙を流しながらガタガタと震え、ひたすら謝り続ける三枝さん。

私はそんな彼女へと更に近付き、

 

「もう、大丈夫だから」

 

 出来る限りの愛情を込めて、力いっぱい抱き締めた。

 

「絶対に、何があってもさ。私は三枝さんを傷付けたりなんてしないから」

 

 それでもしばらくは逃れようと必死に暴れていたけれど、自分が彼女へ危害を加えないことに気付いたのだろう。

少しずつ落ち着きを取り戻していった三枝さんから向けられた視線には、多少なりとも信頼の意が含まれている気がした。

 泥だらけの顔を持っていたハンカチで拭き取った後、お姫様抱っこの要領で彼女を持ち上げて現在地から離脱。

そして屋根伝いに走ること五分、ようやく私の家に到着した。

 

「泥まみれで気持ち悪いでしょ? はい、これ着替えね。それと脱いだ服はそのまま置いといて、洗濯するから」

 

 展開についていけてない三枝さんを力づくで浴室へと押しやり、バタンと後ろ手にドアを閉める。

そして待つこと数十秒。自分に何を言っても無駄だと諦めたのか、それともやはり年頃の女の子として泥まみれは嫌だったのかは分からないが、ようやくシャワーの流れる音が聞こえてきた。

 

 さてと、まずは色々と電話しなくちゃね。

 

 正直かなり憂鬱な気分だけれど、この際背に腹は変えられない。

私は小さく溜め息を吐き、アドレス帳に載っている人物達へと電話を掛けた。

 

 

「あ、終わ・・・やっぱ余るねー」

 

 ちょうど関係各所全てに電話を掛け終えた時、三枝さんが浴室から出てくる。

自分と彼女の身長は大体同じくらいかあちらが少し大きい程度だけれど、私はある一部・・・っていうか胸が同世代の女の子よりもかなり成長しているため、サイズを一段階大きくしているのだ。

それ故か、彼女が着たらダボダボになってしまう。

 

「・・・どうせ私は井上さんみたいに、スタイル良くないですよーだ」

 

 すると三枝さんは軽く唇を尖らせながら、いじけた感じで言い放ってきた。

 

 このような表情が見れ、ホッと安堵の溜め息を洩らす自分。

何故なら三枝さんも、普通の女の子みたいに笑えるんだって知ったから。

 

「んじゃまぁ早速だけど、三枝さんのこれからについて説明するね」

 

 内心で抱いていた想いに気付かれないよう出来るだけ何でもない風を装いながらそう言った途端、彼女はビクッと体を震わせてくる。

けれど心配ないとでも言うように私は三枝さんへ笑い掛け、そのまま話を続けた。

 

「取り敢えず三枝さんは、私ん家の養子ってことになるから。なので今日からは、ここがあなたの家で私とも家族。イコール、衣食住については当方が負担します。あと三枝の家や……二木、だっけ? そっちには連絡して許可も取ったから」

 

 こちらの説明に、彼女は何だか呆けたような顔をする

まぁいきなり自分の家族になったなんて言われても思考がついていけないだろうし、加えてこういった役所などの公的機関を通しても時間が掛かるような仕事をたった何本かの電話だけで行えるなんて常識では考えられないよね。

 

「ほにゃ三枝さん、何か質問ある? 私のこととかどうやって話を通したかとか以外なら遠慮しないで聞いてね」

 

 胸中で小さく笑みを浮かべつつ、ポケーッとしてるっぽい彼女へ訊ねる。

すると三枝さんは少しの間考え込んだ後、

 

「・・・どうして、私を助けたの?」

 

 そう、ポツリと呟いた。

 

 助けた理由、か。

改めて問われると、何でなのか分からなくなる。

 『同情』から?『可哀想』だから?

恐らくは、そのどれもが当てはまると思う。

 

 けれど一番の理由は、

 

「私が、助けたいって思ったからだよ」

 

 やっぱり、これしかないかも。

 

「うん。私自身が三枝さんと友達になりたかったから、だよ。それにさ、私もずっと前に助けられたの。それは命の部分もあるけど、何より彼らは私の心を救ってくれた」

 

 思い返すは、別の中学校へ進学したリトルバスターズの面々。

彼らのおかげで、自分は今こうして生きているのだ。

 

「だから今度は、私が誰かを救いたいんだ。あの馬鹿達みたいに、助けを求める人達をさ」

 

 胸に手を当て、あの忘れられない記憶を思い出しながら話す。

 

 大切で大好きな仲間、リトルバスターズ。

その一員として私は、三枝さんへ微笑みかけながら右手を差し出した。

 すると彼女は少しだけ悩んだ後、おずおずと左手を伸ばしてこちらの手を握り返してくれる。

よしっ、契約成立。

 

「さってと、それじゃ新しい家族の歓迎会をしないとね! 『葉留佳』は何か苦手な物とか食べたい物ってある?」

 

 新たな家族が増えウキウキ気分になりながら、私は台所へと向かっていく。

 

「あ、うぅん。苦手な食べ物はないけど、ハーブ系はちょっと……」

「おっけー。なら……いや、やっぱ気取らないで肉じゃがメインにしたラインナップでいい?」

 

 やはり歓迎会ならば豪勢な料理で行わないと、何て思ったけれど、彼女の場合ならば家庭的な食事の方が喜ぶのではないか。

恐らくは間違っていないであろう予測と共に、手早く作業を進めていく。

そしてボオッとした感じで三枝さんがこちらを見つめる中、全ての工程は完了した。

 

「よっし完成! ごめん葉留佳、これテーブルに持っていってくれない?」

「あ、うん……って『葉留佳』!?」

 

 出来上がった料理の配膳を頼むと、彼女は自分が使用した一人称にようやく驚いてくれる。

いや、さっきも普通に使ってたんだけどね。

 

「えー? だって葉留佳は今日から私の『家族』になるんだし、それに名字も三枝から井上になるんだよ? なら三枝さんって呼ぶのは、普通に考えて変だよ」

 

 その辺り今更かよとか内心でツッコみつつ、葉留佳という呼び方に対して理由を説明しておく。

 

「でも葉留佳が三枝さんって呼ばれたいなら、そう呼ぶけどさ。ていうかもしかして、そっちの方が良かったりする?」

 

 けれどそこの点が少しばかり心配になり、葉留佳の顔色を伺いながらそう訊ねてみる。

すると彼女は小さく首を横に振り、

 

「うん、私達は家族になったんだもんね。だから葉留佳でいいよ、『柚梨奈』」

 

 心から嬉しそうな笑顔で、私の名前を呼んでくれた。

 

「ねっ、それじゃ早くご飯食べよ。柚梨奈の手料理ってどんなのか、凄い気になるなぁ」

「ふふっ。それはもう、葉留佳だって絶対好きになってくれると思うよ」

 

 彼女の冗談混じりな言葉へ、私も笑顔でそう返す。

この日私達は、深夜まで尽きることなく話をした。

 

 


 
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