No.212505

真・恋姫無双 ~黒天伝~ #13

cherubさん

第十三話
汜水関の戦い・初日後編です。
今回は友哉は出てきません。
あまり進みませんがご了承ください。

2011-04-19 23:44:07 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1751   閲覧ユーザー数:1604

 

初日の夜、劉備は曹操・孫策を呼び出していた。

 

曹操「それで、何の用かしら?」

 

劉備「お二人は、黄巾党の時に天城さんを誘ってましたよね?」

 

孫策「それがどうかしたの?」

 

劉備「もう諦めちゃったんですか?」

 

曹操「そんなわけないでしょう。私は望むものは何でも手に入れてみせるわ」

 

孫策「あんなのを放っておくわけないでしょう」

 

劉備「それじゃあ勝負ですね」

 

孫策「あら、あなたも狙ってたの?」

 

曹操「それは初耳ね」

 

二人とも言葉でこそ驚きさえすれど、不敵な笑みをたたえている。おそらくは感づいていたのだろう。

 

孫策「それで、明日はどうするつもりなの?」

 

劉備「今、華雄さんが監禁されているということは指揮を執っているのは、天城さんと張遼さんの二人ですよね?」

 

曹操「華雄が監禁?どういうこと?」

 

劉備と孫策は昼間の出来事を曹操に話していた。

 

曹操「なかなか面白いことをするわね。天城か張遼かどっちがやってるのかしら?」

 

劉備「そこで明日は、その二人を同時に罵倒してみようかと思います」

 

孫策「あらあら、今度はどんな罵り文句を用意してるのかしら」

 

劉備「張遼さんは神速を天城さんは、その・・・」

 

曹操「どうしたの?」

 

劉備「女好きかなって、あはは」

 

曹操「要するに情報がないわけね?これが私たちを呼び出した理由ね。私たちには情報はないわ」

 

孫策「残念ながら、こっちにも彼についての情報はないわよ?」

 

劉備「そうですかぁ」

 

孫策「まぁせいぜい頑張ってみなさい」

 

曹操「張遼はその挑発に乗るかもしれないから、また矢文が来たら今回は天城の仕業に決まるわね。見たところ彼にはそんなに兵を率いる力はなさそうだし、一人にするだけでも十分じゃない?」

 

劉備「曹操さん、孫策さんありがとうございました!」

 

劉備は二人に向って深々と頭を下げる。二人は劉備に向って軽く手を振り自陣へと戻っていく、不敵な笑みをたたえながら。

 

 

 

孫策(いい娘なんだけどなぁ・・・)

 

曹操(女の子としては性格はいいのだけれど・・・)

 

孫策・曹操(甘ちゃんね)

 

 

 

関羽「桃香さま!どうでしたか?」

 

関羽が二人が去ったのを見てこちらに走り寄ってくる。

 

劉備「特に情報はないって」

 

劉備はがっくりとうなだれる。

 

関羽「そうですか・・・。しかたありません、今日は早く戻って明日に備えて寝ましょう」

 

劉備「そうだね」

 

二人は歩みをそろえて天幕へと戻っていく。

 

 

--孫策軍--

 

天幕の中では孫策・周瑜・黄蓋が杯を酌み交わしている。

 

黄蓋「どうした、策殿」

 

周瑜「天城か?」

 

孫策「さすがね、冥林。でも、わからないのよね」

 

黄蓋「何がじゃ?」

 

周瑜「なぜここまで気になるのか」

 

孫策「最初に会ったときは何とも思わなかったんだけどね。なぜかあの子のことばかり考えちゃってるのよ。あなたもでしょ?冥林」

 

周瑜「何でもお見通しというわけか・・・」

 

孫策「当り前でしょ。いつも好きになるものは一緒よ」

 

黄蓋「はっはっは!呉の武と文の長をこうも簡単に虜にするとは、一度儂もあってみたいのう」

 

天幕の入り口が開き孫策によく似た女の子が駆け込んでくる。

 

孫権「姉さま!何をしているのですか!」

 

孫策「あら、蓮華じゃない?」

 

孫権「蓮華じゃない?じゃありません!戦場で酒などと、どういうつもりですか!」

 

黄蓋「まぁよいではないか。蓮華さまは今回が初陣だから緊張してるのかも知れんが、これはいつものことなのじゃよ」

 

周瑜「その通りです。適度な酒は必要なものです」

 

孫策「あら冥林、かばってくれるの?」

 

孫策「祭さん、冥林まで・・・」

 

周瑜「『適度な』量だ。今日は終わりだ」

 

孫策「ぶーぶー」

 

周瑜は孫策の前に置いてある徳利を取り上げる。

 

孫権「それで姉さま、用というのは何でしょうか?」

 

孫策「あーそうそう」

 

孫策は孫権の方を向いて座りなおす。

 

孫策「蓮華・思春・明命!あなたたちは明日最前線に行きなさい。護衛をお願いね、祭」

 

三人「!?」黄蓋「うむ」

 

孫策「できればあの天城と会ってほしいんだけど、無理なら何をしてくるか見てきなさい」

 

孫権「そこまでその男が気になりますか?」

 

周瑜「会ってみればわかるでしょう」

 

孫権「冥林まで・・・わかりました。二人とも聞いてたわね?」

 

甘寧・周泰「はっ」

 

孫策「それじゃあ用事はこれで済んだからもう寝てもいいわよ」

 

孫権「それでは姉さま、冥林もいるから大丈夫とは思うけど、あまり酒を飲みすぎないでください」

 

周瑜「しっかりと見張っておこう」

 

孫権「おやすみなさい」

 

孫策「おやすみ♪」

 

孫権は甘寧・周泰を連れて天幕を出ていく。

 

黄蓋「しかし、策殿も面白いことを考えなさる」

 

周瑜「しかし、よいのか?」

 

孫策「いいのよ。天城は何か面白いことをしてくれそうだし。どうせ明日も戦いはないでしょう」

 

周瑜「それは勘か?」

 

孫策「そうよ?」

 

周瑜「まったく、お前の勘は軍師殺しだな。それでは私も寝るとしよう」

 

孫策「おやすみ、冥林」

 

黄蓋「儂も明日に備えて寝るとしようかの。もっともうずうずして寝られるかもわからんがな」

 

黄蓋はからからと笑いながら天幕から出ていく。その表情はまるで遠足前日の子供のような無邪気なものだった。

 

孫策「私はもう少し・・・あれ!?ない!?」

 

孫策はもともと徳利があったところに手を伸ばすが、そこにはもうない。

 

孫策「やってくれるじゃない冥林。おおかた『お前のやることはすべてお見通しだ』とか言うんでしょうね。今日は寝るしかなさそうね」

 

孫策も自分の寝台へと上がり目を閉じる。

 

そのまぶたに映るのは、一度だけ会った綺麗な蒼色の髪と瞳の悲しげな少年の姿だった。

 

 

--曹操軍--

 

荀彧「華琳様」

 

曹操「・・・」

 

荀彧「華琳様!」

 

曹操「!!」

 

夏侯惇「どうかなされたのですか?」

 

曹操「ごめんなさい。少し考え事を」

 

曹操たちも天幕に集まり軍議を開いていた。しかし曹操は心ここにあらずの様子。

 

夏侯淵「天城、ですか?」

 

夏侯淵は恐る恐る曹操に問いかける。

 

曹操「そうよ」

 

初めて会ったとき以降、まぶたを閉じるといつも天城の姿が脳裏に浮かぶ。なぜなのかは自分でもまったくわからない。

 

荀彧「男のことなど!」

 

荀彧はその男を全力で否定しようとする。しかし

 

夏侯淵「目を閉じると思い浮かぶのですね?」

 

夏侯惇「秋蘭もなのか!?」

 

夏侯淵「姉者もか!?」

 

同じ現象が起こっていることに二人は驚きの表情で互いを見つめ合う。

 

曹操「やはり二人ともそうなのね・・・何が私たちをこうも惹きつけるのかしら?」

 

夏侯淵「私にもわかりません」

 

夏侯惇「分からん」

 

荀彧「あんたには最初から期待してないわよ!」

 

夏侯惇「なんだとぉ!」

 

荀彧「あんたみたいな脳が筋肉でできてるような奴に、華琳様のすばらしい考えが分かるわけないじゃない!」

 

夏侯惇「貴様ぁ!」

 

曹操「それぐらいになさい、春蘭。桂花もよ」

 

李典「それで、うちらには何の用や?大将」

 

天幕の中には後三人、夏侯惇と荀彧の喧嘩を見ている者が三人いた。楽進・于禁・李典。つい先日義勇軍から正式に加わった三羽烏だ。

 

曹操「あなたたちには明日、最前線に偵察に行ってもらうわ」

 

三人「!?」

 

三人は驚きを隠せないでいた。最前線に配置されているわけでもない。まして、偵察は普通は斥候の役割である。それを仮にも部隊長である三人に任せたのだ。

 

夏侯淵「華琳様!?」

 

曹操「あの男の動きが気になるわ。なかなか面白いことをしてくるようだし。引きずり出して話をしてきてくれれば一番よいのだけれど」

 

楽進「話というのはどういったことでしょう?」

 

曹操「好きなことを話せばいいわ。ただ話した時の彼の印象を後で報告しなさい」

 

于禁「それなら沙和にお任せなのー。おしゃれのお話いっぱいしてくるのー」

 

楽進「こら、沙和!」

 

曹操「かまわないわ。とにかく何とかして少しでも彼の情報を増やしてちょうだい」

 

楽進・于禁・李典「了解です!(なの!)(や!)」

 

楽進・于禁は頭を下げ、天幕を出て行く。しかし李典は納得のいかない様子で残っている。

 

李典「けど、その男にはそこまで大将はんが惚れ込むもんがあるんか?」

 

曹操「ないわね。ねぇ秋蘭?」

 

夏侯淵「はい。容姿も上の下。武も姉者には劣り、指揮能力もさして高くない」

 

李典「そしたら、なんでなん?」

 

曹操「あなたも一度あってみれば分かるわ」

 

李典「んん~。わかりました。そんじゃあ失礼します」

 

まだ納得がいかないようだが、一礼すると天幕を出て行く。

 

荀彧「華琳様!なぜ男などにそこまでこだわるのです!」

 

今まで押し黙っていた荀彧が声を荒げる。

 

曹操「あら、桂花。あなたも一緒に行きたいのかしら?風と稟にも一緒に行ってもらおうかしら?」

 

夏侯淵「華琳様、いくらなんでもそれは・・・明日、戦いがないとは思われますが、軍師を前線に出すのは危険かと」

 

曹操「冗談よ。それじゃあ今日はもう寝なさい」

 

華琳の言葉に渋々荀彧もあきらめの表情を見せ、天幕を出て行く。それに続いて夏侯姉妹も天幕を後にする。

 

曹操「明日はどんなものを見せてくれるのかしら」

 

一人つぶやき曹操は寝台へと向かい、横になる。そのまぶたを閉じるとやはりそこには、綺麗な蒼色の髪と瞳の悲しげな少年の姿が浮かぶのだった。

 

つづく。

 

 


 
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