No.212108

真恋姫無双~夢の続きへ~(Ⅵ)

十六夜さん

及川編?の続きです。

またしばらく更新を空けてしまってすみませんが、どうか長い目で見てください。

2011-04-17 14:28:43 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:5754   閲覧ユーザー数:4506

「さて………この愚か者はどうしようかしらね、一刀?」

 

「なぜそこで俺に話を振る……?」

 

 

及川を背にゆっくりと華琳の方を向く。そこにはもちろん覇王様の意地悪な顔が

 

「そうね………まずは人数分のお茶を淹れてきてもらえるかしら?」

 

「は?なんでそんな─「いいから早く行きなさい!淹れ方が粗末だったら…」わ、わかったって…………及川に手荒な真似するなよ?」

 

バタン……

 

そう言って一刀は部屋を出ていった

「さぁ…て及川とか言ったわね。あなたに聞きたい事があるわ」

 

「それでかずピー追い出したんか………ん、なんでも聞いたってや」

 

「あら?随分と殊勝じゃない、じゃあ─」

 

胸を張り、無い胸を強調させ─

 

 

「……なにか不愉快な事を言われた気がするけど……まぁいいわ。及川、一刀が向こうに帰ってからのことを聞かせて頂戴」

 

「帰ってきてからのこというてもなぁ…………様子がおかしくなった時期のことやったら話せんで」

 

「それで構わないわ」

 

 

「せやな………まぁ普通やったわ表向きは、な。かずピーって昔からなんでも1人で抱え込むもんやから、見てるこっちがハラハラするいうかなんというか………ま、んなことはどうでもええか。まず変わったんは顔つきと生活やな。顔つきが精悍になったのもそうやったけど妙に哀愁を帯びた目しとったわ。今考えるとあんさんらと離れたんがホンマに辛かったんやろなぁ……」

 

「…………続けなさい」

 

 

「ん。生活はまるっきり変わったな。朝早くに起きて尋常じゃないトレーニングの量こなしとったわ」

 

「とれーにんぐ?」

 

 

「あぁ、鍛練って意味やな多分。んで、長い休みの日は九州のじいちゃん家行っとったみたいや。九州ちゅうんは地名な。かずピーのじいちゃん、九州じゃ有名な達人らしくて教えを請いにわざわざ足を運んだらしいで。帰ってきたら切り傷やら青アザやら作っとったわ。ま、そのお陰で高校、大学ほとんど負け無しや」

 

「ほとんど?曖昧な言葉ね」

 

「あぁ、かずピーってフェミニストやからな。負けたんはほとんど女相手や」

 

「まったく………」

 

 

「そんなとこも好きなんやろ?」

 

 

 

「黙秘させてもらうわ。・・・他には?」

 

 

「せやなー…………かずピーと飯食いに行った時のことやな。かずピー、呟いたんや“平和…だな”ってな。そん時は何を当たり前のことをって思ったんやけどな。そっか……かずピーはずっとこの世界で、平和とは程遠い世界で生きとったんやなぁ………。あとは・・・」

 

 

「…やっぱりそこまででいいわ」

 

及川の喋りに華琳がストップをかける

 

「ん?えぇんか?まだまだかずピーの恥ずかしい話とかあるで?」

 

「聞かないわよ、そんな話。これ以上聞くのは一刀に対して失礼だものね。・・・・最後にひとつ聞きたいことがあるわ」

 

「なんや?」

 

「そ、その……」

 

なぜかそこで歯切れが悪くなる

 

「?」

 

 

「か、一刀は向こうに……こ、恋人はいたの?」

 

鬼気迫る表情をした華琳がやっと質問を絞りだした

 

「は?」

 

 

及川が惚けた声を出しながらも魏の女性陣を見ると、全員が華琳と同様に鬼気迫る表情をしている

 

 

部屋に沈黙が流れたのもつかの間

 

 

「は……はは……ははははは………ははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

及川の爆笑によって妙に重い空気が霧散した

 

 

「きっ、きさまぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

春蘭が、侮辱されたと思ったのか七星牙狼を上段に振り上げて及川に斬り掛かろうとするが

 

「待て姉者!」

 

 

間一髪、秋蘭によって再び羽交い締めにされる

 

「離せ秋蘭!今のは許しておけん!」

 

「落ち着け姉者!しかし及川殿……いささか無礼ではないか?こちらは真面目に聞いているのだが?」

 

 

秋蘭も春蘭と同じく憤っていた。春蘭と違っていきなり切り掛からないのは性格によるものだろうが、いつもはクールビューティーの秋蘭の怒った顔は凄まじかった

 

 

「あぁ悪い悪い、馬鹿にしたわけやないんや。ただ少し嬉しゅうなってな」

 

 

「嬉しい?何がだ?」

 

及川のよくわからない表現に怒りが少し沈静化する女性陣

 

 

「結論から言うと、かずピーに彼女はおらへんかったわ」

 

 

「なら何がおかしいのよ…」

 

少しだけ額に青筋を立てた華琳が頬を引きつらせながら及川に聞く

 

 

「いやいやすんまへん。かずピーってあの性格やろ?無条件で優しいもんやから女の子がくっついてくんねん。でもかずピーはちゃんと全部断っとったで?十中八九あんたらがいたからやろな。でも、癪にさわるけど嫌な断わり方せえへんもんやから、さらにモテるんや。まったくタチ悪いでぇ」

 

 

「まったく………流石は魏の種馬ね、でも……良かったわ」

 

 

華琳他、春蘭達にも心底安堵の空気が流れる。珍しく桂花の顔にも安堵の表情が出ていた

 

「かずピーは愛されとんなぁ~」

 

「あら?羨ましいのかしら?」

 

「わいは遠慮しとくで、命がいくつあっても足りなそうやからな」

 

 

軽口を言える状態まで戻った華琳に対し、及川は苦笑しながら肩を竦めた

 

 

心地よい空気が部屋を包む。ここで閉幕になれば一番いいのだが、それができない程の運の悪さを兼ね備えているのがこの男、及川である

 

 

「そんで誰が一番かずピーのこと好きなん?やっぱ華琳ちゃんなんか?」

 

 

ピシッ…!

 

 

その一言により和やかだった部屋の空気が一気に氷点下まで下がる

 

 

「ちょ、なんでみんな怖い顔して近寄ってくるんや…?手に武器なんて構えて…………ちょ、待った!なんでや!?や…やめ…やめてー!!!!!!!!………………………………………」

 

 

そうして、断末魔が響き渡った

 

 

 

厨房

 

コポコポコポコポ………

 

静かな厨房にお茶を淹れる音が響く

 

 

 

「よし、全員分淹れおわったぞ。あ、そういや及川に真名のこと話すの忘れてたな。………………ま、いいか。そういうことを察せないほど馬鹿じゃないだろうし」

 

 

 

 

 

 

 

 

………馬鹿だった。

「グッモーニーン!!かっずピーィィィィ!!??」

 

ドッカーン!

 

この世界であからさまな英語を使う奴なんて一人しかいない。一刀はそんなことを思いながら、後ろから突撃してきた人物の頭を脇に掴み、ぐるんと一周させて投げ飛ばしていた

 

 

「ブ〇ーチネタは飽きが来てるんだよ」

 

 

派手な音を立てて壁にぶつかったままピクピクしている及川に冷たく言い放つ一刀

 

 

「ひ、酷いんとちゃうか……?」

 

 

「最近のブームは朝、電撃で起こされるパターンだ」

 

「べる〇バブ!?」

 

 

現代人にしか分からない、そんなおバカな会話をしているうちに及川が復活し、移動を再開した一刀の後に続いて歩き出す

 

 

数日前のできごと、及川処刑未遂事件(自業自得)の際に一刀の弁護のかいあって、真名を勝手に呼んだ件は保留という結果になった。そして及川は城の中で生活することになった。もちろん華琳の考え、働かざる者食うべからずの精神によって取り敢えずは警備隊新入隊員として働くことになったのだが。

 

「体の節々が痛いんだから、あんま無茶させないでくれよ」

 

ぐるぐると肩を回しながら後ろを歩く及川に頼む一刀。魏に帰ってきてからというもの、やっぱりというかなんというか2年という歳月は彼女達にとっても限界だったらしく、盛りのついたネコに襲われるが如く毎夜毎夜、相手をさせられていた

 

 

「お盛んやな~、かずピー?」

 

「俺がお盛んってわけじゃないから。まぁ嬉しくないわけじゃないけど…………流石に一晩二人とか、三人とかを繰り返すとな」

 

 

「かずピー、前から言おう思ってたんやけどな…………悩みが贅沢すぎんであんたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

「うわっ!」

 

 

血涙を流しながら絶叫する親友に流石の一刀も引き始める

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

そんな一刀に目もくれずに、及川は城内全域に轟きそうな哀しみの曲(絶叫)を奏で走っていった

 

 

「今日から調練だからな~!時間までには指定された場所に行ってろよー!」

 

 

「ふふ……朝から楽しそうだな、一刀」

 

 

及川に向かって叫ぶのと同時に後ろから秋蘭の声が聞こえてくる

 

 

「……否定はしないよ」

 

 

そう言って一刀が振り向いた先には、書類を片手に持ったお肌つるつるの秋蘭

 

 

「……………」

 

「どうした?一刀」

 

「いや、…なんでもない」(俺そのうち干からびて死ぬんじゃないかな?はははは………はぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

洛陽城外

 

洛陽の城壁から見下ろせる位置にズラリと並ぶ警備隊新入隊員達。天の御使いが再び警備隊隊長に復帰したという情報により、例年より二倍近い数が集まったらしい

 

だというのに

 

「はー…………タイミング悪い時に集まったなぁ…」

 

城壁の上で新入隊員達を見て溜め息を吐く一刀。それもそのはず、一刀が視線を横にずらすと

 

 

「隊長の前で2年ぶりの調練……気合いを入れねば………!」

 

「隊長にいいとこ見せて今夜はめいいっぱい可愛がってもらうでぇ………!」

 

「隊長の前でみっともない調練はできないのー……!いつもの二倍……いや三倍増しの気合いを入れるのー…………!」

 

 

 

視線の先には2年ぶりに帰ってきた一刀に見せる初調練ということで気合い十分…………というか、どう見ても気合いが入り過ぎている三羽鴉の姿が。

 

それと同時に今夜の相手は他でもない凪、沙和、真桜の三人なのである。これでタイミングが悪くないとか言う奴がいたら蹴ってやりたい、と思うぐらいの状況だった

 

 

「帰りたい…………マジで」

 

 

はぁ…と溜め息を吐く一刀だったが、いつまでもそうしているわけにいかずに自分の中のやる気スイッチを入れてすっと立ち上がる

 

 

「え~と………凪!沙和!真桜!今日は3人とも頑張ってくれ!…………やり過ぎないようにな?」

 

 

「はっ!」

 

「わかったのー!」

 

「ほな行くでー!」

 

 

絶対に後半は聞こえてなかったな、と思いつつ一刀は意気揚々と新入隊員達の前に出る三人を見送った

 

 

「あ、そういや及川のやつどの隊に配属さ…れて………………。死んだかもな、及川」

 

 

 

 

「かぁぁぁずピーィィィィ!!!!なんやこの調練はぁぁぁぁ!!!」

 

 

「こらー!そこのクソむしー!1人で勝手な行動をするななのー!そんなビチクソはアソコちょん切って家畜の餌にしてやるのー!」

 

「ひぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 

 

沙和の部隊に混じった一人だけ現代人の悲鳴はしばらくすると聞こえなくなったそうな。

これが後世に記される警備隊入隊調練始まって以来、最も厳しかった地獄の調練である。

 

 

それから数日後、その地獄の調練を生き残った?隊員達の初の警備隊での仕事。その中にはもちろん及川の姿もあった

 

 

 

 

「静かに!隊長のお話だ!…それでは隊長、よろしくお願いします」

 

凪の声に警備隊詰所内の声がピタリと止む

 

「俺、演説みたいなの苦手なんだけどな…、えーと…とりあえず今日から君達にも警備隊の仕事をしてもらうわけだけど………」

 

 

ゴクリ…、と誰かが緊張で唾を飲み込む。魏を天下に導いた(色々、紆余曲折した誇張あり)とされている天の御使い、北郷一刀隊長。かつて二年前、武の方はからっきしで部下であるはずの楽進、李典、于禁、各部隊隊長にすら勝てなかったらしいが、どこかから流れてきた情報により三人の中で最強の楽進部隊長を下し、さらには魏で最強と名高い、夏侯惇将軍とも互角の勝負を繰り広げたとかなんとか。そんな噂のせいもあってか、どんな厳しい言葉が出てくるのかと新入隊員達に緊張が走る

 

 

 

「まずはみんな表情堅すぎるから笑顔で」

 

 

「「「「は?」」」」

 

 

何人かから間の抜けた声が上がる

 

 

「警備隊だってのに一般の人達を怖がらせちゃ駄目だからさ、結構過去にもいたんだよなー…しかめっ面で警備してたら小さい子に泣かれちゃった奴とかね」

 

そんな間の抜けた声など意にも還さずに警備隊隊長の話は続く

 

 

 

「まぁ俺から言うことはそれぐらいかな。それじゃ各自自分の隊長ところにいって指示を仰いでくれ、解散!」

 

 

「「「「……………」」」」

 

 

「返事は!」

 

 

「「「「り、了解!」」」」

 

「「「「さ、サーイエッサー!」」」」

 

 

一刀の言葉に茫然としたままだった隊員達に凪の叱責が飛び、各々調練で培われた条件反射の返事が口から飛び出した

 

 

「う~~ん……と!今日も平和平和!」

 

 

警備中、沙和の隊の先頭で辺りを見回しながら、一刀は満足そうに頷く

 

 

「こらー!そこのクソむしー!目を皿にしてよーく辺りを見回すのー!そんなことも分からない奴は─」

 

 

「平和………だよな?うん!平和平和!間違いない!」

 

 

後ろから聞こえてくる物騒な言葉の羅列に笑顔を引きつらせながらも無理矢理納得する

 

 

その時─

 

 

 

「ど、泥棒ー!」

 

 

そんなお決まりの文句と同時に一刀達の前方にある路地裏から、おそらく泥棒であろう人相の悪い男が出てくる

 

 

「ったく……今、平和って言ったばっかだってのに!沙和、部隊2つに分け……駄目だな、今回は新入隊員だけだし……。よし!沙和は隊引きつれて西側から回り込んでくれ!俺はあいつ追い込むから!」

 

 

「わ、わかったのー!行くぞークソむし達!駆け足ーなのー!」

 

 

 

一刀の指示に沙和達は別の路地に入っていく

 

 

「さて…行きますか!」

 

 

意気込む声と共に一刀は走りだした

 

 

 

 

 

「ち、近付くんじゃねぇ!このガキが見えねえか!」

 

 

数分後、そこには子供を人質に取り警備隊を牽制している泥棒の姿があった

 

 

 

(どないするんや…かずピー!)

 

現代でも滅多にお目にかかれない人質を取る泥棒に流石に及川も焦っていた

 

 

ざわざわ………

 

 

周りのギャラリーや他の新入隊員達も同様にだ

 

 

(あーもう!どないすれば………ん?)

 

 

頭を掻き毟っていた及川の目に、泥棒が背にしている家屋の屋根が映る

 

 

そこに隠れているひとつの影

 

 

(な、な、な、なにやってるんやかずピー!?そないなとこでなにしようっちゅうんや!)

 

もちろん、一刀。

 

及川は辺りを見回すがおそらく自分以外に気付いている人はいないと判断する

 

 

当の一刀は及川に気付いたのか身振り手振りのジェスチャーで何かを伝えようとしていた

 

 

(何か…ヤッて…あぁ…ちゃうな、やって…か?注意を……逸らせ!?無理無理!そんなんできっこないやろ!?)

 

 

 

そんな及川の内心お構いなしに屋根の上の一刀は親指を立てる

 

 

(誰かぁぁぁ!頼むからあの指折ったってくれー!…ん?)

 

何かに気付いた及川だったが、時間は無情にも過ぎていく。そして泥棒のイライラが頂点に達すると思われた時─

 

 

「早くどけってんだよ!さもねぇとこのガキ─「ちょっと待ったぁー!!」あ!?」

 

 

及川が声を上げた

 

 

 

人垣が割れ、及川が悠然と歩いてくる

その威風堂々とした姿に泥棒でさえも萎縮しそうになる。が

 

 

 

「その手の中の将来有望そうな嬢ちゃん離せや!このアホンダラ!」

 

 

続いて聞こえてきた台詞に泥棒を含めた全員が呆気にとられた。周りの喧騒も止み、辺りに痛いぐらいの静寂が訪れる

 

 

「ナイスだ及川!」

 

 

その時、泥棒にできた決定的な隙を見逃さずに一刀が動いた。屋根から飛び上がり重力落下の法則を利用し─

 

 

ゴッ……!

 

「がぁっ…!」

 

 

泥棒の肩に踵落としが炸裂し

 

 

 

 

ザッ……!

 

「危ない危ない」

 

 

同時に泥棒の手から離れた子供をキャッチする。それと同時に辺りに喧騒が戻ってきた

 

 

「隊長凄いのー!人質に何もなくて良かったのー!」

 

沙和を始め、警備隊員も近寄ってくる

 

「ん、この子お母さんのとこに帰してあげてくれ。……怖くなかったか?」

 

「全然怖くなかったよ!御使い様ありがとう!えへへ……」

 

 

一刀の心配そうな声に対し明るい声でそう言って、女の子は親元へ走っていった。

 

 

「転ぶなよー!…うん、なにはともあれ良かった良かった」

 

 

「良いわけあるかぁ!!!」

 

 

及「かずピー!ヘルプミー!」

 

 

ひとつ片付いたと思ったらまたひとつ。起き上がった泥棒に、今度は及川が人質に獲られていた。

 

 

 

「あ~…………よし沙和、警備に戻るぞ」

 

「分かったのー。ほらビチクソども!回れ右!なのー」

 

「待ってかずピー!見捨てんといてぇ!」

 

 

警備隊が人質に獲られるなどという前代未聞な事件。しかも人質が及川というめんどくささに一瞬現実逃避しそうになった一刀に、そのめんどくさい元凶が助けを求める。

 

 

 

「て、てめぇら……仲間がどうなってもいいのかよ!?」

 

 

「いや、だって……なぁ?」

 

 

「華琳様の真名を軽々しく口にした天罰なのー!」

 

 

「おまえらそれでも仲間か!?こいつ泣くぞ!?」

 

 

二人の薄情さに、むしろ泥棒が及川を擁護する始末だった。

 

 

 

「とまぁ…冗談は置いといてだ。え~と泥棒さん?そろそろモブキャラの出演時間も限界なんで、そいつ離してくれません?」

 

 

明らかに一刀と及川にしか分からない理不尽極まりない理由を泥棒に突き付ける。

 

 

「離せって言われて、はいそうですかと離す馬鹿はいねぇんだよ!」

 

 

泥棒さん(モブキャラ)もやっと自分の悪役スタイルに戻ったようで、悪役っぽい台詞を吐いた…のだが

 

 

「あっそ。じゃ凪、よろしく」

 

 

「あ………?」

 

 

一刀のその台詞を最後に、首に感じた鈍い衝撃によってモブさんの意識は沈んでいった。

 

 

 

「隊長。すいません、遅れました」

 

 

モブさんの背後から首筋に手刀をたたき込んだ凪が、謝罪とともに現れる。

 

 

「いや、助かったよ。念のため凪を呼んどいて正解だったな」

 

 

一刀はモブさん追跡中に会った凪を念のため後詰めに用意していたのだ。

 

 

 

「楽進ちゃんほんまにありが…どっ!?」

 

 

そして再び馬鹿が一人。モブさんの魔の手から逃れた及川が、凪に抱きつこうとしてアッパーを食らった。

 

 

「隊長のご友人だから手加減はしましたが……次は無いと思ってください」

 

 

 

「ず、ずびばぜんでじだ………ガクッ」

 

 

 

そしてモブさんに相次ぎ及川の意識もそこで途絶えた。脳を揺らされたのだから当たり前だろう。

 

 

 

「俺はモブさん運んでいくから、凪は及川お願い」

 

 

「ちっ…!隊長からの依頼なら仕方ありませんね」

 

 

「……今、舌打ちしなかった?」

 

 

「気のせいです」

 

 

 

「……そんなに及川運ぶの嫌だ?」

 

 

「はい。というより隊長以外の男は全員死ねばいいのに……と」

 

 

 

「ちょっと待てぇぇ!あれか?世界の半分を敵に回す気なのか!?」

 

 

急に出てきた凪の黒い部分に一刀がシャウトした。

 

 

「隊長とならばなんとかなります!!」

 

 

「ならない!ならないから!いくら北郷さんでもそれは無理です!」

 

 

 

「華琳さまに進言すれば実行に移せるでしょうか………」

 

 

「やめて!一番洒落にならない人に教えちゃ駄目だから!」

 

 

 

凪のとんでもない発言にマジで恐怖を感じながら

 

 

(凪をここまで暴走させるとは………お前も嫌われたもんだな。ドンマイ、及川)

 

 

 

自分にも責任が半分ぐらいはあるのに、そんなもん知るかと言わんばかりに棚に上げて亡き及川の冥福を祈る一刀だった。

 

 

 

 

「死んどらへんわー!勝手に殺すなやー!」

 

 

「人の背中で騒ぐな!」

 

 

《ガスッ!》

 

 

「……………」

 

 

 

うん…………理不尽。

 

 

<あとがき>

 

 

こんにちは、十六夜です。

 

 

しばらくぶりの更新でホントにすんません!!!

 

 

この怠慢さ、もし魏だったらとうの昔に処刑されてますね、絶対。

 

 

さて、とりあえずこれで及川編は終わりです。及川は魏に居座るという設定ですので、これからもちょいちょいでてきますけどね。

 

次は霞の話を書いて、その後に他国も絡む話を書こうと思っております。

 

不定期ですがよろしくです。

 

十六夜でした。それでは機会がありましたら、また。


 
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