No.209624

ゼロの使い魔~冒険家の弟子が行く! 3話

RYOさん

僕は夢を見た。とってもリアルな夢を。その夢が現実になるかもしれない、そう思って僕は……

俺は夢に見たここに来た。

2011-04-02 23:36:25 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:3228   閲覧ユーザー数:2968

saito side

 

『ルイズの使い魔 腹ペコ事件』が収束してから1時間後。

 

俺はルイズさんに連れられて教室に来ていた。

教室は大学と同じように一番低い位置に教師が立って段差ごとに机が並べられていた。

 

入るともう既に他の生徒が座っていていろいろな使い魔が居た。

蛙から始まり犬猫、おおめだまみたいなモンスターに窓の外にはドラゴンが居た。

 

さすがにドラゴンより上等とは言えないけど犬猫よりは人間のほうが上等だよな?

 

俺ははご主人様の待遇に一抹の不安を覚えるが、衣食住はとりあえずはあるし暴力は特に問題ないからこのままでも良いか。そう思っていた。

ルイズさんが席に着いた。俺もその隣に座ろうとする。

 

「あんたは席に座っちゃ駄目。ここはメイジだけが座っていいの」

 

「つまり、床に座れと?」

 

「当然でしょ」

 

ルイズさんはそう言う。

俺の仕事は護衛だから動けるように立っていようかと思ったが、他の人の邪魔になるので座っておいた。

 

少し経つと教卓にふくよかな女性が立った。

どうやらこの人が先生のようだ。

 

「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、春の新学

 

期にこうして様々な使い魔を見るのがとても楽しみなんですよ」

 

そう言うと先生は俺をチラッと見てルイズさんに言う。

 

「おやおや、ずいぶん変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」

 

先生がそう言うと生徒のほとんどが笑う。

 

「先生。少々よろしいですか?」

 

俺は手を上げて言う。

 

「はい、何でしょう? ミス・ヴァリエールの使い魔さん?」

 

「ええ、私の事が話題になったのでどうせなら私の自己紹介をしたいと思いまして。よろしいですか?」

 

「えっと……まあ、良いでしょう。それではどうぞ」

 

「はい」

 

俺は立ち上がり全員を見渡して言う。

 

「初めまして貴族の皆様。私はルイズ様に召喚された武術家。高科天地魔闘流免許皆伝の平賀才人です。以後、我が主共々よろしくお願いいたします」

 

そう言うと俺は礼をする。

 

「ええ。よろしくね。平民なのになかなか礼儀正しい子ね?」

 

「ありがとうございます」

 

「……こほん。では、授業をはじめます」

 

さて、この世界の魔法を教えて貰おうか。

 

俺は授業を集中して聞く。

 

俺を召喚したのがこの世界の魔法なら、この世界の魔法で俺の世界とこの世界に

穴を開けたということ。ならこの世界の魔法で元の場所に戻せるはずだ。

残念ながら召喚魔法の穴は一方通行らしいのでルイズさんにもう一度開いてそこに入るなどという事は出来ない。そもそも何処に繋がっているかも分からない穴に入るなんてやりたくはない。

 

……ふむふむ。魔法の四大系統。火、水、土、風。今は無くなってしまったが虚無という魔法があるらしい。虚無、何も無いこと。虚実の虚に無。幻術や消滅呪文か? 一番強いと言われてる割にはバリエーションが少ないな。使い勝手が悪かったから無くなったのか?

 

「では、いまから皆さんには土系統の魔法である練金を覚えていただきます。一年のときに教わったかもしれませんが、基本は大事です。もう一度おさらいすることに致します」

 

錬金か……師匠に教えてもらったけど全く理解できなかった。師匠もあんまり理解してる訳じゃないって言ってたけど……

 

先生が懐から石を取り出す。何の変哲も無い石だ。

先生は杖を取り出し何かを呟き杖を振るうと石が輝き次の瞬間には輝きを放つ金属があった。

 

……は?

 

「ゴゴゴ、ゴールドですか!? ミス・シュブルーズ!」

 

机から身を乗り出してキュルケさんが先生に質問する。

 

いやいや、何だこれ? ありえねー。石が金属になるって何だよ。石が他の物質に成ったって事だよな? それってかなりのエネルギーが必要なんじゃねーの!?

それを何かを言って杖を振るだけって……

 

「違います、これはただの真鍮です。ゴールドを練金できるのはスクウェアクラスのメイジだけです。私はただの―――トライアングルですから」

 

キュルケさんの質問に先生が答える。

 

はっ! 呆けてる場合じゃない。ここでは錬金はそういうものだって思っておけばいいや。

 

俺は先生が新しく言った単語のことをルイズさんに聞いてみた。

 

「トライアングルって何だ? 楽器?」

 

「違うわよ! メイジの力量を表すものよ。ドット、ライン、トライアングル、スクエアまであるわ」

 

なるほど、つまりあの先生はメイジで言うと中の上ぐらいの実力があるわけか。

 

「ミス・ヴァリエール、私語は慎みなさい」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「申し訳ありません」

 

俺にも、というか俺のせいでルイズさんが怒られてしまったので俺も一緒に謝る。

あとでルイズさんにも謝っておこう。

 

「……ではミス・ヴァリエール。丁度良いので錬金を実践してもらいましょうか」

 

あっちゃ~しかも誰かを当てようとした時だったのか。こりゃあ謝ることが一つ増えたな。

後で謝るとして、今はご主人様の力量を見ておくか。

という俺の考えとは逆に教室がざわめく。

 

「あの~先生。」

 

さっきルイズさんと口げんかをしていた男子が手を上げる。

 

「止めておいたほうがいいと思います」

 

その言葉に周りの人間も頷く。

 

「危険です! ルイズがやるならあたしが!」

 

キュルケさんがそう言って立ち上がる。

 

危険? 失敗すると大爆発でも起こすのか? いやでも基本って言ってたのに難易度が高いのか?

 

「危険? 錬金の何が危険だというの?」

 

先生は呆けたように聞いてくる。やっぱり錬金は危険じゃないんだよな。じゃあ何が?

 

そう思った時ルイズさんが声をあげる。

 

「やります! やらせてください!」

 

そう言ってルイズさんは立ち上がって教卓に下りていく。

 

ん? 青い髪の小さい子が教室を出て行った? 何で? ……まあいいか。

 

俺はルイズさんを見る。

教卓の前に立って杖を取り出す。

 

「錬金したい金属を強く思い浮かべるのです」

 

ルイズさんは緊張した面持ちで石に杖を振り下ろし、呪文を唱える。

石は強く輝き、そして……

 

 

 

 

爆発した。

 

何だ何だ!? イオラか!? イオナズンか!?

 

ルイズさんの呪文が発動すると石が爆発を起こし椅子や机を吹き飛ばした。

 

教室を見ると窓は割れて机は吹き飛び使い魔達は暴れていた。

 

「ああ、僕のラッキーが蛇に!?」

 

「……はぁ……黙れ」

 

俺は教室にいる使い魔に気当たりを放った。

 

「…………」

 

使い魔たちが恐怖で一気に静まり返る。あれ? 使い魔だけじゃなくて生徒さんも何人か倒れてるぞ? ……軟弱だな。

 

俺はルイズさんを見る。服はぼろぼろ。杖は持った場所から先が無い。きれいなピンク色の髪も煤けていた。

 

「だ、だから言ったのよ!」

 

キュルケさんが怒鳴り声を上げる。キュルケさんの怒声にルイズさんは、

 

「ちょっと失敗したわね」

 

と、何事も無かったかのようにそう言った。

 

おいおい、それ謝罪のつもりか? そう言うのって反感買うから止めておいたほうが良いんじゃないの?

 

「どこがちょっとだよ」

 

「今まで成功確立ゼロじゃないか!」

 

「ゼロのルイズ!」

 

教室にいる生徒がルイズに向かってそう叫ぶ。

 

ゼロのルイズ……成功確立がゼロ……ね。こりゃあ大変なご主人様に出会っちまったらしい。

 

俺は一人ため息をつく。

 

あれ? そう言えば先生はどこに行ったんだ?

 

俺はさっき先生が居た所を見る。

あ、いた。爆発の煙で見えなかったがシュブルーズ先生が倒れていた。

……遠目からはとりあえず外傷は無いようだ。

 

 

『ゼロのルイズ 第54回目 爆発事故』から2時間ほど経ってようやくシュブルーズ先生は目を覚ました。

目を覚ましたシュブルーズ先生はルイズさんに罰として教室の後片付けをするこ

 

とを伝えてまた倒れた。よっぽどルイズさんの魔法にビックリしたんだろう。

 

「…………」

 

「…………」

 

それからすぐに俺とルイズさんは先ほどルイズさんが爆発させた教室の後片付けをしていた。

 

「何で……」

 

片付けをしているとルイズさんが急に話しかけてきた。

 

「ん?」

 

「何で何も言わないのよ!」

 

ルイズさんがそう叫ぶ。

 

「何の事だ?」

 

「この爆発のことよ!」

 

「ああ、爆発ね……」

 

俺は教室を見渡して言う。

 

「失敗なんだっけ?」

 

「そうよ! 何を唱えても爆発する……成功確立ゼロのルイズって……あんたもそう思ってるんでしょう!?」

 

「まあ、確かにそう思ったけど?」

 

「やっぱり……」

 

俺がそう言うとルイズさんは悔しそうな顔をする。

 

「だって皆がそう言ってるんですもん。成功確立ゼロ。それ以外になんて思えばいいんだ?」

 

「くっ!」

 

「まあ、俺からすればルイズさんは魔法を失敗させたんじゃなくて爆発の魔法を唱えたって感じだけどな」

 

イオラとかイオナズンとかな。

 

「何言ってるのよ! 爆発の魔法なんてあるわけ無いじゃない!」

 

「いや、無いって。ルイズさんが使ったじゃないですか。そう言えば大変だなこの世界の魔法使いは、だって失敗したら爆発するんだろ?」

 

「ふ、ふふふ……」

 

俺が失敗魔法について言ったらルイズさんはいきなり笑い出した。

 

「ルイズさん?」

 

「バカにして! 平民の癖に! あんたは一週間食事抜きよ!」

 

ルイズさんは俺に死刑宣告を下した。

 

「なん……だと?」

 

「平民の癖に使い魔の癖にご主人様をバカにするからよ!」

 

そう言うとルイズさんは肩を怒らせて教室から出て行ってしまった。

 

「……あれ? ここの片付け俺一人でやらなきゃいけないの?」

 

side out

 

 

Louise side

 

何よ何よ何よ! バカにして! 使い魔の癖に! 平民の癖に!

 

何が『そう言えば大変だなこの世界の魔法使いは、だって失敗したら爆発するんだろ?』よ! 失敗したら爆発しないなんて常識でしょう! それなのに知らないふりして私をバカにして!

 

「あああああああ! ムカつくわ!」

 

私は近くの柱を蹴りつける。

 

「大体何なのよ! 平民の癖して貴族にはため口! 私以外の貴族には丁寧語で話すのに私だけ! ため口って! どういう事!?」

 

才人は使い魔なら主人と仲良くしているようにしなくてはいけないという思考からそういう行動を取っているのだがルイズは気づかない。

 

「それに! 異世界から来たなんて口からでまかせ言って! 本当は使い魔になりたくないだけでしょう!? それなのにあいつは!」

 

ひとしきり柱を蹴った私は息をつく。

ストレスを発散させたことによって冷静な思考が戻ってくる。

 

でも……あいつの言ってることが本当ならあいつの家の家族は心配してるんだろうな。

 

私は学園長に会いに行ったときのあいつの顔を思い出していた。

 

side out

 

 

saito side

 

「うう……ようやく終わった」

 

何とか煤を払い、窓を直し、机を元通りに並べ終わった才人は食堂への道を歩んでいた。

 

「腹減った。ナニカタベタイ」

 

お腹が空きすぎて言語能力が一部おかしくなった才人がそこにいた。

 

「あら? あなたは……サイトさん?」

 

後ろから声をかけられ才人が振り向くとそこにはシエスタがいた。

 

「オレ、オマエマルカジリ」

 

「え?」

 

「おっと、何でもない。で? どうしたんだシエスタ?」

 

危ない危ない。悪魔になりそうだったぜ。

 

「あ、はい。サイトさんが何か落ち込んでいる様子だったので。何かあったんですか?」

 

「ああ、実は……」

 

俺はさっきのルイズさんとの会話のことを話した。

 

「そうだったんですか」

 

「うん。何で怒ったのか未だに分からないんだよな~」

 

「良かったですね。貴族様の機嫌を損ねたらどうなるか……」

 

「あ、やっぱり?」

 

この世界でも貴族の機嫌を損ねると不味い事になるらしい。噂だけの話かもしれないが……

 

「うう……腹減ったー」

 

飯~ルイズさん。俺に飯をくれ~その辺の使い魔食っちまうぞ~

 

などと俺が物騒な事を考えているとシエスタが閃いた様に手を合わせる。

 

「そうだ。サイトさん。厨房に来ませんか?」

 

「え? 厨房に?」

 

俺が聞き返すとシエスタが頷く。

 

「はい。賄いくらいなら出して貰えると思います。貴族様の食事の残り物ですけどね?」

 

「行く行く! 残り物が食べ掛けのスープとかじゃない限り行く!」

 

「ふふっ。じゃあ行きましょうか」

 

俺はシエスタについていった。

 

 

 

「はむはむ……むしゃむしゃ……」

 

「……良い食べっぷりだな……相当腹減ってたんだな」

 

俺の後ろで料理長のマルトーさんが何かを行っているが聞く耳持たん!

 

てかうめえ。

 

俺は他の人に取られないように急いでかき込む。

 

「そんなに急がなくても誰も取りはしねえよ」

 

マルトーさんがそう言う。

 

え? そうなの?

 

マルトーさんの言葉を聞いて俺はとりあえずゆっくり食べ始める。

 

「おおう。なんだゆっくり食べることも出来るんじゃねーか」

 

「誰も取らないなら急いで食べる必要はありませんからね。ゆっくり食べさせてもらいますよ」

 

「そうか。こっちとしても味わって食べてもらったほうが嬉しいからな。……ところでお前は何でそんなに急いで食べてたんだ?」

 

マルトーさんが不思議そうに聞いてきた。

 

「ああ、それですか。昔ですけど、俺に武術を教えてくれていた師匠がいたんですよ」

 

「ほう。お前さん武術家だったのか。道理でたくさん食うわけだ……ああ、すまん。続けてくれ」

 

「それで師匠が南の島でバカンスって言って俺を連れ出したんです」

 

「ほお~。ん? そんな所に行けるなんてお前もしかして何処かのお坊ちゃんなのか?」

 

マルトーさんがちょっと気まずそうに言う。

 

「いえ、ごく普通の一般家庭でしたよ」

 

「そうか」

 

マルトーさんは少しホッとしたような顔をした。

 

「それでですね……着いた先が無人島でして」

 

「ほう」

 

「そこで師匠に修行って事で1ヶ月一人で生き残れって言われました……8歳の時でした」

 

「そ、そりゃあ大変だったな……」

 

マルトーさんがまずいことを聞いたという表情をする。ふふふ、カモメに食べ物を強奪されたのはいい思い出です。

 

「まあ、おかげで強くなったんで特に気にしてないです。……ご馳走様でした」

 

「おお、早いな!?」

 

美味しかったからつい急いで食べちゃった。

 

「ありがとうございますマルトーさん」

 

「気にすんなよ。困ったときはお互い様だろ?」

 

うん。なんて言うかオヤジって感じだよな。居酒屋の肝っ玉オヤジ。

 

「ありがとうなシエスタ」

 

俺はここに連れてきてくれたシエスタにもお礼を言った。

 

「いえ、料理長の言うとおり困ったときはお互い様ですから」

 

「それでもありがとう。何かお礼がしたいんだけど……」

 

「そうですね~」

 

シエスタは考えるように頬に指を当てる。

 

「あ、そうだ。これからお茶の時間なんですけど、そこで貴族様にお茶をお出し

 

するのを手伝ってくれませんか?」

 

「なるほど、了解した。この平賀才人。全力でお茶をお出ししよう」

 

「ええ、お願いします」

 

そんな訳で俺はシエスタの手伝いを開始した。

 

で、俺のメイド服はどこに? え? 無い? 残念だ。パーフェクトなメイドに挑戦しようと思ったんだが……

 

 

さて、シエスタの手伝いで給仕の真似事をしているわけだが意外と大変だな。

次から次へと注文が来るし、走るのは駄目だから早歩きで移動しなきゃいけないし……

 

「ん?」

 

俺が見た方向に男子生徒が固まっているテーブルに居る金髪の男子のポケットから小瓶が零れ落ちたのを偶々見つけた。

 

俺はすばやく移動して小瓶を取る。

 

「貴族様、落としましたよ?」

 

俺は小瓶をそっと金髪のカップの近くに置く。

 

「っ! な、何を言っているのかね? これは僕のではないよ」

 

金髪は何故か慌ててそう言った。

 

「え? しかし……」

 

「くどい! 僕は落としてないといったんだ!」

 

金髪は声を荒げて言った。

この反応、これはこれの存在を知られるとまずいって事か……

 

「失礼しました。 私の見間違いです」

 

「そ、そうか。解ればいいんだよ! うむ。君、もう行きたまえ」

 

金髪は安心したような声を出す。

俺も後で渡しに行こうと思ってその場を離れようとするが……

 

「待て」

 

と、金髪と同じ席に座っている男子に言われて俺は立ち止まった。

 

「何でしょうか?」

 

俺は早くこの場から去りたいんだが?

 

「さっきのビンを見せろ」

 

ずいぶん高圧的だなこの貴族。

そう思いながらも俺は小瓶を見せる。

 

「この香水。もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」

 

その言葉を聞くと金髪の眉がヒクリと動く。

 

「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分の為だけに調合している香水だぞ!」

 

「そいつをギーシュが落としたとなると、つまりお前は今、モンモランシーとつ

 

きあっている。そうだな?」

 

他の男子たちも囃し立てる。

 

「ち、違う。いいかい? 彼女達の名誉の為に言っておくが……」

 

彼女たち? 俺はその言葉に疑問を持ったがその疑問はすぐに解消された。

 

「ギーシュ様……」

 

「げ!? ケティ!?」

 

茶色のマントの茶髪の女の子が金髪(どうやらギーシュという名前らしい)に声をかけた。心なしか少し涙声だ。

 

「やっぱりミス・モンモランシーと……」

 

「ご、誤解だよケティ! 僕の心に住んでるのは君だけ「へえ~やっぱり一年生に手を出してたのね?」…………」

 

その声を聞くとギーシュの顔が真っ青になる。

ギーシュは声のした方向を見る。

 

そこには長い金髪を縦ロールにした女の子が立っていた。

 

「モ、モンモランシー!?」

 

「ふ、ふふふっ。ねえギーシュ?」

 

モンモランシーさんは笑顔を浮かべてギーシュに話しかける。

思わず見惚れてしまいそうだ。モンモランシーから冷気が漂ってなければ。

 

「な、何だいモンモランシー?」

 

「あなた……言ったわよね? 『僕の心に住んでいるのは君だけ』って」

 

「あ、あの……その……」

 

ギーシュはしどろもどろになってうまく喋れてない。

 

「やっぱり……嘘だったのね!?」

 

モンモランシーは笑顔から一転阿修羅のような顔になって怒鳴る。

 

「お、お願いだモンモランシー! そのバラのような顔を怒りで歪ませないでおくれ! これは何かの間違いで……」

 

そこまで言うとケティちゃんが今度こそ本当に涙目涙声で言う。

 

「酷いですわ! 私だけって仰ってましたのに!」

 

「と、とにかく二人とも落ち着いて……」

 

お前が落ち着けよ。それと諦めた方が懸命だと平賀は平賀は思うな?

 

「「嘘つき!」」

 

ケティとモンモランシーはまるで姉妹のように一斉に言った。

次の瞬間、ギーシュはモンモランシーのビンタを食らい吹っ飛んだ。

そのシーンを見て周りがドッと笑いが沸き起こる。

 

 

悪い事したな。

 

そう思ったがでも『自業自得か』と思い直して厨房に戻ってお茶を出す作業に戻ろうと思ったのだが……

 

「待ちたまえ!」

 

そう言われ俺はまた立ち止まる。振り向くとギーシュが少し怒った顔をして立っていた。

 

「何でしょうか?」

 

とりあえず俺は聞いてみる。

 

「君が軽率に香水の小瓶を拾ったおかげで二人のレディが泣いてしまったじゃないか。どうしてくれるんだね?」

 

いや俺のせいじゃねーし。お前が好感度稼いどかなかったのが悪いんだろ?

 

そう言いたかったが相手はあくまで貴族。そんな事を言えば下手したら俺が被害を被るし、ルイズさんにも責任問題が発生するかもしれない。

 

ここは謝っておこう。そう思い、俺は頭を下げた。

 

「申し訳ありません。私の責任です」

 

「ダメだな。レディを二人も泣かせておいてその程度しか頭を下げないのかね?」

 

しょうがないか。俺は日本の伝統DO☆GE☆ZA☆をする。

 

「申し訳ありませんでした!」

 

とりあえず誠心誠意謝っている振りをする。

 

「……君はずいぶん簡単に頭を下げるな……プライドって物は無いのかね?」

 

プライド? そんな物、修行中に無くしました。

 

そう、俺が謝りギーシュが許す。それでこの話は終わるはずだった。本来なら。

 

「そう言えば君は武術家だったね。そんな簡単に頭を下げるなんて余程弱い武術

 

なんだろうね?」

 

あ゛?

 

「そんな君に教えた師匠も相当弱くてプライドの無い人間なのだろうね!」

 

――プチン

 

俺の中で何かが切れた。

 

「は、はははははははははははははっ!」

 

「なっ!? 急になんだね!? 気でも狂ったのか!?」

 

俺がいきなり笑い出したことでギーシュが驚いた声を上げる。

 

俺はユラリと立ち上がりながら言う。

 

「高科天地魔闘流が弱い? 師匠が弱くてプライドの無い人間?」

 

ああ、そうだとも。高科天地魔闘流は魔力の無い人間が使ってもただの演舞で終わる。師匠も生き残ることにはプライドは無いさ。生き残るためならどんな事だってする。

 

でもな! 師匠は俺に色々な事を教えてくれた。戦う術に生き残るための技術、勉強や絶対にしちゃいけない事。俺がもし悪いことをしたらきちんと叱ってくれた。俺が良い成績や賞を取った時に自分のことの様に喜んでくれた。

 

あの人は……俺の3人目の親みたいな人だ。それをバカにすることは許さねえ!

 

「いいぜ三下ァ! ぶっ殺してやるよ!」

 

「な!?」

 

ギーシュが驚く。

 

「どうした? 何ビビッてんだよ!? 師匠を馬鹿にしやがって……決闘だ!」

 

「……良いだろう。僕も平民から決闘を受けて拒否したなんて事は末代までの恥だからね」

 

そこまで言うとギーシュは背を向ける。

 

「ヴェストリアの広場で待っている。ケーキを配り終えたら来たまえ」

 

そう言ってギーシュは食堂から去って行った。

 

ギーシュが去って行ったらシエスタが俺のほうに走ってきた。

 

「サ、サイトさん!」

 

「どうした? シエスタ?」

 

「さっき貴族の方と決闘って……本当ですか?」

 

「そうだけど?」

 

「今すぐに謝りに行って下さい! 今ならまだ間に合います!」

 

シエスタは何やら慌てている。

 

「何で?」

 

「何でって……解らないんですか!? 貴族の方には平民は絶対に勝てないんです!」

 

平民が貴族に勝てない理由……魔力の有無か。

 

「だから?」

 

「だからって……あなたじゃ勝てないんですよ!? 死んじゃったら何にも出来ないんです!」

 

「まあ、そうだろうね」

 

「そうなんですよ。だから今から貴族様に謝りに……」

 

シエスタはホッとしたような顔で言うが……

 

「だが断る」

 

「そんな!?」

 

シエスタが軽く絶望したような表情をする。

 

「高科天地魔闘流にこんな言葉がある。強い敵とは戦うな、すぐに逃げ隠れ謝れって……」

 

「だったら……」

 

「だが同時にこんな言葉もある。守りたい物、譲れない事があるなら命を懸けて戦えっていうのがさ」

 

ギーシュは俺の師匠を馬鹿にした。俺の努力を笑った。俺の譲れない事はそれだ。最高の師匠について最高の努力をしたって言うのが俺の誰にも笑わせたくない物。

 

「だから俺は行くよ」

 

そう言うと俺はギーシュの後を追って食堂を出ようとする。

 

「あんた何してんのよ! 見てたわよ!」

 

「おお、ルイズさん」

 

「おお、じゃないわよ! 何やってんのよ!」

 

「決闘?」

 

俺は首を傾げながら言った。

 

「疑問系にするな! 今からギーシュに謝ってきなさい!」

 

「やだ。あいつは俺の流派を馬鹿にした。それだけならまだしも師匠まで馬鹿にした。絶対に許せない」

 

「いいから。謝ってきなさい。平民は貴族に勝てないのよ」

 

ルイズさんは子供に言い聞かせるように話しかけてくる。

 

「じゃあ、俺がその第一号だな!」

 

「絶対に勝てないの!」

 

「絶対?」

 

「絶対!」

 

「じゃあ、急いでいって罠でも仕掛けてくるか。即死系の」

 

俺がそう言うとルイズさんは頭を掻き毟る。

 

「だから絶対に勝てないって言ってんでしょ!」

 

「はあ、しょうがないな」

 

「謝る気になった?」

 

「ルイズさん」

 

俺は真剣な表情で彼女に話しかける。

 

「な、なによ」

 

「賭けをしないか?」

 

俺がそう言うとルイズさんは戸惑った顔をする。

 

「か、賭け?」

 

「そう、今回の決闘で俺が勝つかギーシュが勝つか。ちなみに俺は俺が勝つほうにかけるぜ?」

 

そこまで言うとルイズさんは烈火のごとく怒った。

 

「だから! 平民は貴族には勝てないって言ってんでしょ!?」

 

「つまり、ギーシュが勝つほうにかけると」

 

「ぐぬぬ……もう良いわ! 勝手に死んじゃいなさい!」

 

そう言うとルイズさんは怒ってどこかに言ってしまった。

 

「あ! ちなみに俺が勝った場合は名前を呼び捨てにさせてもらうから!」

 

俺が叫ぶとルイズさんは一瞬止まってまた歩き出した。

 

「さて、じゃあギーシュが待ってるところに連れて行ってください」

 

俺はギーシュと一緒にいた男子生徒に言う。

 

「良いだろう。着いて来い」

 

そう言うと男子生徒は歩き出した。俺はそいつについて行く。

 

 

 

所変わってここはヴェストリアの広場。なかなか広い場所だ。

 

「諸君! 決闘だ!」

 

ギーシュが観客を見てそう宣言する。

 

「逃げずに来たのは褒めてやろう」

 

「何で三下相手に逃げなきゃいけないんだ?」

 

俺がそう言うと周りから野次が飛ぶ。

 

「ふふっ。貴族相手にいい度胸だ」

 

「お前こそ、相手の力量が解らないくせにいい度胸だ」

 

俺がそう言うとギーシュは顔を歪める。

 

「くっ。いつまでその減らず口が叩けるかな!?」

 

「さあな? で? ルールはあるのか?」

 

「ルールは……相手が参ったといわせるか、相手が死ぬかどちらかだ」

 

「なるほど。シンプルでいいルールだ」

 

「後悔するなよ?」

 

「そっちこそな」

 

さて、決闘を始めてしまったけどギーシュの系統もランクも解らないんじゃ迂闊には飛び込めないよな。とりあえず相手を良く見て……

 

「それでは決闘を始めよう!」

 

そう言ってギーシュが持っていたバラを振るう。

バラから一枚の花びらが落ちていく。

地面に落ちたと同時に地面が輝き、そこから鎧が生えてきた!?

 

「僕の名前は青銅のギーシュ。したがって青銅のゴーレムワルキューレがお相手する」

 

ワルキューレ、戦乙女か。地面から生えてきたゴーレムはその名の通り女性体で青銅で作られている。

 

青銅のギーシュ。ゼロのルイズみたいなものか。青銅ってことは土系統か? 錬金で俺の体を錬金されたら困るからギーシュの動きに注意しておこう。

 

「俺の名前は平賀才人。高科天地魔闘流の免許皆伝。」

 

そう言って俺は構えを取る。

 

「では行くぞ!」

 

ギーシュがそう言うとワルキューレが俺に向かって駆け出してくる。……速い!?

 

「うごっ!」

 

ワルキューレの拳が俺の頬に当たり、俺は吹き飛んだ。

 

俺は吹き飛ばされた勢いのまま二転三転する。

 

「勝負あったな!」

 

ギーシュがそう言うと周りから歓声が上がる。

 

「いいぞ! ギーシュ!」

 

「良くやった!」

 

「ふふん。そうだろう」

 

ギーシュも得意げだ。

 

「いよっ! ギーシュ! ちょっとビックリしたぜ!」

 

と俺が拍手しながら言う。

 

「そうだろうそうだ……なっ!?」

 

ギーシュは驚くなぜなら……

 

「いやービックリした。予想より速いんだもん」

 

俺が何事も無かったかのように起き上がってきたからだ。

 

「バカな!」

 

「ちょっと痛かったぜ? お前のワルキューレのレベルは少し喧嘩が強いさまようよろいって所か。もうちょっとレベル上げようぜ?」

 

いやーこの世界の魔法は驚かされることばかりだね。まさか青銅のよろい如きが結構なスピードを出してくるなんてな。

 

「そんじゃま、こっちから行くぜ!」

 

「くっ! ワルキューレ!」

 

俺がギーシュに向かって走り出すとワルキューレが道を塞ぐ。

 

「はっ! おもしれえ! 人形如きが俺と殴り合おうってか!」

 

「平民如きが……なめるな!」

 

ワルキューレが俺に向かって拳を振るう。

 

俺はそれを回し受けで流す。

 

「お返しだ! チャイキーック!」

 

俺は蹴りをワルキューレに放つ。

ワルキューレ粉々に破壊され、宙に吹き飛んだ。

 

「…………は?」

 

観客が目を丸くする。

そりゃそうだ。この技最初に師匠に見せられたときは俺も驚いた。あ、そうだ。これを使ったときに言えって師匠に言われた言葉があった。

 

「物理的に地獄へ落ちるよおおおお!」

 

「ひぃ!? ワルキューレェエエエエ!」

 

ギーシュがもう一度バラを振るうと今度はワルキューレが6体出て、俺に向かって突進してくる。

 

「無駄だあああ! 手刀! 足刀!」

 

迫りくるワルキューレを手と足の一撃を加え一瞬で2体を戦闘不能にする。

 

「破鎧脚! 崩拳!」

 

一体を蹴りで真っ二つにし、振り上げた足を思い切り地面に叩きつけその勢いで拳を叩きつけさらに一体を破壊する。

 

「責人自重山!」

 

2体のワルキューレの関節を利用して関節を決め動けなくする。

俺はそのままギーシュに向かっていき拳を振るう。

 

「しっ!」

 

「ひぃ!?」

 

俺はギーシュの顔面すれすれで拳を止める。

 

「どうする?」

 

言外にまだやるか? と聞いてみる。

 

「ま、参った」

 

ギーシュがそう言うと俺が最初に倒れたときより大きな歓声が上がった。

 

「貴族が……平民に負けるなんて……」

 

ギーシュはショックを受けたような顔をしている。

 

「まあ、そういう人間もいるってこった。あ、そうだお前」

 

危うく忘れるところだったぜ。

 

「ひっ!? な、何かね?」

 

「何かね?じゃねーよ。俺が勝ったんだから俺の流派が弱いってのと、師匠が弱いって言うのは撤回してもらおうか?」

 

「う、わ、解った。君の武術は強い。それに君がそれだけ強いのなら師匠も強いんだろうな……」

 

「そうだろそうだろ! じゃあ、俺はもう行くな!」

 

俺はそう言ってルイズさんの部屋に帰ろうとするが……

 

「あ、そうだ。おい、あんた」

 

俺はギーシュに呼びかける。

 

「なんだね?」

 

「いや、余計なお世話かも知れないけど、女の子二人には謝っておけよ?」

 

「あ、ああ解った」

 

ん?嫌に素直だな?

 

「そんじゃあな!」

 

 

 

「お、あれは!」

 

少し先に見えるのは間違いない。ルイズさんじゃないか!

 

「お~い! ルイズ~!」

 

俺の言葉にルイズが振り向く。俺は走って近づき話しかける。

 

「どうよ? この俺の実力は? 見直してくれちゃったって良いんだぜ?」

 

俺がそう言うとルイズは少し拗ねたように言う。

 

「ふ、ふん! ギーシュに勝ったくらいじゃ全然意味無いわ! あいつはメイジの

 

中でも一番下のドットなんだから!」

 

「え? 何そのあいつは四天王の中でも一番弱い。みたいな言い方」

 

「なによそれ」

 

ルイズが眉をひそめて聞いてくる。

 

「いや、なんでもない。まあ、これでルイズも俺はドットランクのメイジより強いって事が解ってくれたな?」

 

「ま、まあそうね。認めてあげるわ。っていうか何であんたはあたしの事呼び捨てにしてんのよ?」

 

「だって俺ギーシュに勝ったじゃん。俺の勝ちに賭けた俺はルイズの名前を呼び捨てにする権利を得た」

 

俺が賭けの事を持ち出すとルイズは悔しそうな顔をする。

 

「あ、あんなのは無効よ! 私の事を呼び捨てにしたいんだったら、せめてスクエ

 

アのメイジを倒すことね!」

 

「何だそれ! 賭けるのが嫌だったら賭けはしないって言えば良かったじゃねーか!」

 

「何言ってんの! あたしが賭けるって言ってないんだから向こうに決まってるでしょ!」

 

「あ~そういう事言います? は~ん、貴族って約束の一つも守れないんですね?」

 

俺がそう言うとルイズは顔を怒りで真っ赤にする。

 

「な!? あ、あんた貴族をバカにする気!?」

 

「い~え。俺は事実を言ってるだけですよ~貴族は約束を踏み倒す人っていう事ですよね?」

 

「ぐぐぐっ!」

 

ルイズは悔しそうに顔を歪める。

 

「どうします? 俺に呼び捨てにされるか、約束を守らない人って思われるかどっちにします?」

 

「っ~~~~! 分かったわよ! 良いわ! 私を呼び捨てにすることを許してあげる!」

 

「そうかい。それじゃあ、俺が自分の世界に帰るまでよろしくな? ルイズ」

 

「ふん! 仕方ないから精々こき使ってあげるわ! 覚悟しなさいよ!?」

 

「おう!」

 

 

あとがき

 

ようやく終わったぜ。長い一日だった。

 

一日で2本書くのは中々重労働。

 

さて今回はギーシュとの決闘まで書き終えました。

 

新設定で才人は師匠大好きっこ。という事にしておきました。これのほうがギーシュの決闘のときにおかしくないかなーって思いまして。

 

あ、そういえば2話で書き忘れていましたが才人君の今の容姿ですが原作とは違います。

師匠の真似をして髪を伸ばしています。イメージとしてはディスガイア4の主人公の過去の姿です。

 

簡単に言えば原作の才人より目が少し鋭くて、髪が長くてそれを首の辺りで縛ってるって言うのを思い浮かべてくれればいいです。

 

さて、今日はもう眠いので寝ます。

 

明日起きたら雪人になるために交差点でトラックを待ってるぜ!

 

それじゃあおやすみなさい! ノシ


 
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