No.207465

真・恋姫†無双 ~とある風力使いの物語~第2話

シロクマさん

ようやく異世界移動です。
でもまだヒロインの誰とも会っていないという…。

なぜだ、話が進まない。

2011-03-21 20:10:23 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1945   閲覧ユーザー数:1821

 

 

 

 

――なんて不親切な野郎だ。

 

 

 

 

 

 

 

「…わぉ」

 

 

想像できるだろうか。

 

あまりのまばゆさに目を瞬かせた瞬間、景色どころか地上からもかけ離れた場所に転移される人間というものを。

 

 

要するに落下しているのだ。大陸の形の一部を地図のように認識できる高さから。

 

耳元で轟々と鳴る風の音が何より状況を物語っていた。

 

 

 

「スカイダイビングなんて初体験だっつーのに…パラシュートもなしかよ」

 

 

 

一般人ならば、命綱もなく超高速スピードで落下、最後は地面に叩きつけられるという一連の想像で真っ青になる所だ。

 

当の修司は不満を呟きながらも思考は冷静に今の状況への順応を果たしていた。

 

 

この高さから落ちれば普通は助からない。

 

でも、俺は普通じゃない。

 

仮にもレベル4の風力使いを名乗る身である。例え空から落下しようが、風は修司の最も身近な存在。

 

自身に纏わせ操れないようでは、それこそ【大気制圧】だなんて自称する事も一生できやしない。

 

 

(落下による相対風、空気抵抗を加えて、と…まぁ演算もこんくらいならまだ楽だな)

 

 

既に空気抵抗と重力の大きさは等しくなり、これ以上落下速度は増加しない。加速度はゼロになり、修司の体は一定の落下速度を保っている。

 

陥った状況のわりには単純な演算に、ようやく現在の状況を省みる余裕が生まれてきた。

 

 

 

 

 

「…つーか、まだ目ぇチカチカするんですけど…」

 

 

右肩にかけて強く握っていたカバンを背負い直し、両目を擦る。

 

「これで視力下がったらどうしてくれんだよ、ったく」

 

 

あの閃光弾紛いの光はある意味で怪我より質が悪いと思った。

 

 

 

 

(にしても本当にテレポーターか、あいつ。俺に触れても無いのに能力使用できるとか…さすが第六位って感じ?)

 

 

学園の頂点に君臨する7人のレベル5の6番目。

 

 

 

今まで謎に包まれていたその正体がテレポーターだというのには驚きだが、まぁ移動手段としてすべて能力を用いていただとか、暗部に属するがゆえに個人情報が一般より隔絶されているだとか。

 

 

 

目撃情報が他のレベル5より圧倒的に少ないのはそんな理由なのだろう。

 

 

ようやくまともに視力を取り戻した修司の目の前に一面の大地が広がった。

 

地上まで残り数十メートルというところまで差し掛かっていく。

 

 

 

 

瞬間、修司の体を包むように風力が働いた。

 

どこまでも自身を守ってくれような安心感に思わず笑みがこぼれる。

 

 

人には見えないこの風はふわふわと修司を下へ運び、ゆっくりと地面に接近させる。

 

 

 

 

着地に音すら立てない事からも、その能力の精密さが伺えるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ…最悪」

 

 

田舎とかそういうレベルじゃない。

 

おい、どこだここ。

 

 

目の前に広がるこの見渡すかぎりの荒野に思わず途方にくれた。

 

 

 

何しろ一瞬のまばゆい光に目をくらませ、気がついたら空の上だったのだ。

 

第六位への恨み言を述べるよりも正直、戸惑いの気持ちの方が大きい。

 

 

学園都市23区の中でこんな広大な土地を無駄にはびこらせた場所は存在しない。

 

あったらすぐにでも誰かが土地を買い取り開発してしまうはずだ。

 

 

だとするとここは…外部。

 

 

(――おいおいおい。無断で学園都市の外に出るとか、反省文何十枚書かされると思ってんだあの野郎!)

 

いや、それだけで済むならまだマシだ。

 

 

正規のルートで外出するにもうんざりするほどの面倒な手続きを経なければ外出許可は下りないというのに。

 

 

 

それだけ内部の機密情報の漏洩を恐れる学園都市である。

 

体そのものが機密情報の塊ともいえる学生、それも高位の能力者が無断外出ともなれば…。

 

 

例え第六位が原因で自分になんら落ち度が無かったとしても、少なくとも強制的な長期の尋問と監視は免れないだろう。

 

 

 

 

(…いや、面倒以前の問題だ)

 

現在、修司は相当危険な立場に置かれている。

 

 

 

まずは自分が暗部にまで目を付けられているという事態を何とかしなければならない。

 

 

あの日、7月19日以降、様々な騒動に巻き込まれている自覚はあるものの、修司自身がそれの引き金になった覚えはない。

 

というよりほとんどが友人である不幸な少年に付き合う形となって巻き込まれているようなものだ。

 

 

 

そんな俺の何が邪魔だという?

 

 

 

 

そもそもプランとやらの概要すら知らないのに、どうしたら邪魔にならないか、なんて分かるはずも無いのに、思考は考える事を止めない。

 

 

 

 

 

 

 

(…当麻は大丈夫なのか?インデックスも巻き込まれてなきゃ良いんだけど)

 

上条当麻に付き合っただけの修司でさえこんな目にあっているのだ。であれば当麻本人はそれ以上の状況に追い込まれているのではないか。

 

いや、そうに決まっている。

 

 

もしも、そんな学園都市の牙が白い修道服を着たあの純粋な少女にまで飛び火して襲い掛かるようであれば…もう目も当てられない。

 

赤髪の不良神父は炎を撒き散らし、世界に20人ほどしかいないという聖人の一人はそれこそ文字通り猛威を振るうだろう。

 

 

 

それだけで済めば良いのだが、比較的良心的ともいえる彼らだけで話が終わらないかもしれないの

が困ったところだ。

 

 

 

最悪、科学者と魔術師との間で戦争でも起こってしまいかねない。

 

 

それが分からない学園都市でも無いだろうから、そこまでの心配はしなくても良いのかもしれないが。

 

 

それより今は自分の立場を考えるべきだ。

 

かぶりを振って無理やり思考を切り替えた。

 

 

 

 

俺という存在が、プランの妨げとなる。それを統括理事長、アレイスター・クロウリーは望まない。

 

 

邪魔だというなら殺せばそれで済む話だ。

 

一介の高校生を殺せない程、学園都市は寛大でも優しくもない。

 

 

 

明るい道を一歩でも踏み外せば、そこには慈悲のかけらも無い暴力がそこら中に潜んでいる。

 

あそこはそういう場所だ。

 

 

なのに第六位を用いて、こんな辺境の地に俺を追いやる必要性がどこにある。

 

殺さないのは俺に利用価値があるからか。

 

たかがレベル4に一介の国家が求める価値とは何だ。

 

 

 

「…無理。わっかんねぇ」

 

ずいぶんと暗い闇に囚われてしまったみたいだ。

 

 

 

嫌な予感がする。自分が今こうしている間にも何か大きなことが向こうで起こるかのような。

 

 

数十人の人間に襲われようが、訳も分からぬまま空中へ転移されようが、事態をどこか軽々しく受け止めていた修司の表情がとたんにキッと引き締まる。

 

 

 

 

第六位の思惑なんて知るか。

 

学園都市が俺に何を求めているのかもさっぱり分からない。

 

こんな場所に連れて来させて何をしろという。

 

 

 

 

どんな深い闇があろうと、理不尽な暴力に覆われた場所であろうと。

 

 

 

 

俺には、学園都市(あそこ)しかないのに。

 

 

 

 

 

(帰らないと)

 

 

「――よお兄ちゃん。随分変わった格好してんじゃねぇか」

 

 

よほど焦っていたのだろう。

 

 

「こりゃあついてるぜ!竜巻が発生したかと思いきや、一人で貴族の坊ちゃんがうろついてるなんてな」

 

「坊主、身包み一式置いてきな」

 

「ヒャハハ、ついでに金目のモンもなぁ」

 

 

 

近づいてくる足音にも気付かず、不意に掛けられた言葉にようやく自分以外の存在がいる事に気がついた。

 

 

 

 


 
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