No.207361

真説・恋姫演技 ~北朝伝~ 第五章・序幕

狭乃 狼さん

北朝伝の五章、その序幕です。

・・・・・・やっと書き直せました。

内容的には、一刀たちが河北で戦っていた間の、

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2011-03-21 11:22:32 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:20910   閲覧ユーザー数:15694

 一刀達が、河北にて奮闘していた丁度その頃。

 

 

 大陸各地においても、各諸侯がそれぞれに、独自の動きを見せ始めていた。

 

 

 初めに動いたのは、江東の虎こと、孫文台だった。

 

 周家や陸家を初めとする、揚州の各有力豪族との誼を深め、その戦力を増強した彼女は、あくまでも自身に従うのを良しとしない者たちを、武を持ってその軍門に下した。そうして瞬く間に江東の地を制した彼女は、地盤固めもそこそこに、その矛先を、今度は荊州へと向けた。

 

 自ら先頭に立ち、江夏の地へと攻め入った孫堅だったが、やはり、どこかに慢心があったのだろう。江夏の守将である、黄祖が仕掛けた罠に気づいたときには、もうすべてが遅かった。

 

 頭上から落ちてくる、大量の大岩や大木。そして、折からの大雨で緩んでいた地盤もあいまって、彼女は、大勢の部下とともに長江へとその姿を消した。

 

 後続の部隊を率いていた孫堅の長女孫策は、何とか追撃の手を逃れて、本拠地である柴桑へと戻ったものの、その彼女に追い討ちをかける事態が、江東の地にて起こっていた。

 

 孫堅によって、力づくで従わせられていた一部の豪族達が、孫家に反旗を翻したのである。

 

 その後、孫策は義姉妹である周家の長、周瑜や、陸家の陸遜、魯家の魯粛ら、孫家側についたもの達の助力を得て、再び江東の地を制圧することに成功する。そして、今度こそ、火事場泥棒的な反乱が起きない様、しっかりと、そして、じっくりと腰を据えての地盤固めに取り組んだ。

 

 ……行方不明の母、孫文台の消息は掴めないままなものの、死体が発見されていない以上は、必ずどこかで生きていると。孫策はそう信じていた。

 

 「……あの母様が、ただで死ぬような玉じゃないのは、娘の私が一番良くわかってるわ。なんといっても、江東の虎といわれた母様だもの」

 

 「……それは、いつもの”勘”か?」

 

 「……ま、ね」

 

 江東の小覇王、孫伯符は、断金の誓いを交わした生涯の友、周公瑾にそう笑って見せたのだった。

 

 

 

 一方で、その孫堅を撃退した荊州では、二つの勢力が現在にらみ合いを続けていた。

 

 片方は、荊州北部にて、州の牧を務める劉景昇。そしてもう一方は、南の四郡をまとめる袁公路。

 

 とはいえ、主に戦をふっかけているのは劉表側のほうで、袁術側は防戦一方という状況である。そしてさらに、その劉表軍に関しては、その実権を握っているのは当主の劉表ではかった。

 

  現状、実際の権限を握っているのは、劉表の後妻の兄である、蔡瑁という男。少し前に行われていた、劉表軍による益州侵攻も、この男の指示によるものだった。そして劉表本人はというと、すでにその全身を病に侵されており、もはや明日をも知れぬ容態となっていた。

 

 長女の劉琦は、蔡瑁の独断を何とか止めようとしているのだが、腹違いの妹である琮の身を案じ、思い切った行動に出れていないのが現状。それでも、現在の小競り合い程度で、どうにかこうにか歯止めを利かせていられるのは、苑に駐屯している荊州刺史、丁原の協力によるものが大きかった。

 

 呂布という、天下無双の将が、敵対している劉琦側につき、北でにらみを利かせている。そのことが、蔡瑁に思い切った行動を取らせるのを、ためらわせていたのである。

 

 

 一方で袁術側はというと、袁術の腹心である張勲と紀霊の二人を中心にして、日々北からの進行を防いでいた。少し前にこの地に流れ着いてきた、袁術の従姉妹である袁紹と、その部下の顔良と文醜の協力もあり、何とか戦線を維持していられた。

 

 「……麗羽姉さまが来たときは驚いたものじゃが、そのお陰で、人手不足も解消できたしの」

 

 「そうですね~。”あの”!麗羽さまが、まじめに!お仕事に取り組んでいてくれますからね~。……ここに来るまでに、いったい何があったのやら」

 

 「無一文で南皮を追い出された後、相当に苦労したそうだ。しかし、多くの人々の善意に助けられて、どうにかこうにか命をつないできたらしい。……そのお陰で、民の心情というものがよくわかったと。袁紹さまは言っておられましたね」

 

 「……あの麗羽姉さまがの~」

 

 「人って、変われば変わるもんですね~」

 

 紀霊の言葉に、しみじみとうなずく袁術と張勲であった。

 

 

 

 そんな緊張状態にある荊州の西。益州へとその目を転じると、そちらはそちらで内乱が発生していた。

 

 益州の主は、劉璋という。

 

 これがまた気弱な人物で、腹心である張任以外とは、ほとんど口も利かないような少女だった。そのため、政はほかの部下たちに丸投げし、自分は張任とともに城の奥に引っ込んで、めったに出てこないという有様である。

 

 それを良いことに、彼女の部下の一部が、国を私物化して好き勝手に動かしており、民たちは塗炭の苦しみに喘いでいた。

 

 そして、巴郡を治める厳顔、黄忠、魏延の三将が、とある人物を迎えたことでついに決起した。

 

 そのとある人物とは、以前、平原の地を追われた後行方不明となっていた、劉備一行である。冀州を脱出した後、劉備たちは一時、荊州の水鏡塾にその身を寄せた。きっかけは些細なことだった。その塾に所属する二人の少女を、賊からたまたま助けたのが彼女たちだった。

 

 劉備はその水鏡塾で、水鏡先生こと、司馬徽からの教えを受けた。

 

 大徳と呼ばれ、清廉潔白を旨とするのは良い。しかし、今の乱世、力なき徳は無力。あえて力を行使し、なおかつ、その責任を背負う覚悟無き者に、理想を掲げ、それを為す事は絶対にできないと。

 

 その言葉で、劉備は己が甘さを痛感した。そして、泣いて司馬徽に請いた。

 

 「良き知者を、私を導いてくれる、私の間違いを正してくれる、そして、民を笑顔にする策を持つ者を、ご紹介いただけませんでしょうか」

 

 と。司馬徽のそれに対する答えは。

 

 「伏龍・鳳雛。そのどちらかならば、お答えできるかもしれませんね」

 

 その日から、彼女の日参が始まった。

 

 伏龍・鳳雛が滞在する庵に、それこそ足繁く通い、助力を請うた。……まあ、まさかその伏龍と鳳雛が、自分たちが助けた、あのときの少女たちだったと知ったときは、結構な衝撃を受けたが。

 

 それはともかく。彼女の熱意が通じたのか、伏龍こと諸葛孔明と、鳳雛こと龐士元の二人は、劉備の陣営に加わることを決め、その最初の献策として、益州へ入ることを彼女に勧めた。政情不安の続くかの地であれば、劉備のその徳の高さを示し易く、食い込むことも容易だろう、と。

 

 その言葉どおり、巴郡についた三千ほどの劉備一行は、その到来を知った民たちから、諸手を挙げて歓迎された。どうして彼女たちが、この益州に来ることを彼らがあらかじめ知っていたのかが、少々の謎ではあったが、それもすぐに氷解した。

 

 巴郡太守の厳顔が、彼女たちの益州入りを聞き届け、その大徳と呼ばれる人物像を、少々誇大に宣伝したのである。……クーデター、いや、益州に巣食う奸臣たちを取り除き、民を苦しみから救い出すために。

 

 厳顔たちは、劉備をその旗頭とすることを選んだのであった。

 

 

 

 その益州から北で、事件は突然に起こった。

 

 涼州連合を率いる馬騰が、ある日突然、漢の都である長安を急襲したのである。王允らによって、傀儡とされている皇帝・劉協を救い出し、漢に昔日の栄光を取り戻す。それを大儀に掲げて。だが、彼女の思惑は成し遂げられなった。

 

 劉協は、馬騰らが都に到達する前に、禁軍将軍の張遼と董承の手引きにより、都からひそかに脱出し、洛陽の復興作業を行っていた曹操の下に保護されていたのである。

 

 尚、王允であるが。彼は、馬騰たち涼州連合軍が都に辿り着いた時には、王宮の奥、玉座の間にて、すでに物言わぬ姿になっていた。

 

 そして、馬騰は長安の東にある函谷関を抑え、対曹操への防備を準備した。皇帝奉戴に失敗した以上、二人目の逆賊にされることは、火を見るよりも明らかだった。

 

 しかし、曹操に保護された劉協からは、そのような勅が発せられることはなかった。

 

 それをいぶかしみつつも、馬騰は周辺への警戒をさらに強化し、その戦力を増強させていく。思惑が外れたことによる、部下たちの不協和音を感じながら。

 

 

 そして、思わぬ形で皇帝を奉戴することとなった曹操は、早速その皇帝からの勅を受け、”徐州”をその掌中に納めた。

 

 形式上は、賊の対応に四苦八苦している徐州を援助するという、そんな名目の下に。

 

 

 

 これにより、大陸は大きく、七つの勢力に分かれることになった。

 

 河北を有し、異民族とも手を組んだ一刀たち北郷軍。

 

 中原を領し、皇帝を戴く曹操軍。

 

 揚州全土を掌握した、孫策軍。

 

 荊州の劉、袁の両軍。

 

 益州では、すでに劉備が成都を落とし、劉璋から国を譲り受けており。

 

 そして涼州には、馬騰ら涼州連合が、その勢力を保持。

 

 

 妙な均衡状態。

 

 

 どこも大きく動くには、もう一つ決め手に欠ける状況となり、皮肉にもそれが、大陸にわずかな平穏の時をもたらした。

 

 

 初めに動くのはどこか。そして、滅びの憂き目に会うのは……?

 

 

 第二の春秋戦国時代。

 

 

 史書にはこの時の状態が、そう記されている。

 

 

 新たな日輪は、いったいどこに輝くのか。

 

 その結果が出るのは、そう遠くないことかもしれない。

 

 時は移ろい行く。

 

 ただ静かに。

 

 そして、無常に。

 

 

 二人の少女とともに、一刀はただ黙して天を見つめる。

 

 鄴の城の欄干に立つ三人を、月と星は静かに照らすのだった……。

 

 

                                     ~続く~


 
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