No.206806

虚々・恋姫無双 虚拾九~華琳SIDE~

TAPEtさん

いい感情は直ぐに消える。
悪い感情は長々と跡が残る。
そして、跡は薄らなものから確かな形を得る。

結局、絶望しか残らない

2011-03-18 00:40:54 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2436   閲覧ユーザー数:2040

「……っ…」

 

熱くて起きた。

 

「……」【重い…】

 

何か重いものが胸の上に置かれているような気分を感じた。

 

「……」

 

これって……え?宝譿?

横を見てみる。

風お姉ちゃんがすーすーと寝息を立てながら寝ていた。

この人形、風お姉ちゃんっていつも頭の上に載せてるんだけど…これ割と重い。こんなの乗せておいて首とか肩とか凝りないのかな……

 

そう、それよりどうして風お姉ちゃんがボクと一緒にねて……

 

「ぁ」

 

思い出した。

ボク、墓参りの時に突然痛みがいつもよりも増して、我慢出来なくて、……それで……

 

バレてしまった。

隠していたのに。

 

良くみたら、風お姉ちゃん以外にも沙和お姉ちゃんが布団の端で頭だけのっかけて床に座ったまま寝ていて、その横に真桜お姉ちゃんも椅子に座ったまま寝ていた。

…ボク、華琳お姉ちゃんだけじゃなくてお姉ちゃんたち皆に迷惑かけちゃった…。

 

「……ぅっ」

 

身体は…前よりは軽い。

そんなに痛くもない。

完全に痛みが消えたわけじゃないけど、前よりは弱っていた。

 

痛みで気を失う前に誰かがボクの頭を触っていた。

その瞬間、一気に身体が涼しくなりながら、痛みも苦しみも全部持って行かれるような気分だった。

あれは……

 

 

 

 

「……んう…?」

「!」

 

側で寝ていた風お姉ちゃんが起きた。

 

「一刀君……よいっしょ」

「!」

 

風お姉ちゃんが上半身だけ起こしていたボクの首に腕を絡んでベッドに戻した。

 

「大人しく寝ていてください」

「………」

「一刀君が倒れて、風も皆さんも心配したんですよ」

「……<<しゅん>>」

 

ボクが申し訳なくて顔を俯くと、風お姉ちゃんはそのボクの頭の上を掌撫でた。

 

「一刀君の気持ちは分かりますよ。偉いですね……でも、誰も一刀君にそこまでして欲しくないのですよ」

「……」

「一刀君は皆に甘えるのが役目なのです。子供が自分が辛いことを我慢していると、周りに居る大人たちは馬鹿になりますから……もう隠さないでください。いいですか?」

「………<<コクッ>>」

「…良い子ですね。朝起きたら飴をあげましょう<<ナデナデ>>」

 

風お姉ちゃんはそうやってボクの頭を撫で続けた。

何か、ずっとなでられるとまた睡魔が走る。

 

「………<<むにゃ>>」

「おや、また寝たいですか?いいですよ。風の寝心地の良い胸に抱かれて寝るといいのです」

 

……

 

「むっ、来ないのですかー」

 

……いや、だって

 

「むむっ……これは女として大きく傷ついたのです」

 

………

 

「………<<ぎゅー>>」

「うん……あまり強く抱きしめられると苦しいのですよ…」

「……すー…」

 

こうしていると、自然に聞こえてくる音がある。

胸の中、風お姉ちゃんの心臓が脈打つ音。

ドクン……ドクン…ドクン……って

 

それを聞いていると、とても安心できて…

その音を聞きながら眠ると…すごくぐっすり眠れる。

 

………

 

……

 

 

 

が~ら~っ

 

「……」

 

夜中、静かに一刀の部屋の扉を開けると、沙和と真桜が一刀の看護してるまま眠っていた。

そして何故か、風が一刀と一緒に布団に入って、眠っている一刀に抱かれている。

 

「おや、華琳さま、夜這いですか?」

 

起きていた風が私を見て言った。

 

「先客が居るようだから今日はお預けかしら」

「代わってあげたい気持ちは山々ですけど、両手で抱きしめられて動けないんですよ」

 

何か言ってるのが自慢げでムッとくる

 

「結構よ。私と寝る時はもっと凄いことしてるから」

「おや、おや……本当に魏の皆さんは一刀君にメロメロなのです」

「そういうあなたはどうなのよ」

「風も一刀君は大好きですけど………国事を子供一人のために変える華琳さまほどではありませんね」

 

またその話…?

 

「悪いけど、私が覇道を捨てたのは一刀のせいじゃないわ。単に……」

 

単に、なんだろう……私は何のために覇道を捨てたのだろう。

あの子が居なくなるというのに、私は何のために……

 

「風は、別にそれでも良いと思うのですよ」

「へ?」

「風が見ていた華琳さまは、こう言うと失礼ですけど、覇王になれる方ではなかったのですから」

「なんですって」

 

その話はちょっと聞き捨てられなかった。

例え一刀のためだとしても、私は覇道を歩んでいた。その道に邪魔になるものなんて……あまりなかった。

 

「そうですね。華琳さまは覇王と化するに一番邪魔になるものを自分の側に置いたではありませんか」

「……そうね。あなたの言う通りかも知れないわ」

 

そう、矛盾だった。

一刀を連れて行くこと。覇道を歩むこと。

覇道を歩むその道程に、一刀を幸せに出来る要素なんて、どこにもなかった。

あるのはただ謀略と、屍の山だけ。

いくら綺麗事を言っても、覇道は修羅の道だった。

私はそんな道を、子供と一緒に歩こうとした。

 

最初から無理な話だった。

一刀と幸せ、覇道、二つは共存できるものではなかった。

実際、私は覇道を歩む度に、一刀は心に傷ついて、人のために自分の身を穢した。

私は覇王と名乗りながら、実は一刀にばかり犠牲させようとしていた。

そして、その結果がこれなのかも知れない。

 

「風」

「一刀ちゃん、起こしましょうか」

「いいえ、その必要はないわ。それより、明日朝早く、私は蜀に向かうわ。一刀が起きたら、そう伝えといて」

「……何故ですか?」

「あの子のためよ。私に出来ることは、それぐらいしかないわ」

 

やっと決めた道だった。

あの子と一緒に行きたかった。

ここまで来て、あの子を失うわけにはいかない。

何でもして見せる。

一時は覇王、でも今は違う。

誇りも、名も何もかも捨ててやる。あの子のためなら、

私のため、私たちのために命まで犠牲にしたあの子のためなら……

 

 

 

翌朝、華琳は護衛に霞を連れ蜀へ向かった。

 

そして出発して二日後、秋蘭たちに追いつく。

秋蘭と流琉は華琳さま自ら参られたことの驚くが、一刀が病床にあるという話を聞いて、蜀の地に居るはずの孟節の力を貸してもらうためにも、成都への道を急ぐのであった

 

華琳さまを先頭にした魏の使者団は、足を急いで予定の3分の2ぐらいで成都に着く。

 

 

 

「そ、曹操さん、どうしてここに…」

 

私を迎える劉備は凄く驚いた顔だった。

使者に行くのは秋蘭と伝えていたから当然でしょう。

 

そして、もう二人、私のことを睨みつけている者が居た。

 

「……」

「……」

 

馬超と馬岱。

その瞳から、仲間を失った恨みが見えた。

使者の立場だというのに、殺気を隠せずぶつけてくる。

ここに春蘭がいたら咄嗟に馬超に仕掛けていたわね。私が止める間もなく。

 

だけど残念ながら馬超、あなたを相手をしている暇はないわ。

あなたの相手は他の人にしてもらうつもりよ。

 

「と、取り敢えず、蜀にようこそ来てくださいました」

「久しぶりよ、劉備。……袁家連合の時に会った以来ね」

「は、はい……あの、話では、夏侯淵さんが来ると聞いていたのですけど…」

「ええ、使者の先頭として来たのは秋蘭よ。私がここに来たのは、使者のことは別に、あなたに頼み事があるからよ」

「頼み事、ですか?」

「甚だしいのも程々にしろ、曹操!」

 

馬超がそう叫んだ。

あなたが入ってくる場面ではないのよ。

 

「貴様が西涼でやったことを考えれば、今この場で貴様の頸を取りたいぐらいだ。なのに厚かましくも私用でここに来ただと!」

「翠ちゃん」

「翠、落ち着け。気持ちは分かるが、相手は使者の資格でここに来ている。今は抑えておけ」

 

今でも暴れだしそうな馬超を、趙雲が止める。

 

「そうね。…馬超、あなたが言いたいことは分かるわ。戦にとって最小限の礼儀というものがある。それを破いたのはこっちよ。謝るわ。けれど、結果は結果よ。あなたたち

 

は私たちに攻めてきて、そして負けた。その結果として西涼を失った。それだけよ」

「それだけだと……!西涼の全軍と私の母親を森の中で焼け死なせておいてそれだけだというのか!」

 

「勝手に人を殺すでない莫迦もん!」

 

「……へ?」

「なっ!」

 

その時、そこまで秋蘭の後ろで顔を隠していた馬騰が顔を表した。

馬超を始め、殿内の皆が騒ぎ出す。

 

「母さん……」

「翠、無事で良かったの」

「どうして……生きてたの?」

「じゃから、勝手に殺すでない。ほれ、足もちゃんと居る」

 

馬騰は暢気に素足をみせながら言ったけど、それを見ている馬超の顔は凄いことになっていた。

 

「か、母さん!」

「叔母様!」

 

馬超と後ろに居た馬岱が直ぐに馬騰に駆けてきた。

二人に抱かれて後ろに倒れようとする馬騰を、後ろで流琉がギリギリで支えた。

結局、床に居座ったまま娘と姪子の頭を撫でながら慰めている始末。

まったく懲りないわね。先まではあんなに殺気を出していたというのに、今は人前というのにあんなにしちゃって……

 

「馬超、馬岱。馬騰と話しあえばわかると思うけど、私たちは西涼をあなたたちに返すことにしたわ」

「…へ?」

「復興作業はある程度進んでるけれど、こっちに対しての反感が強すぎてこのまま続くと西涼は危険なことになる。五胡との戦いも大変しね。あなたたちが帰った方が、復興

 

も早く収まるでしょう」

「……一体どういうつもりだ」

 

話は腰を折って関羽が入ってくる。

 

「西涼を奪ったかと思えば、今更返すと言ってくる。それに一体王自ら使者に来るほどの私用というものは何だ」

「一つだけ言わせてもらおう」

 

関羽を話を秋蘭が受けた。

 

「西涼の戦いの時、華琳さまと魏のほぼ全軍は孫呉との戦いに向かっていた。その戦いの隙を見て攻撃しようとしたのは西涼とお主らの方。私たちは特に西涼を取るつもりは

 

なかった。ただ、西涼の馬一族の重役たちが全て蜀に移ったことで、その場に居た、こっちの張遼が場面を見て西涼を制圧しただけだ」

「けれど、これ以上預けておくのは西涼のためにも良くないでしょう。だから、こっちから見つけた馬騰と一緒に、あなたたちには西涼に戻ってもらうわ。そして劉備」

「あ、はい」

 

西涼の話はこれで終わり。

ここからは私用…の前に。

 

「後で秋蘭に詳しい話は聞いてもらうけれど、今回こっちに来た理由は……

 

ここでこの大陸の乱世を終わらせるためよ」

 

 

「……へ?」

 

劉備は話が分からなさそうにキョトンとした。

実際誰も気付いてないみたいだけどね。

 

「もう一度言うわ。もうこの乱世を終わらせてこの大陸を平和にする。戦も争いも全てここで終わらせるのよ」

「それって……あの、でも、華琳さまは…」

「あの、それってもしかして…私たちと同盟を結ぶって…ことですか?」

 

諸葛孔明が話を持っていく。

というか、あなた居たの。

 

「同盟……ね。ちょっと違うわ。実は孫呉にも同じ用件の使者をだしてるの。そして、三国と、そして西涼の馬一族を一つの場に集めさせて、このままこの乱世を終焉を宣す

 

る、ということよ」

 

それを聞いた孔明の顔がどうも複雑だ。

当然でしょう。今頃私が何を考えているのか持っている全ての情報をかき集め考えているはず。

でも、この話にはどんな裏もない。そのまんまだった。

乱世をここで終わらせる。

さすれば、劉備が望んでいる、皆が幸せに生きる世界につくり建てる一歩となるでしょう。

 

「何故だ。何故魏からそんな話を出してくる。曹操殿は覇王ではなかったのか」

「そう、私は覇王【だったわ】だけど、もう私は覇王ではない。私は覇道を捨てたわ」

「なっ…!」

 

関羽も、その場に居る孔明、劉備、趙雲たちも驚く。

当然だった。

以前の私を知っているなら、そんな話はありえなかった。ここに居る私が偽物か、それとも何か悪い物でも食べたかに違いない。

でも、私はそのどっちでもなかった。

私は変わった。

 

劉備を真っ直ぐ見る。

私がいつも甘えん坊と思っていた君主がそこに居た。

でも、本当に甘えていたのは私の方だったのかも知れない。

現実と反する理想を持っていたのは、結局私も同じだった。

 

「劉備、あなたはどう思うかしら。こちらの提案」

「えっと……信じても、いいのですか?」

「私が今まであなたに嘘をついたことなんてあったかしら」

「いえ、それは、でも、あの………」

「それとも、完全に私たちと仲良くするつもりはないのかしら。必ずこちらを潰して平和を戻すと思っているの?」

「いいえ!そんなことは……でも、あの、ごめんなさい…」

「……」

 

流石の劉備でもそう簡単に信用出来る話ではないか。

孔明もまだ考えてるみたいだけど、答えは出ず

 

「まぁ、いいわ。一度に信じてもらえるだろうとも思ってなかったから、それはおいおい話し合うとして、私の私用の話なんだけど……蜀に頼みたいことがあるわ」

「…どんなのですか?」

「……あなたたちの領地の南側の南蛮に、孟節という者を知っているかしら」

「孟節……?うーん……姓が孟っていうことは…美似ちゃんの姉妹かな」

「しかし、美似の家族は、南蛮の権力争いの時に皆亡くなったと言ってました。残った者がいるという話も聞いたことは……」

 

劉備も関羽も、知らないようだ。

不味い。手際なものだったから蜀に来ると知っているだろうと思っていたけど、間違っていたのかしら。

だとすると、華佗を探すよりもこっちの方が難しくなるかもしれない……

 

「知らないのかしら」

「はい……南蛮の王だった孟獲ちゃんなら知ってますけど、孟節という名は初耳です」

「……そう…」

 

 

となると、後頼れるのは華佗だけ……か。

 

「あの、その孟節という人はどうして探しているのですか?」

 

 

 

 

「それがわたくしが、魏に居る天の御使いの病を治せる持っていることを期待なさっているからでしょう」

 

「「「!!!」」」

 

聞き慣れた声。

私が探していた人の声。

後ろから聞こえるその声を追って後ろを向いた時は、

 

紗江に比べても劣らない美しさ、私が今まで生きてきて初めて見る、そんな美女の姿が居た。

 

 

「桃香ー!美似が遊びにきてやったじょー!」

「きたじょー!」

「きたじょー!」

「……ねむいにゃー」

「美似ちゃん!皆!」

 

彼女の姿に目を取られていたら、後ろに居た四人が劉備のところに走って行く。

 

一人豪快な服を着ているのが、さっきいっていた孟獲でしょうね。

じゃあ、あの後ろに居る人はやはり…

 

「孟節……?」

「お久しぶりであります。孟徳さま」

 

こんな美人だったかしら。

そこに居る皆が唾を飲み込むほどの美しさ。

嫌、でもあの時会った時は確か醜女……というか、盲人だったはずなのにあの瞳。まるで火をそのまま宝石にしたような赤い赤い瞳……美しかった。それ以上言うことがなか

 

った。

昔の私だったら、場所も考えずつい欲しいと思ってしまうほど…

 

「美似ちゃん、あの人は…」

「おお、そうだったにゃ。紹介するにゃ。美似のお姉さまの結以にゃ!」

「何?でも美似の血肉は確か…」

「美似もそう思ってたけど、ちょっと前に会ったにゃ。昔から、ずっと南蛮の人も通らない深い森の中で住んでいたってにゃ」

「結以姉さま綺麗にゃ」

「胸もふかふかにゃ」

「お腹もふかふか……」

 

サシュッ

 

「むにゃー」

「にゃ?シャム、そんなところで居眠りしたら駄目だじょ」

「……ZZZ」

「もう仕方がない娘たちですね」

 

今、孟節の所から何かが飛んで行った気がするけど気のせいかしら」

 

「蜀の王よ、お初おめにかかります。わたくし、孟獲の姉上、孟節と申すものであります」

「孟節…じゃあ、曹操さんが探してる人って」

「ええ、わたくしです…この度は先に伝達もなく、こうして急に現れて申し訳なく思います」

「いいえ、いいえ、美似ちゃんたちもいつも突然来てるし」

「いきなり来てびっくりさせるにゃ」

「にゃー」

「にゃー」

「……ZZZ」

「美似、そういう時は先に行くって言って行った方が、もっと歓迎されるってものですよ」

「別に今でも歓迎されるじょ」

「そのようですね。でも、こんなに急に来ると、劉備さまたちが美似ちゃんたちにお菓子を準備できなくなるではありませんか」

「お菓子!」

「お菓子があるにゃ」

「お菓子欲しいにゃー」

「………」

 

お菓子という言葉に、眠ってしまった一名を除き、小さい娘たちが騒ぎ出す。

あれが南蛮の王ね……もう姉の方が治めた方がいいのではないかしら。

 

「というわけですので、少しこの娘たちのことをお願いできるでしょうか。関羽さん」

「い、いや、私は今ここで…」

「美似ちゃんたちから話を聞いております。蜀の方々の中で特に好きな方の一人とか…」

「<<ビクッ>>」

 

なっ!関羽の顔が緩んだ。

あんなのほほんとする関羽の顔が見れるだなんて…今日は吉日ね。

 

「それじゃあ、行くぞ、美似。外でお菓子を買ってあげよう」

「わーい」

「お菓子にゃー!」

「ほら、シャムも行くにゃ!」

「……ZZZ」

 

結局、愛紗と一緒に騒がしかった四人(結局最後の一人は眠ったまま)は外に出て行った。

 

「……劉備さま、あの娘たちのことを助けてくださって、本当にありがとうございます」

「へ?」

「南蛮の王と言えど、まだまだ子供でした。まだ知らないところ、至らないところが多いですが、南蛮にとっては欠かせない存在です。ですから、これからもどうか南蛮のこ

 

とを宜しくお願いいたします」

「あ、はい、こちらこそ宜しくお願いします」

 

劉備と孟節の話がそうやって一段落したと思ったら孟節はこっちを向いてくれた。

 

「孟徳さま、こうしてまたお会いでき、嬉しく思います」

「孟節……随分と変わったのね」

「はい……その後色々とございました…」

 

孟節はその赤い瞳を閉じて、昔を回想するように仰向いた。

 

「孟節、状況を知ってるのなら話は早いわ。私と一緒に今直ぐ魏へ…「なりません」……へ?」

 

今、なんて…

 

「孟節、分かってるの?今一刀が病におちてるわ」

「へっ!ちょっと待ってください。一刀ちゃんが痛いのですか?」

「北郷殿が…」

 

劉備たちは私の話でようやく話が見えてきて驚く。

 

「知っております。一刀の病に落ちてること…そして、その上、わたくしは魏には行けないということです」

「どうして……」

「わたくしは薬師です。病を治すことは出来ても、天命を変えることはできません」

 

 

 

 

 

……へ?

 

 

 

 

 

 

今、なんて……

 

「何を…言っているの?」

「天命を変えることはできません」

「どういうこと……何を言っているのよ!」

 

私は不意に孟節の肩を掴んだ。

 

「あの子が死ぬのが天命だと言ってるの!」

「華琳さま、落ち着いてください」

「華琳!」

 

後ろから秋蘭と霞が私を止めるも、私は孟節を話さなかった。

 

「あなたは一刀の声さえも戻してくれてたじゃない。なのに今更天命云々として……」

「天の御使いというものはそういうものです」

 

どういうこと?益々分からなかった。

いや、違う。ただ知りたくなかっただけかも知れない。

 

「天の御使いとは、乱世を鎮めるために地の表し者。その役目が終わると、世に天の御使いはもう必要なくなります。そして、役目を終えた御使いの最後は、

 

死のみ」

 

 

 

 

あの昔、曹孟徳は乱世を鎮める覇王となることを目指していた。

その中天の御使いに出会った。

華琳は天の御使いという存在を利用し、自分の覇道を歩もうとした。

だけど、いつぞやか覇道よりも大きくなってしまう御使いの存在が、彼女の覇道の道を曇らせた。

そして、覇王は自分の理想を砕け、新しい道を歩もうとした。

その行動こそが彼の命を蝕む原因と知る時は、何もかも遅すぎてしまう時……

 

 


 
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