No.206163

虚々・恋姫無双 虚点4 華琳黙

TAPEtさん

つなみ・・・原電爆発・・・
村一つが丸焼かれ、丸沈没‥……

もう何をどう祈ればいいのかもわかりません。
どうか・・・

2011-03-12 20:58:14 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3173   閲覧ユーザー数:2096

「駄目、あなたはここに居なさい」

「……」

 

華琳の部屋、一刀は華琳に自分も親善のための使者に加わりたいと言ってきたが、華琳はそれを断固拒絶した。

 

「あなたが言いたいことはわかるわ。蜀なら劉備たちはあなたと面識があるから話がうまく通るかもしれないし、孫呉でもあなたの話なら信じてくれるでしょう」

「……」『じゃあ』

「なんと言っても駄目よ。今回のことは危険が多すぎるわ。そんなこと許可できない。皆が帰ってくるまでは私の側から離れないこと。いいわね」

「……<<コクッ>>」

 

一刀も華琳がどれほど自分のことを心配してくれているか十分承知していた。

あの孫呉との戦いでの事件がまだ脳裏に残っていた。またそんなことが起きたら、今度こそ華琳お姉ちゃんは絶望するかもしれない。

だから一刀はそれ以上何も言わず軽く頭を頷いた。

 

「ありがとう」

「…ん<<ぎゅー>>」

 

華琳は座ったまま一刀の頭自分の胸に抱きしめた。

 

「私のところに来てくれて…今まで側に居てくれて……本当にありがとう」

「……<<……>>」

 

華琳の胸の中から、彼女の鼓動が聞こえてきた。

 

ドクン、ドクンと

 

その鼓動を聞いていたらとても心が落ち着いて、安らぐ。

まるでお母さんのお腹の中に戻ったような感覚に落ちる。ここに居ると安全だって、誰もボクのことをいじめたり、苦しくしたりしないと、そう言ってくれていた。

華琳お姉ちゃんは優しい人だ。そしてこれからもずっと……

 

だから、どんなに痛くても、大丈夫。

もうちょっとでいい。後ちょっとだけでいいから……

 

「……<<にっこり>>」

 

一刀は華琳の胸の中でぼっそりと微笑んだ。

 

 

 

 

がらっ

 

「!」

「小僧……」

 

華琳の部屋から戻ってきたら、馬騰が一刀の部屋の布団に座っていた。

 

「……?」

「少々話がおる。良いじゃろ?」

「………」

 

一刀は頷くことなく、あそこにある、急須と湯飲みを持ってきて、馬騰の前に水を出した。

 

「お主、魏で天の御使いと呼ばれておるのがお主じゃったようじゃな」

「………<<コクッ>>」

「そうか……噂の天の御使いが……子供という話は聞いておったがまさかこんな小さい子が…本当に乱世を鎮める鍵となるとはの……」

 

馬騰はそう呟きながら一刀が出した水を一口飲んだ。

 

「……」『蜀に行くんでしょ?』

「そうじゃ。…なーに、娘のことはなんとかなるじゃろうし、後は夏侯淵のやり次第じゃ。しかし、軍師でなく将を出すか…孟徳は何を考えているのやら……」

「……」『秋蘭お姉ちゃんは、華琳お姉ちゃんが一番信用している人たちの一人だから』

「……なら良いのじゃがの…この和平の計画、並みの才で成し遂げれるものではおるまい……と、儂が言いたいのはそこではおらぬ」

「?」

 

キョトンとする一刀の前で一息ついてから馬騰は話を続けた。

 

「少々かんがえて見たのじゃ。お主のことを。そして昔のこと……」

「?」

「昔こういう予言がおった。流れ星に乗って来る天の御使いが、乱世を鎮め大陸に平和を繰り広げる、と」

「……」『前にお姉ちゃんたちから聞いた。だからボクのことを、ここまで連れてきてくれた』

「そうじゃ。じゃが、問題はその後じゃ」

「……?」

 

 

 

「乱世を鎮め大陸に平和を広げた後に、天の御使いはどうなることじゃろう…と」

「……………」

 

一刀は顔を逸らした。

 

「…やはり、お主のその病は、ただのことではおらぬようじゃな。お主、自分のことについて何を知っておる」

 

馬騰の問い詰めに、一刀は黙り込んだままであった。

以前馬騰の前で血を吐いた後、一刀は特に問題なく過ごしているように見えた。

食事をするのもいつもみたいに人並みより少なめで、街を歩きまわりながら街の人たちと挨拶する日課を怠らなかった。

時折、武将たちと話をしたり、一緒に御飯を食べたり、機会があると一緒に寝たりすることもあった。

その中で、誰も一刀の異常に気がついて居なかった。一度血を吐いた後、一刀は外見で見て、まったく痛い人とは思えなかったのだ。

 

だけど、

 

「………」『夜にね。一人で寝ていると、疼くの。昔の傷が』

「傷?」

「………」

 

一刀は上着を上げて馬騰にお腹を見せた。

そこには以前一刀が幼い時車事故にあった時、手術をした大きい跡が今でも残っていた。

 

『朝に歩いているとちょっと大丈夫。夜になると痛くて……痛くて誰か側に居ないと眠れない』

「なんてことじゃ………」

 

それでも表から見るとおかしいところはなかった。

ただ痛いだけだった。だから誰も気づかなかった。一刀が誰にも言わない限り、誰も一刀が痛いことに気づくことができないのであった。

 

「何故じゃ。何故一人で耐えておる」

「……」『誰にも言っちゃいけない』

「だから何故じゃ…」

「………」

 

一刀は顔をうつむいた。

 

結局、一刀はバレてしまった馬騰にも何も話さなかった。

 

 

 

 

コンコン

 

がらっ

 

「………」

「……あら、一刀…」

「……」『忙しい?』

 

夜遅く、一刀が華琳の部屋に訪れた時、華琳はまだ部屋に灯りをつけて政務をしていた。

明日使者たちが蜀漢と、孫呉両国へと同時に出発する。

その件について、魏王自ら両国に渡す手紙の内容を、今やっと書き終わってるところだった。

 

「ちょうど終わったところよ。明日見せてあげようと思ってたのだけど……今見る?」

「……………<<ふるふる>>」

 

一刀は頭を左右に振って座っている華琳の膝の上にぽつんと座った。

そして、華琳の方に身体を傾いて華琳の鼓動を感じようとした。

 

「……甘えん坊ね」

 

そんな一刀を見て、華琳は一刀の頭を優しく撫でた。

そしたら一刀は、小動物のようにもっと華琳の胸で落ち着く。

 

「秋蘭と桂花たちは見たかしら。明日から長い間会えないけれど」

「…………」

「一刀?」

「……」

 

一刀は黙り込んでいた。

何か気に入らないかのように少し、口を出して足もバタバタしながら答えをしなかった。

 

「一刀」

『見てきた』

「……そう」

「……」『華琳お姉ちゃんともっと一緒に居たい』

「………っ」

「………<<かぁー>>」

 

そう書いた一刀は少し顔が赤くなっていたが、暗いし、そもそも華琳には今一刀の顔が見えなかった。

尤も、その華琳も一刀の書いた文を見て顔を赤くしていたが。

 

『ごめんなさい』

「い、いえ……別にあなたがそうしたいならそれでも構わないわ……」

 

そしていたら、ふと、華琳は大事なことを思い出した。

 

「あぁ……すっかり忘れていたわ」

「?」

「一刀、明日皆を送ってから行くところがあるわ。一緒に来なさい」

「……<<コクッ>>」『どこに行くの?』

「墓参りよ」

「……?」

 

司馬懿の墓参りにいってきたばかりだったので、一刀はキョトンとした。

 

「私の母のところよ」

「……」『華琳お姉ちゃんの、お母さん?』

「ええ…明日が忌日なのに…すっかり忘れていたわ。今までどんなに忙しくても忘れず行ってたのに…下手して忘れるところだったら。大体覚えていたら明日に出発するよう

 

にしていなかったのに……」

「……」『華琳お姉ちゃんのお母さんは…どんな人だった?』

「……そうね…良い母だったわ。自分の娘のためにどこまでも尽くしてくれた。厳しい人だったけど、私を誰よりも愛してくれた人……」

「………」

 

それを聞いたら一刀は、ふと自分のお母さんのことを思い出した。

お母さんは無名の歌い手だった。夜遅くに帰ってきて、朝にはほぼ眠って過ごしていた。

たまにお母さんと一緒に近くの公園に行く時でも、一刀が遊んでいたら、お母さんは前夜の疲労にほかほかの日の温もりを浴びながら公園のベンチで居眠りをしていた。

そう、「あの日」だって……

 

「……<<ふるふるっ!>>」

 

一刀が強く頭を振るのを見て華琳は、自分が余計なことを言っちゃったと気づいた。

 

「大丈夫、一刀?」

「………ぅっ」

「………ごめんなさい<<ぎゅー>>」

 

華琳は顔を俯く一刀の背中を自分の方へもっとくっつかせた。

 

「一刀、私はあの日あなたが自分の胸に矢を打った時から、ずっと考えてたわ」

「……」

「前にね?あなたは知らないでしょうけど、いつもあなたと一緒に居た、もう一人の紗江と私はいつも仲が悪かったの。あなたのことを置いてね」

「……?」

「あの娘はいつも、あなたの幸せだけを言っていたわ。まるでそれが自分の存在する理由みたいに……それに比べて私は、いつも私の覇道とあなたを両手に掴もうとした。だ

 

から、あの娘はいつも私に向かって怒っていた。あなたのその中途半端さがいつか一刀を傷つかせるって…そしてあの時、あなたがあんなことをした時、あの娘の言ったこと

 

が本当のことになったようで……<<ぎゅー>>」

「……っ」

「怖かった…このままあなたを失ってしまうことが……あなたが私を拒むことが怖かった」

 

華琳はもっと強く、一刀が少し息苦しくなるぐらいに一刀を抱きしめた。

 

「だから…今私は、とても幸せよ。こうしてあなたを抱きしめて居られるだけで、幸せよ……」

「………」

 

それを聞いた一刀は華琳の方を振り向いた。

華琳の目からは、もうすぐで涙がこぼれ落ちそうになっていた。

 

「……!!<<パクっパクっ>><<あわあわ>>」

 

一刀は華琳が泣きそうにしているのを見て慌てたけど、そんな一刀を見て華琳は微笑んだ。

零れ落ちる涙は、悲しさの涙でなく、嬉しさの涙となった。

 

 

 

 

「馬騰、改めて、協力してくれたこと感謝するわ」

「………お前の真実さを見た。紗江の頼みもおる。拒む理由はおらんだろう。成功するという確信もおらんことじゃがな」

 

翌朝、両国の使者となる馬騰、秋蘭、桂花たちが出発する準備を終えていた。

 

「そのことについては私たちがなんとかする。馬騰殿は馬超殿の方をお願いする」

「ふむ……」

 

「桂花、危ない道よ。気をつけなさい」

「この命、華琳さまの理想のためなら、それが修羅場でもどこでもあなた様のために向かう覚悟は、昔から出来ていました。必ずや、華琳さまのご期待に添える結果を出して

 

きます」

「………秋蘭、桂花、これを…」

 

華琳は、桂花と秋蘭二人に、昨日書き終えて、今日の朝一刀が自分の文字で綺麗に写した書簡を一つずつ渡した。

 

「私から直接劉備と、孫権に送る書簡よ。もし二人がうまく付いてきてくれない時には、これを…」

「……はっ」

「御意」

 

各々書簡を受けた桂花と秋蘭は、頭を下げて下がった。

 

「それじゃあ、二人とも気をつけていってきなさい。良い報告を待っているわ」

「「はっ!!」」

 

そう言って二人とも出発するために使者団の各々の位置に向かった。

 

「孟徳」

 

二人が去った後、残っていた馬騰が華琳を呼び寄せた。

 

「何かしら」

「……儂が思っている孟徳という英雄はこういう者ではなかった。もって冷血で、冷酷な、自分のためには何でもする者であった。そんなお主をそんなに変えたのは、あの小

 

僧か」

「……ええ、そうよ。一刀、あの子が居なければ、私は今頃まだ戦いを続けていた。あなたにも会わず、ただ残った孫権と劉備を我が覇道の餌と思いながら戦を続けていたわ

 

「そうか……」

 

馬騰はそれ以上何かを言おうとして直ぐにやめた。

少し後、また口を開けた馬騰は。

 

「大事にしろ。お主の運命を変えた者じゃ。お前の…いや、この大陸の未来を変えるかも知れない男じゃよ」

「あなたに言われなくても、分かっているわ」

「……なら良いんじゃが…」

「?」

 

最後にそう呟いた馬騰はそのまま自分の場所に戻った。

 

直ぐに、使者団は往復一ヶ月がかかる予定の親善のための道にあがった。

 

 

 

「お母さん、私よ」

「………」

 

昼、華琳は一刀と一緒に自分の母、曹嵩の墓に参られていた。

墓は小さく、道の途中に人にも良く見えないところに石碑が立たされてあった。

周りの茂みを片付けてからやっと目に入る、小さな墓。

 

紗江の時みたいに華琳は、墓の前で自分の前から逝ってしまった自分の肉親に届くはずもない声をかけていた。

 

「お久しぶりよ……危うく今年も来れないところだったわ」

「……」

「……色々と、忙しかったの」

 

色んなことがあった。

黄巾党の後、反董卓連合、袁紹との戦い、孫呉との戦い。そして歴史に残るには小さい数多くの戦いも。

多くの魏の、他国の兵たちが死んでいた。

その兵一人一人が皆民で、大陸の民たちで……

あまりにも多くの人たちが死んでいった。

 

誰かは失った名誉のため、或いはもっと多くの人たちを助けるためにと、戦いを続けた。

そして、ただ自分のためだけに、剣を振るった者もいた。

 

「今になってみると間抜けに見えるかもしれないわね。私……周りの人たちから見ると後一歩ってところで山頂から降りてくるようなものなのに……」

 

でも、それ以上行くことが出来なかった。

それが出来なくした者が居た。

 

「………」

「こっちは一刀よ。……会うのは初めてだよね。あわせたことなかったから」

「……」

 

誰かのお母さんだった人。

誰かじゃない。華琳お姉ちゃんのお母さんだった人。

もう居なくなった人。

 

お母さんが亡くなったことを知った時、華琳お姉ちゃんは泣いただろうか。どれほど悲しんだろうか……

ボクだったらそんな悲しみ、堪えられそうにもなかった。

 

ぐいぐい

 

無意識的に一刀は華琳の裾を引っ張った。

 

「一刀?」

 

自分のほうを向いた華琳の顔を見上げてみる。

悲しそうにはしていなかった。

……少し寂しんでいるようには見えた。

でも悲しさはなかった。華琳お姉ちゃんは悲しくなかった。

それで良かった。華琳お姉ちゃんが悲しくなければそれで良かった。

華琳お姉ちゃんが幸せにいて欲しかった。

 

いつの間にか頭の中にそれしか残っていなかった。

 

魏の皆が幸せだったらいいなと思っていた心、いつかそれは華琳お姉ちゃん一人に向かっての感情になっていた。

 

華琳お姉ちゃんが幸せならそれで良かった。

それで……

 

「っ!!」

 

ぽつん

 

「一刀?」

 

突然足を崩してその場に座り込む一刀を見て、華琳は驚いた。

 

「どうしたの、一刀?」

「………<<カタカタ>>」

「一刀?!」

 

座り込んだ一刀の顔には血気がなく、昼なのに一刀はカタガタと震えていた。

そして…

 

「~~~!!!!~~!!!!!」

 

絶叫、

 

声にならない絶叫が、

 

華琳の耳を打つのであった。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 


 
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