No.205264

真・恋姫†無双 黄巾√ 第十七話

アボリアさん

黄巾党√第十七話です。
あいも変わらずの遅筆、駄文ではありますがお付き合い頂けると幸いです
……三週間ほど、休みが無かったんですw
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると幸いです

2011-03-06 14:46:09 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7335   閲覧ユーザー数:5895

―時を遡る事、数分前―

 

「流石に、開戦前までにとはいかなかったか……」

 

呟きながら崖の下……虎牢関を攻め立てる連合軍と、それをさせまいとする董卓軍戦いを見下ろす。

 

「仕方ないわ。私達にも準備があった訳だし……それに、汜水関は抜けていて貰わないと計画にも支障が出るもの。寧ろ、全面戦争になる前だったことを喜ぶべき」

 

俺の呟きに応えるように人和。

人和の言う通り、今は董卓軍側が防衛に徹している為大きな事態には発展していないようだった

だが、それもいつまで持つか……

 

「一刀~。皆、予定通り準備できたよ~」

 

「ちいの方も、準備できたわよ」

 

俺がそんな事を考えていると、天和、地和が走り寄ってくる。

 

「ん、それじゃあ後は……」

 

「一刀君」

 

言いかけた矢先、後ろから呼びかけられる。

 

「先生。あの二人の方はどうなっています?」

 

呼びかけてきた相手……水鏡先生に問いかけると、

 

「ええ。今しがた報告がありました。貂蝉さん達が率いる部隊は敵味方含め、ほぼ無血で事を成したそうです。やはりというべきか、連合は背後にさほど気を配ってはいなかったようですね。兵らしい兵、守りらしい守りは敷いていなかったようです」

 

にこやかに報告する先生。俺はそれに頷くと、三人の方に向き直る。

 

「それじゃあ、早速になるけど始めようか。天和、合図を頼む」

 

言って、天和の方へと視線を送るが……

 

「え?合図って……なんて言えばいいの?」

 

「姉さんの声を合図に、ってだけで特に取り決めている訳じゃないし……とりあえず、何か叫んだらいいんじゃないかしら?地和姉さんの声量増強の妖術もあるわけだし」

 

キョトンとする天和に人和が答える。

 

「そっか。じゃあ~……」

 

そういって天和は戦場を見下ろしながら少し考える仕草を見せ、

 

 

「皆~!!私の為に争わないで~!!!……なぁ~んちゃって♪」

 

 

……。

……うん。何でも良いとは言ったけど、何を叫んでるんだろうかこの娘は。

「ちょっと姉さん!!いきなり何叫びだすの!?」

 

一拍置いて、冷静になった人和が天和に食って掛かる。

 

「えへへ、ごめ~ん。でもでも、こんな光景を見たら、思わず叫びたくなちゃったんだもん」

 

対する天和は大して気にするでもなく笑って誤魔化していた。……はぁ、なんというか……

 

「ふふ、突飛ではありますが、天和ちゃんらしいです。これもまた、好々です」

 

隣に立つ先生が、苦笑しながらも俺の心中を代弁するかのように零す。

 

「ともかく、天和ちゃんの合図は上がりました。一刀君。私は少し外しますが、後は手筈通りに」

 

外す?と先生に聞き返すと、

 

「ええ。連合の動揺に乗じて、楔を打ち込んでおこうかと。……では、三人の面倒も含めて、お任せしましたよ?」

 

そういって笑いながら、そそくさと場を去ってしまう先生。

面倒?と俺が三人の方に向き直ると……

 

 

「もう、おねえちゃんったら。どうせなら、私の為に戦いなさい!!!……の方が言いに決まってるでしょ!!」

 

「えぇ~!?そんなことないよぉ~」

 

 

等々云々、喧々囂々……くだらない論議へと発展していく二人と、それに突っ込む気力もなくなった一人という構図が展開されており……あ~、なんて言うか。

 

「……うん、二人とも。解ったから、ちょっと黙ってような?」

 

とりあえず、白熱している天和、地和を宥め、視線を戦場へと向ける。

最初こそ、何がなんだか、という空気だった連合軍と董卓軍だったが、合図に乗って展開を始めた黄巾党の数を見るうちに圧倒されたような気配すら感じだった。……良かった。あの不毛な言い合いの所為で呆れられたままだったらどうして良いかわかんないし。

 

「さて、と……気を取り直して」

 

仕切りなおすと同時、黄色の頭巾を頭に巻きながら、こんな大勢の前で言葉を発するという緊張を必死に飲み込む。

 

……さあ、ここからだ!!

 

「俺達は、黄巾党」

 

震える声を悟られないよう、俺は必死の大声で叫んだ。

 

「此処に集まる諸侯に、兵に……全員の人間に。この大陸の、民の声を届けに来た!!」

 

――連合内部、曹操軍の帷幕――

 

「か、華琳様!!大変です!!」

 

「五月蝿いわよ春蘭。そんな大声を出さなくたって聞こえているわ」

 

嘆息するように言いながら華琳は黒髪の女性――夏候惇こと春蘭――の横をすり抜け、帷幕の外へと歩を進める。

そして、自分達連合軍を取り巻く黄色の集団へと視線を向けていると、「華琳様」と、また横合いから声がかかった。

 

「何かしら?秋蘭」

 

華琳が問いかけると秋蘭と呼ばれた女性、夏候淵が「はっ」と一拍間を置きつつ続けた。

 

「たった今入った報告なのですが……我等の後方、汜水関が何者かの襲撃を受け、なすすべなく陥落したとの由に御座います。話によれば、獰猛な二匹の化物率いる軍勢によるものだということです。恐らくですが奴等……黄巾党の一味によるものかと」

 

「間違いないでしょう。それにしても……なすすべなく、ねぇ」

 

失笑しながら華琳が続ける。

 

「汜水関の守りは麗羽の……袁家の兵が一任されていたはず。……まあ、大方後方に気を配る必要なしと高を括って、負傷した兵でも形だけ配置していた、といった所でしょうね」

 

呆れ声交じりに話す華琳。

 

「華琳様!!なにをそのような暢気な事を……っ!!」

 

「姉者。姉者のほうが取り乱してどうする?少し落ち着け」

 

妹である秋蘭に諭され、「むぅ……」と唸りながら渋々といった呈で夏候惇は黙する。

 

「しかし華琳様。姉者ではありませんが、このような事態です。いかがいたしましょうか」

 

「いかがも無いでしょう。奴等……黄巾党を名乗る連中は『民の声を届けに来た』と声高に叫んでいた。ならば今は、それに耳を傾けるのも一興だと思わないかしら?」

 

華琳の言葉に、「しかし……」と難色を示す秋蘭と春蘭。それを横目に見つつ、華琳は続ける。

 

「周囲を囲まれ、大勢で攻められ、機先を制されたのは間違いない。けれど、奴等に話があるのならそれを聞いてからでも遅くは無いわ。もしその後、黄巾が私達を害しようというのならば、それに応じ討ち果たしてやればいい。私の剣たる貴女達ならば容易だと信じているのだけれど……違うかしら?」

 

言って、挑発的な笑みを浮かべる華琳。

 

「「……はっ!!承知いたしました!!」」

 

その言葉に信頼を感じた二人は一糸乱れぬ動きで礼をとり、華琳はそんな二人を満足げに見ると、思考の中へと没頭していく。

 

(黄巾党の首魁であろう連中……たしか、季衣の村にいた連中だった筈)

 

あの時、村を守っていた義勇軍。あれもまた黄色い頭巾を仲間内の目印にしていた。

確か名を……張角、張宝、張梁に、北郷、といっただろうか?その時の、義勇軍の規模は百人にも満たない数だったが……

 

(まさか、こんな形で再会する事になるとわね)

 

考え、自嘲するような笑みを浮かべる。

 

「秋蘭。部隊の方に出ている季衣、流琉を此処に呼んでおいて頂戴」

 

側らに立つ秋蘭にそれだけ告げると、華琳は崖の上、黄巾党の方へと意識を集中させた。

「この戦いは、間違っている」

 

単刀直入。俺が放った言葉に連合軍がにわかにざわめく

 

「反董卓連合結成の檄文。董卓が都で暴政を敷いているという文言。それらはすべて間違いだ。それはここに集った黄巾の民、全てが証明するものである!!」

 

洛陽からの報告による都での実情。董卓の天水、及び洛陽での好評判。しかし、何故かその情報が各地に広まる事は無く、ありもしない悪評ばかりが出回る現状。それらを事細かに叫ぶ度、連合のざわめきは大きくなっていく。

 

「貴方達が、何を持って董卓誅すべしの戦を始めたかは知らない。けれど、これ以上の戦いは無益だ!!だから……っ!!」

 

 

「お、お黙りなさいっ!!」

 

 

俺の言葉を遮るように、一際甲高い声が響く。

 

「さっきから黙って聞いていれば、何を好き勝手喋っていますの!?この、袁本初を盟主とした我々は朝廷から直々に、じ・き・じ・き・に!!逆賊を誅せよとの命を受けた、いわば大義の軍勢なのですわよ!?」

 

どうやらこの声の主は、反董卓連合盟主、袁紹のもののようだ。……一度、どこかで聞いた気がするのだが……まあ、気のせいだろう。

それはともかく、連合盟主である人物が声を上げた事により、連合軍側も息を吹き返したように「そうだ、そうだ!!」「我々の行いが間違いであるなどと、許しがたき暴言なり!!」と囃し立てる。

 

「ふふん。皆様の言う通りですわ」

 

周りの勢いに満足げな袁紹。

 

「我々はこの大陸の行く末を憂い!!朝廷を牛耳る悪を討つ正義の軍であり!!国の平穏を守る大義の軍勢!!それを人数だけ集めた、何処の馬とも解らないの下賎民の集まり風情が、意見を挟んで良いものではなく、その、国に対する反逆行為が如き蛮行、許されるものではありませんわよ!?」

 

袁紹の啖呵に、ますます連合軍側は活気付いたように騒ぎ出す。

……正義の軍。大義の軍勢。朝廷を牛耳る悪に、それを討つ事は国の平穏を守る事である。それに……下賎の民に、反逆行為と来たか。

それらの言葉は、言われるものとあらかじめ予想はしていたが……

 

「……けるな」

 

「あら、まだ何かあるというんですの!?」

 

勝ち誇ったような袁紹の声が耳に障る。

なんとも……なんとも、腹立たしかった!!

 

「一太守風情が!!ふざけるなといったんだ!!」

 

俺が放った怒号に、一瞬の静寂が訪れるが、そんな事を気にしている余裕は無かった。

 

「正義だと!?自らの欲に駆られ、無辜な人間を寄って集って追いやろうとする事が正義か!?その行いが、国の平穏を守る!?お前達の蜂起こそが国の、その国に暮らす民達の、俺達の平穏を乱すことに他ならない!!」

 

「何を……!!」

 

「大義とは!!」

 

連合側が何かを言おうとするが、それを遮るように俺は叫ぶ。

 

「大義とは。この大陸に生きる、『大』勢の人間の、『義』だ。お前等に本当の、この国に暮らす民達の義を伝えてやる!!……天和、地和、人和!!」

 

俺の呼びかけに、三人が応える。

 

「ええ。……それじゃあ皆。始めるわよ!!」

 

「あんた達、腹の底から声を出しなさい!!」

 

「よ~っし皆、いっくよ~!!せ~のっ!!」

 

 

 

《我々はっ!!!》

 

 

 

天和の号令の後、地鳴りが如き叫びが一斉に爆発する。百万の民から発せられたそれは、戦場での怒号もかくやと言う迫力で鳴り響いた。

 

 

《我々は!!大陸に暮らす民は!!!この、無意味な戦いを求めず!!血が流れる事を求めず!!戦乱を求めない!!》

 

 

「私達は!!民から集めた兵士達を、相手の兵士達を、民達を巻き込む戦をする貴方達の勝手を許さない!!」

 

 

《人の命を!!相手の命を!!私事で無駄に散らす事を!!我々は許しはしない!!》

 

 

「正義、正義って上っ面だけ偉そうにしてて、好き勝手に振舞って!!それで良い事して偉くなった月に嫉妬して、力で責めるなんてちい達は許さないんだから!!」

 

 

《正義を嘯き、力にのみ依って事を起こそうとするを我々は承認しない!!真に正しい者を害そうとするを許さない!!》

 

 

「それより何より、民の皆が一生懸命働いた結果のご飯やお金を、こんな事に使うなんて許せないんだから~っ!!」

 

 

《我等の血の!!汗の!!苦労の結晶を!!こんな無為な戦に使う事を、断じて認めない!!》

 

静寂。黄巾の民、全てによる言葉に、圧倒されたように連合軍が沈黙する。

俺は口を開く。

 

「これが、大陸に暮らす民の、真意です」

 

押し黙る連合軍の、一人一人に語りかけるように続ける。

 

「貴方達が何を大義として戦に参加したかはわかりません。兵士にしろ、太守にしろそれぞれに理由があったと思います。ですが、少なくとも暴政という噂や、民の為、平和の為というのなら……それは、間違っています」

 

分かってくれるかどうかは正直な所、わからない。だからこそ、本心を語る。

 

「これから世の中が乱れると読み、民の事を想いそれに乗り、征する力を求めた人もいるでしょう。その乱世から、自領の領民達を守る力を欲し、参加した人も少なからずいることと思います。ただ単に、世の中の平和の為に、戦いの無い世の中にしたいと望んだ人もいるかもしれません。そして、それらの覇道に、大望に、理想についてきた兵だっているはずです」

 

ですが、と俺は続ける。

 

「民の為を想うならば、乱世を征するではなく、乱世を起こさず平穏にする道を模索して欲しい。自国を、民を慈しむことが出来るなら、それは今敵対している相手も同じ事だと解ってください。平和を望み、戦いの無い世界にしたいのなら……この、民の声を聞いて、矛を、旗を降ろしてもらいたい」

 

万感の想いを込め、「その上で」と言葉を発する。

 

「私利私欲に走ろうというのなら。民達が、守られる代わりに領主へと尽くしている事を忘れ、搾取したそれを平和を乱す戦いに使おうというのなら……俺達は、そんな人間の元で暮らすつもりは無い。民のいない国で、一人でお山の大将を気取っているといい。……そして!!」

 

俺の声を合図に、黄巾党一人一人、老若男女の全てが。

その手に矛を、弓を、剣を。それが無いものは鍬を、鎌を。それすら持てない者は足元に転がる石ころを手に構える。

 

 

「これ以上、こんなくだらない戦いを続けるなら。民を守る為の兵士で、これ以上人を殺そうというのなら。人の心を捨て、獣と成り下がるのなら。民の声が、大義が聞こえないというのなら……俺達は、民は、命を懸けて、それに抗う!!」

 

 

バッ、と合図である手を振り上げる。

 

 

《この、無為なる戦いをやめよ!!旗を降ろし、矛を置け!!この、無為なる戦いをやめよ!!旗を降ろし……》

 

 

連合軍、董卓軍共に戦う戦場、虎牢関。

そこに、その両軍を取り囲んで余りあるほどの民の声が、響き続けたのだった

 


 
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