No.204672

漆黒の守護者13

ソウルさん

明星軍VS連合軍

2011-03-03 14:26:56 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2827   閲覧ユーザー数:2387

 虎狼関に燃え盛る火は大地に芽吹く草花に飛び火してその範囲を広げていく。戦場は炎の渦と化していた。近くにいるだけで焼けるように熱い大気の中、戦は繰り広げられている。ただ戦闘をしているのはわずかな将校のみ。一端の兵士は熱さに耐えきれず戦場外に退いている。この大気内で戦っているのは明星の将兵と魏・孫・劉・馬の将校のみ。

 

「はぁ~!」

 

火を斬る気迫で孫策は南海覇王を振り上げ、趙雲の龍牙が神速の突きを放ち、夏候惇の七星餓狼が大地を砕く勢いで振り下ろされた。それぞれの思惑で参加した英雄たちが手を組んで共闘しているこの光景は結成当初では考えられないことだった。

 一撃が必殺となる英雄たちの攻撃を交わしながら俺たち明星も反撃にうつる。愛刀の羅刹を空間にたゆたう火花ごと斬り裂き、間隔をあけることなく俺の背後から双銃を操る椛が前方の三人に引鉄を引く。銃弾は氣で出来ている。

 

「炎武!」

 

聖の終焉符――鉄札のことである――が炎を纏い、接近してくる武将たちに投鄕した。詳細な仕組みは機密だが、戦闘に用いられている技はすべて仙術である。

 

「火が怖くて将が務まるか」

 

夏候淵は餓狼爪をいならせ矢を炎の渦にめがけて放った。聖の直線上に飛ぶ矢は炎の渦をものともせずに突き破り聖を捉える。

 

「甘いのじゃ」

 

投鄕した炎の渦とは比べものにならない巨大な炎の壁が聖を防御した。鋼の矢は塵と化す。

 

「攻撃が一手だけとは限らんぞ」

 

聖に影が差して上空から数本の矢が雨となって降り注ぐ。

 

「当然じゃの。枢!」

 

「蝉時雨」

 

忍びのように聖の元に姿を出した枢は降り注ぐ矢の雨に対して無数の矢を放ち、矢先がぶつかり合うことですべてが相殺された。

 

「やってくれるの」

 

影が地上へと降り、桃色の髪と豊満な胸を揺らせた。弓の名手であり呉の老将である黄蓋である。

 

「夏候淵、こちらも手を組まなければ負けそうじゃのう」

 

「そのようだな」

 

二国の弓の名手が手を組み聖と枢の前に立ち塞がった。

 

 壬の短銃と関羽の青龍偃月刀ではリーチの長さが圧倒的な不利だが速さでカバーし、両刃刀の昴は斬撃の速度で力で押してくる張飛の蛇矛に反撃の暇を与えない。

 

「厄介な得物を」

 

速さで翻弄させながら氣弾を放ち関羽を間合いに入れない。だがこの戦闘方法は極端に壬の体力を減らす。それは昴も同様で連続の斬撃で体力を減らしていた。

 

「鈴々、もう少しだけ耐えるんだ」

 

「わかっているのだ」

 

それに比べて二人は体力にまだ余裕があった。壬と昴は攻撃の手を止めて間合いを作り、互いの背中を預けあう。

 

「……ふぅ~。さすがに疲れたぜ」

 

「そろそろ共闘でもしますか?」

 

以前まで使用していた武器なら相性が良く連携を組めたのだが、現在使用している武器では互いの特徴が似ている為、波長を合わせにくいのだ。とはいえこのまま一対一ではいずれ力尽きて敗北してしまう。この共闘は賭けだった。

 

 拮抗していた戦況に陰りが見え始めた。六人しかいない明星に対し、力量の差はあるにしても将軍と称される英雄たちが倍はいる。戦況が均衡していたのも数刻だった。むしろ長く持ったほうである。俺を含めた明星軍は肩から息をするほどに体力が消耗していた。

 

「さすがに無謀だったか………」

 

周りで息を切らす仲間を後目に、前方に佇む英雄に視線を送る。完全なる敗北。物語のように奇跡などは起きない。だけど、

 

「俺が足止めをしている間にお前たちは長安まで逃げろ」

 

仲間を守る頭首の役目だけは奇跡に頼らず、この手で成し遂げなければならない。

 

「何を言っているのじゃ、主!」

 

反論をする聖。他の者も口にはしないが聖と同じ気持ちらしい。

 

「誰も俺は死ぬなどとは言っていない。俺にも夢がある。それを成し遂げるまで死ぬつもりはない。だからお前たちは待っていてくれ。お前たちのいなければ成し遂げられない夢なんだからな」

 

「……主」

 

「さっさと行け!」

 

覇気を込めて言葉を全力で紡いだ。聖たちは頷き、燃え盛る虎狼関へと侵入した。大軍は無理だが少数なら越えられる。

 遠ざかっていく足音に耳を傾けながら岩石に背を預ける。切り傷から流れ落ちる鮮血が視界を紅く滲ませた。意識が遠のく。

 

「兄様」

 

「……諦めの悪い妹だ」

 

もう二度と口にしないと決めていた妹という言葉。

 

「当然です。私は兄様の妹なのだから」

 

妹と再び呼ばれたことを笑顔で心情を表現した。

 

「血は繋がっていないけど……お前だけは兄として接してきたっけ。日に日に闇へと沈んでいった俺は無視をしていたのにほんと……。なぁ、そう……華琳、数える程度の思い出しかないけど、俺が兄でよかったか?」

 

曹家と決別する為に封印した信愛なる妹の真名。また口にするとは思っていなかった。

 

「当然です。自慢の兄様です」

 

大量の涙を流しながら華琳は笑みをこぼした。その笑みを見て静かに闇が洗浄されていく心地だ。これが愛なのだと理解するのに、俺はあまりにも時間がかかりすぎた。遠回りをしてようやく手に入れた答え。

 

「なぁ、聖……こんな近くにあったよ。俺が追い求めた幸福が」

 

自然と涙がこぼれる。頬を伝い大地を潤す。灼熱の大気が闇を天へと浄化してくれた。

 

 俺は腰を上げ、英雄たちに背を向ける。そして虎狼関へと歩んだ。

 

「兄様!」

 

華琳の呼び止める声で振り返り、

 

「ありがとう華琳。お前の兄で良かった。……別離の言葉は言わない。生きていたら再び会おう。その時はお前の好きな満月の下で杯を交わそうな」

 

再会を望む言葉だけを残して燃え盛る虎狼関を潜った。炎の中に体が消え、焼けた門が入口を塞いだのだった。

 

 第一章    完

 

 和解した翡翠と華琳。今後、大陸がどう蠢くのか、第二章で語ります。

 

 

 

 

 


 
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