No.204467

魏√after 久遠の月日の中で15

ふぉんさん

魏√after 久遠の月日の中で15になります。
前作の番外編から見ていただければ幸いです。

みなさまお久しぶりです。
また少しずつ頑張りますのでよかったら応援の方お願いします。

2011-03-02 02:11:18 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:24269   閲覧ユーザー数:19036

「俺の手持ちはこのくらいだけど……」

 

「うぅむ……私はこれで全部だ」

 

呉領近くの城下町。外は既に暗く、夕餉時のこの時間。何を食べようか歩いている所で良い匂いに釣られ、大通りの焼売屋に入った。

だされた焼売はとてもおいしく、あの三人と食べた一報亭の焼売にも劣らないものだった。

それはともかく、今俺達はテーブルを挟んで置かれた財布を睨んでいる。

残りの路銀は少なくはないが多くもない。次の街までの用意を考えると少し心許無い程である。

この世界に戻った時にかなり稼いだはずなのだが、旅とは思いがけず多くのお金を使うらしい。

 

幸い手元には数本のボールペンが残っている。

同じ方法で色が無いとは思うが、楽して稼げるならそれが一番だろう。

 

話し合いの結果、明日は各自で路銀稼ぎとなった。

 

宿へと戻り、華雄と少し雑談し床に就く。

暗闇の中脳裏に移る霞の姿。あの日仕合から目覚めると、既に彼女は居なかった。

そんな一方的な再開から既に数日が経っている。

華雄は未だに俺の……天の御使いの事については何も触れてこない。

その事に助けられているのだが、逆に自分の情けなさに滅入ってしまう。

いろいろと考えているうちに睡魔がやってきた。

とりあえず路銀稼ぎだ。と、明日へ意気込み意識に蓋を閉じた。

朝目覚めると既に華雄の姿は無かった。

昨日聞いた話によるとこの街に知り合いがいるらしく、働き口を紹介してくれるとのことらしい。

俺も誘われたが、やる事は決まっているので断った。

 

宿を出て少し歩くと大通りにでた。

大通りは多くの人が行き交い、賑わいを見せている。

街の中心にある広場では、子供達が遊びまわっていた。

 

ここなら多くの人が集まるだろう。

広場の一角に陣取り、懐からボールペンを取り出した。

 

 

 

 

「雪蓮ちゃん、本当にありがとう」

 

「いいのよおじいちゃん。ついでだったんだから」

 

蜀に向かったはずの私は、呉を出て魏領の城下町に来ていた。

理由は、仲の良いおじいちゃんの護衛だ。

働きにでてる息子の顔を見に街へ向かう事になったけど、護衛が雇えず困っていたらしい。そこに私が出くわした。

蜀に行って早く『ぼうるぺん』を見たかったけど、おじいちゃんが放っておけないのと、そうした方が良いという勘が働き自ら護衛に名乗り出た。

 

何度も頭を下げるおじいちゃんに苦笑いしながら手を振り別れる。

さてどうしたものか。

ここから蜀に向かうのは遠回り。あれから日も経ったし呉に新しい情報が来ているかもしれない。

 

「あーあ。勘、はずれちゃったなー」

 

このまま呉に戻るのも癪だ。

魏の街がどのように活気付いているのか見てみよう。

そう考え広場へと足を進めると、なにやら人だかりがあった。

 

胸に湧く高揚感。やっぱり私の勘は外れない!

 

「よっと……ほら、これ一本で字が書けちゃうんだ!墨や筆は不要だよ!」

 

響く声を聞き確信を持つ。私は意気揚々と人混みの中心に向かった。

「よっと……ほら、これ一本で字が書けちゃうんだ!墨や筆は不要だよ!」

 

おー!

と、集まった人達から感嘆の声がわく。

好感触に心の中でガッツポーズをする。後は低めの値段を提示すれば、自ずと高くなっていくだろう。

 

再び大きな声を出そうと息を吸い込んだ瞬間、視界に入った人に体が硬直した。

 

(そ、孫策さん!?)

 

予想し得ない人の出現に頭がパニックを起こす。

俺は持っていたボールペンをすぐさま懐にしまい込み、その場から駆け出した。

 

「おい兄ちゃん!そいつは売ってくれないのかい!」

 

「ごめん!また今度!」

 

背後から聞える残念そうな声に罪悪感を覚えながる。が、

 

「あ、こら!何で逃げるのよー!」

 

物凄い勢いで追ってくる孫策さん。

満面の笑みが恐怖を助長させる。

 

……あれ?彼女の言う通り何故俺は逃げているのだろう。

しかし後ろの彼女を見ると、止まるという選択肢は浮かんでこなかった。

何かしら面倒な事になると俺の勘が告げている。

 

と、思考をしていると、横から急に子供が飛び出してきた。

 

「おわっ!」

 

俺に気付いた子供は身を守るようにその場に蹲った。

その子供の上を跳躍し華麗に着地……はできず、無様に転げまわってしまう。

 

「いつつ……大丈夫か?」

 

砂埃を叩き払い涙眼の子供に言うと、お兄ちゃんが大丈夫?と心配されてしまった。

 

元気が戻った子供が広場へ向かうのを見送る。

 

「さて……と、宿へ戻るか」

 

「そうね、戻りましょうか」

 

ぽん。と肩を叩かれる。

やはりこの人は見逃してくれる気は無いらしい。

無邪気に笑いかけてくる彼女を振り払う気力は既に無かった。

「これがぼうるぺんかー」

 

宿の自室。ボールペンを売り旅の支度をするはずが、ほんの数十分で戻る羽目になった。

 

「わっ!すごい、本当に書ける……」

 

椅子に座り夢中でボールペンをいじる孫策さん。

呉の君主であるはずの彼女が、何故この街にいるのか。

そしてこれからどうなるのか、考えると頭が痛くなってくる。

 

「これ、もらっていい?」

 

「だめですよ。それが無いと路銀が稼げないんですから」

 

ちぇー。とぶーたれる彼女は、本当に呉の王なのだろうか。

彼女はこの部屋に入るなりずっとボールペンに関しての質問攻めだった。

説明としては、魏の李典将軍に弟子入りし、開発した事になっている。

 

本当は、俺の居る頃に言ってみたが、真桜でもボールペンを作ることはできなかったんだけど。

 

「それにしても、呉の王である孫策様が何故この様な街に?」

 

「……このぼうるぺんが気になってね。貴方、成都でもぼうるぺんを売ったでしょ。その情報が呉に届いて、成都に向かってる途中ここに寄ったのよ」

 

成都へ向かうなら何故魏へ?とは言えなかった。

今までの雰囲気はどこへ、いつの間にか彼女が俺を見る眼は鋭くなっていた。

その眼力に息を呑む。

 

「……これ、真桜に弟子入りして作ったって、嘘でしょ」

 

「嘘ではありません。李典将軍は絡繰にとても詳しく……」

 

たどたどしい説明になってしまう。

孫策さんは話を、俺の眼を見つめ終始微笑し聞いていた。

 

「へー、この私の前でそうやって嘘を突き通すのね」

 

「う、嘘では無いと……」

 

やはり、嘘だとばれてしまう。

孫策さんは立ち上がり楽しそうに剣を抜き、俺の首筋に宛がった。

冷たい感触に冷や汗が湧き出る。

 

「貴方に質問。正解したら、何も聞かないであげるわ」

 

「……」

 

「簡単な問題だから安心なさい」

「今の呉の王の名を答えなさい」

 

……本当に簡単だった。ついさっき答えを言っていた筈なのだが。

ふぅ。と安堵の息を吐き、告げる。

 

「孫策伯符、あなただ」

 

「……ぷ、あははははは!!!」

 

そう答えた瞬間、孫策さんが剣を放り出し大声で笑い出した。

俺は状況が掴めず立ち尽くすしかない。

少し経つと、孫策さんが目尻の涙を拭いながら剣を拾い仕舞った。

 

「ごめんね、脅すような真似して。でもお陰で確信しちゃった」

 

「は、はぁ。何を……」

 

「は ず れ。答えは孫権仲謀。二年前に私は王座を退いたのよ。もちろんその事は三国中に出回ったはずだし、大陸で知らない人なんていないはずなんだけどなー」

 

「な……」

 

ふふ、と微笑し続ける。

 

「最後の戦いの宴以来よね?その時はあなた今にも死にそうな顔してたけど……」

 

完全にばれている。

彼女の発す王の空気に、俺の足は床から付いて離れない。

 

「話、聞かせてくれるわよね。北郷一刀君?」

 

逃げる術は、無かった。

あとがき

 

 

 

お久しぶりです。

覚えている方はいらっしゃるでしょうか。

久遠15あっぷです。

雪蓮は最初から一刀が一刀であることは解っていました。(確信が無かっただけ)

だからこそ二人きりの部屋での王らしからぬ態度であったりするんですが、読み取って頂けてたら幸いです。

 

久しぶりに筆をとったのでストーリーが可笑しかったり文が成り立って無かったりしてないかとても不安です。

 

またちょくちょく投稿できればいいかなと思ってます。

完結まで頑張るぞー

 

ではまた次回に、ふぉんでしたー。


 
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