No.201806

虚々・恋姫無双 虚拾参

TAPEtさん

前振りが少し長くなりました。ここで一旦切ります。
らしくない文章になった気がします。
もうちょっと軽いものがいいですのにね。

紗江の三羽鴉の皆さんの呼びつけがさんになっていたため修正しました。

2011-02-15 21:05:06 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2429   閲覧ユーザー数:2086

孔明が紗江のことを忘れていることは仕方のないことだった。

反董卓連合が解散された後、もちろん孔明と鳳統は曹操軍の中を探ろうと持続的に斥候を出した。

だけど、どれだけ探っても自分たちの大先輩、司馬懿の名前が出てくることはなかった。

 

当然であった。

連合軍の後、僕は消え紗江の身体は急激に悪くなり政務をすることも難しい状況であった。

その上に紗江は一度も表側の重役を任されたことがない。

紗江ぐらいなら軍部の軍師や、政略部の長になっているだろうと思っていた二人は紗江の名が曹操軍で出て来ないことをおかしく思ったが、そのうち結局彼女の存在を忘れてしまったのであった。

 

なのに彼女が帰ってきた。

しかも今から自分が攻めなければならない城の軍師として。

どうして?

何故今更出てきた?

どうして今になって私たちの前を立ち防ぐの?

 

それにこの書簡。

これは二つの意味であった。

一つは後輩である自分を心配していることが少し。

そして、

 

それでも敵対することになるとしたら『本気を出す』と言っていたのだ。

今まで彼女が曹操軍から姿を見せなかったのはつまりそういう事だったんだ。

彼女は爪を隠して獲物を待っていた鷹だった。

一年も獲物を待っていた。

そしてその獲物が誰でもない自分であることに、孔明は正気を保つことができなかった。

 

「お姉さま……どうして…」

「朱里!しっかししろ、朱里!」

「孔明殿!」

「…雛里ちゃん、私どうしよう」

 

 

 

 

 

倒れた孔明を部屋に送った後、趙雲は孔明が見た書簡を確認した。

 

「司馬懿仲達……」

 

趙雲としては聞いたことがない名前であった。

趙雲も一度司馬懿に会ったことはあった。

けど、連合軍から一年も過ぎた時期であった上にあの時は一刀ちゃんのことに夢中で一緒に来た人のことは眼中にもなかった。

 

「司馬懿じゃと?!」

 

その名前を聞いた馬騰は突然持っていた扇を両手で掴んで真っ二つに破った。

 

「一体誰じゃ!あの娘の名を使っておるヤツは!」

「どういう意味ですか?」

 

趙雲が驚いて聞けば、馬騰は怒りを抑えぬまま話した。

 

「以前荊州の水鏡、司馬徽がまだ塾を広げてもいない時に、彼女の魅惑する才を持った娘がおった。水鏡は彼者に自分が持っていた全てを教えた。じゃが、その後あの娘は水鏡の前から姿を消し、ここ長安にてご両親とだけ過ごしておった」

 

馬騰はそこまで話して、ふと自分が冷静をうしなっていることに気づき、落ち着いて自分の席に戻った。

 

「あの娘の名前は司馬懿じゃった。あの子の噂を耳にした名家の者数々があの娘を養女に入れようとし、多くの君主たちが自分のところに仕官させようとした。妾もその一人じゃった。じゃがあの娘はそんな誘いに一度も手を伸ばしたことがおらん。心の揺るぎさえもおらんかった。あの娘は一度も誰かのためにその知恵を使おうとは思いもしなかったのじゃ」

「そんな者が曹操の元に居るというのですか?」

「ふん!あの曹操が司馬懿を軍師にじゃと?身の程を知れというものじゃ」

 

馬騰は鼻笑いをして話を続けた。

 

「そして、曹操もやがて司馬懿の存在を知った。曹操は何年をかけて司馬懿を自分の手に入れようとした。美しい女と特なる才には目がない小娘じゃったから、その二つを同時に持っている者を見逃すはずがあるまい。司馬懿は事々曹操の申し出を断った。じゃが曹操もそのあたりの者どもとは違う。相当しつこかったのか、司馬懿は一度自分の足で曹操の元に行きおった。そして自分の元にもう使者を尋ねさせないように頭を下げてまで願った。そこまでしおったからには曹操もそれ以上何もすることができなかったようじゃ。彼女に護衛を付けて親たちの元に戻らせた」

 

馬騰は目を閉じた。

 

「そして、司馬懿は死んだ。曹操あの小娘と一緒に行かせた護衛たちの手によって穢されての」

「!!」

「曹操は司馬懿を盛大に葬儀をあげた。司馬懿は確かに世に二人もいない美人じゃった。兵士たちが勝手にそんなことをした可能性もあるじゃろう。じゃが、妾は忘れはせぬ。葬礼で一瞬だけ見たあの小娘の口から零れた笑いをの」

 

そして、何よりも馬騰が曹操を許せなかったのは、その後のことであった。

 

「曹操…あの娘は悪魔じゃ。自分の手に入らないからって誰の手にも入らないようにするためそんなことをしおった。放っておいても司馬懿は誰にも仕えやしなかったものを……」

「それでは、この書簡にある司馬懿とは一体…」

「曹操のことじゃ。何をしたのかは知らんじゃが、一度もなく二度までも、生きた者までもなく死者までも侮辱しおった。ゆるすまじきことよ!」

 

馬騰はパッと立ち上がった。

 

「翠!蒲公英!」

「はっ!」「はい」

「全軍に告げ!妾たちは今から長安に向かう!」

「!」

 

趙雲は驚いた。

 

「ちょっと待ってくれ。まだ我が軍はここに到着していない。しかも軍師殿があの様では……」

「そなたたちの助けは要らん。我らだけでもあの連中どもに礼儀と言うものを知らせてやるわ!」

 

馬騰も曹操に負けずとかわいい女が好きな人であった。

馬騰は例え文官として側におくことを諦めてからも、自分の領地にいた彼女の家に食料や女の装身具などをあげるという名目で尋ねることもあった。紗江もそんな馬騰の心中知っていたのかそれまでは断ることがなかった。

馬騰は紗江を欲しがっていた誰よりも違い深い関係を保っていたのだ。

 

そして、そんな彼女にを与えた曹操を誰よりも憎んでいた。

 

「昼には出立するわい!趙雲殿もお供してくれ」

「……承知した」

 

同盟国として、趙雲はその命令を引き受けざるを得なかった。

 

 

「何一人勝手に宣戦布告の書出しとるんじゃー!」

 

朝、長安ではそんな叫びが上がっています。

 

「紗江、お前な…」

「……<<すー>>おかわりいただけますでしょうか」

「は、はい」

「聞け!」

 

のんびりと侍女からのお茶をもらっている紗江の姿はいつもの優しい妹の雰囲気から大いに外されているものがありました。

 

「少し言い過ぎではありません?」

 

いいえ、順当です。

 

「言い過ぎって何や!」

 

そして他の方が自分のことかと思って更に大きいな声を出しています。

今更言いますが僕は大きい声が嫌いなんですよ。

 

「どうせほっといても馬騰さんの軍は明日には来ました」

「だからってそんなことする必要はないやんか!」

「今日出てもらわなければ西涼軍と蜀軍の両方を相手しなければならないからです」

「?!」

「よろしいですか、霞さん」

 

紗江は湯飲みを下ろして霞さんを見ました。

 

「蜀の軍勢はまだここに到着してません。敵が合流して長安に攻めて来れば、いくら長安城と言えど一週間持たないでしょう。ですからわざと先に宣戦布告して馬騰さんを挑発し、蜀軍を待たずに先にここをせめて来るようにしたのです」

「うぅ……せやけど、馬騰が挑発に乗らずに明日まで待ったらどうするねん?」

「馬騰さんは必ず来ます。馬騰さんなら……」

「?」

 

紗江は馬騰のことを良く知っていました。自分の名前を見た瞬間昔の記憶が走って怒気を堪えず出てくることを的確に読んでいたのです。

かつての知り合いだった人に、ここまでするとは……これが軍師としての紗江という人物なのか。

 

「さて、お迎えの準備をするとしましょう」

「どうするつもりなん?」

「何も致しません」

「何も致さなくても宜しいのです」

「何を言って……」

「………」

 

紗江はそれ以上霞さんに何も説明せずに部屋を出た。

 

 

 

 

場面は変わって五丈原。

 

「李典将軍、作業が完了しました」

「よぉし、じゃあ、ほかんところへいくで」

「はっ」

 

五丈原で霞さんと紗江の言った通り、あるものをしかけていた真桜君と沙和君の作業はほとんど終わりつつあった。

援軍に来るに長い道を来た上に、長安城でろくに休みもできずここに来て作業をすることに文句を言ってもおかしくはなかったが、そうは言っても任されたことをほったらかしにするほどではなかった。

彼女たちも、この状況の重大さが分かっているのだろう。

 

「申し上げます!西方から馬の牙門旗の騎馬隊がこちらに来ています!」

「ちっ、早かったな。全軍森に隠れるでー!しかけたものバレないようにちゃんと隠しときー!」

「ははっ!」

 

李典の号令に工兵隊は一糸乱れず動いた。

この兵たちは真桜が華琳さまから資金を受けて作った専属の工兵隊だった。

日頃にも城のあっちこっちで城壁の補修から真桜の発明を手伝うなど、いつも真桜と行動と共にしているこの部隊は、皆真桜に及ばんとも中々の腕前をもった匠たちであった。

 

直ぐそこから馬の音が聞こえる。

真桜たちは直ぐに森の中に身を隠した。

 

大勢の騎馬隊が長々と五丈原と通って長安に向かっていた。

 

「ひええ、多いな」

「大丈夫なのですか?直ぐに長安の張遼将軍に伝達を…」

「あっちでも知っておるやろうから放っておきぃ、ウチらは任されたことがあるんや。それを早く終わらせんとその時は本当にお終いやからな」

「はぁ」

 

他のところでは沙和が同じく真桜の工兵隊の者たちと一緒に作業をしていた。

この作業は昨日の夜から続いた作業であった。

両方とも徹夜しているのに、何の作業なのか未だに終っていなかった。

 

騎馬隊はまだ続く。

数は……今通ったのでも一万はあった。

しかも五丈原を通る道はここ一つではなかった。

それを考えると一体どれほどの数が長安に向かっているのか、真桜君は考えるだけでも冷や汗をかきそうだった。

だけど、今自分に出来ることは、霞姐さんに任されたことを成し遂げる、それしかなかった。

 

 

 

 

「朱里、無事だったら良いが……」

 

五丈原を駆けながらも趙雲は倒れてた孔明のことを心配していた。

 

「軍師さんのことが心配なのか?」

「うむ?お主は……確か錦馬超だったな」

「ああ、軍師さんのところには西涼で一番腕のある医者に任せてあるんだ。心配することはない」

「……いや、身体のことを心配しているのではない。それよりも…」

「うん?」

「起きてきてから戦えるかが心配だ」

「?……ああ」

 

馬騰の話から察するに司馬懿は確か孔明の先輩になるのだろう。

そしてそれについて孔明が知っているとして、あの書簡は孔明のことを脅迫していた。

いつもはわわとか言っている孔明だが、軍事に関してはいつも的確だった孔明が司馬懿の手紙を見ただけで気を失っていた。

もしかすると、孔明はこの戦いを放棄しようと、馬騰との同盟を諦めようとするかも知れなかった。

 

「馬超殿。もし、敵将と一騎打ちにすることになったら、僭越ながら私に出てもらえるか?」

「え?そりゃあ、別にいいけど…何故だ?」

「………何か、何かをせねばなるまい」

 

孔明に勇気を持たせるために何かをしなければ、と趙雲は思いながら馬をより早く走らせていた。

 

 

♪~……♪~~

 

「……」

 

♪……♫♪~~

 

「何しとるんや、紗江?」

「見てのとおり、琴を弾いている最中であります。これでも得意だったのですよ?」

 

長安外城壁の上で紗江は琴を弾いていました。

琴の旋律は風に乗って長安をめぐり西へと向かいます。

紗江に頼まれて、太平要術書で風を操っていたりしますが、これは少し笑えそうな姿ですね。

これは正史で諸葛孔明が司馬懿から逃げるために使った方法だったものを……

 

正史の孔明のように城門を開いて平和そうにしていたわけではないけど、城中を静かにして琴の音だけを響かせる様子は、もうすぐここが戦場になるだと誰も思えないほどでした。

 

「…そろそろ来ます。霞さんも前にでないで後ろで待っていてください」

「一人でこんなところに居てどうするんや」

「戦いに於いて一番良いことは、戦わずに勝つことです」

 

紗江はそこまで言って琴をひき続けた。

 

「そういうんだったら万の一のために凪でも…」

「凪君は他のところに行かせました。少女のことは大丈夫ですから、霞さんは何が起きてもここに顔を出してはいけません」

「………」

 

霞さんはそれ以上何か言いたそうな顔でしたが、言葉が喉を通らないようでした。

 

「わかった。気をつけろや」

 

やがて霞さんが城壁が降りていったところですが、

 

――無茶な振りにもほどがあります。

【一度死んだ身。二度、三度死ぬことに恐れはありませんからね】

――馬騰に通用しなければどうするつもりですか?

【通用します。必ずや】

――ずいぶんと自身あり気ですね。

【……一度も】

――?

【一度も少女の考えから外れることが起きたことは……世からありませんでした……左慈さんが少女の元に来たことを除けば】

――……まさか、紗江は華琳さまが自分を殺すということも。

【もちろん知って参られました】

――どうしてそんなことを…!

【……あの時、誰の手にも及ばんとする少女を殺そうとする者は、華琳さま以外にも数多くありました】

――!

【ですが、家でいれば家族たちを巻き込むことになりかねません。ですから、死ぬならせめて愛の感情を持った方によって……と】

――………最初から……最初から全てを知っていながら!

【…左慈さん、左慈さんは少女が一度も戦場に立たなかった理由を分かりますか?】

――分かりません。

【今日少女は一生を賭けて最初で最後の戦いを行います。この戦場が、少女がどの勢力にも手を付けなかった理由……左慈さんには見えるはずです】

――!

 

 

 

 

その後紗江の言葉のとおり、紗江はその理由を見せてくれました。

紗江は天才でありました。

綺麗な姿と、その天の才を持って華琳さまを含んだ多くの人たちを魅惑しました。

にもかかわらず、紗江が戦場に立たなかった理由を、僕は分かる気がしました。

だけど、紗江が言おうとした本当の意味、僕はそれを信じません。

 

だって、

今紗江の目から溢れる涙が、それが否だと言う証拠なのですから。

 

 


 
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