No.200751

虚々・恋姫無双 虚拾『万安隠者パート』

TAPEtさん

同じところを結以のサイドから見てみました。
もうちょっと進めようとおもったんですけど、思った以上に長かったので一刀ちゃんパートと同じところで切ります。

2011-02-10 18:18:08 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2294   閲覧ユーザー数:1979

――そうですか。結局于吉は動きませんでしたか。

 

左慈さまのお考えが過ぎていたのではないでしょうか。わたくしが見る限り、一刀様はとても良くなさっております。わたくしが居なくても一刀様は十分対応することが出来るかと

 

――いや、それは別の問題です。それに、万安には他にもしてもらわなければならないことがありますから。

 

はい、お任せください。

 

――……ごめんなさい、万安ちゃん。

 

もう寄せてください。左慈さまがわたくしに謝る理由がありません。

 

――死ぬかも知れない。

 

………

 

――あなたを死なせたくないのです。

 

……左慈さまに救われたあの時から、わたくしの命はあなたのものです。あなたが死ねと言えば死に、生きろといれば何としてでも生きます。

 

――……

 

だけど、左慈さまの望みはそれではありません。左慈さまの望みはわたくしが生きて帰ってくることではなく、あの方、一刀様の安全です。もしわたくしの命がその使命に反することがあるとすれば、わたくしはいつでもこの命を切り落とす覚悟があります。

 

――………ごめんなさい、万安ちゃん

 

 

……目が覚めました。

外はまだ夜明けもしてなく、まだ日が出るには時間があります。

 

「左慈さま………」

 

結局、今夜も左慈さまはごめんなさいとしか言いませんでした。

昔の左慈さまはもっと怖くて険しい方でしたのに……。

別に今の左慈さまが嫌だと言うわけではありません。

ですが以前とはあまりにも変わったあの方の姿に、まだ少し混乱しています。

きっと、あの方も長い時間の間何かがあったのでしょう。

 

身体を起して横を見ると、一刀様が自分の布団でまだすーすーと寝ていらっしゃいます。

 

急いで一刀様の布団に向かって、しかけてあった装置を外します。

これは誰か一刀様の身体を狙えるほど寝台に近づくと猛毒を入れた針が布団の下の装置から八方に放たれるように仕掛けてあるものです。

結局、今日もひっかかったものはありませんでした。

まだちゃんと実験していない新作の毒でしたので、被実験体を見つけられなかったことが少し残念ではありますが、その分一刀様の安全が守られたわけですから良しとしましょう」

 

次は一刀様が起きる前に一刀様が飲む薬作ります。

一刀様に飲ませている薬は特に害をなるような作用をする材料はありませんが、凄く苦いものが多いです(どうしてこうなったのでしょうか)。<良い薬は口に於いて苦い>と言いますが、その並みではありません。普通だと口に入れた瞬間胃の中のものまで吐き出すほど苦いものなのです。

 

一刀様も最初には凄く苦くて飲むことに恐れがあったらしくて甘草とかもくわえてなんとか苦さを中和させてるつもりですが、それでも凄く苦いです。嫌がりながらもそれを我慢して飲む一刀様の姿には、正直感服せざるをえませんでした。

 

「…できました」

 

後はこれをお湯に淹れるだけです。

 

「………」

 

それからは…特にすることはありません。

ここに居座って、夜が明けて一刀様が目覚めることを待つだけです。

 

……待つことは得意です。

万安界ではいつも一人で、することは日に日に庭に育てた薬になる植物の面倒を見て、それから部屋の中でぼーっとしているだけでした。

こんな森の深くまで来る人もありません。時折母上の旧臣たちが来てくれることがありますが、それも年にニ度も会ったら多い方。

一人で凄く日々は、決して楽しいものではありませんでした。

 

ですが今は、お側に誰かが居ます。

例え今は眠っているとしても、誰かが側に居るということだけでも、わたくしには力になるのです。

 

夜が開けるまで…後一刻ぐらいでしょうか……

 

 

 

 

 

正直に言うと、早く夜が開けたらいいなと思っています………

 

 

 

 

夜が開けてしばらく、軍の皆さんが起きて動きを始めてから結構時間が経ちましたが、まだ一刀様は起こる様子がありません。

いつものことですので少し身体を揺らしてみます。

 

「……ぅぅん……」

 

起きませんね。

 

「一刀様…一刀様」

「……ぅぅ……」

 

少し顔をしかめた一刀様は小さく目を覚ましました。

 

「………」

 

朝起き他一刀様は薬の効果が切れて何事も言いませんでした。

 

「あそこに新しい薬を用意してます」

 

わたくしがとって来ても宜しいですが、一刀様が寝台から起きてきてもらうようにわざと少し離れたテーブルにおいておきました。

 

 

「<<ゴク‥ゴク>>…はぁ」

 

寝台から起きてテーブルにあったお湯を飲んだ一刀様の顔は一瞬苦さに苦しみながら下を向きました。

やはり苦いのでしょう。

 

「はぁ……おはよう、結以お姉ちゃん」

「おはようございます、一刀様」

 

朝起きて一刀様と互いに挨拶をすることは、一日の中で一番楽しいことになっていました。

 

 

 

「結以お姉ちゃん、ボク行ってくるね」

「はい」

 

起きた一刀様は服を来て朝食を食べに出かけます。

他の将の方々が集まる場なので、流石にわたくしでも一刀様に付いてことにはなりません。

ですが、わたくしなりに気をつけてはいます。

一刀様が朝のんでいる薬には、毒に耐性が付く効果もありますので飲んでしばらくは毒を中和することが出来ます。

もちろん、魏の将のみなさんもいらっしゃる場でそんなことはないでしょうが、一応飲食に入っている毒の対処です。

 

一刀様が戻られるまではわたくしがすることがありません。

だからまた待ちます。

 

……

 

人を待つことは楽しいことではないのかも知れません。

だけど、その人が来ることが確実で待っていることと、いつ来るか知らない人を待っていること。

その二つの差はとても明らかです。

 

……

 

でもやはり何もすることもないのに毎日こうしているのは少しアレですね。

 

歌でも歌っていましょう。

 

「君の影、星のように、朝に解けて消えてゆく

行き先を無くしたまま、思いは溢れてくる。

強さにも、弱さにも、この心は向き合えた。

君とならどんな明日が来ても怖くないのに♪」

 

 

左慈さまが良く昔良く歌っていた歌です。

左慈さまはいつもこの歌を口癖みたいに呟いていたので、わたくしも知らないうちに歌詞を覚えてしまいました。

 

左慈さまが居なくなってからはわたくしが左慈さまのようにそういつもこの歌を口に付けていましたけどね。

だって、この歌を歌っていると左慈さまの顔が浮かびますもの。

 

「二人歩いた時を信じていて欲しい

真実も嘘もなく夜は開けて朝が来る。

星空が朝に解けても君の…」

 

スッ

 

「!」

 

一刀様が来た?

え?ちょっと…もしかしてわたくしが歌ってたの気づかれたんじゃないでしょうね?

嫌です!こんな姿バレたら恥ずかしくて死んじゃいます!

 

「…あれ?」

 

一刀様の様子が少しおかしいです。

その場から動きがありません。

 

「一刀様?」

 

それに、いつもとは別だとしても、今日は呉の本拠地を前にして将の皆さんが戦略を確認し直す場があったはずです。

なのにどうしてこんなに早く一刀様は戻られなのでしょう。

 

「おかしい」

「どうしたのですか?」

「ボクスッとしようと思ったことないのに……ごめん、ボクちょっと行ってくる」

 

スッ

 

「え?ちょっと、一刀様?」

 

…行っちゃったようです。

 

しようと思ってなかったのに…動けた?

左慈さまは、一刀様が近くで身の危険を感じると安全なる場所に無意識に移動すると仰ってました。

……一刀様が居た場所には将の皆さんしかいなかったはずですが……

……嫌な予感がします。

 

 

 

 

「それでは、もう大丈夫なのですか?」

「うん、なんだったんだろうね。アレって…あんなこと初めてだよ」

 

軍議も終わって一刀様が戻られました。

わたくしたちは曹操さまの部隊と一緒に、孫呉の周辺の拠点を落としながら前に進んでいます。

わたくしたちが居た場所は後尾だったため、一刀様はわたくしと一緒に天幕に居る間、特に何事もなくわたくしと話をしていました。

 

だけど、私には伝わりました。

風に乗って飛んでくる血の匂い。

とても濃い血の匂い。

きっと戦線では凄い戦いが繰り広げられているのでしょう。

 

曹操さまは一刀様戦争の間自分のところに来ないよう厳命なさったそうです。

きっとそのような場面を一刀様に見せたくなかったのでしょう。

そこまでなさるのだったら子供を戦場に出すようなことをせねば良いことですのに…

 

「一刀様はどうしてこの戦争に一緒に来ようと思ったんですか?」

「ふえ?」

 

一刀様はキョトンとした顔でわたくしを見つめました。

それはまるで、「一刀様はどうしてご飯を食べるのですか?」みたいなとても当たり前のことをわたくしが聞いたかのような顔でした。

 

「だって、戦場ですよ。何がどうなるかが分からない場所です。いつ危険が迫るとして、魏の武将の方々が一刀様を守られる状況ではない場面も数多くあります。そんな危ないところに、どうして来ようと思ったのですか?」

「それはだれだってそうでしょう?別にボクだからって戦いの中で危ないと死んで他のお姉ちゃんたちは危なくても天下無双できるってわけじゃないよ」

「それはそうですけど、腕というものが…」

「それに、ボクはお姉ちゃんたちが好き。だからいつでも華琳お姉ちゃんたちと一緒に居たい。でないと、ボクは……」

「?」

「………」

 

突然一刀様は黙り込みました。

次の時、一刀様がわたくしの側から離れます。

 

「どこに行かれるのです?」

「厠」

 

一刀様は歩いて行ってしまってから、わたくしは自分が言ってはならないことを言ってしまったと気付いてしまいました。

一刀様が戻って来られたら謝りましょう。

 

 

 

 

風から血の匂いがしなくなりました。代わりに、水の匂いがします。

魏軍の本陣は特に大きい妨害を受けることもなく、計画通りに南進し、孫呉の本拠地、廬江着いたのでした。

 

「風が気持ちいいね」

「そうですね……」

 

南蛮の空気は少し濁っています。

南蛮を出て天下なる地の上での空気を吸った時には少し枯れたような感じがしました。

そしてここは水を近くにした場所。爽やかな風がマントの中に隠れているわたくしの顔をなぞっていきます。

だけど、強い風にマントが外されてはいけませんのでマントも付け直します。

 

「?」

 

その時、水の匂いとはまた違う、異質な匂いが感じられました。

異質な匂い。だけど慣れてる匂い

 

「あそこに大きい城が見えるよ」

 

一刀様が指すところには廬江城が見えていました。

風もあそこから吹いてきています。

 

「……どうしたの、結以お姉ちゃん?」

「……風から……微々たるものの血の匂いがします」

 

そう、これは血の匂い。

そして、この慣れた匂いは…

 

「え?」

「先までの戦いからのものではありません。廬江城から来る風から、血の匂いがします」

「もう春蘭お姉ちゃんたちが戦いを始めたの?」

「いいえ、そういうものではありません。戦いが始まったと思うには、あまりにも薄い匂いです……ですが…とても致命的な…っ!」

 

この馴れ馴れしい匂いは、

毒の匂い!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「一刀ちゃんの護衛と、それともう一つあなたにしかできないことがあります」

「わたくしにしかできないこと?」

「………」

「……外史に関わる、『言ってはいけない事』ですか?」

「ごめんなさい。けど、これだけは言えます。孫策に関わることです。後はあなたに出来ることをしてください」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

血の匂い、毒、孫策……

そうか。

……ああ、左慈さま、あなたは……わたくしになんてことを……

 

だけど、やらなければなりません。

 

「結以お姉ちゃん?」

「一刀様、申し訳ありません。わたくしは、これで、一刀様にお別れを告げることになりそうです」

「え?どうして急に…」

 

どんなことが起きるか分かりません。

わたくしの身一つだけならどうにもなりますけど、一刀様まで守れるかどうか分かりません。寧ろここに居た方が安全でしょう。

それにあんな遠い城から匂いが流れてきているのです。もう毒が放たれてどれほど長い時間が経ったでしょうか。早く行かなければ間に合わなくなってしまうかも知れません。

 

「ちょ、ちょっと待って結以お姉ちゃん、よく分からないけど、せめて華琳お姉ちゃんにでも……」

「一秒を争うことなんです。ごめんなさい、一刀様」

「……じゃあ、ボクも一緒に行く」

「へ?」

 

この方は何を仰っているのですか?

 

「どこに行こうとするのかは知らないけど、もうすぐここは戦いが繰り広がる場所になるよ。そんなところで急に一人で行こうとしたら危ない。誰かに見つかったら斥候かと思われて殺されるかもしれない」

 

っ!

あまり正論過ぎてどうにも言えません。

というか以前わたくしがそんなこと言った時には「この人何言ってるの」と言いたそうな顔で見られてましたけど。

 

「ボクが連れて行ったらそんな心配もない」

「それは……」

 

そういえば、一刀様は人に気づかずあっちこっちに動くことができます。

その能力を使うと、確かにわたくしが足で行くよりも早く、そして誰にも気付かれずあそこまで着くでしょう。

ですが…それだと左慈さまと交わったお約束が……

 

「大体、目も見えないのにどうやって行くつもりだよ。一人で行っちゃ駄目、絶対。ボクが一緒に行く。結以お姉ちゃんのことボクが守ってあげる」

「……!」

 

……

 

ああ、そう言えばですね。

わたくし、今まで何一つ一刀様を守れるようなことはしていませんでした。

寧ろ目が見えないわたくしのために、一刀様はずっとわたくしの側にいてくださって、話相手になってくださって、

救われていたのは寧ろずっとわたくしの方だったのです。

 

「わかりました」

 

それならば、

今度はわたくしも一刀様を守ってみせます。

 

「うん、じゃあ、ボクの手掴まって」

 

一刀様の小さな手から力を感じます。

左慈さま、この方は、あなた様が思っているほど弱くて、守られるばかりの方ではないみたいです。

 

「行き先は…南南東に五里ぐらいです」

 

城の中、それだけは確かです。

後は城に入ってから細やかに匂いを追って行くしかありません。

 

「……それだと城の中に入っちゃうよ?」

「…心辺りがあります。とにかく急いでください」

 

早くしないと間に合わないかも知れません。

もしそうなれば、左慈さまがわたくしの命を賭けてまで止めたかったそんなことが起きるとすれば……

 

「…いくよ、動かないで」

 

スッ

 

 

身体が動かされた、という感覚を感じたと思ったら次の瞬間、森の匂いがしました。

 

「この辺り?」

「……これ以上詳しい場所は……周りには木しかないようですね」

「うん、森だよ……何でわかるの?」

「わたくしは目が見えない代わりに他の感覚を使って周りの景色を描くのです。日が良く入らない場所、湿っぽい空気、小さく聞こえる川の流れる音。そういうものを合わせてここがどんな場所かを予測するのですよ……そんなことより、周囲に何かありませんか?」

「木しか見えないよ……もっと詳しい方向は分からないの?」

「ちょっと待ってください」

 

とは言っても、木の匂いが強すぎてそうでなくても薄かった血の匂いがまったく匂いません。

 

バサッ!

 

茂みから音が…!

わたくしと一刀ちゃん以外に誰か居ます!

 

「一刀様」

「結以お姉ちゃん、ボクの手を絶対放したらだめだよ」

「あ、はい」

 

気をつけてください、というつもりでしたのに、逆に何か逞しい言葉を聞かれてしまいました。

 

バサッ

 

「結以お姉ちゃん、ボクの腕に掴まって」

「は、はい」

 

取り敢えず、言われた通り一刀様の細い腕を掴みました。

 

そしたら一刀様はいつも右手にはめていた指輪を外しました。

指輪は少し光ってから弓と化けました。

 

アレも左慈さまがあげたものでしょうか。

 

一刀様は音がする方に矢のない弓を向けて静かに待っていました。

 

バサッバサッ

 

そして相手の姿が見えたとき、一刀ちゃんとわたくしはびっくりしました。

 

「誰?まだ戦争は始まってもいないはずなのにどうしてこんな大勢に城に潜んできてるの?」

「お、俺達は……」

 

そこに居たのは黒い鎧を来ている兵士、つまり味方の軍でした。

それも一人でもなく十人以上あります。

どうして什長単位で兵が動いているのでしょうか。斥候だと見るにはこんな密集しているわけがありませんし、それでなければ今魏軍がこの呉の城の中にいる訳が見つかりません。

 

「おい、何ガキにてこずってんだよ。さっさと逃げないと連中が……」

「馬鹿、この方は……」

 

その中の一人が突然一刀様に向けて剣を振ろうとしました。

なんてことをするのでしょう!

味方ですよ?一刀様は魏軍の将の方々に愛されている子なんですよ。そんな方の身体に傷一つでもさせたと来たらただで済むはずがないというのに!

 

「まって!」

 

横で一刀ちゃんが口を開けましたが、こういう馬鹿なものにはもっと効くものがあります。

前荒野でわたくしを振り切ろうとした魏の兵士たちに使った神経毒を塗った針を彼に投げます。

 

シャキッ

 

「うっ!!」

 

一瞬に毒に身体を侵され、一刀様を攻撃しようとした兵士はその場に倒れました。

しばらくは指一本もろくに動けないでしょう。

 

「神経を麻痺させる毒です。命に害はありませんが…もしここに倒れていて孫呉の兵に見つかったら、その場で処刑されるでしょう。どうしますか?その毒をわたくしに渡しますか?それとも………」

「ううっ……や、やればいいだろ?」

「なんだってんだ。わけがわからんぜ!」

 

 

 

闇市長で容易く手に入れられる安物の毒です。

 

 

男たちは諦めた口調で言いました。

そしてこっちに何かを投げました。

 

「これは……何?」

「一刀様、それをわたくしに…」

「うん?…うん」

 

一刀様から渡された物は小さな小瓶でした。

この中に毒が入っているのでしょう。

解毒剤をつくるためには毒の匂い、色、そして患者の様態などを見て毒の材料を見抜きます。

ですがわたくしにはそれらを見抜くための目がありません。

ですから、目の役割を他の感覚に回すことにしました。

それは…

 

「<<ゴクッ>>」

 

味覚です。

 

「!」

「おい、貴様、死ぬ気か!それは猛毒……!」

 

猛毒?

南蛮であらゆる毒草を齧ってきたわたくしにとってこのような毒、子供が間違って飲んだ醤油とそう変わりません。

 

「………なるほど……材料はわかりました」

 

闇市長で容易く手に入れられる安物の毒です。

 

「行きましょう、一刀様。時間がありません」

「結以お姉ちゃん、…大丈夫なの?」

 

一刀様はほんと、自分の安全とかは眼中にいませんね。

わたくしを守ろうとここまで来たことも、先自分の味方軍の剣に殺されかけてたことも気にせず、わたくしのことを心配してくれています。

それはもちろん、わたくしが目の前で猛毒を口にしたからそうであってもそれほどおかしくはないかもしれませんが、どの道わたくしには頼もしく覚えました。

 

それに比べ、あの人たちは……

 

「あなたたちも死にたくなければ早く本陣に戻ってください。最も……」

 

一言言ってあげねば気が済みません。

 

「帰っても生きるかどうかわかりませんけど」

「ひっ!」

「ば、化物!!」

「結以……お姉ちゃん」

 

明らかにわたくしの口から発したことによった驚きではない、恐怖に満ちた人たちの顔。そして一刀様の驚いた顔を見てわたくしは何かおかしいと思いました。

 

「!」

 

ふと気づいた時、わたくしの顔を隠してたマントが森の強い風に脱がされてました。

 

 

「ひ、ひぃぃ!!!」

「お、おい、待て、まてって!」

「………」

 

兵士たちが逃げていきます。

まるで化物を三鷹のような、恐怖に満ちた顔で。

そう、これはわたくしの顔です。

誰にも見せたくなかったわたくしの顔。

 

最初は知りませんでした。

薬草を一人で勉強するつもりで、いつの間にか毒が入ってる草にも手をつけるようになりました。

だけど誰かに試すことも出来ず、全て自分の身体に試す中、命だけは落とされなかったものの、わたくしはこんな姿になってしまっていました。

 

だけど、それをあんな下種ども見られたとして、わたくしは構いませんでした。

でも、今ここにまだ残って、逃げることも忘れたかのようにまだわたくしを見つめている子が居ます。

 

「…一刀様」

「…結以お姉ちゃん」

 

わたくしは磯ぢえマントを被りました。

わたくしに泣く目がまだ残っていたのなら、残っている涙、一生使う涙を今ここで使いたい気分です。

 

見られた。

見られてしまった。一刀様にこんな顔を…

嫌われる。嫌われてしまう。

 

だから隠してきたのに。

誰にも見せたくなかった。わたくしが知ってる人たちに

だから美似ちゃんにも出られなかった。

だからあの場所から出ることがなかった。

 

………

 

「ここからはわたくし一人で行きます。先のやつらが来た方向に行けば、きっと孫策さまを見つけられるでしょう」

「…どういうこと?」

 

一刀様に状況を軽く説明します。

 

「あいつらは孫策さまを暗殺しようと毒を用意してここまで来たのです。理由は多分賞金でしょう」

「孫策を…暗殺?」

 

左慈さまは恐らくこれを気にしておられたのでしょう。

孫策が魏軍の手に毒殺されたというと孫呉の兵は死兵と化して魏に当たるはずです。

そうなったらいくら魏でも戦う名分も失った場面で大きいな被害を避けることはできないはず。

だから左慈さまはわたくしに孫策さまを救うように命じたのでした。

 

「さあ、一刀様はもう戻ってください」

 

ここからはわたくし一人で行けます。

一刀様が無理をしてわたくしと一緒に来る必要はありません。

 

「……」

 

一刀様はしばらく何も言わずに立っていました。

そして、次に一刀様の口から出た言葉は、

 

「駄目、ボクも一緒に行く」

 

わたくしが望んでいたこととはまったく違うもの。

 

「ここからは危険です」

「それは結以お姉ちゃんも同じでしょ?ボクが結以お姉ちゃんのこと守るって言ったから最後まで守る」

「っ……!あなたは、怖くないのですか?」

「大丈夫だよ。ボクは何か危険があったら直ぐに逃げれるから…」

「そういうのではなく…!……わたくしのことです」

「……?」

 

あ、またです。

またこの方はわたくしに「何を馬鹿なことを言っているの?」と言ってるような顔をなさっています。

 

「こんな顔…誰にも見せたくなかったのに……だから今まであの小屋から一歩もでないで、妹にも会わずに生きてきたのに……」

「…大丈夫だよ、結以お姉ちゃん」

 

へ?

 

「……一刀様?」

「ボクも分かるよ、そんな気持ち。自分が他の人と違うから、人たちが自分のことを怖く思うのが怖いんでしょ?」

 

 

「ボクもね?そうだったの。母さんがね……ボクがあっちこっちに歩かずに行けるのを見て、それが怖くてどっかに行っちゃったの」

「!」

 

そんな……

 

わたくしが怖くて逃げ回っていたことに、

こんな小さな子供は既にそれをその身で経験したというのですか?

なのに、こんなに……

 

「だから、ボクはそんなことしない。結以お姉ちゃんのおかげでボクは短い時間だったけど話せるようになったから、凄く感謝してるよ。そんな人がただ顔がそんなんだとして怖いと思うとか……そんなことはしない」

「一刀……様……」

「後ね。ここから戻ったら絶対その妹さんのこと会いに行ってみて。きっとお姉ちゃんのこと歓迎するからさ」

 

……わたくしは、馬鹿です。臆病者です。

こんな子供でも自分の運命に立ち向かってここまで来たのに、わたくしは今まで逃げてばかりでした。

まるでわたくしが世の中で誰にも見せられてはいけない悪のように取り扱って…自分のことを一番化物だと思って蔑んでいたのはわたくしだったのです。

 

「…はい」

 

そう、ここから戻ったら一刀様の言う通りに皆の前に出よう。

美似ちゃんに会いに行こう。

わたくしはそう思いました。

 

「行こう!一大事でしょ?早く行かないと、孫策さんが危ないよ」

「…はい!」

 

ありがとうございます。一刀様。

わたくし、あなた様に会ってほんとに良かったです。

 

 


 
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