No.200285

そらのおとしもの 二次創作 ~ 空駆ける天使達 ~

tkさん

『そらのおとしもの』の二次創作です。
今回はゲームブック的な試みをしてみたり。
その分、お話自体はしょーもない内容です。

2011-02-07 22:11:03 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:1623   閲覧ユーザー数:1524

 こんにちは、智樹です。

 皆さんは空を飛びたいと思った事はありませんか?

 かくいう僕も男の子。飛行機のパイロットに憧れた事もあります。

 

 そして今、僕はその夢を叶えてしまっていたりします。

 F-15戦闘機、別名イーグル。それが今の僕の翼です。

 例によって未確認生物達が色々を手を加えた結果、中身は完全に別物ですが。

 どこまでも続く青い空と白い雲。普段の僕ならはしゃいで飛び回っていたのかもしれません。

「………来たか」

 しかし今の僕に歓喜に浸る暇はありません。

 僕の後ろから近づく影が一つ。それは僕のよく知る顔であり、今では避けられない敵になっていました。

 

「…イカロスッ!」

『…マスター』

 

 そこにはいつものぼーっとした表情は欠片も無く、決意に満ちた瞳が深紅に染まっていました。

 今のイカロスは本気で僕を落としにくるでしょう。僕はそれだけの事をしてきたのですから。

「来い! これで最後だ!」

『マスター、あなたを、落としますッ!』

 通信機から聞こえる覚悟に満ちた声と共にイカロスの羽から無数に放たれるアルテミスが僕の機体を追ってきます。

「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 それを全身全霊をもって回避。

 体に急激にかかる重力のせいか、意識が遠くなっていく。

 そのせいなのでしょう。僕は事の発端を走馬灯のように思い返していました。

 

 

   ~ 空駆ける天使達 ~

 

 

 15時間23分前。

 

 

 

『死ぬなよリボンワン! リボンツー、エンゲージ!』

『お前もなリボンツー! リボンワン、エンゲージ!』

 

「うおおー、かっけー!」

 その夜、僕たちは居間で昔の映画を見ていました。

 泥沼の戦争の中、境遇の異なる二人の戦闘機乗りが互いを認め合って助け合うヒューマンドラマ。

 場面は今まさにクライマックス、男の子ならば胸が高鳴るシチュエーションです。

「くー、俺も戦闘機乗りになりてぇー」

「…マスターは、空を飛びたいのですか?」

「へ?」

 一緒に映画を見ていたイカロスが呟くように尋ねてきました。

「うーん、まあそうだな。一度くらいは飛んでみたいよな」

「ねえトモキ、それって私達と一緒に飛びたいって事?」

 僕の回答に反応したのは一緒に居間でお菓子を食べていたニンフでした。

「ああ、それもいいかもなぁ」

 その時の僕は映画に興奮していたせいか、こいつらがどういう事を考えているのか気づきませんでした。

 今にして思えば、これが全ての始まりだったのでしょう。

 

 

 

 3時間35分前。

 

 

「な、なんじゃこりゃあああああ!?」

 翌朝。起きてみると僕の家の庭に一機の戦闘機がありました。

 しかもご丁寧に庭を拡張して滑走路まであります。

「どう? 結構苦労したんだから」

「マスター、どうぞ」

「どうそ。じゃねぇぇぇぇ!! こんなもんどこから持って来たぁ!!」

 こいつらはまた僕の平和をギッタンギタンに打ち壊し始めました。いや、今回の原因は自分ですけど。

「近くの軍事基地からちょっと借りてきたのよ。大丈夫、バレてないから」

「主犯はお前かニンフ! 今すぐ自○隊の皆さんに返してきなさい!」

「…何よ、昨日は一緒に飛びたいって言ったじゃない」

「むぐ、しかしこんなので飛んだら大騒ぎになるだろ?」

 ニンフは僕に叱られた事に拗ねてしまいました。自分の失言に後悔しながら何とか反論します。

「問題ありません。この機体にはカードでジャミングを搭載してますので、機体に負荷をかけなければ周囲に存在を感知される恐れはありません」

「…そうなのか」

 説明をするイカロスも心なしか得意げな気がします。とにかくこれで僕の退路は断たれたわけで。

「はぁ、分かったよ。学校から帰ったら一度だけ付き合ってやる」

「ふん、最初からそう言いなさいよね」

「では、それまでマスターに機体の起動キーをお預けします」

 二人とも随分楽しみにしていたみたいだし、一度くらい付き合うのも悪くないだろう。

 その時の僕はそう思っていました。

 

 そしてその通りに出来ていればきっと楽しい時間を過ごすだけで終わったのだろうと、今では思うのです。

 

 

 1時間40分前。

 

 

「まあ、戦闘機なんて男の子の浪漫ね~」

 登校した後、今日は放課後にまっすぐ家に帰る事を伝えに新大陸発見部に顔を出した僕を迎えたのは守形先輩と五月田根会長でした。

「守形くんも乗ってみたくない、戦闘機~?」

「いや、遠慮しておこう。せっかくのイカロス達の厚意なのだから智樹が楽しんでくるといい」

「そっすか。まあ一人乗りだから仕方ないっすね」

 先輩はどっちかというとアナログ主義だ。

 もちろん必要と感じればハイテクにも手を出すけど、それに頼リきる事はしない人だったりする。

「そういえば、目的地とか決めているのかしら~?」

「目的地?」

「そうよ~。何事も目的は大切よ~」

 会長は僕の肩を掴んで力説し始めました。

「いや、別にあいつらとそこら辺を飛んでくるだけなんで別に…」

「桜井君ならこの辺とかどうかしら~?」

 会長は僕の言葉を半ば無視して話を進めます。本当に困った人です。

 その指は部室に飾ってある世界地図の日本の外、南半球の方を差していました。

「いや会長、さすがに外国は…」

「この辺にはあるそうよ~」

「何がっすか?」

 

 

「ヌーディストビーチが~」

 その単語は僕の脳髄を貫きました。

 

 

「そ、それはまさか…!」

 噂にしか聞いた事がなかった、あの伝説の…ッ!

「そうよ~、皆すっぽんぽんで泳ぐ海水浴場なのよ~」

 すっぽんぽん。男も女もすっぽんぽん。

「全裸がフォーマルな桜井君ならきっと楽しめるんじゃないかしら~」

 全裸、みんな全裸。 

「この機会を逃したら一生行けないかもしれないわね~」

 一生、行けない。

 

「でも桜井君が望まないなら仕方ないわね~」

「…先輩」

 その時、すでに僕の心は決まっていました。

「俺、今日は早退します」

「智樹、それは死への片道切符かもしれんぞ。それでも行くのか?」

「ええ、もちろんです。きっとそこは俺の新大陸ですから」 

「…そうか。ならもう何も言わん」

 僕も男の子。そうと決めたら即実行するくらいの行動力はあるのです。

「あらそう~。じゃあ見月さんやイカロスちゃん達には私からそれとなく伝えておくわね~」

「ありがとうございます、会長」

 会長に心からのお礼を言ってから、僕は部室を後にします。

 

「桜井智樹、ヌーディストビーチという新大陸へ向けて出撃します!」

 僕の敬礼に、先輩と会長も敬礼で返してくれました。

 ああ、理解ある先輩達っていいですねぇ。

 

 

 

 1時間12分前。

 

 

「起動ッ!」

 駆け足で帰宅した僕は、さっそくイカロスにもらったカードで機体を起動しました。

『全システムオールグリーン。コードネームを登録してください』

「今日からお前はフリーダムエアパンツァーだ!」

 機械音声によって案内された通りに起動プロセスを進めます。

 ちゃんと僕に理解できるようなナビゲートがついているので助かります。

「…ごめんな、ニンフ」

 きっとこういう事が得意なあいつが僕の為に準備してくれていたのでしょう。

 少しだけ申し訳なく思いつつ、起動プロセスを終わらせました。

「だが、お前らを連れていく訳にはいかないからな…」

 男のロマンに女子は不要。

 それ以前に未確認生物のあいつらに男のロマンを理解できるとも思えません。

 

「フリーダムエアパンツァー! 発進!!」

 急激な加速と共に、僕は大空へと旅立ったのです。

 

 

 55分前。

 

 

「トモキが早退?」

「ええ、皆によろしくって~」

 師匠が私達の所にやってきたのは一つ目の勉強時間が終わってからでした。

「きっと今頃お空の上ね~」

 みんなから会長と呼ばれる師匠だけど、私にとっては色々な事を教えてくれる尊敬する人。

 この師匠という呼び方を教えてくれたのも師匠本人なのです。

「何よもう、帰ってからって言ってたじゃない」

 あいつの勝手な行動にニンフ先輩は不満みたいです。

 私も先輩達から飛行機の事は聞いていたから、一緒に飛ぼうと思っていたのにちょっと残念。

「ところで、見月さんがいないみたいだけど~?」

「そはらさんでしたら、次の授業の準備を手伝っています」

「あらそう~。それは好都合、もとい困ったわね~」

 イカロス先輩に教えてもらった師匠はにっこりとほほ笑みました。

「ソハラに何か用があったの?」

「会長、ちょっと噂を聞いちゃったのよ~。桜井君って外国に幼馴染がいるとか~」

「ふーん… え?」

 確かあいつの幼馴染はそはらさんだった気がするんだけど、師匠は何を言ってるんだろう?

「しかもその子とは婚約者なんですって~。その辺を見月さんに確かめたかったのよ~」

「な、な…」

 こんやくしゃって何だろう?

 ニンフ先輩がフルフル震えているけど、おっかない物なのかな?

「…婚約者って、なんですか?」

「イカロスちゃんも知らなかったのね。将来を誓い合った男女が交わす約束みたいなものよ~」

「約束、ですか」

「ええ、結婚して末永く一緒に暮らす事よ~」

「一緒に、暮らす…」

 なんか良く分からない単語ばっかりだけど、イカロス先輩まで動揺し始めるくらいだからきっと凄い事なんだろうなぁ。

 とりあえず私も聞きたい事を聞いてみよう。

「師匠、つまりあいつはいつ帰って来るんですか?」

「アストレアちゃんは直球ね~。会長、あなたのそういう所が好きよ~」

「えへへ、ありがとうございます」

 師匠に褒められて私は上機嫌でした。次の言葉を聞くまでは。

「どうなのかしらねぇ。もしかしたら向こうでゴールインして帰って来ないかも~」

「そうですか、帰って来ないんですかー。………えっ」

 帰って来ないって、どういう事?

 私が師匠の言葉の意味を考えている間にニンフ先輩とイカロス先輩は窓に駆け出していました。

「…ニンフ、マスターの機体の位置は?」

「まだ遠くまで行ってないわ! 私達なら追いつける!」

 あっという間に翼を広げて窓から飛び出していく先輩達。ぽつーんと取り残される私。

「アストレアちゃんは行かないのかしら~?」

「はっ!? わ、私も行きますッ!」

 私も慌てて後を追います。大丈夫、いくら先輩達が相手でも私なら追いつける。

 私は近接戦が得意な最高のスピードを持つエンジェロイドなんだから。

 

 

 数分もしないうちに先輩達の背中が見えてきました。

「せんぱ~い! あいつが帰って来ないってどういうことですか!?」

 私は二人に声をかけながら追いつきました。

「…フフフ、いい度胸じゃないのトモキ。私が作った物で私から逃げられるなんて思わない事ね♪」

「大丈夫、人間は嘘をつく生き物。マスターは騙されているだけ。だから、大丈夫」

 なんか二人ともすっごい怖い顔で話してるんですけど!?

「じゃあ説得してみる? どっちにしろ連れ戻す事は変わらないわ」

「でも、一度だけ」

「仕方ないわね。一度だけよ、アルファー」

「…ええ」

 えーと、とりあえずあのバカを連れ戻すって事みたいです。

「アストレアも、手伝ってくれる?」

「は、はいっ! もちろんですイカロス先輩!」

 ここで嫌と言ったらどうなるかなんて、バカの私にだって分かります。

 だってイカロス先輩ったらいつの間にかウラヌス・クイーンモードだし。

「ありがとうデルタ。アンタならそう言ってくれると信じていたわ」

「い、いやですねぇ。当然じゃないですか~」

 そして怖い! さっきからずっと笑顔のままのニンフ先輩が怖い!

 

「―マスターの機影を補足」

 そんな事をしている間にあいつに追いつきました。

 先輩達をこんな風にしたあいつはのんびりと飛んでいます。

 ああもう、あいつには思いっきりバカって言ってやる!

「止まれこのバ―」

 

 

「トモキー!!」

「―マスター!」

 

 

「………こ、このバカー」 

 私は信じられない加速で飛んで行く先輩達の後を追うのでした。

 

 

 31分前。

 

 

「Can you hear my heart bell? どうしたっていうの? 聞いた事がないー、俺のベ」

 

『トモキー!!』

『―マスター!』

 

「うおっ!?」

 ご機嫌で歌っていた僕はいきなりコクピットに響いた声に驚きを隠せませんでした。

 慌てて後ろを振り返るとあの未確認生物達が僕を追ってくるのが見えます。

「お、お前ら!? 学校はどうした!?」

『アンタが言えた義理かっ!』

 通信機ごしでもニンフが怒り狂ってる事が分かります。

 会長、うまく誤魔化してくれるって言ったじゃないですか…

「………ああ、会長だもんな。仕方ないよな」

 あの悪魔のような人はきっと全部話してしまったのでしょう。僕の新大陸(ヌーディストビーチ)への夢を。

「くっ! 桜井智樹、一生の不覚!」

 どうして会長の陰謀に気付けなかったのか。もう後悔しても遅いですが。

 

 彼女達が俺の機体に近づいてくる。コクピットの窓越しに三つの影が見えた。

『マスター、どうか、お戻りください』

「悪いけど、俺は戻る気は無いぞ」

『マスターは、騙されているんです』

「…かもしれないな」

 確かに会長には完全に騙された。それはもうぬぐいようが無い事実だ。

 それでも、たどり着きたい世界がある。譲れない願いがある。

 会長が示してくれた新大陸への道だけは変わらない。

「それでも俺は止まれない。分かってくれとは言わんが頼む、退けイカロス!」

『…できません』

「なっ…!?」

『それだけは、できません』

 あのイカロスが俺の頼みを断った?

 女湯や女子更衣室を覗く時だって嫌な顔一つしないで付き合ってくれたこいつが?

『ほら見なさい。やっぱり実力行使しかないのよ』

「ニンフ…!」

『アルファーに何も吹き込んでないわよ、私。それより自分が私達を責められる立場だと思ってんの、トモキ?』

「…それは」

 そうだ、俺にこいつらを責める権利なんてあるのか?

 自分の夢の為にその厚意を踏みにじった俺に?

「…すまんっ!」

『謝らないでよバカァ!』

 ニンフの涙声が俺の心をえぐる。畜生、なんでこんな事に!

 

『そうよ! さっさとそれから降りなさいよこのバーカ!』

「うるせーバーカ!」

 こいつにだけは何も言われる筋合いがありません。というか何故こいつがここにいるんでしょう。

 

『トモキ、アンタを落とすわ! いくわよアルファー、デルタ!』

『…了解』

『りょーかいっ!』

 三つの影が僕の機体の周囲を旋回し始めました。

「マジかよ、くそっ!」

 こうして、僕と彼女達未確認生物の空戦が始まったのです。

 

 

 15分前。

 

 

 戦闘開始からどれくらいの時間が経ったのだろうか。俺にはそれを確かめる余裕が無かった。

『どっせーい!』

「くおおおおぉぉぉ!」

 信じられないくらいの速度で突っ込んでくるアストレアを何とか避ける。

 あいつの突進は視認してから回避行動を取っていたんじゃ間に合わない。あの掛け声を聞いたらすぐに機体を傾けないと落とされる。

『パラダイス・ソングッ!』

「ブースター最大出力ッ!!」

 ニンフの広範囲にわたる音波振動攻撃は避けきる術が無い。

 できるだけ距離を離して機体へのダメージを軽くするしか手段が無かった。

「…ぐ、が」

 それでも振動による俺自身の聴覚へのダメージがきつい。これがあと何回も続いたら間違いなく発狂する。

『アルテミス、3番から6番までを装填。一斉発射』

「―ッ!」

 イカロスの高速で迫る対空弾頭はもう避ける努力すらやめたくなるレベル。

 外れる事を祈りながらでたらめに飛びまわるしかない。

 

「し、死ぬッ!」

 このままだと、死ぬ。こいつらに撃墜されて死ぬ。

『トモキ、あきら―投降し―! 今ならまだ―は―るわよ!』

 ニンフが何か言っているが、全部を聞きとれない。

 くそ、こっちはお前のせいで耳が馬鹿になりかけているんだぞ。

『落ちろカトンボー!』

「しまっ!?」

 ニンフの言葉に気を取られた隙にアストレアが後ろから突っ込んでくる。駄目だ、もう回避行動をしても間に合わない。

 終わるのか、これで。

 俺の新大陸(ヌーディストビーチ)への夢は潰えるのか。

 

 

 …それで、いいのか?

 

 

「いいわけ、ないだろおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 俺は迫りくる死に魂をもって抵抗する。具体的に言うと全人類の海水浴場が全裸制になる光景を想像した。

 その瞬間、頭の中で何かがはじける感触が俺を貫く。

 

 こっちへ飛び込んでくるアストレアの軌道を確認する。

 思考は驚くほどにクリア、体も鋭敏になっている。まるで俺だけの時間が止まっているようだ。

 俺は淀みなく操縦桿を倒し減速。同時に機首を上げる。

『あれっ!?』

 俺はそのまま宙返りをし、アストレアは俺を追い越して眼前に飛び出してくる。俺の前に無防備な背中を晒して。

 

 

 俺は―

 

 アストレアを、討つ。   →7ページへ

 アストレアを、討たない。 →12ページへ

 

 

 自分でも信じられないくらい自然に引き金を引いた。

 俺が撃った空対空ミサイルがアストレアの翼を破壊する。

『お、憶えてなさいよバカー!』

 それだけの言葉を残して、アストレアは地面に落ちていった。

「は、はは…」

 俺は自分のした事に驚いてた。

 あの丈夫だけがとり得な奴がこんなにもあっけなく落ちてく。

 そしてそれをやったのは、確かに俺なのだ。

 

 

 え、捨て台詞からして大丈夫そうだった!?

 いいんです、こういうのは雰囲気が大事なんです。僕は台本が読めなかったお馬鹿のフォローをしたんです。

 

 

『デルタァァァァ!』

『―アス、トレア』

 俺以上に衝撃を受けていたのはニンフとイカロスだった。

 いつも蔑ろにされている割にあいつは愛されていたんだな。そんな場違いな感想を抱いてしまう。

『トモキィィィィ!!』

 もはや怒りを隠さずに俺を追ってくるニンフ。

 だがそれは好機だ。俺はもう冷静さを取り戻している。

「そうだ、来い!」 

 最大加速でニンフを引き離す。まずはパラダイス・ソングの有効範囲からできるだけ離れる『フリ』をしないといけない。

『逃がさない! パラダイス―』

 逃がすまいとパラダイス・ソングで俺の動きを止めようとするニンフ。

『ッ! 待って、ニンフ!』

 イカロスは気づいたか? だがもう遅い!

 

 

 俺は―

 

 ニンフを、落とす。   →8ページへ

 ニンフに、謝らないと。 →13ページへ

 

 

 俺は機体を急速に反転させ、ニンフへ突進する。

 パラダイス・ソングはその特質上、一度大きく息を吸う必要がある。

 それは僅かな時間だが、この空戦においてはそれで十分だった。

『―ッ! きゃあああああああ!』

 そのまま最大加速でニンフとの接触ギリギリを通り抜ける。その衝撃だけでニンフを吹き飛ばすには十分だった。

 元々ニンフは戦闘が苦手と聞いた事がある。そんなあいつが今までこれだけの高速戦闘を続けただけでも奇跡だったのだ。

「…ごめんな、ニンフ」

 俺はその意地と気概に敬意を抱き、それを跳ねのけた自分を恥じる。

 イカロスが落ちて行くニンフを助けに向かうのが遠目に見えた。

 

「機体状況を確認しろ」

『メインブースター稼働率70%。武装システム80%使用可能』

「自己修復機能を最大にしろ。10分以内に完全にするんだ」

『了解』

 機械音声からの返答に俺は一時離脱を判断する。

 イカロスは必ず来る。それまでに完全な状態で迎い撃てる様にしないといけない。

「…そうさ、迎い撃つんだ」

 もうそれしかない。だというのに、何故こんなにも空しい気持ちになるんだろう。

 

 

 

 現在。

 

 

 意識が戻った先に見たのは近づく地面だった。

「―はッ! なんとおぉぉぉ!」

 途切れかけた意識を力づくでつなぎ止め、機体を強引に持ち上げる。

「はぁ、はぁ…」

 イカロスの攻撃は一時的に途切れた様だ。そうでなかったらとうの昔に落とされていただろう。

『…アルテミス、7番から16番まで装填。発射』

「休む暇なしかッ!」

 再び襲いかかってくるアルテミスを大きく迂回しながら引きつける。

 地面スレスレで機首を持ち上げ、地面に着弾させる。こうでもしないと永久に追ってくるのだ。

「…こりゃ、拙い…」

 イカロスは強い。いや、隙がない。

 アストレアの様にこっちの間合いに突っ込んで来ないし、ニンフみたいに攻撃のタイムラグもない。

 いや、本当はあるかもしれないが俺にそれを見つけさせない。

 そして俺は心身ともに限界が近い。勝つどころか攻撃の糸口すら掴めない。

『…アルテミス、17番から32番まで装填。連続発射』

「こんにゃろぉぉぉぉ!」

 もう一度同じ方法で回避を試みる。この手段も次は無いだろう。

 イカロスなら弾道計算に修正を加えてくるハズだ。

「駄目だ! ここまでやれてるだけでも奇跡なのか!?」

 悔しいが認めざるを得ない。今の俺は奇跡にすがって生きている。

 

「―待てよ」 

 本当に奇跡か、これ? 

 もう同じやりとりを十回以上は続けてるけど、奇跡ってこんなに続くもんか?

「…そうか、そういう事かッ!」

 俺の想像が正しければイカロスに勝てる。非常に不本意だが、最後の勝機。

 

 

 俺は―

 

 イカロスに、勝つ。 →10ページへ

 イカロスを、叱る。 →14ページへ

 

 

「イカロォォォス!」

 機体をイカロスへ向けて加速させる。

『―ッ! アルテミス、5番から68番まで装填。精密射撃、発射』

「この、バッカやろおおおおお!」

 俺は乱れ飛ぶアルテミスの弾幕の中心を飛ぶ。

 こっちに当たりそうな最低限な物だけをミサイルと機銃で迎撃しながら。

 そして、アルテミスの弾幕を抜けると同時に数発だけ残しておいた機銃でイカロスの片翼を打ち抜いた。

『マス、ター…』

 落ちていくイカロスの瞳は涙で濡れていた。

 俺も泣きたかった。

 

 イカロスは、あいつは全力で俺を止める事ができなかった。結局あいつは本気になりきれなかったんだ。

 お前達の厚意を踏みにじった俺にさえも、遂に撃ち落とす覚悟が出来なかった。

 そうでなかったら、俺はとっくの昔に撃ち落とされていただろう。

 さっき俺が意識を失っていた間にアルテミスの追撃が無かった事が何よりの証拠だった。

 

「お前、やっぱり兵器なんて向いてないよ…」

 お前は優し過ぎたんだよ、イカロス。

 俺はお前のそういう所は嫌いじゃないけど、今だけは本気でぶつかってきて欲しかったよ。

 それとも、それがお前なりの答えだったのか?

 

 

『桜井君、元気~?』

「会長!?」

『まさかイカロスちゃん達が止められないとは思わなかったわ~。会長びっくりよ~』

「…そりゃどうも」

 今回の最終的な責任は俺にあるとしても、会長の言動に憤りを感じてしまう。

 自分の肩に手をまわすと小さなマイクを見つけた。朝、部室で肩を掴まれた時に付けられたんだろう。

「それじゃ、俺行きますんで」

 会長は俺がお仕置きされる結果を狙っていたんだろう。しかしその企みは潰えた。

 俺自身も信じられない結果だったけど、結果は結果だ。

『桜井君~、誰かを忘れてないかしら~』

「誰かって…」

 そこまで考えてから俺はようやく一人足りない事に気がついた。

 そう、いつも俺をお仕置きする時に必ずと言っていい程いるあいつの存在を。

「や、やだなぁ会長。あいつはあれでもれっきとした人間っすよ?」

 俺の幼馴染は一応人類にカテゴライズされるはずだ。こんな空の上まで飛んでくるハズが無い。

 だというのに俺のベルからは大量の汗が噴き出し、足は震えだしていた。

 俺の体は逃れられない破滅を予感している。

 

『3~』

「待って下さいよ! なんすかそのカウントダウン!?」

 

『2~』

「いや! 人の話を!」

 

『1~』

「こんなオチ認めねぇぇぇぇ!」

 

『ゼロ~』

 会長のカウントが終わると同時に後方の大地から一筋の光が伸びてくる。

「そは―」

 この閃光を発したであろう相手の名前を最後まで叫ぶ事が出来ないまま、俺の意識は刈り取られた。

 

 

「死ぬかと思った…」

「その一言だけで済ませられるんだから、トモちゃんって人間離れしてるよね」

「お前にだけは言われたくねぇ!!」

 

 僕はお沙馴染みである見月そはらの所業に全力で抗議しつつ、家路についていました。

 皆さんは戦闘機が交戦する高度までチョップの衝撃を飛ばす人間がいると思いますか?

 こいつはそれをやったんです。人間の出来る事じゃありません。

 

「仕方あるまい。智樹にとって見月の制裁は避けられない法則でもあるんだろう。差し詰め、智樹限定の約束された勝利の聖剣か」

「嫌な法則っすね、全力でお断りしたいんですけど」

「諦めろ」

 守形先輩は一言で切って捨てました。ああ、理解の無い先輩ってやだなぁ。

「それよりも、トモちゃんはイカロスさん達にちゃんと謝るんだよ?」

「分かってるよ…」

 まさか会長が嘘をついてあいつらをけしかけていたとは思いませんでした。

 家族の一員が帰らないなんて聞いたら誰だって驚くでしょう。これでイカロスまで僕を引き止めようとした理由が分かりました。

「さすがに美香子も反省していた様だ。イカロス達まで騙したのはやり過ぎだったとな」 

「そこに俺は含まれていないんですね」

「当然だろう。お前は自業自得だ」

 まあ先輩の言う通り、最初に弁解しなかった僕も悪いんですけど。

「ていうか、会長の説明って凄く不安なんですけど」

 具体的に言うとまた別の嘘をつき始めないか、とか。

「少しは信用しろ。…無理な話かもしれんが」

「先輩、自分で否定してどうするんですか」

 やはり一抹の不安は拭えません。

 

 

 そしてそれは現実の物になりました。

「ただいま~」

『お帰りなさいませ、マイマスター』

 僕が帰るなり、未確認生物達は3人そろってうやうやしく礼をしてきたのです。

 しかもどこから手にいれたのかメイド服まで着こんで。

 

「これは一体どういう事だよ!?」

「別に。私達に勝ったんだからトモキにマスターの資格があるんじゃないかって話よ。不本意だけど一理あるし、仕方ないでしょ!」

 いやニンフさん、全然仕方なくないですよ?

 

「あれ? 師匠、こいつ喜んでないみたいですけど?」

「そんな事ないわ~。きっと内心大喜びなのよ~」

 いや会長、これはどういう事ですか。

「ごめんなさいね桜井君~。最初はちゃんと誤解を解いて謝ったんだけど、ほら、つい~」

「つい、じゃありませんよ!! どうするんですかこれ!」

 

「マスター、次回の演習はいつにしますか?」

「やらないぞ! 絶対にやらないからな!」

 イカロスさん、さっきから目が赤いままなんですけどやる気満々という事ですか?

 心優しい貴女はどこに行ってしまったんですか?

 

 

『ご命令を、マイマスター』

「勘弁してくれぇぇぇぇ!!」

 慌ただしい日々はまだまだ続き、僕に新大陸を捜す暇は無さそうです。

 

 

 ED1:HAPPY END?

 

 

「はっはっは! バーカバーカ!」

 とりあえず馬鹿にした。

 あのタイミングと速度で回避できた以上、もうこいつは驚異にならない。

 ひとしきりからかった後に落としてやろう。

 

『…あったま来た!』

 アストレアが俺の方に向き直る。それと同時に右手の剣が巨大化を始めた。

「ちょっ!? でかっ!!」

 でかい。なんかもう近接武器として間違ってるだろと突っ込みたくなるくらいにでかい。

『どっせぇぇぇぇぇぇい!』

 アストレアはその巨大な得物を俺へ力任せにぶつけてくる。

「…ああ、バカは俺だったなぁ」

 それはもう機体を傾けるとかでは避けられないくらい大きくて速くて。

 つまり、もう避けられないわけで。

 

『―――! ―!』

 イカロスとニンフが何か言ってるけど、もうコクピットごと潰された俺には聞こえないわけで。

 

 なんつーかさ、バカをバカって言った奴が本当のバカなんだな。きっと―

 

 

 

 ED2:実は怒ったバカは怖い

 

 コンティニュー → 6ページへ

 

 

「すまん、ニンフ!」

 それだけを告げて、俺は機体を急速に反転させてニンフへ突進する。

 パラダイス・ソングはその特質上、一度大きく息を吸う必要がある。

 それは僅かな時間だが、この空戦においてはそれで十分だった。

 

『―かかったわね』

 十分だった、ハズだった。

 

『全システム稼働停止。外部操縦に切り替えます』

 俺の機体は急激に減速し、ニンフの眼前で停止した。

「な、なんだよこれっ!?」

『トモキの機体制御を私がハッキングしたの。あと僅かな差でこっちがやられてたけど、なんとかなったわね』

「なん…だと…?」

 パラダイス・ソングは囮で、こっちが本命か!?

『謝ってくれてありがとう、トモキ。あの時間がなかったら落とされていたのは私だったわ』

 なんてこった。俺自身の甘さが最後で足を引っ張ったのか。

『さて、どうしようかしら?』

「…ニンフさん」

『何?』

「さっきからずっと笑顔ですね?」

『ええ、トモキにどんなお仕置きをしようかと考えると楽しくって。てへっ♪』

「イカロスッ! 助けてくれ!」

 恥も外聞も捨てて懇願する。だって、今のニンフさんマジで怖いんだもん。

『ニンフ、程々にしてあげて』

『分かってるわよ。機体の限界速度で大気圏を突破するくらいで許してあげるわ』

 この機体、宇宙まで飛べませんよね!?

『…なら、いいけど』

「いいのかよ!?」

 イカロスさんも割と怒ってらっしゃる様子です。

『じゃ、逝ってらっしゃ~い♪』

「ぎゃああああああああああぁぁぁぁ!」

 

 

 俺の機体が遙か天空めがけて上昇していく。

 視界が真っ赤に染まり、コクピットのガラスが割れると共に俺の意識は消失した―

 

 

 ED3:ニンフさんは実はドS?

 

 コンティニュー → 7ページへ

 

 

「イカロス。お前、本気出してないな?」

『………はい』

 俺は、最後の勝機をふいにした。

「しょうがない奴だな」

 こんな時なのに俺は苦笑する。

 

 あいつは全力で俺を止めに来ていない。

 お前達の厚意を踏みにじった俺にさえも、撃ち落とす覚悟が出来ていないんだ。

 そうでなかったら、俺はとっくの昔に撃ち落とされているだろう。

 さっき俺が意識を失っていた間にアルテミスの追撃が無かった事が何よりの証拠だった。

 

「本気で来いよイカロス。俺はお前のそういう所は嫌いじゃないけど、今だけは本気でぶつかってきて欲しい」

『マス、ター…』

 通信機ごしに涙声が聞こえる。

『…それは、御命令、ですか?』

 命令、か。最近の俺が嫌いな言葉ナンバーワンだ。

「…ああ、そうだ」

 それでも、こいつは不器用だから。こう言ってやらないと自分のやりたい事もできないんだよな。

 お前だって俺を全力で止めたいんだろ? なら、そうやっていいんだ。

『…了解、しました。タイプアルファー、イカロス。マスターを、撃墜… しますッ!』

「そうだ、それでいいんだ。イカロス」

 これで俺の勝機は消えた。それなのに何故か心は穏やかだ。

 きっとこの瞬間だけ俺達は敵同士じゃなく、いつもの家族でいられたからだろう。

 

 

 

 

『接続(コネクト)。ウラヌスシステム、起動します』

 

 

 

 

「…はい?」

 あの、イカロスさん。その後ろのでっかいの、何ですか?

『―ケルベロス』

「ッ! うそだろおおおおぉぉ!?」

 アルテミスと比べ物にならない数のミサイルが殺到してくる。

「待った待った待ったぁ!」

 甘かった! 甘かった! 甘かったッ!!

 イカロスにとってアルテミスなんてただのけん制、もしくは威嚇程度の物でしかなかったんだ!

 こいつが本気を出すって事の意味を忘れていた!

 これじゃあ勝機とかそういう問題じゃない、ただのなぶり殺しだ!

「イカロスもういい! 俺が悪かった! だからもう止めてくれぇ!」

 次々と襲いかかる遠隔操作兵器やらでっかい機械の腕をかいくぐりながら懇願する。

『命令の中止はできません。私はそういう風に造られておりませんので』

 ああ、随分と懐かしいフレーズだな。懐かしついでにこれも夢にしてくれないかなぁ。

 

「…イカロスさん、もしかしなくても怒ってますよね?」

『…怒ってなんて、いません』

 その返答を根こそぎ否定するかのごとく、俺に向かって光の束が向かってくる。

 

 

『―の、バカ』 

 

 

 最後に何か聞こえた気がしたが、俺にそれを聞きとる事はできなかった。

 

 

 ED4:イカロスさんマジパネェっす!

 

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