No.194660

真・恋姫無双~妄想してみた・改~第十四話

よしお。さん

第十四話をお送りします。

―ょぅじょを追っていくうちに新たに出会う三羽烏。
何かの縁と、行動を共にする―

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2011-01-08 10:02:57 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5083   閲覧ユーザー数:4169

 

 

道行く地面にあるのは砂利と砂。

転ばないよう慣らされた土の上で、謎の破片があちこちに点在している。

黒や茶色、大きさもまばらで統一性の無いものばかりだが、これこそが追跡を可能にする道標。

それは道なりのように続き、目の前の十字路で右に曲がる。

 

歩を進めて右を向けば、案の定、ここまで来たところと同じように続く破片の行列。

例に挙げるなら、“ヘンゼルとグレーテル”のお話に出てくるワンシーン、道に迷わないようパンを千切って目印にしたあれと同じ状態。

違うのは落ちているのがパンではなく食べ残しの菓子の破片であり、対象が意図してそうしたわけでないという部分。

 

「あれだけ盛大に食ってれば、そりゃくっつくよな……」

 

先の茶店でお世辞にも上品とはいえない仕草でがっついてた袁術。口の周りは餡子まみれ、桃でも食べたのか頬まで伸びる蜜の輝き。

しかも頼んだ品を一口程度しか口に運ばないので、齧った後から砕けた生地の欠片が服のそこらじゅうに付着しまくっていた。

そんな状態で走れば当然、食べかすが転がり落ちるはずと予想していたが、まさにドンピシャリ。

逃走ルート一直線の完全ナビガイド!

 

これなら時間はかからないだろうと意気揚々とカスが続く路地裏へ足を踏み入れた。

人の姿は見えず、聞こえてくる音は皆小さい。表の慌しい喧騒はまったくの逆の町並みが広がっている。

家屋の間に挟まれているせいで光が届かず、所々薄暗い死角があちこちにある。

ぱっと見ても、角に積まれた木箱や壷の影、うち捨てられた木材の裏なんかは小柄な袁術にとっては格好の潜伏箇所になるだろう。

試しに傍に置いてある木箱と住居の隙間に顔を差し込んで確認してみる。予想通り、子供一人入るスペースが空いていた。

 

これだけ隠れやすそうな場所が多ければ、遠くに逃げようとするよりも、付近で待機して張勲と合流したいはずだ。

……ここを中心に探し始めよう。一人頷き、視線を足元に戻す。

 

 

 

 

 

 

食べかすはなおも通路に沿って続き、いくらか進んだ十字路で再び右折している。

それを見失わないようゆっくりと歩き出した。しばらくすると曲がれる箇所は全て曲がる。そんな主張が感じられるくらい右や左に方向転換しているようだ。

いまのところ、同じ道は二巡していないようだけど、そう広くないこの路地裏。まだ調べていない場所で食べかすが合流するような事があれば、どちらが最後に通過したかの判断が曖昧になり迷いやすくなる。そうなると厄介だ。

募る焦燥を抑えて歩き続け、数分が経った。

 

途中誰ともすれ違う機会も無く、聞き込みの情報は無し。ついでに言えば家屋の中にも人はいないところが多かった。

まあそこは単に働きに出ているだけだろうけど。

肝心の道標の量は次第に少なくなっていき、細かくなったかすは風で飛ばされたのか道一杯に広がってしまっている。加えて追い打ちをかける様に最悪なのは、何回か前の曲がり角でとうとうかす同士が交錯し、もはやどこで曲がったのか分からなくなってしまった事だ。

それでも勘を頼りにあちこちを探ってみたが、やはり袁術は発見できない。

派手なキンピカ衣装と食べかすで直ぐに見つかるとたかをくくったのに、この様だ。

 

(なんでもそうはうまくいかないか……)

 

一刀の眉間に深い皺が刻まれ、深い溜息がこぼれる。

お手上げと、諦めるつもりは無い勢いが削がれてしまった気分。

一旦、気を落ち着かせようとマントの肩から伸びる色紐を指で弄びながら、頭を冷やして考える。

 

 

まずは逃走範囲。

 

(袁術の性格と逃げ際のセリフからして町から出て逃げるのはないだろうな)

 

張勲に依存している以上、見捨てていく可能性も無いだろう。

次に潜伏場所。

 

(あの服装じゃ目立ちすぎるから、大通りで人に紛れてやり過ごす可能性も低いだろうし)

 

その点ではこの人通りの少ない路地裏は格好の場所といえる。

わざわざ発見されるリスクを負って別の区画の路地に逃げ込むのも考えにくい。

 

(……やっぱり、このあたりであってるはずだよなぁ」

 

自身の能力不足は自覚しているつもりだが、この推理は当たらずとも遠からずといったところだろう。

とすれば、発見できないのはなにか別の要因が在るのではないか?

紐を握る指の力が強くなり、推理を働かせようと頭を捻っていると、ふと視界の先に人影が移った。

背丈からして袁術ではないようだが、丁度いい。聞き込みをしてみよう。

 

「すいません。ちょっといいですか?」

 

不信感を与えないようなるべく明るく声をかける。

すると、こちらに気が付いたのか体ごとこちらに振り向く。

 

「……なんでしょうか」

 

少しぶっきらぼうな口調で返事を返す女性。近づいてよく見ると先の茶店と同じ給仕服を着ているが、それよりも大きく印象に残るのはあちこちに残る傷跡の数々。とてもじゃないが日常生活で傷つくようなものじゃない。

それに近づくにつれて高まっていく彼女からの圧迫感は、戦場でよく感じるものと酷似している。

どちらにしてもただものではないだろうが。美人だから問題ない。

 

「今人探しをしてるんだけど、この辺りで小さくて、やたら派手な衣装を着た女の子を見かけませんでしたか?」

「派手な衣装?」

「そう。なんていうかこう、金ぴか?」

「……金ぴか」

 

女性は考え込むように俯き、指を唇に添える。なにか心当たりがあるのだろうか。

 

「……もしかして捜し人は、袁術。ではないか?」

「! よくわかったね」

 

金ぴかと小さいだけの情報でまさか名前まで当てられるとは思わなかった。

 

「察しの通り、袁術を追ってるんだ。さっき茶店で食い逃げを目撃して追ってきたんだけど、どうにも見失ってね。だれか見かけてないか捜してたんだ」

「……なるほど」

「もしかして、見た?」

「いいや、残念だが私は目撃していないな」

「……そっか」

「ただ、袁術が食い逃げを繰り返しているというのは聞いた事がある。毎回名家の名を出して噂が広がらないよう工作しているらしい」

 

やけに手際がいいと思ったが、初犯ではなかったか。

いきなりビンゴとはいかないが、悪評が広がっているなら、見かけた人がいれば素直に教えてもらえそうだ。

 

「ありがとう、助かったよ」

「いや、こちらこそ力になれなくてすまないな」

 

お礼を述べて、捜索を再開しようと背を向けると、やや間があった後、今度は女性から驚いたように呼び止められた

 

「……! お待ちください!少し質問があるのですが、よろしいでしょうか」

 

「え?なにか思い出したの?」

 

「あっ、そういうワケではないのですが……」

 

なんだろう。口調も変わったような気がするけど

 

「もしや貴方様は、北郷様ではないでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

「? そうだけど?」

 

町民なら大体の人に覚えてもらった気がしたけど、まだ知名度が低いのかな?町に顔を出す機会は大目にしてるけど、そういえばこの子といい、茶店の二人も結構な美人だったけど、

今まで見かけた事なかったな。もしかして最近こっちに来たばかりなのかな?

返事をした途端、急に背を伸ばしたと思えばいきなり頭を垂れる。

 

「やはり!泗水関の英傑に出会えるとは光栄です!」

「はい?」

「生死不明との話でしたがご存命でなによりです!……この町で捜索しているという事は、今は呉に所属しておられるのですか?」

「そう、だけど……俺ってよく分かったね?」

 

泗水関では結局活躍できずじまい、途中退場なんて失態を見せた記憶しかないんだけどな。そんな尊敬の眼差しで見つめられるのは正直不相応というか、英傑て……。

 

「羽織を見れば一目瞭然ではないですか!十文字の北郷ここにありと言っているようなものです!」

 

確かに背中に描かれた家紋である十文字は遠目でも覚えやすい。いやそれよりも気になるのは別のところだ。

 

「十文字の北郷なんて呼ばれる程、活躍した覚えは無いんだけどな」

「なにを仰います!大軍相手に見事な奇襲を収め、直下の崖を駆け落ちる雄姿に加え、あの夏侯惇に勝ったという事実は讃えられて当然です!」

 

……崖に関しては極度の緊張でセキトの上で硬直してただけだし、一騎討ちの時は実力で勝ったとは言い難いんだが。

 

「まあ誤解は置いといて、なにか用件でもあるのかい?」

 

やや興奮した様子だった居住まいを整え、小さく深呼吸してから真っ直ぐ見定められる。

 

「私を含めた三人を呉の将として加えて貰いたいのです」

「……どういう事?」

「この乱世、不幸になる民が増えています。私達はその人達を救いたいのです。その為に少なからず腕を磨いてきたつもりです。どうか孫権様のお口添えしてもらえませんでしょうか」

 

真剣な瞳に嘘は混ざっていないだろう。それほどの信念が溢れている。

 

「恩着せがましいとは思いますが、袁術捜索に私をお加えください。必ずや力になります」

「手助けしてくれるのはありがたいけど、他の用事の途中じゃないの?」

 

彼女の手にはおかもちのような箱が握られている。

 

「それでしたら大丈夫です。ただの買出しですから。用件は済んでいます」

 

多少の打算はあるようだが、これは好都合だな。力を借りる為詳しい説明をしてみる。

あらためて話を聞けばさっきの茶店の店員さんらしい。しかもあの派手な娘と関西弁っぽい娘は仲間だそうで張勲と相打つ事になっても負けるとは考えにくいらしい。

そろそろ悩みまくってた呂蒙も再起動するだろうから、察しの良い彼女ならあっちに向かって助力してくれるだろう。

 

ただ気になるのは彼女達の名前だ。楽進、李典、于禁といえば確か魏に組するはずの人物。

仕官しようにも袁紹との合戦で出払っている曹操には会えずじまい、しかも苦戦の報を聞き、呉に執り立ててもらうべく路銀集めがてらこの地に赴いたらしい。

 

(どうもおかしいな……)

 

戻らない記憶を加味しても、ここまで三国志と異なる展開は今までなかったはずだ。

迎え入れるのは孫権の采配次第だが、もしそうなれば、大陸の情勢を含め、完全に大筋からはずれてしまうだろう。

そこにどうしようもない悪寒を感じずにはいられない。

 

正史から外れきった外史。その先にあるだろう結末に―――。

本当に、心臓を鷲掴みされたような悲しみが湧き上がる。

思い出せない記憶が、必死になにかを訴えかけているような……。

 

「……か……ま」

 

「如何しましたか?北郷様!?」

 

「っ!? なんでもないよ。じゃあ悪いけど手伝ってもらえるかな」

 

しかめた顔の俺を心配する楽進に笑顔を見せて無事をアピールする。

なぜか顔を赤らめる彼女に少し疑問を感じたが、意見を聞くべく説明を続けた。

 

やがて話しきった後、二人して考えてみるが妙案は浮かばない。

闇雲に捜すよりはある程度目安を付けておきたかったが、ここで手招いて逃がしてしまっては彼女達の仕官にも影響するだろうし、なにか良い作戦はないかな?

 

「……見落としている。という可能性はないでしょうか?」

「どこかに隠れているって事?」

「はい。北郷様の探索が悪いという事では無いのですが、私も袁術がこの区画を出たとは考えられません。とすれば何処かに身を隠したと考えるべきです」

「うーん、それはそうなんだけどさ、残るのは家の中だけになるだよ。あの性格上、庶民の家に入ってやり過ごしたりはしないと思うんだよね」

 

家内なんて密室に逃げ込むなんてマネはさすがにしないだろう。

 

「ならもっと奇抜な場所に……」

 

楽進は目を細めて辺りを伺っているようだが、めぼしい箇所は調べつくした後だ、今更新発見はないだろうなぁ。

いくらか気になる箇所が上げられたが、案の定すでに調べた所ばかりだった。

言い終わると苦笑しながら、

 

「相手が袁術だと、まるでかくれんぼのようですね」

 

なんて冗談が漏れる。

 

「……かくれんぼ?」

 

その単語に閃きが舞い降りた。

かくれんぼのうまい逃げ方は、隠れる場所を移動するのがもっとも良い。

一箇所ではいずれ見つかってしまうが、一度捜した場所へは気が向きにくくなり、注意が散漫になりやすい。

そしてそれを実行するには鬼がどこにいるか確認する必要がある。

ならこの状況ではどこがベストだろう?

 

この狭い路地にいる俺を常に監視できる場所は?

もし、仮定が正しいなら袁術は……。

 

 

 

 

 

 

「北郷様?」

「静かに!」

 

顔を見上げた一刀に声をかけるがそれ以上の返事はない。

不振に思い、釣られて空を仰いでも特に変わった様子はない。

それでも空を凝視し続け数分が経つと、小さい音が上から聞こえた。

 

「そこか!」

 

突然腰に差した剣を壁に立てかけ、鍔を足場にして家を駆け上る一刀。

そして聞こえてきたのは幼女の絶叫。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!見つかったのじゃぁぁ!!」

 

唖然とする楽進をよそに事態は急速に終結した。

 

 

 

一方その頃、李典、于禁の両名は追って来た呂蒙と協力し、張勲を発見していた。

だが問題はその後、そもそも探し当てれたのは偶然で、向かった区画で感じた殺気を確認したところで彼女を発見したのだ。

 

「こんなん勝てるわけあらへんよ!」

「が、頑張ってください。張勲さんさえ捕まえれば孫権様へのいい評価に繋がりますよ」

 

予想外の相手に戦いを挑まれたが、彼女達の事情を含め、ココで張勲を逃がすのは惜しい。

なんとか抗戦しているが、どうにもうまくいかない。

なぜかこちらに向かってどんどん追撃を放ってくる。

 

「きゃー!もう嫌なのー!!」

 

打ち下ろされた戦斧を辛うじて避ける于禁から悲鳴が上がった。

その声を聞いて相手は、ほくそ笑む。

 

「ふっ、強者ではないが狩りと思えば良い気晴らしになるな」

「ちょっ!?華雄さん!こっちも気にして……きゃー!!」

 

言いながら、自らの得物、金剛爆斧を振り回す華雄とその暴風圏で逃げ惑う張勲。

ここでもやはり興が乗り、暴走していた。

とはいえ多少は気にかけているのか傷ついた様子は無く、いわば守られているともいえなくは無い。

そのまま無造作に武器を振り回す華雄。それだけで周囲の家屋が切り裂かれ、狭いはずの通路が空けた空間に早や変わりしていく。

 

「むちゃくちゃや、この人!」

 

乱れ飛ぶ残骸の嵐のなかで突っ込みをいれるが当然、勢いは止まらずどんどん迫ってくる。

 

 

猛将、華雄。

活躍の場は少なかったがその実力は紛れも無い本物だった。

その迫り来る恐怖に精一杯の抵抗を見せる呂蒙。

長い袖から様々な暗器を投擲するが、全て打ち落とされてしまう

 

「どうした?奇術はもうお終いか?」

「くっ」

 

地面に落ちた暗器の山には、中華鍋や材木、椅子など如何見ても袖の容量を超えたものが散乱している。

ゴマ団子も転がっているのはご愛嬌といったところだが……。

 

「どっちもどっちや……」

 

呂蒙の袖からは、中華刀がぞろぞろ出てくる。

その数は優に十を越え……訂正。一本はおタマだった。

構わず投げられる剣+調理器具。

 

戦斧で全弾振り払われるが、今度は袖から大量の槍が出てくる。あと菜箸が数本。

目の前の将は二人ともムチャクチャだった。

 

「国の将ってみんなこうなんかな?」

「そうじゃないことを祈るの……」

 

華雄の注意が移ったところで愚痴る李典、于禁。

どうも彼女はこちら相手に遊んでいるようだ。

命までは取らないだろうが、実力差が大きすぎて迂闊に手を出せない状況が続く。

事態は長引くと思われたその時、呂蒙の自分を励ます一言で流れが変わった。

 

「一刀様を失望させない為にも、ここは引けません!」

 

そんな精一杯の虚勢が、なぜか戦斧の猛攻を止め、辺りの雰囲気を変わらせてしまった。

 

「今、誰の名を口にした……」

「えっ?」

「誰の名を呼んだと聞いている!」

 

華雄から裂帛の気迫が響いてくる。

 

「ひゃわ!?」

「貴様、まさかと思うが北郷一刀がどこにいるのか知っているのか」

 

さっきまでとは桁外れの殺気に気圧されるが、何とか踏ん張って答えを返す。

 

「し、知ってます。というか、今は呉のなか……きゃぁぁぁ!?」

 

喋り切る前に、戦斧はピタリと眼前数ミリのところで静止し、呂蒙の目が見開かれた。

その目に映ってくるのは、明らさまに殺気をぶつけてくる華雄の姿と突きつけられる斧だ。

 

「……行方知れずで心配していたが、まさか呉に捕まっていたとはな」

「あ、あの……」

「あやつは私にとって大切な存在。待っていろ。直ぐにこの女を自白させ、救い出してやるからな」

「……」

「さあ吐け。北郷をどこに捕らえている。言わねばこのまま潰す!」

「「呂蒙様!」」

 

慌てる二人だが華雄から発するあまりの殺気に近づけないでいた。

更にゆっくりと近づく斧。それでもなぜか呂蒙には怯えた様子がない。

むしろ気合の入った表情で見返している。そしてはっきりと華雄に顔を見定め、告げる。

 

「……一刀様は呉にとって……私にとっても大切な御方。あなたには渡しません」

「……なんだと?」

「あなたが一刀様と共闘していたのは知っています。ですが今は呉の将なんです。お引取りください」

「言ってくれるな、小娘?」

「いくらでも。正直、あなたでは一刀様の優しさはもったいないと思います」

「!? なんだと!」

「素敵な男性の隣にいるのは、それ相応の女性であるべきと考えています。だとすると貴方では役不足ではないでしょうか?」

 

笑顔で毒を吐く呂蒙。

 

「っ! なら貴様は自分が相応しいと、胸を張って言えるのか!」

「!? そ、それは……」

「ふん!貴様こそ北郷に見合うとは思えんな。張る胸も無いようだしな」

「!! 人の気も知らないくせに!あと胸は関係ないでしょう!」

「――!」

「――――!?」

「!―!!――――――!」

 

まさに一触即発。

突然の修羅場に李典に于禁、息を切らしている張勲も逃げるのを忘れて行く末を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

「……北郷様?」

「……クズ野郎じゃ」

「なんていうか、すいません」

 

修羅場の直ぐ横で、一刀と縄で縛った袁術を抱える楽進が現場を覗き込んでいる。

袁術を捕まえ、合流しようと町を歩いていたら只ならぬ殺気を感じてこちらに向かったのだ。

到着から十分程。最初こそ、互いに一刀を讃えるようなセリフに感動し聞き入っていたが、段々と方向性がずれてきてる。

褒め言葉は、節操の無さを叫弾する罵倒に変わり、呉と董卓軍にいた頃の女性関係がボロボロ零れてくる。

本人は全員に対して至って本気だが、ここで聞く分にはただのナンパ野郎だった。

 

楽進の尊敬の眼差しが一気に侮蔑の眼差しに変わっていく。

罪悪感に苛まれ、耐え切れず小鹿のように震える俺。

どうしてこうなった……!

 

説明しようにもここで出て行ったところで火に油を注ぐようなものだ。

万が一、華雄がキレてしまったら手のつけようがない。

かといってここで待機していては、楽進の視線に耐え切れない。

まさに、前門の虎、後門の狼状態だ。

頭を抱えて悩む一刀。

打開策は無いのか!?女性関係の広さはもはやどうしようもないが、どこかヒントはないか!

豊富な記憶を検索してみるが、該当する回答が見つからない。むしろこういう修羅場は今まで無かった気がする。

 

「どうすればいいんだ……」

 

とうとう膝を折って塞ぎこんでしまう。

すると、その拍子に胸元からなにかが出てきた。

地面に落ちたそれを拾って見ると、封筒のようだ。

 

「手紙、か?まだなんか入ってるな」

 

この中にはその二つしか入っていないようだな。

……手紙?この時代の書簡ではない。これはどういう事だ?

 

勿論自分で作って忍ばせたなんて事してないし、今まで違和感を感じなかったのもおかしい。

不信に思いながら手紙を開いて内容をあらためる。

 

『 こんなこともあろうかと。 愛するごしゅ……』

 

ビリィ!!!

渾身の力で引き裂く。

 

「いきなりどうしたんですか!?」

 

突然の奇行に驚く楽進になんでもないと手のジェスチャーで伝える。

一言だけのメッセージ。

しかもやたら丸みがかった日本語で書かれたこれは間違いなくアイツだ。

脊髄反射で破いてしまったが、まあいいだろう。意思は伝わった。

観念して、恐る恐る封筒の中を確認すると中には肩のかかったマントより派手な物体が輝いている。

 

……確かにコレなら正体はバレないかもしれない。

失うものが多すぎる気もするが。

 

「あの、北郷様。なんで涙目なんですか?」

「……後生だから聞かないで、ちょっとの間だけ袁術を頼む……くっ!」

「ほんとに泣いてる!?」

 

男の涙は貴重なんだ。見なかった事にしてほしい。

呂蒙達に見つからないよう迂回して、屋根の上に登って準備する。

こんな演出はいらない気がするが、どうもテンションがおかしい。この物体の持つ悪影響だろうか。

 

……まあいい。覚悟を決め、ソレを装着する

するとなぜか全身から謎の高揚感が巻き起こり、その気になってきた。

 

「……イケる!イケるぞぉ!!」

 

いく方向が駄目な方だが、もう止まれない。

現場を見下ろして声高々に声を上げる。

 

「待てィ!!」

「!? 何奴!」

 

気付いた華雄に釣られて、全員の視線が集中する。

 

「この戦い、俺が治めよう!」

「いきなり出てきて何を言っている?貴様。名を名乗れ!」

「ふっ、いいだろう」

 

ニヤリと笑いながら、即興で考えたポーズで決める。

 

「天が知る」

 

―デデン!

 

「地が知る」

 

―デデデン!

 

「人が知る」

 

ここでビシッと手を突き出し、更にかっこよくアピール!

 

―ジャキーン!

 

「美々しき蝶も知っている」

 

やや溜めてから、最後に名を叫ぶ。

 

「我が名は――――!!」

 

ドカーーーン!

 

脳内効果音とともに修羅場という戦場に降り立った俺、参上。

 

 

 


 
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