No.192090

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第二章・第三幕 『汜水謀戦(後編)』

狭乃 狼さん

汜水関の戦い、後編です。

ついに激突する一刀たち北郷軍と、霞達董卓軍。

その行方は果たして?

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2010-12-27 11:37:58 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:26615   閲覧ユーザー数:19544

 「汜水関に篭る董卓軍の将兵たちよ!わが名は北郷一刀!天の御遣いなり!都にて暴虐の限りを尽くすお前達の主を討つために、義を以ってこの地に降り立った!」

 

 汜水関。

 

 その正面で、蒼い鎧姿の三万の兵を背後に、馬上から口上を述べる一刀。陽の光を浴び、その身に着ているポリエステルの制服が、まるでそれ自身が輝いているかのように、まばゆいばかりの光を放つ。

 

 「悪逆の徒に仕える者たちよ!恥あるならばわが前に進み出よ!そしてわが正義の剣を受けて見せよ!」

 

 我ながら、少々芝居がかりすぎたかな、と。一刀はこのときのことを、後にそう反省したとかしないとか。

 

 それはともかく、一刀のその口上に対し、関からはなんの反応もなかった。

 

 (……ま、そういう風にしてくれるように頼んだからなんだけど。……由たち、うまく渡してくれたみたいだな。それなら)

 

 「なれば我が”天意”を受けし兵達よ!彼らに一泡吹かせてやれ!弩兵隊、前へ!」

 

 一刀のその指示で、五千の弩弓兵がその前面へと進み出て、関に対し弩を構える。

 

 「……放てーっ!」

 

 命と同時に、その彼らが一斉に矢を放つ。それは弧を描き、関の上にいた董卓軍の兵達までしっかりと届き、多数の者を倒した。

 

 「どうだ!これでもまだ関に篭り、亀のように首を引っ込めたままなのか!?”いつぞや”我らに見せたあの勇猛さは、すっかり形を潜めたようだな!はーっはっはっは!」

 

 これまた少々大げさに、一刀は関に向かって嘲り笑って見せた。すると―――。

 

 ギギギギギギ、と。

 

 関の門が、その重たい音を立ててゆっくりと開かれだした。そこには、『華』の旗を掲げた五千ほどの軍勢の姿が。

 

 「黙って聞いていればいい気になりおって!北郷とやら!その生意気なそっ首、この華雄が見事に吹き飛ばしてくれる!全軍、かかれーっ!」

 

 華雄の叫びとともに、一斉に動き出す彼ら。それを見た一刀は、

 

 「……なるほど、華雄さんが俺の相手をすることになったか。……蒔さん、予定通り、”次に”出てくる人の相手、よろしく頼みますね」

 

 「承知した。……せいぜい派手に、相手をしておくさ」

 

 に、と。自身に笑みを向けた一刀に、徐晃もまた笑顔で返事を返す。

 

 「輝里と瑠里も、”手はず”通りにね」

 

 『御意』

 

 返事をし、それぞれの部隊へと戻っていく徐庶と司馬懿。

 

 「それじゃ、大芝居の第一幕、その幕上げだ。……全軍抜刀!かかれーっ!」

 

 おーーーっ!!

 

 

 

 両軍が激しくぶつかりだした頃、連合軍のその本陣では。

 

 「れいはさまー!先鋒軍が戦いを始めましたー!」

 

 「あら、もうですの?結構せっかちですわね、北郷さんは。……それで、どうなってますの?」

 

 袁紹がみこしに乗ったまま、報告にやってきたその少女――袁家所属の将である文醜に、戦の状況を問いかける。

 

 「今のところ五分五分ってところです。どうします?援軍でも出しますか?」

 

 「その必要はないでしょう。ま、ほんとに危なくなったら、華琳さんか白蓮さんあたりでも、前に出せばいいですわよ」

 

 おーほっほっほっほ、と。そう言いながらなぜか高笑いをする袁紹。それと同刻、右翼に展開してる曹操の陣では。

 

 「そ。始まったのね」

 

 「はい。……暫くは、傍観、ですか?華琳さま」

 

 馬上にて、猫耳のフードのついたパーカーを着た、自身の軍師であるその少女――荀彧に対し、かすかな笑みをその顔に浮かべつつ、

 

 「そうよ。まずは天の御遣いとやらのお手並み、拝見といきましょう」

 

 (あのうわさが本当なら、こんなところで手こずるはずもないでしょうし)

 

 と、以前に聞いた一刀に関するうわさを思いだしつつ、曹操はそう返した。

 

 「……ですが華琳様。もし彼らだけで関を破ったとなれば、我らが名を為す機が無くなるのでは?」

 

 「それならそれで、私達は戦力を損なわずにすむわ。……名声なら、まだ”次”もあるんだし。……でしょ?秋蘭?」

 

 「……御意」

 

 弓を携えた、水色の髪の女性――夏候淵の危惧に対し、心配無用、と曹操は微笑んで見せた。

 

 

 

 また同じ頃。中軍を構成している、公孫賛と劉備の陣では、

 

 「……始まったんだ」

 

 「はい。……桃香さま、本当にこのままでよろしいのですか?あの北郷という者は、弱者に対しても情け容赦のない男だということ。……このまま戦いが続けば、”あの”噂のようなことに」

 

 「愛紗、少し落ち着いたらどうだ。……噂は所詮、噂に過ぎん。そりゃ、元の情報がなければ、噂も生まれやしないだろうけどな」

 

 劉備に対し、ある懸念を示すその黒髪の少女――関羽を、諭すようにして公孫賛が語りかける。

 

 「……」

 

 そんな二人の会話が、その耳に届いているのかいないのか。劉備はただ厳しい表情で、その視線を前方の戦場へと向けていた。

 

 (……もし、噂が本当なら、私は、あの人を絶対に認められない。……どんな理由がそこにあったって、けっして)

 

 と、そんなことを考えつつ。

 

 

 そして、場面は再び戦場へともどる。

 

 

 「確か、徐晃はんやったな?……なかなかやるやんか。ははっ、おもろうなってきたで!」

 

 自身の偃月刀を構えた張遼が、顔を紅潮させながら、そう笑顔で徐晃に語りかける。先に関を”飛び出した”華雄の後に続き、張遼もまた関から出陣して、徐晃の部隊と戦闘を開始した。……初めの打ち合わせどおりに。

 

 「ふふ。神速の将と名高い張文遠にそう言われるとは、正直光栄だよ。……ま、一刀と修行をしていなかったら、そっちの速さには、ついてすらいけなかったろうがな」

 

 張遼に対し、少々自嘲気味にそう返し、徐晃もその斧を構えなおす。

 

 「……さて、と。あと”どんくらい”、戦っとったらええやろな?」

 

 「……まだ、”合図”が挙がらん。もう少しだけ、付き合ってもらわねばならんだろう。……では、続きといくか。来い!張遼!」

 

 「おうよ!うらあーっ!」

 

 「おおーーっ!」

 

 再び、激しく武器を交える両者。一方、同じ戦場の少し離れた場所では。

 

 

 

 「はあ、はあ、はあ」

 

 「……なるほどね。これが、今の華雄さんの実力ですか。……ちょっとだけ、過大評価が過ぎたみたいですね」

 

 史実では孫堅に、演義では関羽に。それぞれ敗れているとはいえ、董卓軍では呂布に次ぐ実力者とも言われた武人、華雄。その実力は確かに”本物”だと、一刀は初めはそう思った。だが、

 

 「……どういう、意味だ」

 

 「そのままの意味ですよ。膂力も、速さも、体力も。すべてがまだまだ足りないんです。……これなら、由のほうがまだ上ですよ」

 

 「何……だと?」

 

 よろよろと。自身の斧を杖代わりに、何とか立ち上がり、一刀を睨み付ける。生粋の武人である自分より、小柄で華奢なあの姜維のほうが上だと。一刀に言われたその一言は、華雄の矜持を傷つけるのに十分だった。

 

 「……ああ、でも一つだけ。その闘気”だけ”は、十分に一流レベルですよ。……とはいえ、”今の”貴女じゃ、時間稼ぎの相手すら、務まらない」

 

 「お前!武人を馬鹿にするにもほどが……!!」

 

 「怒る気概があるなら、もう少し”まともに”、戦って見せてください。……董卓さんを、助けたいなら」

 

 「!……言われず、とも」

 

 敬愛する主の名が出て、華雄は落ち着きを取り戻した。ジャキ、と。金剛爆斧を再び構え、その脚にぐっと力を込める。

 

 「……それでいいです。合図まで、おそらくあと少し。……もうちょっとだけ、気合を入れてかかってきてくださいね」

 

 ゴオッ!

 

 「くぅ!」

 

 一刀の放つ”気”に、少しでも気を緩めれば吹き飛ばされそうになるのを、華雄は必死でこらえる。そして、

 

 「……おおおっっ!!」

 

 自身も闘気をまとって、全力で一刀に突っ込む。

 

 「ふぅぅぅぅ……」

 

 静かに息を吐き、それを迎え撃つ一刀。

 

 (……まだか、輝里?はやくしてくれよ。この分じゃ、時間稼ぎもあまり出来ないからさ)

 

 

 

 場面は再び、連合軍本陣―――。

 

 「なあ~にをやってますの、北郷さんは?!関一つ落とすのに、一体いつまでかかってるんですの?!」

 

 いらつきながら、みこしの上で怒鳴り散らす袁紹。

 

 「でも麗羽さま?攻撃を開始してから、まだ一刻しか経っていませんよ?いくらなんでも、そんなに早くは」

 

 「もう!一刻も!ですわ!……斗詩さん、左翼の孫堅さんに、前に出て北郷さんに加勢するよう、お伝えなさいな」

 

 「ええっ?「何か文句でも?!」いえ……わかりました」

 

 不承不承といった感じで、袁紹の下を離れていく顔良であった。

 

 

 そして、その左翼の孫堅軍・本陣。

 

 「……それは、総大将命令、なんだね?」

 

 「は、はい。……すいません」

 

 「わかった。お役目ご苦労さん」

 

 「そ、それでは失礼します」

 

 そそくさと。

 

 ばつの悪そうにその場を去る顔良の背を、孫堅は黙って見送る。

 

 「……それで、どうするの母様?本当に前に出るわけ?」

 

 孫堅と同じ色をした髪の、その褐色の肌の女性が、彼女を母と呼んで問いかける。

 

 「どうもこうもないさ。総大将の命とあれば、否も応もないよ。…・・・ま、五千も動かせば十分事足りるさね。雪蓮、”頼んだよ”?」

 

 「はあ~い。……あんまり気乗りしないんだけどなあ~「ギロ」う。……じゃ、じゃあ、行って来ま~す!」

 

 母親に睨まれ、そそくさと足早に駆け出すその女性――孫堅の長女、孫策・字を伯符であった。

 

 そして、そんなこととは露知らぬ一刀たちは、

 

 

 

 「見ろ、張遼!”合図”が挙がったぞ!」

 

 「……なら、ここまでやな。結構楽しかったで、晃ちゃん♪またいつか、続きをしような」

 

 関の上に”それ”が挙がったのを見た徐晃と張遼が、一騎打ちを中断してその距離を開ける。

 

 「ふ。……ああ、その時を楽しみにしてる。それと……”蒔”、だ。今後は、そう呼んでくれていい」

 

 「!!……ウチは”霞”、や。へへ。ほんならな、蒔やん。……全軍退くで!”虎牢関”に撤退や!」

 

 と、汜水関ではなく、その横の”山のほう”へと駆け出す張遼隊。

 

 (うまいこと逃げてくれよ、霞。さて、こっちも一刀と合流して……!?あれは)

 

 その張遼隊を一瞥し、一刀の方へと視線を転じようとした徐晃は、その視界の中に、自分達の方へと向かってくる、一つの部隊をとらえた。

 

 「まずい。……まさか、我らの策が、誰かに勘付かれでもしたのか?……くっ!」

 

 慌てて馬首を返し、一刀の下へと駆け出す。

 

 そして、”それ”には一刀も気づいていた。

 

 

 「……参ったな。袁紹さんあたりがしびれでも切らしたかな?」

 

 迫りくる『孫』の旗の軍勢を見やりながら、これからの対処を、その頭をフル回転させてまとめていく。

 

 「う、うう……」

 

 「気が付きましたか?華雄さん?」

 

 「私、は……そう、か。負けた、のか」

 

 「ええ。……けど、少々予定外なことが起きたみたいです。……華雄将軍、貴女、董卓さんのために、少々の”恥”をかくこと、出来ますか?」

 

 「何?」

 

 気絶から目を覚まし、倒れた状態のままの華雄に対し、一刀は”ある事”を持ちかけた。そして、孫策率いる軍勢が、一刀の下へと到達した。

 

 「貴方が北郷?私は孫文台が一子、孫伯符。総大将の命令で、援軍に来たわよ」

 

 「……それはわざわざどうも。でも、一足遅かったですよ。残念ながら、ね」

 

 「?どういう事……って、そこに”縛られて”いるのは?」

 

 「董卓軍の将、華雄さ。ついさっき、”捕縛”したばかりだよ。……ま、配下の兵達には、逃げられちゃったけどね」

 

 後ろ手に縛られ、さらに猿轡をかまされた状態で地に座る華雄のその頭を、一刀はぐしゃぐしゃとかき乱しながら、孫策に状況を説明する。

 

 「なーんだ、つまんないの。……なら、後は関を抜けば」

 

 「そっちも済んでるよ。……ほら」

 

 「え?」

 

 くい、と。関に背を向けたまま、親指だけを立てて背後を指し示す一刀。そこには、関の上に揚々と翻る、黒地に十字の旗が。

 

 「…………うそ」

 

 

 

 戦闘開始から、わずか一刻半。しかも、見る限り北郷軍の被害は、負傷者こそ多数いるものの、死者はどう見ても出ていなかった。

 

 (そんな状態で関を落として、敵将まで捕らえたってわけ?……へ~え)

 

 チラ、と。一刀の顔を、好奇心いっぱいの目で見る孫策。

 

 「……何ですか?」

 

 「ん~?べつに。……ちょっとだけ、貴方が気に入った、ってだけよ♪」

 

 「へ?」

 

 クスクス、と。

 

 孫策はポカンとする一刀の、その呆気にとられた顔を見ながら、不敵に笑うのであった。

 

 

 とにもかくにも、わずかなハプニングこそありはしたものの、ほぼ一刀の思惑通りに、汜水関は陥落した。

 

 唯一の予定外となった、”捕虜”の華雄を伴い、別行動をしていた徐庶たちと、一刀は合流をした。”最初の予定通り”、兵がすべて撤退して”空になった”関を、無傷で占拠した彼女達と。

 

 汜水関への一番乗りを果たした一刀たちは、合流した袁紹たち本隊の、その呆気にとられた顔を迎えつつ、心の中でほくそえんでいた。

 

 すべては、ほぼ、予定通り、と。

 

 

 そしてそのころ。

 

 

 洛陽へと向かった姜維と王淩もまた、それぞれの戦いを始めようとしていた……。

 

 

                               ~続く~

 

 

 

 といったかんじで、汜水関戦、決着です。

 

 「いかがだったでしょうか?・・・あ、輝里です。ども」

 

 「・・・由さん代理、司馬懿仲達こと、瑠里です。・・・よろしく」

 

 「ほえ?るりちゃん?・・・由は?」

 

 次の仕事で忙しいんで、今回は緊急に代理を頼みました。

 

 「ふ~ん。・・・出番なくならないといいけど」

 

 「・・・わたしはべつに、どっちでもいいですけど」

 

 

 さて、あらためて今回のお話はどうだったでしょうか?

 

 「どうもなにも、私とるりちゃんの出番、少なすぎない?」

 

 「・・・仕方ないと思います。あくまで、今回はバトルメインですから」

 

 瑠里の言うとおりです。うんうん。

 

 「・・・このろり野郎は・・・。おほん!で、華雄さんが捕虜になりましたが、お仲間フラグですか?」

 

 それは秘密。

 

 「伏線はりもほどほどにしないと、またこんがらがるわよ?」

 

 ・・・きをつけます。はい。

 

 「・・・・・・馬鹿」

 

 

 さて、それでは次回予告。

 

 「洛陽に潜入した由と王淩さん。はたして、無事劉協さんと董卓さんを助け出せるのか?」

 

 「・・・そして、張譲が語る、その目的の一端とは?」

 

 次回、真説・恋姫演義 ~北朝伝~、第二章・第四幕。

 

 「『洛陽 策動(仮)』」

 

 「・・・ご期待ください」

 

 それではみなさま、コメント等、お待ちいたしておりますね!

 

 「ツッコミでもいいですけど、誹謗中傷は勘弁してやってくださいね」

 

 「気が向いたら、支援ボタンもポチッとしてやって下さい。・・・じゃ、また次回で」

 

 

 『再見~!!』

 

 


 
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