No.191256

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 第二章・第一幕 『諸侯集結』

狭乃 狼さん

北朝伝、二章の一幕目。

遅ればせながらの投稿にございます。

ついに結成される反董卓連合。

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2010-12-23 16:50:42 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:26370   閲覧ユーザー数:19429

 「はあ、はあ、はあ」

 

 暗い森の中、一つの人影が息を切らせて必死に走っていた。空にはたくさんの星が瞬き、美しい月が夜の闇を照らす。だが、森の中まではその光も届かず、一面の闇だけがあたりを支配している。

 

 「……あと少しで、冀州に入るはず。……待っててね、白ちゃん。”ご主人様”に頼んで、必ずあなたを助けて貰うから」

 

 その暗闇の中でも、正確に周囲の木々をよけながら走り続けつつ、その人影はそう一人ごつ。

 

 ”この世界”に生れ落ち、”この世界”の父と母が死んで以降、自分にとって無くてはならない存在意義。そして同時に、大親友と呼べるその人を救うため、その人物――王淩は、全速力で森を駆け抜ける。

 

 今まで、”数多の”世界で愛し続けた、その人物がいる場所を―――冀州は鄴郡を目指して。

 

 

 

 その頃、彼女が目指すその鄴の城では。

 

 「……やっぱり、間違いは無いんだね」

 

 「はい。前大将軍、何進様の”死亡”の後、相国の座に就いた董卓公は、帝の名を使い、己の欲するままに、民からの搾取を続けているとの事です」

 

 玉座に座る一刀の問いに対し、あくまでも無表情で答える司馬懿。

 

 この数日前のこと。洛陽からの行商人たちから、一刀がとんでもない噂を聞いたことが、その発端であった。曰く、『相国となった元涼州刺史・董卓が、都にて言葉では言い表せないほどの、悪政を行っている』との事であった。

 

 以前、本人と知り合って、董卓のその人となりを知った一刀は、彼女がそんなことをするわけが無いと、それを一笑に附した。それでも一応、事の真偽だけは調べておこうという、司馬懿の提案を受け、彼女の直属の草組に洛陽の様子を調べさせた。

 

 その結果が、さきの報告であった。

 

 

 

 「なあ、いっちゃん。ホンマに、ホン~マに、間違いなかったんか?……ウチには絶対に信じられへん」

 

 「由さんのお気持ちはわかります。ですが、事実は事実、ですから。……それとも、私の細作組が信用できないと?」

 

 「……そうは言わへんけど……」

 

 司馬懿の報告をどうしても信じることができず、姜維は彼女にしつこく食い下がった。しかし、司馬懿はその鉄面皮を崩すことなく、あくまでも調べ上げた”結果”だけを、冷静に言い放つ。

 

 「……俺も正直、”あの”董卓さんが暴政だなんて、到底信じ難いよ。けど、瑠里の情報網が正確なのは、みんなも十分承知だと思う。……もしかしたら、裏に何かあるのかも知れないけれど、現状では確認のしようが無い」

 

 「……せやな。すまん、いっちゃん。いっちゃんの情報が確かなんは、ウチも身をもってよう知っとるさかいな。疑うてごめんな?」

 

 「……べつに。分かって頂けたならそれで。……てか、頭なでないでください。子供じゃないんですから」

 

 司馬懿に謝りつつ、その頭をぐりぐりと撫で回す姜維に対し、された本人はその顔をほんの少しだけ赤らめつつ、それを拒否する台詞をつぶやく。

 

 「……それで、瑠里?白亜は……皇帝陛下はどうしているんだ?彼がそんな状況をほうっておくなんて、それこそ信じられないんだけど」

 

 「そうですね。どうなの?瑠里ちゃん?」

 

 あの、民の事を第一に考え、心底からこの国を何とかしたいと思っている劉弁が、事の真相はともかくとして、現実に民の窮状を捨て置いていることに一刀が疑問の声を上げ、徐庶もまた、それに同調して、司馬懿に質問をする。

 

 「……わかりません。さすがに禁門の内側、ましてや後宮にまで細作の人たちも忍び込めませんから」

 

 だから、調べようが無いです、と。司馬懿はそう答えた。

 

 「ならカズ。ウチに洛陽に行く許可を!ウチなら禁門やろうが、後宮やろうが、んなもん関係なしに忍び込める。その上で陛下に直接」

 

 と、姜維が一刀にそんな提案をしようとしたとき。

 

 「申し上げます!南皮の袁家より、危急の使者が参っております!」

 

 と、来訪者を告げる兵の声が、玉座の間に届いた。

 

 「……袁紹さんから、ね」

 

 「……張郃さん達のことだったりとか?」

 

 「今更かい?……まあいいや。お通しして下さい」

 

 「はっ!」

 

 

 

 程なくして、一刀たちの前に一人の少女がその姿を見せていた。袁家所属の将、最大の特徴とも言える金色の鎧を見つけた、ショートカットのその少女。

 

 「お初にお目にかかります。私は南皮太守・袁本初が配下、顔良と申します」

 

 「始めまして、顔良さん。鄴郡太守を勤めさせてもらっている、北郷一刀です。……先の戦では、張・高の両将軍には、”大変”、助けていただきました。改めて、そのお礼を述べさせていただきます」

 

 ”大変”、の部分をわざと強調し、顔良に皮肉めいた謝辞を告げる一刀。

 

 (……一刀さんも、結構いい性格してますね)

 

 (……クス。まあ、ね)

 

 「……本日は、わが主よりの、”檄文”を届けに参りました。まずは、こちらにお目通しのほどを」

 

 一刀の謝辞にはあえて答えを返さず、顔良は”それ”を、一刀に対し差し出す。

 

 「……檄文、とは、穏やかではないですね。……由」

 

 「はいな」

 

 一刀に促された姜維が、顔良の手からその書簡を受け取り、改めて一刀に手渡す。そこに書かれていたのは、董卓の暴政が知らされた時点で、ある程度くるであろうと予測していた、ほぼその通りの内容であった。

 

 

 『袁本初がここに激を飛ばす。都にて、不遜にも帝の御名を使い、暴虐の限りを尽くす董仲頴に対し、ここに正義の鉄槌を下さんとするものなり。心ある諸侯よ、大儀の旗の下に、是非に参集されたし』

 

 

 (ほんとに、ほぼ予想通りの内容だな。史実じゃ、この檄を飛ばしたのは曹操だったけど、状況が少し違うし。可能性として考えていた通りの展開になった、か)

 

 「……顔良さん。激の内容については、よく理解しました。とりあえず、少し皆と話をしたいと思いますので、どうか別室にて、お休みください」

 

 「ありがとうございます。ですがこれより、ほかにも回らないといけませんので、お返事は後日、南皮の方へお願いいたします。……それでは」

 

 と、顔良は拱手したままそれだけ言い、そのまま退出していった。

 

 

 

 顔良が退出していったその扉が閉じられると、一刀は椅子の背もたれにその背を預け、大きく一息吐いた。

 

 「はあ~。……さて、と。この檄文に応じるか否か、だけど。まずはみんなの意見から、聞かせてもらおうかな」

 

 と言い、その場の全員を見渡す。

 

 「私は参加すべきと思います。事の真偽はどうあれ、これにて洛陽での暴政と、それを行っているのが董卓さんだということが、世に知れ渡ることになりましたから」

 

 「完全に、大儀は袁家にあり、ですね。もし仮に、この大儀に逆らう、もしくは傍観を決め込もうものなら、私たちは今後、完全に孤立することになるでしょうから、私も、参加に賛成です」

 

 先手を打って賛成の意を表した徐庶と、それに追随する形で、司馬懿もまた賛成の意見を述べる。

 

 「……ウチは正直、気がすすまへん。霞や華雄たちとやり合うことになんのやろ?いや、それが私心なんはようわかっとるけど」

 

 「あたしも正直言えば、あまり乗り気ではないな。連合、と言えば聞こえはいいが、うまくまとまらなければ、ただの烏合の衆になりかねん」

 

 あからさまに反対、と言うわけではないが、それぞれの理由から姜維と徐晃は難色を示す。

 

 「……状況は五分五分ってところか。何か、決定的な要素の欲しいところだな。かといって、今から由に洛陽に行ってもらったんじゃあ、時間がかかりすぎるし……」

 

 腕組みをし、一刀が思考状態に入る。それを見た四人は一斉に口を閉ざし、一刀の思考の邪魔をしないよう、そろって沈黙を保つ。

 

 そうして三十分も経った頃、”それ”は唐突に現れた。

 

 「ぶるわぁぁぁぁっっっ!!」

 

 『おわあっっ!?』

 

 どこからどうやって入り込んできたのか、一人の”女性”が、その容姿に似つかわしくない叫び声を上げながら、突然室内に”わいて出た”。

 

 「あ、あ、あ、貴女、お、王淩さん?!」

 

 「何やの今の叫びわ!ていうか、どっから出てきたんねん!?」

 

 「そお~んなことはどうでもいい~の!お願い”ご主人様”!白ちゃんを助けて!」

 

 『……は?』

 

 ぽかん、と。あまりの突然さに、いろいろと呆気にとられ、思考が麻痺状態となる一同であった。

 

 一方その頃、都では―――。

 

 

 

 「それでは陛下。”次も”よろしく、お願いいたします」

 

 そう言って頭を下げる”ソイツ”に、玉座から冷たい視線を向けたまま、

 

 「……分かっておる。用が済んだのであれば、早急に去ね」

 

 と、そう吐き捨てた。

 

 「おやおや、これは嫌われたもので。……くっくっく。それでは」

 

 バタン、と。

 

 扉が閉められ、男が玉座の間から出る。それを見届けた彼――劉弁は、

 

 ダンッ!

 

 と、椅子の肘掛を思い切り叩きつけ、唇を強く噛む。

 

 「……張譲め。”協と相国”の居場所さえ分かれば、いつまでも好きにさせぬものを」

 

 噛んだ時に切れた唇から、一筋の血を流し、劉弁は忌々しげにそう一人ごちた。

 

 (……彦雲、頼むぞ。無事、一刀の下に辿り着いていてくれ。そなただけが、今の朕には唯一の頼みの綱じゃ)

 

 声には出さず、そう願う劉弁。……あの時の、一刀の笑顔を思い出しつつ。

 

 

 そして、それから数日後。

 

 

 

 

 ところは兗州と豫州の境。黄河を北に眺めることの出来る小高い丘の上から、彼らは眼下の盆地を見下ろしていた。

 

 そこには、色とりどりの牙門旗が揚々とはためいており、数え切れないほどの兵達によって、大地が埋め尽くされていた。

 

 「……よくもまあ、これだけ集まったもんだ」

 

 「それぞれに、それぞれの思惑があるのでしょうけど」

 

 馬上からその光景を眺め、率直な感想を思わず漏らした一刀に、その隣に馬を並べた徐庶が、冷静にそう続く。

 

 「見る限り、総数は約二十万と言った感じか。『袁』の旗が二つに、『孫』と『曹』。それから」

 

 「『公孫』に『劉』、そして『馬』、ですね。……どうやら、私たちが最後だったようです」

 

 徐晃と司馬懿が、それぞれに視界の中の旗の字を確認していく。

 

 「……王淩さんと由は、うまく潜り込めたかな?」

 

 はるか西のほうを見やりながら、一刀がポツリと、”先行”した二人のことを、心配げな表情で誰とも無く問いかける。

 

 「大丈夫でしょう。二人とも、”その道”にかけては、大陸でも五指に入る実力の持ち主ですから」

 

 そんな一刀に声を掛ける徐庶の顔は、彼の不安を消し去る、満面の笑顔であった。

 

 「……そだね。白亜や董卓さんを救うためにも、俺たちは今回の策を絶対に、成功させなきゃならない。……あそこに居る、諸侯のすべてを、”騙し抜いて”」

 

 『……』

 

 ん、と。互いの顔を見合わせ、頷きあう四人。

 

 「……よし!それじゃあ、俺たちも合流しようか。三国志の英傑たちを相手の、一世一代の”大芝居”のために」

 

 『御意』

 

 ”十”の旗を掲げた、北郷郡の精兵三万が、隊伍を整えてゆっくりと動き出す。様々な思いを秘めた諸侯が集う、”反董卓連合”の集結地へ。

 

 史上最大の”茶番劇”。

 

 後世、史家によってそう評された、この戦い。この先に、一刀たちが得るものは、果たしてあるのだろうか。

 

 そして、得るものがあれば、それと対等に、失われるものがあるのも、また理である。

 

 はたしてそれらが何なのか。今は誰も、知る由が無いのであった。

 

 

                                ~続く~

 

 

 

 さ~て、恒例あとがきこーなーです。

 

 「どーもー。輝里でーす」

 

 「由やー。よろしゅうなー」

 

 

 さて、まずは連合結成の冒頭って感じでしたが。どうだったでしょうか?

 

 「とりあえず、私たちは連合側に組することになったわけね」

 

 「出陣前の王淩はんとのやり取り、書かなかったんやね。なんで?」

 

 単に雰囲気重視なだけ。話の展開とかね。

 

 「さよけ」

 

 そのやり取りは次回にてご紹介となりますので。

 

 

 「連合参加勢力は、私たち以外は恋姫本編組みだけですね」

 

 「せやな。ていうかさ、おとはん。一つききたいんやけど。前回のコメで、駄名族のひとが今回出るとか書いてなかった?」

 

 最初はそのつもりだったけどね。書いてるうちに出番が無くなってもうたわ。はっはー。

 

 「はっはー、て。・・いいのかな?」

 

 「えーんやないの?いちお、斗詩は出てたし」

 

 

 てなわけで、次回予告です。

 

 「いよいよ開始される、反董卓連合の戦い」

 

 「始めに立ち塞がる壁の名は”汜水関”!そこに待つは、果たして?」

 

 次回、真説・恋姫演義 ~北朝伝~、第二章・第二幕。

 

 「『汜水 謀戦・前編』」

 

 「ご期待くださいませ」

 

 

 それでは、今回もツッコミその他、ご意見・ご感想、お待ちしております。

 

 「支援も忘れんといたってな~」

 

 「それでは皆様」

 

 

 『再見~!!』

 

 


 
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