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真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第58話

第58話です

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この場を借りて御礼申し上げます。

2010-12-12 21:22:51 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:5375   閲覧ユーザー数:4862

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください

 

 

咆哮を発し

殺気を身に纏い

地鳴りを上げて傾れ込む斗詩の部隊

 

忽ちに森は戦場と化し、不意を突かれた魏の兵達は浮足立ったまま動けずにいた

 

(…やられたわ)

 

成す術もなく総立ちのまま絶命していく兵を尻目に霞は舌打ちを吐いた

 

「奇襲隊が奇襲受けるなんてなあ…肩透かしもええとこやで!?」

「誰のせいですか!」

 

毒づく霞を他所に凪が既に目の前まで躍り出た一人の敵兵の懐へと瞬時に飛び込むと同時に勢いそのままに右拳を打ち込む金属が破裂する衝撃音とともに兵は白目を剥き、その体が一瞬浮き上がる

 

「はああっ!」

 

すかさずに回し蹴りを放つと兵の体がくのに字折れた状態で敵軍の中へと吹っ飛んで行き、数人の兵達を巻き込んで尚も飛んでいく

 

「貴女の我儘に付き合っていたからこうなったんじゃないですか!」

 

怒りの相貌が霞を睨むが当の本人は何処吹く風に唇を噛んで遥か前方を睨んでいた

 

「そうやない…ハメられたんやで?」

「はあ?」

「見てみい!」

 

凪の頭をわっしと掴み周囲をぐるりと見渡せると彼女の耳に呟くように語りかける霞の声は低く、冷たく、どこまでも冷静なものであった

 

「全包囲されとる…読んでたんや…うちらが来る事を」

「っ!?」

 

霞の指摘そのままに彼女等の周囲をぐるりと取り囲んだ兵達が一面に突撃してくる様に、凪の喉がごくりと鳴った

 

「冷静になりぃ凪、奇襲は失敗や」

「くっ!ならば撤退を…」

 

撤退を視野に入れた直後、彼女達を取り囲むように火の手が上がり周囲に火の粉が舞い、煙が立ち込める

 

「なっ!?」

「判断が早いやんけ…うち等をどうやっても逃がさん気か!?」

「当然です!」

 

二人の頭上から声が上がると同時に凪の体を蹴り飛ばし、自身も後方へ飛びのいた直後に二人が立っていた場所に爆音と共に爆煙が上がる

 

もうもうと立ち込める土煙りを裂くように斗詩が中から跳躍し

 

「張遼覚悟ォっ!」

 

叫ぶと同時に金光鉄槌を振り下ろす

 

「んなろっ!」

 

まともに当たれば通常の槌のそれでは済まない

地面を抉りクレーターを作り出すほどの斗詩の一撃を間一髪に跳躍して交わす

 

再び舞い上がる土煙りの中から今度は霞目がけ真直ぐに突撃してくる斗詩

 

「ふっ!」

 

霞の目の前を横薙ぎに振われた金光鉄槌が通り過ぎると同時に踏み込もうとした彼女だったが

斗詩の動きは一撃のものではなく

 

「はあっ!」

「ちぃっ!こんのぉ!」

 

まるで流れるような動きで巨大な鉄槌が襲いかかる、重量感十分に振われる度にボオオンと風を斬る音が耳元で打ち鳴らされ、その都度霞は舌打ちを鳴らしていた

 

「張りぼてや無いんゆうに…っのおお!」

 

唸りを上げて迫るそれを身を屈めて交わす

背筋が凍るような爆音が頭上を通過する中、振りぬいた斗詩の懐に飛び込まんと低く跳躍する霞

 

(脇がガラ空きやっちゅうねん!)

 

だが

 

空振りした金光鉄槌の遠心力に引かれ斗詩の体が後方へと飛び、霞の繰り出した突きの一撃が彼女を貫くことはなく

 

(あかん!誘われよった!)

 

伸びきった体制の霞、それは正に一瞬の硬直であったが

 

「やああああ!」

「くそがっ!」

 

ガガガガと地面を抉りながら渾身の一撃とばかりに金光鉄槌が振り上げられ霞の体が空高く舞い上がり後方に聳えた木へと叩きつけられた

 

「霞様!おのれぇ!」

 

叩きつけられ前のめりに倒れ込む霞と同時に今度は凪が斗詩へ跳びかかる

 

「はあっ!」

 

中段突きをフェイントに足払いをかまそうと両手を地面に付き振りぬいた彼女の蹴りが薙いだのは

 

ガキン

 

「っ!?」

 

斗詩の脚ではなく金光鉄槌の柄、梃子の原理に振り子のように鉄槌が回転しその頭部入れ替わりに凪に襲いかかる

 

「ちっ!」

 

舌打ちを残しバック転して距離を空けると今度はそこめがけて柄が振り下ろされる

地面に付いた頭部を転がすように斗詩が鉄槌を蹴り、その反動で振り下ろされた柄を凪は両手をクロスして防御した

 

「はっ!まさか槌をその様に扱う者がいようとはな」

 

奥歯を噛み締める凪を他所に再び脚を使い頭部を自身に向け引き寄せるように蹴り上げると柄に手を伸ばし金光鉄槌を肩に担ぎ身構える斗詩

 

(それだけじゃない…防御を得をする部隊か…とんだ食わせ者だな)

 

見ればかのもの部隊も彼女も息抜く間もなくにひたすらに攻撃を繰り出し、本来攻め手であるはずだった自分達をむしろ押し返す勢いに攻め続けている

 

(撤退止むなし…だが)

 

さらにそれは今しがたに気付いたことだが周りに上がった火の手はコの字を描くように魏の兵達を取り囲み、唯一の出口には重槍を構えた一団が立ち並ぶ

やがて時間の経過と共に火の手の届かない空間が狭まりもはやこの地からの脱出は出口へ向けた一転突破のみに残されていた

 

(気づくのが遅すぎた…兵を纏めようにもこれでは)

 

今更ながらに霞が言っていた事実を理解し眉間に皺を寄せる凪

 

読まれていた、それも完璧にである

 

烏巣奇襲隊を読み彼女等は息を潜めていたのだ、丁寧に兵糧其の物の兵達には月見と称して酒を振舞ってまで

 

「袁家には優秀な軍師がいるのですよ♪」

 

此方の考えを読みとたっかのような台詞と笑みに今日何度目かの舌打ちを鳴らす

 

「凪、兵を纏めぇ」

「っ!?霞様!?」

 

後方からの声に振り向けば声の主が飛龍偃月刀を地面に突き立てよろよろと立ちあがるところであった

 

「これ以上時間を掛けられへん…迷ってる暇ないで?」

 

叩きつけられた際に額を切ったのだろう、ドクドクと流れる鮮血に顔面を濡らし、口元からも吐血の筋が顎に伝っていた

 

「し…霞様!?」

 

驚いたのはその様相よりも彼女が尚も笑っていたことである

血だらけになりながらも不敵に笑い、眼光は更に鋭く、殺気を帯びていく

 

「か…かはは、やるやんか…やるやんか!」

 

そうでなくては

 

「おもろいやんけ…ごっつおもろいやんけ!!」

 

自分がこの地に身を投じた意味がない

 

「強いやんか…自分めっちゃ強いやんか!!」

 

浮かんでは止まぬ自身の笑みに頬の痙攣が止まらない

 

「そうや…顔良!その調子や!もっとや!もっとうちに鱈腹食わしてや!」

 

狂った?

狂気に狂喜する霞の姿に凪、そして斗詩の体にもまた冷たい汗が流れていく

 

だがそんな二人を余所に霞は頭の中をそれまで蔽っていた霧が晴れたかのように透明(クリア)になっていくことを自覚していた

 

これや

 

これがシたかったんや

 

命の取り合いや

 

雑魚食ってるんわいい加減飽き飽きしてたんや

 

いつからや?

 

華雄以来か?

 

恋以来か?

 

愛紗ん時はつまらんかってんな…惇ちゃんが全部持ってたさかい

 

…せや

 

あいつや

 

あいつとヤッた時以来や

 

涼しい顔して殺気飛ばしてくるあいつ以来や

 

なかなかに奥の手見せんいけ好かんやっちゃけど

 

あいつに負けて以来のや

 

こいつはどうや?

 

全部さらしてんやんか

 

うちを前にして自分の手全部見せとるやないか

 

いいわあ

 

喰い甲斐があるやん

 

うちの命全力で取りに来とるやん

 

旨そうやないか

 

美味そうやないか

 

 

「し…霞様?」

 

舌舐めずりをして歩きだす霞の姿に戦慄した凪が思わず退がる

 

「凪ぃ…手ぇ出すなや…あれはうちの…獲物やってん」

 

血走り、焦点の合わぬ彼女の瞳が益々狂気を帯びていく

 

「しかし!…その怪我では」

 

ぐりんとひんむかれた瞳が彼女を捉え、凪の両手が前に組まれた

彼女の体が無意識に行ったのは防御

 

恐怖に駆られ

 

狂気に呑まれていた

 

「ええから…兵纏めて逃げぇ…此処は危険や…せやけどもっと危険になる」

「は?」

 

霞の言葉の理解ができず、間の抜けた返事が吐いて出る

 

当の彼女はというと全身から汗を噴き出し、その体は何かに駆られるように震えていた

 

「ビンビンや…さっきから五感がビンビンや…ついでに六個目の勧もビンビンや」

「し…」

「いいから行けっちゅうねん!殺すぞワレ!!」

 

怒鳴りつけられると同時に金縛りが解けたように凪が駆け出す

 

「つ…続けぇ!遅れた者は灰になろうと見捨てるものとするぞ!」

 

駈け出した彼女の行く先は斗詩の部隊が待ち構える火の手のない出口ではなく煌々と燃える炎の中

指揮官の姿につられるように意を決し、部下達も飛び込んでいく

その姿に斗詩が舌打ちし霞はというとヒュウ♪と口笛を鳴らしていた

 

「正解や凪」

 

凪達を見送るとブンと飛龍偃月刀を振い斗詩へと向き直る

 

「さあて…まずは前菜からや」

「何で…すって?」

 

眉を潜める斗詩を他所に霞は全身を震わせて戦場の空気をその身に纏っていった

 

 

(来る…あいつが来よる)

 

戦場という地が

 

彼女の神経を研ぎ澄ましていく

 

命のやり取りをしているという実感の中で

 

彼女の神経が嘗てないまでに研ぎ澄まされていく

 

(何処で道草しよってん…まったく)

 

息が詰まるほどに

 

彼女の全身が針で突かれたかのように

 

研ぎ澄まされていく彼女は戦場という地と一体になっていく

 

(腸煮え刳り返ってんねん)

 

あの日

 

あの時から

 

(あんなんで決着ついたと思われるんわ…虫が良すぎるゆうねん)

 

近い

 

もう直ぐそこにいる

 

(”ふるこおす”やな…せやけど先ずは)

斗詩に狙いを定めたかのように視線を向け額から口元に流れてきた血をぺろりと舐める

 

油断なく此方を睨みかえす斗詩の姿に喉を震わせて笑う

 

 

何の予備動作も無しに霞が目の前…手を伸ばせば届く距離に、正に目の前に、まるで空間を跳躍してきたかのように斗詩の目の前に現れ

 

「なっ!?」

 

顔面めがけて突き出された突きを咄嗟に交わすものの

 

「そらああ!」

「くっ!」

 

続けざまに…否、まるでほぼ同時に繰り出される突き

 

「そらそらそらそらそらそら!!!」

 

(速過ぎる!?)

 

「顔良様!」

 

追い詰められていく斗詩を助太刀せんと4人の兵が飛びかかる…が

 

「一騎打ちの邪魔すんなや!」

 

いずれの兵も外れることなくその頭を貫かれて断末魔を上げる暇もなくその場に崩れた

 

「このおっ!」

 

その隙を突こうとした斗詩であったが彼女が振り下ろした先にあったはずの霞の身体が霧を裂いたかのように手応えなしに消えた

 

(そんな!?)

 

目の前で起きた現象に頭の中が追いつくよりも早く

 

「うそ!?」

 

互いの息が掛かるほどに再び目の前に現れる霞

考えるよりも早く距離を取ろうと退ろうとした斗詩の体に霞の手が伸び

 

「逃がさへんて♪」

 

斗詩の胸を鷲掴みにし自身の方へと力任せに引き寄せる霞

 

「あうっ!」

 

やはり力任せに、まさに握り潰さんとばかりに掴まれた胸の痛みに思わず声が出る斗詩

 

「ええ乳しとるやん!うち好みや!」

「のっ!」

 

振り払おうと金光鉄槌を持つ右手に力を込めた瞬間、彼女の右手に軽い衝撃と共にビリビリと痺れが走り鉄槌が彼女の手からこぼれ落ちる

 

「な!?」

 

目線の先彼女の右肘

 

霞の飛龍偃月刀の柄の先が当てられていた

 

「秘技、雷神拳!なんつってな♪」

 

口の端をニヤリとあげ胸を鷲掴みにしていた左の拳をさらにギュウっと握り締める

 

「いっ…た」

 

涙が眼尻に浮かび視界がぼやける

 

「可愛い可愛い♪」

 

満面の笑みを浮かべた霞の右手がスッと下がり、飛龍偃月刀の剣先が斗詩の顔目がけて向けられたその時

 

ヒュン

 

風を切り裂く音が霞の首筋を撫でたかと思うと彼女の髪留めがカチャンと音を立てて割れ髪留めを失った彼女の長髪がハラリと垂れ下った

 

「ええとこやっちゅうに…趣味悪いでホンマ」

 

たは~と息を吐き斗詩を掴んでいた手を放すと『それ』が飛んできた方向へ顔を向けて悪態をつく

 

「戦場で相手を淫らに嬲るのはいただけないな」

 

嫌味の視線を向けられたその相手は相変わらずの無表情に首を傾げながらツカツカと歩み寄ってくるところだった

 

「ええ乳があったらすかさず揉む!それが全国一般の張家の嗜みってやっちゃ」

「…同じ張性だが初めて聞いたぞ」

 

足元でゼイゼイと息を吐く斗詩との間に割り込んだ男は目を細め霞を見下ろし、霞はその男を挑発するかのようにニシシと白い歯を見せ見上げた

 

「何や怒っとるんか?前より目つき悪うなってんで?」

「貴公は相変わらず人を怒らせるのが得意なようで」

 

冷たい視線

鼻と鼻が付くほどの距離で睨まれても尚も体の、心の奥から湧き上がる感情に彼女の口元は緩みっぱなしだった

 

「たまらんなあ…」

 

湧き上がる気持ちを抑えられない

 

「待っとんだやで…ずっと待ち焦がれとったんやで」

 

どうしてくれようこの気持ち

 

不意に顔を突き出し男の唇に自身のそれを一瞬重ねる

 

「またおうたな…強敵」

 

クスクスと口元に手をやり笑う霞、だがそんな彼女への返事は思わぬところから返ってくるのだった

 

「ご無沙汰ですね霞さん…あいかわらず元気そうで何よりです♪(怒)」

 

戦場に似つかわしくない透き通った声に体がビクリと硬直し

 

ギギギと油の抜けたブリキのように彼女の首が回りそれと視線があった

 

「げえぇ!月!!」

 

満面の笑みをに浮かべながらも額に青筋を浮かべ、口元を痙攣させる月の表情に霞の顔から血の色がサア~っと薄れ文字通りに蒼白になっていく

 

「まったく…オイタは駄目ですよ♪(怒怒怒)」

 

背後からゴゴゴゴと謎の地鳴りをあげる月に霞はヒクつきながら比呂へと向き直った

 

「人格変わっとるやん…あんた何しよってん」

「そうか?彼女は最初からああだったと思うが?」

 

どこまでも涼しい表情の比呂と

 

ふつふつと込み上げる怒りを抑えた表情の月を前にして

 

霞は蛇に睨まれた蛙のように固まっていた

 

 

 

あとがき

 

ここまでお読みいただき有難う御座います

 

ねこじゃらしです

 

大変私事で申し訳ございませんがお気に入り登録が200人を突破しました!

思えば今日この日まで続けられたのも支援、コメント頂いた皆様のお陰であることに他なりません

 

いろいろと落ち込んだ時とかは頂いたコメント、メッセージを読んで自分を奮い立たせています!

自分でいうのもアレですがこんな駄作を今日まで応援いただき有難う御座いました。

 

自分の作品に対する愛着もさることながら読んで頂いている皆様のことを活力に今後も頑張っていきます。

 

さて本題の方はようやくエアーさん到着!

その存在感に神速の槍使いも先々恐慌であります…あれ?

 

まあちゃんと比呂に活躍の場を当てる予定ですのでご心配なく♪

 

それでは次回の講釈で


 
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