No.189247

【ショートショート】3mの絵の女

川木光孝さん

【作者より】
ショートショートという短い形式のお話です。
今は亡きホームページに、アップしていた作品です。

【あらすじ】

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2010-12-12 10:04:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:556   閲覧ユーザー数:547

「逃げろ」

 

ある大きな部屋にて、男はさけんだ。

 

男の目の前には絵があった。縦3m、横3mという大きな絵だ。

その絵には、貴婦人が大きく描かれている。

 

「ああ! 君を借金取りどもの手に渡したくない!

 でも、君のいる絵は、大きすぎて持ち運べない。

 お願いだ、せめて絵の外に出てきてくれ。私と一緒に逃げよう!」

 

男は、絵の持ち主だった。

そして絵の中の貴婦人に恋をしていた。

 

「家財道具はすべて、借金のカタとして持っていかれたが、

 あんなものはどうでもいい。君さえ無事ならそれでいいんだ。

 頼む、絵の中から出てきてくれ!」

 

「お困りのようですね」

 

男の背後から声がした。

 

「だ、誰だ!」

 

男はふりむく。そこには、悪魔がいた。

 

「私は悪魔と申します。どうやら困っているみたいですね。

 私でよければ、あなたの願いをかなえましょう」

 

「悪魔だと? 本当なのか?」

 

「信じないなら、それで結構です」

 

「……いや。このさい、悪魔だろうが、天使だろうが、

 なんでもいい。私の願いをきいてくれ。

 絵の中の貴婦人を外に出してほしいのだ」

 

「お安いごようで」

 

悪魔は絵に魔法をかけた。

不気味に輝く光が、絵の中に吸い込まれていく。

縦3m、横3mの絵から貴婦人の足が、手が、頭が出てくる。

そして、貴婦人は絵から完全にぬけだした。

 

「ああ……。なんてことだ」

 

男はなげいた。

男の目の前には今、貴婦人がいる。

顔も気品も絵の時と同じで、文句のない美しい姿だ。

 

惜しむらくは、身長も絵の時と同じ、3mだったことである。

大きな、大きな貴婦人だった。

 

貴婦人は男を見おろして言った。

 

「はじめまして」


 
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