No.189090

「無関心の災厄」 サイプレス (1)

早村友裕さん

 オレにはちょっと変わった同級生がいる。
 ソイツは、ちょっとぼーっとしている、一見無邪気な17歳男。
――きっとソイツはオレを非日常と災厄に導く張本人。

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2010-12-11 14:12:39 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:855   閲覧ユーザー数:847

            「無関心の災厄」 -- 第三章 サイプレス

 

 

 

第一話 無表情美人と組織と物語のはじまり  

 

 

 

 あと3分か。

 腕時計を確認し、きょろきょろ、と辺りを見渡すと、見慣れた姿が目に入った。

 

「先輩」

 

「あっ、マモルちゃん、シュクヤくん、おはようなのです」

 

 ひらひらと手を振った先輩は、今日は私服のようだ。確かにバイトの制服でこんな人通りの多い駅で待ち合わせすれば、目立つことこの上ないだろうが。

 春らしい、花柄ティアードチュニックのワンピースにデニムジャケット。ウェスタンなブーツの靴音も軽快にこちらへと駆けてきた。

 頭の上でふよふよ揺れる髪に気を取られていると、先輩が腰のあたりに突撃してきた。

 久しぶりの感覚に、息がとまる。

 

「先輩、突然タックルかますのはやめてくださいって。そのうちオレの腰が折れますから」

 

「そんなことないのです」

 

 にこにこと嬉しそうに笑う先輩の笑顔にまたも毒気を抜かれ、ふう、とため息一つで腰のあたりから引き剥がした。

 

「で? 当の白根はどうした」

 

「来てるよ、ずっと」

 

 夙夜がにこりと笑い、指差した先には、相変わらず無表情の白根が佇んでいた。

 いったいいつからそこにいた?

 研修旅行の時と同じ、黒のシャツにデニムというシンプルな服に身を包んだ白根は、近くにあった駅の時計が丁度午前10時ぴったりと指すと同時に、俺たちの方へと歩み寄ってきた。

 

「時間になりました。柊護さん、香城夙夜さん、篠森スミレさん。本日はありがとうございます」

 

「いや、いいんだけどよ、ここからどっか移動でもするのか?」

 

「徒歩5分の場所に組織の所有するマンションがあります。その一室に移動しようと思うのですが、よろしいですか」

 

 組織の所有するマンション。

 もうその言葉だけでオレの手に負えぬ事態である事を実感する。

 オレは心の底から、今日一日が無事に終わる事を願った。

 

 

 

 

 

 白根が案内したのは、駅から歩いてきっかり5分の場所にある、目測20階以上はあろうかという高層マンションだった。

 携帯端末でロック認証し、オレたち3人を中へ迎え入れると、業務用かと見紛うような大きいエレベーターが待っていた。それを下りれば、先ほどまでいた場所を『下界』とでも呼びたくなるような景色が広がっていた。

 ふっと下をのぞくと、あまりの高さにくらりとする。

 こんな場所、人間の住む高度じゃねぇよ。

 

「こちらへどうぞ」

 

 再び携帯端末で部屋のロックを解除した白根が、通路の一番端の扉を開き、オレたちを中へと迎え入れた。

 中はかなり広い。

 少なくとも、女子高生が一人で住む部屋ではない。

 

「どうぞおかけください」

 

 白根が指したのは、玄関の正面の扉を開けたところにあるリビングのソファ。

 いったい何人で暮らすつもりなのか、軽く数十畳はあろうかと思われるリビングキッチンに、ベッドと呼んでも差し支えないくらいの大きな3人掛けのソファが二つ、硝子の天板を張ったテーブルとその向こうの壁に埋め込まれた大型テレビを囲むように並べられていた。

 先輩が嬉しそうに駆けていって思い切りソファにダイブした。

 ちょっと先輩、スカートめくれてますって!

 

「すごいのです! ふかふかなのです! マモルちゃんもシュクヤくんもはやく来るのですぅ!」

 

 興奮した様子でソファの上を跳ねる先輩を見て、となりの夙夜も駆けだした。

 マテ、夙夜、先輩はなんだか見た目的に許せるが、お前はちょっと――

 止める間もなくふかふかのソファに飛び込んだ夙夜。

 嬉しそうに先輩と二人、跳ねまわっている。

 

「夙夜ぁぁ……」

 

 ノーテンキな友人の名と共に、オレは大きくため息を吐きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 白根はキッチンに入って、どうやら茶の準備でもしているようだ。香りからすると……紅茶だろうか。それ以上の事は、庶民であるオレには分からない。

 とりあえずソファの上を跳ねまわる二人から出来る限り距離を置き、ソファの端に腰を落ち着けてみる。

 と、思ったら自分の体が沈みすぎてコケた。なんだこのソファ。

 

「どうぞ」

 

 白根がテーブルの横に跪き、硝子の天板に一つ一つ、湯気の立つカップを並べていく。

 よくわかんねぇ名前の毒とかはいってねえよな?

 おそるおそる手にとって口にしたが、特に妙な感じはしなかった。隣で苦い苦い、と言いながら砂糖をどさどさ投入していた夙夜も最終的には口にしていたから大丈夫なんだろう。

 オレたちが出された紅茶を含んで一息ついたところで、白根はすっきりとしたアーモンドの瞳をオレたちに向けた。

 そして、何の前置きもなく語りだした。

 

「先日の『シリウス』という識別称を持つ珪素生命体《シリカ》の消滅、そして京都における一連の事件を組織へ報告させていただきました。香城夙夜さんの行動と覚醒、そして柊護さん、貴方の動向についても」

 

 唐突に始まった白根の解説に、否が応でも緊張が走った――のは、オレだけだろうな。

 先輩は聞いているのかいないのかおいしい紅茶に夢中だったし、夙夜は相変わらずへらへらと笑っていた。

 くそう、分かっていたとはいえ、緊張感のないメンバーだ。

 そんなオレのピリピリした空気にも、夙夜ののほほんとした空気にも、先輩の我関せずな雰囲気にも全く迎合することなく、白根は淡々と続けていった。

 

「貴方達はあまりに深く珪素生命体《シリカ》と関わり過ぎました。そして、放置するにはあまりに強すぎる適合者《コンフィ》でもあります」

 

 関わりたくて関わったワケじゃねぇけどな。

 なんて言っても遅い。

 覚悟。

 逃げ出さないよう、再びオレはその言葉を心の中で繰り返す。

 

「世間一般的に珪素生命体《シリカ》は、一度でも珪素生命体《シリカ》と関わりをもった人間のもとに再び現れる、と言われていますが、正確には少し違います。珪素生命体《シリカ》は、『異属』を消せという唯一最大の命題を遂行するために、仲間の残滓に集まるという性質を持っているのです」

 

 珪素生命体《シリカ》は、他の珪素生命体《シリカ》が消滅した場所に現れる。それは、消滅した後に残った方を消すためなのだ。

 オレは、オレたちはその命題を、身を持って証明していた。

 

「二人共、あまりに多くの珪素生命体《シリカ》の痕跡をその身に宿しています」

 

「……」

 

 断言するような白根の口調に、返す言葉はなかった。

 

「本来ならば、組織の人員として取り込むのが定石です。しかし、香城夙夜さん、貴方の特異な経歴のためにそれは敵いませんでした」

 

 夙夜の経歴?

 それを聞いた夙夜は、へらりと笑った。

 

「あ、もしかしてアオイさん、オレの事聞いちゃった?」

 

「いいえ」

 

「そうなんだ」

 

 少しほっとしたような顔をした夙夜。

 コイツ、また何か隠してやがるな?

 

「おい、夙夜」

 

「ごめん、マモルさん。それ、また今度ね」

 

「……」

 

 この野郎、普段はマイペースのくせにこんな時ばっかり先手を取りやがって。

 非常に腹立たしいが、白根の話の先が気になるのも事実、オレはしぶしぶ矛先を収め、白根に視線を戻した。

 白根は再び淡々と告げた。

 

「結果的に組織から出された結論は、『情報の共有』です」

 

「情報の共有?」

 

「はい。現状、貴方たちの関わった事件について、判明していない事実が多すぎます。『シリウス』『ヒナタ』……そして『リリン』『イズミ』」

 

 その名に、どきりとした。

 梨鈴はともかく、なぜ白根が『イズミ』の名を知っている?

 

「名前を持っている、っていうのは以前人間と関わっていたっていう証拠だよ。オレたちじゃなくても、イズミが元々いた場所で聞けば、誰か知ってるはずだ」

 

「……」

 

 夙夜の野郎、オレの思考まで読み始めやがった。

 

「……まあ、いい。それで?」

 

 オレは白根に続きを促した。

 

「組織は、貴方たちの持つ情報が開示される事を前提に、組織に組み込むことなく現状説明許可申請と特別協力者申請を受理しました」

 

 白根のアーモンドの目がオレたちを順に見た。

 そう、ここまでがプロローグ。

 なんて長いプロローグ。

 そして、白根が続きを告げた瞬間それは終了し、物語はようやく動き出す。

 

「柊護さん、香城夙夜さん、篠森スミレさん」

 

 白根がオレたちの名を呼ぶ。

 淡々と、静々と、粛々と。

 

 

「珪素生命体《シリカ》保護組織『稲荷《イナリ》』への協力を要請します」

 

 

 

 


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