No.189052

真・恋姫†無双 北郷史 4

たくろうさん

今回は若干のふざけも込めてやっていきます。

あと先に言っておきますけど風の名が話の流れだと程昱だと変じゃね?と思うかもしれませんが気にしちゃダメよ。
程昱以外だとなんか違和感ありますし一応日輪を支える夢は見てますから。

2010-12-11 03:31:18 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:12510   閲覧ユーザー数:8253

一刀の初戦が終わって街の太守になってから早くも数日の日が経った。

街はまだまだ栄えているとは言えないがそれなりの活気を取り戻しつつある。どんな街でも笑顔が有ると無いとでは大きく印象が変わってくるものだ。

一刀達は民が少しでも笑える街を作るため、そして胸に秘めたる野望の為に忙殺される日々が続いていた。

一刀は今日も政務室に篭もりきりである。

 

「これが各地で義勇軍を募って集まった兵の数です。人数はおよそ一万弱。早くも天の御使いの肩書きの効果が現れています。それに先日の戦いも大きく世に広める為に役立ちましたからね」

 

稟が政務室に入り、一刀に兵数を纏めた書類を渡す。

 

「うへ……。集まってくれるのは良いことだけど、如何せん兵を纏める人材が少な過ぎるな。こっちはまだまだ街の復興に追われてる身だから兵の育成にあまり手間を掛けられないしなぁ…」

 

一刀は理想と現状が上手く咬み合わないことに困った表情を浮かべる。

 

「それは心配ないかと。街の復興は完璧ではないにせよ、もう軌道に乗り始めておりますから私達が無闇に干渉せずとも民達が自身の手でなんとかやってくれるでしょう」

 

「そうかな、それならいいけど…」

 

「先の戦のおかげで最近はこの地域を襲撃する黄巾党の数は激減してます。この機を逃さず兵の育成に尽力するのが最善かと私は考えますが」

 

一刀はしばらく考えた後、稟の意見に大きく頷いた。

 

「うん、稟がそう言うならそうしよう。兵の練度が足りなくて街を潰されたら本末転倒だしね」

 

「あと、幽州の公孫賛が黄巾党の討伐に手を焼いているので上から討伐命令がきました」

 

「わかった、準備が整い次第出撃しようか。その間にも兵には鍛錬を怠らないように言っておいてくれ」

 

「了解です」

 

稟が政務室を去ってから一刀は椅子に大きくもたれかかる。

 

「そろそろ華琳達が黄巾党の首領……天和達を攻め落とす時期か……。こちらも準備をしないとな」

 

一刀は誰もいない政務室で一人そう呟いた。

一刀達が兵を引き連れて幽州付近に辿りついた時、既に戦の最中であった。

兵と盗賊達が激しくぶつかり合っている。兵は奮闘しているが、お世辞にも優勢とは言えない状況である。

 

「お兄さん、報告ですー。現在黄巾党とぶつかり合っているのは公孫賛の軍と劉備という人を中心とした義勇軍らしいですー。状況は見ての通りですー」

 

風の報告を聞き一刀はすぐに予定を組み立てていく。

 

「…そうだな、風、君はこの状況どうすれば良いと思う?」

 

一刀は風に質問する。

今回は前回とは違い一刀の軍が加われば兵数の数はこちらが勝る。ならば軍師の的確な意見を聞いたほうが良い判断を下せると一刀は考えた。

 

「そうですねー、私達は黄巾党を横から奇襲を掛けて黄巾党を混乱状態にした後、公孫賛と劉備さんの軍と共闘するのが良いかとー」

 

今一刀達の軍はまだ黄巾党に気付かれていない。奇襲を掛けるなら気付かれていない今だろう。

 

「うん、それでいこう。では星、君は戦線の指揮をお願いする」

 

「御意」

 

星が一歩前に出て一刀の言葉に応じる。

 

「風と稟は俺と一緒に公孫賛と劉備さんと顔合わせをしようか。こちらの状況を教えないといけないしね」

 

「はい(ですー)」

 

一刀達は二つに別れて行動を始めた。

公孫賛と劉備の陣営は現在の戦況のせいで張り詰めた空気が漂っていた。

 

「うーん、黄巾党の奴らの勢いが凄いな……」

 

「このままだと愛紗ちゃん達が危ないよ……」

 

公孫賛と劉備は苦悶の表情を浮かべる。まわりはより重々しい空気が流れだす。

そしてその空気を壊すように一人の兵が騒がしく陣営に入って来た。

 

「報告します。敵の左方を襲撃する兵が現れました!牙門旗の字は「趙」!!現在は関羽様と合流して共闘しております!そして牙門旗の字が「北郷」の軍隊がこちらに接近しております!」

 

そしてまた兵が飛び込んで来て立て続けに報告する。

 

「報告します。北郷の軍の遣いの者がやって来て「この戦い、我ら「北郷」も参加する。陣営に入る許可が得たい」とのことです!」

 

「北郷? 北郷っていうとあの天の御使いって呼ばれてる奴の軍か!?」

 

公孫賛が突然の援軍と、その正体が天の御使いと呼ばれている者であることに驚きの声を上げる。

 

「わあ、凄い人が来たなぁ。あっ、早くここに案内してあげて!」

 

桃香がそう指示を出すとすぐに一刀達が陣営の中に案内された。

一刀は差し障りないように注意しながら挨拶にはいる。

 

「初めまして、俺は北郷一刀だ。こちらは軍師の程昱に郭嘉。今日は突然の参入で申し訳ないね」

 

「……初めましてですー」

 

「……今日はよろしくお願いします」

 

風と稟も公孫賛と劉備に挨拶する。だがその表情は何故か腑に落ちないといった感じだ。

一刀はそれに気付かずに公孫賛と劉備の二人と会話を始めてしまう。

 

「私は公孫賛、字は伯珪。今日はわざわざ援軍に来てくれたこと感謝する」

 

「私は劉備です。噂は聞いてます!天の御使い様なんですよね!?」

 

劉備は目を輝かせて一刀に挨拶する。一刀はその勢いに若干引いてしまう。

 

「あ、ああ。一応その通り名で通っているよ。だけどそんなに畏まなくてもいいよ」

 

一刀は劉備の熱の篭った視線を手で遮りながらそう言う。

 

「お兄さん、自己紹介はそれくらいにして今は戦いに集中しましょうー」

 

風はそう言うと一刀の腕を掴んでズンズンと歩き出し始めた。稟も二人の後に付いて行く。

 

「うん…ってどうした? 手なんか引っ張って……。これじゃ二人と話ができないだろう」

 

風は他の面々と充分に距離をおいたのを確認してから立ち止まり一刀と向き合う。

 

「お兄さん、何で風のことを程立ではなく程昱と紹介したんですかー?」

 

「それと同様、政務に追われて言いそびれてましたが私はまだ郭嘉ではなく戯志才と名乗っていた筈です。ですがどうして私の本名が郭嘉だと知っていたんですか?」

 

「あれ、そうだっけ?」

 

一刀は二人のことを時期早く真名で呼んでいたのでごく自然と後に紹介されるであろう名を紹介してしまったのだ。

 

「まあ風は後に程昱に改名するという考えあったのは事実です。ですがこれはまだ稟ちゃんにも話してませんでした。どうしてお兄さんがそれを知ってるんですか?」

 

「あー、ほら、俺って天界人だからそのへんはお見通しなのさ」

 

一刀はそう言うが二人はシラけた反応をしている。この軍師二人の前では言い逃れすることは至難の業だろう。

 

「わかった、黙ってて御免。実は俺未来から来た人間だから知識として二人のことは知っていたんだ。風が程昱に改名することも、稟の本名が郭嘉っていうことも。だから俺は天界人というより未来人といったほうが正しい」

 

一刀は観念してすぐに事実を告げた。だが昔に出会っていることは告げない。一刀は二人がそのことを意識して、それが原因で関係がギクシャクすることを嫌がったのだ。

 

「じゃ、種明かしも済んだし俺は行くよ」

 

一刀は手をヒラヒラと振って二人のもとから離れた。

 

「むー、何処か腑に落ちませんねー」

 

「風もですか?」

 

「今のお兄さんの言葉で風達の名前の辻褄は合いますけど、それでもお兄さんが風達を紹介した時の態度が何処か引っ掛かるんですよねー……」

 

「ええ。それと、これは私がただ感じただけなのかもしれませんが……さっきの一刀殿は何処か、哀しそうな目をしてました」

 

稟は離れていく一刀の背中を見ながらポツリと、そう呟いた。

戦は星率いる部隊の乱入、軍師の活躍により戦況は一気に傾き一刀達は見事な勝利を飾ることが出来た。

戦に出ていた者達が一刀達のいる陣営に帰還してきた。星は黒髪を美しくなびかせる少女と大きな蛇矛を担ぐ小さな少女と親しげに話をしている。

 

(お、星が関羽と張飛と仲良さげだな。まあ本来なら星は劉備側に付く側人間だったわけだから当然と言えば当然か)

 

一刀はその光景に特に気に留めず星の働きを労う為に近付いて行く。

 

「よっ、お疲れさん」

 

「これは有り難きお言葉を、主殿。愛紗、鈴々、こちらは我が主の北郷一刀様だ」

 

星が関羽と張飛に一刀を紹介すると関羽は一刀に頭を下げて挨拶をする。一刀も軽く会釈する。

 

「此度の戦、ご協力頂き感謝する。我が名は関雲長です」

 

「鈴々は張飛なのだ!字は翼徳なのだ!」

 

「ああ、はじめまして。今回は大変だったけど間に合ってよかったよ」

 

軽く自己紹介を終えた後、関羽達は我が身の無事を劉備に伝えるべく劉備のもとに向かい、一刀と星も勝利を共に祝うために後に続いた。

 

そして一刀は劉備達に御使いのことについて質問攻めにあうハメになった。

「はわわ、天界とはそんなに進んだ世界なのですか」

 

「すごいねー、御使い様がいた場所には争いが無かったなんて……」

 

「まあ、争いは無いことはなかったけどね。それに争いが無いことが必ずしも平和とは限らないということがよく分かる世界だよ」

 

「はわわ」が口癖な軍師、諸葛亮が新たに会話に混ざり、一刀は己の世界について質問に答える。勿論のこと技術面などは、いずれ敵対する相手になるので知られて不利になる情報は控えている。

 

「さて、俺達はそろそろ街に帰還させて貰うよ」

 

これではキリがないと考えた一刀は話を切り上げる。

 

「ええっ!? もう少しゆっくりしていけばいいのに……」

 

劉備はあからさまに残念な顔をする。まだ話し足りないといった表情だ。

 

「俺は一時は壊滅した街の太守だからね。早く街に戻らないと民が不安がってしまう」

 

「それなら、仕方ないですね……」

 

その言葉を聞いて劉備は引き止めることを止めた。

 

「そうだね、最後に人生の先輩として一つだけ助言しとこうか」

 

一刀は真剣な表情になって劉備と向き合う。

 

「黄巾の乱を引き金としてこれから時代は戦乱の世になる。だが劉備さんが求めるは平和な世の中。これはとても共感できる立派な理想だ。それこそ関羽さん達を惹きつけるほどに。だが時代はそれをあざ笑うかのように戦に酔い痴れる。その中で理想を貫きたくばどうしたって力を振るわねばならない時が来る。この言葉、否定しようがしまいが夢々忘れないことだよ」

 

一刀はかつての劉備と華琳のやり取りを思い出す。二人は同じような理想を掲げた。だが戦が終わるまで決して道を交わらせることはなかった。そして最終的には覇道という茨の道を貫ぬき通した華琳が勝利を納めた。

一刀はそれだけ言うと帰還する為の身支度を用意し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「主にしては随分と辛口なことを言いましたな」

 

帰還の為に馬に揺られていると星が一刀に近付いてそう言う。

 

「今日劉備さんと話してふと思ってね。俺と劉備さんは考え方がそっくりなんだ。そして俺は過去に戦乱の世で同じような、というよりまったく同じ理想を掲げていた人を知ってるんだ。その人は理想と自らの行いの食い違いを敵国の王によく言い負かされていてね。まあ、理想だけでなく現実を見ろってことを老人心なりに伝えておきたかったのさ」

 

一刀は軽く笑いながらそう語る。

 

「ふむ、確かにそっくりというのは共感できますな。正直、主より先に劉備殿と会っていたら私は劉備殿に仕えていたかもしれません」

 

「おいおい、怖いこと言うなよ……」

 

だが言葉とは裏腹に本来はそれが正しいあり方であると一刀は思う。

 

「だが安心なされよ。私は一度忠誠を誓ったらそれを違うことはしませぬ。それに主のほうが殿方としての魅力があるぶん、仕える楽しみがあるというもの……」

 

趙雲は口元に手を当てて妖艶に笑う。

 

「ははは、こんな爺さんに魅力を感じてくれるとは恐悦至極でございますよ」

 

一刀は少し芝居がかった口調でそう言った。

 

「前々から気になっておったのですが何故主は自分のことを老爺呼ばわりするのですか?というよりも主はお幾つですか?」

 

「あ、それは風も気になりますー」

 

「私もです」

 

趙雲の言葉を聞きつけて二人も一刀達の傍に寄ってくる。

 

「俺はこんなナリでも御年217歳だよ」

 

「「「……は?」」」

 

三人とも口を大きく開けて呆けた表情になる。

 

「それは冗談ですよね?」

 

「いや、それがそうでもなくれっきとした事実なんだよ」

 

稟の言葉は一瞬で否定された。

 

「天界人とは長生きなんですねー」

 

「まあ、そういうことだね」

 

実際のところは違うが。

 

「はッはッはッ、というわけで老人の俺を労るように……ってハウッ!?」

 

一刀は突然奇声を上げる。理由は星が一刀の股間にぶら下げるナニをズボン越しに掴んでいたからだ。

 

「ふむ、歳を聞いて心配になりましたが安心しましたぞ。どうやらこちらの方は枯れていないようで」

 

「おま、人のモノを……!?」

 

一刀はすぐに星の手を引き剥がす。

一刀は肉体年齢に関しては若者の体そのものなので刺激されれば当然体は反応してしまうのだ。

 

「英雄色を好むと言いますゆえ枯れてしまっていては話にならないでございましょう」

 

星は珍しく一刀をからかうことに成功したおかげか嬉しそうにそう言う。

 

「せ、星殿が一刀殿の逸物を鷲掴みにして……」

 

稟が突然震えた声で呟きだす。一刀はこの光景に既視感を感じ背中に冷や汗が流れる。

 

「……ぶはっ!?」

 

稟は盛大に鼻血を吹いた。

 

そして一刀は気絶した稟を懐に抱えながら帰還するハメになった。だがその顔には喜色を浮かべて。

少し魏での日常の思い出に浸りながら帰路を往く一刀であった。

ここから始まるのは一刀の裏方での活躍である。

 

共同での黄巾党の討伐を終え、街に帰還した一刀。だが今一刀の姿はそこにはない。

代わりに「少しだけ外出する。ごめんね☆」という書き置きを残して。

それを見た誰かの怒りの叫びが響き渡ったが一刀にはそれを聞こえる筈もなくただただ虚しく響いた。

 

一刀は今、夜の黄巾党の本陣に立っている。格好は少し前に黄巾党の一人を気絶させて着物を拝借して見た目で天の御使いであることは分からないようにしている。

辺りは既に華琳率いる軍の対処に追われ人があまり残っていない。

 

「さて、天和達は何処かな? ……っと発見」

 

天和達は勝機無しと判断して逃亡しようとする所であった。

一刀は逃がさないようにすぐに天和達の前に立ちはだかる。

 

「どうしたんですか? 早く軍と戦いに行って……」

 

「いや、俺は黄巾党の者ではないよ」

 

人和の言葉を遮って一刀は黄巾党の証である黄巾を外してから帯刀していた剣を抜き天和達に構える。

 

「……!? 軍の者!?」

 

天和達は剣を突き付けられたことで身を縮める。

 

「まあ当たらずとも遠からずだね。今攻めている者の配下ではないけど立場上は君達の敵だ」

 

「……ちぃ達を殺すの?」

 

地和は語意こそ強めだが明らかに震えている。

 

「実は言うとね、俺は今回のことは君達の望んだ結果ではなく周りが暴走しただけだってことを知ってるんだ。そして君達に選択肢を与えようと思う。一つはその歌を国の為に活かしてくれるか。二つ目は俺の権威を高める為にその首を差し出すか……どうする? もうすぐ曹操の軍がここまでやって来る。悩んでる時間はないぞ」

 

天和達は困惑した顔をする。そして少しして人和が前に出た。

 

「一つ目の選択を選んだなら、私達はまた歌えるんですか?」

 

「ああ、約束しよう。三国を歌で獲るという夢、全面的に応援させてもらうよ」

 

「なんでそれを知ってるの!?」

 

地和が驚きの声を上げる。

 

「言ったろう。 俺は今回の事の顛末を知ってるって。で、その反応だと一つ目の選択をとったということでいいのかな?」

 

一刀は剣を突きつけたまま質問する。

 

「ええ。 いいわよね?天和姉さん」

 

「んー、また歌えるなら何でもいいよー」

 

人和の問いに天和は呑気な声で答えた。

一刀はその言葉を聞き終えると剣をしまった。

 

「ではこれからはひとつよろしくってことでいいかな?」

 

一刀が手を差し出すと人和がそれに応じて握手する。

 

「さあ、ならば善は急げだ! そこの影に馬を三頭括りつけてある。馬に乗って急いでここを離れるんだ! 途中で河が見える筈だからそこで待っててくれ。俺はまだ野暮用があるから」

 

一刀は早口にそう言って三人が居なくなったのを確認すると火の手が上がってる本陣を歩き出す。

そして一際大きな天幕を見つけると中に入った。

 

「……あった。太平要術の書」

 

一刀は一冊の書籍を拾い上げて頁を捲った。

 

(これは……確かに危険な書物だな。人心掌握術に妖術。こんなものが他人の手に渡ることを考えるとゾッとする。だが、知識だけでいうなら俺のほうがよっぽど危険、か…)

 

一刀は頁を一枚だけ破いて太平要術の書を炎の中に捨てた。太平要術の書は見る見るうちに煙を上げて灰と化していった。

 

「さて、用も済んだしとっとと帰るか」

 

一刀は火の手が上がる天幕を出る。

 

「待て、貴様黄巾党の者か!!」

 

背後から静止の声がかかった。

(この声は……秋蘭と春蘭だな)

 

一刀は顔を見せないように背を向けながら声で背後にいる人物を判断する。

 

「残念ながら俺は黄巾党の者ではないよ」

 

「ならば何故ここにいる?」

 

言葉と共に弓を引き絞る音がする。秋蘭が弓を構えたのだろう。

 

「フッフッフ、何故ここにいるかだって? 愚問を」

 

そう言いながら一刀は懐から何かを取り出す。

 

「貴様! 名を名乗れ!! さもなくば斬る!!」

 

「俺か? 俺は女の子の味方。そして華蝶の意思に誘われやって来た正義の使者……」

 

一刀は蝶をあしらった仮面を装着すると二人と向き合う。そして高らかに名を名乗った。

 

「俺は……華蝶♂仮面!!」

 

「「……は?」」

 

一刀の二人の温度差は完全に不一致なものとなる。

 

(貂蝉から貰った仮面。万が一に備えて持ってきたがまさかこんな形で役に立つとは……)

 

一刀は心の中で貂蝉に感謝する。

 

「貴様、ふざけているのか!?」

 

春蘭が声を荒げる。

 

「ふざけてなどいない。華蝶♂仮面は常に全力で本気だ」

 

「それをふざけていると言うのだ!!」

 

春蘭は一刀に斬りかかる。

だがそれは一刀を捕らえずに空を切った。春蘭はさらに猛撃をかける。しかしどれも一刀に触れることなく虚しく空を切るばかりだ。一刀はすべてを紙一重でかわしていく。

 

「おのれ、ちょこまかと!! それに何故武器を構えん!?」

 

春蘭は剣で攻撃を受けられることなくただ避けられていくので苛立ちが募っていく。

 

「華蝶♂仮面、女の子の味方。だから手は出さない」

 

一刀は春蘭の剣筋を見事に捕らえていた。確かに春蘭の攻撃は速いが貂蝉の全身凶器かつ異常なスピードと比べると若干可愛く見える。それに貞操を守るべくあらゆる貂蝉の襲撃を退けてきた一刀は避けるだけなら天下一品になっていたのだ。

秋蘭も状況に見兼ねて矢を放つがそれも一刀を捕らえることはない。

春蘭はさらに攻撃の密度を高める。

 

「はあ!!」

 

「(どやぁ…)」

 

一刀は口に笑みを受けべて軽やかに剣を避ける。

そして一刀は後退して春蘭と距離を取った。

 

「さっさと私に斬られろー!!」

 

春蘭は逃そうせずに一気に距離を詰めようとする。だがそれは叶うことはなかった。

 

「あ!? 曹操が扇情的な格好をして夏侯惇を誘ってるぞ!!」

 

一刀は明日の方向を指さしてそう叫んだ。

 

「何ぃ!?」

 

一刀が叫んだ瞬間に春蘭の意識は完全に逸れた。

その隙を逃さず一刀は物凄い勢いで逃走する。

 

「夏侯淵よ、誇り高き魏の王、曹操に伝えておけ! 張角は炎の中で自害した。今頃は消し炭になっていると。そして太平要術の書は俺が燃やしたとな! ではさらばだ!!」

 

去り際にそう言うと一刀は夜の闇の中に消えていった。

 

「何処だ!?華琳様は何処だ!?」

 

「姉者、華琳様が前線に出るわけがなかろう……」

 

夜の中、秋蘭の突っ込みが小さく響いた。

曹操の軍の陣営にて。

 

「そう……そんなことがあったの」

 

華琳は秋蘭から仮面の男の伝言を聞いて思案顔になる。

 

(なぜ太平要術の書のことを知ってるのかしら。いえ、それよりも何故魏という言葉を知ってるの?これはまだ秋蘭達にも言っていないこと…)

 

「それと華琳様、もうひとつ気になる点が」

 

「何、秋蘭?」

 

「その華蝶♂仮面と名乗る男、姉者の性質をよく理解してるようでした。事実それが原因で取り逃がしましたので」

 

秋蘭は先程のやり取りを事細かく説明する。

それは聞いた華琳はしばらく考えに耽った後笑い始める。

 

「フフ、面白いじゃない。秋蘭、急ぎその件の仮面の男の正体を調べるように!!」

 

「御意」

 

(もしかしら、良い人材になるやもしれないわね。聞くところによると相当な身のこなしのようだし。それに、これだけ私をわくわくさせるんですもの……)

 

一刀はそんな念を感じてか少し身震いするのであった。

 

~続く~


 
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