No.188035

真・恋姫†無双 北郷史

たくろうさん

また魏√アフターです。

前作と違いあまり早いペースでの更新は無理ですが暖かく見守ってやってください。

2010-12-05 02:32:21 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:14054   閲覧ユーザー数:9748

「さよなら……誇り高き王……」

 

北郷一刀の体が消えていく。顔には寂しげに思い出を懐かしむように、そして一時でも目の前にいる誇り高い背中を見る。 

 

「さよなら……寂しがり屋の女の子」

 

一刀の頭の中に少女の沢山の姿が思い浮かぶ。時に気高く、時に優しく、時に可愛らしく佇む少女。

今はどんな表情をしているだろうか。だが、もうその表情を見ることは叶わない。

 

「さよなら……愛していたよ、華琳―」

 

そこで一刀の存在はこの世界から消失した。最後まで笑って、最愛の少女と別れた。

 

後には少女の泣き声だけが月夜に響き渡った。

―真っ暗。

 

光も音も無く、しかし一刀の姿だけはハッキリと視認出来る。そんな奇妙な空間に一刀の姿はあった。

 

「ここは何処だ? まさか俺死んだのか?」

 

可能性の一つとしては考えていたが実際そうなると笑えないものだ。

だが天国と呼ぶにも、地獄と呼ぶにも、あまりにも無が広がっておりどちらも最良の表現とは言い難い。

ただあまりにも非現実的。この光景から読み取れるのはそれだけだ。

 

「あらん、ご主人様じゃないの?」

 

突然一刀のもとにスキンヘッドにビキニ姿の逞しい体躯の男が何処からともなくやって来た。

奇抜な格好の男の出現により一刀は一歩後ずさる。

 

「な、なんだお前は。 っていうかここは何処なんだ?」

 

「私? 私は貂蝉。しがない踊り子よん。 そしてあなたは北郷一刀でいいわよねん?」

 

貂蝉と名乗る男は巨体をクネクネという効果音が出てると感じさせる程体をクネらせる。

 

「ああ、そうだけど。俺を知ってるのか?」

 

「ええ、知ってるわ。まあそれは置いといて、何故ご主人様がここにいるの?」

 

「何故と言われても俺にもさっぱりだな」

 

一刀はとりあえず貂蝉に今に至るまでの成り行きを説明する。

華琳達と共に三国で戦い終えた後、自分は世界から消えて気付いたらここに立ってたことを。

 

「なるほど、それがその外史の結末だったのねぇん…」

 

「納得して貰ってるところで悪いが結局ここは何処なんだ?」

 

「ここは外史と外史、また正史と外史を繋ぐ道といったところよ」

 

「なるほど、さっぱりわからん」

 

「わからなくてもいいわぁん。ようは外史は人の考えたもう一つの可能性の世界、パラレルワールド。まあそんな感じに捉えてくれれば結構よん」

 

一刀はあまり理解が得られず首を傾げる。だがすぐに別の思考が頭に浮かぶ。

ここが何処か、世界の成り立ちなどはどうでもいい。今知っておきたいことは自分がこれからどうなるかだ。

 

「貂蝉、俺はどうなるんだ? というより俺はそもそも生きてるのか?」

 

「大丈夫よ、ご主人様はちゃんと生きてるわ。あとどうなるかだけど、それはご主人様自身が選択することができるわん」

 

「俺自身が?」

 

「そう、ご主人様にある選択肢は二つ。 一つは元居た正史に帰って自分の居た時代の生活に戻ること。そしてもう一つはまた外史に飛び立つことよん」

 

「その二つ目の選択は…華琳にまた会えるということか?」

 

それならば選択の余地などない。一刀が選ぶのは一つだけだ。

 

「会う…ねぇ。確かに会えるけどそれは似て非なるものよ」

 

「どういうことだ?」

 

一刀は眉をひそめて質問する。

 

「まず言うと曹操ちゃんと三国を平定したという外史には行けないということ。曹操ちゃんの物語は三国の平定、その外史は既に終端を迎えたからもう入り込む余地はないわ。また外史に行くとなると物語の始まり、つまり三国の乱世を戻ることになるわ。勿論曹操ちゃん達はご主人様のことはわからないわ。いえ、わからないという以前に会っているという事実はそこには無いのだから」

 

貂蝉の言葉に一刀は絶句する。

あの乱世を再び駆け抜けることではなく、華琳達と会っても誰も自分を認識できないという事実に。

 

「私はもう慣れてしまってるけど、親しいと思ってる人が自分のことを分かってもらえない、というのは相当心を痛めるわよ。自分はこの世界の異端、異物ということが痛い程に思い知らされるわ。現にいまだってご主人様は私のことは分からないでしょう?」

 

貂蝉は無情な真実を次々と一刀に突き付ける。決して一刀を痛めつけたいわけではない。ただ自分の恋慕する、だが自分のことを分かってもらえない主人に自分と同じ思いをさせたくないから。

だが一刀の表情は先程と違い晴れやかなものだった。

 

「それでも、俺はまたみんなに会いたい」

 

貂蝉は一瞬目を見開いたが、やっぱりといった表情で微笑む。

 

「いいの? さっきも言ったけどツラいことになるわよ?」

 

「構わない。 元居た場所に帰ってもやっぱりそこには悲しみしかない。だったらたとえ誰も自分のことを分かってもらえなくても、それがどんなに悲しいことだとしても、俺はみんなに会いたい。同じ悲しいなら俺はみんなと再会することを選ぶ。それに華琳に約束したんだ。ずっと傍にいるって。だから俺は今度こそ約束を守りたい!」

 

「やっぱりご主人様は素敵ねぇん」

 

貂蝉は喜ぶ。自分の知らない一刀でも根本にあるものは変わらないということに。

「でも待てよ。 また華琳のもとに行っても結局は同じ結末しか待ってないんじゃないか?」

 

華琳を勝利に導くとしたら当然また一刀は大局から外れてしまい世界からいなくなってしまうだろう。

 

「そうね、同じ道を歩めば当然同様の結果が待ってるわ。ご主人様に重要なのは自分の道を進むこと。自分の物語を紡ぐこと。そうね、三国志の世界なんだからご主人様自身の手で三国を平定すればいいんじゃないかしらねぇん?」

 

「いやいや、一国の警備隊長でいっぱいいっぱいだったんだから無理に決まってるだろ」

 

「そうかしら? 私は知ってるわ。かつて天の御使いとして地に降り立ち家臣を率いて三国を平和に導いたご主人様をね。だから不可能なんかじゃないわ」

 

「と言われてもなぁ……」

 

一刀の頭の中には一人の少女の背中が浮かぶ。あの少女と同等、いやそれ以上の存在にならなければならないなんてのは尋常なことではない。

 

「まあそこまで言うならしばらくの間ここで自分を磨くのもいいわ。幸いここには時間という概念が存在しない。そしてここにいるものは老いることはないわ。十年だって、何百年だって己を磨くことができるわ。それこそ何千年でもね」

 

「まあ、百年ぐらいあれば何とかなりそうかな…」

 

「んもう、ご主人様ってば謙虚なのは相変わらずなのねぇん。とりあえず私はご主人様が知識を積めるように本等をここに持ってきてあげるわ」

 

「ああ、ありがとな。よし頑張るか」

 

一刀は握り拳を作り愛する者達への再会の希望を胸に抱いた。

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「貂蝉、今ってどれくらい時間が経ったっけ?」

 

一刀は本を片手に貂蝉に質問をする。最初に二人が対面した時とは違い今ここの空間には大量の本、書籍が存在している。

 

「私とご主人様が会ってちょうど二百年ってところかしらねぇん。ちょっと慎重になり過ぎかしらねぇん」

 

だが二人の容姿にまったく変化はない。

 

「じゃあ俺もう217歳か。軽く人間の域を超越してしまったな。ところで人間の脳は140年分しか記憶できないというが俺の頭はどうなってるのだろうな?」

 

「細かいことは気にしちゃダメよ。あとご主人様はこれだけ時間が経ってもあまり強くはならなかったわねぇん……」

 

「言わないでくれよ。鍛錬して理解したよ。あの世界の武将達は俺と根本的に何か違うと。これでもそれなりには強くなってる筈さ」

 

一刀は本を読み終えてページを閉じて本の山の上に積む。

 

「さて、もう二百年経った…。必要な知識は身に付けた」

 

「行くのね」

 

「ああ、もうみんなに会いたくてウズウズしてるよ」

 

「では外史の扉を開けるわ」

 

貂蝉が一言そう言うと空間に白い光が生まれる。

 

「いい、ご主人様、たとえこちらが知っていても真名は口に出さないこと。いきなり首を刎ねられたくはないでしょう?」

 

「ああ、わかってるさ」

 

「では行ってらっしゃい、ご主人様と二人きりという濃密な時間がもう楽しめないとはちょっと残念だけどねぇん」

 

「今まで二百年間、お世話になりました!」

 

一刀は笑顔で貂蝉に別れを告げる。

 

「んもう、そんな畏まらなくてもいいわよん。 では元気に三国を取ってきなさい!」

 

そして光と共に一刀はこの空間から消えた。

 

「さて、ご主人様は送り出したことだし…そろそろ来る頃かしらねぇん。ご主人様に飛び切りの笑顔を貰った今日の私は誰にも負けないわ…」

 

貂蝉は拳をメキメキという音が鳴る程に握り込む。

 

 

 

一刀が消えた後、貂蝉の咆哮と共に二人の男の悲鳴が真っ暗な空間に虚しく響き渡ったのは誰も知らない事実。

あとがき

 

こんな感じの話です。

 

あ、最初に書き忘れてたけどこの作品にはオリジナルの設定があります。オリキャラを出す予定はないのでご了承ください。

 

あとがきはこれ以外に書くことはないので ノシ

 


 
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