No.187604

真・恋姫†無双~恋と共に #7

一郎太さん

#7

2010-12-02 20:12:28 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:21782   閲覧ユーザー数:14296

 

#7

 

 

 

「………何、これ?」

「…おっきい」

「どうぞ、こちらです」

 

俺たちは今、少女の家の前に立っていた。………っていうかこれ家?

やたら大きな門の前には2人の兵士が槍を持って立っているが、俺たちを見ても何も言わない。

少女は手招きをしてそのまま門を通り過ぎる。すると今度は庭(というか庭園?)が広がっていた。え、どこの貴族の方ですか?

 

俺たちが(というか俺だけ)が戸惑っていると、庭の向こうから、一人の少女が駆けてきた。

 

「月ぇぇっ!」

「詠ちゃん!ただいま!」

「ただいまじゃないわよ!どこに行ってたの?城の中にはいないし、侍女に聞いても散歩に出かけたとしか知らないし………」

「ごめんね、詠ちゃん…」

 

詠と呼ばれた少女は、心底心配していたようだ。普段はややキツそうに見えるであろう吊り目気味の両目は、眼鏡の奥で涙ぐんでいる。

 

「詠ちゃん、あのね………私、森に散歩に行ってたの。そこで知らない人たちに襲われちゃって―――」

「えっ!そうなの!?怪我とかない?何もされてない?」

「大丈夫だよ。もう少しで危ないところだったけど…この人たちが助けてくれたの」

 

と、そこでようやく俺たちに注意が向いたみたいだ。詠と呼ばれた少女はこちらに身体を向け、頭を下げた。

 

「ありがとう、月を助けてくれて。何かお礼をしなくちゃね………何がいいかしら?」

「あのね、詠ちゃん…そのことなんだけど、この人たち―――」

 

 

 

 

 

ぎゅるるるるる………

 

 

 

 

 

「…おなか、すいた」

「―――お礼はご飯がいいんだって」

 

そう言って、月と呼ばれた少女は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「(ガツガツガツガツ)」

「(パクパクムシャムシャモキュモキュ)」

「(ハグハグハグ)」

「す、すごいわね」

「あはは、そうだね。なんでも、皆さん旅の途中で、2日も食べてなかったんだって」

「そりゃ、これだけ食べても仕方ないけど………」

 

眼鏡の少女が俺たち、正確には恋の目の前にうず高く重ねられた皿の山を見ている。

恋は既に20皿以上平らげている。といいつつも、俺だって5皿は食べている。…うむ、こればっかりは恋には勝てないな。

 

「(ガツガツガツガツ)」

「(パクパクムシャムシャモキュモキュ)」

「(ハグハグハグ)」

「というかあんた達、誰も盗ったりしないから、もう少しゆっくり食べなさいよ!」

「だって(ガツガツ)こんな美味い料理(モグモグモグ)邑じゃ食べたことないからさぁ(ハグハグハグ)」

「(モキュモキュモキュモキュ)」

「そうかも知れないけど………」

「おかわりもまだまだありますからね」

「ゆ、月ぇ…」

「おかわりぃっ!」

「…おかわり」

「ワンッ!」

 

こうして俺たちの狂宴(?)は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

そうして今、俺たちは食後のお茶を啜っている。

 

「いやぁ、食った食った…。ご馳走様でした!生き返ったよ」

「…お腹いっぱい………けぷっ」

「zzz…」

 

恋は満足げに膨れたお腹をさすり、セキトは既に食後の惰眠へと移行している。

 

「それにしてもあんた達、なかなかに無欲よね」

「無欲?なにが?」

 

俺は湯呑みを口元へ運ぶ。

 

「そりゃそうよ。だって涼州の董卓を悪漢から救ったのよ?普通ならお金とか地位とか欲しg―――」

「ぶーーーッ!!」

 

思いも寄らない名前に、俺は口に含んだお茶を噴出してしまった。

 

「きゃぁっ!」

「ちょっと!汚いわね!何してんのよ!?」

「待て待て、董卓?誰が?」

「誰って、月に決まってるじゃない。他に誰がいるのよ」

「………マジ?」

 

まさか、あの『暴君』董卓がこんな可愛い娘だったなんて………あてにならないぞ、三国志。

 

「そうよ。領主を助けたのにそのお礼がご飯だけだなんて………」

「いいじゃない、詠ちゃん。それで喜んで貰えるんだから。そういえば、まだお互い自己紹介もしていませんでしたね。姓は董、名は卓、字は仲穎です。この度は私を助けていただき、誠にありがとうございました」

「そうね、そういえば勢いに流されて名前も聞いていなかったわ。ボクの姓は賈、名は駆、字は文和よ。月を助けてくれてありがとう。家臣として、そして親友として礼を言うわ」

 

へぇ…董卓の名前を聞いた時からまさかとは思っていたが、彼女が賈駆か。

 

「俺は、姓は北郷、名は一刀、字と真名は持っていない。ほら、恋もご挨拶しな」

「ん…。恋は呂布、字は奉先。…ごはん、おいしかった。あと、この子はセキト」

「へぇ…二字姓だけでも珍しいのに、名も二字とはね」

「あぁ、実は俺は漢の人間じゃないんだ。字や真名の風習のない国から来たんでね」

 

こうして、俺たちは食後の会話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

「それで、旅をしている、って言ってたけど、これから何処に行くか決めてるの?」

「いや、それがまったく……」

 

そう俺は苦笑する。

 

「二人で旅に出る前は恋が住んでいた村にお世話になってたんだ。だけど、その……賊に、村が襲われてね。俺と恋が迎撃に出ている間にさらに別の集団がやってきて………。もう俺たち以外に残っていなかったから、いっそのこと旅に出て大陸を見てまわろうと思って…」

「そうですか………」

 

俺がかつて俺たちに降りかかった災難を話すと、董卓は悲しげに瞳を伏せた。この世界の董卓は、やはり暴君とは程遠いな。

いつの間にか、恋は椅子に座ったまま俺に寄りかかり、寝息を立てている。

俺は、その恋の髪を指で梳きながら話を続けた。

 

「それで旅の話に戻るんだけど、涼州の馬ってすごいんだろ?旅をするにもずっと歩くわけにもいかないから、馬を手に入れられればと思ってね」

「お金もないのに?」

「う………それは言わないで」

「ふふふ………それでしたら―――」

 

俺が賈駆にからかわれていると、董卓が口を開いた。

 

「―――もしよろしければ、私たちの方で馬をご用意しましょうか?」

「月っ!?」

「んー、それは大変ありがたい申し出だけど、お断りさせてもらうよ。君を助けたお礼なら、もうしっかり頂いたからさ」

 

俺はそう言って、ポンポンと腹を叩く。

 

「そうですか………でしたら、馬を買うお金が貯まるまで、客将として働いていただくのはいかがでしょうか?働き具合によっては、お給金もはずみますよ」

 

そう言って董卓はまさかの案を提示してきた。

なんというか、心が広いな、董卓は。そして驚きだ。客将か………俺はともかく、恋の実力なら問題ないだろう。俺だってまぁ、そこそこはいけるとは思うが。しかし……。

 

「あの…どうでしょう?」

「むむむ…」

「ちょっと、月がこんなに言ってるんだから、返事くらいしなさいよ」

「別に董卓のもとで働くのが嫌なわけじゃないんだ。ただ、一応この旅は俺一人のものじゃないからな………。明日呂布が起きたら相談してみるよ」

「そうですか…。そういえば、奉先さんはもうに眠っちゃってますね。お部屋を用意するので、今日はこのままお休みください」

「いいのか?ありがとう、董卓」

 

ずっと野宿で夜を過ごしてきたんだ。これくらいは甘えてもいいだろう。

俺はその申し出をありがたく受け取り、セキトを恋のお腹に乗せると、恋を抱えて侍女の案内で部屋へと移動した。

 

 

 

恋を部屋に運び、隣の自分の部屋へ入ると、俺は寝台へ倒れこんだ。

 

「久しぶりの布団だ………」

 

村のものよりふかふかで、寝心地がよさそうだ。俺はもぞもぞと体勢を変えると、そのまま夢の世界へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝―――

 

 

「なんで君がここにいるのかな、恋?」

 

 

 

 

 

 

起こしにきてくれた侍女が運んだ朝食をとりながら、俺は恋に問いかけた。

 

「昨日さ、董卓にここで働かないか、って誘われたんだが、恋はどうしたい?」

「……一刀は?」

「俺か?俺は旅を続けたいけど、金がないからな。それにもともと涼州に来たのは馬を手に入れるためなんだ。だからそのためにも、お金が貯まるまでは、客将ならいいかな、って思ってる」

「…ん。一刀が一緒なら、どこでもいい」

「………そっか」

 

朝食後、邑で呂奉さんに作ってもらった服に着替えると、侍女の案内で俺たちは玉座へと向かった。玉座の重そうな扉を兵士が開けると、昨日は見かけなかった、二人の女性が目に止まる。

一人は銀髪の女性で、露出の多い鎧(?)姿に身を包み、巨大な斧を脇に立てている。

もう一人は胸にサラシを巻いた袴姿に、羽織を胸の前で簡単に留めている。紫色の髪はなんだか物々しい髪留めで一纏めにしており、彼女も手に偃月刀を持っている。

二人は玉座に座る董卓とその傍に立つ賈駆を挟むように立っている。

 

「悪い、遅くなったか?」

「いいえ、大丈夫よ」

 

俺の挨拶に、賈駆が答える。

 

「おはようございます、北郷さん。それで、昨日のお返事は考えていただけましたか?」

「おはよう、董卓。その話なんだが………客将でよければ、働かせて貰いたいと思っている」

「本当ですか!ありがとうございます」

「そう………なら、これから二人の実力を見せて貰うわ。華雄、霞、二人で北郷と奉先の相手をしてもらえるかしら?」

 

賈駆が二人の武将に問いかけると、どちらも嬉々として返事をする。

 

「おぅ、ええで!いやぁ、さっき話は聞かせてもろたで?月っち助けただけでも骨のあるやつなのに、なんや、そっちの嬢ちゃんからめっちゃ強そうな気が伝わってくるで?」

「そうだな。最初はどんな輩かとも思ったが、眼を見ればわかる。二人ともなかなかに芯の通った人間らしい。強さに関しては………我々と張り合えそうなのはそちらの女だけのようだがな」

 

なんか二人とも凄いテンション高いんですけど…。というか、俺の評価低くない?………まぁ、あんまり闘いとかしたくないからいいんですけどね。

こうして俺たち六人は、手合わせをするべく練兵場へと移動した。

 

 

 

 

 

練兵場へと俺たちを先導した二人は、どちらが恋の相手をするか話していた。

 

「さて、張遼よ、どちらが先にやる?」

「ウチ、この嬢ちゃんとやりたいわぁ!絶対楽しい仕合になるでぇ」

「そうか、では、私はこの男だな。というか張遼…その様子だと待ちきれないらしいな。………いいぞ、先に仕合え」

「ええの?ええの?おおきに、華雄!せやから華雄は好きやねん」

「っ!コラ、抱きつくな!…いいからさっさとやって来い!なに、ここで働くならいつでも仕合う機会はあるからな」

 

なんだか泣けてきたよ、セキト。俺ってそんなに弱そうに見えるのかなぁ………。

 

「おい、始まるぞ」

 

おっと…俺がセキトに愚痴をこぼしているうちに、既に仕合の準備は出来たらしい。

練兵場の中央では恋たちが間合いをとって立っていた。

 

「ウチの名は張遼や!嬢ちゃん、一応月から聞いたけど、改めてアンタの名前は?」

「…恋は、呂布」

「そうか、呂布ちん。いつでもいいで?かかってきぃ」

 

そう言って張遼は自身の獲物を構える。彼女があの神速の張遼か………やはり速さを武器とするのかな。俺がそんなことを考えていると、早速仕合が始まるところだった。

 

「それでは、始めっ!!」

 

華雄の合図で恋対張遼の仕合が始まった。

 

 

 

 

 

 

恋と張遼の仕合が始まった。…されど恋は動かない。

対する張遼も、なかなか恋が隙を見せないことに攻めあぐねていた。そうして数十秒が経っただろうか。

 

「来ないなら、ウチから行くでぇ!」

 

先手を取ったのは張遼であった。一足で恋との間合いを詰めると、左上から袈裟懸けに切りかかる。恋はそれを戟を使うことなく、半歩下がることで避けると、後ろ足が地に着いた瞬間、地面を蹴り、張遼へと方天画戟を振るう。

 

「ふっ」

「甘いでぇ!」

 

 

 

ガキィッ!

 

 

 

先ほど自身の内側から外側へと偃月刀を振るった張遼はその勢いをそのままに武器を回転させると、その柄で恋の戟を弾き、そのまま跳ねるように後退した。

 

「ててて…なんや、見かけによらずごっつい力やな。軽く手が痺れてもうたわ」

「…そっちも、速い」

「ははっ、おおきに。これだけで呂布ちんはもう合格や。せやから…こっから先はウチの武人としての純粋な楽しみで、いかせてもらうで?」

 

張遼はそう言うと、再び間合いを詰め、恋へと切りかかる。斜め下からの斬り上げ、横薙ぎ、斬撃に加え、突きも繰り出していく。それを恋は時に弾き、時に避けて躱していく。

 

「ほらほらどうした、呂布ちん!?このまま何も打ち返してきいひんのか?………って、どこ見とるん?」

 

張遼の言葉にふと恋を見ると、仕合中だというのに、対戦相手ではなく、俺を見つめていた。

 

「………………」

 

恋の眼は何かを俺に問いかけている。…いったいなんだ?

と、ここで俺はその理由に思い至った。

 

 

 

そうか、恋はどうすればいいのかわからないんだ。

 

 

 

…これまで恋は、村人を襲うから賊と戦ってきた。言い方を換えれば、自分や大切な人に危害を加えない相手と戦う理由がないのだ。

 

「(………やっぱり恋は優しいな)」

 

その優しさも好きだが、俺はその考えに至ったとき、一つの想いを抱いた。

 

「(恋には…呂布にはやっぱり『最強』って言葉が似合うよな)」

 

俺はその願いを胸に、恋に向かって頷いた。

 

「恋!思いっきりやってやれ!最強は己だと証明してやるんだ!!」

「っ………(コク)」

 

恋は一瞬ハッとしたが、俺が許可したからか、あるいは何か思うところがあるのか、力強く頷くと、張遼へと戟を向けた。

 

対する張遼は、先ほどとは打って変わった雰囲気の恋に戸惑いを見せている。

「おう、北郷…言うやないか!けど、ウチかて負けるわけにはいかんで!?

(…とは言ってみたものの、なんや怖いなぁ。後の先をとる性質かってわけでもなさそうやし。………やけど!)」

 

そして、初めて恋が自分から攻撃を仕掛け始めた。

斬り上げ、斬下ろし、突きに更には脚で蹴撃を打ってくることもある。どこに隙があるかも見ていない、ただ本能のままに、一番有効と感じられる攻撃を重ねていく。

 

 

 

 

 

ガガガギギッ!ガッ!ガキッ!ガガガガガガッッッ!

 

 

 

 

 

「くっ!凄いな呂布ちん!こんな打ち込みは久しぶりや!せやけどウチかて負けへんで!?」

 

だがしかし、張遼も負けてはいない。恋の払いに対して偃月刀で防ぎ、突きに対しては紙一重で避ける。恋の蹴りに合わせて後ろに飛び退いたかと思うと、着地と同時に地面を蹴り、恋へと向かい、神速の突きを穿ち返す。

 

恋は張遼の速さを生かした攻撃を防ぎ、あるいは屈んで避け、また打ち返す。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり恋は凄いな…」

 

俺がボソッと独り言のように呟いたが、華雄の耳に、それは届いたようだ。

 

「なんだ。呂布をけしかけていたから、てっきりアイツの実力を知っていると思っていたんだが…」

「あぁ、まともに見たことはないんだよ。以前恋が闘っていたときは、俺も一緒に闘っていたからね」

「そうか。だが、お前が言うだけのことはある。なかなかどうして、相当の力を持ち合わせているようだな」

「…華雄はどっちが勝つと思う?」

「張遼………と、董卓様の将としては言いたいところだが、正直わからん。今は互角に打ち合っているが、呂布は本気を出しているようには見えん。さっきお前がけしかけてはいたが、どうも…な」

「あぁ。恋は優しいからね。大切なものを守るときにこそ、真価を発揮するんだと思う。でも………俺は、恋が勝つと思うけどね」

 

俺の言葉に何か思うところがあるのか、華雄はそれ以上話しかけてはこなかった。

 

 

 

 

 

そうして数十号は重ねただろうか。徐々に防戦一方となる張遼に対して、恋は攻撃を重ねていく。そして―――

 

「…ふっ」

「しもたっ!?」

 

 

 

ガッ!……ュンヒュン………ザッ!

 

 

 

恋の一層力をこめた振り抜きが、張遼の偃月刀を弾き飛ばした。

 

「………恋の、勝ち」

「そうやなぁ……負けてもうたわぁ………あっはははははは!呂布ちん強いなぁ!気に入ったで!改めて自己紹介な。ウチは張遼文遠、真名は霞や!これからよろしゅうな!」

 

そう言って霞はニッっと笑った。

 

「ん、恋は呂布奉先、真名は、恋………」

「ほか…楽しかったで、恋」

「…恋も」

 

こうして、恋対張遼の仕合は、恋の勝利で終わった。

 

 

 

 


 
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