No.186501

真・恋姫無双 魏end 凪の伝 32

北山秋三さん

星によって一刀が呉にいる事が知らされる。
その事によって暴走しかねない一同に紫苑は悩むが
ある事を思いつき・・・。

2010-11-25 13:43:10 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5328   閲覧ユーザー数:4194

「『天の御遣い様』は建業にいる」

 

星の報告を受けた紫苑は頭を悩ませていた。

 

皆の者に知らせるべきか否か・・・。

 

細作の情報から無事は確認されている。

 

だが白蓮が負傷しているという情報もあった。

 

今の状況では翠や蒲公英、焔耶などは突撃しそうな勢いだ。

 

雛里と詠、音々音は魏と呉へと放った細作の情報整理に没頭している。

 

桔梗に相談しようと席を立った時、ふとある事を思いつく。

 

それは────

 

 

 

 

 

 

「三国同盟会議・・・じゃと?」

 

桔梗の眉を顰めながらの声に紫苑が頷く。

 

「そうです。今の状況は非常に危ういものとなっています。このままでは暴走しかねません。

 

ですから、三国同盟結成三年目という今年に会議を開き、今一度争う意志の無い事を確認するべきです」

 

桔梗の部屋では桔梗が一人酒を煽りながら心ここにあらずという様子で何かを考えていた。

 

そこに紫苑が来て突然その話を振ったので、桔梗も若干狼狽しながら一度酒を呷る。

 

「ふぅーむ・・・魏と呉に流れる不穏な噂はワシの耳にも届いておる・・・愛紗が絡んでおるらしい事も

 

・・・難しいな・・・」

 

紫苑の話に桔梗が首を捻るが、その空になった杯を持つ手が所在無さげに彷徨う。

 

「しかし、桃香様達の不在をいつまでも隠しておけるとは思えません。魏も洛陽に下がったとは言え、

 

未だ健在。呉も急速に周辺諸侯を集めたと聞きます。このままでは私達の国は危ういかと・・・。

 

桃香様達の事を素直に話し、魏と呉にも捜索を願う事で貴重な時間を稼ぐことが出来ます」

 

「うーむ・・・それは、そうだが・・・」

 

普段とは少し違う、桔梗の煮え切らない態度に違和感を覚えるが、かまわず紫苑は話を進める。

 

「そして開催地を呉に指定すれば・・・『天の御遣い様』を出さざるを得ないかもしれません。

 

魏は・・・必ずその誘いに乗るでしょう。二国から要求されれば呉は折れる筈です。

 

何も戦いに行くのではなく、あくまで会議をする場所を提供していただくだけですから」

 

「そう・・・うまくいくじゃろうか」

 

「まぁ、桔梗・・・随分気弱ですね」

 

「うぐ・・・」

 

「まさか・・・いざとなったら『天の御遣い様』に会うのが恥ずかしくなったとかでは無いでしょうね」

 

「・・・な、何を馬鹿な事を・・・」

 

慌ててソッポを向いたが、桔梗の顔には朱が差しそれは耳まで真っ赤になっていた。

 

(あら、純情・・・)

 

そこで紫苑ははっはーんと当たりをつけてニヤリと口の端を吊り上げる。

 

誤魔化そうとしたのか急いで酒を注ぎ、呷る桔梗に向け────

 

「桔梗・・・さっきまで『天の御遣い様』との幻を思い出していたんでしょう・・・」

 

「ぶはっ!!!??・・・・げほっ!!ごほっ!!」

 

予想をぶつければ大当たりだったらしく、桔梗は噴出して激しくむせた。

 

「わかるわー・・・私も夜はその幻を思い出して大変ですから♪」

 

ウフフと笑う紫苑の背中に黒い羽が見えた気がするが、桔梗は気をとりなおす。

 

 

「大丈夫よ。きっと、今でも抱いていただけるわよ」

 

「ぶはっ!!!???な・・・・!!!?何を言っておるか!!!」

 

そこへ更なる爆弾が投下され、桔梗が再び噴出す。

 

「あら、当たりよね?この年でも『天の御遣い様』に抱いていただけるか心配だったのでしょう?」

 

「────ッ!!!??」

 

紫苑の言葉で桔梗が凄まじく硬直した。

 

そこへツツツ・・・と紫苑が近づき、桔梗の耳元に囁きかける。

 

「だぁいじょうぶよ・・・『天の御遣い様』の幻を思い出して♪・・・私達二人でかかれば、必ず落とせるわ・・・」

 

「・・・・・・」

 

艶のある、甘い囁きが桔梗の心を揺さぶり声も出せない。

 

「呉には祭殿が戻っていらっしゃる・・・もしもの時は協力をとりつけて三人でかかれば・・・ね。フフフ・・・」

 

三国同盟以前の戦いではよく三人で飲んでいた。

 

そこから攻めるべきと紫苑が囁く。

 

「できる・・・じゃろうか・・・」

 

しばらくしてから口を開いた桔梗に紫苑の笑みが深くなる。

 

「できる・・・じゃないわ・・・ヤルのよ・・・一度抱かれてしまえば、何度でも会う口実はつけられるわ」

 

考え込む桔梗の脳裏に刷り込む様に更なる紫苑の言葉が続く。

 

「若い子にはできない・・・私達にしかできない事があるでしょう・・・?その手管で篭絡して三人の誰かで

 

も抱かれる事が出来れば・・・フフフ・・・もしもの時は強引に・・・って、後は、分かるでしょう?」

 

甘い甘い誘い・・・。

 

「まずは会議の日取りを・・・三人の誰かの"あの日"に合わせるのに、協力して欲しいの・・・二人も合えば

 

最高だけど・・ね」

 

「・・・わかっ・・・た」

 

コクン、と頷く桔梗の姿を見て紫苑はこれからの計画を即座に組み立て、フルッと身震いする。

 

(フフフフフフフフフ・・・待っていてくださいね『天の御遣い様』・・・フフフフフッ♪)

 

紫苑の唇をぺろりと妖しく舌が這う。

 

こうなると寧ろ桃香達がいない方がライバルが少ないのではないかとすら思えていた。

 

 

「────ハッ!?」

 

「どうかなさいましたか?桃香様?」

 

五胡の城でこれからの計画を練っていた桃香と愛紗、朱里だったが、桃香の背中に走る寒気に思わず

 

立ち上がった。

 

「何か・・・とんでもない敵が現れた気がするよ・・・」

 

「今の私達に恐れる者は無い筈ですが・・・」

 

朱里が首を傾げる。

 

「そ・・・そうよね・・・うん?何か忘れているような・・・?」

 

ブツブツと呟きながら座りなおす桃香だったが、まぁ、何とかなるかと気を取り直す。

 

「それより、予定の早まった原因ですが・・・」

 

「やはり魏の軍師が必要かと・・・」

 

会議を続ける彼女達はまだ知らない────熟女の真の恐ろしさを。

 

その戦略は時として朱里や雛里をも上回るという事を────

 

 

「ハァ・・・」

 

流れる小川のほとりで翠が一人座り込み両足を抱えて、体育座りの状態で溜息をついていた。

 

蒲公英と焔耶は近くに現れた黄巾党退治に出かけていない。

 

小川を見ながら、

 

「ハァー・・・」

 

ともう一度溜息をつく。

 

幻を見てからここ数日ほとんど眠れない。

 

何をしていても『天の御遣い』の笑顔がかすめる。

 

そして・・・苦しむ姿も・・・。

 

何故こんな幻を見たのか、『天の御遣い』がどこにいるのかすら分からない。

 

そもそもにして殆ど名前すら知らないのだ。

 

「ハァー・・・・・・・・」

 

でも・・・彼の優しさを知っている。

 

彼の・・・温もりを知っている。

 

『「翠!」』

 

そう呼ばれた時の嬉しさを・・・知っている。

 

一番知らないのは・・・彼の苦しみ・・・。

 

苦しむ姿を見た時、全身が引き裂かれるような思いだった。

 

涙が・・・止められなかった。

 

今、無事かどうかもわからない。

 

会いたい・・・。

 

「会い・・・たい・・・」

 

「どうしましたか、翠さん」

 

「うわっひゃあああああああああああ!!!!」

 

「キャア!」

 

突然後ろから掛けられた声に翠が跳び上がって驚き、後ろから声を掛けた月も翠の大声に驚く。

 

「あ、な、な、な、なんだ!月か!ビックリした!うん、ビックリした!」

 

バクバクと激しく鼓動する胸を抑えて、へたり込んだ翠が月の姿を見ながら何度も頷く。

 

その様子に月も思わずクスリとしながら翠の横に立つ。

 

「翠さんも・・・『天の御遣い様』の事を考えていましたか?」

 

「○×△Э@¥υω!!ななな!!何をいっているんだ!!??そそんな事とととととあるわけ無いよ!」

 

余りの狼狽は自白していると同じだ。

 

月も小川のほとりに座り込み水面を眺める。

 

「私も・・・何をしていても・・・『天の御遣い様』の事が気になるんです」

 

「え・・・」

 

少し沈んだ声を出した月に、翠も少し落ち着きを取り戻す。

 

「実は・・・連合軍との戦いの後、私を最初に見つけたのは『天の御遣い様』だったんです。

 

それは大分後になってからわかりましたけど・・・」

 

「そう・・・だったんだ・・・」

 

「『天の御遣い様』が私を最初に見つけてくださらなければ、私はここにいなかったと思います。

 

その事は・・・幻を見る前から思っていました。そして・・・幻を見て、わかりました。

 

私は『天の御遣い様』の事が────好きです」

 

小川を見つめながらもハッキリと話す月の姿が眩しく映る。

 

ふわふわした髪の毛と滑らかな肌。

 

繊細さと可憐さを持つ彼女を好きにならない男がいるだろうか。

 

座りながら小川を見つめるその姿はお人形のようで、どこに出しても可愛がられる程だろう・・・と思う。

 

それに比べて自分は・・・。

 

「翠さん・・・翠さんも『天の御遣い様』の事が・・・好きですよね?」

 

その問いに・・・答えれない。

 

俯き、小川をただ見ているしか出来なかった。

 

学は無く、ただ体を鍛えているだけ。

 

それでも三国同盟以前はそれでもよかった。

 

敵がいるから倒す。その為に体を鍛える。その・・・繰り返し。

 

平和になって、何も無くなった。

 

考える時間が増えた。

 

悩みだけが・・・増えた。

 

そんな自分が人に好かれるとは思えない。

 

幻は・・・幻でしかないのではないか。

 

でも。

 

「好き・・・だと思う・・・幻だと分かってる。自分が他の人に勝てないのも知ってる。

 

でも・・・それでもいい・・・会いたい・・・会って・・・無事かどうか知りたい・・・」

 

ぽろぽろと涙がこぼれる。

 

自分がこんなに弱いとは思わなかった。

 

「私もです・・・」

 

小さな呟きが小川のせせらぎに融けてゆく。

 

しばらくの空白の時間────

 

どちらも言葉は無いが、小川のせせらぎがまるで会話の変わりのように感じた。

 

「今、詠ちゃん達が必死で『天の御遣い様』を探しています。それこそ毎晩のように部屋

 

に戻るのが夜更けになる程、頑張っていますので必ず見つけてくれると・・・思います」

 

最後が弱弱しいがどこか力強い響きを持つその声に、自然と笑みがこぼれる。

 

「へう・・・笑うなんて酷いです」

 

「ごめんごめん・・・会いたいな・・・『天の御遣い様』」

 

「はい。会いたいです」

 

お互いに笑いあう。

 

小さな願いは、叶えられる。

 

 

最悪の形で────

 

 

お送りしました第32話。

 

熟女コンビの登場です。

 

ある意味その傍若無人ぶりは雪蓮をも超えます。

 

これに祭が加わるので・・・もう・・・という・・・。

 

そして翠。

 

この子が激難しいです。

 

三国同盟以前より少し素直になっています。

 

そこを表現できていればよいのですが・・・。

 

ではちょこっと予告。

 

冥琳の強硬な反対で会議は頓挫する。

 

そんな中で蜀と魏より会議開催の誘いが来るが、

 

それは誘いなどという生易しいモノではなかった。

 

そして冥琳と対立する雪蓮は────

 

「雪蓮の決断」

 

ではまた。

 

 


 
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