No.185834

真・恋姫無双 魏end 凪の伝 30

北山秋三さん

一刀の脳裏に冥琳の名が浮かぶ。
知らない筈の名。
そしてある光景が浮かび上がる。その意味は・・・。

2010-11-21 20:29:52 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4799   閲覧ユーザー数:3772

時が・・・止まっている。

 

そう感じるほどに冥琳の脳髄に痺れが残り、体が離せない。

 

抱きしめた体の温かさと匂いが・・・そして唇の感触が冥琳から正常な判断を奪う。

 

于吉が冥琳にかけた術────それはただ更なる幻視を見せただけ。

 

その内容は、魏と蜀の者達が見た幻視の一部。

 

一刀が・・・他の者達に奪われる幻視。

 

それだけで充分だった。

 

狂おしい程の嫉妬心が冥琳の心を蝕む。

 

どのくらいの時間が経ったのかも分からないが、ハァ、という吐息を残して唇が離れる。

 

でも二人を繋いだ糸が途切れるのが惜しくなり、もう一度唇を合わせる。

 

自分の腕の中にいる・・・それだけで心が満たされた。

 

もう一度唇を離した時、一刀が微かに声を出す。

 

「・・・め・・・い・・・り・・・ん・・・?」

 

心の奥底に沈んでいた呼び名。

 

ずっと自分を守ってくれていたその名・・・その名前が一刀の心から溢れる。

 

「そうだ、私だ・・・冥琳だ・・・」

 

眼鏡の奥の涙で濡れる瞳で見上げながら囁く冥琳の声が一刀の心を、振るわせた。

 

────ギュ・・・と動く右手で冥琳を抱きしめる。

 

"いつか彼女と出会っていた"

 

そんな記憶は一刀に無い・・・筈だった。

 

だが心が覚えている。

 

その体の柔らかさを、匂いを、声を、姿を・・・そして唇の味を・・・。

 

ズキン!と頭が痛む。

 

「────う・・・ッ!?」

 

刹那に脳裏に映像が浮かぶ。

 

知らない映像。

 

誰かと戦っている。

 

そこには共に戦う凪がいた。

 

他にも数人いるようだ。

 

戦っている相手は・・・誰か分からない。

 

黒い神事服を着た顔の知らない女と戦っている・・・だがそれはあの時の女じゃない。

 

あの時の女は・・・今目の前にいる冥琳ともう一人とで戦っている・・・?

 

そして自分の服は・・・白い────聖フランチェスカの制服・・・。

 

六年前・・・その時オレは・・・"1"年生・・・だった・・・。

 

だから・オレは・キミを・失った。

 

<<完全遮断します>>

 

「ぐうっ!?」

 

そこまでが脳裏を駆け抜けた時に突然合成音のような音が聞こえたかと思った瞬間、

 

一刀の頭に耐え切れない程の激痛が走り、一刀は意識を失った。

 

意識を失う寸前、冥琳の悲痛の泣き顔が目に映る。

 

────ああ・・・"あの時と同じだ"・・・。

 

左手が、動いた気がした。

 

 

夕方に予定されていた緊急会議の時間になっても冥琳が現れない。

 

だが事は急を要するため、冥琳抜きで始められた。

 

玉座の間に机と椅子が扇状に並べられ、その場には雪蓮、蓮華、小蓮、祭、穏、亞莎、思春、明命

 

そして各地の有力諸侯が集まっている。

 

最大の議題は三国同盟をどうするか。

 

そして一刀の問題である。

 

「それでは黄蓋殿も知らない・・・ということですね」

 

「ああ・・・じゃが、丁度その時期、ワシは他の地へと行っていたからな。堅殿とは約2年会っておらん。

 

その間の事となれば知っておるのは、かつての袁術軍に組した者達の筈・・・キャツ等はその後殆ど死亡

 

しておる為、真偽の程は分からん」

 

諸侯の男の質問に祭が溜息混じりに答える。

 

それは誰もが知っていた。

 

当時、孫堅の周りにはのちに袁術軍に取り入ったような愚か者達が軒を連ねている。

 

その愚か者達を監視する意味でも側に置いた訳だが・・・。

 

「確たる証拠は・・・もう一本の『南海覇王』のみ・・・ですか・・・」

 

そこで男が玉座の横に座る雪蓮をチラリと見る。

 

雪蓮は俯き、手の平に置かれた指輪をじっと見つめているだけ。

 

こんな雪蓮の姿は誰も見た事が無く、戸惑うものが殆どだった。

 

男もその様子に困惑しながら席につく。

 

それを見届けた蓮華が口を開いた。

 

「確たる証拠はそれ・・・だけね。後は一刀兄さまを直接見てもらえばわかると思う。

 

何しろ雪蓮姉さまと同じ覇気を纏っているからな」

 

蓮華は一度『それ・・・』の所で雪蓮の持つ指輪を見たが、証拠までは行かないと判断して

 

諸侯の方を向く。

 

「それにしても・・・三国同盟の立役者の『天の御遣い様』が・・・孫呉に連なる者とは・・・」

 

諸侯の一人が頭を抱える程、事は重大で複雑だ。

 

本来なら王となるべき存在。

 

だが"孫堅"から王に指名されたのは雪蓮。

 

雪蓮が蓮華を王と指名したのとは訳が違う。

 

一刀は権力争いから脱落した形なのだ。

 

一度脱落したものは二度とは這い上がれない。

 

だが一刀は魏に降り立ち、そして魏は三国同盟の覇者だ。

 

立場的に言えば一刀が上。

 

しかも魏は『天の御遣い』を三国平和の象徴と位置づけている。

 

雪蓮と同等の覇気を持ち、そしてその能力は村で行われた戦いの話からも分かる通り智謀に長け、

 

さらにはその武は"あの"呂布と同等という。

 

それが華琳の側にいた。

 

負けるのも当然と感じる。

 

それ程の男が今は呉にいて、自分の身分を隠したがっている。

 

理由は妻と子供。

 

妻は蜀の白蓮・・・魏が黙っている筈は無い。当然蜀も。

 

『天の御遣い』が呉にいるとなれば魏は即座に引渡しを要求してくるだろう。

 

妻が蜀の白蓮だとすればあるいは蜀も要求してくるかもしれない。

 

だが────渡してしまうにはその力はあまりにも強大すぎる。

 

今は三国同盟で大規模な戦いは無い。

 

だがそれはこれからも、とは限らない。

 

何しろ蜀の愛紗が攻撃を仕掛けてきて、五胡との繋がりがあるとも判明した。

 

蜀の総意とは思わないが、単独とも思えない。

 

そして何より劉備はしたたかな人物として有名だ。

 

三国同盟の果てをすでに計算しているのかもしれないと考える。

 

そしてそんな『天の御遣い』の子供がここにいる。

 

蓮華に子供が出来なければ次の王となるかもしれない。

 

『天の御遣い』の子供であるならば誰も反対できない。

 

いや、むしろそれだけの能力を持つ男の子供であれば、呉の民は誰もが諸手を上げて賛成するだろう。

 

だがそれではマズイのだ。

 

権力争いから脱落した者が蜀の者との間に子供が出来、その子が王になるとなれば蜀からは

 

当然様々な要求が入ってくるだろう。

 

「孫権様に子供がいればあるいは・・・」

 

誰かの呟きが聞こえた。

 

それは誰もが思う。

 

そして・・・それは蓮華の思う壺。

 

 

「私が一刀兄さまの子供を産みましょう」

 

「「「な・・・!!!???」」」

 

蓮華の言葉に騒然となる。

 

だがそれは一瞬考えた事。

 

まだ『天の御遣い』が兄だとは知られていないし、知られたとしても確たる証拠は無い。

 

ならば『天の御遣い』のままで蓮華との間に子供が出来ればそれは誰もが納得する王となる。

 

身分を隠したがる様子から、静かな暮らしを望んでいる筈・・・。

 

ならばその場を提供し、呉に腰を据えて貰えばやがてくる三国同盟の果てにも役立つ。

 

諸侯の者達のそろばんがはじかれる。

 

倫理には反する。

 

しかしそれ以上に利益が莫大・・・あまりにも莫大過ぎる程に・・・。

 

そして今のこの国の王は蓮華────"女王"だ。

 

その夫なら"王配"。

 

そこに『天の御遣い』を配し、女を宛がえば・・・孫呉により多くの『天の御遣い』の血が入る・・・。

 

諸侯のざわめきが一段と大きくなる。

 

その様子を見て、蓮華はひっそりと笑みを浮かべた。

 

 

────計画通り。

 

 

「では、三国同盟をどうするか、ですが・・・」

 

「すまない、遅れた!」

 

次の議題へと入ろうとした時、冥琳が扉を開けて駆け込む。

 

雪蓮が顔を上げて見た冥琳の姿は・・・息を切らせ、髪が乱れていくつかは額に張り付いている。

 

そして服も少し乱れているように見えた。

 

まるで事後のような────

 

カアッ!と雪蓮の頭に血が上る。

 

「どういうことだ冥琳!!この肝心の会議に遅れるなど、あってはならない事だ!!!」

 

突然の怒号に場が静ま返った。

 

全員が二人の顔を見比べる。

 

「────すまない」

 

冥琳がただ深く頭を下げた。

 

その様子に雪蓮は思わず歯噛みする。

 

「言い訳は・・・」

 

「しない」

 

キッパリと言い放つ冥琳の様子に逆に雪蓮が驚く。

 

冥琳の瞳には一切の迷いが無かった。

 

「なん────!」

 

「雪蓮姉さま!!!」

 

更なる怒号が雪蓮から放たれようとした時、蓮華がそれを止める。

 

「今はそれよりも、三国同盟をどうするかの話し合いが先でしょう!冥琳も座りなさい!」

 

「・・・」

 

雪蓮が不貞腐れた様に黙り込むのを見て、冥琳も席に座った。

 

二人は一度も目を合わせない。

 

一度溜息をついてから蓮華が話を進める。

 

「では、この状況だ。三国同盟は破棄するべきと考えるが、皆はどうだ。賛成の者は挙手を」

 

その言葉にほぼ全員が手を上げた。

 

手を上げないのはわずか・・・。

 

「ならばやはり────」

 

「私は反対だ」

 

冥琳の発した一言に、再びその場が凍りつく。

 

 

お送りしました第30話。

 

おお・・・もう30話・・・早いものです。これもひとえにコメや支援をいただいている皆様のおかげです。

 

この場を借りて改めてありがとうございます!

 

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 

さてこれからどうなるか・・・色々問題が多いですが、実はコレらは"一刀がその場にいれば"

 

全て解決するような問題なんです。

 

ゲームをやってのイメージですが、一刀ってものすごく優秀な緩衝材なんですよね。

 

華琳が怒っても、雪蓮がキレても、桃香がぽへーっとしていても、他の者達との間に入って

 

とりなす事ができるというイメージです。

 

それだけに、いない事で問題が大きくなる・・・というのが表したかった事でもあります。

 

そして、冥琳。

 

うっは。ようやくここまで来た!という・・・冥琳が一人になるというシチュエーションは無印から

 

いただきました。

 

ただし、今度は三国同盟存続を願う一刀の"味方"は冥琳だけという状況・・・。

 

白状しよう!眼鏡キャラが好きであると!

 

あ!だから沙和と稟と冥琳の扱いが違うのか!と気がつかないように。

 

・・・つまりはその他の・・・というのもくれぐれも気がつかないように・・・。

 

次話ですが、ちょっと時間が開くかも・・・数日中には復帰します。

 

では、ちょこっと予告。

 

流琉の報告を受けた魏の者達は驚愕する。

 

そして秋蘭は・・・。

 

「猜疑」

 

では、また。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
31
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択