No.185512

『記憶録』揺れるフラスコで 2

グダ狐さん

2を公開しました。
1を読んだことある人は分かると思いますが、この作品はまだ文脈や段落の分け方を決めていなかったころのものです。

まぁ今でも決めていませんが!
それでも構わないならどうぞ

2010-11-20 01:07:35 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:296   閲覧ユーザー数:296

 

 司令官であるダルトロス・ローカリストに呼び出され、渡された書類を持ってソーイチ・リヴェルトは武装整備室に戻るとリリオリ・ミヴァンフォーマの姿はなかった。彼女は佐官で今は訓練中、しかも手合わせを望んだ部下を気絶させて晴天の中放置してきてのだから戻ってなければ問題程度では納まらない。

 

「いま戻ったかっ! リヴェルト主任ッ!!」

 

 呆けていると、そのリリオリが戻って早速予備の剣を寄こせと催促して来た。少し汗を掻いている。訊ねると気絶していた部下を医務室に連れて行ったが誰もいなかったので、とりあえずベッドに放り込んだ帰りだと言う。そのまま続けていろという指示を忠実にこなしていた素振り部隊は本当に彼を放置して続けていたらしい。素晴らしい部下を持ったものだと怒りを露にしていた。汗を掻いているのは廊下の突き当たりでソーイチを見かけたから全力で走って追いつこうとしたのが原因だと怒られた。

 

「何だコレはっ!! こんな粗末なモノが使えるかっ!!」

 

 このままでは別のことでも無意味無差別理不尽に怒られる雰囲気だったので、適当に選んだ剣を渡したがまた怒られた。三日以内に直せと言い残してリリオリは彼女曰く粗末なモノを持って出て行った。結果、フォス・プランよりも先に彼女の剣を直さなければならなくなった。フォス・プランのこともあり、まるでリリオリの専属整備士になった気分だ。

 日も暮れ、リリオリの剣以外に特に業務や用件はないので仕事をあがり自室に帰る。我が家とも云える部屋はリオークス基地内にある宿舎だ。郊外、列車で基地から一つ先にある町にも家と呼べる部屋はあったのだが、帰るのが面倒かつ出勤および帰宅時間と列車の出発時間が三十分以上ズレがあることから宿舎に越してきたのだ。一人部屋なのは偏に、唯一の幸運だと感じる。

 今日は精神的な疲れが相当溜まっている。原因は主に、というよりも絶対、全てあのリリオリ・ミヴァンフォーマでしかいない。彼女以外に見つからない。四日ほどで直すと言ったにも関わらず、三日で直せと要求し、おそらく朝一番で取りに来るだろう。そしてそれまでに修理できていなければまた怒り出すに違いない。もうじき胃腸薬が必要になる時期が来るのではないかと心配になる。

 そんな心配も洗い流すように風呂に浸かり、気がつけば一時間は入っていたのでさっさと湯から上がる。風呂は部屋ごとに付き、脱衣所はない。風呂から上がった身体を拭いてそのまま部屋に戻る。一人部屋故に見られる心配はしていない。

 

「あ」

 

「い」

 

 部屋の扉が突然開けられた今日を持って、ソーイチはその考えは捨てることにした。

 珍しい珍客が来たものだ。特に急ぎもしないで衣服を着る。珍客はいま扉の向こう側にいる。生まれた時と同じ格好の姿を見たその人は呆然と眺めた後、視線が徐々に下がって入れてしまったモノを見て数秒。切り替えたように顔が白から赤に変わった。悲鳴こそ上げなかったものの、勝手に入ってきてジックリ視姦しておいて随分と失礼だと思う。しかし、さすがにそのまま放置するのもいけないので、着替えるからと開けた扉を潜らせずに退場して頂いたのだ。

 部屋着を着終え、その視姦した者の名前を呼ぶ。

 

「もういいですよ、アルミィ主任」

 

「あの、その、もう大丈夫ですよね? 象さんいないですよね?」

 

「何を持って象と言いますか、貴女は」

 

「決っているじゃない―――ですか………~~~~ッッッ!!!!」

 

 脳内に鮮明に映し出されたらしく、その映像を消去ろうと扉の外にいるアルミィ・フォーカスが慌てて頭を振っているのだろう。左だけ結んだ三つ編みが揺れているのが開いたままの扉から見える。

 リオークス基地の中でも所属できれば出世頭になれると呼べる部署である研究部、そのトップである主任というのが彼女の肩書きだ。小柄なのは関係ないだろうが存在感が薄く、誰に話しかけられても気付かずに通り過ぎられてしまうらしい。らしいというのは、誰も気付かないから通り過ぎていたことにも気付かず、以前に彼女が零していたのが知れ渡ったのだ。

 

「とりあえず服を着ましたんで、入っても大丈夫ですよ」

 

「え~と、失礼、します」

 

 恐る恐る入ってくるアルミィ。武装整備室と同じでモノが溢れている部屋に驚きつつも用意した椅子に座る。裸を見られたとはいえ、一応客であるので茶を出すと、ほくそえんで口を付けるが熱いらしくすぐに机に置いた。猫舌なのだろうか。

 

「あ、熱いですね」

 

「そりゃあ、茶ですから」

 

「でもこのお茶、他のお茶と違う香りですね。なんというか、香ばしい香り」

 

「この茶は米を蒸してから炒ったり爆ぜたりしたものを混ぜたものですよ」

 

「へぇ~。こういう緑茶を好まれるのですね。紅茶は飲まれないのですか?」

 

「ええ、まぁ。故郷では緑茶が主流でしたから。緑茶の方が口に合うんで、紅茶は飲みはしますけどそれほどは」

 

「そうですか。でも、こういうのも偶には良いかも」

 

 落ち着き始めたアルミィが再び茶に手を伸ばす。息を吹きかけて少し冷まし口に含むと、うんと小さく頷いた。

 

「美味しいです」

 

「ありがとうございます」

 

 久々に聞いた美味という褒め言葉に笑みがこぼれる。この茶を出してこの言葉が帰ってきたのは司令官でもあるダルトロス・ローカリスト、そして武器破壊の名人であるリリオリ・ミヴァンフォーマの二人を含めて三人目だ。前者は以前に茶を一緒にした時に軽く進めたらとても気に入れられて以来紅茶から緑茶に変えたが、たまに砂糖を入れているらしい。後者は初めて盗られ飲み干された時に出た言葉がこれで、その時だけは悪い気はしなかった。だが、出せと要求するような横暴なことはしないが、彼女が剣を壊して部屋に来るとき飲んでいれば今日のように必ず盗られて一気に飲み干される。

 このまま緑茶需要者が増えてくれれば、それだけで嬉しくなる。アルミィがこれを気に基地内で広めてくれればとソーイチは考えて、彼女がいる理由を思い出した。

 

「それで、どうしてここに?」

 

「どうしてって、言ったじゃないですか。本当は整備室の方に顔を出そうと思ったのですが、どうしても都合が合わなくてこの時間になってしまいました」

 

「だからどういう…」

 

「昼間、廊下で擦れ違った時に言ったじゃないですか。話があるのであとで部屋に窺いますねって」

 

 廊下で、ということはダルタロスに呼び出されて移動中の時のことだろう。あの時は呼び出された理由を道中、考えていて気がつけば着いていたという状態だった。だが、声を掛けられているのが分からなくなるほど考え込んでいたわけではなく、周りから指を指されたときは気付いてぼやいていた。

 

「きっと考え事でもしていて聞こえなかったのでしょうね。無視とか小さくてとか存在感薄くてとか無いですよね、ね」

 

「そりゃあ…そうですよ」

 

「でも無視とか小さくてとか存在感薄くてとか一番されているのはリヴェルトさんなんですよね、ね!!」

 

「つ、次から気をつけます」

 

 笑顔なのに凄みを感じるのは勘違いではなく、その迫力に気圧されて思わず謝ってしまった。思い返してみても、回想にアルミィが出てくる場面はない。ただ少し周りが騒がしかった程度だ。

 

「それで本題に戻りますと、ちょっと手伝って頂きたくて…」

 

 懐から取り出したのは端末で、映し出されたのは大量の資料だった。彼女が研究部の主任にあるから兵器の資料であることは容易に理解できるが、いま映っているのは戦闘機や戦車などの従来の型ではない。重鎧のような外装で大きさは人の約二倍ほどの二足歩行型、つまり人の形状をしていた。さらに背部にはスラスターが二基装備されている。次々と入れ替わり映されるのは、どれも常軌を逸した構造と発想の塊だ。

 

「これは…」

 

「取っておいた新型兵器の試作案です。まだ首都部にいた頃、当時の上司に案として提出したのですけど、一言で一蹴されてしまいました」

 

「一言って?」

 

「え…えっと『ケツが紅くなってから持って来い』…です」

 

「…………はい!?」

 

「当時はむしろ、これが弾かれたことの方がショックでして、その時は本気で上司を呪いました」

 

「そうですか」

 

 セクハラの何者でもない、最低の言葉だった。思い返して恥ずかしくなったのか、画面を見つめたまま苦笑いを浮かべていた。申し訳ないことを聞いてしまったと少し後悔したが本人はすでに気にはしていないらしく、大丈夫ですよと気を使わせてしまったようだ。脇道はここまでしておいて本筋に戻る。

 

「これは他国ではすでに研究が進んでいるパワードスーツの概念と同じで背部から搭乗し、機体は搭乗者の動きをそのまま伝達しますが操作・設定端末が両腕内に内蔵されています。動力は電力パックによる換装式で再充電も可能で―――」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

「スラスターは展開式で開く角度によって加速と減速そして方向転換を行いますっと、どうしたんですか?」

 

「これが凄いってことは設計図を見れば大体分かりますけど、自分なんかに見せてどうするつもりですか?」

 

 設計図を見せながら説明するアルミィを止めるが、その意図が見えない。この兵器の相談であればソーイチではなく研究部内で行えばよく、むしろその方がより良い意見と改善点が出てくる。彼が持つ主任という肩書きは武器のみに通じるものだ。兵器、しかも未知な精密機械のかたまり相手では意見どころか質問だけで一週間は過ぎてしまうだろう。

 そのことを解っているのか、わざと言っているのか。画面に向き合ったままアルミィは口を開いた。

 

「今日、私はローカリスト司令官から四極元理論を応用した新兵器の開発計画に参加するよう命じられました。私としてはとても喜ばしいことで、あまり知られてはいませんが四極元理論は既存する原理であれば許可の申請は要りませんが、新たな原理を見つけ使用する場合は軍上層部、それこそ司令官以上の権限がなければ申請すら受け付けてくれませんから」

 

 そう言って、アルミィは苦笑を浮かべた表情で振り向いた。彼女が開発計画フォス・プランに参加することは知っている。ダルトロスは研究部に頼むべきだと返した時、先程渡したと言っていた。そして、兵器とは別に新たな武器開発の切欠になることを望んでいることも。

 

「私が使いたい新たな原理は、機体そのものに浮力を発生させて飛行を簡易化させるもので、これが使用できれば消費電力を約六十パーセント以下にまで抑えられます。あくまで計算上なんですけどね」

 

「………」

 

「量産化は…この国の技術力では十年は掛かりますけど、それでも他国と対抗できるだけの戦力になるでしょうね。フォリカは魔導工学は他国を圧倒していますが、一般的な技術力でいえばギリギリ基準値ってところですし、世界随一の軍事国家グーテルモルグには圧倒的に負けてますから」

 

「そんなに心配しなくても」

 

「心配、というより弱い国になって欲しくないだけです。今はまだ戦争こそ起きてませんが、大艦巨砲主義としか言いようがない魔導兵器だけでは短期決戦しか挑めませんから。装備面でも同様ですよ。銃器が当たり前で、帯剣は本当に護身用程度なのに今だ長剣が標準装備というのは珍しいですし」

 

「まぁ確かに」

 

 四極元理論の応用である魔導工学は兵器から一般家庭までと広く使われているが、それはそれぞれの分野に合わせて原理が創られている。だが、魔導工学は原理が複雑であるほど比例して大型になる。扇風機程度の風を起こすなら小型でも可能だが、嵐のような突風を起こすにはそれこそ専用の研究室が必要なほど巨大になる。

 アルミィが言った大鑑巨砲主義も間違いではなく、兵器はあっても武器に適応できる原理が創られたなど聞いたこともない。それは凶器になり得るだけのエネルギーが懐に収まる大きさでは作れないからだ。

 四極元理論の使用方法については今知り、なるほど理解した。ダルトロスがソーイチを参加させたのは彼が武器専門の整備士で、武器に適応できる原理をどのような形でも構わないから行ってくれという、本当に切欠を求めたからだった。

 

「それが嫌で軍の研究部に入ったんです」

 

「…?」

 

「―――――」

 

 呟いた言葉は聞こえて理解も出来た。画面に顔を戻したアルミィに対してそれ以上聞く気もなく、彼女も誤魔化す様子も問い掛けてくれと訴える様子もない。むしろお互い触れてはいけない雰囲気だった。

 

「そこで考えたのがこの兵器。名前はまだ仮名ですけどオーリスです」

 

「オーシル?」

 

「オーリスです! 何ですか、何かの汁ですか!? そんなもの垂らしませんよ!!」

 

 どうやって間違えたか解らない間違え方をすると青筋を立てて怒られた。意外な沸点に驚きつつ、次から下手に怒らせないように気をつけようと心に決めた。

 

「まだ改良や改善する余地もありますけど、一応機体の基礎構造が出来ていますのであとは研究室の方で話し合えば設計図はほぼ完成すると思います。魔導工学もその方面に長けた旧友がいますので、この計画の権限を使えば集められますから大丈夫でしょう」

 

「では、貴女は自分に一体何を頼みに? もう殆んど出来上がっていて、あとは試作機がロールアウトすれば軌道に乗るんじゃないんですか」

 

「兵装が…ないんです」

 

 再び振り向いたアルミィの眉が垂れ下がっていたのを見てソーイチの頬が引き攣る。嫌な予感が脳内で鐘を鳴らす。

 

「機体のことばかり考えていて兵器とし肝心な兵装を忘れていたんです。最初は基礎機能のみにして兵装は付けず、兵士が使うような武器を使用させようかと思ったのですけど、ここまで大きくなるとサイズが合いません」

 

 アルミィは視線だけを画面に戻し、

 

「ここまで機体設計が出来上がった後に機関銃やミサイルコンテナを内臓することも、換装する様にするのも一から設計し直さなければならないんです」

 

「え~と、つまり…オーリス専用の武器を造ってくれ、というのが今日来た理由…」

 

「はいそうです」

 

 良くぞ理解してくれたと言わんばかりの満面の笑みで答えてきた。

 頭が痛くなってきた気がして抱えだす。まさか彼女から毎度聞かされている様な似たような言葉が洩れるとは予想もしていなかった。何故ならそれは毎度お馴染みの武器破壊の天災が文句と愚痴を掻き混ぜて吐き出す言葉と類似するからであり、むしろアルミィはその吐き出された言葉を呑まされる立場だと思っていた。ものの見事に裏切られた気がするが、それは気のせいで勝手な思い込みだ。

 

「しかし毎日のように兵器を弄っている研究部の皆さんなら、何も自分でなくても造れるでしょう」

 

 いやそれが、と、

 

「兵器のような大きなものは慣れているのですが、どうも兵装程度の大きさになるとまた違ってきまして。照準系だけは武器と機体の相互性や調整がこちらで必要ですけど、それでも専門の方が造って下さった方がいろいろと有り難いんです」

 

 職業柄、足りないもしくは専門ではない知識は自身で調べるよりもその専門の人間に助言を貰ったり携って貰った方がした方が効率が良い。今後、再び使うことがあると考えれば自身で調べて財とした方が役に立つだろうが、今回のような急場では無理だ。だとしたら、アルミィの依頼も間違いではない。

 だがしかし狙ったかのような、それともタイミングを言ういうべきか。ソーイチにもこれから武器を作る理由がすでにあった。それも、彼女がオーリス開発を再開したのと起源が同じ。幸運と思うべきだろうが溜息が洩れる。

 

「言いますとね、フォーカス主任」

 

「はい?」

 

「自分にもこういうものがあるんですよ」

 

 そう言って、傷を開く言葉と共に受け取ったフォス・プランの計画書を取り出した。

 

「ギョ!?」

 

 計画書を見たアルミィは謎の擬音を発し、目を見開いて驚愕した。

 

「なななななななななななななななななななななんで持っているんですか!? それはフォス・プランの計画書ですよ! 首都部の研究部が参加するような…え、ちょ、あ、え、ん??」

 

 座っていた椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がり、アルミィは得物を追う空腹の獣の如く喰って掛かってくる。もしソーイチが彼女と立場が逆だったら同じようにしていただろう。眉をひそめて、うんうん唸るアルミィを見下ろしながらそう冷静に―――呆れながら考えていた。

 ああ、と頭を悩ませていたアルミィが手を叩いた。その顔は納得の笑顔。

 

「実は偽物でドッキリとか」

 

「何でそんなに疑心暗鬼なんですか」

 

 そして否定の言葉と共にその笑顔は凍りついた。このフォス・プランは民間はもちろんのこと軍内部でも公開応募はしていない。将校、もしくはそれに準ずる権限を持つ基地司令官からの推薦方式で参加の是非が問われ、そしてこの計画書が配られている。公募せずに推薦方式を使用したのは、実績と信頼のある若者を長(リーダー)とした班(グループ)ですぐさま計画に移行させるための処置。応募してくる大勢の未熟な研究者を審査させるために一人一作で検討するのは時間と資源と時間の無駄尽くしだ。少しでも無駄を省きたい。諸外国より劣っている純粋な技術力に少しでも対抗したいフォリカの意図がそこにあった。

 それだけこの開発計画は厳密で不公平に行われているだけに、地方でしかも整備専門の人間が参加することにアルミィが疑心暗鬼になるのも当然だ。逆を言えば、そんなことは全く分からないソーイチが聞き返すのもまた然り。

 

「でも確かにこれは司令と首都本部の印…ということは本物なんですね」

 

「ということです」

 

「ちなみに、造ろうとしているのはどのようなものですか?」

 

「剣ですね。というより、これぐらいしか出来ないでしょうし」

 

 何せ参加させられることになったのは今日で、しかもアルミィのように昔から書き残していたものがあるわけではない。さらに、が続いて専門は整備で研究でもない。基本的知識から瞬間的な発想力まで。これらが乏しいソーイチにほんの数時間前に突然言われて思いつくような芸当が出来るわけがない。漠然と剣、と答えたのもダルタロスに言われ、リリオリが欲したからでしかなかった。

 

「剣ですか…」

 

「今日、突然言われたので漠然となんですけどね。兵器は無理なんでどうしても武器になるんです」

 

「なら、こちらも手伝いますのでオーリス用の武器を造ってくれませんか?」

 

「いや、交換条件を提示させようとかじゃなくて、自分にもこれがあるからそこまで時間は割けませんよ、とということです」

 

 だがやっていることは変わりない。少し後味の悪い形となってしまった。

 

「それでも構いませんし、手伝いもします」

 

「………そこまで言うのでしたら、お願いします」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 笑顔で軽く頭を下げられる。元々協力しないつもりはなかった。フォス・プランには人員が足りない、もしくは専門家の協力が必要な場合は協力申請を行うことが出来、その効力はほぼ義務や強制に近い。参加者にこの申請の効果があるかどうかは判らないが、仮にここで拒否しても翌日にでもアルミィが申請すれば数時間後、ダルタロスのことだから申請と同時に呼び出して命じるだろう。

 しかしこれは任意。強制ではなく自分の意思で選択して欲しい、さらにはソーイチの手伝いまでするというアルミィの考えだと思うと、その心遣いに感謝しかない。

 

「あと、出来ればでいいのですが…」

 

「はい?」

 

「さっきの…昔の話は他言でお願いします」

 

 ――――ケツが紅くなってから持って来い

 感謝から一転、出てきた言葉はセクハラ。顔を紅くして自ら動揺することはないが苦笑いと空笑いを表に洩らした。

 闇が深くなるにつれて周囲も静まり返る。昼間の風で流されたのだろう、蒼くそして星が散りばめられた空に灰色に濁った雲はない。元々静かな地方の田舎であるリオークスの夜は格別に静かだ。それは基地でも同様で、施設の殆んどの光が消えて、点いているのは夜勤待機のために部屋と司令室ぐらいだ。

 平和が続く世界でも臨時のために待機は存命している。経験したことがない戦時下のような厳重な警戒態勢は不要だが、それでもこのリオークス基地の体勢は広大な周辺地域の治安維持で効果を出している。警察機構は当然フォリカにも存在するが、都市部から離れれば離れるだけ効力は低下しているのが実態。その低下を補うのもリオークス基地の役目でもあり、そのために夜勤待機だ。

 

「だからどうして私が起こされなければならない!!」

 

「ですから―――」

 

「理由も言い訳も聞きたくない!!」

 

 困惑する言葉を一蹴する。静かなはずのリオークスの夜だったが、一箇所だけ違っていた。訳を問いながら口を開くなと凄い剣幕で無茶を言うのはリリオリ・ミヴァンフォーマで、その怒りを一点に受けているのは夜勤待機の部下だ。場所は夜勤組の待機室だ。部屋には二人しか居らず、他の待機要員のいた痕跡はあるが姿は見られない。一人対決している部下は扱いの難しい上官を相手にしながらも、今ここで言わなければならないと萎縮しそうな心を支えつつ言葉を続ける。

 

「ですから! 自分たちだけでは対処しきれないんです」

 

「人数が足りないからか? 一人足りないぐらいで対処できないとはどういうことだ!!」

 

「全員揃って万全だとしても起こしました」

 

「どういうことだ!?」

 

 さらに声を張り上げ、胸倉を掴んで喰って掛かる。ガンをぶつけるリリオリに負けることなく、部下の男は凛と立っていた。いつもなら、ただ頷いて従うだけのこの男がここまで喰い付いて来ることを喜ぶべきだろうが、低い沸点に到達している彼女に理解できるはずもない。

 

「時間がないんです。一大事になる前に来て下さい」

 

「―――くそッ!! ガッデム!!!」

 

 理由よりも移動を急ぐ部下からは必死の眼光が向けられる。この口論すら惜しい状況にいるのだと、ようやくリリオリは気がつき興奮から冷めていく。どれだけ無駄なことをしていたのだと、これにはもう毒を吐くしかない。

 部下から視線を外し、部屋から出て行く。息を吸い、背を向けたまま怒りではない、焦りを含めた声で部下を呼ぶ。

 

「説明は車の中で聞く! 急ぐんだろう!」

 

「は、はい!!」

 

 靴音を発てて廊下を通り過ぎ、建物の外に出るとすでに準備は終えていた。トラックの中には他の待機組が搭乗して装備も用意されている。出発はまだかと、彼らの視線がライトの逆光からでも分かる。やる気のなさそうな、今にも眠り扱けてしまう眼をしている。何故今日に限ってこんな事件が起きたものかと、内心では思っているのだろう。その気の持ち様では危険すぎる。だから精神の訓練も必要なのだと、整備主任の顔を思い出して心の内で舌打ちしながらも荷台に乗り込む。

 リリオリを起こして部下も続いて乗り、荷台の扉が閉まると同時にトラックが動き出して目的地に向かう。

 

「それで状況は?」

 

「今から四十三分前にリオークスの警備署から、魔王と思われる人物が市街で暴れていると連絡がありました」

 

 魔王。この言葉に荷台に乗っていた兵士達の表情も変わった。警察機構でも抑えられない、よほどの時のみ出動する軍隊が出ているのだから、彼らもそれなりには覚悟はしていたのだろう。だが、相手が魔王ともなれば話は全くの別次元になる。ヒトのみでは扱えない魔法という別に技術を用いり、一人で一個大隊並みの戦力になる魔王を相手に十数名で相手にしろというのだ。死にに行けと言っているようなものだ。

 

「場所はリオークス南部の市街地です。魔王は現在市街地で留まって沈静していますが、いつまた活動を開始するか分かりません。到着は約二十分後です」

 

「市民の避難状況はどうなっている?」

 

「それが…殆んど出来ていません」

 

「どういうことだ!? 避難勧告は出ているのだろう」

 

「出ていません。目標から数キロ離れたところに規制が為されている程度で市民全員が避難はしていないようです。活動が再開するまでに到着して…どうにかして沈静化しろということでしょう。盟約とはいえ、お互い余計な干渉はしないという約束を持ち続けているカレラがまたどうして…」

 

「知らん。だが、恐れていたことが起きたのだ。下手すれば、魔王との内戦にも繋がるぞ」

 

 部下達が息を飲むのが雰囲気で分かる。

 

「そうなれば…諸外国でもどうようの事態が派生して、仕舞いには世界戦争にも為りかねない」

 

 事態は緊迫しているともいえる。だというのに、派遣されてるのが夜勤組だけというのが分からない。数十年ぶりに勃発するかもしれないだろう戦争が一歩手前まで来ている状況に、フォリカ軍部は夜勤で待機していた少人数で抑えられると考えているのだろうか。それこそ、理解の範疇を超えている。物事を軽視しすぎている。

 

「…この事態が世界に露見すれば、同盟国のグーテルモルグは黙っていないでしょうね」

 

「だろうな。あの国は最も魔王を敵視しているからな。カレラに対する弾圧の声はより高まるに違いない。最悪、同盟を破棄されて敵国として認知されかねない」

 

 同盟を組んでいるグーテルモルグという国は過去に起きた最期の戦争、魔王との内戦の記憶が未だに色濃く残り、教育の中にも大きく影響している。根付いている魔王への怨恨に刺激されれば同盟国だろうと友好国だろうと、強く反発されるのは眼に見えている。

 

「そのためにも、速やかに沈静化させないとならないか」

 

 気を引き締めるリリオリに対し、部下達は顔を蒼くして絶望にも取れる表情をしている。世界の情勢を変えかねない事件に首を出そうとしている。この事に極度の不安を感じているのかもしれない。今なら犬に吠えられただけで怯えて竦んでしまう。

 

「その魔王の名前は?」

 

「―――はい?」

 

「今から沈静させる魔王の名前は何だと聞いている」

 

「報告では…ガサラキ・ベギルスタンです」

 

「ガサラキ・ベギルスタン―――ガサラキだと!? 間違いではないのか?」

 

「え、ええ。警備署からの伝えられた外見と、何より本人が名乗っていたそうです」

 

 ガサラキという名前を聞き、間違いでないと知るとある場所が脳内に映し出される。そこは非常に面倒だ。できるならば違って欲しいと願う。部下達は知っているのかと眼を向けてくるが気にせず、一人思考を働かせる。

 

「ちなみにだ、ガサラキの近くに酒場はあるか」

 

「酒場…ですか? いえ、渡された情報にはなにも…」

 

 そうか、と呟くとリリオリは口を閉ざし、黙りこくってしまった。以降、誰もが口を開くことなく、世界の命運を掛けた戦いに挑むことにウンザリしながら沈黙を貫いた。少しでも零してしまえば、そこで不安は堤防を突き破って決壊してしまう。本能的か理的か、誰もがそれを感じ取りながら待つこと二十数分。トラックは市街地に入り、目標から数百メートル離れた場所に停止した。

 トラックを降り、背後を見ると警察機構の人間が規制する向こう側には多数の人だかりがいた。避難もせず、興味本位で野次馬と化した市民に多少だが憤りは感じるが、それよりも先にするべきは反対側にいる存在の対処だ。近づいてくるガタイの良い男が敬礼し、こちらも敬礼で返す。彼がこの場にいる警察機構の担当者のようだ。

 

「目標は?」

 

「未だ停止したままです」

 

「了解した。では警察は市民と情報機関の規制を頼む。対処は我々が行う」

 

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 再び敬礼を交わし、彼は離れていく。数人の部下に指示を与えるのを横目で見送り、部下達が武装の準備が完了したことを確認する。愛剣は昼間の訓練で壊してしまったので、代わりにとソーイチから用意した剣を手に取り、二班に分ける。もう一班の班長はリリオリを起こしに来た部下の男だ。連絡を交わしながら目標である魔王に近づき、しんと静まり返った夜中の市街地の隙間を縫うように進む。

 そして見つけた。

 

「目標を発見。ガサラキ・ベギルスタンです」

 

 白髪に細く華奢にしか見えない身体、だというのに露出する腕は引き締まった筋肉が浮かび上がっている。今は地べたに座り込んでいるが、彼は間違いなくガサラキ・ベギルスタンだ。

 だが――――――――

 

「ですが…アレは…」

 

「ああそうだ。目標は顔を赤くして軽い興奮状態にいる。脳の機能が低下し、手加減も出来ないだろうな」

 

「それって―――」

 

 危惧したとおり酒場が近くにあり、ガサラキの手には大小様々複数の瓶が握り締められている。全て栓は外されている。誰かに取られないようにしている確保しているのか、周囲に誰もいないのにがめついことだ。座る彼の周囲には握り持つ倍以上の瓶が転がっている。その中身があの身体に収まるのかと疑いたくなるような数だ。

 そうして今も尚飲み続け、また一つゴミが増える。ガサラキは意気揚々と次に口をつける。その瓶にも、転がっている瓶にも、着いているラベルにはアルコールと書かれている。

 間違いなく、あの男は――――

 

「ただの酔っ払いだ」

ということで、あとがき!

相変わらず恥ずかしい文脈です。(今でもこんなもんですがw

 

今回はどうして創作小説を書くのかをちょいと説明を。

簡単に言ってしまえば、妄想が止まらなかったからです。

今出回っている二次創作や同人なども楽しくないわけじゃないんですが、やはりそういうのを読んでいると自分でも書きたくなるものでして・・・。。。

そう考えているうちに徐々にまとまってきて、手始めに書いたのが、これです。

だから!

こんな感じなんですスミマセン;;

 

では、またいつか公開する3でお会いしましょう ノシ


 
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