No.183142

みんなで星蓮船 Ep.01 宝船の噂

春野岬さん

幻想郷総攻撃!?

もしも、「東方星蓮船」の主人公が3人だけでなかったら……!?
未確認飛行物体を巡って幻想郷の少女たちが大さわぎ。
登場キャラ大増量なIFストーリー。

2010-11-07 14:28:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:968   閲覧ユーザー数:953

 博麗神社へ続く長い階段の途中。

 箒を片手に掃き掃除(のフリ)をしていた博麗霊夢は吹き抜ける風の柔らかさに気づいた。

 もう春が近い。神社の境内に積もっていた雪もほとんど解けた。

 暖かくなるのは素直に嬉しいが、虫やら虫みたいな妖怪やらが活発化するのが困りものだ。

 

 そんなことを考えながら階段を上がる。

 そろそろ家に戻って一休みしようかと歩き出したとき、空からこちらに向かってくる人影が見えた。

 霧雨魔理沙である。箒に乗って空を飛ぶ彼女は高度を下げながら霊夢に近づく。

 そして、足が地面に付く直前で魔法を解き、箒をお尻の下からするりと抜いて着地した。

 無駄のない身のこなしだった。

 空飛ぶ箒の着地の仕方――そんな些細なことにも魔理沙はこだわる。

 魔理沙の中には理想の魔法使い像がしっかりと存在していて、それに近づくためなら努力をいとわない。

 決して手を抜かない。

 

「よう、霊夢。今日も暇そうだな」

「あんたもね」

 いつもと変わらない挨拶である。

「それが暇じゃないんだ。……とりあえず、ゆっくりお茶でもいただくぜ」

「あんた言ってることが滅茶苦茶よ」

 

 

 * * *

 

 

 霊夢と魔理沙は縁側に座ってお茶をすすった。

 

「はぁ、生き返る」

 

 寒さが和らいだとはいえ上空はまだまだ寒かったようで、魔理沙は熱いお茶を大げさにありがたがった。

 

「でも、できれば部屋の中のこたつで温まりたいんだが」

「だめよ。おやつは縁側で。そう決めてるの」

「何だその決まりは」

 

 魔法使いの美学が魔理沙のこだわりなら、縁側のおやつタイムは霊夢のこだわりなのだ。

 

「そんなことより、何か用事があるんじゃないの?」

「おお、そうだった」

 

 魔理沙は手を叩くと、ちょっとわざとらしい真剣な顔を作った。

 

「出るらしいんだ」

「……何が?」

 

 幽霊、吸血鬼、神様、それに閻魔様。霊夢は今さら何が出ても驚く気がしない。

 

「宝船だよ」

「たからぶね?」

「幻想郷の上空を飛んでいるのを見たやつがいるんだ。もし乗り込むことができれば、世界中の珍品と金銀財宝、そして七福神が迎えてくれるって話だ」

 

 財宝に七福神。あまりに現実味がない。

 普段、賽銭箱の底を食い入るように見ながらチェックし、しまいには賽銭箱の周辺まで這いつくばるようにして小銭を探している霊夢にとっては全くもってピンとこない。

 

「何だか突拍子もない話ね。情報源は?」

「ルーミアとかミスティアとかチル……」

「はいはい。どう考えてもガセね」

 

 霊夢はため息をつく。真面目に聞いて損をした。

 

「そうやって、すぐに可能性を否定するやつには、いつまでたってもチャンスは訪れないんだぜ」

 

 霊夢の反応に魔理沙がいじける。

 これで宝船の話は終わりかと思われた時、巫女装束の少女がひょっこり現れた。

 

「こんにちは」

 

 控えめな挨拶をする少女の名は東風谷早苗。最近、山の上に現れた八坂神社の巫女である。

 ある意味で商売がたきといえなくもないが、霊夢は気にしていないし、興味もなかった。

 

「こんなところでのんびりしていていいんですか。私はてっきりお二人はもう動き出している頃だと思っていました」

「ん? 何が?」

「宝船ですよ。宝船!」

 

 それを聞いて魔理沙が急に元気を取り戻す。

 

「ほらみろ、霊夢。やっぱり宝船は実在したんだ。早苗もだいぶ幻想郷のことをわかってきたみたいだな」

 

 早苗は褒められたことが嬉しかったようで、

 

「神奈子様がお前もそろそろ妖怪退治を始めてもいい頃だって送り出してくれたんですよ。それに、諏訪子様は宝船に乗ればきっと良いことがあるって言ってました」

 

 二人にとってはどうでもいい話をした。

 親を自慢する子供みたいに、自分の仕える神様の話をする早苗を見て、やっぱり外の世界の子は変わっていると霊夢は思った。

 

「しょうがないわね、一応調査しましょうか。二人とも当てはあるの?」

 

 首を横に振る魔理沙と早苗の動作が重なる。今回も勘で幻想郷中を飛び回るしかないようだ。

 とりあえず早苗にもお茶を淹れてやるかと立ち上がった時、外が急に暗くなった。

 太陽を遮ったシルエットは船のような形をしていた。

 

「あれ!」

 

 早苗が指をさして声を上げる。

 

「これって異変かしら」

 

 霊夢は呟いた。

 

 魔理沙は船の飛んでいった方向を眺めながら唇を舐めた。

 船に積まれているという世界の珍品に夢を膨らませる。すごい魔法道具があるに違いない。

 大きな袋を携帯しておくべきだったと少し後悔した。

 

 早苗はこれから自分がすべき妖怪退治という仕事を想像して身を硬くする。

 隣では博麗霊夢が空を見上げている。

 その姿は普段と変わらない自然体で、緊張や気負いは感じられない。

 この人についていけるのだろうか。焦りを感じる。

 それでも、自分を見守る二人の神様のこと考えると心を落ち着けることができた。

 

 霊夢はいつもと違って、妙に浮ついている自分の心理状態に気付いた。

 仮にこれが異変だとしても、異変そのものにはもう慣れっこになってしまって何も感じない。

 心を乱す原因は船に積まれているという財宝である。もし財宝が手に入ったらどうしよう。

 とりあえず、里に下りて食料を大量に買い込もう。

 気を引き締めなければいけないと分かっていても、頭の中で展開される「夢の計画」は止まることがなかった。

 

 

 

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