No.182201

少女の航跡 第1章「後世の旅人」6節「重き響き」

ある少女の出会いから、大陸規模の内戦まで展開するファンタジー小説です。 リベルタ・ドールの街が攻撃に遭い、ゴルゴン、ゴーレムなどの怪物が登場します。

2010-11-02 23:11:10 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:502   閲覧ユーザー数:448

 

 私達は部屋を飛び出た。

 他の部屋からは悲鳴が聞こえて来ていた。ここにまで警鐘の鳴る音が激しく聞こえてくる。

すでに廊下にもさっきの生き物がいた。全く同じような武装をしている。突き当たりのベランダ

の辺りにでも打ち込まれたのだろうか。どうやら、この《リベルタ・ドール》を取り囲むように櫓が

現れ、四方八方から次々と、彼らが打ち込まれて来ているようだ。

「あれは、ゴルゴンとかいう怪物ですぞ皆様。この辺りでは見掛けない生き物ですな。やしかし

…」

「しかしって何?」

 フレアーとシルアが言い合っている。

「しかし、このように武装している者は、知りませんな。ゴルゴンはかなり原始的な者達のはず」

 私とカテリーナは剣を構える。フレアーは私達の後ろに隠れるようにしていた。シルアはそん

な彼女の足元に、さらに隠れている。

 私達3人と一匹の姿を見っけたらしい、ゴルゴンと言うらしい生き物達。彼らは聞くに耐えない

雄たけびのようなものを上げると、武器を手にこちらに迫って来た。

「あんたの魔法が見てみたいな? あいつら相手にやって見てくれないか?」

 と、突然、カテリーナがフレアーに言った。彼女は冷静というよりも、余裕であるような感じだ

った。

「な…、何? 何を言っているの? こんな時に?」

 言われた方のフレアーは、とても焦っている様子だ。

「お嬢様方2人では手に負えない。つまり、フレアー様に援護をして欲しいという事ですな?」

 彼女の肩に乗っているシルアが、これまた冷静な口調で言う。しかし、カテリーナは、ちらりと

その黒猫の顔を見ると、

「ただ、見たいってだけさ」

 とだけ言って、彼女は生き物達の方に駆けて行く、私もそれに続いた。

 私達を獲物、とでも思っているのだろうか? 怪物達はこちらに向かって駆け出して来た。武

器を手に持ち、それを上空に振り上げ、不気味な声を上げている。

 だがカテリーナは、そんなゴルゴン達の武器を、剣で弾き飛ばした。同時に2本の剣が飛び、

彼女は大剣を振り回して、一度の3匹もの怪物達を斬り飛ばす。相手は多分、彼女が側にま

で近づいた事にすら、気が付かなかったかもしれない。あっという間の出来事で、私にもよく分

からなかったからだ。

 天井のガラスが割れ、私の目の前にも2匹のゴルゴンが現れる。少し驚いたが、とっさに身

構えた。

 2匹が剣をたて続けに振って来た。盾と剣を使って何とか防御する私。衝撃で後ろに倒れそ

うになる。

 と、そこで一匹のゴルゴンの前で爆発が起きた。不気味な声を上げて煙を上げながら倒れる

怪物。

「ほら、見せてあげたよ!」

 それは、フレアーが魔法を使ったという事だった。彼女は木の杖をこちらに向け、狙いをつけ

ていた。

 もう一匹の方がそれに驚いた、大きく隙を作る。そこへ私は剣を振った。刃が相手に致命傷

を与える。

 耳を塞ぎたくなるような鳴き声を上げて地面に倒れる生き物。さらに同時に、カテリーナに斬

り飛ばされたゴルゴンが、私の側まで飛んで来た。

「ふう…、もう打ち止め?」

 私が息をついて言った。だが、

「危ない!」

 叫んだのはフレアーだった。私とカテリーナもすぐに異変に気が付いてその場から飛びのい

た。

 天井のガラスが粉々に砕け、何かが廊下へと落ちて来た。すごい衝撃が床を揺るがす。よく

床が抜けなかったかと思う。

 落ちてきたものは、レンガのような体を持ち、その無機質な表情をこちらに向けている。とて

も太い腕のついた体。太い脚でそれを支え、のっしりとした姿。これはゴーレムと呼ばれる存在

だった。

 これも私が見るのは初めての存在だった。意思は無く、魔力で動いているのだという。そして

その行動も、魔力を込めた者の意思に従うというが、これには、目の前にいる私達に対しての

敵意しかない。

 大きな門が開く時のような、重厚な動きと音と共に、ゴーレムは私に対して拳を繰り出した。

巨大な岩のような拳が繰り出され、私はそれをとっさに避ける。こんなのを盾で受けたりした

ら、腕が砕けてしまうどころか、私自身も砕けてしまうだろう。それに、避けられない動きではな

かった。かなり重厚で鈍い動きだ。

 拳が床に叩き付けられる。床は粉々に砕け、破片が飛び散った。私ばその破片を盾で防御

する。

 床から腕を引き抜こうとするゴーレム。その作業だけでも時間がかかっている。

 そこヘフレアーの魔法が炸裂した。ゴーレムの顔面付近で爆発が起こる。爆風が私の方に

飛んで来るぐらいの威力の魔法。しかし、ゴーレムにダメージを受けた様子は無い。爆発を受

けた部分が、レンガに少しひびが入ったようになっただけだ。

「ありゃあ…、てんで駄目?」

「次はもっと集中して見ましょう、フレアー様」

 フレアーとシルアがそう言っている。

 しかし、その時、

「離れてな! ブラダマンテ!」

 カテリーナの声がした。彼女はゴーレムの背後にいる。

 その言葉に従い、私が急いでゴーレムから離れた。すると、ゴーレムが大きな唸り声を上げ

た。心臓に響くような、低くて太い唸り声を上げた。それで壁が振動するほどだった。同時にそ

のゴーレムを貫く雷が走る。青白い光が一閃して輝き、弾ける。

 続けざまに、次々とそのゴーレムに雷が走る。2発、3発と、幾重も雷が走り、その度にゴー

レムは唸った。そして最後に、頭上から雷が落ちる。それは本物の落雷だった。私は離れなけ

れば巻き添えを食らってしまっていた。

 真っ黒に焼け焦げるゴーレム。煙を上げ、力なく床に倒れる。地震のように廊下は激しく揺れ

た。

 その倒れたゴーレムの先には、剣を構えたカテリーナが立っていた。持っている大剣から

は、火花が迸っている。彼女はその剣で落雷を起こしたのだ。

 フレアーは眼を丸くしていた。私もだった。

 カテリーナは黒焦げになったゴーレムの上を歩き、こちらへとやって来る。私達の側にやって

きた彼女は、

「どうしたんだ? 早く行こう」

 と平然と言って来た。

「あ、う、うん」

 我に帰った私は慌ててそう言った。

 まさか、私が普通に話していたあのカテリーナが、ここまで凄いなんて。あの巨大な、魔法さ

えも通用しなかったゴーレムが、彼女にかかればいとも簡単に倒せてしまうなんて…。圧倒さ

れていた。

 と、ハッとしたように、そんなカテリーナが背後を振り向く。つられて私もその方を振り向いた。

 黒焦げになったゴーレムが、起き上がろうとしている。全身から煙を上げながらも、ま,だ動い

ていた。とはいえ、だいぶ力を失っているようだったが。

「しつこいな…」

 カテリーナは剣を再び構えようとする。迫って来るゴーレム。元々のろかった動きが、さらに

のろくなっていた。

 そこへ、爆発音が響いた。同時にゴーレムの頭部が粉々に砕け、真っ黒な破片が飛び散

る。ゴーレムは再び地面に崩れた。そして後ろからロベルトが姿を見せるのだった。

「大丈夫だったか?」

 彼の持つ銃からは煙が上っている。今の爆発音は、ゴーレムを撃ったロベルトの銃の音

だったようだ。彼は銃を鳴らして、次の弾をセットする。

「ねえ! 何が起こっているか分かる?」

 フレアーが尋ねた。しかしその時、地響きが廊下を揺るがし、通路の先の方からまたゴーレ

ムが現れる。

「ここは危険だ。早く城の外へ出るぞ」

 ロバートはそう言い、私達を催促する。

「でも、王様がまずいよ、このままじゃあ!」

 フレアーは焦ってそう言った。ゴーレムの迫る音で廊下が揺れる。

「国王陛下には、近衛兵がおります。フレアー様、今は自分の身の危険を優先するとしましよ

う」

 と、シルア。

「でもー! うー!」

 うなるフレアー。

「早くしよう! 王様はきっと大丈夫だよ」

 私がさらに彼女をせかした。すると、

「…う、うん、…分かったよ…」

 と、うなずき、先を行くカテリーナとロバートのあとを、一足遅れていた私達は追うのだった。

「ところで、これは一体何事なの!?」

 フレアーが大声で言った。カテリーナ達に私達は追いつく。シルアは走るフレアーにしがみつ

いている。

「『ディオクレアヌ軍』の連中さ…、さっき、怪物達の武器を見なかったか? しっかりとDのマー

クが付いていたよ」

 カテリーナが走りながら答えた。

「ええっ!? そうなの?」

 驚いた様子のフレアー。

「あんな武器を持っているって事は間違いないな」

「で、でも…。嘘でしょ!? あのリヴァイアサンもそうなの?」

 今度は私が尋ねる。カテリーナとロバートの足は速く、ついていくのがやっとだった。歩幅が

子供並みのフレアーは私よりも大変そうだ。階段を駆け降りる。

「それは、分からない。だけど、多分関係があるだろう…」

 そう言うカテリーナの顔は、冷静なまま真剣である。

「どうやって城の外に出ればいい?」

 ロバートがフレアーに尋ねる。彼女は少し考えた後に言った。

「この城の東側の中庭に、街の外へと抜けられる抜け道があるの。こういう時に使う道なんだ

けど…」

「よし、そこへ行こう」

 カテリーナはうなずき、今度はフレアーを先導にして私達は走る。彼女の歩幅は今まで走っ

ていたスピードよりも遅い、しかもフレアーは息を切らしている。

 城には絶えず地響きが鳴り、私達と一緒に逃げる者達もいた。天井からはときおり、塵が落

ちている。

「王様は!?」

 同じように走っている騎士にフレアーが尋ねた。

「わ、分かりません!」

「何が起きているの!?」

「分かりません!」

同じ答えの連続だった。

「全く、もう…!」

 そうフレアーが不満を口にした時、私達は城の中庭に飛び出した。

 ここは東側の中庭だという。ドライアドとかニンフに私が会ったのは、あれは西側の中庭だっ

たから、反対側だ。雰囲気も大方違っていた。重厚な城壁が見え、それが庭をぐるりと囲んで

いた。西側に比べれば、こちらの庭は幾分か狭い。

「急いで!」

 ここに来たのは私達が最初だったようだ。他に人の姿は無い。

「待て! 上を見るんだ!」

 と、カテリーナが先走ろうとするフレアーを呼び止めた。私達は上空を見上げた。

 巨大な怪鳥が庭の上空を横切る。あれはグリフォンだ。見たのは初めてだが、その大きさに

圧倒されてしまう。私が想像する鳥なんて、大きくても鷲だが、その大きぎの10倍はあるだろ

う。

 と、そのグリフォンの背中から、誰かが飛び下りてくる。それに続き、次々とこの庭へと飛び

下りてくる影。

 その内の一人が、私達の目の前に着地した。

 赤い鎧を纏った戦士だった。目も眩んでしまうぐらいに、真っ赤な鎧だ。他の飛び下りてくる

者達も同じ格好をしているようである。私達の目の前にいる戦士は、兜をかぶっていて顔が伺

えない。しかし、首筋からは赤く、長い髪の毛が垂れ、鎧の胸の部分は大きく膨らみ、腰がか

なりくびれている。しかも、かなり細身の鎧だった。女性であるらしい、他の同じ姿の者達もそう

らしかった。

 その赤い鎧の女騎士は、銀色の大きな槍を持っていた。彼女は、それを私達へと向け、身構

えるのだった。

 

 


 
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