No.181401

恋姫異聞録91

絶影さん

ようやく謁見終わりです。

舞についてなのですが、凪達も舞うことが出来ます
なんたって何時もやっておりますのでw

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2010-10-30 20:48:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10780   閲覧ユーザー数:7720

真っ直ぐ見つめる男に笑顔を向ける劉協を満足そうに見る劉弁は、大きく手を二回ほど叩くと音に反応した部屋の外

に待機する侍女が足音を立てず、ゆっくりと劉弁の元まで進み座して頭を下げる

 

「場所は何処が良い慧眼、外か?それとも内か?」

 

「場所は広い外を、外は良く晴れて美しき蒼天でございます。それに兵を連れてきましたのでその者たちと

共に舞を御見せいたします」

 

「残念。今日は夏侯淵、妻とは一緒ではないのですね?」

 

「ええ、ですが妻との舞に決して劣らぬものを御見せいたしましょう」

 

俺の言葉に少し期待はずれといった顔を見せる劉協様。だがその顔は直ぐに変わるだろう、二人で舞う舞も良いもの

だが、大勢の群舞も良いものだ

 

笑顔で思考に浸る男の前に座る華琳から目線が送られる。その目線は攻撃的で、口の端はかすかに釣りあがり

笑みを作っていた。考えの読めた男は少しだけ驚き、眉根を寄せ本当に?と首を少しだけ傾げる

すると華琳は「勿論よ」と解るように顎をかすかに引いて頷く

 

やれやれ・・・だが、そうだな。ならば俺は華琳の望むことに俺なりの思惑を乗せさせてもらう

我儘を聞いてやるのだからそれぐらいは許してもらうぞ

 

「一つだけお願いが」

 

「何でしょう?」

 

侍女達が華琳達を外へと案内するために立ち上がろうとする。その時、男の声がその行動を止め劉協は首をかしげる

 

お願いとは何だろう、もしかしたら舞に必要な楽隊などのことだろうか、それとも何か舞いに使うものを

用意したいと言うことだろうかと

 

しかし男の口から出たのは予想外の言葉

 

「兵に槍を持たせていただきたい」

 

にっこり笑って口にしたのは武器を持たせろとの言葉。天子様の御前で武器を所持させろと、しかも男一人ではない

兵全てに槍を持たせろと言い、しかもその兵は大陸でも名高い魏の精兵。幾ら優秀な禁軍を抱え、腕の立つ劉弁が

側に居たとしても、目の前で一斉に襲い掛かられれば簡単に命を落とす

 

「なっ!」

 

つい声を上げる桂花、だが華琳は桂花の方に横目で視線を移すと黙ってしまう。詠も同じく、華琳と桂花の動きを

見て、さらに立ち上がらずそのまま座した男の後姿に目を移していた

 

流石にそんな危険な真似は出来ない、妹の命にかかわる事態になるかも知れないと声を上げとめようと劉弁が腰に

手を回すが剣は先ほど男に褒美として渡し、今は男の傍らに。男はそんな劉弁に解る様に剣に手を当ててさらに

笑顔を深いものにする

 

「信は頂いたはずですが?」

 

「くっ・・・確かに、だが」

 

「華琳は信ずることが出来ても、この慧眼を信ずる事は出来ませんか劉協様」

 

男は軽く下を向き、また顔を上げる。笑顔は消え、強い眼差しを持つ稟とした涼しげな顔を見せた

 

美しくも厳しく強い顔に劉協は一瞬呆けため息を吐き、少しだけ見とれてしまい。はっと気がついた時には

顔を赤くしてばたばたと手を振り、両手で袖を掴んで顔を隠すようにして流れる変な汗を拭いていた

 

「い、いいえ、信じます。大丈夫です。だから一寸だけ此方を見ないでください」

 

「はい、有難うございます」

 

「協っ!」

 

「よ、良いのです。お姉さまだって剣を、信を託したではないですか」

 

そういう劉協に姉は「くっ」と悔しげな声を上げ、なおも平然と強い顔を見せる男を睨む

 

「戦場の将がする顔か、協は免疫が無い。やってくれたな慧眼」

 

またにっこり笑う男に劉弁は「授業料は剣だけでは足らんかもしれん」とため息を吐いていた

 

「お前のおかげで、やたら将に惚れてしまう町娘のようにならなくて済みそうだ」

 

「それはようございました。私でもお役に立てたようで」

 

「そのような顔、普段も・・・いや、慧眼は妻以外に興味は無いと有名だったな」

 

呆れたように笑う劉弁に男は頷き、顔を赤くして下を向く劉協に劉弁はやれやれと額に手を当て早く行けと

手をヒラヒラとさせていた。侍女達は頷き、華琳たちを外へと導く

 

やれやれ、あれは想定外だったから俺もあせった。まさか将が将に対して信を預ける時にする顔を

父、馬騰が俺にした顔を向けてあのような反応をされるとは、余程戦場の将と会った事も話したことも無いのだろう

 

「秋蘭を連れてこなくて良かったわね」

 

「まったくだ、いらぬ誤解をされてはたまらない」

 

隣を歩く華琳に秋蘭のことを言われ、俺は苦笑いになってしまう。当たり前だ、この場で嫉妬をあらわにすることは

無いだろうが、家に戻った瞬間にどうなるか。昔と違って誰も居なければ素直に甘えたりするようになったのだから

そんなことを考えながら侍女に引き連れられ歩く。その後ろには桂花と詠が続きさらにその後ろに俺と華琳が並び

導かれながら俺は少しだけ身をかがめ、華琳の耳元に寄った

 

「仕返しとは何時から器が小さくなった?」

 

「私の将を引き抜こうとしたばかりか、あのような顔をしてこの私を威圧するのだから当然よ。それ相応の

報いは受けてもらわないと」

 

「それだけが理由ではないだろう」

 

俺の問いに笑みを浮かべる。久しぶりに楽しむ笑顔を見せて笑う華琳は「貴方もでしょう?」と答える

そのとおりだ、華琳と俺の考えることは一緒。此処からは俺が、華琳が天子様、貴女を試す番だ

俺を引き抜くと言った時の華琳の反応、そして俺達の対応で俺達がどれほどの者か試したのであろうが

俺達とて貴女を試す。もし華琳が支えるほどの者ではなく、小さき器の持ち主ならばこの俺が叩き割ってくれる

 

大陸を纏めるまでは我等が支えるが、その後はあらゆる手段を講じて華琳に皇帝となってもらう

本来はもう少し後に考えていた事だが、華琳が望むならば今此処で判断しよう

天を名乗るに値する人物かどうかを

 

「急に舞の内容を変えるんだから、お前も協力しろよ」

 

「私は貴方達がどのような舞をするか知らないわ、知らないものをどう協力しろと言うの?」

 

「耳を貸せ、なに簡単な事だ」

 

訝しげな顔をする華琳の耳に口元を寄せ、舞の内容を教えれば最初は眉根を寄せて露骨に嫌そうな顔をするが

話の最後には心底楽しそうな顔をしていた。まったく、あの可愛らしい天子様の顔がゆがむ様を想像したのだろう

本当に攻めることが大好きなやつだよお前は

 

などと呆れ、開かれた石畳の広い庭に通されれば、そこには既に統亞達を含める三十名の兵士が待機していた

どうやら劉弁様から指示を受けた者が直ぐに兵をこの場所へと案内をしていたようだ。さらには用意が良いことに

兵達の手には持ってきた槍が握られ、皆一様に不思議な顔をしていた。何故こんな場所で我等は槍を持っているのかと

 

「大将!あっ、いや昭様。此方に通され待機せよと言われたのですが・・・」

 

「ご苦労、これからこの場に天子様がいらっしゃる。皆粗相の無いように」

 

「へっ!?でしたら槍は何処かへ片付けます。槍なんぞ持っていたら」

 

「いや良い、天子様から許可を貰っている。そして舞の変更だ、統亞、苑路、梁。こっちに来い」

 

俺達の姿を見るや、駆け寄り報告をする統亞は少し困惑していた。無理も無い、そしてさらには俺の言葉を聴いて

酷く驚いていた。当たり前だろう、何しろ天子様の御前で総勢三十名もの兵が槍を持って立つというのだから

 

更に苑路と梁も近くに呼び寄せ、舞の変更とする演目について話せば更に驚いていた。まぁそうだろう

驚くだろうなぁ、だからこそ天子様の前でやるのだから

 

「出来るか?」

 

「ええ、まぁ何時もやってることですからねぇ、大した事は無いですが」

 

「統亞の言うとおり、大したことはありませんが本当にやるのですか?」

 

「華琳に話したら笑っていたよ」

 

俺の言葉に統亞と苑路は華琳の方を見て驚き、更に俺のほうに視線と顔を戻して苦笑いになっていた

やるしかないと考えているのだろう。お前ら、天子様よりも華琳の方が怖いのかよとつい笑ってしまった

 

「はっはっはっ!統亞、苑路!昭様が笑ってる、心配ない俺たちゃ無敵の黒山賊、雲の兵、そして魏狼だ!」

 

ビリビリと響く声で大笑いする梁に俺は頷き、背中をぽんと一つ叩く。こういうときの梁の考えなさと言うのは

非常に強い。統亞達の方を見れば「俺が何時臆したかっ!」「コイツと一緒にすんじゃねぇ梁っ!」

と意気込み、そのまま三人は指示を待つ兵のほうに走り舞の演目について話をし始めた

 

「大丈夫のようね、相変わらず貴方の兵は士気が高いわ」

 

「お褒めに預かり光栄、それよりも剣は桜で良いな?」

 

「何?私が信用できないの?」

 

「信用なんかしてるに決まっているだろう。この剣を預けてくれたのは華琳だ、宝剣を使うなら

それでも構わんよ。ただ振り回すには危ないと思っただけだ」

 

「私が?」と聞く華琳に俺はわざと「周りが」と答えれば憎たらしいヤツだと俺の頬の傷痕を摘み引っ張る

華琳に緊張の心配など無用だったようだ、俺から差し出される宝剣を二つ受け取り腰に携える

 

剣を携える姿を久しぶりに見たが、身長のせいかやはりどうも剣に支えられているようにしか見えない

その姿に少しだけ息を漏らして笑うと、華琳は更に俺の頬を強くつねってきた

 

「痛いっ!」

 

「貴方の考えなどお見通しよ、笑うならやらないわよ」

 

「わひゃった、ほめん」

 

頬を引っ張られ変な声でしゃべる俺が余程面白かったのか華琳は怒りの顔が直ぐに抜け落ち

口に手を当てて笑っていた

 

 

 

 

さて後は槍を持つ兵達を見ながら緊張し、気が気じゃないといった二人だ

 

「詠、桂花、ちょっと良いか?」

 

「何よ、またさっきみたいなことするんじゃないでしょうね」

 

「僕も変なことは嫌よ、と言うより何する気なの?天子様の御前で武器を持つなんて」

 

怪訝な顔をする二人の元に歩き、二人の耳元で話そうとすれば桂花に「近寄らないでっ!」と諸手で突き飛ばされる

忘れていた、こいつは男嫌いだった。だが周りには侍女が居るしおおっぴらに話が出来ないと言うのに

仕方が無いと詠の耳元で演目の内容を話すと驚き俺の胸倉を掴んできた

まったく、何でウチの軍師二人はこうも手が出るのが早いんだ?稟と風ならもう少し落ち着いてるぞ

 

「アンタそんなことしてっ・・・天子様の器を測るつもりね?」

 

「ああ、そのとおりだ」

 

「それで、アンタの納得するほどの器でなければどうするの?」

 

「解っているだろう、叩き潰すまでだ」

 

俺の言葉に胸倉を掴む詠の手に力がこもる。そして俺を真っ直ぐ睨みつけるが、その目は急に空気の抜けた

風船のように柔らかく、呆れた目になる

 

「アンタがそんなことするわけ無いでしょう、叩き潰すと言うのは天子様を平民、もしくは魏の要職にと言うこと」

 

「さぁな」

 

「僕はアンタの友であり軍師、アンタを何処までも信じるだけ。僕の信を裏切ることはしないでしょう?」

 

【信】その言葉を聞き、男の顔から笑顔は消えうせ強い眼差しで詠を見る。詠は白い歯を見せ、目を糸のように

細めて笑う。詠が嬉しそうな顔をするのには訳がある。信という言葉で男が見せた顔は劉弁が与え、受け取った時

とはまったく違う、強い信頼の証ともいえる強い目と顔だからだ

 

「桂花には僕が話しておく、アンタの思うとおりにしなさい。協力してあげる」

 

「有難う詠、これは何時かはしなければならないこと。華琳ならば容易に背負えるものだ、だが皇帝は天子様。

彼女が背負えねば零れ落ちる全てを華琳が拾わなければならない。零れ落ちるものを拾うのは支えると言えない」

 

「大丈夫、僕の知る天子様はきっと」

 

詠の言葉に頷く男。それを見てパッと手を胸倉から離し、桂花の方へ近づき話をすれば驚き俺を射殺さんばかり

の目で睨みつけ、その体からは何かどす黒いものが出ているように感じてしまう

 

華琳が望んだことでもあるんだがな、何故か悪いことは全て俺の責になっているようだ

まぁ舞が失敗すると言うことは無いだろう、是非を問うだけだからな

 

男が話を終えるころには城の衛兵だろうか、組み立て式の物見台を素早く組み上げて石畳の広場に

天子様が座する玉座の方向が背になるように設置する。この場所の広さは四方が百間ほどの広い場所

きっちりと綺麗に石畳がはめ込んであり、練武場としても使えそうなほどだ。そこで男は石畳を何度か踏みつける

 

地面は最高、石畳の隙間は僅かにある

 

男は兵から槍を借りると地面に勢い良く突き刺す。地面とは石畳の隙間。挟まるように刺さった槍は真っ直ぐに

立ち固定されたように動かない、それを見た男はニヤリと笑い指示を飛ばして兵達が手もつ槍を物見台から

少し離れたところに綺麗に突き立てさせる。物見台を正面から見れば物見台の両脇に槍の木々が立つといった風景だ

 

「準備は出来たようね、楽しみだわ」

 

「ああ、楽しんでくれ」

 

腕を組み、木々が囲む物見台を見ながら嬉しそうな華琳は俺を見るとすたすたと後ろに下がっていく

前を見れば物見台の左からゆっくりと劉弁様に手を引かれ、劉協様が物見台に設置された玉座に柔らかく

優雅に腰を下ろす。初めて見る天子様の姿に兵達は感嘆のため息を漏らし、兵によってはその目から涙を

にじませるものまで居た

 

「我が名は劉弁。兵達よ、この場に貴様らを呼んだのは天子様が貴様らの舞を所望されたからだ。

今日は慧眼と共に天子様を満足させられるよう力の限り舞え」

 

「みなさんご苦労さまです。今日と言う日を心より楽しみにしておりました。皆さんも楽しまれてくださいね」

 

二人の落差のある言葉に兵達は震える

 

まったく、なんて人達だ。兵達に御二人の言葉の落差を見せることで劉協様の優しさを際立たせた

聞いた兵達は思うだろう、劉弁様は我等が来たことが当たり前だと思っているが劉協様は天子様は

我らを労い、共に楽しもうと仰ったと。俺はそれで理解した、恐らくここから流れる噂は劉弁様と劉協様

を比較させるものになる。噂は大きくなり劉弁様は愚鈍で劉協様は聡明だと言う所までいくだろう

 

結局は歴史どおりになると言うことか、だがそれを望み妹を天子として育てる劉弁様こそ真に聡明で心優しき人物

器も大きい、これでもう一つ道が出来た。天子様である劉協様が望むものでなければ劉弁様に皇帝となってもらう

道だ。華琳が嫌だといえばその道を取ることも頭の中に入れておかねば

 

「慧眼、楽隊は要らぬのか?」

 

「ええ、不要にございます」

 

「では、始めろ」

 

男は頷く、そして大きく足を踏みつけ音を出す

 

ダムッ、ダムッ

 

男を先頭にバラバラに並んでいた兵達が足を踏み鳴らしながら綺麗な列を作っていく、そして列は真ん中に

統亞、左に苑路、右に梁を先頭として兵は列を作り出す。美しい列が三つ並ぶとそれを皮切りに始まる

ロックダンス、男が左右を指を指すアーム系のポイント。兵達が一糸乱れず同じ動きをする

 

更には足のステップ系、足のつま先とかかとを使って足を開き、また内側に戻し不思議な動きをしたかと思えば

急に体を倒れさせ、背面になり両手と片足を地に付き、もう片方の足を上へ高くあげるシフトと言う動きを魅せる

 

音楽は無くとも足で音楽を奏で、全身で表現する目新しいステップや腕の動きに劉弁と劉協の目は奪われ

声を漏らす

 

「ぁぁ・・・凄い・・・・・・」

 

ひたすらに激しく腕や足を使い、決して乱れることなく同じ動きをする三十名の兵士と男に圧倒される

 

見入る劉協に急に男と統亞、苑路、梁は前へ歩み寄る。後ろの兵はステップを刻み、その場で舞うままだが

四人は歩き出し、数歩近づいた所で急に立ち止まる男に三人はぶつかり、始まる口げんか

 

驚く劉協と劉弁、だがその喧嘩は声を一切発しておらず。これもまた舞の一つかと更に引き込まれてしまう

 

身振り手振りで始まる喧嘩、どうやら俺が一番前だ、何故この場で止まる、前から気に入らなかったんだ

などといっているように受け取れるその劇ともいえる動き、そして殴りかかる統亞の拳を倒れるようによけ

苑路に支えられる男、今度は男が殴りかかるが統亞は梁を盾にし、梁の腹に男の拳がめり込むが梁は頭に

疑問符を浮かべる

 

そのやり取りに笑い、玉座から乗り出すようになって行く劉協。劉弁は妹を見なければという思いと、舞が見たい

と言う思いで揺れてしまっていった

 

いよいよ声無く始まる大喧嘩、と言った時に舞う兵が止まり左右に分かれ、後方から現れるは魏王華琳

華琳もまた声を発さず「まあまあ喧嘩はおやめなさい」と身振り手振りで喧嘩を止める

 

睨みつける四人の男。四人を前に腕を組み指を立てて左右に振り「喧嘩をするなら舞で勝負しなさい」

とばかりに男達を指差し、くるりとその身を回す。そして「私が評価してあげるわ」と自分の胸に手のひらを

広げ当て片目を瞑る

 

華琳の提案に男達はにらみ合い「やってやろうじゃねぇか」とばかりに統亞は男を挑発するように舞い始める

その舞はまさにブレイクダンスのアップロック。中指を立てて男と苑路を挑発し、それを見た華琳は兵に

声無く指示を出す

 

そう、何時もやっている事、と言うのはこのフリーのダンスバトル。男の娘を楽しませるために始め

更には兵の鬱憤解消の為に始めた武では無い舞の戦い

 

走り出した兵は物見台の横に刺さる槍を抜き取り、見ていた劉弁に緊張が走るが始まったのは予想外の物

兵達は槍の石突きで地面を叩き、穂先を叩きあい、始まるストンプ。一人の兵士の槍の音を基本に音をずらし

穂を叩き合わせ、音楽の無い舞台に音楽が響き渡る

 

次第に大きくなる音楽に圧倒されるなか、急に「あっ!」と言う妹の声に中央を見ればそこには槍を持つ

兵に囲まれ出来上がった半円の舞台

 

始まる統亞のアクロバティックな舞に目を奪われる。挑発的な短剣を突き刺すような動きや槍を回す動き

のアップロックから、両手を地面について足で舐めるように地面を踏んで回転する、六歩と言うフットワーク

更にはそこから両腕を開き足を宙に上げ、片方ずつ地面に付いて体を横回転させるスワイプスへとつなげ

最後は片腕で体を持ち上げ逆立ちをし、弓のように体を曲げてとめるアローバックを決めて「どうだ」と

言わんばかりに男と苑路を挑発する

 

そこから今度は俺の番だと舞台の中心に出る苑路。始まるポッピン、体がまるで機械のように見える

動きに劉協の目は興味心身、統亞とはまったく対照的な動きではあるが体に何か入っているのではないかと

思えるような動きに魅了されていく。興奮や興味が収まらぬまま次に梁が前へと出て、その巨漢を鞭のようにしならせ

激しく腰を使った動きに腕を体に巻きつけるような動きをあわせるパンキングを舞い始める

 

 

 

 

「あ、あんな大きな体でっ!凄いっ!凄いですっ!!」

 

とうとう声を上げる劉協に劉弁は諌めることも忘れ、舞に見入ってしまっていた

そしていよいよ出てきた舞の王、その姿に劉協と劉弁の二人は息を飲む

 

ゆっくりと中央に出てきた男は先ずは始めにロックダンスのポイントとステップを混ぜ、そこからアップロック

体を急に機械のように見せるポッピンからパンキングへと繋ぐ舞の王、男は一人で三人の舞を全て踊り

そこから更にブレイクダンスへと移る

 

ツイストといわれる体をひねるステップから軽く体を浮かし、地面に両足をたたんで着地

その状態から片足を地面に擦るように前へ突き出す。さらにそこから体をひねり足の裏を天へ向け

体を戻すCCフットワーク、そこから六歩のステップ、更に足を広げ地面に背をつけ回転する

ウインドミルに

 

その名のとおり風車のように回る男。驚く劉協と劉弁にまだまだこれからだと言わんばかりに体を両腕で持ち上げ

浮かし腕の力だけで旋回するトーマスへと繋ぎ、最後は片腕で倒立しそのまま回転する1990

 

「ねっ、姉さまっ!!あれはどうやっているのですかっ!!」

 

「解らん、武でも舞でもあんな動きは見たことが」

 

ついに劉協は兵達の前であるにもかかわらず「姉さま」と口にし、更には劉弁もそのことに気が付かないほどに

なってしまう。その姿に反応するかのように男は回転の最後に体を急激に止めて両足をそろえ片手で掴み

逆立ちのまま静止するジョーダンへと繋げ「どうだお前ら?」と統亞達に指を指す

 

素晴らしかったと両手をパチパチと叩く劉協

 

男の姿に統亞達は「俺の方が上だと」声無く言い寄る。そして四人は華琳の方を向いて「誰の勝ちだ?」

と視線を向けると、華琳は「全然駄目ね、貴方達の舞など大したこと無いわ」と両手を天秤のように上げて

わざとらしく大きなため息を吐く

 

そして中央に立つ四人に「どきなさい」と手でかき分けると腰から宝剣を抜き取り舞い始めるは美しい剣舞

濡れたように輝く剣に目を細め、はかなげな表情でゆったりと体をそらせ舞う華琳の妖艶な姿

 

まるで月の光の下、湖面でゆれる一輪の華

 

激しい音を立てていた兵達のストンプは止まり、四人の男は顔を見合わせ大きく頷き

槍を引き抜いて兵達と共に静かな音で槍を叩き地面を突いて音楽を奏でていく

 

槍の奏でる音楽にのせ、剣を二振り握り回しその体を何倍にも見せるように次第に大きく鋭くなっていく

兵達も華琳の鋭さにあわせ、静かな音楽がだんだんと大きく強いものになっていく

 

華琳の舞う美しい舞と妖艶な表情に魅せられ、先ほどまではしゃいでいた劉協は「ほぅ・・・」とため息を吐いて

頬を染め一瞬も目がはなすことは出来なくなっていた

 

静かな音楽は激しく、にぎやかなものとなり。華琳の舞いも更に激しく、剣を振り口元に切っ先を当て

挑発するようにするように劉協に視線を送り妖艶さも深くなっていく

 

言うなれば、太陽の下、湖面ににぎわう華畑

 

舞は佳境へ入ると兵達と男達はストンプをしながらその場に華琳を残し、最初と同じ美しい列を作る

続く激しいストンプ、激しさを増す華琳の舞

 

ついには兵達の槍の音が耳を劈くような音になり、華琳の舞いも止まることなく激しさを増す

 

体の毛が総毛立ち、あわ立つ肌に身震いする劉協

 

くるりと回り宝剣を地面に突き刺す華琳、同時に音楽は突然止み兵達は槍を地面に突き刺し一斉に地面に座する

劉協の目の前には総勢三十名の包拳礼をとる兵達の毅然とする姿、その前には男が同じように礼を取り

その隣に詠と桂花が歩み寄り、座して礼を取る

 

それを率いるかのように一番前には剣を突き刺すと同時に礼を取る華琳は、ゆっくり顔を上げて真っ直ぐ強い眼差しで

劉協を見つめていた

 

舞の終わりを告げる華琳の眼差し、だが劉協はほめるでもなく労うわけでもなく、口をパクパクとさせて

顔をかすかに青くしていた。兵達と王の取る拳包礼の意味を理解したのだろう

 

男は顔を上げ、礼を取ったまま真っ直ぐ姉の劉弁を見た。劉弁は男の目に少しだけ肩を震わせるが、意味を理解した

のだろう。妹を強く見つめその場に座し、劉協の方を向いて同じように礼を取った

 

さぁどう出る?意味は理解したか?この重さを背負うことが出来るか?顔を青ざめたのは一瞬、直ぐに表情を

戻し、隠したことは認めよう。劉協様、貴女は天を名乗り、我らを背負うことが出来ますか?

 

此処に来た三十名の兵は民を表し、前に立つは土地を支える将三人、目の前には王と天を支える補佐が居り

貴女は天を名乗り皆を背負う。天地人が三つ、三十の民、三人の将、二人の天、貴女は此処に加わり

我らを導き照らすことが出来ますか?

 

劉協様は今、体が震えその手には汗がにじみ、舞の最後の時よりも更に体があわ立ち、今までに味わったことの

無い重圧が圧し掛かっていることだろう

 

改めて感じる民からの強き思い、そして土地を守る将たちの強き意志、それを背負う王華琳

劉協は今感じているだろう、天子とはどれほどのものか、どれほど皆からの思いを投げられて居るのか

そして天子として如何にあるべきかを

 

次第に男の目はぎらつく、言葉が返ってこない。やはり天を名乗るには荷が重いか、そう思った瞬間

 

劉協は笑ってみせたのだ。それも謁見した時のように輝く太陽のような笑みを見せて

 

「あ、昭・・・」

 

詠は男の異変に気が付き、横目で確認すればそこには恐ろしい歓喜の笑みを浮かべる男。その姿に驚き

つい、声を漏らし名前を口にしてしまっていた

 

乗り越えたっ!いや、その器に押し込んで見せたんだっ!

あの笑顔は背負い、全てを受け止める覚悟をした笑み

身震い、握る手に力がこもる

 

クックックッ・・・駄目だ、嬉しくて仕方が無い。なんて器を見せる、まだ小さい器を己の手で広げて見せた

まだまだ華琳とまではいかないがどうだ、先を感じさせる素晴らしい笑顔じゃないか

今俺はきっと笑っているだろう仕方が無い、久しぶりに素晴らしいものを見たのだ

 

座する華琳も軽く後ろを向き、男と同じ顔を見せていた。心底嬉しく、楽しいものを見たと

 

劉協は次に玉座から立ち上がり、皆に向けて同じように拳包礼を取ってみせ。兵達は涙を流し、隣の劉弁も

妹の器に感激したのか、少しだけ目の端に涙をためていた

 

「素晴らしき舞でした。皆さんには何か褒美を差し上げましょう。何か希望はありますか?」

 

笑顔を崩さずそう口にした劉協は、少し考えるように顎に手を当てると男の後ろに座す統亞に目線を送る

 

「そこの蒼い頭巾をかぶる者、名を何と申しますか?」

 

「は、我が名は張燕でございます」

 

「では張燕、何か望むものは?」

 

「何も」

 

「何もないのですか?」

 

「はい、強いて挙げるならば。私はこの身が滅するまで魏王様と我が将の下に居ることを望みます」

 

その言葉に劉協様はまた笑顔を作り、華琳の方を向いて「その願い、叶えることは?」と聞けば

華琳は「承りました」と頭を下げる。そして兵達に視線を戻し「同じ願いのものは?」と聞けば

兵全てが挙手をして、劉協様はさらに笑顔になっていた

 

俺は後ろを向いてやれやれと呆れてやれば、統亞達は嬉しそうに笑っていた。コイツらは誰に似たのか

野心がないやつらだ

 

「では私からの個人的な礼として宴の席を用意しましょう。劉弁殿」

 

「は、兵達を広間へと案内せよ」

 

劉協様に指示を受け、先ほどまでと違った凛とした表情を見せ侍女に指示を飛ばす劉弁様

きっと彼女は今、妹の成長に声を上げて喜びたいのだろう、必死に腰帯を握り我慢しているのが良くわかる

 

「慧眼そして曹操、此処に残りなさい」

 

「はい」

 

兵達が移動する様子を見ながら声をかけられたのは此処に残れとの言葉。俺は詠と桂花に兵を任せ

華琳とその場に残る。兵達は全て居なくなり、この広い場所に残ったのは俺と華琳、そして劉弁様と劉協様だ

 

「さて、私に何か言うことはありませんか慧眼?」

 

「はて?何のことでしょう?」

 

「まったく。曹操、貴女も同じように答えるのですか?」

 

「私は此方の男に話をされたとおり舞っただけ、天子様を心より楽しませることが出来ると言われましたので」

 

座する華琳は此方を手のひらで指し笑顔を向ける。全部俺のせいだと言いやがった、確かにこの舞を頼んだのは

俺だが、器を見るようなことを仕掛けようと目線を送ったのはお前だろう

 

「フフッ、やっぱり貴方は酷い人です慧眼」

 

「申し訳ありません」

 

「いいえ、許しません。だから私のお願いを聞いてください」

 

「はい、此処に残れと言う以外ならば」

 

俺の言葉に心のそこから楽しそうに笑って「それは残念」と一言。そして小さく深呼吸して華琳を見つめ

次に俺のほうを見つめる

 

「私の真名は天の物、預けることは出来ませんから協と呼んでください。その代わり、貴方を雲と呼んでも良いですか?」

 

少し照れたように言って、顔を伏せてもじもじとしていた。きっと名を預けると言う行為をしたことが無く

こういったことが初めてなのだろう。確かに天子様であるならば真名を預けることもたやすくは出来まい

 

「そ、それから曹操。貴女のことも、操と呼んでも良いですか?」

 

「ええ、喜んで協様」

 

笑顔を見せて頷く華琳。俺は少し目を瞑って笑顔になる。この天子様ならば華琳はきっと支えがいがあるだろう

 

「慧眼?」

 

「はい、ですが私の真の真名は昭と言う名。御呼びくださるならば此方を御呼び下さい」

 

「雲は真名ではないのですか?」

 

「話すと長いのですが、叢雲は魏の皆の心。真名は妻の呼ぶ昭でございます」

 

男は名を口にすると深く深く頭を下げる。手をそろえ、美しい形のその礼に劉協はこぼれんばかりの笑顔を見せた

 

「初めて私に頭を下げてくれましたね。やっと認められた気がします。有難う、これからもよろしく

操、そして昭」

 

【は、我等の魂魄に誓い、貴女様を支えることを此処に誓います】

 

深く頭を下げ宣言する華琳と男の姿を見て、更に僅かの間に大きく成長をした妹を見ながら隣に立つ劉弁は

口元に手を当ててその美しい瞳からボロボロと涙を流していた。自分の考えは、妹に感じたものは間違いでは

無かったのだと

 

広い石畳の広場に蒼天からの美しい日差しが柔らかく差し込み、柔らかい風が流れる

まるで新たな天の子の誕生を祝福するかのように

 

 

 


 
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