No.179450

私のことを、夢の中へと 第七話

みかどさん

『私のことを、夢の中へと 第六話』の続きです。

今回は、登場人物が今までで一番多くなっております。

読みにくい所もあるとは思いますが、ご勘弁願えたら幸いです。

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2010-10-21 00:36:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3151   閲覧ユーザー数:2518

 

 

別れを告げたあの時から、もう迷わないと思っていた。

 

けれど揺らいでしまう。

 

あなたの面影が、私の前に現れるから――――

 

きっと、私は弱くなってしまったのだろう。

 

あなたと出会わなければこんな想いをせずに済んだ?

 

そんな可能性ですら、考えることを怖れている自分が居て……

 

胸の奥の少女が叫ぶ。

 

会いたい、逢いたい、もっと愛し、愛されたい。

 

叶わぬ願いと知りながら――――

 

月夜の晩に溢れ出す。

 

枯れた涙の代償に、哀しき少女の感情が――――

 

 

 

 

『私のことを、夢の中へと 第七話』

 

 

 

 

建寧郡。益州の南よりに位置し、これより先には雲南郡を残し、

五胡が跋扈(ばっこ)する無法地帯となっている。

 

 

「お待ちしておりました、程昱様。駐屯所までご案内します」

 

 

城門の前にて郡国の行政官から出迎えを受けた風はその足で駐屯所まで移動する。

 

目的地までの道のりで市街を見渡してみると、

露天商の姿も見られず、人通りも疎らで閑散とした光景が広がっていた。

 

これも今回の騒動の影響なのだろうと考えながら進む先の建物に見知った顔が見受けられた。

 

 

「おや?随分と早い到着だったな」

 

「お久しぶりですー。星さん」

 

「うむ。風も元気そうでなによりだ」

 

 

見知っているのも当然だろう。

 

そこには、風とは別に今回の騒動鎮圧の為、蜀から派遣された趙雲将軍がいた。

 

その出で立ちから見ても立派な武人であることが伺えるのだが、

片手にぶら下げている徳利のせいでなんとも言えない気持ちになってしまう。

 

 

「久しぶり再会に浸るのも悪くはないが……。風も到着したことだ。

建寧郡太守殿。今回の騒動について話を聞かせてもらえるか」

 

「畏まりました。事の始まりは……」

 

 

建寧郡太守と呼ばれる男の話をまとめると今回の騒動はある村を発端として起こったらしい。

 

その村に作物視察のため出向いた役人数名が天の御使いと名乗る男と数十名の武装した賊に囲まれ、

逃げ帰ってきた一人を除き全員が殺されるという事件が発生した。

 

事態収拾の為、郡兵を派遣したがその村に到着しても人っ子一人見つからず、

転がる役人や村人の死体があるだけで……

 

五胡の仕業と考えた郡官達の判断で、近隣の村々へ兵を送り賊への対策に打ってでたが、

守るべき民にまで兵が襲われるという事態が相次いで起こってしまったという。

 

それがたった三週間前の出来事で――――

 

 

「趙雲将軍が来られる五日前にはこの建寧にまで賊が現れる始末で……」

 

 

そう嘆きながら指差す先にある城壁はボロボロになり崩れかけていた。

 

 

「なんと卑劣な……」

 

「その賊についてなのですが、どのくらいの規模だったんですかー」

 

「そうですね……。正確には把握できておりませんが、二千ほどだったと思います」

 

 

現れた賊だけでもその数である。

 

仮に本隊であったとしても、その倍以上の賊がこの建寧郡に潜んでいると考えていいだろう。

 

 

「星さん。どのくらいの兵隊さんを連れてきました?」

 

「このような事態にまで陥っているとは思わなくてな。精鋭六百名しか連れてきておらんよ」

 

 

苦い顔をしながら言葉を発する星と、どう対処すべきか悩む風に建寧郡太守が突然話を切り出した。

 

 

「ご安心ください。幸い、天の御使いなる男の居場所は掴んでおります。

建寧の南西にある村に潜んでいると間諜から報告がありました」

 

 

続けて、趙雲将軍の指揮下に守兵を入れても構わないとまで言い切った。

 

 

「しかし、守兵がいなくなれば建寧が襲われた場合、一溜まりもないぞ?」

 

「豪族方の協力を取り付けておりますので、騒動が治まるまでの間でしたらなんとかなると思います」

 

 

あまり良策とは考えられないが、今はなにより時間が惜しい。

 

今この瞬間にも苦しんでいる民がいるのだ。

 

 

「風はどう考える?」

 

「悩んでいても仕方ありませんし、行ってみるしかないですねー」

 

 

斯くして、星と風が率いる精鋭六百と建寧郡兵五千の進軍が始まる。

 

その先にいる者の存在に気づくことなく――――

 

 

 

 

お世辞にも豪華とは言えない料理と少し濁りが入った酒が振舞われている。

 

焚き火の周りでは村の人達が思い思いの振り付けで太鼓の音に合わせ踊っていて、

そんな光景を見ながら食事を取れば、失礼だが不思議と美味しく感じてしまうもので……

 

城での生活も悪くはなかったけど、やっぱり俺にはこっちの方が似合っているのかなと思う。

 

 

「御使い様。楽しんでもらえていますかな?」

 

「はい。こんな歓迎までしてもらってなんとお礼を言っていいか……」

 

 

村の長である初老の男性が空になった酒器に新たに酒を注ぎ足しながら声を掛けてくれた。

 

歓迎されることがあまり得意ではないのでちゃんとした笑みで返せているか少し不安だが……

 

 

そういえば、なんでこんな状況になっているのか話していなかった。

 

あの道士のせいなのかは分からないが、川に落ちたはずの俺は気がつけば布団の中で目が覚めた。

 

なんでも、近くにある川で倒れていた俺を天の御使いと知っていた人がいたらしく、

この村まで運んできてくれたそうだ。

 

その話を聞いた時は、この世界に帰れたということに身震いがするほど喜んだのだが……

 

 

その後、村の医者に見てもらい暫くは安静にしておくようにとの診断を受けた為、

身体を動かすわけにもいかず、村の人々に色々な話を聞くことにし、

そこであることに気がついてしまった。

 

この村には若い男女が少ないのだ。

 

それに皆少しやせ細り、疲れているようにも思えた。

 

その疑問については、すぐ解決することになるのだが……

 

 

村で目覚めて三日ほどたったある朝のこと――――

 

村の入り口で騒動が起こっていると聞いて駆けつけると、

娘が役人らしき人間に引きずられていく所に出くわした。

 

周りの人々はそれを悔しそうに見つめるだけで……

 

だから飛び出した。

 

役人から娘を引き剥がし、一人を押し倒す。

 

そこまでは良かったのだが、近くに控えていた別の役人に棍で背中を打たれてしまい……

 

でも掴んだ手を離すわけにはいかなかった。

 

役人たちが俺にかまけている間は彼女のことなど気にもしていないだろうから。

 

少しでも遠くに逃がしてあげることさえできれば……

 

その間にも、肩や脇腹、頭と執拗に打たれ続けていく。

 

何分くらいたっただろうか、チラリと周りに目をやると先ほどの娘はまだ近くにいて……

 

永いなと思う。苦しいときは時間が長く感じると言うけれど、まさにこれがそうなんだろう、

なんてどうでもいいことに頭が回り始めてしまい……

 

だから最後の力を振り絞り、口から言葉を発する。

 

逃げて、と――――

 

彼女を含めた村の皆の表情が悲痛なものになっていくのが手に取るように分かる。

 

村人の中には俺の名……天の御使いという名を口々に叫ぶ声も聞こえる。

 

でもそれに応えてあげる余裕はもう無くて……

 

俺は重い瞼を閉じて意識を手放した。

 

 

 

 

目を覚ました俺は、また同じ布団の上で眠っていた。

 

周りには先ほどの娘や村の代表者が集まっており、

中には俺が目覚めたことを泣きながら喜んでくれる人さえいた。

 

事情が全くわからない俺に村の長である男が事の顛末を語ってくれた。

 

 

俺が意識を手放した後、村の男が役人に向かって石を投げつけたらしい。

 

その男の行動に呼応するかのように、村の人々が役人達に抵抗し、

あまりの激しさに根を上げた彼らは逃げていったそうだ。

 

 

「お恥ずかしい話なのですが、この村は役人たちに迫害されており

食料や村の若者を差し出しておりました。

悔しいと感じながら仕方のないことだと諦めていたのですが、

失礼ながら村となんの関係もない貴方様が身を砕いて守ってくださる姿を目にし、

ただ受け入れるだけだった自分達が情けなくなりまして……」

 

 

今まで自由を奪われてきたこの人達にとって、この決断はどれほどの勇気が必要だっただろうか。

 

情けない、なんて言うけれどすごく立派で、すごく強い人たちなんだろうと思った。

 

だから、決めたんだ。

 

俺に出来ることをやろうって――――

 

今すぐにでも華淋の……魏の皆の所へ戻りたい気持ちはある。

 

だけど、この村を見捨てて帰ってもきっと彼女達は怒るだろうから……

 

 

そう決断したのが二週間前のことで、あれから傷ついた身体を癒し、

やっと本調子に戻ったところで今回の宴の話が飛び込んできた。

 

"天の御使い様復帰ぱーてぃー"

 

なんとも可笑しな名前ではあるが、一生懸命考えてくれたのだろう。

 

因みに、名前に使われている横文字は俺が口走った言葉が使われた結果である。

 

 

「いやしかし、御使い様が村に残ると仰ってくださり村一同本当に感謝しております」

 

「そんな感謝なんて……頑張ったのは俺じゃなくて貴方たちじゃないですか」

 

 

結果はどうなれ、起点を作った俺がいなくなるわけにはいかないし、

気になることもある。

 

もし今回の騒動が大事になり、軍隊が動因されでもしたら……

 

最悪の未来ではあるが、あり得ない話でもない。

 

指揮官が話しの分かる人であることを願うばかりではあるが、

犯罪者として魏に帰る、なんてことになったら華淋に殺されるし……

 

そんなことを想像してると気持ちが沈んでしまいそうなので今は忘れることにしよう。

 

そういえば、今までのことを振り返った時に思い出したことがあったんだ。

 

 

「村長さん。俺を運んでくれた人にお礼をしたいんですけど今どちらに?」

 

「申し訳ございません。実のその方……村の人間ではないのです。

旅の占い師だそうで、たまたまこの近くを通りかかったとか……」

 

 

お礼をしたかったのだが、居ないのならば仕方ない。

 

この世界に居れば、きっとまた会うこともあるだろう。

 

だから、まずは目の前の問題を解決しないとな。

 

分かっていることは、この村の人々を苦しめている人間がいるということ。

 

もう一つは、ここが益州の建寧郡であるということ――――

 

 

 

 

『あとがき』

 

 

『私のことを、夢の中へと 第七話』は楽しんで頂けたでしょうか。

 

今回少し反省といいますか、

小説の書き方として回想の中で回想をし、その回想の中で回想をするという

ひどい文章になっております。

 

本当に申し訳ないです。

 

仕事が忙しくなってしまい小説を書く時間が夜中の2時とか、

テンションの可笑しい時間帯になっていることが原因です。

 

気をつけようがないので反省だけします。

 

土日に書けばいいんですけどね。

 

劇場版マクロスのPS3用ディスクを購入し、

それを見たあとに特典であるゲームの方にはまってしまって時間が無かった……

なんて言い訳をしようと思ったんですけど言い訳になってない……

 

とりあえず、仕事が忙しくても週に1本くらいは投稿できると思うので、

気長にお待ちください。

 

それでは、『私のことを、夢の中へと 第八話』でまたお会いしましょう!

 

 

 

 
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