No.178620

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 拠点・厳顔、友を偲びて哀に酔い、法正、愛の心にて詠う

狭乃 狼さん

刀香譚拠点、最終シリーズ第四弾です。

今回は桔梗さんと、法正こと朔耶のおはなし。

ネタはありません。

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2010-10-16 18:57:38 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:10696   閲覧ユーザー数:9344

 時は少し遡り、一刀達が荊州へと赴く少し前。

 

 成都の街を囲む城壁の上で、月を見上げながら盃を傾ける一人の女性がいた。

 

 「……良い月じゃ。ぬしもそうは思わんか、梓よ」

 

 自身の目の前に置いた、もう一つの盃に向かって声をかける女性――厳顔。

 

 「……こんな風におぬしと最後に盃を交わしたのは、あれはいつじゃったかのう。嬢もいまだ幼く、この益州も、まだまだこれからという矢先じゃったな。……おぬしが病にかかったのは」

 

 厳顔の目の前には、実際には誰もいない。だが、彼女の目にははっきりと、在りし日の友の姿が見えていた。

 

 劉君郎。

 

 益州の元牧にして、現在行方不明となっている前の益州牧、劉季玉の母親。

 

 そして、厳顔にとっての無二の親友でもあった。

 

 「後一年、いや、一月でも早く打ち明けてくれれば良かったものを。無理をして政を続けて、……あっさりと逝きおってからに」

 

 ぐい、と。

 

 盃の酒を飲み干す。

 

 「ふぅ。……嬢があんな性格になってしまった責任の一端は、わしにも少な、いや、大きな責任がある。……梅花めに、任せすぎてしまったわしにも」

 

 今は行方の知れない張任は、主を溺愛するあまりに、彼女をわがままな、他人の痛みを理解できない人物に育ててしまった。

 

 それが故に、一刀達荊州勢によって、益州を追われることになった。

 

 それから半月。

 

 理由はどうあれ、友の娘を追い落とす行いをした自分を許せず、昼間は部屋にこもり続け、夜になるとこうして、亡き友を偲びながら酒を飲むという日々を、厳顔は過ごしていた。

 

 

 

 トクトクトク、と。

 

 盃に酒を注ぎ、それを一気にあおる。

 

 その時だった。

 

 「~~~♪」

 

 「ん?……この声は、朔耶、か?」

 

 厳顔の耳に、その悲しい歌が聞こえてきた。

 

 

 「月よなにをおもう、

 

  星よ何を思う、

 

  幾千の時を見てきたものよ、

 

  幾万の命を照らしたものよ、

 

  こなたらに見えるは 誰の涙か、

 

  こなたらに聞こえるは 誰の嘆きか、

 

  世は無常、

 

  常なるは、悲しみか……」

 

 

 曲はつけず、詩だけを朗読し終えた少女は、深々とため息をつく。

 

 「悲しい詩じゃな」

 

 「?!……桔梗さま……」

 

 突如、思っても見なかった人物から声をかけられ、少女――法正は驚きの目を、その人物に向けた。

 

 だが、すぐに冷静さを取り戻し、その人物――厳顔に問いかける。

 

 「……このようなお時間に、お一人で月見酒ですか?」

 

 「昼間は何かとわずらわしくてな。……どうじゃ、おぬしも」

 

 「……いただきます」

 

 

 

 しばらくの間、何を話すでもなく、ゆっくりと盃を交わす二人。聞こえる音は何もなく、月明かりだけが二人を照らす中、静かに時だけが流れていく。

 

 「……良い月、ですね」

 

 「……そうじゃな」

 

 時折、一言二言、言葉を交わしては、再び盃を交わす。

 

 「……のう、朔耶」

 

 「……はい」

 

 そんな時間がいくらか流れたとき、厳顔が法正にあることを問いかけた。

 

 「これで、良かったのじゃろうか」

 

 「……桔梗さまが、どのような言葉を期待されているかは、正直わかりかねます。ですが」

 

 盃を地に置き、言葉をいったん区切る。そして、厳顔の顔を真っ直ぐに見据えて、法正は再び語りだす。

 

 「今の桔梗さまには、どんな言葉も意味を成しません。……ただ、己の贖罪を求めておられるだけの、今の桔梗さまには」

 

 「!!」

 

 「……違うとは、言わせませんよ」

 

 自身の顔をじっと見据える法正の言葉に、厳顔は何も反論できなかった。

 

 「桔梗様は、ご自身の罪を、誰かに否定してもらいたがっているだけです。……そうして、ただ逃げようとなさっているだけです。ご自身の責任から」

 

 「……責任」

 

 「そうです。……理由はどうあれ、一刀さまを、荊州勢を最初に受け入れることを決められたのは、桔梗様です。ならば、桔梗様には今という結果を全て、受け入れ、認める責任があります」

 

 「…………」

 

 盃の中の酒に映った自分の顔を見ながら、黙って法正の話を聞き続ける厳顔。

 

 「部屋に閉じこもり、夜中に一人で酒に逃げるなど、それこそ先主さまはお怒りになっておいででしょう」

 

 「……怒っておるか。今のわしを、梓は」

 

 「…………」

 

 コク、と。法正がうなずく。

 

 

 

 「それに、桔梗さまは大切なことをお忘れです」

 

 「?……大切なこと?」

 

 「……先主さまを裏切ったというなら、私も同罪です」

 

 「あ……」

 

 言われてようやく、厳顔は気づいた。罪人(つみびと)は、自分だけではないことに。

 

 「蒔も、早矢も、美音も、由も、焔耶も。蜀の将は皆そのことを判っております。判っているからこそ、皆、前を向いているのです。歩みを止めていないのです」

 

 「……」

 

 「目の前の光明に気づかず、闇に迷っておられるのは、桔梗さま、貴女お一人だけです」

 

 「目の前の光明……。御館さまか」

 

 「はい」

 

 故国への裏切りという罪悪感。その闇の中に法正たちが見出した光。

 

 それが、一刀なのであった。

 

 「だからこそ、私は一刀さまに真名を預けました。あの方は、まさしく光であると。それも、全てのものを優しく照らす、日輪であると、確信したからです」

 

 「……日輪、か」

 

 再び訪れる、沈黙の刻。

 

 どれほど刻がたったか。厳顔がゆっくりと、言葉をつむぎだす。

 

 「……後悔の念に囚われ、目先すら見えなくなっていた、か。……わしもまだまだじゃったな」

 

 「皆そうです。まだまだこれから、です」

 

 「ふ、ふふ」

 

 ふはははははは!

 

 それは、全てを吹っ切ったかのような、豪快な笑い声だった。

 

 そして、その翌日。

 

 

 

 「何をもたもたしておるか、焔耶!とっととついて来ぬか!」

 

 「は、はい!桔梗さま!」

 

 「ぐずぐずするでないぞ!やるべきことは山のようにあるからのぅ!」

 

 成都城の廊下に響く、豪快な笑い声。

 

 魏延を急かして警邏へと向かおうとする、厳顔の姿がそこにあった。

 

 「……どうやら、もう大丈夫みたいだね」

 

 「はい。今までが、らしくなかっただけですから」

 

 一刀の問いかけに、微笑を浮かべて答える法正。

 

 「そうですね。いわゆる、鬼の霍乱、というやつです」

 

 「……聞かれたら大変だよ、蒔さん」

 

 「あ。……あの、今のは桔梗さまには、是非ともご内密に……」

 

 「さ、どうしよっかな~♪」

 

 「と、桃香さま~」

 

 あはは、と。

 

 笑顔でそんなやり取りをする、一刀達。

 

 「……日輪は、人を照らす。猛き者、賢き者、愚かな者、その全てをあまねく照らし、闇を払う。影さえも、その光にて姿を消し去る。……世は無常。されど、愛は常に、世にあらん。その姿、日輪となりて」

 

 そう。

 

 そこには確かに、日輪が存在した。

 

 皆の中心で優しく輝く、一刀という、日輪が。

 

 

 

 <あとがき>

 

 で、最終拠点四回目ですが、

 

 「どうかしたの?(にこにこ)」

 

 「なんや、心配事でもあるん?(にこにこ)」

 

 ・・・・・・あの、君らこそどうかした?なんか、ぶっちゃけ不気味なんですが。

 

 「なんでもないですよ~。さ、解説解説」

 

 「せやせや。皆さん待ってはるで」

 

 ・・・じゃあ、気を取り直して、今回のお話。

 

 「今回は桔梗さんと朔耶さんですね」

 

 「しかも珍しく、綺麗に、どたばたなしやな」

 

 まあ、いつも同じネタだとあきられるかなー、と。

 

 「あ、作者。一つ言っときたいんだけど」

 

 なに?

 

 「朔耶さんの歌だけど、前回も前々回も、力入れて作った割には、反響がなかったね」

 

 う。

 

 「あ、輝里、そこは触れんといたほうがええで。本人結構気にしてるみたいやし」

 

 「それもそうね。今回こそ、反応があるといいね」

 

 ・・・いいもん、だ。すんすん。

 

 「あ、すねた」

 

 「ほっとこ。さて、次回は翠と蒲公英の話やったね」

 

 あ、はい。拠点シリーズは次がラストになりますよ。

 

 「あ、復活した。で、そのあと、いよいよ」

 

 本編が最終章に入ります。みなさん、もう少しだけ、お付き合いくださいね。

 

 「ではまた次回にて、お会いしましょう」

 

 「ほんならな~」

 

 では、最後にみんなで。

 

 『再見~!』

 

 

 (・・・・結局この二人、何で機嫌が良かったんだろ・・・?)

 


 
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