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少女の航跡 第1章「後世の旅人」3節「リベルタ・ドール」

ある少女の出会いから、大陸規模の内戦まで展開するファンタジー小説です。
ブラダマンテ達一行は、リベルタ・ドールの街にやってきて、王と謁見します。

2010-10-03 16:25:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:332   閲覧ユーザー数:294

 

 翌日、私達が《リベルタ・ドール》に着いたのは、日も暮れかかって来た頃であった。

 朝から馬を走らせ、山を登り、『セルティオン』との国境を渡り、山岳地帯の尾根を疾走し続

けた。

 『リキテインブルグ』がその国土の大半を平原で占められているのに対して、『セルティオン』

はそのほとんどを山岳地帯が占められている、平原から雰囲気は一変して、辺りは山だらけ

になった。高低差の激しい急な坂道が続き、私達は、登り坂を登り、下り坂を降り、それを繰り

返して行く。

 馬達はその地形に息を切らせていたが、私は迫って来るような山の景色を眺める事ができ

ていた、太陽の光に反射したりして、様々な色に輝く山々そしてそこに茂る木々を、私は馬に

跨がって走りながら見ていた、その山の間を自由に飛び交う鳥獣の姿も見える事ができ、その

姿に長い時間、心を奪われていた。

 走る道は、平原を走っていた時のように何も無い所を走るのではなく、ここにはちゃんと整備

された街道があった。時々すれ違う人も見掛けた。途中に幾つかの集落も見られた。何の変

哲もない、平凡そうで、平税な家々ばかりであった。ここまでは、今起こっている勢力同士の激

しい抗争など、何の影響も及ぼさないのだろう。

 その街道を延々、何時間も、ほとんど休み無しで走っていると、昇ったばかりだった太陽はや

がて最も高くなり、そしてだんだんとその色をオレンジ色へと変えて行き沈んできてしまった。

 オレンジ色の光が眩しいほどに差す頃、山の中の街道はだんだん開け、道幅が広くなって来

る。

 やがて街道の先に、山々の中でも一際高い山を、重厚そうな城壁が囲んでいる姿が見えた。

 その山はそれ自体が街になっていて、幾つもの屋根や煙突が見える、さらに、山頂には大き

な、そして高い塔を持つ城の姿もあった。それこそ、『セルティオン』の首都、《リベルタ・ドール》

の街、そしてその偉犬で、大きな城であった。

 夕日を背にして、オレンジ色に光輝くその姿は、大きく威厳がある。この街には大勢の人が

いて、生活を営なみ、とても栄えている、かの昔から長年築いてきた王国の首都、その迫力が

この姿にはあり、それがまるで迫ってくるかのようだ。私はこの姿を見る度にそれを感じる。

 私違と同じように、ここにやって来る人、そして出かけて行く人は多い。街道を通って『リキテ

インブルグ』まで抜けたり、別の都市へと行ったりするのだ。その中には商人が多い、二国間

は交易によって栄えている。色々なものが、常日頃から行き来している。私達のように、別の

目的の者もいるだろうが。

 ぶ厚い城門の表門、街道方面から望む門を抜けるとき、検閲が行われる、この門の中に入

ればほとんど城の中のような事もあって、ここでの警備は厳重であるが、門番が私達の顔、何

よりカテリーナの顔を覚えていたらしく、すぐに、私達は《リベルタ・ドール》の城へと通される事

になった。カテリーナはこの『セルティオン』でも、やはり有名人なのだ。

 《リベルタ・ドール城》は、この街がある山の山頂にある、山頂の頂きの上に築かれた城だ。

案内人に導かれて私違は、城下町を抜け、坂道を登り、さらに城の城門を抜け、そこへと至っ

た。

 さらに、何の疑いも受けることなく城の中へと通され、私達は王の間で、『セルティオン』の国

王と謁見する事になるのだった。

「ブラダマンテ・オーランドにロベルト・フォスターよ、よくぞ、戻って来られました…」

 『セルティオン』の国王、エドガー・セルティオン13世は、もう80に手が届くという人間のお爺

さんだった、白い白髪と、首の下まで伸びた白い顎ひげが目立つ人で、灰色がかったマントみ

たいなものとローブを羽織っている。彼は、日のよく差す王室で、数人の近衛兵に囲まれ、玉

座に座ったまま私達を迎えていた。

「そして、『フェティーネ騎士団』の団長、カテリーナ・フォルトゥーナ、急な用事だというのに、よ

く、はるばるここまで来て下さった、あなたの協力にはいつも感謝しております」

 エドガー王は、たくさんある深い雛のおかげで、その表情があまり見て取れない、少し微笑し

ても、表情を変えていないように見えた。いやむしろ、いつも微笑しているようにさえ見える。

「いえ…、国王陛下の願いを断るわけにはいきません。当然の事をしたまでです」

 と言うカテリーナ。彼女は少し嘘をついていたが、それは、さっきまでの私に対する物言いや

憩度とは違う。また再び、初めて会った時のように、騎士団長としての威厳で振る舞っていた。

「ブラダマンテ…、毎度の頼み事をこなしてくれて礼を言います。本来ならこう言った事は伝令

の者にやらすのが常。しかし、事が事であった、だから、君のように優秀な傭兵に頼んだので

す」

「いえ…、優秀だなんて……」

 国王に言われ、私は少し赤くなった。

「そして、ロベルト・フォスターとやら、あなたも彼女に同行してくださって礼を言う。この報酬は、

後程渡させよう」

 ロベルトの方は何も言わなかった、そして国王はカテリーナの方へと目を向けた。目を向け

たのかどうか、その深い雛で良く分からないのだが、少なくとも顔だけは彼女の方へと向いて

はいる。

「カテリーナよ、あなたを遠路はるばる呼んだのは他でもない、側近の者によれば、とても緊急

な事態が起きているらしくての……」

「緊急な…?」

 国王とカテリーナは話を先に進める.一国の王と、同盟国の騎士団長の話…、どうも込み入っ

た話になって行きそうなので、部外者であろう私は、

「あの…、私はこれで失礼します…」

 と言って引き下がろうとしたが、

「ブラダマンテ…、これは、あなたにも関係のある事。この場にいなさって結構だ」

 雛で覆われた国王の目線が私に向けられた。目はほとんど見えないが、今度は目線を感じ

る事ができた。

「とすると、『ディオクレアヌ』に関する事ですね?」

 カテリーナが言った、国王は微笑し、

「…、どうやら、既にご存じだったかな? カテリーナ」

「彼女から話を聞きましたので、それに陛下の、今の時世にここまで火急な用事となれば、そ

の事以外ありません」

 国王はうなずいた。

「うむ、そうじゃな」

 彼は玉座から立ち上がった、歳のせいか、その動きは少しぎこちなく、のっしりとした感じが

あった、白いローブが床まで垂れる。彼は立ち上がると、王室の窓の所まで歩いていった、そ

して、そこから望める《リベルタ・ドール》の風景に目をやった、日が暮れ、夕焼けに輝く山の城

塞都市の姿、この城から下へと広がる城下町の景色が、窓からずっと広がっている。

「これは、わしの側近が入手した情報じゃ。『ディオクレアヌ』の者達に関する噂は、実に色々と

広がっており、その中には、とても信湿性に欠けるものも多い、しかし、この情報は、真実だと

思って差支えなかろう。わしはそう思っておるし、裏付けとなる証拠も沢山あるのだ」

 国王は外の景色を見ながらそう言った。

「どのような情報ですか?」

 と、カテリーナ。

「『ディオクレアヌ』が何者かの協力を得たという情報です。何者かは分かっておらんが、確か

に彼の裏には糸を引いている者がおる。しかも、その者は、どうも亜人種達と通じておるらしい

のです」

 私もそうだったが、カテリーナもその言葉にははっとしたようだった。

「どうかなさいましたかな?」

 国王がカテリーナの方を向いた。

「実は、彼女違と会った時、私違騎士団がゴブリン達に襲われたのです。撃退しましたが。彼ら

は、『ディオクレアヌ草命軍』の紋章の付いた弓を持っていました、国王殿のおっしゃる事と、関

係があると思うのです」

 カテリーナは言った。

「関係があると恩って、間違いないですな」

 国王は断言した、

「しかし、襲ってきたのはゴブリンが30匹ほど、騎士団に対して差し向けられたのならば、かな

り無謀だったと思います」

 カテリーナの言う事に、国王は相槌を打ちながら答える。

「ゴブリンなどと契約をかわし、無理矢理に騎士団へと差し向ける事しかできないなど、とうに

『ディオクレアヌ』の軍は壕滅寸前だ、そうおっしゃしたいのかな? どうですかな? カテリー

ナ」

 私はカテリーナの顔をちらっと見た、彼女は真剣な顔をしていた。

「そういう事になる…、そういう事になりますが、私はそうは思えない…、まだ何かある気がす

る、これで終わりとは思えません…」

「そうじゃな」

 国王のその言い方は、カテリーナの言った事が、まさにその通りであった、見事な正解であ

るようを言い方だった。

「母親に似て、随分と察しが鋭いようですな、カテリーナよ」

 カテリーナの母親、有名な人だ。このエドガー王もよく知っているのだろう。

「そう、まさに、あなたの思っている通りです、『ディオクレアヌ』が壊滅状態などと言うのは見せ

かけに過ぎん、彼は力を蓄えておる。今はゴブリンで済むかもしれんがのう」

「まだ争いは続くと?」

 と、カテリーナが言う。

「そう。これは、優れた戦略家や、長年、わたしやあなたのように、国や諸外国を見据えてきた

者にしか分からんでしょう。別に、見た目でこうだとか分かるようなものでもありませんし、誰か

が教えてくれるようなものでもない。ただ単に『ディオクレアヌ』は苦し紛れに何者かと契約を結

び、亜人種の協力を得ているのかもしれない…、皆そう考えるであろう。だが、我々は感じる事

ができる。このただならぬ雰囲気。まさに、これから何かが起ころうとしている雰囲気を、あな

たも感じておられる事でしょう」

「あなたもそう感じていらっしゃる?」

「だから、カテリーナ。あなたを呼んだのです」

「しかし、それだけの事を言う為に、私をここにお呼びになったわけでは無いんでしょう?」

「うむ、その通り。あなたを呼び出した理由はこんな事だけではない、こんな事は、手紙で済む

事です」

『セルティオン』の王は、雛をほころばせながら答えるのだった。

「話して下さい」

「実は、この城の中にもこの辺りに住む亜人種と、通じておる者がおっての、その亜人種から

聞いた話によれば、閻もなくこの《リベルタ・ドール》に危機が訪れるという事です」

「危機…、ですか?」

 尋ねるカテリーナ。

「そう、危機ですよ。何か邪悪な存在が迫っているという事を聞いたと、その者は言っておりま

した。何でも、訪れる危機は、この『セルティオン』が建国して以来のものだそうで…」

「それで、私の力を借りたいという事ですか? という事は、その邪悪な存在というのは、やは

り『ディオクレアヌ』の軍…」

「さあ、そこの所は分からないそうですが、カテリーナ、いずれにしろ我々はあなたの協力を必

要としております、無理は言いませんが、是非協力して頂きたいのです。ついでに言うならば、

私は『ディオクレアヌ』が関わっていると確信していますがな」

 私はカテリーナの表情を伺った、

「国王陛下がそうおっしゃるのなら良いでしょう…、私もその事が関わるならば、ぜひ協力した

い身です」

 あっさりと、私が彼女の表情を読み取るよりも早く、カテリーナはそう答えた。

 そういえば、『ディオクレアヌ』軍との決戦に行った自分の騎士団が気になる様子を、騎士団

から別れてから、彼女はまるで見せていなかった。自分が長い間、騎士団から離れてしまって

も、心配をする必要はない、信頼をしている。そういう事らしかった。

 だから、この国にいる事ができるのだろうか。

「ありがとうカテリーナ、深く礼を申し上げます。それでは、詳しい話は直接、亜人種から聞いた

本人が話した方が良いでしょう…、入って来なさいフレアー」

 と、エドガー王は呼び掛けた。すると、部屋の奥の扉が開いた。

 一人の少女が入ってきた、いや、少女、なのだろうか、彼女は魔法使いの格好をしていた。

緑色の瞳を持ち、栗色の髪の頭に紫色のとんがり帽子をかぶり、同じような色の服を着てい

る。とても小柄に見えた、私よりも更に背が低い、これでは150センチもないだろう、人間だっ

たら11、2歳ぐらいの少女だ。

 しかし、彼女のこの格好…、そして宝石のような緑色の瞳は魔法使いという種族である証し

だ。純血の魔法使い種族は、大人になっても、子供のような体格のままであるという。大人と子

供の見分けがつかないのだ。だから彼女は、少女ではないかもしれない、

「彼女が、その話を聞いたという者です」

 魔法使いの女性は、私達の前に立つ、

「どうも、フレアー・コパフィールドです」

 そのフレアーという魔法使いは、随分と元気な声を出して自己紹介をした、まだ幼く、あどけ

ない少女のように。やはり彼女は見た目通り、まだ少女なのだろうか。

「フレアー、この方違を、お前が話を聞いた者違の所まで連れていってあげなさい」

「はーい、分かりました」

 その表情やしぐさ、あどけない顔立ちからも、やはりこの、フレアーという魔法使いは大人の

女性では無いのだろうか、それとも、大人なのにまだ子供らしさが残っているのだろうか。

「そうそう、城の客間を用意させておきます、あなた達は今日はこの城に泊まっていきなさい、

歓迎しますぞ…」

「あ、ありがとうございます」

 私は思わず大きな声でそう言ってしまった。城に泊めさせてもらうなんて久しぶりだったから

だ。

「ほほ…、良い良い。協力して貰ったのはわし達の方なのだからな」

 国王は笑いながら言っていた。

 私達は王のいる部屋を出た。

 フレアーと言う魔法使いは私達を先導し、どこかへと連れて行くようだ。この都市に危機が迫

っているという話を聞いた、亜人種のいる所へ案内してくれるのだろう。

 甲冑や、様々な武器が厳かに飾られ、赤い絨毯の敷かれた廊下を、私達は歩いていた。

「フレアー様ッ!」

 すると、男の声が背後から聞えてきたので、私達は振り返った。

 だが、そこには、声を出すような誰かはいなかった。少なくとも私の視界の中には。

「シルア? どうだった?」

 だが、フレアーは身を屈ませ、床の方を見て何か尋ねている。

 何と話しているのだろう? 私は彼女の目線の先を覗き込んだ。

「メリア様は、お会いになって下さるそうです。是非とも伝えたいと」

「うん。そう。分かったよ。ありがとね」

 するとそこには一匹の黒猫がいるではないか。その黒猫は、人が着るような衣服を、猫ほど

の大きさに直したものを身に着けていた。一見すると、風変わりな猫だった。

「紹介するね。あたしの使い魔のシルア。こう見えても礼儀正しいんだよ」

 フレアーに抱きかかえられて持ち上げられ、私と目線を合わせて来る猫。礼儀正しいという

のは、大人しい事かと思ったが。

「どうもお嬢様、はじめまして。フレアー様にお遣いしております。シルアという者です」

 私はその猫が喋った事で驚かされた。それも、低い大人の男の声だった。

「しゃ…、喋った…?」

「これは失礼。驚かさせてしまいましたか…」

「猫って言っても、使い魔だからねえ…。ちゃんと喋れるんだよ。今、ちょっとあたしの代わり

に、あなた達が会う人に話を付けてきてもらっていたの」

 と、フレアーが説明してくれるが、私は動揺を抑え切れなかった。喋る猫なんて、見た事が無

い。

「なあ…、あんたが話を聞いた亜人種達のいる所って、どこにいるんだ?」

 カテリーナが、そんなフレアーに尋ねた。彼女は、シルアという黒猫の言葉を聞いても驚かな

いのだろうか。

「城の庭に住んでいるんだよ。ところで、あなたあのカテリーナ・フォルトゥーナさんなんだよ

ね?」

 好意的を言葉遣いだった。

「そうだ」

「お会いできて光栄だなー、あたしこの歳で、まーだただの魔法使いだからさー、憧れちゃうな

ー」

 初対面の割には、やけになれなれしいフレアー。私にとって彼女は、自分よりもさらに歳が下

の少女にしか見えなかったが、この歳でなどと言っている、本当に彼女は一体何歳なのだろ

う。

「…、ブラダマンテ、あんた私の代わりにその亜人種達に会って、話を聞いてきてくれない

か?」

 カテリーナは突然話を変えた。

「え? い、いいけど…?」

 と私は答える。

「王から話を聞いて事情は大体分かった。細かい話まで聞く必要は、私には無いって事さ。

先に休んでいるよ」

 そっけなくカテリーナは言った。

「私もそうしよう」

 彼女の後ろにいるロベルトも同じ事を言う。

「そんな…、あんた達、大事な事を聞かなくていいの?」

 フレアーが少しいきり立つ。

「大事な事なら王からもう聞いたよ、どれだけ大事な事かは良く分かった。だからあんた達の国

に協力する、何の問題があるんだ? それに話ならそこにいるブラダマンテが聞いてきてくれ

る」

 カテリーナの口調は変わらない、フレアーは、

「でもさ」

 と、言うのだが、

「間違った事、言ったかい?」

 カテリーナは譲らなかった。

「うー。分かったよ。好きにして!」

 と、フレアー。

 何も答えずに、カテリーナとロベルトは、私違とは逆の方向に廊下を行ってしまうのだった。

 私には分かっていた。カテリーナは、さっきのフレアーのように、馴々しい態度を取られるの

が気に食わないようだ。

 


 
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