No.171686

真・恋姫無双~君を忘れない~ 六話

マスターさん

第六話の投稿です。
今回は紫苑と一刀をメインに書きました。少しずつですが、二人の心境に変化が現れます。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2010-09-11 00:42:56 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:17731   閲覧ユーザー数:14503

一刀視点

 

 桔梗さんたちと旅に出る前日、俺は紫苑さんから夜になったら、自分の部屋まで来るように言われた。

 

「紫苑さん、俺です。入りますよ」

 

 ノックして、紫苑さんの部屋に入った。紫苑さんは璃々ちゃんを寝付かせたところのようだ。部屋の中は、燭台の炎が一つ燃やされているだけだった。その炎の光が紫苑さんの顔を照らしていた。

 

 炎の色に染まりながら、璃々ちゃんを愛しそうに見つめるその表情は、まるで美術館に飾ってある絵画の中の女神であるかのようだった。

 

 俺は、紫苑さんが美しすぎて言葉を失った。慈悲深い表情の、紫苑さんの整った容姿は、単純に美しかった。

 

「あら……?」

 

 紫苑さんに見惚れていると、俺が扉のとこにいることに気づいたようだ。俺の方を見て、穏やかな微笑を向けてくれた。

 

「ごめんなさい。気付かなかったわ」

 

「い、いえ……。そ、それで何の用件でしょうか?」

 

 俺は動揺しているのを悟られないように、紫苑さんから顔を少し背けながら、用事を聞いた。燭台一つしか、灯りが点いてなくて良かった。俺、絶対顔が真っ赤だ。

 

「ええ……、ここじゃなんだし、場所を移さない?」

 

 俺は紫苑さんに連れられて、屋敷の屋根の上に上った。そこは人が二人分くらいなら、座れるスペースがあった。そこで少し待つように言って、紫苑さんは下に戻って行った。

 

 あたりは静かだった。微かに風に揺られて囁いている草木と、どこかで鳴いている虫の声しか聞こえなかった。心地よい風に身を委ねながら、ふと上空を見ると、そこには満点の星空が広がっていた。その真ん中に綺麗な満月が、世界を照らしていた。

 

「お待たせ」

 

 視線を元の位置に戻すと、紫苑さんがお盆を持って戻って来た。お盆の上には酒瓶が載せられていた。 紫苑さんが腰を下ろすのを待って、俺も腰を下ろした。

 

「乾杯」

 

「乾杯」

 

 俺たちは酒が注がれた盃を、カチンと鳴らして飲んだ。

 

「っ!」

 

 酒は俺の想像以上の強さだった。胃の中に酒が沁み渡るのがわかった。やばいな、これだけ強いとすぐに酔いそうだ。

 

 紫苑さんの方を見ると、彼女は平然と盃を重ねていた。でも、顔に出やすい方なのか、すでに顔はほんのり朱に染まっている。しかし、その表情はどこか複雑そうだった。

 

 遠くを見つめながら、盃を重ねる彼女は、今、何を思っているのだろうか?

 

紫苑視点

 

 夜になったら自分の部屋に来るように、一刀くんに伝えた。今になって思えば、どうしてそんなことを言ったのだろう。あの時の自分の気持ちが、不思議と思いだすことが出来なかった。

 

「お母さん、おやすみなさい」

 

 私は璃々を寝かせつけていた。最近は、一刀くんがよく璃々と遊んでくれる。そのおかげで、疲れてすぐに眠ってしまう。ちょっと前までは、中々眠ってくれず、苦労したものだ。すぐに寝息を立て始めた璃々の頭を優しく撫でながら、その穏やかな寝顔を見つめていた。

 

「あら……?」

 

扉の所で、一刀くんが黙ってこちらを見つめていることに気がついた。

 

「ごめんなさい。気付かなかったわ」

 

「い、いえ……。そ、それで何の用件でしょうか?」

 

 彼に微笑みを向けると、一刀くんは気まずそうに顔を背けてしまった。こんな夜に呼び出してしまって、迷惑だったかしら?

 

 一刀くんを連れて、私は屋敷の屋根に上った。そこは、私とあの人の思い出の場所。いつも二人で、ここでお酒を飲み明かしたもの。私はお酒を取りに、一度屋敷の中に入り、再び戻った。

 

「お待たせ」

 

 そう言って、一刀くんの顔を見ると、驚いてお盆を落としそうになった。空を見つめる姿は、あの人そのもの。

 

「乾杯」

 

「乾杯」

 

 二人でお酒を飲み始めた。一息で盃を空にして、そこから見える景色を眺めた。いつもは、桔梗や焔耶ちゃんと騒がしくお酒を飲んでいるから、こうやって静かにお酒を飲むのは久しぶりね。ここに上ってお酒を最後に飲んだのはいつだったかしら?

 

 無意識のうちに、いつもよりも速く盃を空けていた。どうして彼を呼びだしたのだろう?どうして彼をここに連れてきたのだろう?改めて考えてみた。しかし、自分の気持ちがわからなかった。 

 

 一刀くんの方をちらりと見た。彼の顔は少し赤くなっていた。そういえば、彼とお酒飲むのは初めてね。

 

 急に呼び出されてやっぱり迷惑よね。彼が何を考えているのか気になった。そして、再び空になった盃にお酒を注いだ。

 

一刀視点

 

 酒を飲み始めて少したったけど、俺たちは未だに一言も会話を交わしていなかった。紫苑さんが俺を呼び出したのは、二人で酒を飲むためだろうか?だったら、少しでも会話しないと気まずくなっちゃうな。

 

「紫苑さんとお酒を飲むのは初めてですね。」

 

 俺はとりあえず何かを話さなければならないと思い、思ったことを口に出してみた。

 

「そうね……」

 

「……」

 

「……」

 

 失敗した!クソぅ……、俺ってこういうシチュエーション苦手なんだよな。えーと、他に何か会話のネタになるようなものあるのかな?

 

「一刀くん?」

 

 俺が何を話せばよいか頭を悩ませていると、紫苑さんの方から、俺に話しかけてくれた、

 

「出発は明日よね?」

 

「え、ええ。そうですよ」

 

 紫苑さんは視線を先ほどと一緒、ここから見える景色からずらすことなく、答えが明らかな質問をした。

 

「今夜、あなたを呼び出したことなんだけど、ごめんなさい。特に何か用事があったわけではないの。………ただ、あなたとこうして話してみたかっただけ」

 

「あ、ああ。そういうことですか」

 

「ごめんなさい。迷惑だったでしょう。明日から桔梗との旅も始まるし」

 

「い、いえ!全然そんなことないですよ!紫苑さんとこうしてお酒を酌み交わせるなんて、とても光栄です!」

 

 俺はオーバーに手を顔の前で振って否定した。もちろん、彼女の言うような、迷惑なんてことは思ってもなかったが、そんなことよりも今日の紫苑さんはどこかおかしかった。声もいつもよりも小さいし、何だか、存在が希薄に感じられた。

 

「あのね。一刀くん、私と一つだけ約束して欲しいことがあるの」

 

「え?」

 

 彼女はそこで初めて俺の方を振り向いた。しかし、その表情にあったのは、いつもの穏やかな美しい微笑みではなく、何かとても悲しそうな、胸を締め付けるような表情だった。そして、彼女の眼には涙がきらめいていた。

 

紫苑視点

 

 

「紫苑さんとお酒を飲むのは初めてですね。」

 

「そうね……」

 

「……」

 

「……」

 

 私がぼんやり考えごとをしていると、一刀くんが沈黙を嫌がったのか、私に話しかけてきた。

いけない、ぼんやりしすぎて、彼の話をほとんど聞いていなかった。あぁ、あんなに取り乱しているわ。フフ……、こういう可愛らしいところも、本当にあの人にそっくりだわ。

 

 そこで私は自分の気持ちに気づいてしまった。私は、彼とあの人を重ねてしまっている。容姿だけでなく、優しいところやさり気ない気配り、少し子供っぽいところまで似ていた。

 

 そして、彼が桔梗と一緒に旅に出なくてはならないと聞いたとき、きっと私は、あの人が戦に出て行ったあのときのことを思い出してしまったのだろう。そう家を出てから二度と戻って来なかったあの人を……。

 

「一刀くん?出発は明日よね?」

 

「え、ええ。そうですよ」

 

「今夜、あなたを呼び出したことなんだけど、ごめんなさい。特に何か用事があったわけではないの。………ただ、あなたとこうして話してみたかっただけ」

 

「あ、ああ。そういうことですか」

 

「ごめんなさい。迷惑だったでしょう。明日から桔梗との旅も始まるし」

 

「い、いえ!全然そんなことないですよ!紫苑さんとこうしてお酒を酌み交わせるなんて、とても光栄です!」

 

 自然と口から言葉が紡ぎだされていた。どうしてかしら?胸が苦しい、悲しみが堰を斬った洪水のように、どこからか溢れだしてきているようだ。

 

「あのね。一刀くん、私と一つだけ約束して欲しいことがあるの」

 

「え?」

 

 彼の方を向くと、彼がひどく困惑したような表情をしている。あぁ、当たり前よね。私、今ひどい顔しているもの。この歳になって、涙なんて流してしまっているわ。

 

 ダメよ。今すぐ、涙を拭って、いつものように彼に微笑みなさい。彼を困らせてはいけない。これは私の問題ですもの。私が勝手に彼とあの人を重ね合わせているだけ。そう自分に言い聞かせたけれど、言う事を聞いてくれなかった。

 

「し、紫苑さん!!?」

 

 気が付いたら彼の胸に飛び込んできた。

 

 だから、ダメだって言ったのに。ほら、一刀くん、こんなに困っている。

 

 しかし、一方で私は一刀くんの匂いに安心していた。ほんのりとお酒の匂いが漂う一刀くんの匂いに。

 

一刀視点

 

「し、紫苑さん!!?」

 

 俺が驚きで身動きが出来なかった。あの紫苑さんが泣きながら、俺に抱きついて来たのだから。

 

「うぅ……っ、あぅ……ぐすっ……」

 

 紫苑さんは俺の胸でまだ涙を流し続けていた。これまで生きてきて、こんな状況に陥った経験のない俺は、どうすれば良いか困ってしまった。

 

 何か気のきいたセリフでも言えれば良いのだが、何て声を掛ければ良いのか全くわからなかった。とりあえず、彼女の背中に腕を回して、優しく撫でてあげる。

 

 すると、少しずつだけど、彼女も落ち着きを取り戻したようで、泣き声も小さくなっていった。

 

 彼女が落ち着きを取り戻したせいで、俺も冷静になった。よく考えれば、俺は今、紫苑さんを抱いている形になっている。かなりすごいシチュエーションだ。

 

 やばい……。心臓の音がはっきりと聞こえる。彼女にも聞こえたらまずいよなぁ。

 

「…………ごめんね」

 

 そんな心配をしていると、完全に泣き止んだ彼女が小さな声でそう呟いた。なぜか俺の心はズキリと痛みが走った。

 

「いえ」

 

 俺はぶっきらぼうにそう言うことしか出来なかった。彼女がどうして涙を流したのだろうか。気にはなったが、彼女が自分の口で語るまで、余計なことを言わない方が良いと思った。

 

「…………もう少し、このままで良いかしら?」

 

「はい。お、俺の胸なんかで良ければ、いくらでも」

 

 あぁ、我ながら何て下手糞なんだ。こんな恥ずかしいセリフ今まで言ったことないもんな。

 

 彼女からは大人っぽい、甘い匂いがした。お酒の匂いと混じり合って、何やら心臓がドキドキするような香だった。それに、紫苑さんの身体の柔らかさがはっきりと感じられた。特に彼女の胸が、薄い服越しに感じられ、少し手を動かせば、触れそうな位置にあった。

 

「ねぇ……」

 

「はい!!?何でしょう!!?」

 

 そんな不埒なことを考えていると、急に紫苑さんが声をかえた。驚きのあまりの声が裏返ってしまった。

 

「さっきの続きなんだけど……」

 

「続き……?」

 

「約束よ……」

 

「あぁ。はい。何でしょうか?」

 

 紫苑さんは相変わらず、俺の胸に顔を埋める体勢のままでいる。おかげで、彼女が言葉を発する度に、彼女の吐息が俺の胸をくすぐった。温かくて、俺はさらに心臓の音が速く、そして大きくなるのが聞こえた。

 

「…………絶対戻ってきて」

 

「え?」

 

「絶対ここに戻ってきて。そして、またあなたの元気な顔を私に見せて」

 

 一度目は小さくて聞き取れなかったが、二度目ははっきりとそう言った。どうして彼女がそんなことを言っているのか、わからなかった。もちろん旅に危険は付き物だ。しかし、桔梗さんや焔耶も一緒だし、これでも俺は多少の武の心得がある。それは焔耶との試合で証明した。そんな簡単にくたばるとは思わなかった。

 

「はい。約束します。必ず、紫苑さんの元に帰ってきますよ」

 

 でも俺は自然とそう言っていた。俺は無意識のうちに、顔を紫苑さんの頭に傾けていた。背中を撫でていた手も、紫苑さんの肩を強く抱いていた。

 

「必ずよ……」

 

「わかってます。約束します」

 

「ありがと……」

 

 そう言うと、紫苑さんはさらに俺に体重を預けてきた。重さは全く気にならなかった。彼女の胸の重さを除いては。俺たちはしばらくの間、その体勢のままでいた。どちらも何もしゃべらなかったが、心地よい沈黙であった。

 

 そして、紫苑さんとの約束は必ず守ると心に誓った。

 

紫苑視点

 

「はぁー」

 

 翌日、私は溜息を吐かざるを得なかった。どうして、あんなことをしてしまったのだろうか?そんなに酔っていたわけではなかった。むしろ酔いなど全くなかったと言って良い。

 

 あの後、私は彼に何度も謝った。彼を困らせてしまったのだもの、当然である。しかし、彼は笑顔で大丈夫だと言った。どうして私が泣いたのか、どうしてあんな約束をしたのか、その理由を全く聞いてこなかった。

 

 目を瞑ると、彼の温もりや匂いが鮮明に思い出せた。見た目や性格はあの人にそっくりだけど、匂いだけは違った。あの人とは違う匂いがした。どう違うのかはわからなかったが、あの人よりも安心感を与えてくれるような匂いだった。

 

「おはようございます、紫苑さん」

 

「!?……お、おはよう。一刀くん」

 

 不意に一刀くんから声を掛けられて私は驚いてしまった。そして、その動揺を悟られないように彼から少し顔を背けた。

 

 一刀くんはすでに旅の準備を終えていたようだ。準備と言っても、荷物は何もいらないと、桔梗から言われていたため、彼は腰に剣を佩いただけであったが。

 

「行ってきますね」

 

 彼は私に会釈すると、出口の方へ行ってしまった。そんなそっけない態度に、私はすぐに彼の後を追った。彼は靴を履いて、外に出ようとしていたところだった。

 

「紫苑さん、約束は守ります。必ず」

 

 振り向いて笑顔でそう言った。その時の姿が、またあの人に似ていて心が苦しくなった。でも、ここだけはダメ。自分に強く言い聞かせて、彼の眼を真直ぐ見つめた。そして、出来るだけ彼を安心させるような笑顔になった。

 

「ええ。行ってらっしゃい」

 

 私の笑顔を見て、安心したのか、嬉しそうな表情をして、一刀くんは出て行った。私は罪な女ね。彼とあの人を勝手に重ね合わせてしまい、彼に甘えてしまった。彼の気持ちなんて無視して。

 

 私は彼の後姿が見えなくなるまで、ずっと彼の背中を見つめ続けていた。

 

あとがき

 

第六話の投稿でした。

 

今回は、一刀が桔梗と旅立つ前日のお話。

 

紫苑は、自分が亡くなった旦那と一刀を重ねていることに気がつきました。

 

しかし、それはまだ、愛しているのは一刀ではなく、旦那の方。

 

彼女がいつ一刀を一人の男として愛するのでしょう。

 

また、一刀もまだ自分の気持ちに気が付いていません。

 

彼が自分の本音と向きあうのは、また別のお話で。

 

次回は、とうとう桔梗との旅の始まりです。

 

そこで一刀は何を見るのか。

 

そうして、そのとき何を思うのか。

 

オリジナルストーリー過ぎて、若干申し訳ないですが、

 

妄想力を駆使して頑張りたいと思います。

 

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。


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