No.171131

真・恋姫無双 EP.40 日向編

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
ひとときの平和。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2010-09-08 01:08:39 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5110   閲覧ユーザー数:4364

 机の上に積まれた書簡に手を伸ばし、桂花は次々と仕事を片付けてゆく。

 

「にゃあ!」

「にゃ、にゃー!」

「うにゃ……」

 

 バッターン、ガラガラガッシャーン!

 

「……っ! もうっ! 何やってんのよ、あんたたちはー!」

 

 持っていた筆を真っ二つに折り、部屋の中で自由気ままに暴れる三匹の猫に桂花は怒鳴った。

 実はミケ、トラ、シャムの三匹が桂花にとても懐いていたので、張遼に会いに出かけた一刀が置いていったのである。

 

「パッと行って、パッと帰ってくるからさ。頼むよ」

「嫌よ!」

「じゃあ、よろしくー」

「嫌って言ってるでしょ! ちょ、ちょっと離れなさい!」

 

 同じ匂いがするのか、三匹はまるで親に甘える子供のように桂花にまとわりついていた。最初は邪険にしていた桂花だったが、なんだかんだで面倒見が良かったのである。

 

「ミケ、そこは登ると危ないでしょ! トラ、足に墨が付いているじゃないの。もう、シャム。そんなところで寝たら汚れるわよ」

 

 仕事と三匹の世話に部屋の中を右往左往する桂花の様子に、城で働く侍女たちは「まるでお母さんね」と微笑ましく見守っていたという。

 

「にゃあ……」

「にゃん!」

「ふにゃぁ」

 

 元気に遊んでいた三匹は、散らかした部屋を片付ける桂花に甘えるように顔をすりつける。どうやらお腹を空かせたようだ。

 

「何かあるかしら……みんな、いらっしゃい」

 

 三匹を引き連れ、桂花は部屋を出た。

 

 

 台所からは、よい匂いが漂っていた。

 

「あ、桂花様」

 

 猫たちを引き連れた桂花が顔を覗かせると、テーブルで料理が出来るのを待つ季衣が気付いた。その声で、中華鍋を振っていた流琉も振り返って手を止めようとする。

 

「ああ、続けてちょうだい。この子たちのご飯をもらいに来ただけだから」

「すみません」

 

 三匹は匂いに誘われるように、料理を作る流琉の足元でちょろちょろと動き回った。

 

「邪魔しちゃダメよ……えっと、猫が食べられそうなものって、何かないかしら」

 

 ぶつぶつ言いながら桂花が棚を探っていると、遠慮がちに流琉が声を掛ける。

 

「あの、もしよろしければ何か作りますけれど……」

「そうね……時間は掛かるかしら?」

「お忙しいようでしたら、私たちでこの子たちを見てますよ?」

「いいの?」

「はい。訓練が終わって、この後は暇なので」

 

 少し考えた桂花は、流琉の好意に甘えることにした。三匹を残し、一人で部屋に戻って行く。

 

「それじゃ、一緒にご飯にしようね」

「にゃあ!」

 

 大喜びの三匹は並べられたお皿に飛びつくと、顔中を汚しながら夢中で食べ始めた。負けじと季衣も、いつも以上のスピードで食べ物をお腹の中に収めてゆく。

 

「もう、慌てなくてもいっぱいあるからね」

「にゃあ、にゃあ!」

「あっ、それはボクのだぞ!」

「にゃっ!」

「もう。季衣ったら、猫ちゃんたちと同じなんだから」

 

 料理を取り合う猫と季衣の姿に、流琉は呆れながらも笑みを漏らした。自分の料理をこれだけ夢中に食べてもらえれば、作った甲斐があるというものだ。確保した自分の分を取られないよう、流琉も食事を始めた。

 やがてお腹が膨れると、ぽかぽか陽気もあってか季衣と流琉は眠気に襲われる。椅子に深く腰掛けて、うつらうつらと船をこいだ。そんな時、ふと季衣が呟く。

 

「流琉……」

「んっ? なあに?」

「……こんなに笑ったの、久しぶりだね」

「……うん」

 

 二人が、三匹の猫たちがいなくなったことに気が付いたのは、それからしばらく後のことだった。

 

 

 久しぶりの休暇に、華琳はのんびりと読書を楽しんでいた。城の中庭にある大きな木の根元に腰掛け、通る風が心地よく頬を撫でていく。

 

「ふう……」

 

 疲れたように目を擦り、本から顔を上げた華琳は空を見上げる。

 

「今は、どの辺りかしらね……」

 

 ぽつりと呟いた華琳は、ふと、草むらの影に動くものを見つける。よろよろと、眠そうに歩いているのはミケ、トラ、シャムの三匹だった。

 

「あら、あなたたちは……」

 

 華琳は持っていた本を閉じ、そっと手を差し伸べる。

 

「こっちにいらっしゃい」

 

 寝ぼけ眼の三匹は、呼ばれるままに華琳のもとへ。そして抱き上げられて膝に乗せられた。柔らかく暖かい膝の上で、三匹はすぐに眠りに落ちてしまう。

 

「ふふふ……あなたたち、どことなく張三姉妹に似ているわね」

 

 張三姉妹も一刀と共には行かず、ここに残って留守番をしていた。華琳が三人に、兵士の慰問を頼んでいたためだった。

 

「利発そうな子に、元気が溢れている子、それに天然そうな子……」

 

 言いながら華琳は、一匹ずつ頭を撫でてゆく。そうしながら、何だか無性に腹が立ってきた。

 

「一刀は、ああゆう子たちが好きなのかしら……」

 

 胸の奥が、小さくうずく。どこか切なくて、でも暖かい。何かを待ちわびるこの気持ちは、初めて抱く感情を華琳に湧き上がらせる。

 

(悪くないわね)

 

 満足そうに頷いた華琳は、流れる雲に悪態を吐き、少しだけ目を閉じた。

 

 

 一仕事を終えた雪蓮は、静かな森の中でお酒を楽しんでいた。黄巾党との戦いの後、こうして静かにお酒を飲むことが多くなっていたのだ。

 

「探したぞ、雪蓮」

「あら、冥琳。どうしたの?」

 

 そう言いつつも、実は近付く気配ですでにわかっていた。冥琳は小さく笑って、雪蓮の隣に座る。

 

「ようやく、引き上げた書簡を調べ終えたわ」

「何かわかった?」

「ダメね。組織に繋がるものは何もない」

 

 がっかりしたように冥琳が言うと、悔しげに眉をひそめて雪蓮は杯の酒を飲み干す。

 

「人身売買はこれまでも行われていたけれど、ここまで大規模で組織だったものは初めてだわ」

「被害のほとんどが大陸の南方で起きてる。これって、舐められてるってことでしょ?」

「そうね……」

「今は袁術が統治しているけれど、ここは私たちの生まれ育った場所よ。人買いなんかに好き勝手させないわ」

 

 雪蓮の決意に、冥琳も頷く。

 

「蓮華様たちも動いていると報告があった。まずは情報収集が先決よ。一人で、突っ走らないでね?」

「わかってるわよ、もう」

 

 拗ねたように口を尖らせた雪蓮に、冥琳はどこか安堵するように笑う。

 

(昔のような、怒りに支配された暗い感情はないみたいね。いったい、誰のおかげかしら?)

 

 親友の血に潜む『狂戦士』を、いつも危ういと感じていた。だが黄巾党の戦いの後、どこか落ち着いている。冥琳は、雪蓮に良い影響を与えた人物の顔を思い浮かべ、少しだけ寂しげに微笑んだ。

 

 

 国境の見張り所を、一人の伝令が馬に乗って飛び出す。主君、曹操に、この大事を一刻も早く伝えなければならない。仲間が持ち帰った、大切な情報だった。

 

 袁紹の領地、河北四州を手中に収めた何進軍が南下。その数、100万――。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
48
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択