No.170708

ドキッ!?魏だらけ美壱大会!

DTKさん

ども~DTKです!

ギリギリの投稿です!
字数制限意外ときつかった><
気にせず書いたら12000超えてた^^;

続きを表示

2010-09-05 23:57:47 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8873   閲覧ユーザー数:7510

――夏

 

この夏は暑かった

大陸中を例を見ない猛暑が席巻していた

それは魏都・許でも例外ではなかった

 

 

 

 

 

「…暑いわ、一刀」

「あぁ、暑いなぁ…」

 

ここは玉座の間

俺は華琳に呼び出されていた

 

華琳の前だが、暑いので学ランは全開だ

一方、華琳は暑さに参ってはいるが、居住まいは正している

 

「ねぇ…天の知識で、この暑さをどうにかできないの?」

「ん~…そうは言ってもなぁ」

 

現代の暑さ対策といえばクーラーだけど…

真桜もクーラーを作るだけの技術はない

 

「残念だけど、技術的にはもう…」

「そう……」

「あとは水浴びするしかないんじゃないか?」

「水浴びねぇ…」

「そう言えば、まだ海で泳いだことはなかったなぁ~」

「海で泳ぐの?潮風はお肌に悪いし、髪のまとまりが悪くなるのよね…」

「でも砂浜とかはあるんだろ?」

「あるにはあるけど……」

「天の国では、夏のビーチといえば定番なんだよ」

「美、壱?…なるほど、海を舞台に美の一番を決める催しね?」

「ん…?いや待て華琳、なんか変な当て字しなかったか?ビーチってのは…」

「面白そうね……誰かある!」

 

「「はっ!」」「はい~…」

 

華琳の呼びかけに三軍師が現れた

 

「話は聞いていたわね?」

「はい~、天の美壱なる催し…砂浜で様々な競技を行い、美壱を決めるという…」

「暑さで将兵の間に鬱積が溜まっております。発散の場に最適かと」

「この催しを興行として公開にすれば、経済効果も期待されます」

 

三人は三者三様の反応を示す

 

「ってちょっと待て!ビーチの解釈悪化して…」

「ぅるさいわねぇ…ただでさえ暑くて気が立ってるんだから、せめて私の視界の端の隅で大人しくしててくれない?って言うか消えてなくなりなさいよ!つーか死ねば?」

「うぉ…」

 

桂花の罵詈雑言も暑さで磨きがかかっている

さしもの俺も言葉を失くした

 

「華琳さま!是非私めにこの企画を!必ずや素晴らしいものに…」

「何言ってるのよ!私の方がいいに決まってるでしょ!華琳さま、是非私に!」

「「華琳さま!」」

「あなたたちときたら……いいわ。一週間で案を提出なさい。良い方を採用するわ」

「「はっ!」」

「あれ~?華琳さまー。三日後には蜀訪問へ出立ですが~」

「そうだったわね。帰ってこられるかしら…」

 

と、華琳は顎に人差し指を当て、しばし思案する

 

「そうね…それじゃ風に任せるわ」

「「「えっ?」」」

「二人の案の取捨、それに告知まで、全て風に任せます。いいわね」

「はぁ~…私でよろしければー」

「華琳さま!それでは稟が有利に…」

「大丈夫よ、風なら公平に裁くわ。そうね、風?」

「それはもー」

「だそうよ?嫌なら春蘭か一刀に任せるけど?」

「それは…」「困ります…」

 

心底嫌そうだった

 

「なら、任せたわよ風」

「お任せあれ~」

 

そう言うと、華琳は執務室へ戻ってしまう

 

「稟、せいぜい恥ずかしくない位の案は出しなさいよね」

「それはこちらの科白です、桂花」

 

二人も二者二様に退室した

 

「時にお兄さん」

「ん?風、どうした?」

「聞きたいことがあるのですが~」

 

 

 

 

十日後……

城門前に大会の要綱が張り出された

 

 

 

 

 

『来る七月晦日に、天の催し「美壱大会」を行う

 

以下の三種目をもって予選とする

 

「美壱婦裸具(びいちふらっぐ)」

砂浜に立てられた牙門旗を獲った者を勝ちとする

武具などを用いた他者への妨害を許可する

 

「美壱半裸反(びいちぱらそる)」

規定の高さの棒を足以外を砂浜につかずに潜る競技である

より低位置の棒を潜った者の勝ちとする

 

「美壱作歌(びいちさっかー)」

砂浜の上で如何に良い歌を詠めるかを競うものである

数名の審判の判定で勝者を決す

 

三種目の勝者は以下の競技で対戦する

 

「美壱金帝首都(びいちこんてすと)」

真の美壱を観客からの投票によって決める

最多得票者に『美壱』としての栄誉が与えられる

 

なお副賞として、北郷一刀一年分を授与する

 

 

詳しい競技内容は別紙を参照とする…』

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

俺は桂花と稟と連れ立って、城門前に来ていた

 

「またえらく飛んだ大会に…」

「ってちょっと!私の案はどこいったのよ!?」

「私の案もありませんね…」

 

二人は怒りや戸惑いを見せる

そこへ…

 

「おやぁ~?どかしましたか?」

「ちょっと風!これは一体どういうこと!?」

「どうと言われましても~…二人の案を検討した所、私の案が最適と判断したまでで~」

「そんなことっ…」

 

「風の言う通りよ」

「華琳さまっ!」

「帰ってきてたのか」

「少し前にね」

 

そう言うと、華琳は三人に向き直る

 

「で、さっき三人の案に目を通したんだけど…稟、桂花

 美壱大会は天の行事よ。あなたたち、一刀に話を聞いたかしら?」

「「あっ…」」

「風の案には研究の跡が見て取れたわ。この三案ならば私も風の案を採用するわ」

「そんなぁ……」

 

実はあの後、風がビーチでどんなことをするか、とか聞いてきた

だから少し話したんだけど…

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからず。まず情報を制す…これは戦時でも治世でも同じよ。二人とも、少し驕りがあったのではなくて?」

「面目次第もございません…」

 

なんかすげぇ話してるんだけどさ……

 

 

 

そもそもビーチが違うっ!!

 

 

 

頭から華琳がビーチ勘違いするし!

風も風で!俺ちゃんと話したよね!?

なんでビーチパラソルがリンボーダンスになるの!

ていうか、副賞の俺一年分って何っ!?

 

 

 

 

そうこうしてると、他の娘たちも告知を見に来始めた

 

 

 

「なんや、賞品は隊長一年分やて」

「ということは、毎日お昼奢ってもらってもお釣りがくるの~♪」

「ちょっ!」

 

あいつら何をっ…つーか俺一年分って給料一年分!?

 

 

 

「隊長…一年分…」

 

「兄様を……一年も?」

 

「ねぇねぇちーちゃん!一刀一年分だって~」

「よ~し!私たちが獲得して、一年間付き人にしてやりましょう!」

「お~♪」

 

 

 

 

 

乙女たちの思惑は様々に…

 

 

 

大会の日を迎えるのだった

 

 

 

 

「やってまいりました!『ドキッ!?魏だらけ美壱大会!』

 己の知勇を結して美壱に輝くのは誰かっ!?

 実況は、荒んだ戦国の世に愛と真心を届ける、馬岱でーす!」

 

(ワーワー!)

 

「そして解説には、美しき華蝶!星姉さまー!」

「よろしく」

「さらにもうお一方。家督は妹に譲り悠々自適の雪蓮さまー!」

「こんにちわ~♪」

「っていうか!解説なのに酒盛り始めてるんですけど!?後でたんぽぽも混ぜてー!」

「ちょっと!私たちの紹介もしなさいよっ!」

「えっ?…あは、忘れてたー」

 

と、悪びれもなく蒲公英は頬を掻く

 

「えぇ~…北郷一刀には興味がない!己の案が潰された腹いせを偏った判定に込める!

 審判の桂花さんと稟さんで~す」

「どういう説明よっ?!」

「桂花、言うだけ無駄です…」

「くぅっ!」

 

「さらに今大会の副賞である北郷一刀さんにも、実況席にお越し頂いております」

「…ども」

「なお張三姉妹の技術提供により、実況席に声拡散機が

 舞台横に設置された大画面では、競技の様子を余す所なくお届け!

 そんな張三姉妹の新しいらいぶが決定!詳しくは次号ふぁん倶楽部広報誌にて」

「「うおおぉぉ!!」」

 

スポンサーになりCMも入れる張三姉妹

人和の手腕だな

 

 

「さぁ早速美壱大会を始めたいと思いま~す!」

 

 

 

 

「まずは美壱婦裸具!十里先(5km)の模造牙門旗を最初に掴んだ者の勝利!殺害以外の他者への妨害行為が可能で~す

 精強をよしとする曹魏だけあり最多の参加者です!それでは選手入場!」

 

エントリーは参加者13人中の7人

確かに多い

 

「「うおぉ~~!!」」

 

登場した皆の格好を見て会場に大声援が響く

 

「全員『美着尼』なる露出過多な天の水中着を着用!ポロリはあるのか!?」

 

準備しておいて良かった!

 

「注目は魏武の大剣、春蘭と神速の霞と思われますが、解説のお二方いかがでしょうか?」

「そうねぇ~春蘭は確かに強いけど…ねぇ?」

「二人の気性を考えると、開始直後に衝突しそうだが、はてさて?」

 

(ド~ン)

 

「今、開始の銅鑼が鳴りました!」

 

 

 

 

 

「どけどけ~!」

「オラオラ~!」

 

「やはり飛び出したのは春蘭と霞だ!」

 

「おう、えぇ威勢やな春蘭!どや?どっちが強いか決めよやないか!?」

「望むところだ!!いくぞっ!」

「「うおぉぉ~~!!」」

 

巻き上がる砂塵に、唸りを上げる剣戟

絡み合う二つの影は、風神と雷神のようだ

 

 

そんな中、それを避けるように旗へ向かう三つの影があった

 

 

「思ったとおりなの!」

「春蘭さまと姐さんなら、まぁ~こうなるわな」

「お二人とは正面から闘っては勝ち目はない…無念だが」

 

沙和、真桜、凪の三人だ

 

「隊長一年分を手に入れるためには、これしか…」

「わぁ~隊長を手に入れるだって~!」

「乙女やなぁ~」

「う、うるさいぞ!とにかく、三人の誰かが勝つしかないんだ。いくぞ、二人とも!」

「「おうっ!」」

 

旗まで三人を遮るものはない

このまま独走かと思われた、その時

 

「――っ!二人とも止まれ!」

「「えっ!?」」

 

(シュバババッ!)

 

三人の進路に、矢雨が降り注ぐ

鏃は間引いているが、まともに食らってはただでは済まなかった

 

「私たちを忘れてもらっては困るな」

 

矢の飛来した方から声がした

そこに見えた人物とは…

 

「まさか…二人が組んだやなんて…」

「秋蘭さま…流琉っ!」

「どうして?秋蘭さまは春蘭さまと一緒じゃなかったの!?」

「どうしても一刀が欲しいから力を貸してくれ、と言うのでな」

「しゅ、秋蘭さま!そ、それは内緒だって…」

 

赤面し慌てる流琉

 

「乙女はここにもおったか!」

「でもやるしかないの!二人をやっつければ、旗まで一直線なの!」

「しかし、前衛の流琉に後衛は秋蘭さま……堅いっ」

「と、とにかく!ここは通しませんよ!」

「行くぞ、流琉」

「はいっ!」

 

 

流琉には春蘭のような突進力はないが、その分動きは理知的

二人の調和は、夏侯姉妹のそれに勝るとも劣らないものだった

数に勝る三羽烏であるが、徐々に押され始めた

 

 

「マ、マズイで、これは…」

「か、勝てないのぉ~…」

「数ではこちらが上なんだっ…何とか勝てる方法を…」

「休む暇は、与えませんよっ!」

 

流琉は武器を三人に投げつける

三人はすんでの所で避け、伝磁葉々は三人の眼前に着弾する

と、ぶわっと大量の砂が三人を襲った

 

「うおっ!」

「ぺっ!ぺっ!…うぅ、砂が口に入ったのぉ~」

「…!そうだ、これならっ」

「なんや?えぇ案でも思いついたんか?」

「あぁ!二人とも耳を貸してくれ」

「分かったの」

 

三人は頭を寄せ合う

 

「…が…で…を…して…」

「なるほどなの~」

「まぁ…しゃあないか」

「なら二人とも、手はず通りに」

「「おうっ!」」

 

三人は凪・真桜・沙和の順に縦に並ぶ

 

「秋蘭さま……」

「うむ。気をつけろ、流琉」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

「あああぁぁっっ!」

 

凪は両手に氣を溜める

そして顔の前で腕を十字に組み、体勢を極限まで前傾し流琉に突進する

 

(シュッ、シュッ)

(キンッ、キンッ)

 

秋蘭が矢を放つが、体勢を低くした凪の接射面は僅か

その上、前面で十字に組まれた篭手に矢は弾かれる

 

「ちぃっ!」

 

凪は流琉の間合い一歩手前で二人に向かって氣弾を放つ

 

「この程度っ!」

 

流琉は武器で弾き、秋蘭は避ける

氣弾は二人に当たる事はなかった

しかしその対応で一瞬の隙が出来る

 

「真桜っ!」

「合点っ!」

 

凪の後ろから真桜が詰めていた

 

「いくでー!地竜螺旋撃っ!」

 

真桜は螺旋槍を砂浜に突き立てる

 

「うわっ!」

「くっ!」

 

流琉と秋蘭に大量の砂が降りかかる

如何な武人と言えど視界を奪われては隙も出来る

 

「今や沙和!」

「分かってるの~!」

 

その隙を二人は逃さない

 

「てりゃーー!」

「とーなのー!」

 

真桜は秋蘭へ

沙和は流琉へ武器を繰り出す

凡人ならばその一撃で決まりだが、秋蘭も流琉も一廉の武人

その一撃を武器で受け、鍔迫り合いに持ち込む

 

「残念ですけど、力比べなら私の方が上ですよ?」

「そんなことは…分かってるの」

「えっ?」

 

「ウチらの役目は二人を倒すことやない…ちょびっと足止めするだけや!」

「――しまった!」

 

秋蘭は慌てて凪を探すが、その姿はない

凪は既に遠く、旗の方に向かって走っていた

邪魔するものはない

そして…

 

「牙門旗は、この楽文謙が討ち取ったりー!!」

「「わぁぁぁぁ!!」」

 

凪の声に、会場に大きな歓声が沸く

 

 

…………

……

 

 

「はぅ…負けてしまいました」

「すまない…私が早く三人の意図に気付けば…」

「いえっ!秋蘭さまは悪くありません。私が…未熟でした…」

「安心するの、流琉ちゃん!」

「えっ?」

「凪が優勝したら隊長お裾分けしたるから。なっ、凪?」

「あ、あぁ…少しだけなら」

「ありがとうございます!」

「えぇって!隊長が一年あっても手ぇに余るわ」

「なのなの~!」

「「あっはっはっは……」」

 

 

 

随分な言われようだな……

 

 

 

 

「お次の競技は美壱半裸反!出場選手はこちら!

 まずは大陸一の超絶あいどる、天和ちゃん!」

「お姉ちゃん頑張っちゃう♪」

「お次は無敵の極小不沈娘、季衣っ!」

「負っけないぞー!」

「最後に文官唯一の出場者!寡黙な腹黒不思議ちゃん、風だー!」

「まぁ、否定はしませんが~」

 

テンションが上がり、蒲公英もまさに舌好調

 

「ここで美壱半裸反の規定を説明します

 この競技は規定の高さの棒を砂浜に足以外をつかずに潜る競技です

 今回は四尺(約120cm)から開始。試技は一人一回。失敗は許されません!

 一人になるまで棒の高さを五寸(約15cm)ずつ下げていきます」

 

まぁ、リンボーダンスだわな

 

「第一試技者、天和!」

 

ずずいと、リンボーダンス台(?)の前に進む天和

そういや天和って運動できるのか?

 

「ふっふ~ん♪一刀、私がこんなこと出来るのか~って思ってるでしょ?」

「ま、まぁな」

「お姉ちゃん、やれば出来る娘なんだか…らっ!」

 

 

「「おおぉ!!」」

 

 

観客の声援が会場を揺らす

 

無理もない!

 

天和の上体はしなやかに反り返り、頭が踵につく位にまで体を曲げた

すると天和の巨大な双丘が、これでもかっ!と主張された

 

「ど~お~?か~ずと~」

「あ、あぁ…スゴイな…」

 

主に胸の辺りが

 

「このままいけば、あんな棒楽勝だもん…っ」

 

(カランカラン)

 

「…………」

「「…………」」

「お~っと!天和選手、自慢の胸が棒に触れてしまった~!失格です!」

「えぇ~?これで終わりなの~!?」

「はい、失格で~す」

「うぅ~…ちーちゃ~ん!れんほーちゃ~ん!」

「わたし、今回は味方しないわよ」

「私も……」

「がーーんっ」

 

…………

張三姉妹の絆にちょっとヒビが入った

 

 

 

「さぁ、続いての試技者は季衣です!」

「ボクは天和ちゃんみたいなドジはしないもんね~」

 

……ドジるほどもないけどね

 

「はっ!」

 

季衣が反り返る

腹筋と背筋を使ったそれは、美しいアーチを描く

そして四尺の棒を簡単に潜り抜けた

 

「最後の試技者は風だー!」

「おぉーー」

 

かなり張り切ってるけど、風が運動してるところって見たことないような…

 

「お兄さん」

「ん?」

「今、風のこと、運動のうの字も出来ないこのちんくしゃがー、と思いましたね?」

「いや、そこまでは…」

「ふっふっふ~…風もやれば出来るんですよ~?」

 

そう言うと風は少し上体を後ろに反らし

 

「はぁ~っ」

 

気合を入れると

 

 

 

「よいしょっと」

 

 

 

 

 

屈んだ

 

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

 

 

……前に

 

 

 

 

 

そしてスルスルと棒を潜っていった

 

「って!いいのかあれ!?」

「審判のお二方いかがでしょうか?」

「別に問題ないわ。足以外ついてないんだし」

「半裸反の字面に囚われない、自由な発想かと」

「…えー」

 

いいのか、これ

ファンサービスまでして散った天和が少し不憫だ

 

 

 

正統派の季衣と前屈みの風は順調に駒を進め、勝負は二尺五寸までもつれ込んだ

 

「さぁ!前傾の風と後傾の季衣の勝負は遂に二尺五寸にまで至った!まずは季衣の試技です!」

「結構低いけど、まだまだいけるよ~!」

 

グッと体を反らし棒に近づく

が、僅かに棒に触れそうになる

 

「んしょ…もうちょっ、と!」

 

気合を入れてさらに反った、その時

 

(ザシュッ)

 

「…………」

「「…………」」

 

 

 

 

 

刺さった

 

 

 

 

 

砂に

 

 

 

 

 

季衣のおさげが

 

 

 

 

 

「え、あ…これは…えっと」

 

さしもの蒲公英もアクシデントに言葉が出ない

審判の二人に救援の視線を送る

 

「…残念ですが」

「失格ね」

「え~!なんでー!?」

「規定は、足以外をつかずに、ですから…」

「ぶー!」

 

二人の判定にむくれる季衣

おさげを解いてたらな…

 

「と言うことで、次の風選手は成功で勝利となります!」

「では、いきますよ~…よいしょっと」

 

風はお決まりの前傾姿勢

これはこれで、後ろからは相当際どいショットなんだよなぁ…

 

「ぬぅ~…これはなかなか…」

 

季衣より楽な姿勢の風だが、それでも苦戦している

つか、あれだけ前傾しても宝譿は落ちないのな

 

「あっ!頭が棒にぶつかる!」

 

(ハシッ!)

 

「――――!?」

「よいしょっ…ふぅ~、何とか抜けられましたー」

「風選手成功!風選手の勝利です!」

「「わああぁぁ……」」

 

風の勝利に会場が沸く

 

 

 

「なぁ…稟、桂花」

「はぁ…」「…なによ」

「風の頭が棒に触れそうになったとき…宝譿が棒を白羽取りした、よな?」

「「…………」」

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

見なかったことにした

 

 

 

 

 

 

「予選最後は美壱作歌~♪これはお題に沿って一刻で詩歌を作ってもらい、その優劣を競う競技で~す!

 出場者はこちら!まずは大陸一の扇動者!みんなの妹、地和ちゃん!」

「やっほ~みんなー!地和だよ~♪みんな、ちぃのこと応援してねー!」

「「ほわああぁぁ!!」」

 

…確かに№1アジテーターの名に恥じぬ煽りっぷりだな

 

「お次は張三姉妹最大の功労者、だけど一番地味!?とっても可愛い人和ちゃんで~す!」

「…………」

 

あれは怒ってる…怒ってるよ!

 

「最後に…あなたは出たらダメだろう!?曹魏の覇王、曹孟徳こと華琳さまー!」

「えっ!華琳も出るのか?」

「何よ、悪い?」

「いや、悪くはないけど…」

「以上の三名で競っていただきます!お題は『夏の海』です!

 この灼熱地獄にふさわしい詩歌を期待していま~す!では開始~!」

 

 

 

 

 

一刻後

 

 

 

 

 

「は~い、一刻経ちましたー!手を止めてくださ~い…ってか三人とも終わってるみたいですね

 では作品を提出してくださ~い!作品は舞台横の大画面に表示されます!」

 

ここぞとばかりに画面を活用する

 

「は~い、まずは地和ちゃんの作品から……?」

 

……?

 

会場の人の頭に?が浮かんだ

何故なら画面に映った紙には意味不明な文字が羅列してあった

 

「なんですか…これは?」

「私は知ってるわ。これは…地和語!」

「そうだよー♪ちぃが歌作るときは、これじゃなきゃ乗れないのよね~!で、内容だけど…」

「失格ね」

「えぇ、失格ですね」

「ちょっ…なんでよー!!」

「なんでじゃないわよ。私たちが読めないのにどう判断しろっていうのよ」

「審査以前の問題です」

「ふ~ん、そう…なら、ちぃにも考えがあるもんね。みんなー!こんな会場ぶっ…むぐぅ!」

「待て待てッ!」

 

俺は慌てて席を飛び出し、口を塞ぐ。

 

「むぅ!むう!!」

「言いたいことは色々あるだろうが、ここは引いてくれ!後で埋め合わせでもなんでもするから、なっ?」

 

本当でしょうね?と言う目に、俺は首を振る

それを見て地和は力を抜いた

 

「ふぅ…滅多な事はよしてくれよ、地和?」

「分かったわよ。それより、約束はしっかり守ってもらいますからね?」

「分かった分かった」

 

ぶつぶつ言いながらも、地和は退場してくれた

 

 

 

「お次は張三姉妹最後の砦!人和ちゃんの作品です!」

 

 

 

夏の浜辺を 二人で歩く

二つの影が 寄り添い並ぶ

大人のふりして 背伸びするけど

あなたの心に あと一寸足りない

 

熱い熱い日差しが あなたを照らす

熱い熱い瞳が あなたを射抜く

ねぇ 気付いて 私だけ見つめてよ

 

朱く朱く夕陽が 水平線に沈む

朱く朱く煌く あなたが眩しくて

 

あぁ 交わる視線

あぁ 近づく二人

あぁ 重なる二つの影

 

初めての口付けなの

 

 

 

「これはまた随分甘ったるい乙女な歌詞ですね~」

「い、いいでしょ!別に…」

 

人和が少し赤くなる

 

「これは…華琳さまと私の歌ね」

「か、華琳さまと私がく、口づ……ぶーっ!」

「いや、普通に男女の恋愛を書いたんだけど…」

「あぁ…華琳さま」

「ふがふが……」

 

 

 

(しばらくお待ちください)

 

 

 

「さて、審判も自我を取り戻した所で、最後の華琳さまの作品を見てみましょう!」

 

 

 

八月季夏

夏天我堕

不睡日続

今日苦多

 

我到海来

以観滄海

我的愛想

像廣大海

 

灼熱炎天

始終継続

眺水平線

日不結束

 

 

 

「こ、これは…?」

 

それは漢詩だった

蒲公英も面を食らっているが、俺もさっぱりだ

 

「夏と海、この二つの情緒を上手く表現できたはずよ」

「す…素晴らしいです!華琳さま!!」

「これは…むむ、情景を掻き立てる描写に、巧みに踏まれた韻……さすがは華琳さま」

 

どうやらすごいらしい

 

「え~っと……そ、それでは全ての作品が揃いましたので、判定を下してくだ…」

「「華琳さまです」」

「…っと、食い気味の判定でしたが、その判定の意義は?」

「完成度が華琳さまのものが上でした。しかし人和のも良い作品で甲乙つけ難しと…」

「いえ!男女の恋愛なんかを歌った歌より、華琳さまの詩の方が断然素晴らしかったわ!それはもう天と地の差ほども!!」

 

悦に入って語る桂花から、慌てて稟はマイクを取り上げる

 

「ちょ、ちょっと桂花…それ位にしておきなさい」

「なんでよ?」

「人和を貶めて華琳さまを立て過ぎれば、兵の大半を占める張三姉妹信望者を敵に回してしまうのですよ」

「あ……」

 

気付いたときには既に遅し

会場は怒りとも戸惑いとも、何とも言えない雰囲気に包まれていた

 

「と…とにかく、美壱作歌の勝者は華琳さまでーす!」

 

たんぽぽの勝ち名乗りにも、頭を抱えて嘆息する華琳であった

 

 

 

 

その後、優勝者を決めるための美壱魂帝首都は大波乱のうちに幕を閉じた……

 

 

 

 

 

 

 

……

…………

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま集計結果が届きました!……こ、これは!とんでもない結末となりました!!」

 

蒲公英が思わず立ち上がり、机に片足を立てて絶叫する

 

 

 

「華琳さま、凪、風の得票数は……同数!!全くの同数です!!!」

 

 

 

…………

 

 

 

「「「はぁっ!!?」」」

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

観客の投票なら、警備隊の一将である凪や、城内に詰めてる風より、華琳が優勢と見られていた

しかし、美壱作歌の裁定に一部兵士たちが反発

大量の票が馴染みのある凪へと流れた

また風は風で、猫と戯れる姿を見た町民の間で密かに人気が高まっているとか…

 

無記名投票と言うこともあり、華琳への票が凪と風に分散された

……と言うのが、集計をした雪蓮と星の見解だ

 

にしたって、何万と言う票数が全く同数と言うのは奇跡だ

本来審判の仕事であるのだが

「桂花と稟じゃ公平性に欠ける」

という雪蓮の意見で、解説陣が集票業務をこなした

 

一抹の疑惑は残るが、誰が勝つとかよりは角が立たない結果なのかな?

 

えっ、賞品はどうなったかって?

それは…

 

 

 

 

 

 

 

「隊長~こっちなのー!」

「お~う」

 

今日は北郷隊と一緒に、中庭でピクニック気分の昼食だ

 

「遅いでーウチもう腹ペコや~」

「悪い、ちょっと春蘭に絡まれてさ~」

「あ~…そらしゃーないわ」

「た、隊長」

「凪も悪かったな。待っただろ?」

「いえっ!自分は隊長と一緒にいられれば、それで満足ですから…」

 

真っ赤になって俯く凪

あぁ、可愛いなもう!

 

「ひゅ~ひゅ~凪ちゃ~ん」

「やんややんや。チューいってまえチュ~」

「なっ…ひ、昼間から何を言ってるんだお前らは!」

「昼間からってことは~?」

「夜ならえぇってことか~?」

「お前ら…」

 

ヴォンと音がして、目に見えて凪に氣が集まる

 

「ちょっ!凪ストッープ!!」

「はっ!」

「お前らも、凪をあまりからかうなよ」

「…スマン」「凪ちゃん、ゴメンなの~…」

 

と、そこへ

 

「は~い、出来ましたよー」

 

流琉がタイミングよく食事を持ってくる

 

「おぉ~良い匂いなの~」

「今日の献立は…」

 

大会中の宣言通り、流琉へ俺のお裾分けらしい

俺はひょいと一つ、唐揚げを口に頬張る

 

「うん、美味しい!ありがとな、流琉」

「いえ、私は兄様に食べてもらえるだけで幸せですから…」

「流琉…」

 

いい雰囲気が二人を包む

 

「おぉ…これは確かに美味しいですね~」

「うわっ!」

「ふ、風っ!一体いつの間に」

 

忽然と風が俺の膝の上に現れた

 

「ま、それはさておきー」

「おくなよ」

「今日は風がこれを使おうと思ったのにー」

 

ひらひらと風が見せるのは

 

『北郷一刀一日使用券』

 

十枚一組の回数券みたくなっている

これが賞品として360枚、それが華琳、風、凪に120枚ずつ手渡った

 

これをデートなどに使う、ということは稀で

女の子同士の間でシェアされることが多い

 

「なんや、美味そうなもん食べとるやないか」

「ズル~イ!流琉のご飯食べてるー」

 

ちなみに、張三姉妹には華琳から恩典として、券三十枚が下賜された

まとめて使って巡業に同行させるか、三人で10枚ずつ好きに使うかで揉めてるらしい

 

「あー!北郷貴様、こんな所におったか!」

「ふむ、昼食か。私たちもご相伴にあずかっていいか?」

 

 

 

まだ暑い日は続きそうだけど、秋になって、冬になって、また春が来て…

ずーっとこんな日が続けばいいな

 

と、俺は密かに思うのであった

なんてな?

 

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

 

 

 

「一刀ったら…毎日誰かとイチャイチャイチャイチャ……私が券を使う間がないじゃないっ!

 あんなに鼻の下を伸ばして……ふ、ふふふっ

 一刀を一日拘束する日がきたら、どうしてくれようかしら

 ふふ、ふふふふふ………」

 

 

 

 

 

今日も、魏は平和であった

 

 

 

 

 


 
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