No.170706

青空の下で ~続・深紅の呂旗~

瀬川和葉さん

す、滑り込み!!
前回と同じくギリギリになってしまいました。
生まれて初めて小説を書いたので、至らない点だらけであるとは思いますが、よろしければ読んでみてください。

萌将伝の『深紅の呂旗』をプレイして、思いついたネタを強引に夏と絡めてみました。

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2010-09-05 23:56:42 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5078   閲覧ユーザー数:4731

 

「あつーい!!何なのよこの暑さは!!」

 

 机に突っ伏しながら、張宝こと地和が不満をもらす。季節は夏真っ盛り。照りつける日差しはこの上なく強く、風も熱気を帯びており、都全体が熱気に包まれているようだった。そして、その暑さは、数え役満☆しすたぁずの事務所とて例外ではなかった。

 

「ねー人和。何とかしてよこの暑さ」

「何とか出来るならしてるわよ」

 

 机の向かい側で作業をしていた地和の妹、張梁こと人和は、姉の言葉に呆れながらも反論を返す。

 

「まったくこんな日に出かけるなんて、天和姉さんは何考えてるのかしら?」

「私に聞かれても……」

 

 地和の言うとおり室内には、彼女たちの姉張角こと天和の姿はなかった。

 

「天和姉さん、そこらへんで倒れてないかしら」

「姉さんが出掛けて一刻ぐらい。もうそろそろ帰ってくるんじゃないかしら?」

 

「たっだいま~」

 

 そんなふたりの二人の話を聞いていたかのようなタイミングで天和が帰ってきた。

 

「なんでそんなに元気なのよ。天和姉さんは暑くないの?」

「? 暑いけど、それがどうかしたの?」

 

 天和ののほほんとした答えに地和は大きなため息をつく。

 

「それより~聞いて聞いて~。さっき大通りで一刀に会ったんだけど…」

「一刀(さん)に!!」

 

 暑さにまいっていた二人だったが、姉の話に自分達の想い人の名前が出た途端詳しい話を聞こうと姉に詰め寄った。

 

「一刀が今日来るの?」

 

 姉の話が待ちきれないといった様子の地和は、期待いっぱいの表情で姉に問いかける。

 

「ううん。今日は一刀、お祭りの準備で忙しいんだって。それで今日一緒にいられない代わりに、浴衣っていう天の国のお祭り用の服をもらっちゃった」

「お祭り?なにそれ初耳なんだけど、人和知ってた?」

 

 一刀からの贈り物にはしゃぐ天和とは対照的に、事態が飲み込めていない地和は仕事が一段落してくつろぐ妹に問いかけた。

 

「地和姉さんは最近部屋に引きこもって板から知らないかもしれないけど、かなり大きなお祭りらしいわ。なんでも一刀の国のお祭りを参考にしているらしいわ」

 

 姉の問いかけに人和は普段と変わらない様子で淡々と答える。

 

「一刀の…ってことは天の国の…ってことよね。それで姉さんはお祭り用の衣装をもらったと…」

「うん。もちろん三人分あるよ」

 

 天和は浴衣が入っているらしい包みを持ち上げる。

 

「それならすぐ行きましょう!!お祭りの会場をちぃたち色に染め上げるんだから!!」

「お~!!」

 

 早くもテンションマックスの二人には、人和のまだお祭り始まっていないわよという言葉は耳に入っていないようであった。

 

 祭りの会場は三国の協力の下、大規模な設営がなされており、都中が祭りの熱気に満ち溢れていた。大通りを中心に屋台が並び、どの店にも人があふれていた。

 

 

「ねぇーちーちゃん、人和ちゃん、あれは何だろうね?」

「あれあれ!!あれなんかおいしそうよ」

「二人とも…はしゃぎすぎて、迷子になったりしないでね」

「「大丈夫、大丈夫」」

「まったく……」

 

 

 はしゃぐ二人の姉の姿にあきれつつも、人和自身も楽しくて仕方ないという様子を隠し切れていない。周りを見回せば見知った顔がちらほらと見受けられ、そのどれもが祭りを満喫している様子であった。

「ね~天和姉さん、人和、次はどこに……っ!!」

「ち~ちゃん? どうかしっ…!!」

 

「……」

 

 ふいに歩みを止めた二人の先には、赤髪の少女呂奉先の姿があった。

 

「……」

 

 彼女の手には、屋台で買ったであろう食べ物が大量に握られていた。その食べる姿は愛らしく、通り過ぎた後に振り返る者も少なくはなかった。しかし、姉妹の目には少女の愛らしい姿は映ってはいなかった。

 

 思い出されるのは三万を超える黄巾党の前に立ちはだかる少女の姿。そして、彼女によって引き起こされた惨劇。

 そう、それは戦いと呼べるものではなかった。たった一人の少女によって万を超える人間がなす術もなく倒されるなど、誰が想像するだろうか…。

 雨が降っていた。少女が予言した通りの赫い赫い雨が…。黄巾の徒によって黄色に染められていた大地は、その血潮によって赤く染まった。悪夢と表現することさえ生ぬるい光景を目の当たりにして、三人は死を覚悟した。それまでも命の危機に瀕した事もあったが、これほどまでに死を近くに感じた事はなかった。命からがら逃げ伸びた三人は、その光景を忘れることができなかった。蒼天にたなびく深紅の呂旗と鮮血で染め上げたような赫い赫い髪の少女の姿を……。

 張三姉妹が彼女と再び出会ったのは、三国が統一された後のことであった。

 

「こ、こんばんは、恋さん」

「私たちの事覚えてる?」

 

久方ぶりに話すということもあり、姉妹の言葉はどことなく緊張を含んでいた。

 

「覚えてる。張角に張宝、それに張梁」

「「「?」」」

 

 淡々と答える恋に対して、三姉妹は疑問符を浮かべた。すでに三姉妹と恋はお互いに真名を名乗りあった仲であり、当然の事として三姉妹は彼女の事を恋と呼んでいる。そのため自分たちも真名で呼ばれるであろうと思っていたため、彼女の呼び掛けに違和感を感じずにはいられなかった。

 

「…………ん」

 

 それまで黙っていた恋は、自分が持っていた食べ物の中から容器に入った食べ物を三姉妹に差し出した。

 

「「「これは?」」」

 

 三姉妹は思わず声をそろえて聞き返した。恋が差し出した食べ物は、見た事のない食べ物であり、またそれまで黙っていた恋が突然自分たちに食べ物を差し出した意図も汲み取る事が出来ず困惑するばかりだった。

 

「タコ焼き」

 

 どうやら差し出された食べ物の名前であることは理解できた。

 

「御主人様が教えてくれた。仲の良い同士で食べるものだって」

「そうなんだ。ありがとう」

「………」

 

 恋からタコ焼きを受け取った天和は、恋からの微かな視線を感じタコ焼きを食べようとした手を止めた。

 

「どうしたの、恋さん?」

「……恋」

「「「えっ?」」」

 

 急に発せられた言葉に思わず聞き返してしまう。

 

「真名……恋」

「うん知ってるよ。前教えてもらったよ」

 

 やはり忘れられていたのだろうかと三姉妹はお互いに顔を見合わせた。しかし、続いて発せられた恋の言葉に三人は言葉を失った。

「前教えた時は三人とも恋を怖がってた。あんなことがあったから……」

 

 そう確かに四人は真名を名乗りあった。しかし、三姉妹は目の前の少女とあの日の呂布が重なり、真名を名乗ったことも曖昧だった。そんな彼女たちの考えは恋にも、いや恋だからこそ三人が自分を恐れていることを敏感に感じ取っていたのだろう。

 ならなぜ彼女は自分たちにタコ焼きを差し出したのか、天和は自分自身に問いかける。そして…

 

「それじゃあ、はい」

 

 恋の話を聞いていた天和は恋にもらったタコ焼きの容器を恋に差し出した。

「……?」

 

 どういった意図で差し出されたかわからず、恋は首をかしげる。

 

「一緒に食べよう。仲の良い同士で食べるんだよね」

「……良いの?」

「もちろんだよ。だって私たちも恋さんと仲良くなりたいって思ってたの。恋さんも私たちと仲良くなりたいって思ったから、私たちにこれをくれたんだよね?」

 

 これ以上ないというくらいの笑顔で差し出す天和に後押しされたのか、おずおずといった様子ながらも恋はタコ焼きを口にした。

 

「……おいしい。ありがとう天和、地和、人和」

 

 始めて恋から真名を呼ばれ三人で視線を交わし、三人同時に恋に駆け寄った。

 

「まだまだこれだけじゃ済まさないわよ。恋、次はあれ。あの雲みたいな食べ物買いに行きましょ」

 

 恋の手を取り、綿あめ屋の屋台を指差す地和。地和の強引な行動に恋は姉である天和の顔をうかがう。

 

「行こ、恋さん。目指すは全店制覇だよ」

「……うん」

 

 三姉妹に連れられる恋の表情は、三姉妹からあの日の恋を消し去るに十分な優しさと愛らしさであった。

 

 

 

 祭りから数日後、都は相変わらずの熱気に包まれていた。

 

「まったくここ数日の暑さの空気の読めなさといったら、うちのヘボ君主並みなのです」

「……あつい」

「れ、恋殿、御気を確かに。こらぁー太陽!!少しは程度を弁えろです!!」

 

 あまりの暑さにねねのいただちは、最高潮に達しているようだ。そんななか来客を知らせるノックの音が部屋に響く。

 

「暑いのにねねは元気ねぇ」

「こんにちは。ねねちゃん、恋さん」

「…地和、人和」

「私もいるよ」

 珍しいお客に恋もねねもあっけにとられている様子である。そんな様子の二人をあらかじめ予想していたのか、地和が要件を伝える。

 

「朱里と雛里に聞いたんだけど、カキ氷って言う冷たくて甘い食べ物の屋台が出てるんですって。こんなに毎日暑かったらやってらんないわよね。だから恋とねねも一緒に食べに行かない?」

「冷たくて…」

「甘い…」

 

 地和のいうカキ氷とやらの説明に、暑さでまいっていた二人は早くもよだれをたらしそうな様子になっていた。

 

「行く気満々みたいね。……ということで、いざカキ氷屋へ……出発!!」

「「「「お~!!」」」」

 

 五人はまるで十年来の知り合いのように視線を交わし合い、話題のカキ氷屋へ走り出した。

 かつて黄天の世を願う姉妹がいた。黄天の世、それは彼女たちの歌で大陸を席巻するという夢のような時、夢のような場所。現に彼女たちには、その願いを実現させるだけの力、可能性は存在した。彼女たちの手に渡った仙人の手によって書かれたとも言われる書物は、多くの人々を虜にし、やがてその力は正規の軍と伍するほどにまでに至った。しかし、その願いは一本の深紅の旗の前に挫かれ、今一歩というところで叶うことはなかった。

 

 かつて蒼天の下、戦う少女がいた。少女には掲げるべき大義もなく、蒼天を仰ぐことにも意味はなかった。彼女にとっての戦う理由は、拠り所たる家族そして友と平和に暮らす事だけだった。彼女は、彼女にとって大切なものを守るため戦った。たとえそれが万を超える黄巾の徒であったとしても……。しかし、歴史の流れは反董卓連合という形で、少女の大切な人たちと平和に暮らしたいという小さな願いさえも押し流そうとしていた。

 

 

 

 少女たちの願いが潰えようとするその時、彼女たちに一人の男が手を差し伸べた。その男はどこにでもいるようなごく普通の男だった。しかし、男の人を引き付ける力はやがて魏、呉、蜀の三国を統一するまでに至った。

 そこは、黄天でもそれまでの蒼天でもない世界。しかし、その世界は姉妹が望んでいたような自分たちの歌で人々を幸せにできる世界だった。そして、少女が望んでいたような大切な人々と幸せに暮らせる平和な世界でもあった。

 

 異なる立場の少女たちの望んだ、しかし、根本的には同じ平和な世界がこの青空の下には確かに存在していた。

 

 

 
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