No.170150

真・恋姫✝無双 悠久の追憶・第十五話 ~~新たな仲間は痛みと共に?~~

jesさん

十五話目です。 
今回は、前回ちらっとだけ登場したオリキャラの正体が明らかになりますww
最後まで読んでやってくださいノシ

2010-09-03 22:22:00 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:2657   閲覧ユーザー数:2317

第十五話 ~~新たな仲間は痛みと共に?~~

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 「テメェ、もういっぺん言ってみろ!」

 

 「!っ・・・・・」

 

男の再びの怒声に、少女の姿に見とれていた一刀は“はっ”と我に返った。

 

そしてもう一度状況を良く見てみるが、やはりあの白い少女が一人で三人の男と言い争っているらしい。

 

 「まぁ落ち着け。 おい嬢ちゃん、もう一度だけ言うぞ? 大人しく頭を下げりゃあ許してやる。」

 

怒鳴った男を手で制して、隣に立っていた男が少女を見ながら言った。

 

だが対する少女はそんな男を見上げながら、その白い眉を“キリッ”とつり上げた。

 

 「はぁ? 何で私が頭下げなきゃなんないんだよ!? ぶつかってきたのはそっちじゃんかっ!」

 

 

 「・・・・・・・・・・」

 

少女の予想外の迫力に、様子を見ていた一刀はあっけにとられた。

 

大人しそうな外見とは裏腹に、どうやらけっこう攻撃的な性格らしい。

 

・・・まぁそうでなければ、男三人を相手にケンカしたりはしない。

 

 

 「この小娘ぇ・・・人の服を汚しといて謝りもしねぇとはどういうこった!?」

 

少女の発言に、今までの二人とは違う男が前に出た。

 

その男の服には、何かのタレのようなものがベットリと付いている。

 

 「そんなの知らないよ! こっちはアンタたちのせいで、せっかくのお団子落としちゃったんだらね!? アンタたちこそ謝りなさいよっ!」

 

 「このガキッ・・・いつまでも調子に乗りやがって!」

 

一人の男が顔を真っ赤にして、拳を振り上げた。

 

 「待て!」

 

 「あん?」

 

 「!?」

 

 

男が拳を振りおろそうとした瞬間、一刀は声を上げ男たちへと歩み寄った。

 

男たちだけでなく、少女も突然現れた一刀の方を振りかえった。

 

 「理由はよく知らないけど、いくらなんでも男三人で女の子一人を相手にするなんて、ちょっと卑怯なんじゃないか?」

 

 「ちょ、ちょっとキミ・・・?」

 

男たちの前に立つ一刀を、少女は不安そうに見つめている。

 

 「何だテメェ? 関係ねぇ奴は引っ込んでろ!」

 

 「悪いけどそうもいかないさ。 これでもこの街を守らなきゃいけない立場なんでね。」

 

 「ほぉ~、おもしれぇ・・・お前、この街の警備兵か何かかよ?」

 

男は“ポキポキ”と拳を鳴らし、一刀を睨みつける。

 

 「ねぇキミ、やめときなって。 私なら大丈夫だから。」

 

 「平気平気、なんとかなるさ。」

 

後ろから声をかけて来た少女に笑って答え、もう一度男たちへと向き直る。

 

剣を持った賊に比べれば、素手の相手三人くらいかわいいものだ。

 

それに愛紗たちといくつかの戦いを経験して、少しは強くなった・・・・と思っていたのだが。

 

 

 

 「オラァ!」

 

 “バキッ!”

 

 「ぐはっ!」

 

 “ドサッ”

 

 

 

・・・・全然だめだった。

 

三人どころか、一人相手に一発で殴り倒される始末。

 

 

 「あっちゃ~・・・・」

 

それを見ていた少女は、だから言ったのにとでも言いたそうな顔で目を覆っている。

 

 「くっそ・・・・」

 

倒れたまま、痛みの残る頬に手を当てる。

 

冷静に考えれば、いくら戦いを経験したと言っても一刀自身が戦ったわけではないのだから強くなっているはずもない。

 

残された手段として一応緋弦(ひげん)は持ってきているが、さすがに素手の相手に真剣を抜いてしまったらこっちが悪者だ。

 

だいいち、まだ振るのが精いっぱいでとても扱うことはできない。

 

 「はっはっは。 何だこいつ、全然弱えーじゃねぇか。」

 

 「戦えもしねぇのにしゃしゃり出てくんじゃねぇよ!」

 

男たちは倒れた一刀を見下ろして、大声で笑い出した。

 

 「はぁ~・・・まったく、しょうがないなぁ。」

 

そんな男たちの前に、少女はため息混じりに歩み出た。

 

 「あ? なんだガキ、次はお前がやるってのか?」

 

 「ん~、まぁこの人巻き込んじゃったの私のせいっぽいし・・・そろそろアンタたちの相手もうんざりだし。」

 

 「んだとテメェ!? 女だからってもう容赦しねぇぞっ!」

 

男の一人が再び少女に殴りかかった。

 

それを止める者は、もう周りには誰もいない。

 

 「はぁ~・・・・」

 

だが少女は呆れたようにため息を吐いて・・・・

 

 “バキッ ドガッ ドゴッ”

 

 

 

 「・・・・へ?」

 

ようやく顔を上げた一刀が見たのは、地面に倒れている男たちの姿だった。

 

 「まったく・・・弱いのはアンタらも一緒でしょーが。」

 

“パンパン”と両手を払って、少女は男たちを見下ろしている。

 

 

 「あ、あはは・・・・(強え~~・・・・)」

 

予想外の光景に、一刀は苦笑するしかなかった。

 

これで、この少女が二本もの槍を背負っている理由が分かった。

 

この少女も愛紗たちと同じ・・・恐らく歴史に名を残す武将なのだろう。

 

 「・・・あ。 ねぇキミ、大丈夫?」

 

 「え? あ、あぁ・・・・」

 

一刀は少女の声に戸惑いながらも返事をして、ゆっくりと立ち上がった。

 

 「だからほっといていいって言ったのに・・・ま、さっさと片付けなかった私も悪かったけどさ。」

 

 「そうはいかないよ。 女の子が絡まれてるのを見つけちゃあね・・・」

 

 「・・・キミね、そーゆーことはもう少し強くなってから言いなさい。」

 

 「あはは・・・・面目ない。」

 

少女の言葉に少し恥ずかしくなって、“ガリガリ”と頭をかく。

 

 「・・・すいません、通してくださ~い!」

 

 「ご主人様ぁ~!」

 

 「?」

 

すると、いまだに散っていなかった後ろの人だかりの中から、聞き覚えのある声がした。

 

 「ぷはっ・・・・あー、やっぱりここにいた。 ご主人様、何してるんですか!」

 

 「朱里、雛里・・・・」

 

 「・・・本屋を出たらご主人様が居らっしゃらなかったので・・・・心配しましたよ?」

 

 「あぁ、ごめんごめん。 ちょっと騒ぎがあったからさ・・・」

 

 「あ・・・ご主人様、口から血が・・・・」

 

 「え?」

 

朱里の言葉で口の端に指で触れると、確かに少し血がついていた。

 

 「あぁ、さっき殴られた時に切ったのかな? 大丈夫だよ、もうそんなに痛くないし。」

 

 「ダメです! ほら、お拭きしますからしゃがんでくださいっ!」

 

 「あはは、はいはい。」

 

 

まるで小さな子供を叱るような朱里の口調に苦笑しながら、おとなしくその場にしゃがんで手ぬぐいで口を拭かれる。

 

 「あう・・・今日のご主人様は怪我されてばかりです。」

 

 「はは、本当だね。」

 

 「もぉ~、笑い事じゃないですよぉ。」

 

二人は本当に、自分の事を心配してくれているのだ。

 

そう思うと嬉しくて、不思議と傷の痛みもひいていく気がした。

 

 

 

 「・・・せんせい?」

 

 「?」

 

 「へ?」

 

突然、一刀の後ろに立っていたあの少女が小さく呟いた。

 

かと思うと、次の瞬間少女は一刀たちに向かって駆けだした。

 

正確に言うと、一刀の向こうに立っている人物に向かって。

 

 「朱里先生ーーっ!!」

 

 “ガバッ”

 

 「ひゃわっ!?」

 

 「なっ、何だ!?」

 

少女はスピードを緩めないままダイブして、朱里に思いきり抱きついた。

 

当の朱里は、自分よりも大きな少女に抱きつかれてふらついている。

 

 「朱里先生~、会いたかったよ~♪」

 

 「えっと・・・・・もしかして、雪(ゆき)ちゃんですか!?」

 

抱きついた少女の顔を見た朱里が声を上げた。

 

 「朱里、そのコと知り合いなのか?」

 

 「えぇっと、はい・・・・あの・・・」――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「馬謖ぅ!?」

 

話を始めるなり白い少女の名を聞いた一刀は、周りへの迷惑も考えず驚きの声を上げた。

 

『とりあえず、ここは人目に付きますので・・・』という朱里の提案で、一刀たちは近くの店に入っていた。

 

驚く一刀に対して目の前に座る少女はとくに反応するでもなく、笑顔を浮かべている。

 

 「そっ。 馬謖幼常(ばしょく ようじょう)。 よろしくね、天の御遣いさん♪」

 

 「あ、あぁ・・・(なるほど、道理で強いはずだよ。)」

 

馬謖幼常――――――――

 

正史では兄の馬良(ばりょう)と共に劉備に仕え、その劉備亡き後も蜀の将として活躍し続けた勇将だ。

 

その才能はあの諸葛孔明に高く評価され、絶対の信頼を置かれていたという。

 

 「あ、なんなら真名も欲しい? 真名はね、雪(ゆき)ってゆーの。」

 

 「え?・・・いいのか?」

 

 「ゆ、雪ちゃん!? そんなに簡単に真名を教えちゃだめだよー!」

 

 「別にいーじゃん。 朱里先生たちも教えてるんだし・・・・それに私、真名とか別にどーでもいいし。」

 

 「もぉ~、またそんな事言ってぇ~・・・」

 

 「あはは・・・まぁ、いいって言うんならありがたく呼ばせてもらうけどさ。 それで、雪?・・・・は朱里と雛里とはどういう関係なんだ?」

 

 「ああ、私は昔、朱里先生たちと同じ水鏡塾で暮らしてた事があってさ。」

 

 「はい。 そこでたまに雪ちゃんの勉強をみていたのが私というわけでして・・・」

 

 「なるほど、それで先生って呼んでるのか。 じゃあ、雪も二人みたいに頭が良いんだ?」

 

 「ん~ん、全然。」

 

 「え?」

 

真顔で首を振る雪に、一刀は“ポカン”と口を開けた。

 

確かに馬謖は文官ではないが、孔明と軍略を論じる事を好む知を持った武将だったはず。

 

 「だってさ~、朱里先生や雛里ちゃんの言ってることって難しくてついていけないんだもん。

槍持って戦ってる方がずっと楽だよ。」

 

 「・・・昔からこの調子なんです。」

 

笑顔で言い切る雪を見ながら、朱里は少しあきれ顔だ。

 

どうやら雪が正史の馬謖と同じなのは武勇だけらしかった。

 

 

 「あはは・・・あれ? そういえば、朱里は先生なのに雛里は何でちゃん付けなんだ?」

 

 「・・・それは、雪ちゃんが水鏡塾に居たのは私より先だったからです・・・・ですから、順序としては私より雪ちゃんの方が先輩なんですよ。」

 

 「そーゆうこと・・・て言っても、雛里ちゃんにもさんざん勉強教わったけどね。」

 

そう言って、雪はおかしそうに笑う。

 

彼女達の中にも、ちょっとした上下関係みたいなものがあるらしい。

 

そんな事を思いながら自分の前に座る雪の笑顔を見ていた一刀は、彼女の白い眉毛を見ながらふと一つの疑問が頭をよぎった。

 

 「・・・白眉(はくび)って、確か馬良のはずじゃ・・・・」

 

 「ん? なんか言った?」

 

 「あぁ、いや・・・何でもないよ。」

 

『白眉』とは、兄弟や多くの人々の中で特に優れた人物を指す言葉で、その語源となったのは馬謖の兄である馬良だったはず。

 

しかし雪を見る限り、この世界ではそういう訳ではないらしい。

 

そもそも、この世界に馬良自体がいない可能性もある。

 

 「いや~、でもまさか天の御遣いがあんなに弱っちぃとはねぇ~。」

 

 「う゛・・・」

 

せっかく忘れかけていたのに、嫌なことを思い出してしまった。

 

あれは今考えても顔を覆いたくなるほどの醜態だ。

 

 「ゆ、雪ちゃん・・・・ご主人様に失礼だよ。」

 

 「そうだよ。 ご主人様は弱くても立派な方なんだからそれでいいの!」

 

 「あはは・・・(フォローになってないぞ朱里・・・)」

 

自分が弱いことなど百も千も承知だが、朱里にここまで言われるとさすがにへこむ。

 

『もっとしっかり鍛錬をしよう。』そう心の中で誓った一刀だった。 

 

 「そうだ、雪ちゃん・・・どうして急にこの街に来たの?」

 

 「ん?」

 

 「そうだよ、確か塾を出てからは『世界を見て回るんだーっ』って旅をしてたはずでしょ?」

 

 

不意の質問に、雪は朱里と雛里を交互に見やった。

 

確かに、それは一刀としても気になっていたところだ。

 

朱里を見た時の彼女の様子からして、ただの偶然とは思えない。

 

ひょっとしたら、前回の翠とたんぽぽの時のようにまた戦いの危険もあるかもしれないのだ。

 

 

しかしそんな一刀の心配をよそに、雪は笑顔で言った。

 

 「あ~、まぁそうなんだけど・・・そろそろ一人で旅するのにも飽きちゃってさ。 そしたら丁度この街を治めてる劉備様と天の御遣いの噂を聞いたんだ。 それで朱里先生と雛里ちゃんが劉備様に仕えてるのを思い出して、私も仲間に入れてもらおうかな~って」

 

 「仲間にって・・・俺たちと一緒に戦ってくれるってことか?」

 

 「うん。 だからこれからは朱里先生や雛里ちゃんとずっと一緒だよ♪」

 

 「ちょ、ちょっと待って雪ちゃん。 私たちは嬉しいけど、ご主人様のお許しをいただかないと・・・」

 

 そう言って、朱里は一刀の方に目を向ける。

 

 『よろしいですか?』という瞳での問いかけに、一刀は考える間もなく頷いた。

 

 「雪がそれでいいなら、俺としては大歓迎だよ。」

 

なにせ彼女はあの馬謖幼常だ。

 

一刀からしてみれば断る理由は何もない。

 

 「本当ですか!?」

 

 「・・・よかったね、雪ちゃん。」

 

 「うん♪」

 

一刀の答えを聞いて、三人はお互いの顔を見合わせて笑顔になった。

 

これから一緒に居られるということがよほどうれしいのだろう、その光景を見ていた一刀もなんだか嬉しかった。

 

 「あ、そうなると朱里先生たちみたいに御遣いさんのことはご主人様って呼ばなきゃだね。 てなわけでよろしくね、ご主人様。」

 

 「あはは、こちらこそ。」

 

新しい仲間が加わり、喜びに湧く一刀たち。

 

するとそこへ、店の奥から店員が料理を持ってやってきた。

 

 

 「お待たせしました。」

 

 「あぁ、どうもありがとう・・・・って・・・・」

 

目の前の光景に一刀は唖然とした。

 

その後も料理はどんどんと運ばれてきて、気がつけば四人用のテーブルの上は大量の料理で埋めつくされていた。

 

 「これ・・・全部雪が頼んだのか?」

 

 「うん。 そーだけど?」

 

一刀の質問に雪は当たり前のように頷いた。

 

話を始める前に雪がなにやら注文していたのは知っていたが、まさかここまでの量だとは思わなかった。

 

テーブルを埋めつくす皿には、どれもたっぷりと料理が盛られている。

 

普通の人ならどれか一皿で十分に満腹になる量だ。

 

 「それじゃ、いっただっきま~す!」

 

言うが早いか、雪はレンゲを手にとって大量の料理をどんどん口に運び始めた。

 

 「モグモグ・・・ん~、おいし~♪」

 

 「・・・相変わらずすごい食べっぷりだねぇ、雪ちゃん。」

 

 「うん、昔よりすごいかも・・・・」

 

昔の雪を知っている朱里と雛里でさえ、その光景に目を丸くしている。

 

様々な料理が吸い込まれるかのように雪の口へと入っていき、その豪快な食べっぷりはあの鈴々や翠と互角か・・・それ以上かもしれない。

 

 「お、おい雪。 そんなにいっぺんに食べたら・・・」

 

 「ん? ごひゅじんひゃまも食べたいの? ふぁい、どうぞ。」

 

 「いや、いい・・・・」

 

 「ほぉ? モグモグ・・・・」

 

 「・・・・・・・」

 

差し出してくれた皿を手を振って断ると、雪は再び手元の料理に視線を戻して食べ始めた。

 

『そんなにいっぺんに食べたらお腹壊すぞ。』と言おうとしたのだが、どうやらその心配はなさそうだ。

 

雪のペースは落ちるどころかどんどん速くなっているようで、そうこうしているうちにすでに全体の三分の一が無くなっていた。

 

そして・・・・

 

 

 「ふ~・・・おいしかった♪」

 

 「・・・・まじ?」

 

満足そうにお腹をさする雪を見ながら、一刀は驚きを通り越して恐怖すら感じていた。

 

あれだけあった料理の数々は、ものの十分足らずでキレイに姿を消していた。

 

 「雪ちゃん、そんなに食べて大丈夫なの?」

 

心配そうに問いかける朱里にも、雪はケロッとした様子で答えた。

 

 「大丈夫、大丈夫。 朱里先生こそ、もっと食べないと大きくなれないよ?」

 

 「なっ・・・ほ、ほっといて下さい!」

 

いたずらっぽく言う雪に、朱里は顔を真っ赤にして怒るが迫力は全くない。

 

・・・というか、一応本人も小さいことを気にしていたらしい。

 

 「あはは・・・ん? 雪、ほっぺに何かついてるぞ?」

 

 「へ?」

 

 「ご飯粒か? ほら、とってやるから・・・・」

 

そう言って、一刀が雪の顔に手を伸ばしたその時だった・・・

 

 「あっ! いけませんご主人様っ!」

 

 「え?」

 

 

 

 「・・・・・“ガブッ!”」

 

 「痛゛ってぇ゛ぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 

朱里の叫びに反応した時はすでに遅く、ほんの一瞬の寒気の直後、一刀の右手の裏と表に同時に鋭い痛みが走った。

 

 

簡単に言うと、雪に噛みつかれた。

 

・・・・しかもかなり本気で。

 

 「うぅ゛~~~~」

 

 「いだだだだだだだっ!」

 

 

雪はまるで怒った犬のように一刀の右手に食らいつき、離そうとはしない。

 

少しずつ増していく右手の激痛に、一刀は悲痛の叫びを上げる。

 

その光景にどうしていいのか分からず、雛里は“あわわ”とうろたえていた。

 

 「雪ちゃん! ダメだってば~、雪ちゃんっ!」

 

 「うぅ゛・・・・・“カパ”」

 

朱里の必死の説得でようやく雪の口から解放された一刀の右手には、血こそ出ていないものの、くっきりと半円の歯形が残っていた。

 

それを見ると、どうやら雪は随分と歯並びがいいらしい・・・・なんてことを考える余裕などあるわけもない。

 

一刀は涙目になりながら、その傷跡をさする。

 

 「っつ~~。 なんなんだよいきなり・・・」

 

 「ご主人様のヘンタイっ!!」

 

 「なにぃ!?」

 

やっと一刀の手を離した雪は、顔を真っ赤にしてとんでもないことを言いだした。

 

いきなり手を噛まれたうえにヘンタイ扱いではたまったものではない。

 

 「ちょっと待て、なんでそうなるんだよ!?」

 

 「だっ、だって・・・いきなり人の顔に触ろうとするなんて・・・・っ」

 

 「いや、だからって噛むことないだろ!? 嫌ならそう言えば・・・・」

 

 「ち、違うんですご主人様! これには訳があってですね・・・・」

 

言い合う二人の言葉をさえぎるように、慌てて朱里が割り込んできた。

 

 「訳・・・?」

 

 「はい。 実は雪ちゃんは昔から、怒ったり恥ずかしかったりすると、その・・・・相手に噛みついてしまうクセみたいなものがあるんです。 しかも、主に男性に・・・・」

 

 「えぇっ!?」

 

 

朱里の言葉に、一刀は耳を疑った。

 

『恥ずかしかったり』ということは、さっきの噛みつきは言ってみれば雪の『照れ隠し』ということになるのだろうか。

 

つまり、普通の女の子にとっての顔を背けたりだとか軽く叩いてみたりだとかの可愛らしいはずのしぐさが、雪にとってはあの相手の肉を噛み切らんばかりの強力な攻撃になるらしい。

 

・・・まぁなんとも危険な照れ隠しもあったものだ。

 

 「なんつー迷惑な・・・・」

 

 「う、うるさいなぁっ・・・・・とにかく、簡単に私に触らないでね!」

 

 「・・・・・・・・はい。」

 

いろいろと思うところはあるが、一刀としてもこれ以上歯形を増やされたくはない。

 

いまだに顔を赤くして怒鳴る雪に半ばあきれながらも、しぶしぶ頷いた。―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 「・・・しかし、よく喰ったモンだな。」

 

財布の中をのぞきながら、一刀は大きくため息を吐く。

 

雪が食べた分の代金は、まるで示し合わせたかのようにほとんど一刀の所持金とぴったりだった。

 

つまり、今一刀の財布はほとんど空・・・

 

 「いや~、ごめんごめん。 お金持ってないのすっかり忘れてて。」

 

当の本人はというと、たいして悪びれた様子もなく笑顔のままだ。

 

そんな雪を横目に見ながら、朱里と雛里も少しあきれ顔。

 

 「も~、雪ちゃんったら・・・・すいません、ご主人様。」

 

 「あはは、まぁ今日は雪の歓迎会ってことにしておくよ。 だからこれからよろしくな、雪。」

 

 “ポン”

 

 「あっ・・・・・・」

 

 「あ・・・・・・・・・」

 

ついいつもの調子で、一刀は雪の肩に手を置いてしまった。

 

気づいた時にはすでに遅く・・・・

 

 

 「“ガブッ!”」

 

 「だぁ゛ぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 

 

雛里が言ったように、本当に今日は傷が絶えない日だと、一刀はしみじみ思った。

 

そして右手に走る激痛に耐えながら、今自分に食らいついているこの美しくも少し凶暴な白い少女と、これからどうやって付き合っていこうか・・・・・

 

そんな事を考えていた。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

~~一応あとがき~~

 

え~、十五話目、いかかだったでしょうか。

 

今回ついにオリキャラとして仲間になった雪こと馬謖ですが、どうして馬謖なのかというと、適当に決めたわけではなくてちゃんと理由があります。

 

その理由はまた話が進んだときに書きたいと思います。

 

もともと、この作品で仲間にオリキャラを入れるつもりはなかったんですが、話を進めながらこんなキャラがいたらおもしろいな~と思ったので思い切って登場させてみました。

 

それから、作中に出てきた『白眉(はくび)』という言葉ですが、知らない方もいると思うのでここで少し詳しく説明したいと思います。

 

歴史上、馬謖は五人兄弟の末っ子として生まれ、五人はそれぞれ才能ある人物でした。

 

その中でも最も優れた才を持っていたのが四男の馬良で、彼の眉毛には白い毛が混じっていたといわれています。

 

このことから、兄弟や多くの人々の中で優れた人物を指す言葉として『白眉』という故事成語が生まれました。

 

というわけです。

 

上記のとおり、正史では白眉といわれているのは馬良なのですが、この作品では馬謖も白眉にしました。

 

さて、次回からは新しく仲間に加わった雪をメインとした話になります。

 

また読んでやってくださいノシ


 
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