No.164473

一刀の記憶喪失物語~蜀√~

戯言使いさん

記憶喪失物語の蜀√です。今回は、コメディを中心にしていきたいと思います。

記憶喪失になってしまった一刀。一刀は月以外の武将におびえ、いつも月に付きまとっていた。それを見ている武将たちは、嫉妬の炎を燃やし「記憶奪還作戦」を開始する。しかし、それは「作戦」という名の武将たちによる「戦」だった。

2010-08-09 11:01:47 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:12554   閲覧ユーザー数:9772

 

「・・・いい天気ですね。月さん」

 

「そうですね。ご主人様」

 

春の日差しを浴びながら、一刀と月は中庭で椅子に座りながら空を眺めていた。雲ひとつないこの空はどこまでも続いているように見える。

 

そんな二人の後ろには、ごろごろと蜀の武将たちが列をなして見守っていた。その視線は晴れやかな空ではなく、一刀と月に向けられていた。しかし、どれも嫉妬や羨望ではない。あるのは、恐怖と不安。

 

「この空・・・・飛んで行ければいいのにね。月さん」

 

「その時は私も連れてってくださいね。ご主人様」

 

「もちろんです・・・・・はぁ、いい気持ちですね」

 

「そうですね」

 

「・・・・あ、そうだ」

 

「どうかしましたか?」

いきなり立ち上がった一刀は、月の手を握った。月は少しだけ手を握って貰えたことに喜びながらも、一刀を見上げた。

 

 

 

 

「来世に行こう」

 

 

 

 

「だ、駄目ですよぉご主人様」

 

「だって僕みたいな存在が居たらこんなに綺麗な空を汚してしまうではないですか!」

 

「駄目です!もし、次そんなこと言ったら、もう一緒にお風呂に入ってあげませんからねっ!」

 

「うぅ・・・なら頑張る」

 

涙目ですがる一刀に、月は心の奥底から湧き出る、何かがあった。それは、快感だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

蜀は混乱していた。

 

ようやく長期にわたる戦を終え、ようやく平和が訪れた。そう思っていた矢先。

 

事件は起った。

 

「・・・・・」

 

「あの・・・・ご主人様?月ちゃんの陰に隠れてないで出てきなよー」

 

「ご主人様。しっかりしてください」

 

心配そうに声をかける桃香と、不安を抱きながらも、しっかりしてほしいと願いを込めて叱咤する愛紗。そしてその後ろには

 

「うぅ・・・・本当にごめんなさいです・・・・」

 

と、泣きそうなねね。

 

 

 

 

ことの発端は、ねねだった。

 

ただ一刀は恋と話しをしていただけにも関わらず、それに嫉妬したねねが、いつものように

 

「ちんきゅーきーっく!」

 

と、飛び蹴りを一刀の後頭部に食らわせたのだ。

 

しかし、当たり所が悪かったのか、一刀は気絶。さすがにやり過ぎた、と後悔したねねは急いで月と詠を呼び、応急手当を行った。

 

だが、再び目を覚ました一刀は、すでに知っている一刀ではなかった。

 

目覚めた瞬間、一刀は大声をあげて泣き出した。

 

急に泣きだした一刀はねねや詠は大慌て、その中で月は冷静に一刀をあやし、そして泣きやませた。

 

普段なら、詠やねねが泣きだした一刀にあれこれと罵倒するところだが、それも出来なかった。

 

なぜなら、一刀は記憶を失い、極度の人見知りと、極度のネガティブ思考の持ち主になっていたのだった。ちょっとした罵倒でも傷つき、そして自殺しようとしてしまう。

 

ただ、唯一心を許しているのは、一刀をあやした月のみ。

 

そして現在、ねねと月たちが事の次第を玉座の真にいる他の武将たちに説明していた。

 

心配した桃香や愛紗たちが声をかけようとするが、まったく相手にされない。とりあえず、自己紹介だけは済ませたが、一刀はたいして聞いていなかった。

 

「ほら。ご主人様。桃香さまたちは優しい人たちですよ」

 

「・・・・いい。僕には月さんが居ればいいです」

 

「ご、ご主人様・・・・・」

 

「月さんが居れば世界なんてどうなってもいい・・・・」

 

「へぅ・・・・」

 

「ご主人様!」

 

「ひっ!」

 

そう叫んだのは愛紗だった。月との会話で嫉妬していることは、誰の目にも分かった。

 

「あなた様は私たちの大事な王!その王ともあろうお方が人の陰に隠れて怯えるなど、言語道断!もっとしっかりしてください!」

 

「ご、ごめんなさい・・・・うぅう。やっぱり、僕死にます。死ぬべきなんです。どうせ僕が居るだけで皆に迷惑かけちゃうんです。死にます・・・ううぅ」

 

「こら!愛紗ちゃん!今はそっとしておいてあげようよ。記憶を失ってるんだから」

 

「で、ですが桃香さま・・・・」

 

「もう戦もないし、少しぐらいなら大丈夫だよ。まずはご主人様の記憶が戻るように、何か対策を練らないと」

 

桃香は愛紗と違って前向きだった。確かに、月にべったりな一刀には嫉妬はしていた。でも、それ以上に涙目でこちらに訴えかける一刀の姿に激しく萌えたからだ。それは他の武将も同じ。まるで子供のような一刀に、それぞれ思うことがあった。

 

「それじゃあ、まずどうしようか・・・・朱里ちゃん、雛里ちゃん。何かある?」

 

「そうですね・・・・詳しいことは分かりませんが、何かショックを与えるのはどうでしょう」

 

「(こくこく)」

 

「ショック?それって、槌で頭をどーん?」

 

「はわわ・・・それじゃあ死んじゃいますよ・・・・それにご主人様、怯えちゃいますよ」

 

ちら、と一刀を見た朱里たち。

 

一刀は相変わらず月の陰に隠れ、そして

 

「桃香さん・・・・」

 

 

 

 

「な、何かな?」

 

「僕、思うんです」

 

「何を?」

 

 

 

 

 

 

「本当の僕は、きっと空の向こうにあるんだって。だからちょっと行ってきます」

 

 

 

 

 

「いっちゃらめぇぇぇーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人ふらふらと出て行こうとする一刀をなだめるのに、多大な時間を費やしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、その必死な説得により、少しだけ一刀の皆に対する警戒心が緩みました。

 

「月さん・・・・皆さんが怖いです」

 

「よしよし・・・みなさん、良い人ですから、怖がらないでください」

 

「で、でも・・・・そもそも、僕とみなさんの関係は何なんですか?」

 

そう一刀に聞かれた時、それぞれの考えたことは同じだった。

 

 

 

部下・・・・ではない。きっと仲間だ。でもどうだろう。自分は一刀と共に閨を過ごした。にも関わらず、『仲間』の一言で片づけていいのだろうか?いや、どうせ今の一刀は何を言っても素直に信じるだろう。ならば、少しぐらい親密な関係であることをアピールしよう。

 

 

 

 

 

 

「あ、あのみなさん?」

 

「そうだねーご主人様と私の関係は・・・・」「ご、ご主人様は私の・・・・」「はわわ・・・・ご主人様は・・・・」「あわわ・・・・ご主人様は」「そうだな・・・・主は・・・・」「そうねぇ・・・・ご主人様は・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「私の嫁」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しーん、と空気が静まり返った。

 

いや、まさか自分と同じことを考えていたなんて・・・と、驚愕する武将たち。それと同時に、一刀はこの武将たちの言うことは信用してはならない、と本能で感じ取っていた。

 

一刀はにっこりと微笑むと、丁寧にお辞儀をした。

 

「みなさん、ありがとうございます。よくわかりました」

 

一瞬、あれ?もしかして作戦が成功した?と淡い期待を胸に抱く武将。しかし

 

「それでですね、僕、決心したことがあるんです」

 

「??」

 

「僕・・・・月さんと城を出ようと思います」

 

「ご主人様・・・・」

 

「それで・・・・二人で死にます」

 

 

 

 

 

「いっちゃらめぇぇぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しく怯える一刀をなだめるのに、多大な時間を費やしました。

 

 

 

 

 

「とりあえず、ご主人様の記憶を思い出させよう大作戦をするよ!」

 

「「おー」」

 

こうして始まった一刀の記憶奪還作戦。

 

そして、賞品として、記憶を思い出させることが出来たら人には、一刀を一週間自由に出来る権利が与えられていたことは、一刀は気が付いていなかった。

 

 

本気になった乙女たち・・・・それは、ある意味、本物の戦よりもえげつない物だった。

 

 

 

続く

 

 

 

おまけシリーズ

 

 

『もし、夢が叶ったら』

 

朱里の場合

 

 

 

 

「はわわ、朝起きたらおっぱいがばいんばいんになってました!!これできっとご主人様にもっと愛してもらえるです!!ご主人様ーーー^^」

 

「ん?どうした朱里。仕事か?」

 

「いいえ違います!どうですか、このお胸。ばいんばいんです」

 

「お、ほんとだな、おっきくなったな」

 

「えへへ・・・・それで・・・・その・・・・今夜、閨に伺ってもよろしいですか?」

 

「ん?あぁ、ごめん。俺、幼児体型にしか興味ないから」

 

「はわっ!?」

 

「だからもう、朱里を抱くことはないと思うよ。ほら、行こうか。雛里」

 

「あわわ・・・・はいです」

 

「はわっ!雛里ちゃん!?どうして・・・・」

 

「あわわ・・・・・・ざまあみろ」

 

「はわっ!ちょ、ちょっとご主人様!待ってくださいよ~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!・・・・・・夢かぁ」

 

 

 

 

 

 

 

急いで自分の胸を確認する朱里。見事なまでのまっ平ら。

 

「はわわ、これでご主人様に嫌われないですむ」

 

「おいおい、こんなところでお昼寝か?」

 

「はわっ!ご主人様・・・・(だき)」

 

「どうした?いきなり抱きついてきて」

 

「変な夢を見まして・・・・私、胸が大きくなって、ご主人様に愛して頂こうと会いに行ったら「幼児体型にしか興味ない」って言って・・・・ご主人様そんなこと言わないのに・・・・とても悲しくて・・・・・・」

 

「あはは、変な朱里だな」

 

「ですよねー、ご主人様は胸なんかで人を・・・・・」

 

「だって、俺が好きなのはばいんばいんの大人な女性だもん」

 

「はわっ!?」

 

「ほら、行こうか紫苑」

 

「はい・・・ご主人様」

 

「はわっ!紫苑さん!」

 

「うふふ・・・・ざまあみろ」

 

「はわっ!ちょ、ちょっとご主人様!待ってくださいよ~~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!・・・夢かぁ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無限ループって、怖くね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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