No.160138

VESTIGE-刃に残るは君の面影-[発売前妄想編] その2

makimuraさん

2010年7月30日発売予定のエロゲー、「VESTIGE-刃に残るは君の面影-」(ALcot Honey Comb)。
発売日前に店頭などで配布されているチラシ。
それだけを情報源にして、自分勝手にストーリーをでっち上げてみようという試み。

こんにちはこんばんは。槇村です。

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2010-07-23 23:26:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:911   閲覧ユーザー数:871

 

 

 

三原九郎。

家族は、ひとつ年上の姉がひとり。両親はいない。

僕は覚えていないけれど、小さい頃に死別したらしい。

僕には小さい頃の記憶がない。なんでも大怪我をして、生死の境をさまよったとか。

そのことを僕はまったく覚えていない。その辺りから、自分の記憶は恐ろしく不鮮明だ。

身体の成長も芳しくない。

ガタイは小さく、背丈も姉さんより低い。おまけに年じゅう貧血気味で気力が漲らない。

運動は苦手なわけではないけれど、自分からしようとは思わない。

極力じっとしていたい。趣味は読書と寝ることだ。

見かけの特徴としては、浅黒い肌。

そのおかげで周囲からは"クロ"と呼ばれている。九郎だしね。

なぜか姉さんだけは、僕のことを"ヨッくん"と呼ぶ。何故かは分からないけれど。

理由を聞いても、「ヨッくんはヨッくんだよ?」と訳の分からないことを繰り返すだけだし、呼ばれ続けていたからもう気にならない。

自分でいうのもなんだけど、僕は言動・行動が無気力だ。

来た球をただ打ち返す、くらいの反応しかしていないと思う。

なにに対しても、深く考えずに当面の対処でお茶を濁して、問題そのものは棚上げする。その繰り返し。

それでも、今自分がどんな状態で、どうすればいいのかを考える余裕はそれなりに持っていたと思う。

 

でも。

 

姉さんが死ぬ。

その言葉が頭の中に生まれた途端、すべてが塗りつぶされたような感覚に陥った。

 

 

 

 

 

 

あのあとのことはよく覚えていない。

瑠璃がいうには、いきなり外へ飛び出した僕を追いかけたら、倒れている姉さんの側で呆然としていたらしい。

僕に一発張り手を食らわせた後、救急車を呼んだり先生へ報告したりしてくれたそうだ。

なにやってんだろう僕は。本気で、瑠璃には頭が上がらない。

 

結果だけいうと、姉さんの命に別状はなかった。奇跡的といっていい軽症で済んでいた。

 

「ごめんねヨッくん。心配かけちゃって」

 

そういって、ベッドに横になりながら僕の頭を撫でる姉さん。

いつもと変わらないその態度に心からホッとする。

 

姉さんが運び込まれた病院。

しばらく入院することになった姉さんを見舞いに、僕は瑠璃と一緒に病室に来ている。

姉さんが目を覚ますまで、僕は物凄く取り乱していた。

たったひとりきりの肉親が死にかけたんだから、取り乱すのも当たり前だと思う。

だけど振り返ってみれば、取り乱していたのは僕だけだった。

瑠璃も学校の先生も、当人である姉さんだって、どこか醒めた対応をしていたような気がして仕方ない。

目を覚ました姉さんに、いったいなにがあったのかと聞いてみても、足を滑らせただけ、ただの事故だというばかり。

なんとなく、納得がいかない。こんな状態になっても、まだはぐらかされている気がする。

 

……屋上から落ちてもいえない事情、ってことなのか。それとも本当に、ただの事故なのか。

 

姉さんだけじゃなく、僕以外のすべてに、なにかを隠されているような感覚。

小さい頃の記憶がないことが生む、疑心暗鬼でしかないのかもしれない。

本来あるであろうものが、すっぽりとなくなっている。

常に付きまとうソレは、日常を過ごす上でかなりの負担になる。

 

 

瑠璃とも話していた、姉を信じるということ。必要があれば話してくれるだろうということ。

本当にそれで、待つだけでいいんだろうか。

 

そう思っても、こんな状態の姉さんにあれこれ聞くのも負担がかかる。

腑に落ちないところはあるけれど、なによりも姉さんが無事だったのはとても嬉しい。

そう思うことにして、気になることを棚上げすることにした。

退院するまでに、どうして気になるのかも考えておこう。

 

「無事で、よかった」

 

頭を撫でていた姉さんの手を取って、優しく握り締める。

どんなに気になることがあっても、姉さんの安否に比べれば大したことじゃない。

 

「ごめんね、心配かけちゃって」

「もういいよ。そんなに何度も謝らないで」

 

姉さんが優しく、僕の手を握り返してくる。その柔らかい反応が嬉しくて、僕は更に姉さんの手を握り返した。

そんな僕たちを見て、瑠璃は"お熱いことで"みたいな、生暖かい視線を向けてくる。

いつものことなので僕ら姉弟はまったく気にしない。

 

「本当にねぇ、仲が良すぎて見ている方が胸焼けしそう」

「私はヨッくんのお姉ちゃんで、お母さんで、恋人でもあるの。

あらゆる愛がヨッくんにささげられてるんだから」

「いや姉さん、今のは褒め言葉じゃないと思うよ」

「そうなの? 瑠璃ちゃん」

「静さんが褒められたと感じたんなら、それでいいんじゃない?」

「ほら、私の愛のパワーに感動してくれてるよ」

「まぁ、姉さんがそういうならそうなのかもしれないね」

 

姉さんのベッドを挟んで反対側に、瑠璃が座っている。

姉さんを覗き込む表情は、もう普段の通りに戻っている。

僕ほどではなかったにせよ、心配の色を浮かべていた顔色はもう表に出ていない。

いつもの通り、僕たち姉弟のやり取りに、テンポよく突っ込みを入れてくれる。

そんな会話のやり取りをしばらく続けた後、

 

「でね、これからのことなんだけど」

 

姉さんが入院している間のことに触れる。

軽症だったとはいえ、まったく怪我がなかったわけじゃない。

検査やその他諸々を含めて、一週間くらいの入院が必要らしい。

当然、その間の僕はひとりきりになってしまう。

それはとてもよろしくない、心配で堪らない。

姉さんはこの世の終わりが来たかのような表情を浮かべる。瑠璃まで真剣にうなずいていた。

心配してくれるのは嬉しいけど、僕はそんなに頼りないだろうか。

 

「それで。お姉ちゃんが退院するまで、ヨッくんのお世話は瑠璃ちゃんにお願いすることにしました」

 

はくしゅー、ぱちぱちぱち。

 

いや姉さん、拍手を口でいうのはどうなんだろう。

 

「クロ、ノリがわるいわよ」

「そうよー、お姉ちゃん悲しいな」

 

瑠璃と姉さん、ふたりから非難される。僕が悪かったのだろうか。理由が分からない。

 

「とにかく。瑠璃ちゃんのご両親にも説明は済んでいるから、お姉ちゃんがいない間も安心してね」

「さすがに泊りまでは認められなかったけどね。

あたしとしては、そこまでしないと心配なんだけどな」

「瑠璃ちゃん? 瑠璃ちゃんのことは信用してるけど、お姉ちゃんはそこまで許可できません。ダメです。許しません」

「でも静さん、コイツが妙な無茶しないように見張るにはそれくらい必要だと思うの」

「ヨッくんを心配してくれるのはとっても嬉しいんだけど、でもダメ」

「それって単に、クロに誰も近寄るなーっていってるだけでしょ」

「そうよ、ヨッくんに悪い虫がついちゃったら大変。

その点、瑠璃ちゃんなら信用できるし大丈夫」

「えー、信用してるように聞こえないわ」

 

話の内容が妙な方向に膨らんできたような気がする。

とにかく。

お姉ちゃんが入院している間、いろいろと瑠璃にお世話になるということなわけだ。

……いつもと変わらないような気がする。

まぁいいか。

盛り上がるふたりの会話を眺めながら、僕はまるで他人事みたいに溜め息をついた。

 

 


 
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