No.158423

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(13)

予想以上に華蘭の人気が凄くて、感激しました。
これからも応援をお願いします!!

2010-07-17 16:31:27 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:12255   閲覧ユーザー数:8531

 

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

―――洛陽某所

 

 

「くそっ!」

 

“ダァン!!”

 

 

一人の男が、腹立たしげに机を叩く。

但し、非力ゆえに、机よりも己の拳に痛手を与えていたが。

 

 

「張譲様、落ち着いて・・・・・・」

 

「黙れぃっ!!」

 

「ひぃっ!」

 

 

張譲は、これ以上ない程に苛立っていた。

黄巾の乱、これを利用して反宦官勢力を一掃しようと企んでいた所にこれだ。

事もあろうに『天の御遣い』。

今の気運は、救世主を求めていた。

そこに、頭が切れ、一流の武を持ち、人を自然と惹き付けるカリスマさえも持つ、正に英雄と呼ぶに相応しい男が『天の御遣い』として現れた。

圧政に苦しむ人々から天の御遣いは大喝采で迎えられ、気運は天の御遣いによる新しい秩序を望む声へと移り変わり始めている。

 

 

「(おのれ・・・何進! おのれ・・・皇甫嵩! どこまで私の邪魔をすれば気が済む!?

いや・・・・・・あの、涼州の田舎共もだ! 馬騰に董卓!

奴等さえいなければ、あの小僧とて私の思うままであったものを!)」

 

 

そう、心中で恨み事を吐くが、一向に事態が好転する事は無い。

だが、それは大いなる勘違いと言うしかない。

張譲に、北郷一刀を思うがままにする事等不可能だ。

それでも、張譲は勘違いをしたまま。

自分の考えが正しいと信じて、疑わない。

 

 

「おい! そこのお前、張角共の居場所は分かったか!?」

 

「い、いえ、まだで・・・・・・」

 

「とっとと見付けろ! 思い通りにならぬ駒等要らん! 見付け次第適当な諸侯にでも教えてやれ!!」

 

 

そうとだけ吐き捨て、張譲は息も荒く部屋を後にした。

 

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第十二話「悲嘆」

 

 

官軍に劉家軍が合流して洛陽に帰還し、二日目の朝。

毎朝恒例の鍛錬。

今朝は愛紗vs一刀である。

ギャラリーは官軍の主要な将。

例外として、円が物資の持つ時間を計算している為にいない位。

 

愛紗が青龍偃月刀を右脇に構えてから、刺突の体勢で突っ込んで来る。

それを、暁を正眼に構えた一刀はほんの微かな瞬間を見計らい、青龍偃月刀の刺突の切っ先に自分の刺突を重ね合わせた。

ギャラリーの殆どが驚愕にざわめく中、愛紗の形の良い眉が顰められる。

当然だ、何故かは解らないが、拮抗しているのだから。

普通ならば、暁の刃を砕いてそのまま刺突が決まる筈。

だからこそ、愛紗は判断ミスを冒した。

 

愛紗を関雲長たらしめる剛力で以って、力尽くで圧し切ろうとしたのである。

だがそれこそ、一刀の思う壺。

一刀は柄をほんの少しだけ、捻る。

その運動は当然、刃先にもダイレクトに伝わる。

そして、捻りは回転を生み、拮抗していた刃先同士の競り合いから外れた。

それはつまり、拮抗に使われていた一刀の力が瞬間的に消えると言う事だ。

今正に力を籠め始めた愛紗の身体が、力の行き先を見失い、大きく泳ぐ。

 

それが、決着の合図ともなった。

身体の泳いだ愛紗の右後方に滑り込む様に動いていた一刀が、暁の柄を以って愛紗の首筋を軽ーく叩く。

愛紗はハッと気付いた様に、当てられた部分に手を持っていった後、口惜し気に顔を歪めてガクリと項垂れた。

一刀の勝利である。

 

最も、一刀は内心冷や冷やであったが。

何せ相手はあの後世に名高き関帝聖君なのである。

腕前云々以前に、畏怖の感情が浮かぶのも無理は無かった。

因みに、そんな一刀の内心を知る事が出来ない桃香は。

 

 

「凄い凄い! 一刀さん、愛紗ちゃんに勝っちゃうなんて、凄ーい!!」

 

 

脳天気に二人の応援をしていた。

 

 

「(桃香って、結構KYなんだなぁ・・・・・・)」

 

 

そう思ってしまったのも無理は無い。

だって、さっきから愛紗に色々と突き刺さっているのである。

「ぐんぐにる」とか「げいぼるぐ」とか「ろんぎぬす」とか。

敬愛し、尚且つ忠誠を誓っている義姉に、天然とは言えボロクソに言われるのは、かなり精神的に堪える筈だ。

因みに、一刀は既に愛紗と軍師二人以外の真名を受け取っていたりする。

 

 

「(咲さんに姿が被るな・・・もしかしなくても関羽って苦労人か・・・・・・憐れな)」

 

 

必ず何処かで埋め合わせをしようと、心に誓った日の朝であった。

 

 

 

 

朝食が終わり、一刀は各将に各々のやるべき事を割り振って、自身は月達が現在世話をしていると言う、洛陽の貧民街へとやって来ていた。

曲がり角を曲がり、以前華蘭と決闘した広場を覗き込む。

して、そこにあったのは、笑顔。

 

一刀が求めて止まぬ笑顔であった。

自然、一刀の頬も緩む。

しかし、何処か違和感を覚えもした。

 

 

「(あれ? どこが変なんだ? 子供達は皆元気で・・・・・・?)」

 

 

何処かが、引っ掛かる。

何だ?

と、自答する。

そして、答えは意外にもあっさりと出た。

 

 

「(そうか! 『皆元気』だからおかしいんだ!)」

 

 

そう、一刀達官軍本隊が洛陽に帰って来る前には、確かに立ち上がれぬ程に衰弱していた子供もいた筈なのに、今ではその子も子供達の輪に加わって元気に遊んでいる。

 

 

「(一体どうして? 腕のいい医者でもいるのか・・・・・・?)」

 

 

いや、と首を振って否定する。

幾らなんでも、医者に出来る範囲を超えている。

う~む、と考え込み始めた時だった。

 

 

「あ、一刀さん、此処にいらしてたんですか」

 

「お、ゆ・・え・・・・?」

 

「はい♪」

 

 

振り返ればそこにいたのは月。

だが、恰好が変なのだ。

それは、メイド服だったのである。

男のロマン、メイド服である。

とても大切な事なので二度言った。

一刀は感動していた。

あぁ、こんなにもメイド服の似合う美少女がこの世にいたのかと、思わず涙が出そうになった。

 

 

「あ、あの、一刀さん。

もしかして似合ってなかったでしょうか?」

 

「そんな事は絶対無い!!」

 

 

全力で否定すると、少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐにニッコリと天使の笑みを浮かべてくれた。

思わず癒される一刀であった。

何とも現金な。

しかし、聞きたい事があるのですぐに正気を取り戻し、故に聞く。

 

 

「なぁ月、あの子達俺が遠征に出る前は、結構危ない状態だったと記憶してるんだが」

 

「あ、実は、凄いお医者様がいらっしゃったんですよ。

五斗米道(ごとべいどう)の訓戒に従って旅をしながら病に倒れた人を治して差し上げているそうなんです」

 

 

ほーと感心したように相槌を打ちながら、改めて子供達を見る一刀。

というか、まさか本当に医者の業とは思わなかった。

一刀の視線の先の一人の男の子が気付いて、一刀に向かって「腕よ千切れよ」と言わんばかりに腕をブンブン振って来たので、此方は小さく挨拶代わりに手を振った。

 

 

「あ、何なら一刀さんも診て頂きますか?

私達の軍の皆さんも、その人に診て貰ったんです」

 

「そうだなぁ・・・最近疲れ気味だから、丁度いいかもな。

よし、行くか! 月、案内してくれない?」

 

「はい!」

 

 

そう言って、一刀の手を取って走り出す月。

その表情は、とても幸せそうな物であったと言う。

 

 

 

 

「良く来たな! 俺の名は華佗元化という。

これから宜しく頼むぜ、『天の御遣い』殿!!」

 

「(普通の医者かと思ったら、勇者王クリソツな素敵ヴォイスの熱血漢が出て来たでござるの巻・・・・・・)」

 

 

驚く気力すらも、初見で持って行かれた感がある。

対する華佗は、右拳をギリリと握り締めている。

最も、これが華佗にとっては常なのだが。

 

 

「ところで、俺の診療所に来たと言う事は、治療だな?」

 

「ああ、最近疲れが何処かに溜まって取れなくてな・・・」

 

「何っ!? それはいかん! 早く治さなくては!!」

 

 

いきなり叫んだ事に少しビビるが、当の華佗は気にした様子も無く、懐からシガーケース大の箱を取り出し、その中から鍼を一本取り出す。

 

 

「よし、上半身裸になって、後ろを向いてくれ」

 

「あ、ああ」

 

 

言われた通りにする。

華佗は、一刀の背中を睨むかの如き眼力で見る。

 

 

「違う、これじゃない・・・こいつでも無い・・・・・・くっ! 俺の様な未熟者には見付けられぬ大病と言うのか!! いや、諦めては・・・師匠! 俺に力をお貸し下さい!!」

 

「(勇者王かと思いきや、心の王様の方かよ!?)」

 

 

少し身震いする。

今更ながら、ちょっと不安になってきた一刀である。

 

 

「・・・・・・そうか! 見えたぞ! こいつか、いざ!!」

 

「(秘孔突かれてテーレッテーとかシャレにならんよなぁ・・・つか、やれそうだぞこいつ)」

 

「我が身、我が鍼と一つとなり! 一鍼同体! 全力全快! 必察必治癒・・・・・・病魔覆滅! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「(色々混ざった!?)

て、うぉあーーー!!?」

 

 

鍼が、一刀の左肩甲骨のやや内側に刺さる。

見ていた月はハラハラが止まらなかったが、華佗の治療を受けた経験がある為かそれ程心配していると言う訳ではなさそうだ。

 

鍼が刺さったまま約二十秒が過ぎ、ゆっくりと鍼が引き抜かれる。

華佗は遣り遂げた男の顔で、額に浮き出た汗を手の甲で拭う。

一方の一刀は、前のめりに倒れた。

 

 

「一刀さんっ!?」

 

 

急ぎ駆け寄る月。

まさか、と言う思いが湧き上がる。

が。

 

 

「・・・・・・・・・すぅ・・・」

 

「ね、寝てるだけ・・・?」

 

「あぁ、彼の体を蝕んでいたのは病魔で無く、疲労の塊だったからな。

肩の骨の裏側にある秘孔を突いて、回復力を高めたんだ。

寝てしまったのは、彼の身体が自然と最も回復力の高まる状態を求めた結果だろう。

俺も医者を志してから長いが、これ程理想的で感動的な身体に会ったのは初めてだよ。

身体が主を労わるなんて、な・・・・・・」

 

 

しみじみと語る華佗。

月は、それを聞いて安心したように、一刀の頭を自分の膝の上に移動させる。

その表情は当然笑顔だ。

 

 

「董卓、彼をちゃんとした場所で寝かせてやらなきゃ。

運ぶから、手を貸してくれ」

 

「はい!」

 

 

普段の気弱さが嘘の様に、月は元気よく答え、華佗と共に一刀を診療所奥の寝所まで運ぶ。

因みに、一刀が起きた時に、良く見知った人間がいる事に気付くのは、次ページの事である。

 

 

 

 

「う・・・・・・」

 

 

一刀が、自身にかかっていた掛け布団を掃って、起き上がる。

ボーッとする頭でつい目覚ましを探してしまうが、辺りの光景を見てバツが悪そうに頭を掻いた。

未だに元の世界での癖が抜け切っていない。

苦笑せざるを得なかった。

 

 

「おはよう・・・」

 

「おはようございます」

 

 

すぐ傍の布団で横たわる女性には気付いていたが、まずは自分の身体から調べる。

眠る前までの疲労はスッキリと抜け切っていて、今は寧ろ爽やかさまで感じる。

あんな凄まじいキャラなれど、ちゃんと歴史に名を残す名医なのだと感心してしまった一刀である。

 

 

「それで、貴女は大丈夫なんですか? 咲さん・・・・・・」

 

「うぅ・・・この姿が大丈夫に見える?」

 

「ごめんなさい、全く見えません」

 

「うぅ、グスッ、七乃さんの馬鹿・・・どうして美羽様を甘やかすのよ。

七乃さんだって解ってる筈なのに・・・しっかり私達家臣が正しく美羽様を導かないと、美羽様国から見捨てられちゃう。

そうじゃなくても、このままじゃ孫堅達にも負ける・・・・・・うぅっ! また胃が痛いっ!」

 

 

胃を抑えて、寝返りを打つ。

一刀は憐憫の情以外が浮かばなかった。

だって、枕の色が変わっているのである。

稟が噴き出した鼻血の量が、そっくりそのまま涙に変換されたかのようだ。

 

 

「大丈夫か、紀霊。

っと、天の御遣いも起きたのか」

 

「一々天の御遣い言わなくてもいいって。

俺の名前は北郷一刀だから、一刀と呼んでくれればいいよ」

 

「ああ、解った。

それじゃあ宜しくな、一刀」

 

「応」

 

 

そう言って、互いに握手を交わす二人。

 

 

「シクシクシク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

但し咲の為に、華佗はすぐに其方に向かう。

咲の身体を起こし、一刀の治療の時の様に、眼を凝らして咲の全身をくまなく観察する。

 

 

「くっ、また胃の辺りに病魔が。

くそっ! 手術までしたと言うのに!!

どこまでしぶといんだ、病魔め!!」

 

「(マジですか・・・・・・?)」

 

 

咲の抱える悩みの深さと重さに、戦慄せざるを得なかった。

手術と言うからには、噂に聞く麻沸散による切開手術だろう。

そんな事をしなければならない程までに、袁術は咲の想いを蔑にし続けていると言う事に・・・・・・一刀の心中で、袁術に対しての怒りが鎌首をもたげた。

 

これと同時刻、疲れ果てている兵士たちを尻目に七乃特製の蜂蜜水を飲んでいた美羽は、かつて孫策に殺意を叩き付けられたのと同じ様な寒気を感じ取ったそうな。

 

 

 

 

「済まない華佗、助かったよ」

 

「いや、俺の使命は病魔に蝕まれる人々を救う事だ。

これ位、何て事はないさ」

 

「はい、御二人共、お茶ですよ」

 

「月、ありがとう」

 

「済まないな」

 

 

診療所の一室で、三人は話し合っていた。

何気に、一刀と華佗は馬が合ったのである。

一刀を懸想し、良く見ている月から見ていても明らかに変な組み合わせだったが、それでも友情が生まれている事は、見て取れた。

 

 

「それにしても・・・五斗米道(ごとべいどう)の教えって、随分と高尚なんだな」

 

 

一刀が、茶を口に含みながら言う。

 

 

「違うっ!!」

 

「は?」

 

「五斗米道(ごとべいどう)では無い、五斗米道(ゴットヴェイドー)だっ!!!」

 

「・・・・・・何でさ」

 

 

あからさまな横文字発音にかなり驚くが、余りにも衝撃が強過ぎて、出てきた言葉は非常に淡泊な物だった。

月の方を見てみても、苦笑が返って来るばかり。

華佗の方は、勢いよく立ち上がっていた。

しかも、目の奥にメラメラと燃える炎のオマケつきで。

 

 

「成程ね・・・五斗米道(ゴットヴェイドー)か、五斗米道(ごとべいどう)とどう違うんだ?」

 

「厳密にはどちらも同じ物なんだが、敢えて言うならば五斗米道(ゴットヴェイドー)は前からあるが、五斗米道(ごとべいどう)は最近出来たばかりなんだ。

だから、開祖も違う。

五斗米道(ごとべいどう)は公祺が建てたが、五斗米道(ゴットヴェイドー)は遙か昔から脈々と伝えられてきたものだ」

 

「はー、そう言う事か。

(と言うか、公祺って確か張魯の字だったよな? 正史の通りなら、善君の筈だけど)

なぁ、華佗一つ聞きたいんだが」

 

「ん、何だ?」

 

 

既に落ち着いて椅子に再び腰を下ろした華佗は、茶を飲みつつ一刀を見る。

 

 

「その公祺、ってどんな人物だ?」

 

「俺の兄弟子だよ。

但し医者にはならなくって・・・いや、医者だな。

「病は食から、食と言う字は人が良くなると書く」と言い出してな。

食医になって、貧しい人達に食事を振る舞っている内に漢中の英雄に祭り上げられてしまって・・・こないだ会った時は、俺が羨ましいって嘆いてたよ」

 

「そ、そうか・・・・・・(どこの天の道を往き総てを司る男だよ!?)」

 

 

そう思いつつも、茶を再び口に含む。

温くなっていたが、それでも美味く感じるのは月の技術故だろう。

雑談は続く。

 

 

 

 

「そんじゃな」

 

「また何時かお伺いします」

 

「ああ、また会おうぜ!」

 

 

そう言って、握手を交わす三人。

あれから2時間程雑談をし、今は夕方に差し掛かっている。

 

 

「それじゃ月、俺は此処で」

 

「はい・・・あっ、一刀さん!」

 

「ん?」

 

 

互いの陣に戻る際の分かれ道で、互いに分かれる。

そこで月から声を掛けられ、立ち止まる。

 

 

「その・・・また!」

 

「・・・・・・ああ、また!」

 

 

そう言って、互いに笑顔を見せる。

夕焼けの斜光で分かり辛かったが、月の頬は非常に赤かった。

 

月に背を向け、一刀は歩き出す。

周囲の様子を確認しながら。

 

洛陽の様子は、初めて一刀が見た時と比べて、随分と改善されている。

これも、宦官勢に好きな事をさせぬように、美里が軍の全権を握っている為。

そして、現在の洛陽守護の役目が一刀に移っている為である。

税だの何だのの案件を通すのに絶対必要な玉璽は、霊帝が倒れている今では封印されているも同じ。

最も宦官達は、その玉璽すら美里の手の内にある事を知らないが。

その為、洛陽に住む人々の『天の御遣い』及びに、何進大将軍への期待は大いに高まっている。

早い話が、ずっと洛陽にいて欲しいと望まれている訳だ。

だが。

一刀は悩んでいた。

最初は唯、碧達の為に。

だと言うのに、今では護りたいモノが増え過ぎた。

だからと言って、捨てられない。

不必要と断じて切り捨てていいモノ等、一刀には無いのだ。

 

そう悩んで答えが出ない内に、一刀は自陣に辿り着いた。

自分の天幕を潜り、そこの光景に溜息を吐かざるを得なかった。

 

 

「お前等、何やってんの?」

 

「しっ! 今いい所なんですよ」

 

「むむむ、これでどうでしょう?」

 

「はわっ!? そ、そんな手があったなんて・・・」

 

「あわわ、不味いよ。

左陣の戦況が引っ繰り返っちゃった。

はっ!? でも、まだこの手が残っています!」

 

「なっ!? 左陣を捨てて本陣を攻め切ろうと言うのですか!?」

 

「ふむ、しかし甘いのですよー、えい」

 

「? 一体この手には何の意味が?」

 

「”ヒソヒソ”掛かってくれれば勝ちなのですが・・・」

 

「”ヒソヒソ”なまじ頭がいい分引っ掛かってくれる事間違いなしですよ。

そうですねー、十面埋伏とでも名付けましょうか」

 

 

一刀の天幕内で行われていたのは、稟と風、そして諸葛亮―朱里と鳳統―雛里が、将棋盤の様な物を挟んで対峙し、勝負しているらしき状況。

因みに、最初の辺りで一刀を諫めたのは円である。

一刀が入ってきた事にも気付かず、四人は頭をフル回転させている。

 

 

「・・・これで、詰みに後一手!」

 

「"ニヤリ”引っ掛かってくれましたか・・・はい、詰みですね」

 

「あわっ!? 嘘、右陣の抑えの意味が無くなっちゃった!?」

 

「はわっ!? このままじゃ攻めの為の軍勢が全滅してしまいます!?」

 

 

どうやら風達が奇手を仕掛け、朱里達は読み切れず不利になった様だ。

一刀には何が何やらさっぱりだったが。

 

 

 

 

「で、何で俺の天幕にいた訳?

円だけならともかく、軍師の皆は」

 

 

勝負を終えた軍師四人組に一刀が真っ先に行ったのは、そんな問い。

因みに勝負は風と稟タッグの勝利だった。

 

 

「あ、あのっ、じちゅは献策しに・・・」

 

 

一刀の問いに答えたのは、朱里。

緊張からか、噛んでしまい涙目だ。

ほんのり癒される一刀であった。

・・・風のジェラシービームには全く気付かず。

 

 

「私達も同様なのですが、策の中身がまるで別物なので・・・・・・」

 

「仕方が無いので、より有能な軍師の側の策を渡そうと言う事になって、「あれ」で雌雄を決したと言う訳ですー」

 

 

そう言って、不機嫌そうなまま、盤を指さす風。

それを聞いて、一刀は大きく溜息を吐いた。

不思議そうに眉を顰めるのは稟。

 

 

「あのさ、一応俺も総大将な訳だから、色々と考えてるの。

だから献策するんだったら、省いたりとかせずに全部提出してくれ。

そうすれば、何も問題ないだろ・・・最後に決定を下すのは、一応だけど俺なんだから」

 

「・・・成程」

 

 

納得いったように頷く稟。

朱里と雛里も、互いに顔を見合わせて頷き合っていた。

最も、風だけは多少不満そうだったが。

 

 

「で、だ。

皆の策を見せて貰いたい」

 

 

そう言われてすぐ、雛里と風が木簡を一刀に差し出す。

紐を解き、中身を読み始める。

その間、軍師達は固唾を飲んで一刀を注視していた。

まずは朱里と雛里が出した木簡から。

読み進めていく毎に、一刀の表情は解れていく。

それに、二人共ホッと安堵の溜息を吐いた。

続いて、稟と風が出した木簡を。

此方も、読み進めていくにつれて、一刀の表情に納得した様な色が混ざる。

それを見る稟と風は、先の二人とは違い「この程度当然」といった様な堂々とした態度。

 

 

「よし、決めた。

両方の策の良い部分を合わせて使わせて貰うよ」

 

 

その発言に四人揃って軽く驚くが、その概要を聞き、同時に感心せざるを得なかった。

 

 

 

 

―――夜

 

洛陽から然程離れていない土地に、軍で使う天幕の様なテントが大量に張られていた。

しかも、その周りには煌々と火が焚かれ、周りには武具を持った黄巾が犇いている。

 

その光景を、天幕入り口から外を見る女性の影。

その女性は、溜息を吐いた後、入り口を閉じた。

 

 

「駄目ね、逃げようにも数が多過ぎるわ」

 

「うぅ~、お姉ちゃんもうこんな生活終わりにしたいよぅ・・・・・・」

 

「どうしようもないって事なの!?

こんなのってないじゃない! 私達はこんな事したくなんてなかったのに!!」

 

「ちぃ姉さん・・・」

 

 

眼鏡の位置を直しながら、涙ながらに叫ぶ自分よりも小さな姉、張宝―地和に苦しさの籠った視線を向ける、張梁―人和。

彼女達、今机に突っ伏している長姉張角―天和を含め張三姉妹は、今大陸中を騒がしている黄巾の乱の首謀者『という事になっている』。

 

最初は、彼女達とてこの様な乱を起こす気等、これっぽっちも持ってはいなかった。

それが狂い始めたのは、彼女達が陳留で受け取った「太平要術書」を使い始めてからだ。

その本に書いてある通りにして、順調にファンを増やしていった三姉妹だった。

が。

ある時彼女達がスローガンとして掲げた言葉「歌で天下を取る」というのが、拡大解釈されて始まったのだ、大反乱が。

しかし、それだけでは説明がつかない。

そもそも、黄巾党の証明とも言える、黄巾は元々彼女達のファンが身に付けていた物では無いのだから。

それが何時の間にか、「黄巾」として認識されていたのは彼女達自身が最も驚いたものだ。

つまり、彼女達のファンと反乱の主導となっている存在は別物である。

少なくとも人和はそう認識していた。

 

 

「脱走するにしても、機会がある筈よ。

私達がいなくなってもおかしくない瞬間が・・・・・・そして、また姉妹三人で一からやり直しましょう?」

 

「・・・うん、私も一からやり直したい。

こんな本に頼っちゃったからいけなかったのかなぁ・・・」

 

 

手を伸ばして、太平要術書を取る天和。

古ぼけた本は、何も返事を返さない。

 

 

「貸して姉さん! こんな、物!!」

 

“バァン!”

 

 

天和の手から太平要術書を引っ手繰って、地面に叩き付ける地和。

その目から、大粒の涙が次々と零れ落ちる。

彼女自身悔しかったのだ。

三人の夢は、歌で皆を虜にする事。

彼女達の名前を聞いただけで、未来への希望を、生きる気力を見出せる。

そんな者に成りたかった。

だが、現実は真逆。

今や彼女達の名は恐怖の代名詞。

彼女達の名前が戦場に出るだけで、世にも悪しき賊の軍勢が気炎を吹き上げる。

そんな存在となってしまっている。

彼女達の苦しみは、当然だった。

 

 

 

 

第十二話:了

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

クオリティ、低ッ!!

セルフ突っ込み再びです。

 

今回、皆の医者王が登場です。

 

ここからの展開は事前に言っておきますが、超展開の嵐です。

どうか見捨てないで下さい!!

 

レス返し

 

 

RING様:予想以上に華蘭が大人気!?

 

tomo002様:感想ありがとうございます!

 

砂のお城様:争奪戦はまだ暫くは進展無しです。 後、風は本編でも結構嫉妬深いです。

 

2828様:白澤はとっくの昔に一刀の虜w

 

はりまえ様:まだ増え・・・ゲフンゲフン!!

 

水上桜花様:目と目が逢った瞬間好きだと気付きました。

 

赤字様:御理解していただきありがとうございます!!

 

mighty様:すいません、少しだけ少なくなります。 けど・・・何・故・ば・れ・た・し!! 一勢力につき、必ずメインヒロイン級の人が一人以上います。

 

poyy様:華蘭人気予想以上でした、こんな恋姫が欲しかったなぁ・・・という妄想を投入した子ですから。 そうか、皆華蘭みたいな恋姫を望んでいたのか!!

 

瓜月様:美羽には、一刀を「主様」と呼んで欲しいのだ! 悪いか! 後風は自分にとっても嫁です!!

 

takewayall様:多分自然と落ちます。 後、朔夜は一刀に此方の字の読み方とかをマンツーマンで教えた際に、幾らか天の国の言葉を一刀から教わってます。

 

リョウ流様:自分のテンションによって、出来の差が激しく変わってしまうのが悩みの種です・・・

 

kyou様:本当に応援ありがとうございます!!(土下座) ご期待に沿える様頑張ります!!

 

 

さて、と・・・

実はこれから学校のテスト期間に入りますので、約二週間更新がストップします。

終わり次第全速力で復帰しますので待っていて下さい!

 


 
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