No.155889

ハーレムキングをブッ飛ばせ!プロローグ

竜人機さん



 個人的に美少女たちにモテモテのハーレム主人公なキャラの友人が主人公という作品を2~3目にし、ふと目にした作品はどれもモテモテのハーレムな友人に思うところがありながらも受け入れ、一応友好関係を築いている―― 友人なんだから当たり前なんですが ――けど敵意とか負の念とか持っても良いじゃんないか? と思い付き、執筆意欲がドババッと妙な感じに出てきてしまって書いてみることにしました(^^;

 しかも現代学園物でほのぼのとか書けそうにないので魔法ありの異世界召喚に決定。さらに自分の力量を無視してダンジョン探索物MMORPG風という無謀な設定というかジャンルも追加(爆

続きを表示

2010-07-07 13:09:25 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2623   閲覧ユーザー数:2506

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、来栖川君に付き纏うのはもう止めてください! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後の昇降口で偶然一緒になって二人っきり、開口一番オレが一目惚れしつつも諦めていたクラスメイトの女子、雨宮さんが口にしたのはオレの硝子の心を粉々に打ち砕く鉄槌の如き言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       ハーレム野郎(キング)をブッ飛ばせ!

 

 

             プロローグ

 

 

          『その男、不運につき』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレの名は田中 二郎。

 

 かっこいい名前やかわいい名前に凝った名前。頭を悩ませ考えた名前を子に付ける親たちが多い昨今、逆に珍しいのではと思えるほど捻りのない名前だが、カタカナでジローと書くと結構かっこいいなと思えたりして自分の名前は意外に気に入っている。

 

 自慢は理由はともあれ同世代から抜きん出た運動能力を持つ鍛え抜いた筋肉質なこの身体。

 

 そしての最大のコンプレックスは目下のところ中学二~三年辺りで身長が止まり、身長164cm弱と背が低いこと。

 

 そんなオレは現在不良のレッテルを張られ、巷の不良たちからは「猟拳のジロー」「凶拳羅刹」などと恥ずかしい名前を付けられているが些細なことだ。

 

 そう、オレが6年余りもの間 味合わされ苦しめれらてきているモノに比べたら、本当に些細なことだ。

 

 

 来栖川 秀人

 

 自称オレの親友を騙る我が最大の天敵にして怨敵。オレの味わい続ける苦しみの根源。絶っても断ち切れぬ呪い。

 

 フランス人だかイギリス人だかの母親を持つハーフで茶髪碧眼、長身痩躯な身長180cmの超美形(超イケメン)。

 

 成績優秀スポーツ万能。なよった見た目に反して腕っ節は恐ろしく強く、天が二物も三物も与えた優等生の天才児。

 

 性格は気さくで品性良好、フェミニストで鈍感無自覚天然ジゴロのお人好し。

 

 困っている人(女性)は放っておけない、自分がどうなっても何が何でも助けるという性分の持ち主であり、良くも悪くも掛け値なしの善人(オレから言わせれば独善だが)。

 

 そして極度の色恋旗製造機(フラグメイカー)にして色恋に関わる全ての旗を奪う者(フラグゲッター)。

 

 そう、来栖川 秀人とは、ハーレムルート爆進中のギャルゲ主人公やほぼ無条件に周りの娘たちから好意を向けられるラノベ主人公の如きハーレム野郎。世の男共が必ず一度は妄想し羨み妬む存在、その体現者。

 

 

 

 思い起こすのも忌々しく、鬱になりかける奴との出会いは小学5年の5月中頃。

 

 オレの通っていた小学校はオレのクラスに奴は転校、転入してきた。

 

 第一印象からしてオレは奴が、来栖川 秀人が気に入らなかった。

 

 理由は当時のオレが気にしていた―― 今にして思えばアレがオレの初恋なのだろう ――クラスメイトの女子が奴の自己紹介で見せた微笑に頬を染めて見惚れていたから。

 

 だから最初、奴を気にらない理由は嫉妬からだった。

 

 しかし、奴はそんなことお構い無しにオレの行く先々に現れてはオレを振り回し、なにか事件があれば首を突っ込んでこちらの意思を無視してそれに巻き込んだ。

 

 最初の内はまあオレ自身子供だったこともあって冒険気分で笑っていられたし、子供心の一時的な気の迷いとはいえ来栖川 秀人を良い奴だと友人として認めてしまっていた。すぐに奴への評価やらは元に戻るどころか最悪な物へと下降修正されていったが。

 

 奴、来栖川 秀人だけが良いとこ取りで良い思いをし、オレの身体を張った苦労は誰からも正当な評価をされず、それが目的でなかったとはいえ礼も賞賛もない。さらに女の子はみんな来栖川 秀人に好意を抱き、来栖川 秀人の下へと集まり人目も憚らずイチャイチャしているとくれば当然と言えば当然。そんなことが何度も何度もあれば尚のこと。

 

 例えば悪漢に襲われている女の子を助けに行けば、当の女の子は助けに入った来栖川 秀人だけしか見ておらず、悪漢を直接叩きのめし身体を張って守ったオレには見向きもしない。それどころか悪漢を倒したのも来栖川 秀人がやったことにされているのだからたまったものじゃない。

 

 行く先々で来栖川 秀人は女の子がらみの事件に遭遇し、そして来栖川 秀人が首を突っ込んだ事件や騒動にことあるごとにオレは巻き込まれ、そのフォローに露払いに尻拭いまで不本意にもやらされて、その上 事件解決の功績や女の子の好感度は全て来栖川 秀人が一纏めに掻っ攫って行く。

 

  奴は「君の物は自分の物、自分の物は君の物」というような分かち合い精神でオレの喜びや手柄は自分の物で自分の喜びや手柄はオレの物だと心底思っており、オレが自分に近い価値観―― 分かち合い精神と困っている人は放っておけない、自分がどうなっても何が何でも助けるという性分 ――の持ち主なのだと何一つ疑わずそう思い込んでいる。

 

 だからオレが正当に評価されていないことへ対して抱え込んでいる負の念に奴は持ち前の天然もあって全く気付いちゃいないのだ。

 

 嫌なら巻き込まれたとはいえ逃げれば良いだけの話だが、奴一人ひどい目に遭うなら兎も角事件や騒動が女の子がらみで女の子がひどい目に合わされるかもしれないとあってはそれも後味悪くて出来やしない。

 

 

 ほとほと自分のお人好しぶりが嫌になる。

 

 

 

 

 

 

 そうしてそんなことが平日休日祝日連休大小合わせて一年以上続き、決死の思いで告白を決意した好きになった女の子も当然だというように掻っ攫られた挙句、誰もオレを評価してくれない見てくれない、親にさえ自分の悩みと苦しみを理解してもらえないとなればグレてしまうのは当たり前の成り行きで、グレにグレてやさぐれて小六の夏休みが終わった頃には三白眼であったことも相俟って既に小学生とは思えないほどの目付きの悪さと柄の悪い子供になっていた。

 

 だから中学に入ったら自然な流れのように不良になり、学校は連日サボり鬱屈したモノを吐き出すように日がな一日老若男女問わずに不良やヤンキー、イカレタ連中相手に毎日刃傷沙汰を物ともしない喧嘩に明け暮れた。

 

 だというのにそれでも奴はオレに憑き纏い続け、望んでいないのに小学校の頃と変わらず奴のフォロー露払い尻拭いをやらされた。

 

 何度 面と向かって殺意と憎悪に満ちた目で睨み「お前が大嫌いだ」と言い、拳を振り上げたか知れない。

 

 しかしその都度 奴は笑顔でオレの渾身の拳を事も無げに受け止め、「大丈夫、ちゃんと君のことはわかっているから」などと言うよう目で、オレの自分に対する言動態度を友情の照れ隠しだと勝手に決め付け自己完結し、笑顔で流しやがる。

 

 それだけなら反吐が出るほど最低最悪な気分だがまだマシな方だ。

 

 奴を取り巻くハーレムメンバー、美少女と名高い女の子たちに目の敵にされて邪魔者と睨まれ、時には罵られることがあった日には特殊な性癖もなく、拳は鋼で心は硝子のオレにはたまったものじゃない。モノによっては立ち直るのに三日以上掛かった時もあったほどだ。

 

 それ故に、来栖川 秀人を殺して自分も死ぬというのは考えたことがある。

 

 もっとも死後とは言え、根も葉もないBL染みた愛憎劇を噂されるのは真っ平御免だったから考えた先から実行に移す気も失せた。

 

 勿論自殺も考えた。

 

 ただ、いざ実行に移そうとした時、なぜだか悔しさが溢れて、このまま死んだら奴に親友面されたまま一矢報いることもなく負けるのだと思い至り、悔し涙の血涙流して夜の街へ。夜が明けるまで狂獣の如く喧嘩に暴れ回り、成り行きで危ない自由業な事務所を一つ完膚なきまでに壊滅してしまい「猟拳のジロー」「凶拳羅刹」などという二つ名で広く呼ばれる切っ掛けになったのは今では青春の一頁のようなほろ苦い思い出だ。

 

 ともあれ、「来栖川 秀人に憑き纏わられる→フォロー露払い尻拭いをやらされる→イチャイチャハーレムを見せ付けられるorハーレムメンバーの女の子に邪魔者と敵視される→やさぐれ荒れる→喧嘩に明け暮れる→Endless」というそんなことを繰り返し続く日々にオレはとうとう警察に捕まり御厄介になるまでに至ってしまった。

 

 その頃が人生で―― 半世紀どころか20にも満たないまだまだ短い人生だが ――最悪の時だったと思う。

 

 よくもまあノイローゼや鬱などにならなかったものだと今更ながら自分に感心するくらいアノ頃は真っ暗闇のドン底に居た。

 

 それこそ矢車のアニキに出会ったら地獄兄弟の末弟に迎えてもらえるだろうほどに。

 

 

 そんな際限なくやさぐれた最悪の時期にあったオレを迎えに来たのはちょうど連休で帰省していた八つ年上の兄、田中 一郎だった。

 

 

 兄は寡黙な人だった。

 

 今時珍しいスレたところのない無口で真面目で実直で穏やかな雰囲気を持った人で、特に怖いわけでもないのに小さい頃からオレはこの人にだけは何故か逆らえなかった。

 

 警察から連れ帰られる道すがら沈黙が嫌で気付けば訥々とこうなった理由を口していた。

 

 やはり寡黙な兄は何も言わず、ただオレの隣を静かに歩いているだけだった。

 

 そしてオレが全て話終えると兄はオレの頭を撫でた。労わるように、慈しむように。

 

 「大変だったな」「辛かったな」「よく頑張ったな」「助けてやれなくてごめんな」と、物言わずとも雄弁に語る兄にこの人はオレを見ていてくれる、認めてくれる、理解してくれるとわかってオレは泣いた。みとっもなく、子供のように。

 

 

 それを機にオレは立ち直った。

 

 今まで迷惑と心配をかけた両親と兄のためにせめて高校を出て一人立ちして見せようと高校受験目指して遅れを取り戻すために猛勉強した。

 

 志望校が来栖川 秀人の第二志望校ではあったが、なんとか無事に受験に合格し、奴は第一志望校に合格したと言う情報もありこれで縁が切れると思った矢先のこと。

 

 

 なんと奴はこともあろうに「やっぱりジローと一緒じゃないと」という理由にもなっていない理由で合格した第一志望校を蹴って第二志望であったオレがやっとの思いで合格した高校へ入学して来やがった。

 

 天国から地獄へ蹴落とされる心境とは正にこのことだという絶望を味合わされたオレが、小学校中学校と変わらぬ日々が繰り返させられて再びやさぐれて荒れていくのにはさした時間は掛からなかった。

 

 だがそれでも、兄へと誓った思いから奴と顔を合わせることも小学校中学校と変わらぬ目に遭うのも苦痛ながら耐えに耐えて学校はサボらずに通い、真面目に勉強に励み続けた。

 

 

 再び夜遅くまで喧嘩に明け暮れる日々を過ごしていたために中学同様に不良のレッテルを張られはしたが。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、憑き纏われているのはオレの方なのだが、天然天才優等生の来栖川 秀人だけを見てオレの事情―― 苦悩やら絶望やら ――を知らない周りにはそう見えないわけで。

 

「……………」

 

 今にも泣きそうな顔でこっちを気丈に必死に睨む雨宮さん。

 

 怖いのなら止せば良いだろうに、そんなに奴が好きなのか? いや、好きだからこそ、か。

 

「…… ハァ」

「!? 」

 

 思わず大きな溜め息を吐くと過剰反応とも思えるほどビクつき半泣きになる雨宮さん。

 

 これじゃあオレが言い掛かり付けて泣かせてるみたいじゃないか、クソッ。

 

 これもそれも奴のせいだ。

 

 何が友達だ。何が親友だ。人が悩んでるのも苦しんでるのも、そして嫌っていることにさえも全く一切気付きもしないでヘラヘラヘラヘラ笑って可愛い女の子たち侍らせやがって。

 

 大体、雨宮さんが奴に惚れた切っ掛けだって、雨宮さんが貧血で気を失って階段から落ちそうになったところを助けて保健室に運んだのは本当はオレなんだぞ。それを、オレが雨宮さんを保健室に運んでることを聞いて保健室に来た奴がたまたま目を覚ました雨宮さんを気遣ったりしただけだったのに、奴は何もしてないのに雨宮さんを助けたのも保健室に運んだのも毎度のように全部奴ががやったことになって。

 

 本当にオレにとって来栖川 秀人は存在そのものが呪いだ。究極最悪の疫病神だ。

 

 

「……… 縁を切りたいのは、こっちの方だ」

「え?」

 

 そう吐き捨てて彼女に背を向けて校舎の外へ。何にも見向きもせずにただまっすぐに早足に校門通り過ぎる。

 

 

 肩を怒らせズンズンと家路を進んでいく。

 

 今日も帰ったら早々に宿題を済ませ、繁華街は不良共の溜まり場へ乗り込むこと決定だ。

 

 最早 不良を始めとした街の危ない連中を標的に喧嘩で憂さ晴らしするのは中学からの日課になってしまっている。

 

 自分でも不毛だと、止めるべきだとわかってはいるが止めるに止められない。

 

 もし止めたら自分が保てなくなるか、厭世観に囚われて奴から逃れるために孤独死するまでどこぞに引き篭もるかだろう。

 

 こんな殺伐とした方法でしか、暴力でしか自分を保てないなど既にオレはどこかおかしくなっているのかもしれないが。

 

 

「ジロー! 」

「ッ゛!? 」

 

 不意に背後から掛かった朗らかで喜色溢れているだろう忌々しい声。

 

 振り向かずともわかる複数の気配を引き連れた気配。

 

 苦虫を十匹二十匹纏めて噛み潰し、ただでさえ三白眼で険しい目付きをさらに険しくなるままに振り向けば案の定、学園の綺麗どころで構成された麗しき美少女たちを侍らすハーレム野郎(キング)、来栖川 秀人が無駄に爽やかな笑顔でこちらに駆け寄って来た。

 

 忌々しいことに登下校路が来栖川 秀人と途中まで一緒なのだ。だから登校時は―― 喧嘩で夜遅くまで活動していることもあって ――遅刻ギリギリで、そして下校は日直で無い限りHRを終えたら早々に校舎を出て、来栖川 秀人と出くわさないよう足早に帰っているのだが、どうやら思いのほか雨宮さんとのことで足止めされていたようだ。

 

「帰りが一緒になるなんて久しぶりだね」

 

 女性受けの良い、俗に言うニコポな笑顔でそんなことを言ってくる。こっちは出遭ったからと言って貴様と一緒に帰る気はさらっさらっに無いんだがな。というか近づいて来るな。引き連れてるハーレムメンバー7人の中で気の強い娘たちが「この邪魔者が! 」みたいな感じに睨んでくるだろうが。

 

 本当にコイツはなんでオレを見つけると傍にいる美少女の相手より優先してオレに声を掛けて近寄って来るんだよ。実はホモとかゲイでしたとか女の子でしたとか言うんじゃないだろうな。

 

 

 …………… やばい、想像したら鳥肌と吐き気が。

 

 

 まあ兎に角、付き合ってやる必要は無い。さっさと分かれ道まで行って一人になるに限る。

 

「秀人、新しいお店が出来たんだけど、良かったら寄っていかない? 」

「あ! わたしもそのお店知ってるっ知ってる。ケーキが美味しいって評判のとこだよね♡ 」

「紅茶やコーヒーも本格的で、殿方も入りやすい雰囲気のお店だとか? 如何なさいますか秀人さま」

「うーん、そうだね……」

 

 高校に入ってから新たに出来たハーレムの中核メンバーにして学園トップ3の美少女3人、霧埼 翔子、市瀬 真衣、小鳥遊 命(たかなし みこと)らが筆頭に甲斐々々しいと言えるほど来栖川 秀人を構いたて、少女たちそれぞれがスキンシップを図っている。

 

 奴はそれにはにかむような笑顔で応え、近づき難いイチャイチャと甘ったるい自分達の世界を見事なまでに形成している。

 

 見る者によってはA.Tフィールドとか固有結界とかみたいな大量のピンクなハートが飛び交う力場や結界が形成されて見えるに違いないそれは、オレでなければ大量の砂どころか砂糖を吐いた末に精神汚染を受けているところだ。

 

 このような光景、6年余り間近で見せ付けられてきたオレには耐性が出来ている。故に砂糖を吐くことも精神汚染でダウンすることも無い。ありがたくもなんともないことだが。

 

「それじゃ行こうか」

 

 突然奴はそう言ってオレに笑顔を向けてくる。さっきの想像もあってまた鳥肌が立ってしまった。

 

 というかオレの意思の確認も取らずに同行することは決定済みか。おかげで一部から殺意と言わないまでも敵意に満ちた視線がズサズサ刺さって来るんだがな。

 

 大体「あーん」とか言いながら食べさせ合いとかのイチャイチャ、目の前特等席で見せられてたまるか。耐性があっても不快なものは不快なんだよ。

 

「用事がある、直帰だ」

 

 オレに構うんじゃねぇと隠すことなく不機嫌さを滲み出しながらぶっきらぼうに断りの答えを出す。

 

 集団から少しでも離れるために足早に先へ進みながら一日も早く奴と縁を切りたいと思いつつも高校卒業したくらいじゃ奴との縁は切れないんじゃないかとか嫌過ぎる確信染みた思いが頭を離れない最近、もういっそのことどこぞのラノベやら創作小説みたいに異世界とかにでも召喚されればとかバカみたいなことを考えてしまう。最早世界を隔てでもしない限りこの来栖川 秀人との呪い染みた縁は断ち切れないんじゃないかと真剣に考えたり、それだと兄と両親に心配や迷惑を掛けてしまうから奴の方が異世界に召喚されてしまえとか心底本気でそんな考えが浮かぶ。

 

 どうせ奴のことだ、異世界へ行ったとしても変わらず無自覚天然ジゴロを発揮してハーレムを形成し、美女美少女に囲まれてよろしくやるに決まっている。

 

「何だろう、アレ? 」

「秀人君? 」

「なになに? もしかしてシュウ君てばUFOとか見つけちゃった?」

「いや、あそこに鏡か渦みたいなのが」

「鏡? 渦? どこにそんな物があるの? 」

「見えてないの? あそこにあんなにはっきり大きくあるのに」

 

 別段聞き耳を立てるつもりはなかったが、複数人が後ろでわいわい騒げば興味が無くとも話の内容は嫌でも耳に入ってくるもので、わずかに膨れた好奇心から顔を上げ、上空へ目を向けた。

 

 

 

 後に思い起こせばこの時、妙な好奇心になどに従わず、全て無視して足早にさっさとその場から去っていれば毎度のようなことにはならなかったのだ。

 

 まあアレを目にしたその時は神さまなんて居ないと思ってたけど本当は居たんだなとかこれで奴との縁も切れる、永遠におさらばだ! とか浮かれたことを考えて歩みを止めて無防備にぼさっと突っ立てたのもいけなかったんだが。

 

 

 

「くっ!? 」

「秀人? 」

「どうなさいました? 」

「!? 秀人くん!! 」

 

 そんな声を耳にした次の瞬間。ガクンッという衝撃と共に右肩から強く引っ張られる感覚が襲い無意識に足に力を入れ腰をわずかに落として踏ん張る。

 

 一体なにごとだと右肩に掛かる負荷の正体を見ればオレの着ている制服の肩口を片手で掴む奴の姿。

 

 どうやら上空のアレ―― 恐らく異世界との門(ゲート) ――の力が来栖川 秀人一人にのみに強く働いているようで、掃除機のバケモノにでも吸い込まれるように奴は門(ゲート)へ引き寄せられてその身体を宙に躍らせていた。

 

「っ、ジロー……」

 

 なんだその差し伸べられた手を掴み取って助かったありがとう的な面は。オレは助けの手なんぞ差し伸べた覚えなんてこれっぽちもないし勝手に掴み取ったのは手前だろうが。大体女の子絡みでもなきゃオレに貴様を助けたり手助けしたりする気なんざ義理と人情含めて1ミクロンたりともないんだがな!

 

「秀人! 」

「秀人さん!」

「来るなッ!! 」

「!?」

 

 事態の異常さに呆気に取られていたハーレムメンバーの娘たちがやっと我に返り奴を助けに動き出そうとしたのを怒鳴りつけて制止する。

 

 呪い染みたクソッタレな奴との縁を断ち切るこの絶好の機会、邪魔されてたまるか。

 

「ちぃッ」

 

 しかしそう思うものも束の間、門の吸引力が増したのか吸い込まれる奴に合わせ、まるで奴に引っ張られるように踏ん張るオレの足が地面を引き摺られていく。

 

 制服の肩口を掴む奴の手の手首を力の限り握り締めて何とか引き剥がそうとするが服の肩口を掴む奴の手は一向に緩む様子が無い。

 

 オレは握力300以上の上に未開封中身入りの硬い小さい缶ジュース片手で握り潰せるってのになんでひょろい身体してるクセにコイツは骨も折れずに平気な顔してるかな。

 

「ジ、ロー……っ」

 

 縋るような目で空いてる手を伸ばしてくるなこの野郎! もうこれ以上何かにオレを巻き込むんじゃねぇっ! というか大人しくこのままアッチに逝っちまいやがれッ!

 

 

 もうこうなったら一、二発かまして殺っちまうしかない。

 

 

 そう思って空いている左手で拳に握り込んだ丁度その時だった。

 

 

 

 

 

 門の吸引力が一気に増し、吸い上げられる来栖川 秀人に引き摺られてオレの身体も宙へ舞い上がったのは。

 

 

 

 

 

 

 事態を理解した時には既に遥か上空から眼下の町並みを見下ろすほどに空高く門目掛けて吸い上げられていた。

 

 

 

 

 

 

 その時のオレの心境は驚きだとか混乱だとかではなく、只々周りに誰も人が居ない無人の場所に放り出されたのなら、法も誰の目も憚ることなくこの自分を助けるためにオレが力を貸してくれているなどと都合の良い解釈をして他人(ヒト)を巻き込むクソッタレ野郎を絶対にムッ殺して縁を絶ち切ってやるという殺伐殺意満載な恐ろしいくらい凪いだ冷め切った物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………つづく

 

 

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択