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飛天の御使い~第弐拾六幕~

eni_meelさん

いよいよ北郷対蜀の戦いの幕が切って落とされた。
それと同時進行の人質救出作戦。星たちは無事に人質を
救出することが出来るのだろうか?
そして戦は衝撃の展開を迎える。

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2010-06-30 19:49:22 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:3411   閲覧ユーザー数:3025

はじめに

 

この作品の主人公はチート性能です。

 

キャラ崩壊、セリフ崩壊、世界観崩壊な部分があることも

 

あるとは思いますが、ご了承ください。

 

 

長安

 

2面作戦の一翼を担う星と恋は、無事長安への潜入に成功していた。長安から少し離れたところには、逃亡の際の追撃部隊用に5百の兵を伏して配置してある。

 

「さてと、話ではこの街のどこかに監禁場所があるとのことだが・・。とりあえずそれとなく探ってみるか。」

 

星と恋は長安の街をぐるりと見て回ってみた。そんな街の一角、路地裏の建物の前に警備している兵たちを見つける。街中見回してそんな建物はここしかないし、こんな路地裏の人通りの少ない場所に警備兵がいること自体が怪しい。そう思った星はその建物への侵入を決意する。そんな星が恋にあるものを渡した。それを受け取った恋は「??」といった感じで首を傾げる。

 

「・・・・・星、・・・・これ何?」

「これは変装用の仮面だ。これを被れば敵に正体がバレる心配もないし、なにより美と正義の使者『華蝶仮面』に変身できる優れものだぞ。」

 

恋の質問に胸を張って答える星。

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

そんな星に恋は返す言葉もみつからなかった。恋はとりあえず星から受け取った仮面を被ってみる。たった仮面一枚なのに、何故か力が湧いてきた?!ような気がした。そんな恋の姿にウンウンと頷く星だった。

 

「よし、恋。潜入するぞ。」

 

そういうと2人はその建物の影から屋根に上ると、入り口のちょうど真上に位置づいて持っていた石ころを向かいの建物へと投げる。その音に見張りの兵はそちらのほうへ視線を移す。そんな兵の背後に飛び降り、一瞬の内に気絶させる。そのまま建物の中に潜入する。そのフロアには他に監視等の兵は確認できない。そのまま建物の奥へと進んでいくと、地下へ向かうための階段があった。それを気配を消して慎重に降りていく。

 

(見張りは5名か・・・・。これならなんとかなるか・・・・。)

 

そう考えて、徐に星は龍牙を構え恋も方天画戟を構える。

 

ガサッ

 

「・・・っ、何者だ?」

 

見張りの兵のその言葉を合図に星と恋は駆け出して兵たちを討ち伏せていく。幸い見張り兵は増援を呼ぶ前に片付けることが出来た。その兵たちが配置されてあった部屋を覗くと各部屋に十数人ずつ監禁されているようだ。それらを一つずつ開放していく。そんな中、星は一刀の報告にあった璃々という少女を探していた。

 

「この中に『璃々』殿はいらっしゃるか?」

「・・・・・お姉ちゃんたち、誰?」

 

星の問いかけに部屋の奥から一人の少女が歩みだす。その姿を確認し、星は

 

「そなたが璃々殿か?」

 

そう尋ねると、少女はコクリと頷く。星は仮面をとって璃々に目線を合わせて話す。

 

「我が主、『北郷様』の命により璃々殿を助けに参った。我が名は趙雲。こちらは供の呂布。そなたを母君・黄忠殿のもとへと連れて行こう。」

「・・っ、お母さんの所に?」

「あぁ、だから行こう。ここにいる皆も私たちに付いて来てくれ。」

 

そう言って部屋を出ようとする趙雲の腕を掴んできた璃々が、

 

「あたしの友達が一人ここにいないの。さっき兵隊さんに連れて行かれちゃって・・・。その子、兵隊さんから毎日毎日暴力振るわれて・・・・。全身傷だらけで・・・。このままじゃ殺されちゃう。だからその子も助けたいの。お姉ちゃん、ねねちゃんを助けてあげて。」

 

そう懇願する。その頼みに星と恋はコクリと頷いた。

 

「して、その子は何処に?」

「多分、奥の部屋に連れて行かれたからそこにいると思う。」

 

璃々は奥のほうにある扉を指差す。

 

「皆、暫くここで待っててくれ。その子を連れてき次第ここから脱出する。」

 

そういうと星と恋は、奥の部屋へと入っていった。

 

 

そこは、部屋というよりは廊下といった感じで別の建物に通じているような造りだった。その廊下を歩いていると、奥の部屋からは泣き声と叫び声が聞こえる。声の感じから璃々がさっき言っていた子だということが分かる。そうっと部屋の戸を開けて中を覗き見た星と恋はその光景に驚いた。そこにいたのは3人の兵士と1人の少女。ただその少女の手は壁に短刀で磔にされている。そこからは血が滴り落ちている。少女は苦痛に顔を歪め、その顔はいたるところにアザが出来ていて酷い有様だった。

 

(・・・・こんな残虐なことを・・。・・・・・許さん!)

 

次の瞬間、星は扉を蹴破る。その音に驚いた兵士たちが星たちの方へ視線を移す。星と恋は憤怒の表情を浮べている。そして兵士たちにズカズカと近付いていく。

 

「悪党共!力の無い少女を寄って集って乱暴するとは許さん!」

「なんだ、貴様らは?」

「我が名は常山の趙子龍。我は北郷に遣わされし悪を討つ正義の槍。貴様らのような下種どもは、例え天が許しても、この趙子龍が許しはせん。覚悟せよ。」

「呂奉先。・・・・お前ら、・・・みんな死ね!」

 

名乗りを上げた星と恋は兵士たちを一瞬にして斬り伏せる。そして、磔にされた少女を助けに行く。

 

「少し、我慢してくれ。」

 

そういうと星は磔にしていた短刀を少女の手から抜く。

 

「・・うっ・・・・・。」

 

少女の表情は苦痛で歪む。そんな少女の顔を見た恋が何かに気付いた。

 

「・・・・ちんきゅー・・・・?」

 

恋のその呟きに、少女はピクッと反応して恋の方を見る。その瞳からは涙が流れ落ちてきた。

 

「・・・・呂布様??・・・・・・・呂布様!」

 

少女は立ち上がると恋に飛びついて恋の胸に顔を埋めると

 

「呂布様ぁ・・・・うわぁぁぁぁぁぁんーーー。」

 

そういってわんわんと泣き出した。そんな様子を見ていた星が恋に尋ねる。

 

「恋、知り合いか?」

「・・・・・恋の幼馴染。・・・・でもどうしてこんなところに・・・?」

 

そう聞こうとした恋だったが、少女は恋の胸の中ですぅすぅと寝息を立てていた。

 

「きっと、こんなところで酷い目に遭っていたのから解放されてホッとしたのだろう。」

 

星はそういうと部屋を後にする。恋は眠っている少女を抱え星の後を追った。

 

この施設に監禁されていた数十名は、北郷軍に無事保護されたのだった。

 

 

許昌・近郊

 

そこでは、北郷軍と蜀・魏の連合軍との戦が行われようとしていた。蜀軍は一刀の予想通り、右翼前衛に黄忠率いる部隊、左翼前方に張任率いる部隊、そして中央前衛に春蘭率いる魏軍が配置されていた。そして本隊中央には『鄧』の旗。これは劉璋の側近である鄧賢(とうけん)のもの。今回の軍は鄧賢が統率しているということだ。その数は、蜀本隊が10万、魏軍が3万、黄忠・張任の部隊が2万。対する北郷軍は北郷軍7万、夏侯淵隊で1万。圧倒的に敵軍が優勢だ。そんな中、敵中央の春蘭の部隊が吶喊してきた。朱里と詠はすぐさま中央の部隊に秋蘭の部隊を当てるよう指示を出す。敵両翼には、翠たち率いる西涼騎馬隊1万と霞率いる張遼隊1万で牽制するように指示を出し、残りは秋蘭たちの部隊の補佐に割り当てる。両翼は予定通り膠着状態になった。一刀はそれを見て中央に展開する秋蘭たちのもとへと走る。吶喊してくる春蘭の部隊には予想通り沖田・永倉両名がいた。

 

「夏侯淵殿、沖田と永倉は俺たちが引き受ける。君たちは夏侯惇を頼む。」

「あぁ、姉者は私たちが止めてみせる。」

 

その答えに一刀は微笑むと、一刃、愛紗、鈴々を連れて沖田たちのもとへと駆けて行った。

 

「よし、姉者を止めるぞ!季衣、流琉は私ともに姉者のもとへ。」

「「はい。」」

「葵、茜は右翼側から、柊(しゅう)と杏(きょう)は紬殿の指示を仰ぎながら左側から頼む。」

「「は~い(はい)。」」

「「「御意」」」

 

そういうと各々の持ち場へと散らばっていく。

 

 

 

一刀たちは沖田・永倉の前に対峙していた。

 

「おやおや、北郷軍の重臣の皆さんが我々の相手ですか・・・・。」

 

沖田は笑みを浮かべてそう呟く。そんな沖田に向かうは北郷の闘神3人。一刀は永倉に当たる。

 

「では某も最初から本気で行きませう。」

 

そういう永倉は懐から術符を取り出すと念を込める。辺りには急激に雰囲気の変わった空気が充満する。そんな永倉の姿に一刀も警戒しながら徐に外套を脱ぐと刀を鞘に入れたまま永倉に向かっていく。永倉も双剣を構え、一刀の攻撃に備える。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

一刀は永倉へ抜刀術で仕掛けていく。その剣撃を永倉は2本の剣で受け止める。そこへ一刀の鞘での2段目が繰り出されるが、一撃目を受け止めた2本のうちの1本を素早く鞘に当て方向を変えると、もう1本の方を切り返して一刀に突き入れる。一刀は素早く身を屈めてかわすと、バックステップで距離をとる。

 

「ふむ、やはり一筋縄ではいかんな・・・。ならばっ!」

 

一刀は永倉に向かって一直線に走り出す。永倉も一刀の真正面に向かってくる。

 

「行くぞ!・・・・壹・貳・參・肆・伍・陸・漆・捌・玖・・・・・・『殺』」

「・・・っ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー!!!!」

 

一刀が九頭龍閃を繰り出した瞬間、永倉の身体は吹き飛ばされた。着地したところからは砂煙が立ち上る。

 

(やったか?)

 

しかし、砂煙の中から猛烈な勢いで永倉が飛び出してきた。先程の九頭龍閃を受けてあちこちが傷だらけで大量の出血をしているのにもかかわらずだ。

 

「・・・・・・ぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

咆哮を上げた永倉の繰り出した一撃を受け止めずにバックステップでかわす。叩き付けられた場所は大きく抉られていく。

 

(なんというパワーだ。これも術符によるものなのか・・・・。)

 

一刀も迂闊に攻める事はせず、永倉も黙して動かなくなった。このままの膠着が暫く続く・・・・。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁなのだ!!」

 

愛紗と鈴々は連携して沖田を攻めていく。沖田はそれを紙一重ながらかわしていくが、状況は悪かった。

 

「ふぅぅ、やはり3対1では分が悪すぎますね・・・・。それでは僕もちょっと本気を出しますか・・・。」

 

そういうと永倉同様、懐から術符を取り出した。沖田は術符に念を込めると、今までの飄々とした雰囲気が一変、冷たい殺気が溢れてくる。その殺気はこの空間を切り裂くかのように・・・。その光景に一刃は愛紗と鈴々に警戒を促す。沖田は、すっと肩を落とすような仕草をしたかと思うと次の瞬間にはその場から消えていた。

 

「鈴々!後ろだ!」

 

一刃の声に鈴々は素早く確認するとそこに沖田の繰り出した一撃が近付いていた。だが、その剣撃は愛紗が受け止める。その隙を一刃が突こうとするが、沖田も素早く身を翻して間合いを取る。

 

「なんという早さだ・・・・。義叔父上と戦っているようだ。」

 

愛紗はそう例えたが、一刃には沖田は一刀以上の強さに思えた。だが、この男をなんとかしないことにはこの戦況はどうにもならない。そう思い一刃は刀を構えると沖田に向かっていく。その後方からは愛紗や鈴々も続く。一刃、愛紗、鈴々と一撃を連携して繰り出すが沖田はそれを苦せずしていなしていく。だが、そこで異変が起きる。沖田が3人との間合いを空けた直後、突然咳き込む。その口からは血が吐き出された。

 

「くっ、やはり術符の負担は大きいようですね・・・・・。」

 

そんな沖田の様子を見て3人は武器を構え直すと、沖田に斬り込もうとした。が、その沖田の後方から沖田に向けて喋りかける影が・・・・。

 

「沖田君、下がっていたまえ・・・。」

 

そんな言葉に沖田が振り向くとそこには、筋骨隆々な体格の良い金棒を持った男と、眼鏡をかけた痩せ型の男と、小柄な中年くらいの歳の男が立っていた。

 

「・・っ、谷さん、武田さん、井上さん。どうしてここに?」

「劉璋の命でな。まぁそんなことより沖田、あまり無理をするなよ。」

「しかし・・・・・。」

 

そう答えようとした沖田に対して、その3人より後方にいる男が前に歩み出ながら喋りかける。

 

「沖田君、君は『肺』を病んでいるのだろう?俺の目は誤魔化せないよ。」

 

その男の言葉に沖田は「っ!」と驚いた反応を示す。そんな沖田を見てニヤリと笑うのはオールバックの髪型をしている屈強そうな男だった。

 

「・・・斉藤さん、貴方までですか?」

 

沖田は斉藤と呼ばれる男にそう呟いた。

 

「我々の目的はこの戦ではない。そんなところで君を、永倉を失うわけにはいかないからな・・・。井上さん、沖田君を頼みます。」

「あぁ、任せておけ・・・。」

 

井上は沖田とともにこの戦場を後にする。追おうとする一刃達だったが、その前には斉藤、谷、武田の3人が立ちはだかる。一刃はその3人の中でも斉藤と呼ばれる男に意識を集中していた。

 

(こいつ・・・・・他の二人に比べると、そうとう強いな・・・。)

 

「悪いが沖田たちがこの戦場を離れるまで相手してもらうぞ。」

 

そういうと斉藤は刀の刃を水平にして前傾姿勢に構える。両脇の谷、武田も各々の得物を構える。一刃たちも己の得物を構え対峙する。

 

「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

 

こうして3対3の戦いが始まった。

 

 

一方、中央では春蘭と秋蘭、季衣、流琉の戦いが繰り広げられていた。そんな中、秋蘭の悲痛な叫びが木魂する。

 

「姉者、もう止めてくれ。華琳様は助かったんだ。これ以上我等が争う意味はない。お願いだから目を覚ましてくれ。」

 

そんな秋蘭の叫びも今の春蘭には届かない。感情の全く篭っていない冷たい瞳で秋蘭を見つめる春蘭。七星餓狼を構えると秋蘭たちに向かってくる。それを季衣、流琉の超重量兵器が襲う。しかし、それをヒラリとかわすと季衣の岩打武反魔の鎖の部分を掴むとブンブンと振り回す。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ」

 

季衣が吹き飛ばされていく。流琉は伝磁葉々を春蘭に放つが簡単にかわされてしまう。秋蘭も矢を放つが得物で簡単に防がれる。春蘭の武はもはや3人を圧倒していた。

 

(姉者が強いのはわかるが、これは異常だ。それにいくら呼びかけても全然反応しない。私に姉者が止められるのか・・・・。どうすれば・・・・・・。)

 

そう考えている隙をついて春蘭は直ぐ傍まで迫っていた。

 

「!!っ、しまった・・・・。」

 

春蘭の七星餓狼の一撃が秋蘭を捉えようとしていた。

 

「「秋蘭様ぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

 

「待ちなさい!春蘭!」

 

秋蘭に向けられた一撃は秋蘭の目の前でピタっと止まった。春蘭は声のした方向へ視線を向ける。そこには桂花に身体を支えられてたっている曹操こと華琳の姿があった。その姿に秋蘭たちは驚く。

 

「「「華琳様?!」」」

 

しかし、そういう秋蘭たちには目をやらずただ目の前の春蘭だけ視線を向ける。傷ついてもそこは曹孟徳。物凄い覇気が溢れ出ている。そんな華琳は春蘭に話しかける。

 

「春蘭、剣を置きなさい。これは命令よ。」

 

しかし、春蘭は剣を置こうとしない。

 

「春蘭!あなたは誰?曹孟徳が一の家臣・夏侯元譲ではないの?あなたがすべき事は何なの?」

 

その言葉に春蘭は頭を抱えて苦しみだす。その様子を見ていた秋蘭たちも春蘭の異変を察知する。

 

「姉者、もう止めるんだ。我等は華琳様をずっと守っていくと誓ったではないか!これ以上華琳様を、私を、魏のみんなを苦しめないでくれ。みんな姉者の帰りを待っているのだ・・・・。」

「う・・ぅぅ・・・・・・か・・・・・・り・・・・・・ん・・・・・・さ・・・・・・ま・・・・?」

「・・っ、春蘭?」

 

苦しみながらも華琳の名を呼んだ春蘭に華琳や秋蘭は駆け寄った。春蘭は力なくその場に座りこむ。

 

「春蘭!大丈夫?」「姉者?大丈夫か?」

 

そんな問いかけに春蘭は言葉を発さずにコクリと頷く。その様子を見て華琳たちはふぅ、と息を漏らした。こうして春蘭の呪縛は解けたのだった。

 

 

膠着している一刀と永倉、斉藤たちと一刃たち。そんな戦況を動かす事態が起こった。

 

ジャーーーン ジャーーーン ジャーーーーン

 

戦場に鳴り響く銅鑼の音。その方向には高々と掲げられる『趙』旗と『呂』旗。それを目にして一刀は、長安での作戦の成功を確信した。そんな一刀の表情を読んでか、永倉が

 

「どうやらここまでのようですな。今回は我等の負けのようです。某はここで失礼させてもらいますよ。」

「逃がすと思っているのか?」

 

永倉の言葉に一刀は冷たく言い放つ。だが、永倉は表情を変えず

 

「某を止められますかな?」

 

駆け出そうとする永倉の退路を塞ごうとする一刀のところに短刀が突き刺さっていく。飛んできた方向をみると一人の中年が立っていた。

 

「永倉、沖田は下がった。我等も退くぞ。」

「おぉ、源三郎殿。かたじけない。」

 

その男は先程沖田ともに退いたはずの井上だった。

 

「悪いな、ここで失礼する。」

 

井上はそういうと煙玉を使い姿を消した。一刀は2人を無理に追うことはいなかった。そのまま一刃たちのもとへと向かう。一刃たちの所でも、北郷軍増援について把握していたのか斉藤たちはある程度攻撃をいなした後、戦場を後にしていた。

 

「3人とも大丈夫か?」

「「「はい。」」」

 

それを聞くと一刀は指示を出す。

 

「とりあえず本陣に戻って黄忠たちと共に反撃に出るぞ。」

 

そういって本陣へと向かおうとした。そんな一刀だが、ふと敵本陣に目を向ける・・・・・・。

 

 

「鄧賢様。右翼・左翼とも膠着状態で動きはありませんが、中央は夏侯惇が倒れた模様です。」

「何だと?倒れた?」

「はい、おそらく術符の力が消えたのだと思います。」

「ちっ、使えんやつだ。」

 

そういって鄧賢が夏侯惇の部隊の方へ視線を向ける。そこにいた人物を見て驚いて声を上げる。

 

「あれは曹操!暗殺したと思っていたのにしぶとい奴め・・・・。矢の一本や二本では死なんということか。おい、あれを持って来い。」

「えっ?あれですか?」

「そうだ。つべこべ言わずに持って来い!」

「はっ。」

 

そういうと兵はどこかへ向かっていき小さな壷を持って戻ってきた。それを手にした鄧賢は本隊の弓兵を集めると

 

「お前ら、鏃にこれを塗れ。死にぞこないの小娘をここで始末するぞ。」

 

そういうと壷をかけて中の液体を塗るように指示をする。壷の中身は毒だ。兵たちは鏃に毒を塗ると、華琳のいる所めがけて弓を構える。鄧賢は手をあげると号を飛ばす。

 

「よし、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

弓兵によって放たれた毒矢はまっすぐに華琳の下へ飛んでいった。

 

「っ、曹操!危ない!!」

 

その光景を見ていた一刀は華琳に向かって叫ぶ。その声に戦場にいた全ての者の視線は華琳のいる場所へ集中した。華琳は一刀の言葉に気付いて振り返るもそこには無数の矢が迫っていた。

 

(っ、しまった!)

 

華琳は目を伏せた。

 

ザシュッ ザシュッ ザシュッ・・・・・・・・・・・・・

 

しかし、矢は華琳に届くことはなかった。

 

 

一刀は、というか戦場にいる者は皆その場を動くことが出来なかった。目の前の光景に言葉を失う。喧騒の戦場に一瞬の静寂が広がった。そんな静寂の中、目を伏せていた華琳が顔を上げて見たものは、華琳を庇うかのように手を広げ、飛んできた矢を全て身体に受けて仁王立ちする春蘭の姿がだった。そんな姿を見た華琳は

 

「しゅんらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

 

悲鳴とも叫びともとれる大きな声を発した。その声に戦場の沈黙は破られる。華琳に続いて魏の面々からも悲痛な叫びが聞こえてくる。

 

「姉者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「「「「「「「春蘭様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」

 

動けなかった一刀たちも慌てて華琳たちのもとへと向かう。

 

「えぇい、夏侯惇め、邪魔しおって。第2射構えぃ、撃て撃て撃てぇぇぇぇぇぇ」

 

苛立つ鄧賢は再び曹操へ向けて矢を射るよう号を発す。しかし、その矢もまた華琳に届くことはない。春蘭がその身を盾として矢を一身に受け止める。苦痛と毒に顔を歪めながらも鄧賢に向かい、言葉を発す。

 

「我が名は夏侯元譲。曹孟徳に仕え覇道を支えるための魏武の『大剣』にして、曹孟徳を守るための魏武の『盾』なり。我が身がこの毒によって滅ぶことになったとしても、タダでは死なん!我が身は朽ちてもその魂魄は『矛』となって曹孟徳の覇道を邪魔する敵を討ちこらそう。その魂魄は『盾』となって曹孟徳を守ってみせよう。その魂魄はいつまでも皆と共にあろう。この魂魄は貴様らのようなものに砕けるほど柔ではない。砕けるものなら砕いてみよ!!!!!」

 

そう発した春蘭にむけて降り注ぐ容赦のない矢の嵐を春蘭は身体中で受け止める。主である曹孟徳を守るために。大切な妹を守るために。そして、信頼する魏の仲間たちを守るために。

 

やがて攻撃が収まり、華琳たちは春蘭のもとへ駆け寄る。春蘭は仁王立ちしたまま全く動かなかったが、小さな声で秋蘭を呼ぶ。その呼びかけに秋蘭はこたえる。そんな秋蘭に春蘭は苦しげな声だがしっかりとした口調で短く呟いた。

 

「秋蘭・・・・・・・・華琳様を・・・・・頼んだぞ。」

 

その言葉に秋蘭は涙を流しながら

 

「あぁ・・・・・・わかってる。」

 

そう答えた。その言葉に笑みを浮かべ、華琳に向けて喋りだす。

 

「華琳様・・・・・・・お仕え出来て・・・・幸せでした・・・・・。」

 

その言葉に華琳は涙を浮かべて取り乱す。

 

「ダメよ!春蘭。私の許可なく死ぬことは許さないわよ!」

「・・・・・フフフ、申し訳ありま・・・・・せ・・・ん。」

 

春蘭のその言葉に華琳はその場に泣き崩れた。それを桂花と雛里が支える。

 

「みんな・・・・・華琳様を・・・・・・魏を・・・・頼む。・・・先に逝く私を・・・・許してくれ・・・。」

 

そんな春蘭の言葉に葵と茜は抱き合って泣き、柊、杏、紬は目を瞑って俯いて泣く。桂花と雛里の瞳からも涙は流れていたが、桂花は春蘭に向かって

 

「分かってる、必ず守るわ。・・・・・だから春蘭、安心して逝きなさい・・・・。」

 

静かにそう言った。それを聞いて春蘭は微笑みながら

 

「あ・・・・り・・・・・が・・・・と・・・・・・・・・・・・・・・ぅ」

 

その言葉を最後に仁王立ちのまま絶命したのだった。

 

「しゅんらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」

「姉者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「春蘭様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

華琳たちの悲痛な叫びが戦場へと木魂していった。

 

 

その様子を見ていた一刀は、くるりと背を向け敵軍のほうへと歩いていく。そんな一刀の行く手を塞ぐかのように立っていたのは霞と翠、それに先程まで戦っていた春蘭の部隊の兵たちだった。

 

「ご主人様、行くのならあたしたちも連れて行ってくれ。」

 

翠はそう願い出る。翠も春蘭の最後を見ていた。全身に矢を受けてまで華琳を守ろうとしていた春蘭の姿に、母・馬騰の姿を重ねていた。そして、霞も一度戦った春蘭の行動を武将として尊敬していた。それと同時にそんな誇り高き武将を毒を用いて殺した蜀のやり方に怒りを燃やしていた。一刀はそんな二人の思いを汲み取る。そのあと、春蘭の部隊の兵たちも歩み出てきて

 

「将軍の仇をとりたいんです。お供させてください。」

 

そう頭を下げてきた。兵たちは涙を浮かべはしていたがそれ以上に慕うものを奪われた怒りで燃えていた。一刀は、その兵たちの気持ちも汲み取り敵本隊へ向かって歩みだした。

 

「一刃、お前たちは曹操殿たちのもとにいてやってくれ。」

 

そう告げると、続けて一刃、愛紗、鈴々にこう告げた。

 

「今から俺は一度だけお前たちの師であることを捨てる。いや、人であることを捨てる。お前たちも知っているとおり俺は今まで多くの賊たちを斬り殺してきた。だが、例え賊でも人間として扱ったつもりだ。だが、今回は奴らを人間として見る事をやめる。これはあくまで俺の私闘だ。平和のためでもなく、弱者を守るためでもない、『飛天御剣流』の理に背いた戦い。これは夏侯元譲という誇り高き武将に対する弔い合戦なんだ。だから止めないでくれ。」

 

そういって敵本陣へ向かっていく一刀を誰も止めることは出来なかった。

 

 

「鄧賢様、敵軍の一部隊がこちらに突撃してきます。」

「ふん、苦し紛れの玉砕戦法か?返り討ちにしてやれ。」

 

鄧賢はそう指示を出す。鄧賢の中ではこの戦は勝ったものと思っているようだ。しかし、その思いはすぐに改めさせられることとなる。

 

「鄧賢よ、お前らのような者には分かるまい。曹孟徳の負った心の傷の深さを、夏侯妙才が失ったものの大きさを、魏の武将たちが拠り所としていたものの尊さを。貴様らのようなものを俺は絶対に許さん。故にその身を持って購うがいい。そして後悔しろ!自らの行いを、魏の大剣を奪った己の過ちを。全軍、夏侯元譲が残した尊き誇りを己が剣に込めよ。その一撃で我等の怒りをやつらに知らしめるのだ!突撃!!」

 

一刀の号令に霞、翠は勿論、慕う将を失った魏の兵たちは死兵となって敵軍へ向かっていく。

 

「夏侯惇、アンタが守ろうとした武将としての誇り、ウチが受け取った。アンタの分までウチが守ってみせる。曹操、夏侯淵、魏の面々、そしてアンタの誇り高き武将としての志を!!」

「母・馬騰と同じく卑劣な手で夏侯惇を殺した貴様らをあたしは絶対に許さない。夏侯元譲の尊き魂魄は、母・馬騰の魂魄と共に我が正義の槍とともにある。我が銀槍の一閃、悪を貫く正義の一撃を喰らいたいやつはかかって来い!!」

 

霞と翠は敵軍へ単身突っ込んでいき、次々と敵を蹴散らしていく。そんな霞たちに続くように魏の兵たちも突撃する。一刀も単身で鄧賢のいる本隊へと突っ込んでいった。

 

「貴様ら!人間らしく死ねると思うなよ!」

 

その言葉の通り、一刀の通った後には人間の原型をとどめないほどに斬り刻まれた肉塊が辺り一面を覆っていた。その光景に鄧賢は慌てて、その場から撤退しようとするが、そこには『趙』旗と『呂』旗をはためかせた星と恋の部隊が包囲していた。星たちの部隊も敵本隊の兵を駆逐していく。しばらくするとそこには鄧賢ただ一人が残されているだけだった。鄧賢は一刀たちに必死で命乞いをする。

 

「今回の事は私が悪かった。許してくれ。」

 

しかし、誰もそれに答えるものはいない。

 

「何が望みだ?金か?私を助けてくれたら私の資産すべてやる。一武将がとても持つことの出来ない大金だぞ。それをやる、だから許してくれ。」

 

ペコペコと頭を下げて命乞いをする鄧賢に一刀は近付いていき、首を締め上げると

 

「命乞いなら、貴様の好きな『お金様』にでも頼んでみろや!」

 

そう怒鳴って鄧賢の身体を宙に投げると、抜刀術で真っ二つに斬り伏せた。こうして鄧賢の軍を殲滅した一刀たちだが、その心は決して晴れることはなかったのだった。

 

 

 

この戦いで一人の武将がこの世を去った。

 

彼女の名は夏侯元譲。曹孟徳が一の家臣にして魏武の大剣。

 

そんな彼女の守ろうとしたもの

 

それは大切な主であり、妹であり、仲間であり

 

そして、武人としての誇り高き志であった。

 

 

 

一刀たちはその誇りを胸に、勝ち鬨をあげるのだった。

 

 

 

あとがき

 

飛天の御使い~第弐拾六幕~を読んでいただきありがとうございます。

 

今回は蜀軍との戦を纏めて書きました。

 

どこかで切ってもよかったとは思いますが

 

今回は切らないほうがいいかな、と思いましたので

 

結構な長文になってしまいました。

 

もう少し、感動的な表現が使えればいいと思うのですが、

 

私の文章の表現力ではこれが精一杯でした。

 

うぅ、もう少し上手く書けるようになりたい・・・・。

 

しかし、これを書きながらるろ剣のサントラの「Departure」を聞いてたら

 

思わず涙が出そうになりました。

 

結構場面に合ってるのかもしれません。よかったら聞いてみながら読んでください。

 

拙い未熟な作品ではありますが、少しでも楽しんでいただければ

 

幸いです。

 

コメントや感想もいただけると嬉しいです。

 

 

 

 


 
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