物質の運動を既述する方程式は、時間ベクトルの方向を逆転しただけで、 物質の過去の運動を逆算できる。 エネルギーと物質を関連付けたある理論では、空間と時間は分離できないものとしている。 そして、エントロピー増大の法則とは、正確には次のように表現されている。 ”ある瞬間に観測された系のエントロピーをＳ0としたとき、 その帰結として予測される別の瞬間の系のエントロピーＳは、つねにＳ0より大きいか、等しい”。 この文中には、「別の瞬間」と記されているが、明確に過去や未来が明示されてはいない。 時間の不可逆性を一滴のインクの拡散に喩える事があるが、 しかし前提として、その一滴のインクの分子の全てが、 宇宙の開闢から低エントロピーの状態を持続させていた訳ではない。 インクの過去はインク壺の中で拡散する分子として存在した。 更に過去を遡ると、インクの分子は原材料として、更に大きく拡散して存在していた。 インクの一滴にも、人間の識別なしに、過去と未来の区別は不可能である。