No.150825

異世界の天の御遣い物語17

暴風雨さん

こんにちわ!

2010-06-15 15:58:03 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2054   閲覧ユーザー数:1773

〝長坂の戦い 前編〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――天気、雨。

 

土砂降りといかないまでもザーっと降っている雨を窓ごしにに見ながら政務に取り掛かっている俺。

 

袁紹たちも仲間になり、結構大所帯になってきたおれたちの陣営。それに伴って軍の強化・人員の振り分けなど、街からの問題ごとなど。

 

いろいろと大変な書簡が俺の机に置かれているわけだが。・・・正直言って捌ききれません。

 

「俺が華琳のところに居た時も、あんまりうまく書類が書けなくて頭悩ませてたっけ・・・」

 

思い出しながら苦笑いする。華琳は河北四州を治めていた袁紹を倒した。実質、北方はもう華琳の軍勢しかいない。

 

華琳もちゃくちゃくと力を付けている。・・・なのに、こちらはやっとのおもいで徐州を纏めはじめ、軌道に乗ってきたところ。

 

「・・・・うむ、差って眼に見えて出るもんだな」

 

腕を組み、ウンウンと頷きながら改めて華琳の凄さを感じる。って関心している場合じゃないよな。

 

北方を制圧したってことは今度はこっちに降りてくるって事だ。つまり・・・

 

「華琳と戦うってことだよな・・・」

 

華琳の覇道と桃香の理想か。この大陸を平和にしたいのは同じなのに随分と対極な道だよ、まったく。

 

「あ、お茶がなくなってる・・・入れてくるか」

 

一休みもかねて俺は自室を出ようとしたとき、デジャヴュのように誰かがこっちに走る音が聞こえてくる。

 

「ご主人様。大変です!」

 

朱里が扉をバン!と開けて来る。朱里にしては相当焦っているようだった。

 

「・・・どうしたんだ?」

 

「曹操軍がこちらに攻めて来ました!。数はおよそ・・・五十万」

 

「・・・・・・・は?」

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、玉座の間。朱里からの報告のあと俺はみんながすでに集まっている玉座の間へと移動する。

 

 

「報告!曹操軍、関所を突破し我が国に雪崩れ込んできています!」

 

一人の兵士が国境の状況を伝えて後ろへと下がる。

 

「ちぃ!曹操め、一体何を考えているのだ!袁紹との戦いが終わったばかりだというのにすぐに進行してくるなんて!」

 

華琳にしてはせっかちというか、まだ内政に力を入れてもいいと思うんだが。

 

「今はそんなことはどうでもいいのだ。曹操お姉ちゃんが何考えてるかわからないけど、目の前の敵をどうにかしないと鈴々たちがやられちゃうのだ」

 

「・・・そうですね。鈴々ちゃんの言う通り、今は曹操さんが何を考えてすぐに進行してきたことよりも、私達がどう動くか考えましょう」

 

「ああ。そうだな」

 

「と言っても・・・・」

 

「ああ・・・数がな。・・・圧倒的過ぎる」

 

愛紗、鈴々、星、朱里が今の状況に頭を抱える。

 

「我が軍の規模は約四万。それに白蓮さん、美羽さんの軍勢が加わったことで約六万。義勇兵を募っても約七万が限界ですね」

 

七万対五十万・・・って想像しても数が多すぎてなんかパッとしない。

 

「・・・勝負にならんぞ。・・・これは」

 

「敵よりも多くの兵を用意するのが兵法の基本ですからね・・・」

 

「しかし、我が国の住民を守るためにも、曹操軍を止めなければ・・・!」

 

愛紗の言うことも当たり前なのだが、

 

「まともにぶつかっても勝ち目は無いな。・・・何か考えないと」

 

「七万人で五十万人に勝てる方法なんて、考えたって見つからないのだ」

 

「まったくその通り・・・だけど、簡単に諦めるわけにもいかないだろう?」

 

と言うものの俺自身何も思いついていないわけだが・・・。

 

みんなが頭を抱えながら何か策はないかと考える。しかし、時間はどんどんと過ぎていく。

 

「五十万の相手にまともに戦えるはずありません~。ここは逃げたほうが良いじゃないですか?」

 

考えていた七乃そんなことを言ってきた。

 

「は?七乃殿、今は冗談を言っている―――――」

 

「そうだね、逃げちゃおう」

 

「はっ!?と、桃香様っ!?」

 

桃香の賛成に愛紗は文字通り飛びのくぐらいに驚いていた。

 

「今の私達じゃ華琳さんと戦う力は無いし。それなら逃げるっていうのも一つの手だと思うよ?」

 

「そんな・・・!我々が逃げ出せば、この国の人たちはどうやって自分の身を守れば良いのです!」

 

「どうやってって。華琳さんが守ってくれるよ、きっと~」

 

華琳のことを信用しているのか。・・・この逃げ作戦俺は賛成だが、みんなはどう思うかな?

 

「・・・一体何をお考えなのです。桃香様は」

 

「何って・・・これだけ圧倒的な差じゃ、勝ち目なんてないし、勝ち目のない戦いに兵の皆や住人たちを巻き込めないよ」

 

「・・・だから、逃げるのか?」

 

「うん。悔しいけど・・・勝ち目のない無謀な戦いに住民たちを巻き込みたくないの・・・勝ち目があるのなら、一緒に戦いたいって思うけど」

 

「・・・戦って勝てるのなら、私は私達のやり方で正しいんだって信じて、戦うことだってできる。・・・けど、今回は違うでしょ?」

 

「これだけ先手先手を打たれていたら、五分の戦いに持っていくこともできません」

 

「なら逃げるが勝ちだよ!兵の皆を引き上げておけば、華琳さんが村や町に住んでいる人たちを乱暴することって無いと思うし」

 

「曹操軍の軍律の厳しさは有名だからなぁ~」

 

それは断言できるほどに厳しいよ、白蓮。・・・俺が居た頃よりももっとパワーアップしてるんだろうなぁ、調練。

 

「おそらく桃香さまの仰るとおりになるかと」

 

朱里も桃香の作戦には賛成のようだ。しかし、

 

「本当に・・・それで良いのでしょうか?折角、この国を発展させてきたのに・・・」

 

愛紗はまだ納得できないでいた。

 

「その気持ちはよくわかるけど、今、俺たちがこの国に居ることこそ、この国の人たちにとって迷惑になる可能性が出てきたんだ。だったら、無理に戦うよりも、再起を図るために逃げるっていうのも、良い案だと思うよ」

 

「再起を図るための退場、ですか」

 

「でも、北には曹操、南には孫策が居て、再起を図る場所なんてあるのですか?」

 

ねねがもっともな心配事を言ってきた。

 

「・・・あります。ここより南西のところに荊州、さらにその西に、蜀と言われる地があります。そこは劉鳶さんと仰る方が治めていたのですが、つい先日、継承問題がこじれて、内戦勃発の兆候が見られるようになりました」

 

「その隙をついて入蜀するのがよろしいかと」

 

朱里と雛里が再起の場所をみんなに提示する。

 

「うーん・・・でも、なんか気が進まないなぁ・・・」

 

「しかし、内戦が起こればて血で血を洗う凄惨な戦いになるでしょう。その隙をついて本城を制圧すれば、結果的に流れる血は少なくて済みます」

 

「それに太守の劉璋さんの評判も、あまり良いものではありませんから」

 

「例えば?」

 

「税高く、官匪が蔓延っているのにも気づかず、貴族は豪奢な暮らしにうつつを抜かしているとか」

 

「ふむ・・・それならば、攻め入ることに何の躊躇いも必要ないな」

 

星が二人の話に納得したように頷く。

 

「・・・桃香さま。納得されましたか?」

 

「・・・ん。状況が状況だもん。そんな贅沢言っている場合じゃないし。身勝手かもしれないけど・・・劉璋さんのところに押しかけちゃおう」

 

「よし。方針は決まった。すぐに全土に伝令を出して、兵の引き上げを開始しよう」

 

「御意」

 

「各所に詰めている警備兵たちは本城に集合。その際、詰め所や関所に備蓄してある食糧や資金などは、住民に分け与えて置くように命令しておいて」

 

「村人達に施すのですか?」

 

「それもあるよ。けど、関所とかに備蓄したままだったら、華琳に接収されちゃうだろ?でも住民に配っておけば、それを徴収されることも無いかなって」

 

「あ・・・・すごいです。そんなところにまで気が回るなんて」

 

雛里に褒められた。

 

「・・・住民のみんなにも説明しなくちゃね」

 

「そうだな。それは桃香と朱里にまかせるよ。星と愛紗は兵たちをまとめておいて。雛里と鈴々は俺と一緒に書類をまとめて持ち出せるようにしよう」

 

「御意です♪」

 

「後は・・・白蓮、袁紹たちのお守り、頼めるか?」

 

「うっそ。・・・まじか?」

 

白蓮はかなりの驚き顔でこっちを見てくる。

 

「恋とねねにもお願いしておくから。・・・宜しく頼むよ」

 

「ううぅぅ・・・貧乏くじだな・・・」

 

――――クイクイ。

 

「ん?」

 

「美羽たちはどうすればよのじゃ?」

 

「美羽と七乃は俺たちの手伝い。書類とかたくさんあるから頼むな」

 

「わかりました~」

 

「まかせるのじゃ。七乃、主様のためにもがんばるのじゃ」

 

「はい、美羽さま」

 

「うう・・・」

 

「ほれ、愛紗。唸っていないで、我々の仕事をしにいくぞ」

 

「わ、わかっているわ!さっさと行くぞ、星!」

 

「はいはい・・・。まったく」

 

「それじゃあ、朱里ちゃん。長老さんたちにも集まってもらって説明してこようか」

 

「はい」

 

「・・・よし!みんな、それぞれよろしくたのむ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

〝曹操軍〟

 

 

 

 

「どうやら全軍徐州に入ったようね。あとは道々の関所を落とし、彭城に向かうだけね」

 

絡新は馬に乗りながら本隊中央に居る。目の前に乗せてある曹操の頭に手を乗せる。

 

「まったく茅需もいい物を残しておいてくれたわ。・・・ほんと感謝しなくちゃ」

 

頭に乗せていた手を腹に持っていき、撫でる。

 

「あともう少しで奴らに復讐できる・・・!」

 

目の前に掌をだし、それを握り、拳を作り力を込める。

 

「(・・・なるほど。私の軍を何に使うかと思えば復讐か)」

 

曹操は気づかれないように、薄目を開け首を動かさず周りを見渡す。

 

「(・・・秋蘭や春蘭はここには居ないみたいね。前線に居るのかしら?)」

 

頭はフルに使ってどうやってこの状況を逃げ出すか、考える曹操。

 

「(・・・しかし、体は糸で縛られていて動けそうに無いわね。もう少し待ったほうが良いようね)」

 

「(私の軍を勝手にしたこと諸々含めて、絶対に許さない!)」

 

「それにしても劉備軍の動きが鈍重だな。・・・なにかあったのか?」

 

「(・・・・・・・・)」

 

「まぁ、何があったところで関係ない。・・・このまま進軍してこの軍勢で押しつぶしてしまえばいいのだ」

 

「(・・・はぁ。こんな馬鹿に私の軍を動かされていると思うと腹が立ってくるわね)」

 

「(ん?・・・どうやら部隊を分けてあるみたいね。指揮はこいつがとっているわけじゃ無さそうね)」

 

曹操は遠めに見えている動く人波を見ながら、誰がどこにいるのかを把握していく。

 

「(秋蘭、春蘭、季衣。稟と流流。風、凪、真桜、沙和。桂花は本隊指揮のようね)」

 

「(・・・なるほど。・・・でも、こんな形で一刀に戦いを仕掛けるなんてね。・・・まったく、笑い話にもならないわね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

 

「桃香様ー!ご主人様ー!」

 

天気はポツポツと小ぶりな雨になってきたが、それでも少しうっとうしく思う。この急いでるときにはなおさらだ。

 

そんなことを考えているとき後方から朱里が帰ってくる。

 

「朱里ちゃん、お帰りー!後方の様子どうだった?」

 

「国境の拠点を落として以降、曹操さんの軍は破竹の勢いで進軍してますね」

 

「・・・敵軍の進路はどうなってた?」

 

「東方から彭城に向かう一隊と、西方から彭城に向かう一隊。そして、そのまま南下している曹操さんの本隊。あとは・・・」

 

「あとは?」

 

「先行し、私達の動きの偵知を目的とした部隊が、他の部隊と連携を取りつつ動いてます」

 

「偵察を目的とする一隊?・・・ということは、奴らはまだ我らの動きに気づいていないということか」

 

「・・・気づいていないとはいえ、ばれるのも時間の問題だよな」

 

「先行している部隊が居るのだから、それも当然ですね・・・」

 

「後退して先行してくる部隊を叩くか?」

 

「それはダメだよ。折角素早く引っ越しすることに決めたのに、意味がなくなっちゃう」

 

桃香の言うとおり。俺たちの今出来ることはとにかく全力で逃げ切ること・・・なんだけど。

 

「しかし・・・」

 

と愛紗も俺と同じ考えなのか、後方に視線を向ける。

 

「兵と輜重隊だけでも動きが鈍重になるのに、これほどまでに民たちがついて来ているのですから・・・」

 

「これ以上、速度は上げられんな」

 

「そうだな・・・」

 

俺の視線の先には、家財道具を抱え、俺たちと運命を共にする覚悟を決めた人民の姿があった。

 

その全員が、自分達の太守は華琳ではなく桃香を選んだ人たちだ。

 

今までの暮らしを捨て、桃香を慕い、ついていくことを宣言した人たち。

 

この雨のなかでも根をあげずに、俺たちについてきてくれるその姿。・・・この人たちを見捨てることは出来ない。

 

「・・・この人たちを守ることが、今の俺たちには最重要なことだろう。・・・だからこそ、追いかけてくる華琳の軍勢を防がないと」

 

「部隊を二つに分けましょう。先導し、先行して益州の城を落とす部隊。それと共に、後方にて曹操軍の攻撃を防ぐ部隊を用意しましょう」

 

「それしか方法はないか。・・・後方の部隊に三万。前方に二万を割り振り、残りを民達の護衛にまわす、というのでどうだろう?」

 

と星が割り振りを言ってくる。

 

「問題はないかと。では先鋒に愛紗さんを。護衛部隊は星さんが指揮を執ってください。恋さんとねねちゃんは桃香さまの護衛をお願いします。あと、殿ですが―――」

 

と朱里の話に割り込むように、桃香が

 

「殿は私が―――――」

 

「俺がやるな!」

 

言おうとしたので、俺がはっきりと言ってやる。笑顔で!

 

「ご主人様っ!?なんで・・・!」

 

「この後ろについて来ている民たちは桃香を慕ってここまで来てくれたんだ。それなのに桃香を危険な殿になんて出来ないから」

 

「だが、北郷っ!それはお前もそうだぞ!そんな危険なことお前にさせるわけにはいかないだろ!」

 

「そうです!そんな危険な役目は我らにまかせて――――」

 

「だめだよ!ご主人様!・・・ご主人様の言うこともわかるけど。でもっ!私についてきてくれるこの人たちを、私自身の手で守りたいの・・・!」

 

「桃香さまっ!?あなたもダメです!自重してください!」

 

「・・・そうだぞ、桃香。あんまり愛紗を困らせちゃダメだぞ」

 

そう言って俺は馬に乗せてあったバックから三本の刀。雷切、天月、和道を取り出し、腰に差す。四本目の刀の妖刀はすっかりわすれていて抜けないので持っていかない。

 

「ああ、もう!ご主人様、そう言いながら剣を腰に付けないでくださいっ!?」

 

「落ち着け、愛紗。・・・主、何か考えがあってのことなのでしょうな?」

 

「ああ。・・・桃香、皆を導いて行くって事と、皆を守るってことは、同じじゃない」

 

「・・・どういうこと?」

 

「人の先頭に立って、手を引いて歩いていく。・・・これって誰にでも出来ることじゃない。それと同じで、歩いている人の背中を押したり、守ったりするのも、誰にでも出来ることじゃない。それぞれがそれぞれで、適任の人間が居る。・・・それが桃香であり、俺なんだよ」

 

「主の言う通り。・・・桃香様は導き手だ。それは桃香様にしか出来ないこと。・・・しかし主、それはあなたにも言えることなのですが」

 

「いや、星。俺は桃香みたいな導き手にはなれないよ。それはずっとみんなと過ごしてきてわかったんだ。俺は守り手なんだって」

 

だって俺、よく考えて過去を振り返ってみたら、みんなの止める声もなんだかんだでやり過ごして、戦ってばかりなんだもの。

 

「・・・はぁ。主はまったくわかっておりませんな。・・・と言ってもこれは主自身が気づかなければ意味がありませんが」

 

・・・??。星がなにやら意味深な言葉を言っているが俺にはあまりわからなかった。

 

「わかった、私は前方に居るけど。やっぱりご主人様も前方に居るべきだよ」

 

「いや、だから、俺は守り手―――――」

 

「ご主人様は立派な導き手ですっ!この関雲長が断言しますっ!」

 

「!?」

 

あまりの迫力に雨が一瞬止まったかのようだった。

 

その時に腰にしがみつくような感じが、って雛里と美羽が俺の服を掴んでいる!?

 

「ご主人様、行っちゃダメです・・・」

 

「主様、行ってはダメなのじゃ・・・」

 

ぐっ・・・!?なんだこの破壊力はっ!?こんなことしている場合じゃないのは分かっているが、すいません、かわいいです。

 

「ごめんな、二人とも。でも、これは俺にしか出来ないことなんだ。・・・華琳と話をするためには俺が行くしかない」

 

「・・・話?。・・・まさか、自分が投降するから、私たちを見逃せとかいうのですか?・・・そんなのダメですっ!」

 

「・・・それもいいかもな」

 

「「「「ご主人様っ!?」」」」

 

「冗談だよ。・・・安心してくれ。そんなことを話すわけじゃないから。・・・ただ単にみんなが逃げるために時間稼ぎのための話だよ。それにもし戦闘になっても俺は大丈夫だから」

 

「確かにご主人様は強いですし、曹操ともそれなりの面識はありますが・・・!」

 

「・・・了解した」

 

「星っ!?」

 

「主とて、死ぬために行く訳ではない。・・・私はそう信じている」

 

いつか連合のときに見せてくれたような眼で俺を見てくる。

 

「当然。・・・絶対に生き抜いて、みんなとまた過ごすために。おれは行くんだ」

 

「・・・わかりました。私も・・・私もご主人様を信じます。・・・だからきっと」

 

「うん。無事に戻ってくるよ」

 

 

「うぅ~・・・ご主人様ぁ~・・・」

 

・・・雛里が泣きそうになりながら俺を見ていた。やばい、罪悪感がっ!?でも、ここは我慢だ!みんなの命が掛かっているんだから。

 

「泣くのは早いよ、雛里。まだ俺が死ぬってわけじゃないんだから」

 

手で涙を拭うようにそっと触る。

 

「はいぃ~・・・ぐすっ」

 

「それじゃあ、そろそろ。・・・行ってくるよ。・・・愛紗、星、鈴々、恋、みんな。・・・絶対に会おうな」

 

そうして俺は雨の中、三万の軍を率いて後方へと向かうことになった。その行くとき、

 

「ご主人様!絶対・・・絶対に無事で戻って来てくれなくちゃ嫌だよ?」

 

その声に手を上げ答えて俺は馬を奔らせる。

 

だが、この時、俺は想像だにしてなかった。俺とみんなが再会するのが―――――――なんて・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝長坂の戦い 中編〟

 

 

 

 

 

 

 

桃香たちから離れ、後方に移動した俺は今、さっき逃げるときに渡ってきた長板橋の前にいる。

 

橋は古くもなく新しくもなく、ただ木の板と縄で頑丈に括り付けられているものだ。

 

橋は崖にかけられていて、橋から落ちたら下の川まで一直線だ。・・・しかもこの崖かなりの高さだ。川が浅ければ確実に死ぬだろう。

 

だが、ここは通せんぼ、つまり迎撃するにはちょうどいい地形で、この橋を守るだけで完全に桃香たちを追えなくすることができる。

 

だから、ここに来て華琳たちを待っているのだが、眼前には今だ敵兵の影は見えず、ただ時間だけが過ぎていった。

 

まぁでも、このまま来てくれるのが遅れてくれる分だけ桃香たちや人民も逃げられるのでありがたい訳・・・なんですけど。

 

「・・・(兵士の空気が重たいのは、しょうがないよね。・・・やっぱり)」

 

馬に乗りながら、視線を回し全員を見ていくと、不安と緊張の顔だらけで息が詰まる。

 

「・・・はぁ。・・・しょうがない。おーい!みんな、聞いてくれ!」

 

俺は大声を出し、みんなの視線を集める。

 

「これから言うことを良く聞いてくれ。・・・大事な作戦だ」

 

その言葉に誰かが唾を呑み込んだ音が聞こえるぐらいの静けさになる。

 

「まず俺が一人で橋の向こう側に渡り、敵を待つ。その間、お前たちは敵から見えないところに隠れる。・・・そして敵が来て、俺一人が戦い、しばらくして橋を渡るから、合図をしたらお前たちは一斉に出てくる。

この橋は見ての通りこんなんだ。一遍に人が通ろうにも十人か十五人ぐらいが限界だ。だから、そこを狙う。もし、それでもダメなら最悪、橋を落とせば、しばらくは来れないだろう」

 

最初から橋を落としてもいいんだが、いくら逃げるためとはいえ交通の便を奪うわけにもいかないだろう。ここを落としたら迂回するしかないのだから。

 

俺の作戦がわかったのか、安心している者や緊張が解けて少し笑っている者も居た。しかし、

 

「北郷様だけを一人にして我らだけ隠れているなどできません!作戦とは言え、せめて何人かは一緒に居ても・・・!」

 

俺を心配してくれる人も居た。その心配はすごく暖かくありがたいものだ。けど、俺は首を横に振る。

 

「・・・ありがとう。けど、ここは俺を信じて一人で行かせてくれないか?」

 

今回のこれも俺のわがまま。一人の方が戦いに集中できるし、兵士たちが居たらそっちが気になって集中できなくなるかもしれないから。

 

足手まといってわけじゃないけど、やっぱり将と比べると、頼りないのも事実。・・・ひどいかもしれないが、命が掛かっている以上、兵士たちは連れてはいけない。俺だけじゃなく、一緒に来た奴を死なせる訳には行かないから。

 

命を掛けて戦ってくれるなら、勝算のある作戦に掛けて、後ろの人民を守るために使って欲しい。

 

「・・・危なくなったらすぐに退くから、そしたらお前たちを頼るからさ、作戦通りにやってくれ」

 

「・・・北郷様。・・・わかりました。我らには我らの出来ることがある。・・・そういうことですね?」

 

「ああ、俺を頼ってくれ。そのかわり俺もみんなを頼るから、みんなでこの戦い絶対に生き残ろう!」

 

「「「ウオオオオオォォォォォ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

〝曹操軍〟

 

 

 

 

「(なるほど・・・。なんでさっきから桃香たちの兵士が見当たらないと思ったら・・・そういうことね)」

 

「なんでさっきから劉備軍の兵士が全然見当たらない?関所の備蓄も空だった・・・。一体、どういうこと?」

 

絡新は馬の上で考える。その前にはまだ意識が目覚めていないと、思われている曹操が眼を覚まし縄で縛られ座っている。

 

「(・・・・・・)」

 

曹操は悟られないようにまた目を瞑り、時機がくるのをひたすら待つ。逃げ出せるそのときを。

 

「夏侯惇たちは一体何をやっている?・・・・荀彧!」

 

「・・・・・・はっ」

 

「来るのが遅いわよ。曹操がどうなってもいいってんなら別にいいけど?」

 

絡新は曹操の顎を掴みながら、揺らす。その行動に荀彧は悔しそうに、

 

「わ、わかったからっ!私が悪かったから!・・・だから、華琳様は」

 

「わかればいいのよ。・・・で、状況の報告をしなさい」

 

荀彧はその言葉に従い、今の状況を簡潔に説明していく。先行していた夏侯惇たちは今だ劉備軍の兵士の一人も見つけられず、困惑している様子。

 

いくらなんでも先行部隊が劉備軍の兵士を見つけることさえ出来ないことに疑問を感じた、絡新は次の指示を出す。

 

「敵はどうやら本城に勢力を集めて決戦を望んでいるようね。だから、関所にも誰もいなくて備蓄さえもなかった。・・・荀彧!」

 

「(気安く私の名前を呼ぶんじゃないわよっ!)・・・はっ」

 

「すぐに夏侯惇たちにこの事を伝え、彭城に向かうように指示を出しなさいっ!」

 

「・・・わかりました」

 

「(・・・はぁ。どうやらこのお馬鹿は全然桃香たちの作戦に気づいていないようね)」

 

曹操は後ろにいる絡新に気づかれない程度にため息を出す。

 

「私達もすぐに彭城に向かうように兵達に伝えておきなさい、荀彧・・・いや、桂花(・・)」

 

「!?・・・あ、あんた、今、私の真名を・・・・・!!」

 

「(私のかわいい桂花の真名を許しも無しの呼ぶなんて・・・・首をはねる程度じゃすまないわっ!)」

 

曹操も荀彧同様に激怒していたが、今は我慢だと心に言い聞かせ耐える。荀彧は曹操を人質に取られているため唇を噛み耐え抜く。

 

「さっさと行きなさい。・・・それともまた呼ばれたい?」

 

「ぐっ・・・。・・・わかりました」

 

荀彧はそこから逃げ出すように走り、兵士たちに指示を出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

俺は今、橋を渡った手前に来て一人で立っている。さきほど決めた作戦通りに動いているためである。だから、雨の中突っ立ているわけだが、

 

「・・・風邪引かないよね?」

 

天気は小雨。こうも雨が降っていると長袖の制服は肌に張り付いてきて嫌な感じがするので、今は制服の上着は腰に巻いておりその上からベルトを巻いている。だから今は半袖になっている。

 

「桃香たちは今どの辺りを移動しているかな?」

 

などなど誰も返答しないことはわかっているのだが、どうも独り言を言ってしまう。・・・これってやっぱり、

 

「俺も緊張してるのか・・・?・・・はぁ。兵士に偉い事言いながら、自分がこれじゃあな」

 

今は隠れて見えない兵士たちに心の中で謝っておく。って弱気になっていてどうするしっかりしろ俺!《パン!パン!》頬を叩き気合を入れる。

 

「――――――ちゃーーん!」

 

「・・・・・・・?」

 

気のせいか・・・?今、鈴々の声がしたような気が・・・。

 

「お兄ちゃーーーーん!」

 

「聞こえる・・・!聞こえるぞ・・・!鈴々の呼ぶ声が・・・って、うおおおっ!?」

 

後ろを振り向きビックリって奴だ。鈴々が橋を渡りきりこっちに向かってダイブしてきたー!しかも矛持ったまま!

 

「ぎゃーーっ!死ぬーーーっ!」

 

「にゃははははっ!」

 

―――――ドスッ!!ブゥゥンッ!!

 

俺はなんとか鈴々をキャッチしたが、矛が俺の顔面めがけて横にふられていて、それを俺は首を引っ込めギリギリでかわす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。華琳たちが来る前に俺が死ぬ所だった・・・」

 

「お兄ちゃんっ!助けに来たのだっ!」

 

・・・・いや、いろいろと言いたい事はあるがやめておこう。鈴々は俺を助けに・・・じゃなくてっ!

 

「どうしてここに!鈴々は前方の城攻めに行ってたんじゃなかったのかっ?」

 

俺の胸の中で丸くなっている鈴々に問い詰める。矛は地面に落ちていた。どうやら手を離して落としたらしい。

 

「桃香お姉ちゃんがお兄ちゃんの力になってあげてって、だから鈴々すっ飛んできたのだ!」

 

確かにすっ飛んできましたけれど。・・・そうか、桃香が。

 

「そうだな。俺一人より二人のほうが――――」

 

「・・・(じぃ~~)」

 

はっ!?いつの間にか恋が近くに!?しかも無言のまま俺を見ているぞっ!?

 

「・・・恋は?」

 

「え?・・・あ、ああっ!三人で頑張ろうなっ!」

 

「・・・(フルフル)」

 

え!?違うのっ!?ここで首振られたら俺は一体どうすれば?

 

「・・・・ちがう。三人じゃない」

 

「え?」

 

「・・・・・ん」

 

恋が指差すほうには、なんと!

 

「ねねっ!?」

 

そう、ねねが居た。橋の向こう側に手を振りながらなんか大声を出している。が隠れていた兵士たちがそれを見て、ねねを連れて行った。何時華琳たちが来るかもわからない状況であんなところで大声を出していたらばれてしまうからだろう。

 

「・・・・ねねには兵士たちを纏めてもらってる」

 

「ああ、それでいいよ。ここに来てたら危ないから」

 

急に増えた三人だが、さっきまでの弱気な俺を完全に消し去ってくれる。だから俺は鈴々を降ろし、二人を見て、

 

「・・・ありがとな」

 

頭に手を伸ばしやさしくゆっくりと撫でてあげる。そして心の中でねねにもありがとうと言っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

〝曹操軍〟

 

 

 

場所は彭城前。先行していた夏侯惇たちや、別働隊で動いていた張遼たちや楽進たちと合流した絡新は緊急報告を聞く。

 

 

 

「劉備軍がいないだとっ!?」

 

先行していた夏侯惇たちは先ほど工作員を放ち彭城の中を調べた結果を話す。

 

「(やっぱり・・・)」

 

曹操は確信したように心の中で頷く。曹操は劉備たちが逃げたことに気がついていた。そもそも数が違いすぎるのだ。いくら本城に戦力を集中させたとしてもそれで勝てるはずはない。それで勝てると思っているならば、自分が好敵手と認めたこと事態が間違いになる。

 

だが、劉備は逃げた。劉備のことを考えればまず始めに民たちのことを考えるに違いない。だからここに自分達が居たら迷惑になると思い逃げるに決まっていると。しかし逃げるということは汚名・・・つまり逃げ出した太守という汚名が着くわけだが、そこは劉備らしいというか

 

名より徳を取ったという事・・・。自分の名より民達の事を考え動ける人間はそうは居ない。だから―――悔しい。こんな馬鹿の所為でつまらない戦いになった事が。

 

「(いつか桃香に言った事があったわね・・・。覇道と理想がぶつかる時に一刀をもらうと。それなのにこの馬鹿の所為で・・・。って捕まった私も悪いわね)」

 

「くそっ!奴らは一体どこへ行ったのだ!?」

 

絡新はイラつく。もう少しで復讐できると思った矢先の出来事なのだから仕方がない。

 

「・・・・・・・」

 

魏の主要人は全員無言でその様子を眺めている。

 

「・・・貴様ら、なんだその態度は?劉備軍が居ないのなら、しっかりとくまなく探して来い!・・・こいつがどうなってもいいんだな?」

 

絡新は口から糸と糸を巻きつかせるようにして矢を作り、曹操の首に押し当てる。

 

「ちぃ!・・・このっ!いつまでも調子に乗っているなよ!」

 

その言葉に絡新はグッと手に力を込めて矢を強く当てる。すると曹操の首から血がツーと流れ出てくる。

 

「やめろっ!お前達っ!華琳様が危ないっ!・・・・辛いだろうがここは我慢だ・・・!」

 

夏侯惇が暴れだしそうになっていた兵士たちをいすくめる。

 

「そうそう、それでいい。・・・さ、さっさと探しに行け!見つけたら私が行くまで足止めしておけ」

 

 

 

 

 

 

〝夏侯惇・夏侯淵・許緒・典韋・楽進・李典・于禁・張遼〟

 

 

 

夏侯惇たちは主を助けられない悔しさを抑えながら本隊から離れ、劉備の痕跡を追う。軍師たちは本隊に残り、本隊指揮。

 

痕跡・・・それは地面についた足跡。雨なのでグショグショの地面に残っていた大量の人間で出来た道しるべ。それを追いかけるように馬に乗り追う。

 

 

 

「くそ・・・!」

 

「どうしたのだ、姉者?」

 

「何時まで華琳さまを捕らえられたままにすればいいのだっ!?・・・正直言ってあの兵士たちが暴れそうになったとき私も」

 

「・・・姉者」

 

「しかし、華琳さまの命が何よりも大事。だから踏みとどまれたのだが。・・・次にあいつの顔を見たら、自分を抑えられんかもしれん」

 

「・・・今はあいつの言う通りに動き隙を窺うしかない。・・・それしか」

 

「ですが、秋蘭様。あれだけ近くに入られたら、どうにも」

 

典韋が近くに行き、話に交わる。

 

「ああ、あいつ四六時中華琳の傍から離れんしなぁ。・・・ホンマ下種やで!卑怯な手使いおって!」

 

張遼はギリッと歯を噛みしめる。

 

「・・・隊長にこの事話してみますか?」

 

楽進が半ばうつむき加減に言う。

 

「あいつに話したところでどうにもならんだろう。華琳さまが捕まっている以上どうしようもない」

 

「・・・そう・・・ですね」

 

「とにかく今は劉備を追うことに集中しよう。各員速度を上げるぞっ!」

 

「応っ!!」

 

雨の中、みんなの乗った馬は速度を上げ駆け抜けていく。―――――激突は時間の問題・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝激突〟

 

 

 

 

 

 

――――――――――。

 

 

 

「・・・・恋」

 

「・・・《コクッ》来る」

 

「やっと来たのだ!鈴々待ちくたびれちゃったのだ」

 

「こらこら、遅く来てくれたほうが良いんだからそういうこと言わないの」

 

鈴々の頭をポンポンと手の平で軽く叩きながら、眼前を見る。そこにはまだ遠いけれど人影がちらほらと見えていて、どんどんとこっちに近づいてくるのが見える。

 

「さて、ねねたちはここからは・・・よし。岩陰に隠れているな」

 

さすがに3万全員を同じ場所に隠すわけにはいかないので別々に隠れているわけなんだけど・・・。

 

「お前達本当にいいんだな?」

 

「覚悟はとうに出来ております。私達も民を守りたい気持ちは同じですから。・・・北郷様、呂布様、張飛様だけに任せるわけには行きません」

 

さっき話していた作戦を無視してここに居る兵士も居るわけで・・・。俺は反対したんだが、鈴々や恋が戦わせてあげたいということで、ここに居させている。

 

「・・・わかった。お前達の気持ちはよくわかった。だけど・・・なるべくなら死ぬんじゃないぞ。生きてみんなで桃香たちのところへ帰ろう。今回の戦いは迎撃だからな、深追いはするなよ」

 

さっき考えていた足手まといの考えをきっぱりと捨ててこの人たちの覚悟を貫き通させることにする。〝生きて皆で〟この言葉がどれだけ守られるだろう?

 

戦場では傷つくのも当然。死ぬのなんて隣り合わせ。

 

「(甘いこともわかっている。・・・だけど、生きて皆で帰る。これも覚悟だ。だから、俺はこの人たちも死なせはしないっ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝先行隊〟

 

 

 

「前方に集団発見!恐らく追尾目標の劉備軍かと思われます!」

 

「よし!やっと追いついたか」

 

「・・・なぁ、なんか劉備軍の兵の数がおかしない?」

 

「・・・?」

 

「絡新には報告してなかった庶人たちじゃないのか?絡新には秘密にしておこうとさっき決めていたではないか」

 

「ああ、そういうことか。絡新に報告しとったら、関係なしに突っ込めとか言うから、秘密にしとこうって言ってたなぁ。スマンスマン」

 

「でも、庶人たちはどうやら長板橋を渡りきってますからこのままの速度で大丈夫ですよね?」

 

「・・・・・・・」

 

「凪?・・・どうしたんや?」

 

「いや、こんな形で隊長と戦うことになるとは・・・」

 

「凪ちゃん・・・」

 

速度を保ちながら走っている中で、兵士が、

 

「前方から旗が上がりました!」

 

「後方の守りか。・・・旗は?」

 

「牙門旗には十文字!その横に張、呂です!」

 

「隊長が後方の守りに・・・!」

 

「北郷一刀か・・・こんなときやなかったら、楽しめるんやけどなぁ。状況が状況だけに残念やで、ほんま。しかも恋まで居るなんて」

 

「ええい!北郷だろうと関係ない!華琳さまを死なせないためには、とにかく攻めるしかないだろう!・・・全員、突撃ーーーーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

 

「来た!どうやら向こうは突撃するようだ!・・・鈴々!」

 

「わかってるのだ!みんなー!この橋を通さないように展開するのだ!」

 

その言葉に兵士たちは陣を展開していき、相手の攻撃を受け止める態勢を整える。

 

「・・・・ご主人様」

 

「ん?」

 

「・・・がんばろう」

 

「・・・・ああ」

 

そのがんばろうを言う仕草に少し和みそうになったが、気合を入れて頷く。

 

「まずは初撃を受け止めることに全員で力を合わせるのだ!その後押し返して、時機を見て後退!お兄ちゃんの作戦を忘れちゃダメだぞ!」

 

「応っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝関羽〟

 

 

 

 

「・・・かすかにだが、後ろの方で声が聞こえる」

 

戦いが始まったのか・・・。・・・ご主人様は大丈夫だろうか?鈴々や恋やねねは?・・・ああ!胸の中がモヤモヤする!。

 

「愛紗ちゃん?・・・やっぱり愛紗ちゃんがご主人様と一緒に行きたかった?」

 

「い、いえ。私はご主人様を信じておりますから・・・」

 

「《じ~っ・・・・》」

 

「な、なんですか、桃香様」

 

「顔に今すぐにでも行きたいって書いてある・・・」

 

「なっ!?そのようなことは」

 

いやでも、行きたいのは本当のことだ。・・・顔に出てしまっていたのだろうか。

 

「お二人さん、じゃれあってるのもよいが気を抜くのはいけませんぞ」

 

先頭を馬で歩く私と桃香様に星が話しかけてきた。・・・というか、誰が気を抜いているか。

 

「この雨少し厄介だね、朱里ちゃん。・・・地面がぬかるんでいて、人民さんたちは大丈夫かな?」

 

「多分大丈夫だと思うけど・・・。今ここでは休ませるわけにはいかないし・・・うーん。・・・桃香さま、もう少し移動したら小休止にしませんか?」

 

「そうだね。ご主人様たちが頑張って足止めしてくれているし、休めそうなところまで移動して小休止しようか」

 

「桃香、北郷たちが頑張っているからこそ、もっと移動したほうがいいんじゃないか?」

 

「でも、みんな疲れているし、このまま移動し続けても大して変わらないよ。ここは、ご主人様たちには悪いけど休むしかないよ」

 

「・・・そうか。桃香が言うならそれに従おう。・・・みんなー!もう少し頑張ってくれー!」

 

白蓮殿が後ろの方へ行き、民達に声を掛けていく。ご主人様のことも心配だが、私にはやるべきことがあった。後ろではご主人様たちも頑張っているんだ、私も城攻めのときは奮闘しなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝一刀〟

 

 

 

 

「よし!敵を押し返した!鈴々、後退するなら、今しかない!」

 

「分かったのだ!それじゃあ、お兄ちゃんと恋と鈴々で殿の殿をしよう!その間にみんな橋を渡りきるのだ!」

 

「はっ!」

 

俺と鈴々と恋はそれぞれの副官に後退の指揮をまかせ、橋へと走るように命じる。

 

「これで後は俺たちだけだな」

 

すでに抜刀してある刀を二本戻し、一本だけ手に持つ。

 

「・・・ご主人様、恋、そろそろ本気出していい?」

 

「そうだな、もう周りには味方はいないからいいんじゃないか」

 

恋の本気・・・これは伏兵の作戦いらなかったんじゃないか?、そう思わせるほどの安心感があった。なにせ一人で三万倒したって前に聞いたことあったし。

 

「北郷ー!見つけたぞー!」

 

「お、春蘭だ。・・・あれ、春蘭お前目が」

 

「何が、お、だ!あれ、だ!。あいかわらず間抜けな面をしおって。目のことは今はどうでもよかろう。・・・北郷、張飛、おとなしく我々に捕まれ」

 

「捕まえる?俺と鈴々を?・・・なんでそんなことを」

 

ここで捕まえるはおかしいんじゃないか。これが華琳が望んだ戦いならここは捕まえるじゃなくて、俺たちを撃破して桃香の頸をあげるじゃないのか。

 

それになんで恋は数に入ってないんだ?

 

「それは華琳が命令したのか?」

 

「すまんな北郷、我々にも事情というものがあるのだよ。ここは問答無用に行かせてもらう。・・・でなければ」

 

「・・・・??」

 

秋蘭の様子もおかしい。まるでこんな戦い望んでいないかのような・・・・・・って、

 

「はあああああっ!!」

 

「凪っ!?」

 

秋蘭の様子に気を取られていた俺は完全に油断していた、だから凪の攻撃にも反応できずにくら・・・・った・・・?

 

「《ガキィィン!!》ご主人様には近づけさせない」

 

「呂布・・・奉先!」

 

凪は攻撃を防がれた後、すぐさまその場を飛びのく。

 

「(凪がいきなり攻撃してくるなんて・・・やっぱり様子がおかしくないか?つっても確認しようにも問答無用って言ってるし・・・今はやるしかないか)」

 

「北郷一刀!ウチと勝負せい!こんな戦いでもお前と戦えば少しは気が晴れるかもしれん!」

 

えっと・・・確か、張遼か。魏に下っていたのは知っていたけど、まさか先行隊の中に居るなんて・・・恋は。

 

「霞・・・」

 

「おお、恋!久しぶりやな、元気しとったか?」

 

「《コクッ》・・・霞は?」

 

「ウチは元気は元気ねんけど・・・今はちょっと機嫌悪いから、もしウチと戦うなら気ぃつけたほうがええで」

 

その言葉と共に迸るは闘気。

 

「ご主人様、霞は恋が相手する。・・・・だから、離れていて」

 

「・・・・わかった」

 

恋の本気を感じ離れる。恋と張遼の間からは闘気と闘気のぶつかり合いが見えるようだった。

 

「恋は張遼お姉ちゃんか・・・。なら、鈴々の相手は誰だー?」

 

「ボクが相手してやる!お前なんかボクだけで充分だ」

 

「なーんだチビペタハルマキか。つまんないの」

 

チビペタ・・・ハルマキ。季衣に向かってなんて事を言うんだ鈴々は・・・。

 

「《ブチッ・・・!》だーれーがー・・・!チビペタハルマキだーーーーーーっ!!」

 

季衣は大鉄球を鈴々に向かって渾身の力で放り投げる。

 

「ひょいっと。へへーんだ。そんなの当たらないよー」

 

その攻撃を簡単に避ける。・・・大鉄球が地面に落ちて陥没している。

 

「ムキーーーっ!!自分だってペタンコのくせに他人のこと言えないじゃないかっ!」

 

「鈴々は成長期だから心配ないのだ。でも、お前はもうだめなのだ」

 

「このーーっ!勝手に決めるなぁーーーーっ!」

 

完全に鈴々のペースだな。あのままだと勝負にすらならないぞ。

 

「流流。季衣の援護に行ってくれないか?」

 

「はい。わかりました、秋蘭様」

 

典韋か。あの娘はあんまり面識ないからどういう戦いするのか、わからいんだよな。

 

「鈴々!そっちは任せて大丈夫か?」

 

「大丈夫なのだ!お兄ちゃんは自分のことを考えていていいのだ」

 

頷き返事をする。そこへ、

 

「貴様の相手は私だ。華琳様がつか・・・いや、こんな状況だが以前の借りは返させてもらうぞ!」

 

「つか・・・?。華琳に何かあったのか?」

 

「なんでもない!とにかく、いくぞっ!」

 

バシャバシャと地面を走りながら武器を構え近づいてくる。

 

「たくっ、ちょっとぐらい話してくれてもいいだろうがっ!」

 

正面からくる斬撃を同じく正面から受け止めるように和道をふる。鉄と鉄がぶつかり合い、刀についていた雨が一瞬で吹き飛ぶ。

 

地面にはその衝撃が伝わり、あたりに衝撃波が起り、水溜りの水が水飛沫となり周りに飛ぶ。

 

「(くっ!・・・相変わらず重い。・・・けど。なんだろ?・・・剣に迷いがあるような?前に戦っていたときのほうが良い振りだった感じするけど)」

 

「この一撃を受け止めるか。なら、これならどうだ!」

 

今度は連続攻撃。以前戦ったときのような連続攻撃ではなく、擬餌を織り交ぜたような連続攻撃だった。

 

「くっ!?」

 

攻撃回数は八回。擬餌をあわせたら十六回。和道だけでは防ぎきれないし、避けきれないと判断した俺は二本目の刀、天月を抜き、防戦する。

 

――――ガキィ!キィン!ヒュ!キン!ヒュンッ!スパッ!ガキキキキィィィィ!!

 

頬から血が垂れてくる。完全には防ぎきれなかった。・・・でも、やっぱり今の攻撃も感じた。剣に迷いがあることを。

 

迷いが無かったら斬られてたかもなぁ。それに前に勝っていたから、俺も知らないうちに油断してたかも。

 

「よし!今度はこっちの番だからな、いくぞ春蘭!」

 

「おう!来い!」

 

 

 

 

〝呂布・張遼〟

 

 

「はあああああああっ!!」

 

「・・・フッ!!」

 

 

 

 

〝張飛・許緒・典韋〟

 

 

 

「だから、そんな攻撃じゃ丸見えなのだ。ひょい」

 

「流流!今だ!」

 

「うん!はああっ!」

 

「そんな攻撃はこうなのだ!」

 

「なっ!?流流の攻撃を弾いて逸らしたっ!」

 

 

 

 

 

 

 

〝絡新〟

 

 

 

 

「やっと追いついたわね。・・・さぁて、一体どうなっているのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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