No.142601

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 十八の章

Chillyさん

双天第十八話です。

う~ん……知略戦って難しいですね。奴の恐ろしさを百分の一でも出せてたらいいのですが、でていないだろうなぁ( ̄^ ̄;A

オリ主ものなので一刀を踏み台にしたり、恋姫達を改悪しないよう注意はしているものの、実際にできているか不安な日々。“晴信、君はカメラマン兼記者だ”と自分に言い聞かせながら書いています。

2010-05-12 12:28:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2571   閲覧ユーザー数:2339

 反董卓連合の先鋒を任された孫策は汜水関を全力で攻めた。

 

 だが汜水関を守る華雄は猛将の名に恥じない防戦を見せる。関に梯子をかけ登ってくる孫策の兵に煮えたぎる油をかけ、石を落として梯子から叩き落し、矢を射掛けて関を越えるのを防いでいく。

 

 優勢に進む防衛線に華雄は、副将胡軫に五千の兵を与えて関から打って出ることを命じた。

 

 これこそが孫策の断金の友周瑜の罠であった。自軍の数だけでは攻め落とせないことが判っていた周瑜は、限定的な勝利をもって他の諸侯を巻き込むことを考えていた。そのため華雄が増長して打って出てくるように関の防衛を優勢に進むように仕向けたのだ。

 

 その周瑜の罠にうまうまとかかった華雄は、副将の胡軫に五千もの兵を与えて堅く閉ざした関の門を開いて出陣させてしまった。

 

 華雄が愚かであるのか、それとも孫策と周瑜の用兵が巧みだったのか、どちらであったとしても胡軫が出撃したことには変わりない。

 

 周瑜は胡軫が打って出てくるタイミングを完璧に当ててみせた。

 

 汜水関の門が開き始めた瞬間に鳴り響く銅鑼の音。孫策の兵はその銅鑼に合わせ攻城を止め、門を中心にするように陣立て、打って出てくる兵を迎え撃つ。

 

 勢いよく打って出てきた胡軫は、蜘蛛の巣にかかる蝶のごとく周瑜の張り巡らせた罠に飛び込んだ。

 

 何本も張り巡らされた足元の綱が騎馬の足を止め、最大の攻撃力たる突進力を殺ぎ落とす。

 

 槍を持った歩兵が密集隊形を取り、綱に足をとられながらも向かってくる騎馬隊に槍衾を向ける。

 

 完全に足の止まった騎馬隊は、槍を構える歩兵の後ろに控える弓隊にとって格好の的であり、矢を射掛けることに躊躇するような兵は孫策の兵にはいなかった。

 

 降り注ぐ矢の雨に一人また一人と討ち取られていく自分の兵の姿を背に、胡軫は起死回生をかけて一騎討ちを申し出る。一騎討ちを受けずとも胡軫の兵はことごとく矢の雨に討ち取ることは可能であったが、孫策はあえてこの一騎討ちを受けた。

 

 そして孫策は数合得物を合わせただけで、見事胡軫を討ち取り勝鬨を上げる。

 

 指揮官を失った胡軫の兵は汜水関へと統制の取れぬまま、慌てふためき逃げ出した。

 

 孫策は逃走する兵を追って関の中へと踊りこみ、そのまま攻め込むことは可能ではあったが、周瑜がそれを許さず逃走する兵に合わせて撤退をさせた。

 

 この報は即座に連合軍本陣に伝えられ、周瑜の援軍と補給要請がなされた。

 

 この援軍補給要請を断らないようにしなければいけないのは、一刀との話し合いでなされたけれども、どうやってやるのかオレは途方にくれてしまう。勝手に袁紹が要請を断ってしまえば、こちらが連合を無視する形で行かねばならないが、それも連合崩壊のフラグになってしまう可能性もある。

 

 とりあえずこれから行われる軍議においてなんとか援軍と補給を袁紹に認めさせなければならない。一刀の話では曹操に話をすでに通してあり、ここで援軍と補給をしっかりと行うよう口ぞえしてもらう手筈は整っている。

 

「諏訪。今回も軍議に参加するのか?」

 

「あぁ。この連合の間は全部参加させて欲しい。あとできれば参謀というか、軍師というか発言権ももらえるとうれしいかな」

 

 前に軍議を開いた天幕に再び向かいながら伯珪さんにちょっと図々しいかもしれないお願いをしてみる。軍議に参加できても拝聴するだけで発言できなければ意味はない。特に連合崩壊を防ぎ、伯珪さんに有利になるようにするには一刀と曹操を利用してでも……とも思うがそこまでする必要があるかわからない。

 

「ん……まぁ、諏訪は天の御遣いとして、一応名が知られているから発言に関しては、私の軍師扱いとしてできるとは思うぞ。麗羽が採用するかどうかはわからないけどな」

 

 

 軍議は予想通りというか三国志通りになりそうになった。

 

 まず干吉が張勲を横目で確認しながら孫策の軍功を褒め、さも今後袁紹が率先して孫策を支援するように話を持っていった。オレにはとてもじゃないができそうもない弁舌だが、効果的ではあるだろう。ここにいる諸侯は、劉備さんのように善意だけで洛陽の民を救おうという人間ではない。何かしらの名声を得て上を目指そうとする野心を持っているはずだ。

 

 そんな中、一介の武将にこの連合最大派閥の人間が懇意を示せば、その武将の主はその武将に対して良い感情を示すはずはない。三国志や日本の戦国時代、欧州の中世の時代のような戦乱の時代において裏切り、下克上は結構な数あったのだから注意しないほうがおかしい。

 

 オレでもわかるような煽りに袁術の側近たる張勲が、その意図と思惑に気がつかないということはないはずである。にもかかわらず、張勲は干吉の思惑にのっている。主たる袁術に孫策の独立と叛乱を仄めかしていた。

 

「お嬢さま。きっと孫策さんのことですから、独立してやるーとか言い出して、お嬢さまのことを追い出しちゃったりなんかしたりしてー」

 

 仄めかしてないね。直接的に言ってますね、張勲。袁術もなんか“なんじゃと、それは真か? 七乃”とか本気にしているんだけど。この娘、大丈夫なのか? 自分でちゃんと考えるということができるのだろうか。

 

「麗羽姉さま! 援軍と補給を送ることはないのじゃ。孫策が妾を追い出すのを防がなくてはいけないのじゃ」

 

 張勲に唆された袁術は頬を膨らませ、両手をブンブンと振り回して力説しているけど、全部袁術の後ろで笑いを堪えている張勲の妄言をそのまま言っているだけじゃないか。

 

「あぁ、さすがお嬢さまー。自分が一番で他の迷惑顧みないその姿、もう食べちゃいたいほどかわいいぞ」

 

 しかも張勲はなにやら違う方向にトリップしているようだし、大丈夫なのか? この袁家。

 

「そうですわねぇ……名門たる袁家に仇なすかもしれないという人を助けることはないかもしれませんわねぇ」

 

 そして袁紹は袁紹で、張勲のことなど見ずに袁術の言葉だけで判断しているようだ。後ろで二枚看板の一人、顔良が慌てているのが一つ救いかもしれない。

 

 ここで援軍と補給を送らないと決められたら、この連合が崩壊する流れになってしまう。曹操のところを見てみれば、一刀も袁術に抗議、それから援軍補給を送るように言うために立ち上がろうとしている。

 

 もちろんオレもその一刀の行動を援護するために立ち上がる。

 

「袁紹様。折角上がった士気をここで落とすのはいかがなものかと……ちょうど天の御遣いのお二人も、なにやら言いたいご様子ですし」

 

 オレたちが立ち上がった瞬間に合わせるように、袁紹の傍らに控えていた干吉が舌の根も乾かぬうちに、自分で煽った結果を否定すると同時に、オレと一刀を表舞台に引き上げようと袁紹に言葉をかけた。

 

 眼鏡の奥で光るその瞳は蜥蜴のように冷徹であり、鼠をいたぶる猫のような嗜虐心にも溢れていた。

 

「私の決定になにか文句でもあるんですの? どうせ地味ぃでダメダメぇなことをおっしゃるんじゃありませんの?」

 

「それはわかりませんが、天の知識というものを使い、あっと驚くようなことをしていただけるものかと……」

 

 不満を隠そうともしない袁紹の言葉を受けて干吉はさらに言葉を続ける。その瞳はやはりオレたちをいたぶるのを楽しんでいるように思えた。

 

 一刀もオレもなぜか二人の会話に割って入ることができないでいた。援軍を送ることを反対していた袁術はもちろん曹操に、伯珪さん、劉備さんといった諸侯も口を挟めずにいる。

 

 袁紹は一刀とオレを交互に見据え、ため息をつく。

 

「干吉。こぉんな下男と見間違うような人が、わたくしに相応しい戦果をあげられると思えないのですけれど……」

 

 口元を手で隠して再びため息をつく。それは金髪のグラマー美女が憂いの表情でため息をついているというさぞ絵になる光景だろうが、当事者にしてみれば馬鹿にされているだけだ。

 

「それはもちろん……。特に公孫賛殿の所に居られる御遣いなら、華麗で雄雄しく優雅に汜水関を落としていただけると思いますよ」

 

 くくくと喉を鳴らすように笑い、干吉はオレを見る瞳を細めた。そのさまは猫が鼠をいたぶるのに飽きて、止めを刺すようにオレには感じられた。

 

 背中に冷たい汗が流れ、不吉な予感がしてならない。干吉がオレに対してなぜここまで敵意というか、害をなそうとするのかわからない。わからないからこそ、不気味に思い警戒するのかもしれない。

 

「それは見てみたいですわね。いいですわ。白蓮さんのところに孫策さんの援軍に行ってもらいましょう。おーっほっほっほ!」

 

「麗羽姉さま! なんで孫策に援軍の送るのかや。妾が追い出されてしまうではないか!」

 

 袁紹の高笑いと袁術の癇癪のおかげで、軍議はこれ以上話し合われることなく閉会することになった。袁術がいろいろと文句をつけてはいたが、袁紹が決めた伯珪さんの孫策援軍はなんとか覆ることなく進められることになった。

 

 この軍議前に一刀と話し合ったときには、援軍として送る部隊を曹操のものとして考えていた。しかし蓋をあけてみれば、伯珪さんの部隊を送ることになっている。援軍補給が送れるということは、こちらの思惑通りなのだけれども、余計なプレッシャーというか干吉の言葉のおかげで、かなりの戦果をあげなくてはいけなくなった。天の御遣いならば勝って当たり前、圧勝でもそこまで名声を得られなくされたように思う。どうにも干吉の手のひらの上で踊らされたようで、嫌な予感が拭えない。

 

 それに話の持っていき方、オレたちの上奏を妨げたタイミング、軍議の落とし所など考えれば、オレたちの行動を前もって把握していた可能性は否定できない。

 

 これは袁紹が連合軍内部にも細作を放っていることを裏付けているとは思うが、本当にそうなのだろうか、別の力も働いているようにも思ってしまう。

 

 あのときオレたちに忠告した曹操はこのことを予見していたというのだろうか。それともこれはまだ干吉の策の些細な一手だとでも言うのだろうか。もしそうだとしたらこの二人を敵に回すことは恐ろしいことだと思う。

 

 片や人物鑑定からその人物の危険度を正確に推し量り、片や全てを見通すかのごとく手のひらの上で人々を動かしている。

 

 オレはその片方から狙われているようだけど、太刀打ちできるのだろうか。

 

 軍議から自陣に戻る道すがら、頬を撫でる風に不吉な予感しか感じられなかった。

 

 

 


 
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