No.138479

恋姫異聞録54

絶影さん

拠点話です^^

また酒飲み話です
自分が酒呑みのせいかそんな場面が多めになっているような
気がします。

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2010-04-24 20:06:32 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:15432   閲覧ユーザー数:11851

 

 

「本当に・・・すまなかったな」

 

「いいや、お前に話すなと言ったのだろう?」

 

華佗は頷く、酒を少しずつ飲む華佗の顔は苦いものを飲み込むような顔になる

俺は許昌に戻ったその夜、酒家二階の個室で華佗と酒を飲んでいた。戦前にも華佗と酒を飲んだが

そのとき華佗は俺に何も言わなかった、俺も華佗はきっと言えないのだろうと無言で酒を飲むだけだった

 

「やはり解っていたか」

 

「眼を見れば解るよ、延命したこと感謝していたよ」

 

俺の言葉を聞いて華佗は心底悔しそうな顔をする。華佗は前から言っていた、「自分は神医と呼ばれるが

そんなものじゃない、本当に助けたい命なのに命は何時も俺の手をすり抜けていく、神なんてものがいるなら

人を命を救ってくれと、そのためならば自分はなんだってする」と言っていた

 

「俺は、お前と友で良かったよ」

 

「・・・なぜだ?」

 

「お前ほど優しくて、人の命を大切に思う奴はいないから。そんなお前の友でいられて俺は誇りに思う」

 

「・・・・・・友よ、俺もだ。お前は戦場にいながら傷を抱えて戦うのだろう、俺に出来ないことをお前はやる」

 

「俺が出来ないことをお前がやる。華琳が俺達が平穏を手に入れお前が救える命を増やす」

 

華佗は俺が己の想いを無理やり閉じ込め戦い続けているのを知っている。俺は華佗が戦で増える死の淵に立つ

人を苦悩しながら助け続けていることを知っている。お互いの気持ちを知っているから相反する道であっても

俺達は友でいられるのだ

 

「曹操は何か言っていたか?」

 

「いいや、華琳は何も言わない。戦場で馬騰を逝かせたことを誇りに思うだけだ」

 

「・・・馬騰殿の為か、医者としてはやはり納得は行かないな」

 

そういうと酒を煽る。医者だからその目にはどの命も同じに見えて、いくら望んだこととはいえ死なせることには抵抗が

あるのだろう、だから何時も俺と二人で酒を飲む時は顔を曇らせる。死に逝く者の気持ちを理解しながらそこには

医者として救いたいという気持ちと何時も心の中でぶつかり合っているからだ

 

「馬騰殿はもう助からなかった。あの時、診察で見たのは体中を病魔に犯されている体。常人ならとっくに死んでいる」

 

華佗は椅子に寄りかかり天井を見上げ溜息を一つ吐くと杯の酒を一気に煽った

 

「俺の針治療を受けながら馬騰殿は言った、自分の体だから解っている。唯一つ自分を戦えるようにしてくれと

俺は諦めるなと言ったんだが、馬騰殿は笑顔で俺に笑いかけるんだ。とてもよい笑顔で、それで俺に言った

戦の中で死にたいと・・・」

 

「・・・」

 

「俺はそれを叶えることしか出来なかった。俺は最低の医者だ・・・」

 

「・・・・・・それでも」

 

「ああ、それでも俺は救い続ける。もっともっと知識を、新しい医術を身に付ける」

 

俺はその言葉に笑うと、華佗も俺に笑顔を見せる。そんなことでは潰れない、俺の友は幾多の死を乗り越え

悲しみを乗り越え、今の技術を身に付けてきたのだ。必ず華佗ならば父の苦しんだ病でさえ治す事の出来る

神医の名に相応しい男へとなるだろう

 

「すまないな、何時も俺の愚痴ばかりだ」

 

「俺はその分楽しい話を聞けるから良いさ」

 

「楽しい話か、俺にはそう思えんのだがお前が楽しそうな顔をするからそうなのだろう」

 

俺が笑顔で答えると華佗は少し笑って首をかしげる。

 

「そうだな、この前診療所に裕福な商家の男がやって来て頭に鉈が当たったから治療をしてくれと着たんだ」

 

「鉈が・・・痛そうだな」

 

「それで診療の列を押しのけて死ぬほどの怪我だから早く治せと俺に迫ってきたんだ」

 

「・・・」

 

「よほどの怪我だろうと思ってみようとしたんだが詠がその男の頭に湿布を思い切り貼り付けて」

 

「おいおい」

 

「鉈の峰が当たっただけでしょう!そんなんで騒ぐんじゃないわよっ!そういってな」

 

「診療所から蹴りだしたのか?」

 

「ああ、あれには周りの者たちも大笑いして・・・おいそれほど面白いか?」

 

腹を抱えて笑い出す俺を不思議そうに華佗は見ている。詠を良く知る俺はその時の光景がまるで見てきたように

思い浮かぶ、きっとその後文句を言いに来た商家の男の頬を張って追い返したといった所ではないのだろうか?

 

「その後、男が文句を言いに着たらしいが詠が追い返したらしい」

 

「やっぱりか、あはははははははっ!!!!」

 

俺の笑う様をみながら華佗の目がうつらうつらとなってきていた。華佗は酒は好きだが酔うと直ぐに寝てしまう

だから何時も俺が背負って帰ることのなるのだが、この間の詠に似ているな。だが詠はめったに酔っ払って眠った

りはしないからこの間はよほど天子様のことが嬉しかったのだろう

 

カクン

 

「・・・うぅっ・・・すまん・・・後は頼む・・・・・・くー・・・くー・・・くー・・・」

 

華佗はそういって卓に突っ伏してしまう、俺は残った酒を飲み干すと華佗を背負い笑いながら酒家を後にした

診療所まではそれほど遠くない、しかし軽いな華佗よ・・・医者の不養生ってのを知ってるか?お前のことだぞ

後で栄養のあるものを食わせてやるか、そうでもしなければこいつが己の夢をか叶える前に倒れてしまう

 

俺は華佗を詠の時のように背負いながら診療所へ向かい、華佗を診療所の弟子に任せ自宅へと歩を進めた

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り」

 

「ただいま、涼風は?」

 

「姉者と寝てる。姉者が今日は一緒に寝たいといってな」

 

屋敷に帰り、寝室に向かうと秋蘭は寝台に腰掛て裁縫をしていた。娘の新しい服を作ろうとしているのか、

器用に青い布を縫い合わせていく、男は外套を脱ぎ椅子に掛けると寝台に横になり秋蘭の腹に顔を向け

膝に頭を滑り込ませた

 

「・・・珍しいな、昭が甘えてくるなど」

 

「・・・・・・ん」

 

手に持つ針と布を隣に置くと表情の見えない男の頭を優しく撫でる。髪の毛で遊ぶようにさわさわと撫で

秋蘭の顔には優しい笑みがこぼれる

 

「華琳様と話したのだな」

 

「・・・」

 

男は何も応えない、だが秋蘭は目を細めて優しく笑い頭を撫でる。馬騰の死を目の前で見て男の心に何も

残らないはずは無い、理解をしている秋蘭はただ男を優しく包むだけ

 

「お前が華琳様を支えるなら私がお前を支えてやる。私がお前の心を守る」

 

「・・・」

 

男は布団を強く握り締める。だが秋蘭は気にする事無く男に優しいまなざしを向けて優しく頭を撫でるだけ

 

「何時も私達を支えてくれるのだから、たまには私がお前を支えても良いだろう?」

 

「・・・うん」

 

男は撫でる秋蘭の手をとり優しく握る。そして顔を上に向け秋蘭と目が合うと少し恥ずかしそうな顔をした

 

「秋蘭に話してないことがある」

 

「ん?」

 

「馬超と馬岱に真名を預けた」

 

「そうか、お前ならそうすると思っていたよ。しかし大丈夫か?」

 

秋蘭は笑って返すだけ、それよりも真名を預けた相手と戦うことになる男の心を心配していた

 

「ああ、秋蘭がいるから大丈夫だよ」

 

「そうだな、私がお前の心を守ってやる」

 

 

 

 

「それともう一つ」

 

男の言葉が意外だったのか秋蘭は少し首をかしげた、まさか二つも隠し事をしているとは思わなかったのだろう

 

「最近見る夢の速度が速い、一日で二週間分とか何故だかは解らないが」

 

「・・・そうか、では早いうちにお前がこちらに来た理由も解るということか」

 

「そうかもしれないよ」

 

「向こうでのお祖父様とお祖母様はご健在か?」

 

「元気だよ、夢の中で何時も元気に笑ってる」

 

男の答えに秋蘭はまた笑顔になる。天での記憶にある男の祖父と祖母を自分の祖父母も同然と思い

何時も気にかける。そんな秋蘭を男は何時も嬉しく思うのだ、あったことも無い人物を認め心配をすること

など簡単に出来るものではない

 

「他に隠し事は無いだろうな?」

 

「無いよ・・・あ、ごめん、この間涼風の服買ったからお金が」

 

「はぁ、貯金はしているだろう?」

 

「うん、でも全部涼風と秋蘭の為に貯めてるから」

 

「馬鹿者、私の分は良い。自分がどうにかなった時のことを考えているのだろうまったく」

 

「駄目か?」

 

「駄目だ、お前は必ず生き残るのだろう・・・・・・私の為に」

 

そう言って顔を紅く染める秋蘭を見て男は起き上がり優しく抱きしめる

 

「ああ、俺はお前を悲しませたりはしないよ」

 

「ならそんな事は考えるな、だから」

 

「そうだな、今度一緒に買い物に行こうか。下着は恥ずかしいからカンベンして欲しいけど」

 

二人はクスクスと笑い出す。お互いを想いあい、これからの戦いを生き抜くことを心に強く刻み

秋蘭も男に腕を回し抱きしめ、頬に誓いの口付けをする。己も男を悲しませるようなことをしない

戦場で命を落とすことをしない、そんな意味を込めて

 

 

 


 
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