No.137167

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 十三の章 中編

Chillyさん

双天第十三話中編です。

やっぱり前中後編に分かれます。
戦闘シーンはやっぱり晴信の一人称では書けませんね。と言っても書けているとは決して言えないんですけどね(>w<;

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2010-04-18 18:30:52 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1983   閲覧ユーザー数:1817

“公孫伯珪が白馬義従の勇士たちよ!

 

 我らが趙将軍と

 

 我が友、劉玄徳が家臣、関雲長と張翼徳が

 

 これより怨敵、張角を討ち取らんと

 

 二〇万の黄巾賊がひしめく砦へと向かう!

 

 白馬義従の勇士たちよ

 

 我らが仕事はただ一つ!

 

 我らで砦への花道を切り開く!

 

 黄巾賊を打ち滅ぼすために

 

 我らが勇者たちのために

 

 故郷で待つ家族のために

 

 趙将軍たちの花道を切り開こうぞ! 趙将軍たちの武に華を添えようぞ!

 

 白馬義従の勇士たちよ

 

 我らが弓の先に 我らが放つ矢の先に

 

 己が大切な者の幸せがあると知れ!

 

 白馬義従の勇士たちよ!

 

 これより我ら、己が大切な者のため

 

 死地へ入る!

 

 全隊 騎乗!

 

 鬨を上げよ! 声を出せ!

 

 我らに勝る軍は無し! 我らに勝る武威は無し!

 

 全隊 出陣!”

 

 

 陽光に煌く剣を掲げ、自らも白馬に乗った伯珪が放つ言葉の矢は、居並ぶ兵士たちの心に火をつける。

 

 あるものは手にした弓を高々と掲げ、あるものは足を踏み鳴らし、あるものは言葉にならぬ喚声を上げた。

 

 地に満ちる兵士たちの鬨の声。主人の興奮にいななく馬たちの躍動。

 

 あたりに充満する熱気は臨界点を向かえ、爆発の方向性を求める。

 

 伯珪は高々と掲げ、陽光を反射する剣を勢いよく振り下ろし、黄巾党が集まる砦へとその切っ先を向けた。

 

“全隊、出陣!”の声とともに、膨れ上がった熱気は爆発する。

 

 あたりに響き渡る馬蹄の音。兵士たちが上げる鬨の声。

 

 全てが伯珪の意思の元、与えられた爆発先、砦へと向け突き進んでいく。

 

 輜重隊を残した軍営から離れた白馬義従の面々は、前線近くに一時待機所を作成した。ここで補給、休憩、再編成などを行い、断続的に砦へ弓を射続ける作戦を敢行する。

 

「公孫越が率いるこの隊は栄えある先鋒を与えられた! 諸君に望むは死ではない。我ら白馬義従の力を見せ付けることにある! 全隊、敵の矢に怯むことなかれ。全隊、敵の武威に怯むことなかれ。我ら白馬義従、その武威を黄巾の賊徒どもに見せてやれ! 全隊、我に続けぇぇえええ!」

 

 越に率いられた先鋒隊が一時待機所から出陣していく。

 

 その馬列は乱れも見せず二列の隊列を組み、一直線に砦へと駆ける。

 

 その白馬の馬列に向け砦から矢の雨が降るが、越に率いられた部隊は怯みも乱れることもない。そして訓練され乗り手との信頼篤い馬たちも馬蹄を響かせ、降り注ぐ矢の雨の中を突き進む。

 

 膝に力を込めしっかりと馬体を挟み込むと、躍動する馬の筋肉の動きがしっかりと伝わってくる。

 

 越は愛馬の首をやさしく一撫で撫でると、しっかりと握っていた手綱を手放した。

 

 背に背負った弓を取り、矢筒から矢を一本引き抜く。

 

 目の前にそびえる城壁の上に群がる黄巾兵の動きを確かめる。

 

「弓、構え!」

 

 矢を番え弓を構えつつ、号令をかけた。越直属の部隊の兵士が一糸乱れず、その指示に従いそれぞれ馬上で弓を構える。

 

 頬を掠める砦からの矢を無視して、城壁の上に狙いを定めた。

 

 後ろで誰かが馬から落ちる音がする。耳元を通り過ぎる矢の風を切る音がする。

 

 しかし越はまだ号令を出さない。

 

 馬も兵もひたすら越を信じてその後を追う。その馬列に乱れは全く見えない。

 

「てぇぇええ!」

 

 号令を発しながら、自身が構えていた矢を放つ。

 

 ぎりぎりのところまで待ち放たれた白馬義従の矢は、城壁に阻まれることなくその壁を越え、中にいる黄巾兵を次々と射抜いていく。城壁に切られた銃眼の隙間にさえ白馬義従の矢は通り、中で弓を構える兵を貫いた。

 

 矢を射終わった白馬義従がこの場を駆け抜け後方へと下がる中、越だけはその場で馬の馬首を切り返す。

 

 いななきとともにその場に留まった越を乗せた馬は、ガツガツと前脚で地面を蹴る。

 

 体勢をすばやく立て直し、弓を投げ捨て腰に佩く剣を抜いた越は高々とそれを掲げた。

 

「後続第二隊、弓構え!」

 

 離れ行く第一隊の後を次いで馬を駆る第二隊に向け指示を出す。

 

 途切れた矢に顔を出した黄巾党の兵に矢を射掛けられるが、最低限自身に危害が及ぶものだけ手に掲げた剣で払い落とす。

 

 馬蹄を響かせ駆けて来る第二隊も越の指示の元、弓を構えるその姿に一切の乱れはない。

 

 ぽつぽつと矢を砦から射掛けられるが、かまわず進む第二隊に越の号令が飛ぶ。

 

 再び放たれる矢の雨に城壁から顔を出していた兵士が貫かれ、悲鳴を上げながら地面へと落下していった。

 

 悲鳴は恐慌を呼び、恐慌は混乱を呼ぶ。

 

 各々が生き残るために城壁から顔を出して弓を放てという命令を無視して縮こまり、できるだけ壁にへばりついて白馬義従の矢を防いだ。

 

 第三隊の矢はそうした黄巾党の行動に、第一第二隊ほどの戦果は得られずとも黄巾党を押しとどめ、反撃を封じることは十分以上にこなしていた。

 

 

 白馬義従が駆ける戦場を望むところで子龍は、その戦いに感嘆のため息を漏らす。

 

「さすがは……。弓騎を扱わせたら右に出るものはおりませんな」

 

「たしかに、頼もしくはある。だが……」

 

 子龍の言葉に同意するも関羽はその言葉に含みを持たせる。

 

“くくく”と子龍は関羽の矜持の高さに含み笑いをもらした。

 

「私とて負けるつもりはありませんよ。……そろそろ動かねば鈴々のやつが飽きてしまいそうですな」

 

 自身の矜持も負けないと関羽に見せることは決して忘れることはない。子龍もそれだけ自身の武に矜持を持っている。しかし、ここでそんな武の自信を自慢しあっても意味はない。

 

 子龍は張飛を引き合いに出して、出陣の合図を関羽に促す。

 

 見れば第三隊の矢が射おわり、再び第一隊が砦へと向かっていた。

 

 砦の兵はほとんどが顔を出さず城壁の中で縮こまり、白馬義従に矢を射掛けることもしていない。

 

「たしかに。では……」

 

 関羽は待機する劉備の義勇軍の兵士を奮い立たせる。

 

 劉備の徳を、自身の武を、今砦攻めをしている白馬義従の勇姿を語り、兵士の士気を高めた。

 

 兵士たちは盾を構え、梯子を持つ。

 

 関羽、張飛、子龍を中心に置き、その周りを固めるように方円陣を敷いた。

 

「これより我ら死地へ赴く。皆のもの、我らの先導よろしく頼む!」

 

 盾を構え矢の雨の降る戦場へと劉備隊は静々と進んでいく。

 

 十射射終えた越率いる部隊の第三隊が砦から遠ざかっていく。

 

 それを確認した越は、もう一度城壁の上を見据えた。

 

 三部隊が十射、合計三十回の矢の雨を降らせた城壁には、そこかしこに黄巾党の兵士が横たわりその屍を晒している。顔を城壁から出し、弓を射る兵もいることはいるがその数は少なく、多くの兵が壁に身を寄せ縮こまっている。

 

 黄巾党の士気の低さがよく現れている。これだけの諸侯に囲まれ、砦に十分な糧食もないのだ、仕方がない。そう仕方がないのだが、越は自身の隊の人間がその兵に殺されたことに憤りを感じてしまう。

 

 戦場に死は付き物とはいえ、こうも戦い甲斐のない相手ではその死が軽視されているように感じてしまうのが止められなかった。

 

 矢に貫かれ落馬した兵士の躯が何体か地面に落ちている。

 

 自身の指揮が間違っていたとは思わないが、それでも被害を受け死んだ兵士を見ると心が痛む。

 

 かすかに眉間に皺がよったが、幸いここに指揮した兵はいない。見られることなくその皺は消えた。

 

 地響きとも思える馬蹄の音を響かせて、伯珪が部隊を率いて砦に押し寄せる。

 

 十射射終え、補給と休憩に戻った越の部隊の交代として、その武威を示すためにやってきた部隊だ。

 

 越の部隊に引けをとらない見事な隊列で砦に向けて弓を構えている。

 

 越の前を伯珪の指揮の下、弓を砦に射掛けながら通り過ぎていく。

 

「越! 桃香の義勇軍も出陣した。ここは私に任せ、一旦引け」

 

 交代の部隊を率いてきた伯珪が越に声をかけた。

 

「従姉様、よろしくお願いします」

 

 越は何かを振り切るように馬首をめぐらせ後ろに下がる。

 

「越、弔いは全て終わってからだ。今はしっかり休め」

 

 伯珪はその遠ざかる背中に言葉をかける。

 

 何も返しはしなかったが、その手綱捌きに気合が乗っていたのが見て取れた。

 

 伯珪の口が少し上にあがるが、すぐに引き締め部隊の指揮を再開した。

 

「黄巾賊はその士気を失い、ただ城壁の裏で震えるのみだ。白馬義従の勇士たちよ! 弓を射よ。我らの武威を余すところなく見せ付けようぞ!」

 

 伯珪の鼓舞に白馬義従の意気があがる。

 

 その弓の精度を増し矢は城壁を越え、銃眼を抜け黄巾党の兵を貫いていく。そのため黄巾党はますます城壁にへばりつき、その姿を見せることが少なくなった。

 

 

 

 盾を構え矢を防ぎつつ進む劉備隊は特に黄巾党からの妨害を受けることなく進んでいく。

 

「ふむ……拍子抜けするほど反撃がないですな」

 

「むぅ、つまらないのだ!」

 

 子龍の呟きに張飛が答えて、不満げに口を尖らせた。

 

「所詮賊軍だ、仕方なかろう。それに伯珪殿の白馬義従、さすがというほどの弓を冴えだ」

 

 関羽がその張飛を諌める。しかしその顔にも張飛と同じ不満が現れている。

 

 それほどまでに黄巾党の妨害がなかった。

 

「これから嫌というほど戦えましょう。ほれ鈴々、先にいくぞ」

 

 城壁に立てかけられた梯子に取り付き、子龍が張飛に声をかけた。

 

「あぁ、星待つのだ!鈴々が一番乗りするのだ」

 

 張飛が先を行く子龍を追い抜かんとばかりに、あわてて梯子を駆け上っていく。

 

「鈴々、星、待たないか。私が先だ」

 

 関羽も矢の雨の降る城壁の上へと駆け上っていった。


 
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