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真・恋姫無双『日天の御遣い』 第九章

リバーさん

真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は第九章。
旭日の熱血パートです。

2010-04-17 02:56:17 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8236   閲覧ユーザー数:6742

 

 

【第九章 虎牢】

 

 

 九曜旭日。

 今でこそ全戦無敗を誇る素敵に無敵な請負人の彼だが、最初からそういう風だったわけでは勿論ない。

 最初――つまりは彼がまだ取るに足らない、弱く小さな子どもであった頃。彼はまさしく取るに足らない、弱く小さな子どもだった。

 秀でても優れてもいやしない、平凡でありきたりでどこにでもいる程度の才能しか有すことができなかった――ポテンシャルの時点で、スタートの地点で、決定的に徹底的に出遅れてしまった弱い男の子。

 生まれ持った素質の面において彼は、北郷一刀とそう変わらない。

 ゆえに彼は力を欲した。

 才能の差を詰め、天賦の壁を破壊する、そんな力を貪欲に求めた結果、彼の辿り着き導いた答えは努力だった。

 それも並大抵の努力ではない。何せ才能の差は絶対だ、本来は百の労力が必要なことを、才能ある者は一の労力でやってのける。そこいらに転がっている程度の努力では、才能ある者には敵わない。

 だから、彼の努力はもはや努力と呼べなかった。

 それは努力というより苦行であり。

 それは苦行というより拷問だった。

 地獄巡りすら優しく思えてしまうような――生き地獄。死なないのがおかしい、生きているのがおかしい努力の積み重ね。限界を超え、限界の限界を超え、限界の限界の限界を超え、彼はついに才能を捩じ伏せ、天賦を凌駕する力を手に入れた。才能ある者しか到達できない、体力、筋力、速力、胆力、判断力、持久力、適応力、回復力、氣の使い方まで力という力を無理矢理に会得した。先天的であって然るべき天賦の才を後天的に宿した、と言ってもいい。

 十三回――その過程で彼が死んでも不思議のなかった回数であり、彼が死を回避し生を繋いだ回数でもある。

 折れた骨で砕けた骨を補い、潰れた肉でひしゃげた肉を埋め、血反吐で喉を潤し、霞んでいく意識を意地で奮い立たせ、死を拒絶し生存する為に彼は力を貪り喰らった。それら全て、たった一つの覚悟を支えにして。

 九曜旭日が請負人として振るっている強さはそういう――地獄を歩き抜いた軌跡の強さ。

 才能の差を詰め、天賦の壁を破壊した、血も死も滲む努力の賜物だ。

 だけど。

 今、それが――

 

「ぐっ………………!」

 

 ――先に動いたのは呂布だった。

 間合いを一瞬にして詰めたかと思った刹那、さながら荒れ狂う暴風のような、暴力の塊のような薙ぎ払いが旭日の頭部へ繰り出される。

 轟、と猛々しい獣の唸り声を想起させる風切り音。

 反応ではなく、本能による反射によって呂布の剛撃をぎりぎり、薄皮一枚を犠牲に旭日は避ける。それはもう、避けたというより後ろにつんのめっただけの、強風によろけてしまっただけの、ひどく無様な回避行動だった。

 遅れてやってきた頬に走る痛みと、薄っすら引かれた切り傷から流れる生温い血。

 

「無茶苦茶だな……俺の格好いい決め台詞が台無しじゃねえか」

「………………」

「……だんまりってか。こいつは困った、俺はお喋りしながら戦わなきゃ呼吸困難になるんだが」

 

 旭日の軽口に呂布はなんの関心も示さない。

 ちゃきりと武器を構え直し、旭日に強大な圧力を投げつけるのみ。

 刀が震える。

 手が震える。

 彼女が理解しているのかはわからないけれど――さっきの一撃で格付けが済んでしまった。これまで刻んできた軌跡が、血も死も滲む努力の賜物が、深紅の暴風の前だとまるで砂の城だ。

 今の自分では、あれには勝てない。

 積み重ねてきた経験が、磨いてきた勘が悲鳴に近い叫びを上げるのだ。逃げろと。戦うなと。武器を捨てろと。膝を折れと。屈服しろと。降伏しろと。あれはそういう、ものなのだと。

 だけど。

 だから――それがどうした。

 

「はぁ……やれやれだ」

 

 堪えきれない。

 抑えきれない。

 刀が震える。

 手が震える。

 久しく忘れていた武者震いの心地に、旭日は笑う。

 

「――楽しくなってきちまった」

 

 眼前に立ちはだかる才能の差を、天賦の壁を壊したい。

 瞳を日色に輝かせ。

 刃を日色に煌かせ。

 旭日は、躊躇も躊躇いもなく――呂布の間合いの中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 意味が、わからない。

 笑みを浮かべて向かってくる日色の男のことを呂布――恋は全く理解できずにいた。

 確かに隙なく繰り出される細い剣は重く、神速と呼ばれる霞に並ぶほど速い。動き方もころころと型が変わり、反撃がままならなくはある。しかし、それは反撃がままならないというだけであって、けして彼が自分より優位に立っているわけではないのだ。

 控えめに見積もって三十以上は刃を交えているが、ただの一太刀すら恋の身体には未だ触れていない。彼の放つ斬撃のことごとくを『方天画戟』で弾き、阻み、完璧に防御しきっている。

 なのに――どうして笑えるのか。

 華雄や霞のように、戦うこと自体に悦びを見出しているから?

 

「(…………違う)」

 

 どんなに戦いを楽しんでいる者だろうと、攻撃を防がれれば少しは悔しそうに顔を曇らせてしまうものだ。けれど、目の前の彼は防がれようが笑みを崩さず――どころか防がれる度、笑みをどんどん深めている気さえする。

 

「……………………おまえ、戦うの好き?」

「戦いなんざっ、大嫌いだよ! こう見えて俺は平和を尊ぶ草食系男子なんでな、戦いも殺しも、不要なら絶対にしたくねえし、絶対にしねえ!」

「……でも、笑顔」

「あぁ? 楽しいからに――決まってるだろうがっ!」

 

 胴体に迫る日色の一閃を弾けばまた、彼は笑みを深めた。

 

「俺は正真正銘の男で、男は馬鹿にできてるんだ! 山があったら頂上に登りたくなる、海があったら沖まで泳ぎたくなっちまう、そういう馬鹿野郎なんだよ!」

 

 予備動作のない蹴りが飛んできた。

 それを恋は予備動作なしに柄で受け止める。

 

「困難にぶつかったら乗り越えて! 壁にぶち当たったらぶち壊す! 嬢ちゃんが強けりゃ強いほど乗り越え甲斐が、ぶち壊し甲斐がある! その先に守る何かがあれば――尚更にな!」

「…………無駄。恋には勝てない」

「だからどうした! 無駄だとか勝てないだとか知ったことかよ! 無駄なら無駄じゃねえようにすりゃいい! 勝てないなら勝てるようにすりゃいい! たったそんだけのことだ! それに何より――」

 

 キィンッ――と、日色の刃と戟の柄が交差して、彼の動きと恋の動きが同時に膠着する。

 首を前へ傾ければ触れそうなほど近くに、彼の顔が。

 眩しい笑顔が。

 

「――言ったろ? 遊ぼうぜ、ってさ」

「遊ぶ…………」

「天下無双と謳われる嬢ちゃんだ、強さの生む寂しさは、本気で遊べない寂しさは、嬢ちゃんが一番理解してるんじゃねえか? 強くなる必要があった俺は、強くなることを望んだ俺は、寂しさなんざちっとも感じねえけど……やっぱ楽しいんだよ。嬢ちゃんみたいに俺と遊べる――俺より強い奴と遊ぶのは!」

 

 再び降り出す猛攻の雨。

 重い刺突を受ける。じん、と僅かに『方天画戟』を持った腕が痺れた。速い回し蹴りを防ぐ。惜しい、あと少し速ければ喰らっていた。休む間もなく放たれる攻撃を弾いて、阻んで、受けて、防いで――ああ、次はどう攻めてくるんだろう。

 

「(……おもしろい…………おもしろい?)」

 

 恋にとって、戦いはただみんなと生きる為の手段だ。そこに面白さや楽しさを抱いたことはなく、目の前の彼と同じで戦いも殺しも不要なら絶対にしたくないし、絶対にしない。

 なのに――初めてだ。

 戦いに面白さを感じるなんて。

 こんなにも自分と長く刃を交え続けられる人なんて――初めてだ。

 

「っと、無表情が売りかと思えば……そうか、そういう風に笑うんだな」

「……笑う?」

「気付いてねえのか? 可愛らしく笑ってるぜ、嬢ちゃん。無邪気に遊ぶ――子どもの笑顔を浮かべてる」

「…………笑顔。恋が……笑顔」

 

 戦うことはつまらなかった。

 武器を振るえば周りには誰もいなくなって、自分の傍に近付かなくなって、顔を恐怖に塗り潰して……それが多分、寂しくて。

 だけど、彼は笑ってる。

 恋もまた――笑ってる。

 

「(…………………………遊び)」

 

 ああ――そうなんだ。

 自分は彼と遊んでいるんだ。

 彼と一緒に遊び、楽しんでるんだ。

 

「(……遊ぶ。遊びたい)」

 

 もっともっと、日が暮れるまでずっと。

 独りじゃないって。

 今はそう、強く思えるから。

 

 

 

 

 旭日と呂布。

 常人からすれば互角の攻防に見えるだろうけれど、実際はそうでないことを旭日は理解していた。

 負けているのだ、圧倒的にこちらが。

 呂布が防御に徹しているのは旭日の実力が彼女に肉薄しているわけではなく、ただ単にアドバンテージが旭日にあったが為。

 天下無双の武を持つ彼女に対して旭日が持てたアドバンテージ――それは呂布の力が暴力だといち早く気付けたことだ。

 研鑽された技術の力と違い、暴力は攻撃の時にのみ真価を発揮する。その攻めに特化しすぎた力の性質上、どうしても暴力は守りに向かないのだ。今のように息を吐く間も与えず、反撃に転じる間も許さず、攻めに攻め続ければ少なくとも殺されはしない。一瞬で攻撃し続けることを選択した旭日と、一瞬でも防御に回ってしまった呂布、両者が暴力の使い手なら攻めのほうが有利に戦える。

 戦える――が。

 

「(イコール勝てるにならねえってのが、辛いとこだな……っ!)」

 

 攻撃している旭日に働くプラス、防御している呂布に働くマイナス。

 プラスとマイナス。

 合わせて二つのアドバンテージがあるのにも関わらず、旭日の攻撃は未だ呂布に身体に届かない。

 暴力の使い手の弱点は防御だ。

 どの世界だろうと誰であろうとけして揺るがないそれが――彼女の前では当然のように揺らぎ、揺らいでいる事実が無理矢理に旭日へ理解を促す。

 彼女にとって防御は弱点ではなく、不得意なだけなのだと。

 そして、そんな防御の生むアドバンテージすら、もう――危うい。

 

「(日暮れまでとか言っちまったが……保ってあと十五、いや十分が限度か)」

 

 攻める側が有利であっても、単純に単調に攻撃するのではまるで意味がない。呂布が反撃しにくい場所を即座に見つけ、重く速い全力の一撃を繰り出し、防がれたらすぐさま別の反撃しにくい場所を見つけて全力の次撃を繰り出す。必然、旭日の疲労は普段と桁違いに増していく。

 このままではまずい。

 疲労が攻撃に響き始めた時点でアドバンテージは掻き消え、旭日の死は確定する。

 

「……っち、だったら!」

 

 刀を鞘に納め、ひゅるんと左に回転を行ってから思いっきり前に踏み込んで――抜刀!

 極光九日〈きょっこうここのひ〉。

 旭日が有している、唯一の技。

 回転することによって発生させた遠心力、思いっきり踏み込むことによって発生させた慣性力、鞘の内に溜めた氣を膨張することによって発生させた推進力、それらを詰めに詰めることによって発生させた最大限の暴力。

 ただただ速さを求め、ただただ疾さを追求した究極の一太刀。肉も骨も鉄も何もかも根こそぎに両断してしまう、あまりの速度に斬撃が九つに分かれて見えるその閃光を防御する術は、ない。

 少なくとも、今までは。

 

「おいおいおいおい…………冗談、だろ?」

 

 結果的に旭日の攻撃は呂布へ届いた。

 但し――髪の毛数本分だけ。

 反り返るような形に上半身を後ろへ傾かせて、戟の刃で刀の腹を僅かに撫でて、軌道がミリ単位ほど狂った閃光を彼女は――避けた。

 考えてからでは間に合わない。彼女の反射神経が、彼女の本能が極光九日の発生する寸前に回避行動を選択したのだ。

 

「…………今のは危なかった」

 

 はにかんだ笑顔(そういえば急に笑うようになった)で呂布は言う。

 強大な圧力を生じさせて、こちらに『方天画戟』を向けて。

 

「次は……恋の番」

「……悪いが嬢ちゃん、俺のターンはまだ終わっちゃいねえよ」

 

 嘘だ。

 極光九日を放ったが為に、攻撃の手が途切れてしまった。

 再び攻め続けられてくれることはきっと、ありえないだろう。仮に彼女が攻め続けられてくれたとしても、旭日にはもうまるで力が残ってない。十分どころか一分保てばいいほうだ。

 アドバンテージは掻き消えた。

 力の差は圧倒的。

 それでも――笑う。

 

「終わってねえし、終わらせねえ。ここから先もずっと俺のターンだ」

 

 この頼りない背中を守ってくれる誰かがいて。

 この頼りない背中に守られている誰かがいる。

 ならば、負けられない。

 例え自分の命が――潰えたとしても。

 

 

 

 

 決死の覚悟を旭日が胸に灯した――その時だった。

 

「呂布さまっ! 呂布さまは何処におられますか!?」

「……? …………ここにいる」

 

 突如として死線の入り混じる舞台に一人の敵兵が乱入し、呂布に向かって大きな声を張り上げる。

 

「ああ、こちらにおられましたか!」

「…………何?」

「報告です! 善戦したものの数の不利は覆らず、虎牢関は陥落寸前! 張遼さまも敵に捕縛されました! 呂布さまは至急、退却するようにと陳宮さまからの言伝です!」

「撤退……でも…………」

 

 ちらりと、こちらを見やる呂布。

 感情の起伏が乏しいので、深紅の瞳に宿る思い全てはわからないものの……なんとなく、旭日には彼女が迷っているように感じられた。

 まだ遊びたいと願う個人としての意志、撤退しなければと判断する武将としての意志、そのどちらを優先すべきなのか、答えが出せず迷っているように。そしておそらく、彼女がじっとこちらを見つめる真意は――求め、だ。

 自分はどっちを選べばいい? と、暗に目が語っている。

 

「(……それを俺に求めるのか。敵である、この俺に)」

「………………」

「ああもうっ……わかったよ。わかったからそんな目で見つめんな、良心が痛む」

 

 疲労の滲んだ溜め息を吐き出し、がしがし頭を掻きながらに旭日は言った。

 

「選ぶも何も、迷った時点で嬢ちゃんの道は一つだけさ。行けよ、行きなよ嬢ちゃん。残った兵を連れてさっさと逃げろ。お迎えが来たら、遊びはそこで終わりにするべきだ」

「…………お終い?」

「嬢ちゃんの勝ち逃げ……つっても俺だってぎりぎり守り抜けはしたわけだし、ここは引き分けにしとくか」

「………………」

「……不満があるなら目で訴えずに口で訴えてくれ。いいぜ、わかった、わかりましたとも。引き分けじゃなく、俺の負けで嬢ちゃんの勝ちだ」

「別に引き分けでいい」

 

 引き分けが――いい。

 首を横に振って、すぐにまたじっと旭日を見つめる呂布。

 

「………………また、遊んでくれる?」

「遊んで? それは……」

 

 格付けは既に済んでしまった。

 正直なところ二度目は勘弁したいのだが、彼女の目が断りの言葉を喉の奥底へと引っ込ませる。まるで、まるで祈るような、去っていく親に縋るような――寂しい子どもの表情。

 断ることは、できない。

 

「……おう、今度こそ日が暮れるまで、な」

「っ………………恋」

「あ?」

「恋。真名」

「預ける、のか? 敵の俺に?」

「……(コクッ)」

 

 この世界に落ちて一番に真名の重みを体感した旭日にとって、真名を易々と受け取るのは抵抗があった。あったのだけど……本当に彼女の表情は反則だ。ついつい甘やかしたくなってしまう。

 

「あーっと……なんだ、ありがとな。俺は旭日、九曜旭日だ」

「…………旭日。遊ぶ………………約束」

「ああ、約束するよ。また一緒に遊ぼうぜ、恋」

「……(コクコクッ)」

 

 喜色満面に呂布――恋は頷いて、残っていた兵を引き連れて撤退していった。

 押しに弱い自分に呆れ、北郷のことを馬鹿にできない自分の甘さに呆れつつもひとまず、安堵の息を漏らす。

 これで虎牢関での戦いもなんとか無事に終わるのだと――しかし。

 旭日は知らなかった。

 無事に終わりなどしていないことに。

 虎牢関攻略と引き換えに、張遼捕縛と引き換えに、失ったものがあることを――まだ。

 

 

 

 

「春蘭!」

 

 虎牢関の戦いが連合の勝利で一応の終わりを迎え、自陣へ戻った旭日は疲れ切った身体を無理矢理に駆けさせ、春蘭の天幕へがばりと入った。

 

「く、よう……あっ! ちょっちょっと待て、来るな、近付くな!」

「悪いが、そのお願いは却下だ」

 

 彼女の訴えを無視して寝台に近寄り、頭から被ろうとしていたシーツを手で抑えつける。

 せめてもの抵抗なのか、すぐさま背中を向けてきた春蘭だったが――こんなの、一度でも見れば十分だ。

 

「さっき沙和に聞いた。張遼と戦っている時、流れ矢が当たったって」

「……ふんっ。曹武の大剣が、無様なものだろう? 笑いたければ笑って構わん」

「笑わねえよ……笑えねえよ…………」

 

 いつも強い輝きを放っている綺麗な赤色の目が、一つ、欠けていた。

 本来あって然るべき彼女の左目には今、漆黒の翅を持つ蝶が羽ばたいていて、それがとても――とても、悲しかった。

 夏侯惇が左目を射抜かれ、矢の刺さった目玉を喰らうのは三国志の中で有名な話だ。時系列では反董卓連合の後にある出来事だが――だが、しかし。そんなことは、そんな決まった話は、あくまで旭日の知る三国志の話でしかない。この世界もそうなるなんて、誰であろうと断定できるものか。

 

「(史実通りに進むと決まったわけじゃねえんだ。こういうこともあるんだって、俺は予想できたはずなのに……っ馬鹿野郎が!)」

 

 守り抜けた?

 守り抜けただと?

 彼女が片目を失くしているのに、何が守り抜けただ。

 

「…………ごめん」

「どうして貴様が謝る。九曜はわたしを心配してくれていたじゃないか。責があるのは、油断していたわたしだ」

「それでも、ごめん」

 

 絶対に忘れるな。

 春蘭の目を奪ったのは自分であることを――絶対に忘れるな。

 

「お、おい九曜、らしくないぞ。一体どうしたというんだ?」

「………………疲れてる、だけだよ。悪いけどさ、春蘭。ちょっと背中を借りるぜ」

「背中? って九曜!?」

 

 言うが早いか旭日は寝台の上に腰掛け、春蘭の背中に自分の背中を預ける。

 

「最強との戦いでへとへとに疲れたんでな、しばらくこうさせてくれ」

「いっいや、しかし……だな」

「あと――俺を頼ってくれ」

「何?」

「多分、遠近感とか、最初の頃はなんかしらの不備が出ると思う。お前はそういった、お前にしかわからねえことは抱え込んじまうだろ? その時は抱え込まず、俺に言え。困ったことがあったら、困ったことがなくても、俺を頼れ。頼って、くれ。俺はもう、俺の馬鹿のせいでお前たちが傷つくのは――嫌だ」

「…………条件がある」

 

 ぎしり。

 ほんの少し、彼女の身体が強くこちらに預けられた。

 

「貴様がそこまで言うのであれば、頼ってやらんでもない。……だから、貴様もわたし達を頼れ。貴様ときたら、いつもへらへら笑って、辛い時も心配かけまいとへらへら笑うじゃないか。なんというか、ええと、つまりあれだ。そんな強がった顔を見るのは、嫌、なのだ」

「………………」

「約束しろ、九曜。仕方ないからわたしは貴様を頼ってやる。貴様もわたしを――わたし達を頼ってくれ。なんの縁かは知らぬが、こうして仲間になったのだしな」

「……今日はどうも約束してばっかだな。わかった、辛い時はちゃんと話す。一人で抱えたりしないで、お前たちを頼る」

「うむ。それでいい」

 

 束の間の静寂がおりて。

 今度は何故か動揺したように震える春蘭の背中。

 

「な、なあ九曜」

「ん?」

「貴様は、その……そのだな。別に貴様ごときになんと思われたところで気にせんのだが、わ、わたしの顔を、今のわたしの顔を見て――」

「――綺麗だよ」

 

 全てを言わせずに、旭日は言った。

 

「トラブル起こすのは勘弁してほしいけどさ、お前はいつだって素直で、純粋で、俺が気に入っちまうほどのいい女だ。お前がどんな風になったって、俺はお前のことを綺麗だと思う」

「九曜……」

「もしも今のお前を悪く見る奴がいたら、俺のとこに連れてこい。問答無用でぶん殴ってやる」

「………………そうか」

 

 こんなにも温かい背の持ち主を。

 こんなにも綺麗な心の持ち主を――誰が悪く見れるものか。

 

「九曜」

 

 極度の疲労によって、次第に重くなる瞼。

 睡魔でぼやけていく意識の中、旭日は確かに聞こえた。

 ありがとう――と。

 

 

【第九章 孤浪】………………了

 

 

あとがき、っぽいもの

 

 

どうも、リバーと名乗る者です。

とりあえず…………戦闘シーンはやはり苦手です。旭日の見せ場ですのでなるべく頑張ってみたのですが、撃沈した感が否めません。……精進します。

 

ええと、恋があんなあっさり真名を許したのは少なからず不審なんですが、公式で彼女は強すぎる為に孤独をまとっている、とありましたので、今まで戦った中で一番長持ちした旭日に何かしら嬉しさが込み上げてきたのではないかと……その、そう思いまして。我らが一刀君は強い恋姫たちの中にいて、弱さというものを誰よりも知っていたからこそ、彼女のことを理解できなくとも強すぎる恋の傍にいられたと自分は考えてます。ならば逆に、彼女の抱えている孤独を少しでも理解できたら心が近くにあることになるのでは、と真名を許すシーンを書いてみました。

 

ただまあ、旭日の熱血を書くのはかなり楽しかったです。

好きなんです、熱血。

グ○ン○ガンとか、松○修○とか、もうどストライクです。J○Mさんもストライクってます。

 

しかし……今回登場したのが旭日、恋、春蘭、そして名もなき兵Aって……本当にキャラの登場頻度がアンバランスですよね。いい加減に季衣や流琉を本編に登場させたくはあるのですが……もっ申し訳ありません! おそらく次回も………………

 

では、誤字脱字その他諸々がありましたら、どうか指摘をお願いします。

感想も心よりお待ちしています。

 

 

 

 

色々と考えた結果、今回から前話のコメントをお返事を書かせていただきます。

コメントが遅れすぎてる感が否めませんが、これならばネタばれする確率も減るだろうと思いまして……ご容赦ください。

 

 

BookWarmさま>

 

自分としては熱く頑張ってみました!

いつもいつもコメントしていただき、本当にありがとうございます!

 

サラダさま>

 

ありがとうございます!

投稿の際には基本的にびくびくしながら投稿しているので、そう言ってもらえると幸いです。

 

自由人さま>

 

貫録といいますか、年季といいますか、流石の旭日も馬騰には翻弄されました。

天下無双との一騎打ちはやはり主人公体質の悲しい性……もとい王道です!しかし、魏ルートの彼女はやたらチートになってますけど、あれはなんでなのでしょう?

二時ですが、一応仕様です。時代や国によってあやふやになってしまいますが、自分は「時」を一時間、「刻」を三十分として扱ってます。わかりにくくて申し訳ありません……

コメントありがとうございます!いつも楽しみにしています!

 


 
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