No.134864

~真・恋姫✝無双 孫呉の外史2-2

kanadeさん

反董卓連合編第二弾
今回は汜水関戦開始まで一気に行きます。
なお、今回はあとがきが二ページありますが、最後のページを読む方は注意してください。
軽くネタばれになっております。
誤字脱字、感想待ってます。

続きを表示

2010-04-07 01:23:15 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:11771   閲覧ユーザー数:8666

孫呉の外史2‐2

 

 

 

 ――董卓を討つ。

 その名目の下、名を上げるために諸侯たちは動いた。

 袁紹、曹操、公孫賛、劉備、袁術、そして――孫策。他にも多くの諸侯が集い、反董卓連合はここに相成った。

 

 「ハッ、揃いも揃ったものだな。どいつもこいつも、目的は同じときてるから尚のこと傑作だな」

 馬を操りながら香蓮は笑う。すると、一人の将が馬を近づけ香蓮に話しかける。

 少女は、名を諸葛瑾子瑜――真名を氷花といった。友である賀斉 公苗――燕は一刀とともにいるのでここにはいない。

 「香蓮様、一様の事でお伝えする事があるのですが」

 「なんだ?」

 「・・・最近の一様の成長速度の速さです。武器が・・・徒桜が一様の成長についていけていません。このまま戦地に赴けばお命に関わりかねないと思います」

 「なんだ?一刀の事を信じていないのか」

 そこで、氷花は表情を曇らせた。そういうわけではないのだと、表情と視線だけで香蓮に伝える。

 そして、自分の思いを声にする

 「香蓮様がお授けになった山茶花ならばどうにかなるでしょう。ですが、徒桜では・・・危険です」

 「・・・それでも一刀は徒桜と共に戦地に赴く。あの時お前も聞いていただろうが」

 ええ。と氷花は答える。ならそれ以上を聞くなと香蓮は言った。

 「・・・怖いんです。決して、一様の実力を疑っているわけではないのです。ただ・・もし・・・そう考えると」

 「ふっ・・・要は惚れた男に逝ってほしくないというわけか」

 「え、あ、その・・・」

 「今更隠す事に意味があるとでも思っているのか?気付いていないのはあの阿呆だけだぞ」

 「やはり行動しないとだめでしょうか」

 当たり前だ。と香蓮は氷花の言葉を一蹴した。

 氷花は頑張らなきゃ呟いてと空を仰ぎ、香蓮は苦笑した。

 

 

 ――「桃香様、新たな部隊が到着したみたいです」

 「どこの人たちかな?」

 「旗印は〝孫〟・・・〝江東の麒麟児〟の部隊だろう・・・ん?朱里よ、浮かない顔をしているようだが、どうかしたのか?」

 指摘されて、少女――諸葛亮は何でもないと首を振る。すると、空色の髪をした少女――趙雲は、それ以上の追及をしなかった。

 「朱里ちゃん、本当に大丈夫?休んでてもいいんだよ?」

 「桃香様・・・いえ、大丈夫ですから」

 それでもやはり不安そうに諸葛亮の顔を見ている。おっとりとした雰囲気を持つこの少女こそは劉備玄徳、彼女達の主だ。

 自分達の主である彼女にこれ以上の心配はかけたくなかった諸葛亮は、少し無理をして笑って見せた。

 その笑顔が無理したものであると気がつかなかった劉備は、よかったと笑う。だが、趙雲だけには見抜かれた様子だった。しかし、諸葛亮の気持ちを汲んで何も言う事はなかった。

 その後、関羽、張飛、鳳統などを交えて会話をしていくうちに、劉備は雪蓮に興味を持ち、会いに行こうと言いだし、関羽がそれを一時制止する。

 間も無く軍議が始めるから。それで一時納得した劉備だったが、結局、機会を見て会いに行こうという事になるのだった。

 

 軍議が始める少し前。

 「朱里ちゃん・・・お姉ちゃんはやっぱり・・・孫策さんの所にいるのかな」

 「多分・・・」

 諸葛亮と同じ背格好で水色の髪を持つ少女――鳳統は不安を前面に出した顔で問いかけてきた。諸葛亮はそれを恐らくと肯定し表情を沈ませる。

 「会えるかな?」

 「だとしても・・・きっと〝お姉ちゃん〟として私たちの前に姿を見せる事は・・・無いと思う」

 「うん・・・」

 同じ空の下にいながらも全く違う場所にいる《姉》に、思いを馳せる二人だった。

 

 

 場所と時は変わり、孫呉の陣営。

 天の御使いこと北郷一刀は即席の椅子(資材の箱)に腰をおろしていた。隣には孫策こと雪蓮がいる。

 本来なら軍議に参加しなければならない立場なのだが、「興味がない」、「腹の探り合いなんて御免よ」などと言い、冥琳に深いため息を吐かせ彼女はここにいた。

 「参加しなくてよかったの?」

 「いいの♪適材適所。冥琳のほうが向いているんだから、当然の選択よ」

 「特に否定できない・・・。でもさ、俺なんかと話してて・・・楽しい?」

 ええ、と雪蓮は笑顔で答える。そしてこうも言った。

 一刀なんかではなく、一刀〝だからこそ〟だと。

 そう言われたのが嬉しく、こそばゆく、一刀は特に意味もなく照れてしまうのだった。

 

 「一刀はやっぱり、戦に出るのは怖い?」

 突然、雪蓮が一刀にそんな質問を投げ掛けた。

 その問いに、一刀は寸分もためらわずに頷く。

 「怖い。刀を通して伝わってくるあの命の重さは、決して消えてくれないから・・・怖くて、昨日はろくに眠れなかった。また命を奪うんだ・・・またあの怖い場所に立たなくちゃいけないんだって・・・体が震えて・・・あはは、思い出したらまた震えが」

 見降ろした先にある一刀の手は小刻みにに震えていた。否――手だけではない、体そのものがまるで寒さに晒されているように震えている。

 「ごめん、すぐ治まるから・・・大丈夫だから・・・!?雪・・・蓮」

 「いいのよ、謝らなくて。あなたはそれでいいの・・・だって、一刀は私たちの中で誰よりも人間だもの」

 雪蓮が言っている言葉の意味がわからない。ただ抱きしめられて伝わってくる温もりが心地よくて、先程まで震えていた体がその震えを止めていた。

 それに気付いたのか、雪蓮は抱擁を解き話を続ける。

 「私たち呉はね、自分達の物だった全てを掠め取られたの。そして、それを取り戻すために戦っている・・・でもね、戦いの毎日に明け暮れるだけならそんなのは獣と同じなの。

そんな私たちが自分達の事を『自分達は正しいんだ。自分達は人間なんだ』って思い出して一息つくにはね・・・やっぱり人間が必要なの」

 そっと、一刀の両の手を握る雪蓮。その顔には、少しだけ寂しさのようなものが一刀には感じられた。

 「それが一刀・・・あなたよ。こんな風に言われたらいい気分はしないでしょうけど・・・それでもあなたは、私たちには必要な人なの・・・皆に人の温かさを思い出させてくれるあなたが」

 ごめんねと苦笑いを浮かべる。それは、彼女の赦しを求める顔なのかもしれない。

 一刀は、雪蓮が握っていた手を解き、今度は自分から彼女の手を包み込んだ。

 「ありがとう。元気・・・出たよ。だから、そんな顔しないで・・・俺は、笑ってる雪蓮の顔が一番好きだから」

 雪蓮が反応に困っているようだったが、一刀はそんなこと気にしなかった。何故なら、さっきまでの寂しそうな顔が消えていたから。

 だから、一刀は彼女の手を包み込んだ自身の手に少しだけ力を籠めた。

 

 ――自分の温もりが伝わるようにほんの少しだけ。

 

 

 それからすぐに冥琳は戻ってきたのだが、その表情はご立腹の一言。内容を聞けば一刀も呆れてしまい、冥琳の御立腹にも納得がいった。

 連合の総大将は袁紹に決まった。しかし、裏に袁術がいるだろうということ。

 それら自体は別に問題はない。問題はここからで、洛陽を目指すための策――これが酷いもので、汜水関、虎牢関を力尽くで押し通るというものだった。

 「はぁ・・・袁家は揃いも揃って馬鹿ばかりか・・・この連合軍、危険だな。・・・雪蓮、一刀の案・・・選んで正解だったな」

 「ええ・・・結果次第にはなるけれど、成功すれば優位に立てるわ」

 「雪蓮、先方は劉備に決まっているが・・・どうする?」

  答えなど分かりきっている質問を不敵な笑みを湛えて問いかける冥琳。

 雪蓮もくすりと笑い、唯一言。

 「当然、手を組むわよ♪」

 「結構・・・ならば行くか?」

 「ええ。一刀、氷花と燕もついて来てね。私の護衛よ」

 「!?雪蓮様・・・・・・いえ、なんでもありません」

 氷花の表情が一気に暗くなった。何事かと心配になった一刀だったが。不意に、一つの心当たりが浮かぶ。

 (諸葛亮・・・か。たしか公的にはともかく、私的に会う事はなかったって・・・この場合は姉妹か。ひょっとして劉備への説得に使われると思ったのかな?〝姉〟として・・・)

 氷花の心情を察し、一刀は一歩前に出て雪蓮に意見を述べた。

 「雪蓮、氷花は・・・」

 「安心なさい。私自ら赴くのよ?貴方たちは護衛として連れていくの」

 察しがよく部下思いの孫呉の王様は一刀と氷花の杞憂をばっさりと切り捨てた。しかし、彼女の言葉に複雑ながらも氷花は胸を撫で下ろし、燕はポンッと彼女の肩を叩く。

 そうして、雪蓮、冥琳、一刀、氷花、燕の五人は劉備たちの陣営へと赴くのだった。

 

 五人は劉備の陣営へと赴いた。そこまでは何の問題もなかったのだが、雪蓮が関羽の神経を逆撫でし、見事に関羽は釣り上げられた。

 殺気などまるでないまま、ただ剣を抜いているだけの雪蓮に対し、殺気に怒気全開の関羽。

 爆発寸前の空気は、意外にも趙雲のお陰で霧散し、張飛にからかわれて関羽はぐうの音も出せなくなってしまう。

 などとイベントが進行していると、ようやく劉備がやってきた。

 二人の少女――諸葛亮と鳳統を連れて。

 その少女達と氷花が互いの存在を視界に納めると、氷花は軽く嘆息し、少女達は息を呑むのだった。

 

 

 こちらからの同盟の話に、劉備は徹頭徹尾疑ってかかり、そんな彼女に雪蓮は自分達の得する事、劉備たちの得する事を口にしていく。

 「なるほど、お話はわかりました。ですが、私はまだ孫策さんの全てを信用出来るか判断したわけではありません」

 「信義を見せろと言いたいのね?いいわ。ならば汜水関で私たち孫呉の雄姿をその目に焼き付けなさい。それで信義に足りぬというならそれも良し、いつか互いの矛を交えるだけよ」

 「はい♪」

 それから、一刻後に出発という形で最終的に纏まったのだが。

 

 「あの、孫策さん・・・」

 劉備と共に来た二人の少女の内の一人――諸葛亮が去ろうとする雪蓮達を止めた。

 何かと問い返すと彼女は氷花と話をさせてほしいと言った。特に断る理由がなかったので、その申し出を雪蓮は受けた。

 「あの・・・お久しぶりです・・・〝お姉ちゃん〟」

 「!」

 少女がそう言った途端氷花の表情が険しくなり、諸葛亮の頬を彼女は叩いた。

 「貴様!朱里に何を」

 「愛紗!お主が首を突っ込むな!」

 激昂した関羽を制したのはまたも趙雲だった。どうやら彼女は物事を見極める事に長けているらしく。冥琳は感心しながら彼女の事を観察した。

 

 「諸葛亮、私と貴殿は他国の将で、ましてやここは私的な場ではない。〝姉妹〟という〝関係〟は存在しません。貴殿なら、公私の使い分けくらいできる筈でしょう?だというのに貴殿はそれを使い分けずに持ち込んだ。だから私は貴殿を叩きました。さて、何か言う事はありますか?」

 「いえ、申し訳ありません〝諸葛瑾さん〟・・・私が浅慮でした。・・・そのお聞きしたい事が大したことではなかったので・・・つい。本当なら聞く必要などないのかもしれません。だけどどうしても聞きたかったんです。だから、聞いてもいいでしょうか?」

 言葉にはせずに沈黙を以って続きを促した。それを確認した諸葛亮はコクリと頷き、声を紡ぐ。

 

 だが、それは他国の将としてではなく唯一人の妹として。

 

 ――「お姉ちゃん・・・孫策さん達の事は好きですか?」

 

 再びの妹としての発言に彼女を嗜めようと思った氷花だったが、質問の内容に虚を突かれて目が点になってしまている。

 ほんのちょっとだけ間ができたが、氷花はくすりと笑い。

 

 他国の将ではなく〝姉〟として、氷花は妹の問いかけに答えた。

 

 ――「ええ、勿論よ〝朱里〟・・・ボクは決して呉の人たちを裏切らない。だってみんなの事が大好きだから。だから貴女も・・・貴女が大好きな人たちを大切にしなさい。当然貴女もよ雛里・・・」

 

 氷花の声はとても優しかった。諸葛亮と鳳統は、瞳を潤ませながら「はい・・・はい・・・」と何度も何度も頷いた。

 それをある程度見届けてから、今度こそ五人は劉備の陣営を去るのだった。

 

 五人が去った後、潤んだ瞳を拭い、気を取り直したように二人は笑顔を見せた。

 「朱里、雛里・・・よい姉君だな。どこぞの猪とは大違いだ」

 「ぐっ!?」

 「にゃはははは♪愛紗は猪なのだ♪」

 「鈴々!」

 「愛紗が怒ったから逃げるのだー♪」

 そのまま関羽と張飛はどこかへと走り去っていった。

 「やれやれ・・・だから猪だと言っておるというのに」

 趙雲の言葉にその場にいた皆が笑う。その後で、諸葛亮と鳳統は氷花が去っていった方に体を向け手を振っていた。

 劉備と趙雲はそんな二人を温かい目で見ていた。

 

 その中で劉備の瞳だけは綺麗だった。

 戦場に赴いているものとは思えぬほどに純粋に美しく。

 

 

 自陣に戻った雪蓮達は軍議を開き、汜水関攻略のための策を練り始めた。

 「――さて、一刀、氷花、燕、貴方たち三人がこの汜水関の戦いで要になるわ。華雄と張遼の生け捕り・・・まずはどうやって表に引っ張り出すか・・ね。汜水関も、後の虎牢関も文字通りの難攻不落の要塞。一刀が言った通り突破する方法なんてないから、戦力の切り離しをするしかないんだけど・・・華雄だけならともかく、張遼がいる以上そう簡単には行かないでしょう。・・・一刀、なんかいい案ないかしら?」

 「そこで俺に振るんだ・・・う~ん・・・華雄を馬鹿にして見るのはどうかな?」

 「一刀、そんな事で華雄が出てくるの?仮にも将なら・・そんな安い挑発に乗る事はないと思うのだけど」

 蓮華が尋ねるがそれは御尤もと言える事だった。だが、華雄の性格を香蓮に聞いた一刀は、これが効果的だと考えていたのだ。

 「蓮華の言う通り、そんな安い挑発には普通は乗らない。だけど馬鹿にする人によるだろう?取り敢えず劉備さんに挑発はお願いするけど、間違いなく失敗すると思う。けど、〝香蓮〟が華雄を挑発すれば・・・どうかな?」

 「ククッ・・成程な。それならかなりの確率で魚が釣れるだろうし、もう一匹もおまけで釣れる・・・が、あたし達がそこに出しゃばるためには」

 「袁術ちゃんを丸めこむのは私に任せて♪」

 「任せるよ雪蓮。さて、一刀・・・お前の〝男〟を見せてくれよ♪」

 「ああ。頑張るよ。・・・それで氷花、燕・・・二人も大変な役目を負わせるけど・・・」

 「一様。申し訳ないだなんて思わないでくださいね」

 「そういうこと・・・大丈夫・・・つばめもひばなも・・・絶対死なない。大丈夫」

自分の部下の頼もしさに感動する一刀だったが、氷花が「ただ・・・」と続けた。

 「成功報酬くらいは要求していいですよね?」

 一刀に断る理由なんて何もなかった。むしろ、その提案がなかったらこちらから持ちかけようと思っていたぐらいだったのだ。

 だから、一刀はそれは何か他二人に訪ねると二人は声を揃えて。

 

 「一様と燕ちゃんと三人で――」

 「かずととひばなの三人で――」

 

 一刀たちが各々の準備に取り掛かった後に香蓮は、難しい顔をしている我が娘に声を掛ける。

 「逢い引きをねだるとはな。さて、蓮華・・・一刀に抱かれたいなら自分から歩み寄らんと無理だぞ?」

 「お母様!」

 香蓮の予想通り、蓮華は顔を真っ赤にして声を荒げた。

 ここまで予想通りの反応を見せてくれると、可笑しくてたまらない。香蓮は蓮華を宥めるように頭を撫でる。

 ――が、ここでも意地を張る蓮華は反論する。

 「やれやれ、撫でてやったら素直に『ありがとう』と言ってくれた昔のお前が懐かしいよ」

 「私はもう、子供ではありません!」

 「まったく・・・だから可愛げがないというんだ・・・おまえの真面目さはどうにかならんのかね・・・」

 尚も何かを言おうとする蓮華をチョップ一発で黙らせる。

 呆れ顔で背を向けると去り際に一言溢す。

 

 ――「お前は自分の立場を気にしすぎだ。・・・お前は雪蓮にはなれん・・・お前は・・・子供だ」

 

 そのまま香蓮は立ち去った。

 溢した言葉は、蓮華に届かないままに。

 

 「反面教師か・・・上手い言葉だ。あたしが不覚をとって以来アレは気を張り詰め過ぎている。一刀ならどうにかなると思ったが・・・早々に上手くいくはずない、か」

 やれやれと頭を振る。結局のところは自分が原因のようだ。

 尤も、長女も原因と言えなくもないのだが。

 「アレはアレで奔放が過ぎるしな。だが・・・切り替えがちゃんとできるだけマシだ。蓮華には自由がなさすぎる・・・兆しこそあるが・・・」

 考えるだけ無駄だった。自分達でどうにかするには遅すぎた。

 ならば望みはただ一つ。

 「一刀に期待・・・だな。――さて」

 自分を再び〝女〟にしたあの男なら、と空を見上げ望みを天に掛ける。再び地平に視線を戻したとき、そこにいたのは母ではなく一人の将だった。

 「明命!」

 「お傍に」

 「行って来い」

 「御意!」

 気持ちを切り替えた香蓮は明命に命を下した。

 召集に応じた明命はそのまま姿を消す。

 彼女は連合の最終目的地――洛陽へと向かった。

 

 ――一刀の言った可能性を少しでも確実なモノとするために。

 

 

 連合軍出陣、諸侯たちは最初の関門である汜水関に向かっているのだが。

 「さぁ、皆さん!雄々しく!勇ましく!華麗に出陣しますわよ!」

 もう、完全に浮いている。当人とその側近(一人は除く)は気付いてない。

 先方に劉備、続いて曹操、そして孫策が続いたのだが、袁紹達の上からの命令に曹操は完全にご立腹の様子。

 その気持ちは痛いほどよくわかる。袁術に良いように命令される孫策も似た気持ちは味わっているからだ。

 

 そうして連合軍は最初の関門である汜水関へと到達した。

 

 「うわぁ・・・難攻不落ってのがよーくわかる。なぁ氷花、燕」

 「ですね。劉備軍と我々では総力でも、向こうとは差があります。ですから、雪蓮様が言う戦法はまず無理です。まぁ・・・検討する以前の話ですが」

 「かずと・・・氣・・・感じる。二人・・・」

 「強い?」

 「ん・・・けど、なんとかなる。つばめには・・・〝鋏〟あるから。ひばなにも・・・切り札があるから・・心配なのはかずと・・・どっちと戦うにしろ・・・強い、よ」

 燕にそう注意された一刀だったが、言われるまでもなくそうだろうという事は気付いていた。一刀もまた感覚を研ぎ澄ましてみると、自分よりも強大な気配を感じたからだ。

 だが、だから敵わないと言われればそれは違う。

 こちらの武器と戦法は基本的に〝剛〟だ。しかし、一刀の戦い方は〝柔〟故に付け入る隙はそこにある。

 尤も、氣を使えばこちらの件とも鍔迫り合いに持ち込まれても対応できる。

 「・・・大丈夫、なんとかするさ・・・だから、二人とも気をつけてね。切り札があるからって油断しないように」

 「「はい!」」

 まもなく、汜水関の戦いが始まった。

 

 ――が、すぐに戦いは始まらずに待ちの姿勢にはいる呉軍。

 取り敢えず劉備軍が出るのを待つようだ。

 その話に一刀も納得。穏も言ってたが、戦いながら罵倒したところで効果は薄いし、無駄な被害が出るだけなのだ。

 「北郷、雪蓮の手綱は任せるぞ。なに、お前なら上手くやるさ」

 「俺、出陣控えてるんですけど・・・疲れるのはちょっと」

 「もー!それってどういう意味よ」

 雪蓮が可愛らしく頬を膨らませると穏が声を出した。

 だが、すぐに訂正した。どうやら様子がおかしいらしく、雪蓮と冥琳は穏に事の詳細を求めた。

 

 しかし、香蓮は見当がついているようで一刀を呼んだ。

 「さて、お前はどう考える?」

 「多分、張遼が引きとめたんだと思うよ。華雄が香蓮の言う通りの武将なら釣れてただろうし・・・明命は大丈夫かな?」

 「それには心配に及ばん。アレが本気を出したなら早々に気付かれることはない・・・だから連合も静かなんだろうが」

 「なるほど・・・ね、香蓮・・・董卓達が戦う理由って何かな」

 「・・・民と主君のために決まっているだろう・・・この連合軍が進撃を続ければ最終目的地で ある洛陽で混乱が起きる。そうなれば民に被害が出る・・・董卓は少しでもその被害を抑えるためにも・・・汜水関と虎牢関で時間稼ぎをするしかないのさ。だから・・・犠牲は出るぞ・・・こちらも・・・あちらもな」

 「・・・・・・それでも」

 「そうか・・・ならそれ以上は聞くまい」

 香蓮は一刀を抱き寄せそのまま唇を重ねた。

 「おまじないだ・・・一刀、必ずその可能性を掴みとれよ」

 「了解。全身全霊を掛けて成して見せるさ」

 

 良い雰囲気だが、北郷一刀はそんな簡単に良い状態では終わらない。

 「一様~!香蓮様も!その桃色の空気どうにかしてください!」

 「かずと!つばめもする」

 ――衝撃。走ってきた燕は一刀を押し倒しそのまま唇を重ねた。

 「あむ・・・ん・・一刀の唇・・・柔らかい・・・んちゅ」

 (燕の唇も柔らかいな・・・・って怖ぁぁぁぁぁぁ!!)

 未だにキスを続ける燕なのだが、それ以外の面子から凄まじい殺気が迸っている。

 雪蓮に蓮華、祭、冥琳と穏は面白くなさげな顔をしているだけだが、香蓮と氷花に至っては身の毛もよだつ笑顔を見せている。

 意外だったのは思春も面白くないという顔をしていた事だが、それに気付く余裕など今の一刀にある筈もなく、一刀は袋叩きにされるのだった。

 終わった後、フラフラと立ち上がった一刀に氷花はそっと唇を重ねる。

 「ちゅ・・・ん・・・はい、取り敢えずこれでお終いです一様」

 「氷花・・・」

 「私も燕ちゃんも、これで張遼さんに勝てます。ね?燕ちゃん」

 「多分で勿論で無問題・・・心配無用。勝つ!」

 グッとガッツポーズをとる燕。あんまりにも自信に満ちた珍しい燕に一刀は苦笑するのだった。

 その後、思いっきり香蓮に拳骨をくらわされる事になるのだった。

 

 

 ――汜水関。

 先程劉備に侮辱された際に飛び出しそうになったのは一刀たちの予想通り華雄だった。

 「ぐぅぅ・・・何故止めたぁ!我が武を侮辱されて黙っているなど・・・」

 「アホ言うなや。明命の話聞いたやろが!ウチらが戦わないかんのはあくまでも呉や!今飛び出したら後になって月に迷惑かかるだけ・・・堪えろや華雄」

 「・・・呉も我らを侮辱すると聞いたぞ。その時は遠慮など要らんのだな」

 「せや・・・遠慮なんてせんでええねん。下手に遠慮なんてしたなら呉だけやない、ウチらも危ういからな。手加減無用や・・・せやから、呉が出てくるまで辛抱や」

 「わかった・・・」

 息を荒げながらも華雄はその場にどかっと腰を下ろした。

 そして、その時は訪れた。

 「華雄様!孫堅が姿を見せました!」

 がばっと立ち上がった華雄は城壁から外を見る。そこには孫文台――香蓮の姿があった。

 

 『どうした華雄!あたしと戦った時のお前は正しく勇猛果敢な将だったぞ!まさか臆病風にでも吹かれたのか!だとしたらがっかりだ。知らぬ間に腰ぬけになり下がったか!どうした華雄、違うというならば否定してみよ!』

 

 ――ブツン。という糸の切れるような音が華雄の頭の中で響いた。

 それでもなお、香蓮の罵倒は止まらない。

 

 『否定も出来んとはな。猛将華雄は恐れるに足らず。ただの腰抜けならば赤子の手を捻るかの如く叩き潰してくれようぞ!!』

 

 「・・・止めてくれるな張遼」

 「はぁ~・・・好きにせえや」

 ずんずんと地鳴りさえ聞こえそうな足取りで華雄は汜水関の門へと降りていった。

 残された張遼も呆れながらも華雄に続く。

 「ウチらも出陣るで・・・流石に華雄一人で戦わせるわけにはいかんわ」

 「了解しました。張遼隊出陣します」

 部下の兵がそのまま去っていく。張遼もすぐにその場を去った。

 

 

 言うだけ言った後、香蓮は含み笑いをしていた。

 その場には彼女だけでなく、祭に一刀、氷花と燕もいる。

 「祭・・・お前なら今の言葉を言われたらだうする?」

 「無論、潰しますな。あれほど罵倒されて我慢するなど儂には出来ぬ。尤も、堅殿も同じであろう?」

 「当然だ・・・しかし、袁術も少しはものを考えようとは思わんのかね」

 「考えぬからこうして事が運べたのではないのか?」

 「御尤も・・・と、きたか」

 汜水関の門が開かれる。そこから見える旗印は〝華〟と〝張〟――すなわち華雄と張遼。

 「おうおう、凄まじい殺気じゃのう・・・」

 「うわぁ・・・俺、こんな凄い殺気の人と戦うんだ・・・」

 「ああ、行って来い。そして生きて帰って来い!いいな!」

 

 ――「「「了解!!」」」

 向かってくる〝華〟と〝張〟の旗に一刀たちは向かっていき、祭は少し間を置いて一刀の後方支援に向かった。

 

 「任せたぞ。祭」

 友の背中に言葉を贈り、香蓮は雪蓮達に合流し、ほどなくして戦が始まった。

 

 先行する部隊は二手に分かれる。

 〝張〟の旗には氷花と燕が。

 「なんや自分らがウチの相手かい。名前、聞いとこか」

 「北郷隊副官、諸葛瑾 子瑜」

 「同じく・・・副官補佐。賀斉 公苗」

 「覚えとくわ。あとな、あんたらの申し出・・・本当やったら嬉しいんやけどな。生憎とこっちにも色々あんねん。頷くわけにはいかへん・・・お前ら連合・・・足止めさせてもらうで」

 「――でしょうね。ですから、全力で降伏して頂きます」

 「手加減は・・・できない。お前は・・・強いから」

 「上等や」

 しぃんと空気が静かになる。既に両軍はぶつかり合っているにも拘らず、三人の周りだけ静かだった。

 「「「いざ――!!」」」

 三人の英傑が激突した。

 

 時を同じくして〝華〟の旗には一刀が。

 「なんだ貴様は!孫堅はどうした!」

 「香蓮なら本隊と合流してるよ。俺は、孫策軍――北郷隊隊長、北郷一刀」

 「!貴様が北郷か。ほう・・・少しはできるようだな」

 「明命は?」

 「洛陽に向かっている・・・だが、お前たちを通すわけにはいかん」

 彼女たちも戦う理由がある以上、避けては通れない道であることは承知していた。

 それでも一刀は可能な限り説得しようと思ったのだが、これ以上の話し合いに意味はないと判断した。

 ましてや、先程までの罵倒で鬱憤が溜まりに溜まっている事だろう。あれを提唱したのが自分である以上、責任はとらないといけない。

 「こっちも通したい意地があるんでね。意地でも降伏してもらうよ華雄さん」

 「か、華雄・・・さん」

 華雄は突然顔を赤くした。何故、と思った一刀だったが、すぐに華雄の顔の赤みは引き表情は引き締まり、凄まじい氣が発せられる。

 「・・・・・・」

 それに応えるように一刀もまた、二本の刀の内の一本である徒桜を抜き、構える。

 初めは華雄も怪訝そうに眉を潜めたが、一刀から放たれる氣に訝しがるのを止め、構えをとった。

 「董卓軍、華雄だ。儒子、改めて名乗れ」

 「孫策軍――北郷隊隊長、北郷一刀」

 じりじりと間合いを詰める二人、初めに踏み出したのは華雄だった。

 「「いざ、参る!!」」

 両雄の戦いが始まった。

 

 

 ――戦いが始まる少し前。

 汜水関を囲む絶壁の上に男は立っていた。

 仮面を身につける彼の表情は窺い知る事は出来ない。だが、彼は笑っていた。

 「殺すにはうってつけの状況だな。・・・今の内に紛れておくか」

 一刀を殺すために彼は動き始めた。

 

 二人の対峙の時は――近い。

 

 

~あとがき~

 

 

 始まりました汜水観戦。

 当然ですが、続きます。

 霞VS氷花、燕

 華雄VS一刀

 楽しみにしていてください。

 氷花と燕には切り札があります。勿論一刀も。

 

 あまりにも短いあとがきで申し訳ないのですが、今回はこの辺で――。

 Kanadeでした

 

 

 ネタばれ構わないという人は次のページも読んでみてください。

 思いっきりネタばれですのでご注意を。

 

 

 動き出した仮面の男――彼の特徴をここで挙げます。

まず、白髪です

仮面のデザインは黒の契○者の○イと似たようなものです。

真っ黒なマント(外套)出身を包んでますが、その下の服装は絶対魔王の真央と似ている。要は誰かさんの服の色を反転させたもの。

武器は刀真っ黒な刀身の刀で、銘は〝薊〟

 

――と、こんな感じの設定となっております

 


 
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